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雑誌目次

雑誌文献

medicina16巻6号

1979年06月発行

雑誌目次

今月の主題 血栓とその臨床

理解のための10題

ページ範囲:P.888 - P.890

血栓成立のメカニズム

血液の凝固と線溶

著者: 坂田洋一

ページ範囲:P.814 - P.816

はじめに
 血栓形成には血管壁の変化,血流の異常,血液成分の異常などの関与が考えられる.これらは各々単独で血管内血液凝固を惹起するよりもむしろ,種々の程度に組み合わさって血栓形成とその完結,あるいは修飾へと,その運命を大きく支配している.ここでは血液成分,とくに凝固線溶系の血栓形成に果たす役割について述べる.

血小板とその機能

著者: 藏本淳

ページ範囲:P.817 - P.819

ヒト血小板の特徴
 ヒト血小板は,他の哺乳類のそれと同様に,血小板の母細胞である巨核球(骨髄,脾など)から流血中に存在する無核の血小板に分化している.鳥類などの下位脊椎動物では,かかる分化はみられず,有核の紡錘形細胞(spindle cell)のみで,その幼若型が巨核球,成熟型が血小板に相当すると思われる.したがって,ヒト血小板は核こそもたないが,血栓形成を果たすべく必要な細胞成分は十分に詰め込まれた状態で産生され,機能を発揮している.
 流血中では,血小板はdiscoid shapeを呈し,2〜3μの径と,1μの厚さをもち,これを維持するために活発な代謝を行い,必要なエネルギーを自給している.血小板内には,核以外のほとんどすべての細胞成分が認められており,mitochondria,α-granules,dense-granules,glycogen,vesicle,ribosome,microfilament microtubules,Golgi装置などが巧妙に配置されている.

血管壁と血栓

著者: 住吉昭信

ページ範囲:P.820 - P.821

はじめに
 細胞や組織などの凝固活性化物質が,多量に血中に放出されて起こると考えられているDIC(disseminated intravascular coagulation播種性血管内凝固症候群)などの場合を除き,一般に血栓の形成には血管壁の障害が最も基本的な要因となっていることが多い.Apitz(1942)は"血管壁の障害なくば血栓なしOhne Wandveränderungkeine Thrombose"と述べたが,今日でも大部分の血栓にこのことは当てはまる.

血流と血栓

著者: 磯貝行秀

ページ範囲:P.822 - P.824

血流と血栓形成の問題点
 生体内の血管の種類,部位および形状(分岐,彎曲,狭窄など)によって,血流速度,血管径,圧力勾配,血液粘度,ずり速度およびReynolds数など血液レオロジー的パラメーターはそれぞれ相違しており,一様ではない.同様に,血液の流れも,たとえば動脈では血球成分のうち,赤血球は血管の中心軸に集合する傾向(軸集中化現象)を示し,血小板は血管壁近傍を高い濃度で流れているといった分布の不均一性が認められている.しかしながら,このような状況下でも血栓形成の部位あるいは血管病変の発現区分は比較的規則性が認められているので,血流のバイオメカニクスの関与がかなりの重みをもっており,最近大きい関心をひいている.
 血液の流れが緩徐〜停滞すると血管内凝固を誘発しやすいが,一方,流れの比較的速い部位でも血栓が形成される.前者の血栓生成は静脈でみられ,後者は動脈で認められており,血管内膜の損傷,血小板機能および凝固・線溶能の相互作用が成因的に大きく寄与している.また,微小循環系の血栓性閉塞病変の成り立ちには,血液粘度,赤血球集合(sludging)および赤血球変形能などが重要となる.いずれにしても,最近の凝血学の進歩をin vivoの血栓形成の動態にいかにあてはめてゆくか,換言すれば血栓に対する血液レオロジー(血液と血管に関する流動と変形の科学)的アプローチと凝血学的研究の協調との有機的連携をいかに計るかが非常に重要となる.

カラーグラフ

血栓の形成とその転帰

著者: 田中健蔵

ページ範囲:P.848 - P.850

はじめに
 血栓とは,生体の心臓,血管内において血液が凝固して生じた塊りで,これが形成される病的現象を血栓症という.
 血栓はその形成される部位により,動脈血栓,静脈血栓,毛細血管血栓に分けられ,またその性状,形成機序を含めて,赤色血栓,白色血栓,それらの混在する混合血栓およびフィブリン血栓などに分けられる.そしてVirchow以来,血栓形成には,①血管壁の性状の変化(内皮細胞の剥離など),②血流の変化(すなわち血流の緩徐化や停止あるいは渦巻きなど),③血液成分の変化(凝固因子の異常や血小板の異常,高脂血症など)が関与するといわれてきたが,これらは今日でも血栓形成の最も基本的な要因であることに変わりはない.

血栓好発状態

凝固亢進状態と血栓好発状態

著者: 前川正

ページ範囲:P.825 - P.828

はじめに
 血栓の成因には古くVirchowのトリアスがあり,血管壁,血流の変化のほか,血液自体の性状変化が関与すると考えられている.このような指摘が正鵠を得たものであることは,そん後今日に至るまでの間に積み重ねられた臨床的,病理学的,あるいは実験的成績などから疑う余地はほとんどない.かくて,血栓の成因といえば,このトリアスをお題目のごとく唱えれば事足りるという気運を生じたことも事実であるが,近代的凝血学の発展に伴って,血液成分中,血栓の構成分となる諸因子の血栓形成における役割の解明が,研究課題の一つとなった.病的な血管内凝固の結果として成立する血栓の形成機序は,本質的には止血血栓のそれと等しいことが指摘されており,後者の解明に従って、血小板や凝固因子の血栓形成における役割の研究も著しく進展するに至った.
 このような背景のもとに,凝固亢進状態hypercoagulability,血栓好発状態prothrombotic stateあるいは前血栓状態prethrombotic stateなどの概念が臨床医学に導入された.以下,これらに関連した問題の若干をとりあげて筆者の見解を述べてみたい.

悪性腫瘍

著者: 漆崎一朗 ,   新津洋司郎

ページ範囲:P.829 - P.831

はじめに
 1865年Trousseau1)が悪性腫瘍患者のrecurrentmigratory thrombophlebitisについて初めて記載して以来,悪性腫瘍に血栓症がしばしば合併することは諸家の注目するところとなり,その原因として担癌生体における過凝固状態なる概念が明らかにされてきた.すなわち担癌生体では,血液組成がきわめて凝固しやすい特性を有していると考えられる.このような状態ではわずかなrisk factorが加わることにより,多発性血栓が形成されやすく,いわゆるDIC(disseminated intravascularcoagulation)がひき起こされる.また腫瘍細胞自身が血管内に侵入して形成する血栓症や,腫瘍の発育,遊離,着床,転移などの現象においても凝固線溶系のかかわりあいは強く,その正確な把握は悪性腫瘍の予後や治療の上で重要な問題である.

糖尿病

著者: 阿部正和 ,   望月紘一

ページ範囲:P.832 - P.833

はじめに
 糖尿病は,インスリン作用の不足による代謝障害であり,遺伝因子と発症因子が相互に関与して発症し,血管障害が徐々に進展してゆく疾患である.糖尿病に宿命的なこの血管障害は,心筋梗塞,脳血栓症などの動脈硬化性病変,すなわちmacroangiopathyと,網膜症や腎症に代表される糖尿病性細小血管症(diabetic microangiopathy)の2つに分けて考えられる.後者は糖尿病に特異的な血管病変であり,前者は特異的とはいえないが,その出現・進展が顕著であると考えられている.近年における糖尿病の治療法の進歩により,糖尿病性昏睡および感染症は激減し,今や糖尿病は血管障害の時代に入ってきたといってもよく,糖尿病の治療の目的はこの血管合併症の進展予防にあるといっても過言ではない.

妊娠・産褥およびピル

著者: 真木正博 ,   村田誠

ページ範囲:P.834 - P.836

はじめに
 産婦人科領域には,分娩後や手術後に合併する血栓症,特殊な血栓症として産科領域に起こりやすいDIC(disseminated intravascular coagulation),経口避妊薬服用と関係のある血栓症などの問題がある.ここでは,まず産婦人科における血栓症の実態を述べ,次に血栓症の好発状態としての妊娠・産褥時の特性について述べることにしたい.

血栓の放射線診断

血管造影

著者: 成松芳明 ,   平松京一

ページ範囲:P.838 - P.841

はじめに
 血栓症においては血管の狭窄・閉塞の部位,範囲,run-off,側副血行路の有無を知り,血行障害の程度を診断することが,外科手術の適応の有無などの治療方針の決定に重要である。血管造影は血管内腔の状態を知ることができ,血栓症の診断には最も有効な手技である.
 Seldinger法による血管造影が普及した今日では,全身の血管の選択的造影が容易に行えるようになり,末梢動脈血栓症をはじめ,脳血栓塞栓症,冠動脈閉塞症,肺塞栓症などの疾患にも明瞭な血管造影像が得られるようになった,また門脈系においても,血管拡張剤を併用した薬理学的上腸間膜動脈造影によって血行動態を明瞭に描出することが可能である.今回は,末梢動脈血栓症と静脈血栓症を中心に血管造影の診断の要点をまとめてみた.

放射性同位元素

著者: 石井靖 ,   鳥塚莞爾 ,   浜中大三郎 ,   鈴木輝康 ,   米倉義晴 ,   山本和高

ページ範囲:P.842 - P.845

はじめに
 血栓には,血流の速い高圧系において,血小板を主体として形成される動脈血栓(white thrombus)と,血流の停滞しやすい低圧系において線維素網を主体として形成される静脈血栓(coagulationthrombus)の2種類があるが,前者は脳虚血発作,脳卒中,心筋梗塞,そのほか種々の動脈血行不全の原因となり1),大半は動脈硬化症を基礎としているので,その基盤はきわめて広い.しかしながら,現在のところ有効な検出法を得ていないので,その実態については推測の域を出ず,したがって有効な対応策もない.
 後者の静脈血栓症については放射性同位元素(RI)を使用する125Iフィブリノゲン摂取検査の確立によって,その臨床的実態が明らかとなり,したがって抗凝固療法などの対応策を有効になしうることが可能となった2〜4).本症はとくに入院患者の下肢,骨盤領域にきわめて高頻度に形成され,これはしばしば重篤な肺塞栓症の原因となり,不幸な転帰をとるに至る.

血栓塞栓症

四肢動静脈

著者: 阪口周吉

ページ範囲:P.852 - P.855

動脈血栓症
 成因と頻度Virchow以来,血栓形成には血管壁の変化,血流の緩徐化,血液成分の変化が関与することが知られている.四肢末梢もその例外ではないが,急性動脈血栓症の基礎疾患としては閉塞性動脈硬化症(ASO)が最も多く,ほとんど大半(85%)を占めている.すなわち,血管壁の硬化,アテローム変性,狭窄などを有するものが,ある時点で何らかの因子が加わり,急激に広汎な血栓を発生するものである.
 図1に示した症例では,左外腸骨動脈以下が閉塞しているが,右も相当に強い狭窄がみられる.この例において,多少の凝固能亢進や血流の緩徐化などが起これば,たちまち右も閉塞し,右下肢には急性阻血が発生する.この際,副血行の発生が少なければ少ないほど症状は激しい.このようなASO血栓症が末梢動脈血栓症の典型である.

冠状動脈

著者: 金沢知博 ,   池田成昭

ページ範囲:P.856 - P.857

はじめに
 心筋梗塞とは冠動脈の閉塞または高度の狭窄によって発生した不可逆的な心筋虚血-心筋壊死をさす.このような高度の冠血行不全をきたす最大の原因として古くから冠動脈血栓があげられ,冠動脈血栓症が心筋梗塞症と同義語に使用された時期もあった.しかし,近年,冠動脈血栓は心筋梗塞の原因であるよりは,むしろ結果であるとする見解がだされるようになり,両者の因果関係に問題が提起されている.一方,血栓形成に重要な血小板に関する最近の知見には著しいものがあり,冠動脈硬化および血栓の発生機序として血小板の動態が注目されている.以下,これらの問題を中心に少しく述べる.

脳動脈

著者: 丸山征郎

ページ範囲:P.858 - P.859

はじめに
 脳血栓症や一過性脳虚血発作(transient ischemicattack,TIA)をめぐるトピックスは,まず第1に本症が本邦で激増しつつあること,第2にcomputed tomography(CTスキャン)の登場で,診断技術が革命的に伸びたこと,第3に細胞レベル,分子レベルで解明が進みつつある血液凝固・線溶のメカニズムから本症の成因や診断,治療にヒントが与えられつつあること,などである1).ここでは,以上をふまえて脳血栓,TIAの成因と治療について述べてみたい.

肺動脈

著者: 長谷川淳

ページ範囲:P.860 - P.861

はじめに
 凝血塊が形成部位から遊離して肺動脈に入り,肺動脈に閉塞したものを肺塞栓症,肺血管系に直接凝血塊の形成されたものを肺血栓症,肺塞栓ないし肺血栓の形成によって肺動脈が閉塞して末梢部に出血性壊死が形成された領域を肺梗塞という.また充実性(massive)は片側ないし両側の主幹肺動脈,あるいは肺葉動脈枝の完全ないし部分的閉塞したもの,多発性(multiple)は肺葉肺動脈枝以下の分枝が1以上多数の閉塞をみたもの,微小塞栓(microembolism)は細動脈ないし毛細管の閉塞したものをいう.

腎動静脈

著者: 成清卓二

ページ範囲:P.862 - P.864

はじめに
 腎動静脈血栓塞栓症は腎血管壁の障害や血流の障害,あるいは血液凝固系の異常をもたらすような基礎疾患を有する患者に併発することが多いので,これら基礎疾患の把握がその診断上重要である.本症における臨床症状も,閉塞が血管の主幹部か,あるいは分枝部のみに発生するかによって,また片側性か,両側性かなどによってさまざまでありうる.生存中は無症状に経過し,剖検で初めて診断される例も稀ではない.
 腎血管血栓塞栓症は大別して腎動静脈主幹部の血栓塞栓と,全身性血栓性血管病変,あるいは播種性血管内凝固異常の一部分症状として腎細小血管に血栓の多発する場合とがあるが,それぞれについて許された誌面の範囲内で診断を中心に述べてみたい.

腸間膜動脈

著者: 林四郎

ページ範囲:P.866 - P.867

はじめに
 絞扼性イレウスのように二次的に腸管の血行障害が惹起され,生命をおびやかす疾患とともに,本稿の主題,腸間膜動脈の血栓症のように一次的に腸管梗塞が発生することもある.腸管の血管系には豊富な吻合路が存在しているために,1本の動脈が閉塞しても腸管梗塞が発生しにくい面もある一方,いつたん広範囲の梗塞が発生した場合には穿孔,高度な代謝性アシドージスやショック状熊を招き,救命の機会を失うことも多い.しかし,血管造影の普及により閉塞性病変が予想以上に存在することが明らかにされ,また血行再開手術の手技の向上,抗ショック療法などの進歩にも力を得て,この種の急性重篤疾患の治療にも希望の曙光が認められるようになっており,診断のポイントなどを中心に本血栓症の現況と問題点をあげたい.

血栓の治療

抗凝血薬

著者: 権守日出海

ページ範囲:P.868 - P.869

 抗凝血薬とは,血液凝固を阻害することを介し血栓および塞栓の成立を予防し,形成された血栓の成長を阻止するために用いられる薬剤である.ヘパリンまたはヘパノイドと経口抗凝血薬が主である.脱線維素療法に用いられるアンクロッド,デフィブラーゼなどはトロンビン様作用を持つ蛇毒で,これも抗凝血薬の一つであるが,まだ市販されていないので割愛する.

血小板阻害剤

著者: 本宮武司 ,   山崎博男

ページ範囲:P.870 - P.871

はじめに
 近年,血栓形成における血小板の役割が明らかとなり,血栓症の治療法として抗凝血療法,線溶療法と並んで血小板阻害剤の使用が注目され,とくに動脈にできる白色血栓に対しては抗凝血薬は有効ではなく,線溶療法は長期の治療に適さず,抗血小板剤の効果が期待されている.さらに最近の血小板に関する生化学,薬理学の進歩は血小板活性化に際して強力な脈管作動物質の産生放出されることを明らかとし,血小板が血栓形成ばかりでなく直接血管に働いて収縮を惹起し,内膜を傷害する可能性を示した.そのため血栓性虚血性諸疾患における血小板の病因的役割が注目され,血小板阻害剤療法の効果が期待されている.本稿では,その主たる薬剤の臨床評価について簡潔に解説することにし,精細は他の綜説1〜4)にゆずる.

ウロキナーゼ

著者: 松田保

ページ範囲:P.872 - P.873

ウロキナーゼの特徴
 ウロキナーゼは,本邦において開発された薬剤であり,血漿または血栓中に存在するプラスミノゲンを分解してプラスミンに転化し,血栓を溶解する.この目的には以前よりβ溶連菌の濾液より精製されたストレプトキナーゼが欧米で広く用いられてきた.ストレプトキナーゼは,まずプラスミノゲンと複合体を形成し,次いで,この物質がプラスミノゲンをプラスミンに転化すると考えられているが,溶連菌感染の既往により,血中に種種の量の抗体が存在し,その効果が一定でないこと,アレルギー反応を生ずる可能性があること,大量に投与するとむしろ血液の線溶活性が低下すること,純度の高い製品を用いても副作用としての発熱がしばしばみられること,などの欠点がある.これに対し,ウロキナーゼは人尿より精製するため比較的高価であり,また大量に使用する場合の供給の点にも多少の問題はあるが,抗原性がなく,発熱の副作用もないなどの長所があって,欧米でもストレプトキナーゼにとって代わりつつある.また,最近,ヒト胎児の腎組織の培養によるウロキナーゼの抽出も行われ,供給の点でも福音となり得るかも知れない.

外科的療法

著者: 今岡真義 ,   神前五郎

ページ範囲:P.874 - P.875

 血栓には動脈血栓や静脈血栓があり,動脈血栓の中にはいわゆる血栓と塞栓がある.これら動脈血栓症と静脈血栓症とは発生原因が異なり,発生原因や血栓の程度によって治療方針も異なる.

座談会

血栓症の治療の実際

著者: 田崎義昭 ,   前川正 ,   三島好雄 ,   太田怜

ページ範囲:P.876 - P.886

 本特集のしめくくりとして,ひとつひとっの疾患に則して,血栓塞栓の治療の実際を,抗凝血剤・血栓溶解剤の選択,投与量,投与方法,手術適応から予防まで具体的にお話いただいた.薬効の判定など未解決の問題も残され,一日も早い治療法の確立が待たれる.

心エコー図のみかた

各論 5.聴診法と心エコー図(その1)

著者: 島田英世 ,   石川恭三

ページ範囲:P.891 - P.897

 石川 今回は「聴診法と心エコー図」というテーマで,ベッドサイドにおける聴診所見のうち,心音の性状からどのような疾患を疑い,その鑑別診断に心エコー図がどのような役割を果たし得るのかについてお話をうかがいたいと思います.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.898 - P.903

演習・放射線診断学 シンチグラム読影のコツ・最終回

興味ある症例

著者: 木下文雄 ,   久保敦司 ,   彌富晃一

ページ範囲:P.905 - P.911

はじめに
 この約1年間にわたり,脳,脳槽,甲状腺,肺,心筋,心内腔,肝,胆嚢,膵,脾,腎,副腎,骨,腫瘍などのシンチグラムを中心に症例を供覧し,その読み方などについて解説いたしましたが,最終回の今回は臓器と関係なく興味のあった例,診断に有用であった例,いままでの記載より脱落した例などについて,症例を供覧したく思います.

図譜・消化器病の超音波診断

膵疾患の診断・2—膵癌症例および超音波膵管像

著者: 税所宏光 ,   五月女直樹 ,   土屋幸浩 ,   唐沢英偉 ,   木村邦夫 ,   江原正明 ,   高橋法昭 ,   木村道雄 ,   大野孝則 ,   大藤正雄

ページ範囲:P.912 - P.918

はじめに
 膵の良性疾患に続いて,今回はリニア電子スキャンによる悪性疾患の超音波診断と電子スキャンの特徴である超音波膵管像による膵の診断について述べる.

プライマリ・ケア

対談 腎・尿路系疾患(その1)

著者: 鈴木文夫 ,   安田勇治

ページ範囲:P.920 - P.923

 安田 今日は,「腎および尿路系疾患のプライマリ・ケア」というテーマで,鈴木先生にいろいろとお話をうかがいたいと思います.
 まず第1に,腎・尿路系疾患の診断において,主訴—たとえば腎疾患の場合ですと蛋白尿や血尿,浮腫,頭痛,鼻血,動悸,息切れなどがあり,尿路系疾患では発熱や腹痛,腰痛,頻尿,排尿痛,その他いろいろあると思いますが,それをどのように疾患に結びつけていったらよいのでしょう.

臨床医のための心の科学

行動療法の本質

著者: 春木豊

ページ範囲:P.924 - P.925

 行動療法は心理学的治療法の一つである.約20年前から試み始められたまだ新しい療法である.

高血圧

著者: 長谷川恒雄

ページ範囲:P.926 - P.927

はじめに
 高血圧は日常の診療で最も頻度の高い成人病の一つであり,最近,すぐれた降圧剤の出現によって血圧の調整が容易になってきた.しかし,なお高血圧による循環器系の合併疾患の発生頻度は依然として高く,死亡率もあまり減少をみない現状である.高血圧の症例に対しては,降圧剤の使用による血圧調整のみならず,食事,活動,睡眠,休養などを含む日常生活全般にわたる指導が必要であって,その中で心理面のケアはとくに重要な位置を占めている.

medicina CC—下記の症例を診断してください

息切れ,動悸,めまいを主訴とし,貧血が続いていた38歳男性の例

著者: 森田敏和 ,   幾世橋篤 ,   坂井誠 ,   野村武夫 ,   高橋隆一

ページ範囲:P.948 - P.958

症例 38歳 男 タクシー運転手
初診:昭和147年1月12日
入院:初回47年1月12日〜2月8日

Laboratory Medicine 異常値の出るメカニズム・17

無機リン

著者: 河合忠

ページ範囲:P.931 - P.933

無機リンの体内での動き
 リン(P)はあらゆる細胞内に存在し,高エネルギーリン酸塩としてエネルギー代謝に重要なはたらきをもっている.Pの体内総量の約80%は不溶性のカルシウム塩の形で骨や歯に沈着し,約10%は蛋白質や脂質や糖質と結合して存在し,約10%は種々の化合物として広く体内に分布している.それぞれの組織に分布するP濃度は表1に示す通りである.
 Pはほとんどあらゆる食物に含まれているので,食事による摂取不足によるP欠乏症は知られていない.Pの需要量は成人で1日に1〜1.5gであって,主として牛乳,乳製品,肉,魚などとして摂取されるが,Caの分布とよく似ているのでCaの含有食品を摂取すれば十分量のPが補給される.

図解病態のしくみ 消化器疾患・3

消化性潰瘍(2)—症状と診断

著者: 松枝啓

ページ範囲:P.934 - P.937

はじめに
 前号では消化性潰瘍の病因および病態生理について述べたが,それらの事柄は診断,治療においても大きなウェイトを占める.
 すなわち,消化性潰瘍の診断・治療においては病態生理に基づいた正しいアプローチが心要であるが,もしそれが行われなかったり,あるいはまた合理的な制酸剤の使用が考慮されなかったり,さらに従来から行われている誤った食事療法などが改善されなければ,潰瘍の治療効果が上がらないばかりか,再発をきたすなど,一見簡単に思える潰瘍の診断・治療にも数多くの問題点がみられる.今回と次号とにわたって,これらの問題点を明らかにしながら,合理的な潰瘍の診断・治療を考えてみたい.

外来診療・ここが聞きたい

甲状腺機能亢進症の薬物療法

著者: 鎮目和夫 ,   西崎統

ページ範囲:P.939 - P.943

症例
患者 M. H. 41歳 男性 会社員(事務)
既往歴 虫垂切除(30歳)

職業病の知識

振動による障害

著者: 石田一夫

ページ範囲:P.945 - P.947

振動障害の発生
 穿岩機,チェンソー,ブッシュクリーナー,鋲打機,グラインダーなどの振動工具が振動(振動数,振幅,加速度),寒冷,重量筋力負荷,騒音などによって,身体に障害を及ぼすことが知られている.

診療相談室

不整脈の分析図の書き方

著者: 松尾博司

ページ範囲:P.960 - P.961

質問 不整脈の分析図の書き方を,いくつかの列で具体的にご教示ください. (豊中市 O. T. 生 54歳)

天地人

モルモットの貞操帯

著者:

ページ範囲:P.963 - P.963

 もう随分前になるが,ベルギーのある博物館に陳列してあった貞操帯というのを見たことがある.それは昔,十字軍の騎士が遠征のため家を留守にするときに,奥方に貞操を強いる目的で使ったものであると注釈されてあった.鉄板で出来ていて排泄行為に必要な部分のみが切りとってあって,今では整形外科で用いるコルセットと同じようなものである.女性にとっては,これほど残酷で,侮辱的なことはなかっただろうと同情させられる.それでも賢い女性の"あらぬ行為"を防ぐことができなかったというから,十字軍騎士にとっては苦痛な遠征であったに違いない.文明の進んだ現代まで,男性至上主義者が探し求めている完全な貞操帯は開発されていないといってよいだろう.むしろ貞操帯そのものの必要性さえ想像できない世代になっている.
 ところが,動物の中には自然の完全な貞操帯をもっているものがある.モルモットがその一例である.モルモットはげっ歯類に属しているが,おとなしく動作がにぶく,実験動物として重宝されていることはご承知の通りである.野生のモルモットは1年に1度,それも1度に2匹程度しか子供を生まないという.繁殖能力--同類のラットやマウスに比して--が悪いわけではない.現に飼育されているモルモットは年に3回以上も妊娠するし,子供の数にしても20匹以上にも及ぶ.モルモットのメスは夜中に発情するものだから野生ではのろまのオスが目的を達しにくいのだろう.

オスラー博士の生涯・73

英国の慰問将軍オスラーと欧州戦争第2年目(1915年)

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.964 - P.967

 1914年8月に英国が欧州大戦に参戦してから,5カ月がまたたく間に過ぎた.半ば引退するつもりでオックスフォードに移り,静かな学究的余生を楽しもうとしていたオスラーにとっては,まったく予想せぬ大事件であった.オスラーは,再び第一線に飛び出て,奮闘する身となったのである.

医師の眼・患者の眼

死の床の句

著者: 松岡健平

ページ範囲:P.968 - P.970

るいるいたる陰影欠損にわが眼を疑う
 朝倉はわが眼を疑った.そして,ブラウン管に写し出された胃袋と,何ごとも知らないで透視用テーブルに横たわっている患者の顔とを見較べた.貧血はない.便の潜血反応は出ていない.肝機能検査は彼が実施したすべての項目について正常範囲であった.「この美しいご婦人に,こんなに元気そうな人に,何故こんなものがあるのだろうか」.朝倉は,自分のX線装置に誰かがコンピュータでも仕掛けていたずらしているような錯覚に陥った.胃の体部大轡側中ほどよりるいるいと陰影欠損が現れ,胃角部のやや上方から前庭部に至るMagenstrasseのあたりは親指一本分を通すぐらいに狭窄していた.
 透視を終わると,朝倉はいつものにこやかな顔を意識的に保つようにし,ちょっとした胃炎であること,今後経過観察をしなければならないこと,を患者に告げ,胃散とMetocloprarnide(プリンペラン)を処方した.

紫煙考

パーキンソン病と喫煙—タバコをのむ人が罹りにくいただひとつの病気

著者: 近藤喜代太郎

ページ範囲:P.928 - P.929

タバコの受難時代
 人とタバコとの永いかかわり合いの歴史上,後者の受難がつづく時期は今日を措いてない.私はパイプ党だが,つぎつぎにだされるタバコの有害性の証拠のまえには脱帽するしかない.2月19日の朝日新聞によると,日本でのタバコによる損夫は,火事や病気で年に1兆1千億円をこすというが,これも愛煙家には気分のよくない数字だ,石油蛋白の有害論が盛んだが,もしタバコに永い歴史がなく,新顔の嗜好品だったら,ひとたまりもなく追放されてしまうことだろう.
 ところが,それほど悪者扱いされるタバコをのむ人々が罹りにくい病気がただひとつだけ知られている.専売公社の喜びそうなこの病気はパーキンソン病で,患者の既往歴を調べると,不思議にもかえって喫煙歴が少ない.パーキンソン病は初老期以降に起き,振戦,筋の固縮,無動症などを呈する病気で,本誌16巻2号の特集でとりあげられている.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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