icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina16巻8号

1979年08月発行

雑誌目次

今月の主題 腸疾患の臨床

理解のための10題

ページ範囲:P.1214 - P.1216

腸疾患の臨床

小腸—鑑別診断のプロセス

著者: 川井啓市 ,   多田正大

ページ範囲:P.1138 - P.1142

はじめに
 小腸は栄養素の消化吸収の場であり,従来から消化吸収機序の解明のための種々の研究がなされてきている.本誌でも昨年5月号(vol. 15 no. 5)において「消化.吸収の基礎と臨床」のテーマが取りあげられ,最近の興味ある知見が紹介されたことは記憶に新しいが,本稿では小腸疾患に対する形態的アプローチのあり方をめぐる最近の2,3の話題について概説してみたい.
 ところで,小腸疾患の頻度は食道や胃,大腸疾患の頻度と比較して著しく低いことはいうまでもなく,他の消化管や肝臓,膵の華々しい研究に比べ,小腸に対する研究は症例の数のうえからも地味なものであったことは否定できない.また,小腸は口からも肛門からも距離があり,しかも腹腔内を上下,左右に迂回して腸管が重なりあうため,病変の診断法がむずかしいことも,小腸疾患に対する形態的アプローチの遅れの原因となっている.しかし最近では,胃や大腸の完成されたX線・内視鏡検査法の手技を小腸疾患の診断のために導入するとともに,小腸の解剖学的特殊性をふまえた独自の検査法も工夫されてきており,徐々にではあるが,小腸疾患の形態診断法の進歩がみられてきている.これらの診断法をめぐる詳細な紹介は各論に譲るとして,本稿では小腸疾患の診断の組み立て方を中心に概説したい.

大腸

著者: 吉田豊 ,   棟方昭博 ,   佐々木博海

ページ範囲:P.1144 - P.1147

はじめに
 最近,大腸疾患が増加しつつあるという臨床的背景のもとに大腸疾患に対する研究が急速に増えた観がある.しかしながら,多くの大腸疾患はいまだ病因が明確でなく,いわゆる特発性腸疾患として各分野から研究されている.かくして,今日疾患概念として整理されたものが多い.一方,X線,内視鏡を中心に大腸疾患の診断精度は上部消化管のそれに肉薄しつつあり,古典的疾患概念にはなかったアフタ性大腸炎や早期癌のような小病変が容易に診断可能となった.その診断への有力な武器であるX線検査,内視鏡検査をより一層有効にするためには,病歴,理学所見の的確な把握が大切である.そこで本稿では,各種大腸疾患の診療にあたって日常留意すべき問診,理学所見,直腸指診,糞便検査などの診断のポイントについて概説的に述べる.

腸疾患の検査

X線検査—小腸

著者: 小林茂雄

ページ範囲:P.1148 - P.1149

はじめに
 クローン病や結核を中心にして,小腸疾患が注目されてきた.一方,小腸の内視鏡も開発され,深部挿入が試みられているが,未だ十分とはいえない.したがって,検査の主体はX線診断である.
 小腸のX線検査法としては,従来からの経口追跡法にかわって,経ゾンデ直接注入法が用いられるようになってきた.

X線検査—大腸

著者: 下田悠一郎 ,   松浦啓一

ページ範囲:P.1150 - P.1153

はじめに
 現在最も普通に行われている大腸のX線検査法は,経口法と注腸二重造影法である.経口法は,解剖学的な位置異常や機能的異常を知るうえには必要な方法ではあるが,器質的変化の診断という点では,はなはだ心もとない.器質的疾患の検索を目的とするならば,注腸二重造影法によるほかはない.
 注腸二重造影法は,Fischerの注腸注気併用法にその端緒を発し,Welin法,Brown法と改良されたが,とくにBrown1)により腸洗浄などを用いずに,脂肪と線維とを厳格に制限した食餌と塩類下剤,接触性下剤を主体とした前処置が発表されて以来,これが精密な胃X線検査法に熟達した本邦に導入され,狩谷ら2)の努力により今までの方法よりもはるかに優れた診断能をもつ検査が可能となった.

内視鏡検査—小腸

著者: 竹本忠良 ,   土岐文武

ページ範囲:P.1154 - P.1155

小腸内視鏡検査の現状
 小腸の内視鏡検査法はまだまだ完成していない.1971年頃から小腸ファイバースコープの開発がすすめられているが,相手は手ごわい.小腸のもっている内視鏡に不利な解剖学的条件が,われわれ内視鏡専門家の挑戦を執拗にはねつけている.
 それでも,現在いくつかの方法が試みられていて,①push方式,②sonde方式,③rope-way方式,④大腸ファイバースコープによる逆行性回腸観察法があり,不完全ながらも,小腸の内視鏡検査法は内視鏡診断,直視下生検のほかに,消化吸収の機能的内視鏡検査法の研究がすすめられている.①,②,③の方式が小腸ファイバースコープを使用するわけであるが,術者の意志で挿入する①では,挿入深度は上部空腸鏡としては一応使いものになるが,挿入深度はTreitz部を約80cm越えたところが限界と思ってよい.②のsonde式は患者の苦痛も比較的少なく,深部空腸,さらに回腸までも観察できるが,検査に長時間かかること,原則的に生検ができないこと,小腸の蠕動運動のため任意の部位の安定した観察がむずかしいという欠点がある.③は小腸全体の内視鏡検査をはじめて可能にした方法であり,現在でもその有用性はかなり高く評価されている.しかし,あらかじめ患者に腸紐をかなりの時間をかけてのませておかなければならないこと,この腸紐が通らない腸狭窄の症例にはファイバースコープの挿入が不可能であるという欠点がある.

内視鏡検査—大腸

著者: 酒井義浩

ページ範囲:P.1158 - P.1159

はじめに
 大腸ファイバースコープが登場してから10年が経過した.今や国内で標準生産され市販されているものは,3社13機種に達し,質量ともに充実がはかられている.

小腸潰瘍性病変

小腸結核と小腸クローン病

著者: 渡辺晃

ページ範囲:P.1160 - P.1161

はじめに
 小腸病変の術前診断は,主として臨床症状,臨床検査所見,およびX線所見に頼らざるを得ない.本稿では,大腸病変を伴わないクローン病と腸結核の診断,ことに鑑別診断のポイントについて述べる.

腸型ベーチェット病と単純性潰瘍

著者: 馬場正三

ページ範囲:P.1162 - P.1163

はじめに
 単純性潰瘍もベーチェット病に伴う腸潰瘍もその原因は不明であり,臨床経過についてもなお解明されていない点が多く両者を鑑別するのは必ずしも容易ではない.
 単純性潰瘍という言葉を初あて用いたのはCruveilhier(1830)であるといわれている.以後,特発性潰瘍(idiopathic ulcer),孤立性潰瘍(solitary ulcer),非特異性潰瘍(non-specific ulcer)などといろいろな名称で報告され,その病態も詳細に検討すると報告者により重視する点が異なり必ずしも定義が明確でない.池田1),Grasmann2),Butsch3)らの定義を参照されたい.

非特異性小腸潰瘍症とその周辺

著者: 八尾恒良

ページ範囲:P.1164 - P.1166

はじめに
 非特異性多発性小腸潰瘍症は岡部(1966)1),崎村(1970)2)が6例について詳細な臨床的病理学的記載を行った.しかし,当時本邦においてはクローン病の経験例,報告例が少なく,本症をクローン病またはその初期とみなす研究者もあり,独立した疾患単位としての概念には異論があった.事実,岡部,崎村らも,本症は"限局性腸炎とは全く別な疾患とはいいきれない"と述べている.
 その後筆者らは本症の長期経過3,4)を追求し,また最近経験したクローン病との臨床的病理学的比較を行い4,5),本症がクローン病とまったく異なった疾患であることを明らかにした.すなわち,本症は臨床的に腸管潰瘍からの出血を主病像とし炎症所見に乏しいのに対し,クローン病では腹痛,発熱,下痢,赤沈亢進,CRP陽性などの炎症所見を主臨床像としていること,これらの臨床所見は両者の病理学的な炎症所見の差を現していると考えられることなどを報告した.そして「非特異性多発性小腸潰瘍症」という呼称は,独立した疾患概念を表す言葉としてはまぎらわしく,むしろ「慢性出血性小腸潰瘍症」と呼称すべきことを主張した.

糞線虫症と腸アニサキス症

著者: 政信太郎 ,   尾辻義人

ページ範囲:P.1168 - P.1171

糞線虫症
 糞線虫症は熱帯,亜熱帯に広くみられる寄生虫疾患である.本邦においては沖縄県,鹿児島県が本症の浸淫地となっている.これらの浸淫地では,本症の診断はさほどむずかしくないが,最近これ以外の地方における患者の報告例も散見されるようになっており,ともすれば見逃されることも十分考えられる.本稿では本症の診断の要点について述べる.
 症状 糞線虫はFilaria型幼虫が経皮的に感染し,経静脈的あるいは経リンパ管的に肺に達し,肺から咽頭を経て消化管に入り,小腸で成虫になる.成虫は小腸壁内で産卵し,卵は粘膜内で発育しRhabditis型幼虫になる.この多くは腸管内脱出し,糞便とともに排泄される,中には排泄されず,腸管内でFilaria型幼虫に変わり,自家感染の形をとるものもある,この自家感染のため,重症糞線虫症となり死亡する例も少なくない.

小腸隆起性病変

良性腫瘍と悪性腫瘍

著者: 山田達哉

ページ範囲:P.1172 - P.1173

はじめに
 小腸腫瘍は稀な疾患とされている.川井の本邦における文献報告からの調査によると,昭和40年から49年までの10年間に,小腸腫瘍は悪性が345例良性が272例報告されている.その内訳をみると,悪性腫瘍では,癌103例,平滑筋肉腫82例,リンパ系肉腫114例,その他の肉腫23例,癌,肉腫以外の悪性腫瘍23例であり,良性腫蕩では,ポリープ21例,ポリポージス94例,筋腫59例,脂肪腫25例,血管腫22例,その他51例であった.

回盲部病変

回盲部病変の鑑別診断

著者: 長廻紘 ,   藤盛孝博

ページ範囲:P.1174 - P.1175

はじめに
 消化管で異なる径,機能をもった2つの構造が接する部分は機能障害,炎症,腫瘍の好発部位とされる1).回盲部も例外でない.回盲部は径の細い回腸と太い大腸が端側に接し,かつ虫垂の存在もあって構造が複雑であることと,病変の種類が多いことによって臨床上重要な部位である.
 回盲部の注腸X線検査には,構造が複雑で描写読影がむずかしいうえに,以下のような制約がある.第1に泥状〜液状の残査があることが多く,このためバリウムの濃度が低下し,粘膜壁への付着が悪い.第2に上行結腸は解剖学的に半月ヒダが大きく,回盲部からのバリウムの除去がむずかしい.第3にスクリーニング検査では,病変の多い左側大腸を重視するため,全体のバリウム量は少なめになりやすい,肛門から最も遠い大腸部位である回盲部はコロノスコープの挿入も必ずしも容易でない.この2つの検査法がむずかしいことに関しては小腸がさらに上をいくが,病変の種類,頻度の点で,小腸は回盲部に比べて重要性は劣る.このような特徴をもった回盲部の検査においては,単に検査技術のみではなく各種疾患に対する深い理解が求められる。回盲部の診断が十分にできるようになれば,いろいろな意味で大腸診断学の"上がり"といえる.

大腸潰瘍性病変

大腸結核と大腸クローン病

著者: 八尾恒良

ページ範囲:P.1176 - P.1178

はじめに
 クローン病は1932年Crohn, B. B. らによって報告された疾患であるが,大腸クローン病の存在が公認されたのは1960年前後であり,小腸クローン病に比し比較的新しい概念といってよい.以後,欧米では潰瘍性大腸炎とクローン病の鑑別に関して多くの研究が行われているが,大腸に限ってクローン病と腸結核について論及した報告はほとんどないといってよい.
 しかし孤在性腸結核が少なからず存在する本邦では,大腸クローン病は潰瘍性大腸炎よりも,むしろ大腸結核との鑑別が問題にされることが多い.また,病理学的にも腸結核で非乾酪性肉芽腫のみがみられる時期のものがあり,その鑑別には何枚かのプレパラートの検鏡だけでは不十分で,切除標本の肉眼所見や臨床経過を参照しなければならないことがある.

潰瘍性大腸炎

著者: 狩谷淳 ,   西沢護

ページ範囲:P.1179 - P.1181

はじめに
 潰瘍性大腸炎の病像は,複雑多彩である.限られたスペースでは詳述しえないので,まず,本症の形態的変化をX線像によって系統的に整理して呈示し,次に臨床所見,鑑別診断,治療などについて簡述させていただきたい.

アフタ様大腸炎

著者: 吉川邦生

ページ範囲:P.1182 - P.1183

はじめに
 アフタ様大腸炎とは筆者ら1)が特徴ある内視鏡所見に因んで名づけて最初に報告したもので,粘液便ないし粘血便を主訴とし,大腸粘膜に口内のアフタに類似した病変がびまん性に多発し,生検組織所見は大腸粘膜のリンパ濾胞およびこれをおおう粘膜に限局した炎症である.

薬剤性腸潰瘍

著者: 村上義次 ,   菱沼義興

ページ範囲:P.1184 - P.1185

はじめに
 薬剤性腸潰瘍のうち,炎症を伴う薬剤性大腸炎の大部分は抗生剤の投与が原因と考えられる.欧米ではカナマイシン,アレオマイシン,クロラムフェニコール,エリスロマイシン,ネオマイシンによるものが古くから知られており,とくにリンコマイシン(LCM),クリンダマイシン(CLDM)による偽膜性大腸炎は有名である.しかし本邦の最近の趨勢としてはLCM,CLDMなどよりアンピシリン(ABPC),アモキシリン(AMPC)など最近開発された抗生剤による大腸炎の報告が多い.
 薬剤性大腸炎の発生機序として抗生剤による腸内細菌叢の変化,腸粘膜細胞内の酵素活性の阻害作用,ビタミン欠乏,アレルギー的機序,ウイルス,免疫学的機序の関与などが考えられているが,いまだに結論は出ていない.またLCM,CL-DMの臨床像は周知のものとなっているが,他の抗生剤によるものについては,目下症例報告が相ついでいる段階で,まだその輪郭は明確にされていない.そこで自験例および報告例の中で最も頻度の高いABPC,およびAMPC起因の薬剤性大腸炎を中心に述べる.なお,他の薬剤については割愛した.

虚血性大腸炎

著者: 打田日出夫 ,   吉本信次郎

ページ範囲:P.1186 - P.1187

 本症は1963年Boleyらが"大腸の可逆性病変"として,5症例と動物実験による実証例を報告し,1966年Marstonらは大腸に虚血性変化を生じた症例を分析して虚血性大腸炎と命名した.その後欧米での報告例は多く,独立した疾患として定着しているが,本邦での報告は少ない.木症は特徴的な臨床所見と大腸X線像を呈し,早期診断が治療方針の判定に重要であるので,大腸疾患の鑑別診断の一つとして留意すべきものである.

非特異性(孤立性)直腸潰瘍

著者: 勝見正治 ,   松本孝一

ページ範囲:P.1188 - P.1190

はじめに
 直腸に発生する潰瘍性病変は,表1に示すごとく,癌などによる腫瘍性のもの,結核,赤痢アメーバなどによる特異性炎症性のもの,あるいはクローン病,潰瘍性大腸炎,虚血性大腸炎などの広義の非特異性のほかに,狭義の非特異性のいわゆる弧立性直腸潰瘍がある.本症は1829年Cruveilhierが初めて報告し,1937年Lloyd-Daviesが初めてこの命名をし,1969年MadiganとMorsonが68例の詳細な検討から漸く本症の病態を明らかにした.その後Kennedyが45例,Rutterが105例を集計し,本邦でも1972年村上らの報告にはじまり,筆者らも3例を報告し,最近吉岡らは16例を集計し,国内外ともに急速な症例の増加をみている.

大腸隆起性病変

大腸早期癌と腺腫

著者: 武藤徹一郎

ページ範囲:P.1192 - P.1193

大腸早期癌の定義
 大腸早期癌の定義はまだ決まってはいないが,胃早期癌に準じて粘膜内の癌(m癌),粘膜下浸潤癌(sm癌)を早期癌と考える人が多く,その肉眼形態分類も胃早期癌のそれが準用されることが多い.ここでもこの考えに従っておくことにする.

大腸癌

著者: 神前五郎 ,   森武貞

ページ範囲:P.1194 - P.1196

大腸癌発生の年次的推移
 わが国の胃癌発生率は世界最高であり,逆に大腸癌の発生は,最低のグループに属していたが,1960年頃から少しずつではあるが着実に大腸癌が増加し,胃癌が減少してきている(図1).
 これを部位別にみると,下行結腸からS状結腸にかけての癌が著しく増加していて,直腸,肛門部の癌の発生には大きな変化はない.したがって1960年代までは大腸癌の約2/3を直腸癌が占めていたのであるが,1973年頃を境にして結腸癌のほうが直腸癌より多くなり,その傾向はなお強まりつつある.欧米のほとんどの国では大腸癌のほうが胃癌よりも多いのであるが,直腸癌の発生頻度はわが国と大差がなく,結腸癌が直腸癌の2〜4倍も多いのである.

大腸ポリポーシス

著者: 岩間毅夫 ,   宇都宮譲二

ページ範囲:P.1197 - P.1199

定義および分類
 定義 大腸の場合,"ポリープ polyp"とは腸管内腔への限局性の隆起性病変の総称で,臨床的な用語であり,組織的には種々の性質のものを包含している1)
 ポリープが多発した状態をポリポーシス polyposis,ポリープ症という.とくに腺腫の場合に限り,100個以上をポリポーシス(腺腫症),それ以下の複数のものを多発性ポリープ(腺腫)として区別する.

内視鏡的ポリペクトミーの適応

著者: 丸山雅一

ページ範囲:P.1200 - P.1202

はじめに
 大腸のポリープ(腺腫)を経内視鏡的に摘除しようとする試みは,1969年から1970年にかけて工夫された方法である.はじめの頃は,生検鉗子でポリープの基部を何回も噛り取る方法や,ピアノ線でループを作ってポリープの基部を絞扼し,ひきちぎる方法が行われていた.しかし現在は,米国でShinya(新谷)らが考案した方法,すなわちワイヤーループ(ポリペクトミー用スネアー)でポリープの基部を絞扼し,高周波電流で焼き切る方法が普及している.
 胃のポリープと異なり,大腸のポリープ(腺腫)は,その大部分が癌化することが知られている.したがって大腸のポリペクトミーは単に鉗子生検の延長として,組織学的診断のための情報量が多いという利点にとどまらず,前癌状態としてのポリープ(腺腫)を積極的に除去するという治療的手最としての意義がある.また,それだけに,実際どのようなポリープがポリペクトミーの適応であるかを決定することは,ポリープの治療法の選択という意味において,臨床的にきわめて重要な問題である.

座談会

下痢と便秘

著者: 村上義次 ,   矢沢知海 ,   牛尾恭輔 ,   西沢護

ページ範囲:P.1204 - P.1213

 腸疾患はわが国において近年著しい増加を示している.そのうち注目すべき器質的疾患の主なものについては,各論文のご解説に譲り,ここではごく日常的に遭遇する便通異常をめぐって,どのように検査,診断,治療をすすめていくべきか,とくに癌の鑑別に力点をおきながら臨床経験豊富な方々にお話いただいた.

プライマリ・ケア

てい談 循環器疾患(1)

著者: 山田辰一 ,   高木誠 ,   森杉昌彦

ページ範囲:P.1217 - P.1221

 森杉 今日のテーマは心臓病のプライマリ・ケアですが,私たち開業医のところに心臓がおかしいといって訪れてくる患者の8割は心臓病ではありません.本当の心臓病は案外少ない.逆に,かぜをひいて咳が出るという患者の中に心不全がいたり,腹が痛いと訴える老人が,実は心不全で肝臓が腫れていたりするケースがありますので,訪れてきた患者が心臓病か否かをふり分ける仕事は結構むずかしいと思うのですが,山田先生,第一線で循環器科を開業しておられて,そのへんはどうお考えですか.

心エコー図のみかた

胸部X線写真と心エコー図(1)

著者: 島田英世 ,   石川恭三

ページ範囲:P.1222 - P.1229

 石川 胸部X線上の心陰影ならびに血管陰影は,心疾患の診断上,重要な情報源であるわけですが,今回は,心陰影の特徴からどのような疾患を疑い,その鑑別診断に心エコー図がどのように役立つかをお話し願いたいと思います.

図譜・消化器病の超音波診断 他検査法との対比による症例の検討

超音波映像下の経皮的膵細胞診および経皮的膵管造影

著者: 唐沢英偉 ,   大藤正雄 ,   土屋幸浩 ,   税所宏光 ,   木村邦夫 ,   江原正明 ,   五月女直樹 ,   高橋法昭 ,   木村道雄 ,   大野孝則 ,   守田政彦 ,   三木亮 ,   上野高次 ,   庵原昭一

ページ範囲:P.1230 - P.1238

はじめに
 膵癌の診断は,これまでの内視鏡,血管造影,消化管造影,アイソトープ検査などに加えて,近年,診断装置の開発・改良がすすみ,超音波検査やCT検査が診断法として大きな比重を占めるようになりつつある.
 しかし,これらの検査法を駆使しても,なお確定診断の得られない膵癌症例がみられる.このような場合,膵生検法が有力な診断手段となる.最近では開腹下の膵生検に代わって血管造影,ERCP,PTC,CTなどを応用した経皮的膵生検が試みられている1〜4)

臨床医のための心の科学

血液疾患診療における心身医学

著者: 前沢政次

ページ範囲:P.1239 - P.1241

はじめに
 心身症を心理的要因により引き起こされる身体病と考えると,血液疾患の中では,ストレスによる赤血球増多症1)と自己赤血球感作症候群2)があげられる.実際これらの疾患の頻度は低く,血液疾患を有する患者の診療上の問題となることは少ない.むしろ身体疾患が不治であることによる患者のさまざまな精神的反応に対しどう対処すべきかという問題が,われわれ血液科臨床医にとって大きな位置を占める.すなわち精神から身体へという問題よりも,身体の状態によってどのような精神的問題が起きてくるかにわれわれの感覚が醒めていなければならまいということを日頃反省させられている.本稿では前者の例として2疾患について述べ,後者の問題を具体的に取り上げ,今後の課題についても論じてみたい.

森田療法—最近の話題

著者: 丸山晋

ページ範囲:P.1242 - P.1243

現代に存続する理由
 森田療法は,どちらかというと地味な歴史をたどってきた.しかし創始以後60年を経た今,その理論と実践はよく歴史の検証に耐え,すぐれた精神療法としての位置を確立したといえよう.そうした歴史をふまえて,最近の森田療法はまたあらたな発展期を迎えつつあるように思われる.
 一つの精神療法が大きな改変をみないまま,永年の間,施行されるということは,考えてみれば驚くべきことである.それだけに,創始者の独創性がすぐれており,初期においてすでに完成度が高かったともいえよう.高良は,森田療法が現代に存続する理由として,次の4つをあげている.①治療の効果が大きいこと,②治療の対象が広い範囲にわたって多数存在すること,③精神医学をひと通り学んだ医師であれば,比較的容易に治療の実施が可能なこと,④症状および治療に関する理解が治療者になされやすいこと(できれば患者の側においても).これらは森田療法の特徴を示すとともに,すぐれた精神療法のもつ一般的な条件としてもうけとめられる.

演習・放射線診断学 CTスキャン読影のコツ・2

脳—後頭蓋窩腫瘍のCT診断

著者: 前原忠行

ページ範囲:P.1256 - P.1263

 脳腫瘍の診断,とくにその局在診断におけるコンピューター断層撮影(CT)の価値は多くの認めるところで,検査が完全に行われさえすれば,ほぼ100%の検出率といわれている.天幕上の腫瘍に関しては,すでに多くの報告が見られるので,ここでは天幕下,すなわち後頭蓋窩の脳腫瘍にかぎって,中でもそれらの性質の判断にCTがどの程度役に立つかという点を中心に,代表的症例を供覧し解説を加えることにする.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1264 - P.1269

medicina CPC—下記の症例を診断してください

意識障害を主訴とし,浮腫,両下肢の筋力低下・萎縮などをきたしてきた66歳女性の例

著者: 山根清美 ,   熊田博子 ,   朝長正徳 ,   古和久幸

ページ範囲:P.1244 - P.1254

症例 66歳 女
主 訴 意識障害
家族歴 脳卒中(父)

Laboratory Medicine 異常値の出るメカニズム・18

血清鉄および血清鉄結合能

著者: 河合忠

ページ範囲:P.1272 - P.1275

鉄測定上の注意
 血清に含まれる鉄はごく微量である上に,鉄はわれわれの日常生活器具として広く分布しているので,採血ならびに検査にあたっては,特殊な脱鉄蒸留水および器具を用いて行う必要がある.すなわち,器具は塩酸処理による脱鉄を施したもので,洗浄後は薬包紙で包んでおく.

職業病の知識

皮膚障害

著者: 村上通敏 ,   西山茂夫

ページ範囲:P.1276 - P.1279

はじめに
 1977年の米国の調査報告によれば,皮膚疾患は職業病全体の46%を占め,また病気により失われた労働時間の23%は皮膚疾患によるものである。さらにAmerican Academy of DermatologyとNIOSH(米国立職業安全衛生研究所)の連絡委員会の実情調査報告書は,労働者の健康を守るべきNIOSHや職業安全衛生局に,職業上の皮膚疾患を専門とするスタッフが一人も配置されていないと指摘している.
 本来,皮膚障害は職業病の中でも広範囲,かつ重要な位置を占めるはずでありながら,残念なことに本邦でも,行政面,企業体および産業医学面ともにこれを等閑視する傾向があったことは否めない事実であり,今後この方面の官民一体の努力が必要である.

図解病態のしくみ 消化器疾患・5

脂肪の消化と吸収

著者: 松枝啓

ページ範囲:P.1282 - P.1286

はじめに
 脂肪の消化および吸収障害が起こると,カロリー源としての脂肪を効率よく吸収できないばかりでなく,その吸収障害に伴って起こる下痢(脂肪便Steatorrhea)により腸管壁から電解質や蛋白質などの喪失をきたし,ひいては栄養不良状態(Malnutrition)を惹起するため臨床上重大な問題である.一方,脂肪の吸収障害に伴い,脂溶性のビタミンであるビタミンA,D,E,Kなどの吸収障害や欠乏が起こり,合併症として多彩な臨床症状を呈してくる.
 ここでは脂肪の消化および吸収の病態生理を述べることにより,それらの障害に対する合理的なアプローチについて考えてみたい.

天地人

テュルクの冬の日記から

著者:

ページ範囲:P.1287 - P.1287

 それはもう,降るほどの星が真っ暗で静まりかえった空をいっぱいに埋めつくしていた.星の点々が水平に切れているあたりが地平線らしい.向きを変えると水平線らしい盆状の高まりが,同じように星くずの光をさえぎる。胸を広げると鼻孔がピタリと閉じて,零下30度の空気をこばむ.けさは9時になっても街灯が黄色みを帯びた光の輪を雪の上に落としていたが,夜半の空には凍えるような星が光る.—数年も前のことだが,偶然の機会にフィンランドのテュルクを,それも正月2日の日曜日にたずねた時分の日記だ.北欧の真冬はさすがに寒さがきびしい.しかし凛とした自然の美しさはその寒さを忘れさせた.その美しさは静けさに包まれた気品あふれるばかりのものだった.日記には続いて,手にしていた冊子の抜き書きがある.
 「生命には成長がない.……生命はただ変化である.……雲の,夕映の,さまざまなる色の移り行く変化のみ.生命は!」.五十年前の冬に萩原朔太郎は《青猫,以後》の序にこんなことを書いているが,青猫の中には「……思想はなほ天候のやうなものであるか」「絶望の凍りついた風景の乾板から,蒼ざめた影を逃走しろ」などとうたっている.同じころR.M.リルケは,「むらがる光の群で,夜の闇はできていた」とし,「息をひそめた沈黙の中でまた鳴りひびく,人間のタクトが,いまやって来るものが」とうたい,春となる日へ心を馳せるとともに,大地へ向けて私は流れてゆく,私は在ると宣言している.

紫煙考

タバコに心理的効用はあるか

著者: 茨木俊夫

ページ範囲:P.1288 - P.1289

 喫煙行動の歴史をふり返ると,喫煙が医学的に効用のあるものだと信じられていた時代がある.
 ニュートンが万有引力の法則を考え出した頃,当時のイギリスはペストの大流行で,彼が研究生活を送っていたケンブリッジ大学もペストのため休学閉鎖となった.そこでニュートンは母の居た田舎で農業の手伝いなどを2年余りしており,その間に生涯の業績の大半を仕上げている.リンゴが木から落ちるのを見たというエピソードもこの田園生活においてであった.

開業医日誌

心臓破りの坂

著者: 西田一彦

ページ範囲:P.1290 - P.1292

今は昔の"とどろきの坂"
 何年ぶりだろうか,私は井之城部落の入口に立っていた.ここから約3キロのところに波多野城趾がある.井之城もその昔,出城のあったところだという.昔からこの辺一帯は清洌な井戸水が湧き出るので,あるいはその湧水を守るための砦であったのかも知れない.井之城と呼ばれる所以であろうか.
 この部落に来るには,街はずれの専売公社たばこ工場の東北の道から,今は高速道路なみに完全舗装された国道246号線を横断して,そこから始まるつづら折れの坂道を約2キロ越えなければならない.その坂道も今は道幅も広がり舗装されてバスが通っているが,あの頃は凸凹だらけの砂利道で,オートバイでの往診も大骨で,巻き上る砂塵で頭から真白になるのは毎度のことで,砂利道にハンドルを取られて転倒することもしばしばであった.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?