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雑誌目次

雑誌文献

medicina16巻5号

1979年05月発行

雑誌目次

今月の主題 胃癌とその周辺

理解のための10題

ページ範囲:P.730 - P.732

胃癌の発生母地

腸上皮化生と胃癌

著者: 中村恭一 ,   加藤洋

ページ範囲:P.656 - P.659

胃粘膜の腸上皮化生発生とその形態
 胃粘膜は組織学的に口側から十二指腸側に向かって噴門腺粘膜,胃底腺粘膜,幽門腺粘膜から成り立っている(図1).これら3種類の粘膜は胃に固有な粘膜であり,この胃固有粘膜には腸上皮化生が生じる.腸上皮化生intestinal metaplasiaとは,胃固有粘膜が腸の上皮によって置き換えられることである.
 腸上皮化生は,まずはじめに幽門腺粘膜に,なかでもその小彎側に発生する.また,胃底腺粘膜と幽門腺粘膜(噴門腺粘膜)の境界近傍の幽門腺粘膜(噴門腺粘膜)に生ずることもあるが,胃底腺粘膜領域から始まることはほとんどない.そして,腸上皮化生は胃固有粘膜全域に及び,胃固有粘膜は減少してゆく.この胃粘膜の腸上皮による置き換えを経時的にみると,図2に示すように,腸上皮化生のない胃底腺粘膜領域を限界づける線(境界線)を指標とずるならば,境界線は経時的に腸上皮化生によって胃体部大彎側の方向に移動し,その胃底腺粘膜領域は不可逆的に収縮してゆくということができる.つまり,年齢が増加するにつれて腸上皮化生の程度は著しくなる.

胃潰瘍の癌化

著者: 小黒八七郎

ページ範囲:P.660 - P.661

はじめに
 胃潰瘍が癌化して潰瘍を含む胃癌になるのか,または先に胃癌が発生してそれに潰瘍が発生するのか,古来,両説があって,時代とともに両方に揺れて,未だに完全な意見の一致をみない.

胃ポリープと癌

著者: 中村卓次

ページ範囲:P.662 - P.663

はじめに
 腹痛や,吐下血などの急性症状が契機となって発見されることがないでもないが,胃ポリープにはこうした特有の症状はほとんどないといつてよい.上腹部の不定の愁訴から医者を訪れたり,人間ドックや胃集団検診などで胃のX線検査を受けて胃ポリープが発見されるのが普通である.最近では,医者も患者も胃ポリープはほとんど癌にならない良性疾患であると認識している.したがって医者から「あなたは胃ポリープです」と説明されると患者はほっと一安心する.しかし反面,胃癌であることをかくしているのではないかと勘ぐる患者も少なくない.また,「放置して差し支えないですか」という質問が必ず返ってくる.医者としても「絶対安全です」とか「もうこなくてもよろしい」とか答えるにはかなり勇気がいる.そんなとき,医者はどんな態度をとればいいのであろうか.そこで考えなければならないことは,①どんな胃ポリープでも癌化の危険がないのであろうか,②胃ポリープの発生する胃には癌もできやすいのではないだろうか,という2つの事項である.
 さて最後にもう一つ,治療をどうするかを考える段取りとなる.

胃癌の生化学

スキルスの生化学

著者: 藤原研司

ページ範囲:P.664 - P.666

はじめに
 胃スキルスの生化学を論ずるにあたっては,定義が一定していない現状で,何を指すのか問題である.スキルスがlinitis plasticaやBorrmann 4型とほぼ同一のものとする場合には,その発生,成立機序が重要で,この際,生化学的分析の持つ意義は大きいからである.ここでは,癌がその進展過程で線維形成を伴うもの,すなわち組織学的にcarcinoma scirrhosumとみなされるもの(スキルスと呼ぶ)において,その特徴であるコラゲンについて生化学的立場から述べることとする.

胃癌と胃液

著者: 和田武雄

ページ範囲:P.667 - P.669

はじめに
 胃癌の際に胃液分泌がどのような変化を示すかについてはすでに19世紀前半ころから注目されてきたが,少なくともこれまで報告されてきた大多数の研究は今日いうところの進行癌についてのものであって,早期胃癌,ないしは微小胃癌についての変化を正確に調べた発表は極めて少ない.その理由は検査の方法がわずらわしい割合に成果を期待させるものが少ないと考えられるからである.むろん胃液の変化を塩酸酸度とペプシン活性の測定結果のみから論ずるとすれば,萎縮性胃炎の進行に伴う異常性のほうがむしろはっきりしている.しかし,胃癌の生化学的変化を考えるときには,胃液分析はなお魅力的な研究対象としての意義を失っていない.胃液分泌をみることが胃の固有機能を直接的に調べるモノサシの一つである上,胃癌の発生する素地にはなにか生化学的・生理学的異常があってしかるべき,とする考え方があるからで,そのような変化をとらえるための鋭敏で,機微の異常についても検出できるモノサシを求める研究は近年なお胃癌の発生母地を追究する研究と平行して地味に続けられている.これまでの一般的な成績と一緒に,そのような多少は基礎的にわたる研究途上の問題を含めて紹介しよう.

胃癌の経過

胃癌の初期像

著者: 金子栄蔵

ページ範囲:P.670 - P.671

はじめに
 内視鏡,X線検査の進歩に伴い,長径1cm以内のいわゆる微小胃癌の診断も可能になった.また,早期胃癌はしばしば多発し,手術の結果,副病変としての小胃癌が病理学的検索により発見されることも少なくなく,このような小胃癌の集積により,胃癌の初期像が次第に明らかになりつつある.一方,われわれ臨床医にとって興味深いのは,内視鏡検査により胃癌と診断された症例で,過去にも内視鏡検査を受けている例が増し,それらの記録をretrospectiveに検討すると,きわめて早期の像がすでに記録されていることがあり,そのような早期の像と,診断時点での像とを対比することにより,胃癌の初期像のみならず,その発育型式,発育速度などが推測されることである.また,当然そのような検討により潰瘍やポリープと癌との関係へメスを入れることも可能である.
 以上のような視点から,胃癌の初期像とその後の発育について述べてみたい.

早期胃癌と進行胃癌の関連

著者: 三輪剛

ページ範囲:P.672 - P.673

早期とは早期か
 いわゆる早期胃癌と呼ばれているものは,癌が発生してからあまり時間が経っていないものが多いので,通常「早期」と考えられているが,中には悪性サイクル1)を呈したり,免疫的に何らかのfactorが働いて2)その進行が必ずしも急ではなく,臨床的な進行度がゆっくりしたものも含まれている.したがって,局所において癌が粘膜下層までに限局している,いわゆる早期癌の中には転移を有するものもある.とくに他臓器へ転移していれば,局所がいわゆる早期であっても,臨床的には「進行癌」と考えなければならない.
 このような意味では,早期癌と進行癌とのっながりは転移のメカニズムを通して認められるといえる.広い意味ではこの辺の問題を含めて記述する必要があると思われるが,ここでは局所における「癌が粘膜層または粘膜下層までに限局している早期癌と,癌が固有筋層またはそれより深い層まで浸潤している進行癌」とが臨床的にどういう型で,どれくらいの時間をかけてつながっているかを臨床資料から解説することにする.

最近注目されている胃癌

pm癌

著者: 平山洋二

ページ範囲:P.674 - P.675

はじめに
 胃癌は早期癌と進行癌に大きく分類されている.早期癌は癌浸潤が粘膜下層以内にとどまるものをいい,粘膜内のみのもの(m癌)と,粘膜下層に及ぶもの(sm癌)に分けられる.進行癌は固有筋層以下に浸潤がみられるもので,漿膜下層,漿膜に及ぶものをそれぞれss癌,s癌と呼び,進行胃癌のうち癌浸潤が固有筋層内にとどまるものが本項で述べるpm癌である.

噴門癌

著者: 飯田洋三 ,   竹本忠良

ページ範囲:P.676 - P.677

はじめに
 噴門癌とは噴門部に発生する胃癌を指すことは当然のことではあるが,噴門とは厳密にはどの部分をいうのか報告者によってその定義はさまざまである.食道をやっている研究者は下部食道噴門癌と一括して論じ,また胃癌の研究者は上部胃癌をも含めて噴門癌として論じている傾向にある.したがって,噴門癌の報告を検討する場合には,その報告者が噴門癌をどのように定義しているかをみきわめたうえで吟味する必要があろう.
 このように混乱している噴門癌の特殊性を浮き彫りにすることをねらって,第30回胃癌研究会(1978.1.28)が鹿児島大学第1外科,西(満正)教授会長のもとで開催され,主題として「食道,胃境界領域癌」がとりあげられたことは的を得たといえよう.

残胃癌

著者: 梅田典嗣

ページ範囲:P.678 - P.679

はじめに
 良性疾患の治療の目的で胃手術を施行した後の残胃または胃腸吻合部に発生する癌は,1922年Balfourにより初めて記載されて以来いくつかの報告がある.初期には稀なものと考えられたが,近年に至りその報告数は著明に増加し,1972年までにMorgensternらの文献的な集計では1,100例以上,またわが国における山下らの集計では106例に達している.その後の報告も数多く,とくに残胃早期癌の報告例もいくつかみられるようになってきている.

グラフ

良性潰瘍と胃癌の鑑別

著者: 熊倉賢二 ,   杉野吉則

ページ範囲:P.680 - P.686

はじめに
 胃潰瘍(良性)および胃癌(進行癌,早期癌)のX線診断について,基本的な考え方をまとめてみる.
 胃潰瘍をX線で診断する立場に2つある.1つは,ニッシェにより個々の潰瘍をできるだけ的確に発見し,質的に診断しようとする立場である.これは,Haudek(1910)以来,胃潰瘍のX線診断の主流をなすものである.もう1つは,ニッシェは認められにくいのに,胃の変形の著明な線状潰瘍や多発性潰瘍にあてはまることであるが,胃の変形によって,潰瘍の存在および存在部位を推定しようとする立場である.これは,戦後わが国で完成された.この2つの立場から胃潰瘍を追求することによって,胃潰蕩のX線診断はいっそう確実になる.

胃潰瘍瘢痕と陥凹性早期胃癌の鑑別

著者: 崎田隆夫 ,   福富久之 ,   中原朗

ページ範囲:P.688 - P.690

はじめに
 消化器症状をもって来院した患者のX線,内視鏡写真上に,何らかの異常所見を認めたとき,臨床医の注意は,この病変が悪性か否かという点に払われる.従来は,この良悪性の鑑別が消化器病にたずさわる医師にとって大きなテーマであった.その後,この問題は多くの研究者により検討され,X線,内視鏡を用いた診断技術のめざましい進歩に伴い,診断法としてほぼ確立された観がある.しかしながら,筆者らは日常臨床において良性と診断して行った生検の結果が悪性であったり,悪性と診断して行った生検の結果が良性であったりする症例をしばしば経験する.このことは,検査医の目のみによる診断がいかに危険であるかという事実を示している.本稿では,胃潰瘍瘢痕と陥凹性早期癌,とくにIIc型早期癌との鑑別が,症例によりいかにむずかしいかと言う点について述べてみたい.

胃癌とまぎらわしい疾患

大彎の潰瘍性病変

著者: 中村孝司

ページ範囲:P.692 - P.693

はじめに
 胃癌とまぎらわしい疾患として大彎の潰瘍がとりあげられたのには,それなりの理由があると考えられる.事実,生検が十分に行われなかった時代には大彎潰瘍手術例の術前診断はほとんど癌とされていたようである.そこで初めに,大彎の潰瘍が何ゆえに胃癌とまぎらわしいのかという点にふれ,ついでその鑑別にはどのようなことに注意すればよいのかを考えてみたい.なお,大彎の定義については種々問題があるがここではふれない.

胃悪性リンパ腫

著者: 上野恒太郎

ページ範囲:P.694 - P.695

はじめに
 胃癌に対する胃肉腫の頻度はおおよそ0.7〜1.7%で,悪性リンパ腫はその約2/3を占めている.残りの大部分は胃平滑筋肉腫で,腫瘍は正常の胃粘膜でおおわれ,広基底性で,bridging foldsを伴うなどの粘膜下腫瘤の形態を呈し,腫瘤頂上部には深い中心壊死性潰瘍を伴うことが多いが,腫瘍侵襲が病巣表面粘膜に及んで腫瘤が崩れたり広汎なびらんを形成しない限り,胃癌との鑑別はあまり問題にならない.
 悪性リンパ腫とは,リンパ網内系の細胞の腫瘍性増殖による疾患であり,このなかにはHodgkin病,リンパ肉腫および細網肉腫などが含まれており,欧米ではリンパ肉腫が多いのに対し,わが国では細網肉腫が70〜80%と多い.この理由として,リンパ肉腫と細網肉腫の病型の内外における病理学的扱い方のちがいが考えられているが,両者は鑑別がむずかしい上に,臨床症状も類似しているところから,臨床的にはHodgkin病と非Hodgkinリンパ腫に2大別して扱われることが多い.悪性リンパ腫は発育が早く,転移しやすい悪性腫瘍であり,病像も胃癌と似ているので,診断は慎重に行う必要がある.

胃のReactive lymphoid hyperplasia(RLH)

著者: 勝又伴栄 ,   岡部治弥

ページ範囲:P.696 - P.700

はじめに
 臨床的に胃癌との鑑別が問題となる病変の一つとして胃のreactive lymphoid hyperplasia(RLH)(SmithおよびHelwig)がある.これはKonjetzny(1938)が臨床的,X線学的に胃癌とまぎらわしい像を呈するchronischen hypertrophischen Gastritisの一型として取りあげたことに始まり,その後SmithおよびHelwig(1958)1)は本病変が病理組織学的に胃の悪性リンパ腫と鑑別がむずかしい点を指摘して以来,その重要性が再認識された.
 わが国では中村(1966)2)らが本病態を紹介し,同時に6例の手術例を報告してからにわかに注目を集めるようになった.その後,多数の症例報告が相次いでいるが,わが国の進んだ胃X線,内視鏡の診断技術をもってしてもなおIIcやIIa+IIcなどの早期胃癌との鑑別がむずかしい例も多く,問題となっている.術前診断で胃癌とされたものはPerez(1966)3)は46%に,また高木(1973)4)は本邦報告例116例を分析して61%に認めたように,いかに胃癌とまぎらわしい病変であるかがわかる.

メネトリエ病

著者: 多賀須幸男

ページ範囲:P.702 - P.703

はじめに
 メネトリエ病は1888年にMénétrierが発表した「胃polyadénomesならびにその胃癌との関係」と題する論文のなかで,polyadénomes en nappeの名で記載された2例がもとになっている.2,500〜25,000名に1例とされ,その名称は有名であるが,非常に稀な疾患である.筆者が国立がんセンターに在職した9年間に経験された典型例はわずか1例であり,関東逓信病院における23,000回の上部消化管内視鏡検査では,なんとかメネトリエ病と呼ぶことが許されるのは1例にすぎない.

胃アミロイドーシス

著者: 堀口正晴 ,   矢野満

ページ範囲:P.704 - P.705

はじめに
 胃のX線像,内視鏡所見を考えあわせても,胃癌との鑑別が必ずしも容易でない一部の疾患がある.胃アミロイドーシスもそのような疾病の一つであろう.ここでは,まず比較的稀ではあるが,胃に限局して存在したアミロイドーシスの自験例を紹介し,ついでアミロイドーシスの胃所見を整理したいと思う.

胃癌の治療

放射線療法

著者: 金田浩一 ,   杉山丈夫

ページ範囲:P.706 - P.707

はじめに
 胃癌に放射線は効かないと考えられてきた.他の癌に比して放射線感受性が低く,所属リンパ節転移の範囲も広く,開腹しなければ転移の状況が不明で,広く照射しようとすると腸管障害が起こり癒着に苦しむようになる.従来,照射療法は癌の圧迫による通過障害,痛み,または再発,転移に対する対症療法として用いられるのが実状であつた.
 しかし,ときとして照射による著効例が経験され,装置,放射線生物学も進歩し,化学療法,手術との併用の研究も進み,胃癌に対する放射線の適用も各方面から熱心に研究されるようになった.

化学療法

著者: 小川一誠 ,   上岡博

ページ範囲:P.708 - P.710

はじめに
 本邦の胃癌の発生率は1967年以来減少の傾向にあるとはいえ,1974年には10万人に対して46人の人が胃癌で死亡している.この大部分は手術不能の進行胃癌または手術後再発した症例である.よって化学療法の担う役割は非常に重要であるといわざるを得ない.本稿では進行胃癌に対する化学療法の現況を記述する.

局所療法

著者: 達家威 ,   大谷透 ,   奥田茂

ページ範囲:P.712 - P.714

はじめに
 高齢あるいは合併症のため,開腹切除の困難な胃癌例では,内視鏡下の処置により延命をはかる必要がある.進行胃癌では,全身的な化学療法が治療の主体となるので,局所療法の対象は早期胃癌に限定される.深達度が粘膜内と考えられる比較的小さな隆起性早期胃癌では,リンパ節転移もなく,局所療法により根治も期待できる.
 内視鏡下の局所療法として,①薬剤局注法と②高周波スネアー法が臨床的に応用されている.また,最近では内視鏡下にレザー光線を利用した治療法が実用化されつつある.

胃癌の予後

著者: 三輪潔

ページ範囲:P.716 - P.717

 「胃癌が癒ることがある.それは誤診をした場合で,胃癌ではなかったときである」といって学生を笑わせた某大学の偉い教授がいたという.明治時代の話らしいが,1881年(明治14年)Billrothが胃癌の手術に成功し,明治30年には近藤次繁先生が44歳の女の人の胃癌の切除を日本ではじめて成功させて以来,先人の大きな努力によって胃癌が不治の病ではないことが実証され,昭和8年(1933年)には三宅速先生が104例の5年生存例を報告するまでになった.そのなかには手術後24年の健在例2例を含んでいて価値の高い論文であったが,当時の5年生存率は根治切除例の13.8%に過ぎなかった.しかも根治手術の直接死亡率は22.1%という高値が報告されているが,この論文のなかに「根治の目的を達せし我諸例中の大部分は比較的初期癌にして鏡検上癌は粘膜及至粘膜下組織内に限局せるか若くは漸く筋層を侵す程度の浸潤にして」と述べ,早期診断の方向を打ち出している.さらに昭和12年の佐伯の報告になると,粘膜下層までにとどまる胃癌の5年生存率は91%であったという今日と変わらない治療成績が記されている.

座談会

胃癌とその周辺

著者: 小黒八七郎 ,   梅田典嗣 ,   金子栄蔵 ,   丹羽寛文

ページ範囲:P.718 - P.729

 今日,胃癌の診断・治療は飛躍的な進歩をみせているが,それでもまだ分類の問題や類縁疾患との鑑別,微小癌の診断,さらには紫外線や赤外線,レーザーなどの診断・治療面への応用など,残された問題は多々ある.ここでは,本特集のしめくくりとして,トピックスをいくつか拾っていただく.

心エコー図のみかた

各論 4.心膜液貯留,虚血性心疾患および左室機能

著者: 島田英世 ,   石川恭三

ページ範囲:P.734 - P.741

心膜液貯留と心エコー図
 石川 心膜液貯留については,これまでの非観血的な方法ではおのずと限界があり,臨床上,その診断にはたいへん苦労してきたわけです.しかし,心エコー図は心膜液貯留の診断にはたいへん有用であることが判明しました.
 まず初めに,心膜液貯留の心エコー図所見についてお話をうかがいたいと思います.

図譜・消化器病の超音波診断 他検査法との対比による症例の検討

膵疾患の診断・1—方法と症例(良性疾患)

著者: 税所宏光 ,   五月女直樹 ,   大藤正雄 ,   土屋幸浩 ,   唐沢英偉 ,   木村邦夫 ,   江原正明 ,   高橋法昭 ,   木村道夫 ,   大野孝則

ページ範囲:P.742 - P.747

はじめに
 超音波検査は患者に苦痛を与えず,簡便性と安全性を備えた適用範囲の広い臨床検査法である.膵においてはGray-scale表示のコンタクト手動走査型装置による超音波診断がすでに高い評価を得ているのであるか2〜5),最近実用化された電子走査型装置ではいっそう検査が簡便となり,微小病変の映像を得ることができるようになった.また,これまで困難であった膵管の描出が確実に行えるようになった6),膵疾患を診断する上で,膵実質と膵管の両面から同時にアプローチできるリニア電子走査による超音波検査はきわめて有用である.
 そこで,リニア電子走査型超音波装置を用いた膵診断について,方法と症例を以下2回に分けて示す.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.748 - P.753

演習・放射線診断学 シンチグラム読影のコツ・11

肺シンチグラム

著者: 有水昇

ページ範囲:P.755 - P.761

はじめに
 肺の形態病変については,胸部X線像または断層X線像からかなり細かい診断が可能です.シンチグラムのように解像力のよくないものからは,細かい形態情報を得ることはできませんので,肺シンチグラムについて肺の細かい形態変化についての診断を期待することは無理な話です.それならば,肺シンチグラムから主に何を診断することができるでしょうか.それは肺の局所局所の機能の診断です.
 肺の機能検査としては,レスピロメータ,血液ガス分析などが日常用いられておりますが,これらは,全体としての肺機能を検査するものであり,肺の局所局所の機能を知ることはできません.肺の病変は必ずといってよいほど局所局所の機能異常を伴うものです.したがって,肺シンチグラムによる肺局所機能検査の意義が生まれるわけです.

プライマリ・ケア

対談 老人医療を考える(その3)

著者: 西田一彦 ,   鈴木荘一

ページ範囲:P.762 - P.765

投薬上の注意
 鈴木 治療の問題に入りますが,老人の場合に感染症が割に多いので抗生物質をよく使いますが,腎毒性のものは極力避けることをモットーにしています.だから,アミノグリコシッド系のものは使わない.セファロスポリン系でも腎毒性のいちばん少ないものを使っております.それから,ジギタリス製剤は非常に注意して使わないと,成人の場合と違って副作用がすぐ出てきます.心電図をまめにとるとか,脈をよくみながら使うことですね.
 西田 私は,お年寄の投薬にはあまり自信がないんです.どれだけ与えればいいのかわからない.子どもの薬用量と成人の薬用量だけは成書に出ていますが,老人の薬用量はどこにも書いていないでしょう.お年寄の投薬も,体重で割り出すとか,何らかの方式を考え出していただけないかと思うんです.なんらかの目安がないと非常に不安です.

臨床医のための心の科学

脳損傷に伴う精神障害—痴呆を中心として

著者: 仲村禎夫

ページ範囲:P.766 - P.769

 近年,寿命の著しい延長に伴う老齢人口の増加,文明の発達に伴う交通外傷,産業災害などの増加は多くの人間的,医学的,社会的問題を提起していることは周知の通りである.そこで,医学的問題であると同時に人間的,社会的問題でもある脳損傷に伴う精神障害について理解することは有用なことと思われる.

Laboratory Medicine 異常値の出るメカニズム・16

血清カルシウム

著者: 河合忠

ページ範囲:P.780 - P.783

カルシウムの体内での動き
 カルシウム(Ca)は生体内にある無機物のうちで最も多量に含まれるもので,成人男子では約1,000g(体重の2〜3%)を占めている.そのうちの99%はリン酸カルシウム〔Ca10(PO46(OH)2〕の形で骨質に沈着している.通常,Caは1日に500〜800mg食物として摂取され,そのうちの約50%が小腸からリン酸塩の形で吸収される.体内に吸収されたCaは一部蛋白と結合して血中を運ばれ,骨に達する.血漿中のCa総量は約9.0〜11.0mg/dl(4.5〜5.5mEq/l)である,一方,腎糸球体濾液中のCaの約99%は尿細管を通して再吸収され,尿中に排泄されるのは100〜150mg/日程度である.最も多量にCaが排泄されるのは糞便である.この代謝の調節に主役を演じているのが,上皮小体ホルモン(パラソルモン)とビタミンDである.

図解病態のしくみ 消化器疾患・2

消化性潰瘍(1)—病因と病態生理

著者: 松枝啓

ページ範囲:P.784 - P.788

はじめに
 消化器疾患の中で,消化性潰瘍ほど今までに議論され,また書かれた疾患はないと思われる.実際,多くの臨床家は,その診断と治療に関しては何ら疑問を感じておらず,また,その原因を考える際にも胃酸以外のことはほとんど考えないのが現状である.
 しかしながら,われわれのもっている消化性潰瘍の概念や現在行われている治療について批判的に吟味してみると,明らかに多くの問題点の存在することがわかる.すなわち,病態生理を正しく理解していないため,まちがった食事療法や薬剤の使用,そしてまた合理的な制酸剤の投与がなされていない現実に気づくのである.

職業病の知識

神経障害

著者: 松岡幸彦 ,   祖父江逸郎

ページ範囲:P.790 - P.791

はじめに
 近年,産業のめざましい発展とともに職業病も多様化の様相を呈しているが,なかでも神経系の障害は以前から重要な位置を占めている.本シリーズではそれらのうち,白ろう病などの振動障害や,キーパンチャー病,頸肩腕症候群などについては,別項を設けて取り扱われるので,本稿では触れないこととし,また精神障害についても別に述べられる予定なので,ここではなるべくそれと重複しないように,主に精神症状以外の中枢神経障害および末梢神経障害を呈するものについて,概略を述べることとする.

第125回呼吸器臨床談話会

各種疾患と胸膜病変をめぐって—症例を中心とした問題の解析

著者: 勝呂長 ,   吉岡一郎 ,   可部順三郎 ,   田中元一 ,   三上理一郎 ,   岩井和郎 ,   清水卓造 ,   芳賀敏彦 ,   松井泰夫 ,   四元秀毅 ,   岡安大仁 ,   鈴木光 ,   宮本昭正 ,   古家堯 ,   長沢誠司

ページ範囲:P.770 - P.778

 勝呂(司会) 最近,胸膜炎または胸水貯留性疾患が大きく変貌して,鑑別診断を著しく困難にしているような症例が多くなったという印象をもっております.そこで今月の呼吸器臨床談話会では,テーマを胸膜病変にしぼらせていただき,それぞれの専門家である先生方にトピックスを含めて臨床的な話題を中心にお話しいただき,ご質問やご追加なりあわせてお願いいたします.
 はじめに,胸部X線学的にみまして,胸水か無気肺かが問題となることがありますが,吉岡先生,その辺のところからお話しくださいませんか.

紫煙考

私とタバコあれこれ

著者: 金子仁

ページ範囲:P.792 - P.793

はじめに
 この随想は病理医である私が,私の今までのタバコに関する来し方,行く末を書き綴ろうとするものである.
 わが国に初めてタバコが伝わってきたのはいつ頃か,学問的な考察は私にはわからないが,芥川龍之介の「煙草と悪魔」によると,天文20年(1551),フランシスコ・ザビエルが日本に初めてキリスト教の伝導に渡来したとき,一緒の船に乗っていた悪魔がその種を持参したのが最初らしい.

天地人

むかいあう医療

著者:

ページ範囲:P.795 - P.795

 少し前になるが,ある有名な料理家がテレビで言っていた.「病気しまして.近所の医者に診てもらいましたら,どうも胆石が疑われるというんで大学病院を紹介してくれと言って,近くの○○大学付属病院で診てもらったら,検査の結果確かに胆石だと,それで私,日本で胆石の一番の権威者は誰かと聞きますと,△△大学の××教授だというんで,いくらでも出すからそこで切ってくれと,それでそこで手術したんです」.
 料理家は元気そうだったし,手術はもちろんうまくいって,何ら問題となることではないかも知れない.上級医療機関への連絡も十分すぎるほどうまくいっている.しかし,私には何かひっかかるものがあった.ひとつは,この有名な料理家の態度であったし,もうひとつはどうして地元の大学病院が胆石の手術はここで安全に行えると説明しなかったのか,ということだった.

オスラー博士の生涯・72

戦時下のオスラー(1914〜1915年)

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.796 - P.799

 1914年7月末,オスラーは,スコットランドの島に避暑をしていたが,第一次欧州大戦が勃発したとき,大急ぎでロンドンに帰った.8月には,英国が参戦し,オスラーの渡米計画は中止となった.一足先にアメリカに旅に出たオスラー夫人と息子とは,大急ぎで英国に引き返すことになった.

医師の眼・患者の眼

ゼク盗り物語

著者: 松岡健平

ページ範囲:P.800 - P.802

承諾なしですませた?
 鼻筋の通った血色のよい顔色がみるみるうちに石膏のアグリッパのように真白くなり,やがて蒼白になった,ギリシャ人医師,アレキサンダー・アリストテレス・ザヒィロポロス(通称プロス)の英語はますます上ずった調子になった.病理科から「剖検が終了した」という電話を受けている.
 「Oh!God,そのケースはまだ剖検の許可を得ていなかったんだ.どうして許可もないのにAutopsyをしたんだ」

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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