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雑誌目次

雑誌文献

medicina16巻9号

1979年09月発行

雑誌目次

今月の主題 内科医に必要な精神科の知識

理解のための10題

ページ範囲:P.1374 - P.1376

面接と検査

面接法

著者: 保崎秀夫

ページ範囲:P.1310 - P.1311

 どの科でもいえることだが,医師・患者関係(信頼関係)がうまくゆかぬと治療はうまくゆかぬ.その基礎になるのは面接の場面での相互の出会い,交流であり,それを生かすために,面接をすすめてゆく上でまず注意すべき点をあげると,
 1)静かな場所で,1対1で話合える場面をつくるのが望ましい.相手がこちらの視線を避けるようであれば,それに応じて斜めに向かいあうのもよい.時間も1時間ぐらいが限度である.

内科における心理検査法

著者: 岡堂哲雄

ページ範囲:P.1312 - P.1315

心理検査とは
 患者のケアには,心理面の援助が重要であると言われる.心理面の援助を適切に行うためには,患者の行動と心理にみられる個人差を心理学的な視点から把握することが望ましい.この個人差の把握を目指して考案されてきたのが,心理アセスメント(psychological assessment)であり,なかでも心理検査法が最も一般的な方法である.
 心理検査は「ある人の行動を観察し,それを一定の数量尺度またはカテゴリー・システムによって記述するための系統的方法である」と定義される.この定義で,行動(behavior)というのは,言葉による反応,筆記による回答,身体の動き,生理的反応,それに検査装置に対する反応動作を含む広義の概念である.心理検査という用語を,高度に標準化された検査に限定し,その他の検査手続を技法(technique)とか目録法(inventory)と呼ぶこともあるが,ここでは心理検査を包括的な用語として述べていく.

よく遭遇する症候

食欲異常

著者: 下坂幸三

ページ範囲:P.1316 - P.1317

うつ状態における食欲異常
 壮年期には男女を問わずうつ状態の場合に食欲不振がよくみられる.ごく稀にはうつ状態に一致して反対の多食がみられることもある.うつ状態の診断については本特集の飯田論文を参照していただければよいが,うつ病の際の食欲不振には器質的背景はないはずだと速断してはならない.現実には口臭,舌苔,胃の圧痛といった胃炎の症状を兼備していることが多く,またうつ状態のときには消化性潰瘍が発生しやすいことが知られている.

不眠

著者: 松本啓

ページ範囲:P.1318 - P.1319

はじめに
 不眠は,発熱などと同じく,単なる症候であり,その原因はいろいろである.不眠は,あらゆる診療科において,最もよく遭遇する症候であり,総合病院の入院患者の愁訴のうち,不眠が各診療科に共通して上位を占め,また年齢,性別を問わず,不眠が多く認められる5).したがって,その不眠の原因は何かということを明らかにすることが大切である.不眠は多くの場合,他の症候と一緒に出現するが,他方,不眠だけが唯一の症候として長期にわたるものもかなり多くみられる.そこで,不眠を主訴とする患者を診察する場合に,診断上参考になることは,次のような事項であり,そのためには、なるべく詳しい病歴を聴取する必要がある.病歴聴取に際しては,性別,年齢,性格,家族および職場の環境,仕事の内容,対人関係,飲酒歴,家族歴,既往歴,現病歴,さらには,不眠とはいっても,どのような型の不眠であるのか,就眠障害か浅眠,あるいは中断,早期覚醒かを尋ねておく.つぎに内科的診察および諸検査を行い,必要があれば精神科的診察も併せて行う.このようにして不眠の原因を明らかにすることによって,はじめて個々の症例の不眠に対する的確な治療が行えるわけである.また,不眠という症候を端緒にして,細心の注意をはらいながら検診することによって,思いがけない原因を発見することもある.

頭痛

著者: 大月三郎

ページ範囲:P.1320 - P.1321

頭痛の診察
 頭痛の臨床では問診が重要である.頭痛の発症と経過,痛みの性質,身体的・精神的随伴症状の有無について聞くことで,かなりの程度まで鑑別診断が可能である.頭痛の鑑別はまず器質性疾患(脳種瘍,頭蓋内血腫,髄膜炎など)の除外から始まるが,これには,進行性経過をとる場合には十分注意し,慎重に全身所見,神経学的所見をとり,脳波,頭部コンピューターX線断層,髄液などの諸検査を行う必要がある.
 頭痛の性質では,ずきずきする拍動性(血管性)か,締めつけられるような痛み(筋緊張性)かの区別が必要である.頭痛に悪心,嘔吐を伴うか(脳圧亢進,片頭痛),めまいや手指しびれ感を伴うか(高血圧,動脈硬化),発熱の有無,頭部外傷の既往,意識障害やけいれん発作の有無,家族歴の有無などをきく.

うつ状態

著者: 飯田眞 ,   松浪克文

ページ範囲:P.1322 - P.1325

はじめに
 うつ状態は人間に最も普遍的な心理状態であって,正常人の気分変動から,反応性うつ病,神経症性うつ病,内因性うつ病,症候性うつ病までを含む広いスペクトルを有する精神症候群である.うつ状態を把握するためには,内因性うつ病についての知識が不可決である.

体臭

著者: 宮本忠雄 ,   吉野啓子

ページ範囲:P.1326 - P.1327

体臭を訴えてくる患者たち
 体臭を主訴として各科を受診する人は少なくない.たとえば,腋臭,便臭,口臭,性器臭を訴えて,皮膚科,内科,泌尿器科,産婦人科,歯科を訪れる症例などが多いが,ふつうは客観的にも臭いが認められ,それに相当する身体的原因も発見される.しかし,なかには身体的異常がつかめぬばかりでなく,実際の臭いさえまったく,あるいはほとんど感じられないのに,「自分の体からいやな臭いが出ている」と固く思いこみ,徹底的な診察や検査を希望してくる場合もある.患者は若い人が多く,いずれも思いつめたような訴え方をする.よく聞いてみると,そういう臭いは「変な,嫌な,不快な」もので,周囲の状況によってその強さが変化する.たとえば自分の家や,全然知らない人ばかりのときにはあまり臭わないのに,学校や職場など自分と同等の仲間のいるところで一番強く臭い,いたたまれないというふうに訴える.また,ときには「自分の体が臭っているのは確かだが,どこがどう臭うのかはよくわからない」などということもある.
 このような症例は日本でもヨーロッパでも1960年頃から注目をひき始め,一般には神経症の領域で扱われているが,うつ病や分裂病にもまったくあらわれないわけではない.

概念と診断

仮面うつ病

著者: 矢崎妙子

ページ範囲:P.1328 - P.1329

はじめに
 仮面うつ病は精神科領域でよりも内科その他の領域でまず問題になることが多い.
 ここ数年来,内科専門医から仮面うつ病ではないかという理由で併診の依頼がとみに増加している.しかもその依頼書に記載してある処方内容をみると,すでに抗うつ剤の投与がなされていることも少なくない.

てんかんとその周辺

著者: 宮坂松衛

ページ範囲:P.1330 - P.1335

てんかんの現代的概念
 てんかんという病は,ギリシャ時代以来,主として痙攣と意識喪失の発作を起す病として知られていた.しかしながら,てんかん発作には上記二者以外にも,感覚,情動,行動,自律神経系などにわたる各種の内容をもちうるらしいことが漸次に知られてきた.
 そうした病態の検索のために1930〜1940年頃より脳波検査という新しい武器が用いられ始めてから,てんかん発作は,脳波上に突発的な律動異常paroxysmal dysrhythmia(てんかん性脳波)として表現されるところの脳内神経細胞の過剰放電によって起されること,また,その発作の内容(症状)はその過剰放電の起る脳内部位の相違によって種々に異なることが知られてきた.

神経症

著者: 岩井寛

ページ範囲:P.1336 - P.1338

はじめに
 神経症はノイローゼという言葉で,戦後非常に一般化された.それはアメリカ・ヨーロッパにおいてもそうであるように,文明化が進めば進むほど複雑になる社会機構・人間関係などの歪みをうけて,発症しやすくなる疾患だからである.そうした意味では,人間のもつ疾患の中で,最も社会の在りかたを直接的に反映し,個人の生活史を映し,さらに文化の影響をうけ,人間の生存をありのままに描き出す疾患ともいえる.
 さて,neurosis(Neurose,独;névrose,仏)という言葉を歴史の上でつくり出したのは,スコットランドのW. Cullen(1777)である.しかし,彼は今日われわれが用いるような意味をもってneurosisという言葉を用いたのではなく,疾患の全体をcachexiae(消耗性疾患),pyrexiae(熱性疾患),locales(局所疾患)にneuroses(神経疾患)を加えて分類を行ったのである.しかもそのneurosesは多彩なものを含んでいて,卒中による麻痺,舞踏病,てんかん,心気症,ヒステリー,そのほか心悸亢進やヒステリーなど,さまざまな疾患を総括した名称であった.

心身症

著者: 筒井末春

ページ範囲:P.1340 - P.1341

心身症の素因としての失感情症
 近年,心身医学における重要なテーマとして,心身症全体に共通する問題点が,主として神経症との異同に焦点をあててとりあげられ,失感情症(alexithymia)という言葉であらわされている.
 AlexithymiaはSifneos(1973)1)により唱えられ,わが国では池見2)により紹介されているが,その言葉の意味するものは「感情の認知とその表現に欠ける」ということである.

老人の精神障害

著者: 長谷川和夫

ページ範囲:P.1342 - P.1344

はじめに
 老人は若壮年期に比較して3〜4倍の頻度で精神障害にかかりやすいとされる.人口の高齢化はさらに進行している現状からみて,精神障害をもつ老人はますます増えることは確実といってよい.
 ことに老人では,身体病に罹患した場合にさまざまな精神症状を発呈することが知られている.たとえば,慢性身体疾患に伴ってうつ状態をおこしたり,あるいは骨折や手術後に痴呆状態をおこすことは臨床医のよく経験するところであろう.

頭部外傷後遺症

著者: 太田幸雄

ページ範囲:P.1346 - P.1347

はじめに
 戦傷に多い弾丸などの鋭い力が働いた外傷と,平和時に多い鈍力による外傷とでは後遺症状も異なるが,ここでは後者について精神科の立場から述べよう.
 頭部外傷後遺症患者では脳実質の損傷の程度とか部位などの器質的要因,その人の事故前,事故後の環境的状況などの心理的要因,そのほか多くの条件を考慮しつつ総合的に全体として1人1人の患者をみることが必要である.

薬剤による精神障害

著者: 宮下俊一

ページ範囲:P.1348 - P.1350

はじめに
 今日の医療の中で薬剤の果たしている役割は大きく,多くの疾病が治療されている反面,薬剤の副作用もまた大きな問題となっている.その中で副作用として精神症状を呈するものもいくつかみられる.いろいろの精神症状が認められる場合,それが内因性精神病によるものか,服用中の薬剤により惹起ないし誘発されて出現したものかを鑑別することはなかなかむずかしい.ここでは日常比較的多用されている内科系薬剤の中で,薬剤の服用と精神症状の発現に明らかな相関の認められるものについて"薬剤による精神障害"としてとりあげてみる.また最近社会問題となっている覚醒剤,シンナー,ボンドなどによる精神障害についても若干触れてみたい.

対策と治療

不眠症の治療

著者: 大原健士郎

ページ範囲:P.1352 - P.1353

はじめに
 不眠は精神科領域の患者に限らず,どの種の患者にもよく認められる症状である.しかも不眠だけを訴える患者は稀で,他の訴えを伴っている場合が多い.不眠の背景は種々さまざまであるにもかかわらず,患者の悩みが不眠症に集約されている場合が多いことを考慮して,基礎疾患は何であるかという検索を十分にすることが大切である.
 不眠の型を症状別に分類すると,最もしばしばみられるのは,入眠障害である.続いて多いのは,夜半にしばしば覚醒するという睡眠の持続障害である.次に多いのは眠りが浅くて夢ばかりみると訴える熟眠障害である.このほか,しばしばみられるものとして早朝覚醒(うつ病)がある.また,日中に眠り,夜間に入眠できないという睡眠リズムの障害や,睡眠時間の短縮をそれほど苦にしない躁病のようなものもある.

抗不安薬(マイナートランキライザー)の使い方

著者: 伊藤斉

ページ範囲:P.1355 - P.1359

はじめに
 マイナートランキライザー(minor tranquilizer)または(狭義の)トランキライザーという名称は耳慣れてきたものである.しかし,とかくすると強力精神安定剤(メジャートランキライザー,major tranquilizer)と混同されやすく,最近に至り抗不安薬(anti-anxiety agents,anxiolytic drugs,anxiolytics)と呼ばれるようになった(メジャートランキライザーは抗精神病薬と改称された.向精神薬にはこのほかに抗うつ薬,精神刺激薬があり,さらにこのほかに睡眠薬,鎮静薬および抗痙攣薬がある).
 抗不安薬の作用点が海馬,扁桃核などの大脳辺縁系に選択性を有し,古くから使われていた鎮静催眠薬(バルビツール酸系および非バルビツール酸系睡眠薬など)が新皮質,視床下部,網様体その他脳全体に抑制作用を有するのとの相違により,臨床的な応用の面で類似しているものの,大量服用時にも急性中毒や致死の危険が比較的低く,また治療量と中毒量との幅が大きく,通常の治療量の範囲では意識レベルに著しい影響を与えず,しかも従来の鎮静睡眠薬よりはるかに優れた抗不安・緊張作用を有している利点を備えている.

抗うつ剤の使い方

著者: 仮屋哲彦

ページ範囲:P.1360 - P.1361

はじめに
 抗うつ剤は,うつ病ならびに種々の抑うつ状態に対して用いられる薬剤の中でも中心をなすものである.最近,躁うつ病とモノアミン代謝に関する研究をはじめとする生物学的研究や,躁うつ病の発病状況,さらにうつ病者の性格と発症との関連などの研究の進歩は著しく,これらは当然,治療の進歩にも影響を与えている.そして,抗うつ剤の使用にあたっては治療上の位置づけと,薬物の作用および副作用を考えながら,症状に応じて的確に活用することが重要である1)

抗てんかん剤の使い方

著者: 石黒健夫

ページ範囲:P.1362 - P.1365

はじめに
 てんかん患者は多かれ少なかれてんかん性格をもち,社会適応に困難がある.したがって,てんかん患者を治療する場合は,単に発作を抑制するだけでなく,心身両面にわたる治療が必要であって,生活指導と共に,向精神作用を合わせもつ抗てんかん薬の投与が必要である.この20年間,難治性てんかんに対する薬が多数知られるようになったが,難治性てんかんのほとんどが粘着性,爆発性など性格変化の著しい側頭葉てんかんであるため,向精神作用をもつ優れた薬が多く開発され,その評価も定着しつつある.

アルコール依存の治療

著者: 小片基

ページ範囲:P.1366 - P.1368

医療の対象となる飲酒者
 WHOによって提唱された薬物依存概念は,精神依存,身体依存,耐性の3者によって構成され,現在次の8型に区分されている.すなわち,モルヒネ型,バルビッレートおよびアルコール型,コカイン型,アンフェタミン型,カート型,幻覚発現物質型,および有機溶媒型である.アルコール依存の用語はWHOの薬物依存概念に基づいている.従来,曖昧とされてきたアルコール中毒の慨念を薬物依存概念で規定しようとするのが最近の動向である.アメリカではNCA(National Council on Alcoholism)診断基準を提示し,精神依存,身体依存,耐性を反映する諸徴候を具体的に規定した.WHOは包括的概念としてアルコール関連障害(alcohol-related disabilities)をかかげ,医療の対象となる障害はアルコール依存症状群(alcohol dependence syndrome)を中核とするという見解を示した(1977).アルコール依存を規定する場合,獲得耐性の直接表現としての基準飲酒量を規定すること,および精神依存の直接表現としての社会的障害を基準化することは,いずれも疑問点が多いという見解が強い.本邦では,最近,アルコール依存徴候を表1(身体依存的側面)および表2(精神依存的側面)に示したように規定しようとする動向にある.

内科における精神療法

著者: 狩野力八郎

ページ範囲:P.1369 - P.1371

はじめに
 内科医,とくに実地医家には精神療法的役割が課せられている.つまり実地医家は,その地域における身体的・心理的・社会的側面の相談役であることが多い.しかし,実際の医療という枠の中にこうした「相談役」という役割をどのように取り入れ,どうしたらよいかという問題については,個々の経験にまかされていて,医療の対象としては十分な検討がなされていなかった.精神療法に関する診療報酬が低いこと,患者一人当たりの診療時間が少ないこと,精神療法は時間がかかること,精神療法の教育が不十分なことなどという現実的問題が障害となっていた.にもかかわらず,近年,実地医家における精神療法が再認識される傾向とともに,精神科においても現実的問題を考慮した精神療法の実施と検討が活発に行われるようになってきた.とくに精神分析における面接時間・頻度・治療期間の短縮化を目的とするいろいろな型のbrief psychotherapyがそれである.しかし,多くのbrief psychotherapyは専門的訓練と技術を必要とするので,内科領域でそのまま適用するのはむずかしい.ただ,Balint, M.(英国の精神分析医)はむしろ実地医家のbrief psychotherapyを指導し,Balint方式という新しい方法を提示している.以下に精神分析的観点から精神療法を行う際の基本的問題とその実際を述べる.

精神科救急治療

著者: 森温理

ページ範囲:P.1372 - P.1373

はじめに
 精神科救急治療の対象となる場合をあげてみれば,次のようである.
 1)心因性のもの:自殺企図および自殺のおそれ,暴行,衝動行為,躁病性興奮,緊張病性興奮,妄想型分裂病(妄想による興奮),苦悶うつ病,恐慌反応(不安・心気状態),心因反応(もうろう状態),ヒステリー発作,家庭危機など.

臨床医のための心の科学

老人の心理—その死生観をめぐって

著者: 霜山徳爾

ページ範囲:P.1378 - P.1379

はじめに
 老年者の臨床は人が考えているよりずっとむずかしいものである.老人が医師の診断を受けたのちに,医師を悪しざまに他者に語ったり,あるいは黙っていても深いルサンチマンを抱くことがある.診察や検査は何故それが必要か,どこに問題があるのかを明確に示し,良いラポールをつけ,老人の人格を認め(かつては要路の人であっても眼前の老人は痴呆がきているので,若い医師はつい見下したような口を聞くものである),プライバシーを尊重しなくてはならない.また老人の反応や行動はおそいので,十分に時間をかけなければならないし,こちらのペースでやるとすると失敗することが多い.また,老人の背後には長い彼の生活史があり,病歴もある.したがって詳細な記載が必要である.

精神医学的立場からみた人工透析療法

著者: 平山正実

ページ範囲:P.1380 - P.1381

はじめに
 最近,日本において腎不全の患者を対象として行われる血液透析療法は,年々増加の傾向を示しつつある.ちなみにわが国の慢性人工透析患者数は,昭和43年にはわずか215名であったものが,10年後の昭和53年には2,700名(推定)に達したもようである(人工透析研究会調べ).そしてこのような透析技術の発達によって,以前は短期間のうちに死亡していった重篤な腎疾患患者が長期間生命を維持することができるようになった.このようなことがら自体は現代の科学技術のひとつの成果として評価されるべきであろう.事実この療法によって多くの患者は社会復帰することができるようになった.しかし,透析療法を受けるものは,一生涯にわたって機械装置に依存しなければならないため,心身共にさまざまな影響を被ることが明らかになりつつある.そのなかで精神的葛藤に伴う諸問題は,とくに深刻である.たとえば長期間人工透析を受けた患者の中には,性格的な歪みが出てきたり,行動異常や精神・神経症状が出現するものが少なくない.そして,臨床場面においてこのような事実にしばしば遭遇する医療従事者の間から,かれらに対して精神医学的な面からケアを行う必要性が叫ばれている.

心エコー図のみかた

胸部X線写真と心エコー図(2)

著者: 島田英世 ,   石川恭三

ページ範囲:P.1382 - P.1389

 石川 今回は,胸部X線写真上,心陰影が全体に拡大している場合の心エコー図による鑑別のしかたについてお話を進めていきたいと思います.

プライマリ・ケア

てい談 循環器疾患(2)

著者: 山田辰一 ,   高木誠 ,   森杉昌彦

ページ範囲:P.1390 - P.1394

初期の心筋梗塞の心電図変化
 森杉 最近,男性では30代でも心筋梗塞は珍しくなくなりましたが,女性の場合はどうですか.
 高木 一般には少ないですね.

図譜・消化器病の超音波診断 他検査法との対比による症例の検

超音波映像による門脈造影とその応用による食道胃静脈瘤塞栓術

著者: 木村邦夫 ,   大藤正雄 ,   土屋幸浩 ,   唐沢英偉 ,   江原正明 ,   松谷正一 ,   税所宏光 ,   大野孝則

ページ範囲:P.1395 - P.1406

はじめに
 Lunderquist1)らにより確立された経皮経肝門脈造影法(PTP)は門脈圧亢進症の病態診断に有用であり,さらにその応用による食道静脈瘤塞栓術は出血性食道静脈瘤の治療法として注目される.しかし,従来のPTP方式は太いカテーテル針を用いてX線透視下に肝内門脈枝を探り当てる方法で行われており,確実性や安全性に問題がみられる.
 Burcharth2)らは超音波断層法が生体内の解剖を断層像として描出できる利点を生かし,超音波による肝門部位置を穿刺の指標とすることでPTPの確実性の向上が得られると報告している.

演習・放射線診断学 CTスキャン読影のコツ・3

頭頸部

著者: 八代直文

ページ範囲:P.1407 - P.1413

はじめに
 頭頸部のCT診断は,他領域に比べてCTの応用範囲が限られている.その最大の理由は,眼科領域,耳鼻咽喉科領域の病変は,外部からのアプローチが比較的容易で,視診,触診などの理学的検査の有効性が高いことにある.また,超音波検査・軟線撮影などの,簡便でありながら診断力の高い他検査法がすでに存在することも理由のひとつである.
 CT画像の点でも,頭頸部は副鼻腔・側頭骨・気道内などの含気と骨構造が接して存在するため,非常にartifactを生じやすく,初期のCT装置では読影に価する画像を得ることが困難であった.また,頸部は細いために相対的に解像力が低下し,しかも脂肪組織が少ないため,組織をCT画像の上で分離することが困難である.最近になって第3世代,第4世代のCT装置が登場し,画像の質が向上して,ある一部の領域の病変に関してはCTの有効性が認められるようになってきてはいるが,それでも頭頸部の病変に関するCTの役割は大きくはない.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1416 - P.1421

図解病態のしくみ 消化器疾患・6

炭水化物の消化と吸収

著者: 松枝啓

ページ範囲:P.1424 - P.1429

はじめに
 人間によって摂取される総カロリーの約50%は食物中の炭水化物によって供給されるが,その炭水化物は主に多糖類である殿粉(Starch)とグリコーゲン(Glycogen),および二糖類である庶糖(Sucrose)と乳糖(Lactose)から成り立っている.これらの糖は,種々の酵素によって分解され,最終産物である単糖類になってはじめて腸管からの吸収が可能となる.
 したがって,それらの糖分解酵素の先天的または後天的欠乏は炭水化物の吸収障害をひき起し,栄養不良状態,浸透圧性下痢,腹部膨満,腹鳴,放屁などの多彩な臨床症状を呈する.

職業病の知識

血液障害

著者: 牛尾耕一

ページ範囲:P.1430 - P.1432

はじめに
 職業病はすべて予防すべきものであり,血液障害もその例外ではない.軽度異常の段階で発見し,職場環境の改善,配置転換または治療を行うべきである.このため労働省は有害業務従事者の特殊健康診断(特健)を規定している.しかし,軽度の変化を見出すためには定期的な特健のほかに,就業前に関連項目の検査を行い,それとの比較で以降のデータを評価することが必要である.たとえば,鉛貧血は軽〜中等度に留まるので,貧血を鉛の健康障害の指標とする限り就業前値が重要となる.また血液障害を起こす物質は皮膚,肝,腎,神経系の障害,さらに発癌性を示すものも少なくないが,本稿では血液障害に限って述べる.

外来診療・ここが聞きたい

気管支喘息への対応

著者: 谷本普一 ,   西崎統

ページ範囲:P.1434 - P.1438

症例
患者 Y. S. 58歳 男性,会社自営
現病歴 1年前の春に初あて喘息発作があり近医受診,注射を受けて治った.本年3月中頃に同様の発作があり近医受診,注射を受けて改善するが,2〜3日すると夕方再び発作をきたすことをくり返し,来院

天地人

カメラと写真

著者:

ページ範囲:P.1439 - P.1439

 アメリカへ行くことになり,古いカメラを携行したが,シャッターがきれない.仕方がないので,成田空港で新しいオリンパスペンを買った,ところが,そのカメラ屋で調べてもらうと,古いカメラの故障は,単に電池が古くなったためで,新しい電池にとりかえたら,たちまちなおった.損をしたと思ったが,一方にはネガカラーを,一方にはポジカラーを入れて,アルバム用とスライド用の二つに役立てることにした.
 目的地に着いて,スナップ写真を二三撮っただけだったが,早速,スペインの医者から目をつけられた.よかったらカメラを譲ってくれないかというのである.日本へ帰ればまた買えるのだし,第1これは結果的には余分で,なかに入っているフィルムを撮り終えてしまえばもう用はない.「旅行のおわりで,君と別れるときさしあげよう.ただし,これは,NARITA AIRPORTで新しく買ったものだから,お代は75ドル頂戴する」といったが,むこうは喜んでもっていった.

紫煙考

タバコと心臓病

著者: 林明徳

ページ範囲:P.1440 - P.1441

はじめに
 古来,世界の宗教といわれるものでは,いわゆる悪い習慣を強く戒めているものが多い.10戒や5戒の中に禁煙の項が見あたらないのは,「物怪の幸い」か.喫煙風習の嚆矢となるのは当然のことながらコロンブスの新大陸発見(1492)で,当時の現住民の習慣であった喫煙がヨーロッパに伝わり,これがさらに全世界に伝播したわけで,予言者や大哲が出現した時代からみると,よほど後世になってからの習慣であったために11戒や6戒にならなかったのではあるまいか,treponema pollidumの伝播とほぼ同経路をたどって世界的になったところなど,はなはだ人間的というか,むしろ悪魔的な印象を与えている.本邦へは天文12年(1584)にスペインより葉タバコの輸入がなされた由であるから,喫煙者はそれよりやや以前から存在していたことになり,時まさに戦国の安土桃山時代で,貧困と富裕,生と死が裏腹に混在していた代表的な時代であり,おそらく喫茶(茶道)と喫煙の流行は爆発的に拡がったものと思われる.

オスラー博士の生涯・75

息子リビアの第一線出陣の年(1916年)

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.1442 - P.1446

 1915年には,英国は第一次欧州大戦にますます深くかかわらざるを得ない情勢になってきた.この戦時下にあって,オスラーに期待されることは実に多く,各方面にわたって多彩な活躍をした.そしてとうとう持病をぶりかえし,咳に悩まされながら,12月は寝こみがちであった.この年のクリスマスは,息子のリビアも軍隊から休暇をとって帰宅することができないため,オスラー家にとっては寂しいクリスマスであった.

開業医日誌

レントゲン診断事始め

著者: 西田一彦

ページ範囲:P.1448 - P.1450

高山先生との出会い
 今でこそ,私たちの医師会では開業医の大部分がレントゲン設備を持ち,中にはテレビレントゲンを備えているところも少なくないが,私の開業した昭和32年頃は,ポータブルのレントゲン装置を持つ医院が一軒だけという状況で,胃のレントゲン診断などは開業医の及ぶところではないと考えられていた.
 私が開業してみて驚いたことは,あまりにも手おくれの癌,とくに胃癌患者が多いということであった.レントゲン検査をするまでもなく,触診するだけで腹壁にそれとわかる硬い腫瘤が触れ,すでに腹水の溜っている患者も数多くみられた.開業当初の不安と希望の交錯する毎日の診療の中で,なんとかしなければと思いつつも,ではどうすればよいのかに悩んでいた.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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