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雑誌目次

雑誌文献

medicina17巻1号

1980年01月発行

雑誌目次

今月の主題 心膜疾患の臨床

理解のための10題

ページ範囲:P.82 - P.84

心膜疾患の診断

聴診と心音図

著者: 坂本二哉

ページ範囲:P.12 - P.14

はじめに
 心膜疾患には多種類のものが存在するが1),聴診あるいは心音図(心機図を含む)の観点からみると,摩擦音を主要所見とする線維性ないし線維素・線維性心膜炎,心音減弱を主要所見とする滲出性心膜炎,心膜叩打音を特徴とする収縮性心膜炎,および後二者の中間に位置する滲出性・収縮性心膜炎があげられる.また,そのほかの疾患として,たとえば心膜欠損なども重要であるが,別項に扱われるのでここでは省略する.

心X線—血管造影を含む

著者: 松山正也

ページ範囲:P.15 - P.19

はじめに
 心膜は心臓をとりまく薄い線維性の膜で,同時に大動脈根部,肺動脈幹,上大静脈,肺静脈の一部をも包んでいる.心臓の表面と固く結合した臓側葉(心外膜)とその外側の壁側葉からなり,その間に心膜腔があり,通常少量の心膜液を容れている.壁側葉の下方は横隔膜の腱中心と癒着し,後方は食道および大動脈と,側方は胸膜の心膜部とゆるく結合している.
 単純X線上ではこの心膜は心筋と区別できないが,心膜臓側葉下の脂肪組織が発達した例では,心膜が透過性の脂肪線の外側に1〜2mmの厚さの軟部陰影として認められる.それでも通常の曝射時間での撮影では,心拍による影響で認めがたいが,テレビ透視下では容易に認められることがある.

心電図

著者: 松尾修三 ,   橋場邦武

ページ範囲:P.20 - P.22

はじめに
 心膜疾患では種々の心電図所見がみられるが,とくに心膜炎や心膜腔内液体貯留では特徴ある心電図上の変化がみられ,診断上有用である.
 以下,急性心膜炎,心タンポナーデ,慢性心膜炎の心電図所見について,実例をあげて述べる.

心エコー図

著者: 藤井諄一 ,   久保木正夫 ,   渡辺熈 ,   加藤和三

ページ範囲:P.24 - P.27

はじめに
 心臓をとりまく心膜(visceral pericardium)は腑側心膜と体側心膜(parietal pericardium)より成り立っており,外部からの物理的な刺激や周囲組織からの感染波及から心臓を守り,さらに心臓の過剰な動きや心室の過伸展を防止するなどの役割を有すると考えられている.
 心膜腔には通常,生理的には20 ml前後の心膜液が存在するが,種々の原因による心膜炎や粘液水腫などではしばしば大量の心膜液が貯留し,いわゆる心タンポナーデを呈するに到ることもある.また心膜炎の治癒過程では心膜の肥厚,拘縮を主とする慢性収縮性心膜炎の形をとることも多く,その際,心臓の拡張期充満が著しく障害される.

RI

著者: 香取瞭 ,   金政健

ページ範囲:P.28 - P.29

はじめに
 胸部X線で心陰影の拡大をみた場合,心臓液貯留,心内腔拡大,心筋肥厚,心膜腫瘍などの鑑別が問題となる.心膜液貯留は最近では非侵襲的に心エコー図法で診断することが多くなっているが,それ以前にはRI法により心膜液貯留,心膜腫瘍,心膜腫瘍が原因である心膜液貯留の診断に有用な方法として用いられている.筆者らはRI法により心膜疾患を診断した経験に乏しいので,以下に文献的にこの問題を考察してみたい.

心膜疾患の主な病型

心タンポナーデ

著者: 鈴木茂 ,   新井達太

ページ範囲:P.30 - P.32

定義・血行動態
 心タンポナーデとは,心膜液,血液などの貯留によりその心膜腔内圧が上昇し,このために心臓が圧迫されて正常の心拍出量を維持できなくなった病態をいう1).正常でも心膜腔内には20〜60 mlの心膜液があり2),その内圧は大気圧より数mmHg低く,また胸腔内圧とほぼ同等である.しかし,何らかの原因で心膜腔内圧が上昇すると,図1のごとく心臓,とくに心室の拡張が制限され心室の拡張終期容量は減少する.一方,収縮期容量は不変であるために1回拍出量の減少を生じる.しかし,代償機転として心拍数の増加などがおこり,心拍出量は正常に維持されようとする.しかし,さらに心膜腔内圧が上昇して10mmHg以上にもなると代償不全を招来し,急激に心拍出量の低下,すなわち動脈圧の低下を生じる.この代償不全に陥った病態が心タンポナーデである1)
 したがって,重要なことは,心タンポナーデになるか否かは貯留した心膜液の量の多少ではなく,心膜腔内圧の上昇程度による点である.すなわち炎症性心膜炎などでゆっくり心膜液が貯留するときは1000ml貯留しても,心膜がゆっくり伸展されるために心膜腔内圧の上昇が軽微で心タンポナーデに到らないこともあるし,また反対に外傷などで急激に心膜液が貯留するときは150ml前後の量でも心膜腔内圧が著明に上昇し心タンポナーデになる.

急性心膜炎

著者: 宮里不二彦

ページ範囲:P.33 - P.35

診断のポイント
 急性心膜炎が問題になるのは,主として患者が前胸部痛を訴えるときである.とくに発熱,頻脈,咳,呼吸困難を伴うときには心膜炎を考えて注意深く胸痛の性状を見極める必要がある.一般に心膜炎の痛みは前胸部の肋膜炎様の痛みであるが,鈍痛,圧迫感のこともあり,また前頸部,左上腕部に放散することがあり,心筋梗塞の痛みに似ているので注意を要する.心膜炎の痛みは仰臥位で悪化し,坐位,とくに前傾姿勢で軽減することは非常に特徴的である.また肋膜痛と同様に深呼吸および胸郭の運動で増悪する.
 胸痛の性状から心膜炎を疑うときには,心膜炎に特徴的な心膜摩擦音の聴取に努める.心膜摩擦音は胸骨左縁,第3,第4肋間で聴取することが多く,聴診器の膜部で強く圧迫して聴診する.摩擦音が大きいときには仰臥位でも容易に聴かれるが,明らかでないときには坐位,とくに前傾姿勢で聴診する.心膜摩擦音は二相または三相からなる比較的粗い雑音で,とくに三相からなるときには非常に特異的な音であり,一度聴けば忘れられない音である.心膜摩擦音は聴診器で強く圧迫すると非常に耳に近く聴こえるのが一つの特徴でもある.

収縮性心膜炎

著者: 沢山俊民 ,   鼠尾祥三

ページ範囲:P.36 - P.39

はじめに
 収縮性心膜炎は,種々の原因により心膜が肥厚硬化し,心臓の拡張期充満が制限された状態である.ところで本症以外にも心筋や心内膜が障害されたり,心包内に液の貯留が生じると類似の病態生理を示してくることがあり,これを総称して収縮性心疾患と呼ばれている.そのなかには心タンポナーデ,収縮性心筋症,心アミロイドーシス,心内膜線維弾性症などが含まれる.なかでも収縮性心膜炎は外科手術の対象となるため他の類似疾患との鑑別が大切であるが,必ずしも容易ではない.
 本稿では収縮性心膜炎の特徴について説明し,鑑別診断についてもふれる.

先天性異常

心膜欠損症

著者: 柳沢信子

ページ範囲:P.40 - P.44

はじめに
 心膜欠損症はそれほど多い疾患ではないが,X線上の心陰影の異常から重大な心疾患とみあやまる場合がある.逆に心陰影の異常のごく軽微なときは,本症を知っていないと正常心として見逃してしまう場合もある.したがって,心膜欠損の臨床上の特徴を知っておくことは,心臓の集団検診などではとくに大切なことである.

心膜嚢胞

著者: 稲垣義明 ,   山崎茂

ページ範囲:P.45 - P.47

はじめに
 心膜嚢胞は広く先天性,後天性を含め心膜から発生した,あるいは心膜に付着した閉鎖嚢胞をいい,心膜腔と交通のある心膜憩室,局在性心膜液貯留などは偽嚢胞として分けられる.今回はとくに先天性心膜嚢胞について概説し,一症例を呈示する.

二次性心膜疾患

ウイルス性心膜炎

著者: 河合忠一 ,   琴浦肇

ページ範囲:P.49 - P.51

はじめに
 ウイルス性心膜炎は通常,急性疾患であり,従来特発性心膜炎(idiopathic pericarditis),あるいは急性良性心膜炎(acute benign pericarditis)といわれてきたものの多くがウイルス性であると示唆されるに至り,その頻度は決して稀ではないこと,大部分は心筋炎,少なくとも心外膜下心筋炎(subepicardial myocarditis)を合併することが明らかとなってきた.したがって,ウイルス性心膜炎は多くの場合,ウイルス性心筋心膜炎(viralmyopericarditis)と呼ばれるのが妥当であろう1)
 ほとんどすべてのウイルスが心臓を侵しうる2).なかでもCoxsackie Bウイルスは小児・成人を含めての急性心膜炎,心筋炎の病原として重要な地位を占める3).診断の確定は心膜液や心筋からのウイルス分離が最も直接的であるが,咽頭ぬぐい液または糞便からのウイルス分離ないしウイルス抗体価の4倍以上の変動,あるいはまた患者の咽頭ぬぐい液または糞便から分離されたウイルスの動物接種実験などによってなされるが,これらを臨床例において実施することは多くの点で困難を伴う.またウイルス抗体価の測定といっても,検索できるウイルスの種類は限られているし,ウイルス分離の成功率も現時点では高くない.

結核性心膜炎

著者: 青柳昭雄

ページ範囲:P.52 - P.53

はじめに
 結核症の減少に伴い肺外結核の症例も減少しているが,肺外結核の全結核のなかで占める割合は常に10%前後で,最近はほとんど不変である.わが国では肺外結核のなかでリンパ節結核が圧倒的に多く41%で,次いで尿路,脊椎,骨・関節,髄膜の順になるが,その他の肺外結核が22.2%を占めている.結核性心膜炎はこのその他のなかに含まれており,正確な数は不明であるが,その数は極めて少数であるとされている.
 その頻変は低率であるが,本症は粟粒結核と同じく典型的な像を示さない際には診断困難な疾患の一つであり,かつ早期に診断して早期に治療を行えば痕跡なく治癒せしめ得るものであるから,本症を十分に理解しておくことが必要である.

腫瘍性心膜炎

著者: 中山龍 ,   秋田穂束

ページ範囲:P.54 - P.55

はじめに
 「腫瘍性心膜炎」が正しい表現であるのか,あるいは「炎」という文字を使用しないで,たとえば「二次性心膜悪性腫瘍二のような表現をとるのが正しいのか議論のあるところであるが,内科学用語集(日本内科学会編,改訂第3坂)に「癌性心膜炎」(carcinomatous pericarditis)なる用語の記載があり,1973年L. L. Richの論文にもcarcinoid pericarditisとあるので,本稿においても「心膜炎」を使用することにする.ただしNewYork Heart AssociationのCriteria CommitteeによるNomenclature and criteria for diagnosis(第6版)にNeoplasm of the pericardiumはあるが癌性心膜炎に相当する用語はみあたらない.臨床的には悪性腫瘍心膜転移のほとんどの場合に心膜腔に滲出液貯留を認めるので,むしろ「心膜炎」の表現のほうが実感があるともいえる.腫瘍性心膜炎の場合も他の心膜炎同様,滲出液貯留のあることによって診断が容易になる場合が多い.しかし,心膜液貯留による心陰影X織像の拡大が,腫瘍性心膜炎の臨床所見として特別の意味のあった時代は終わり,現在では超音波による検査法の長足の進歩により,心陰影の拡大が全然認められない時期でも心膜液の貯留を無侵襲的に検出することが可能となった.

全身性エリテマトーデスと心膜炎

著者: 柏崎禎夫

ページ範囲:P.56 - P.57

はじめに
 全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus,以下SLE)は,ヒトにおける最も代表的な自己免疫疾患である.中心となる病像は皮膚・関節・腎臓の障害によるものであるが,漿膜・神経・造血器・肺臓なども侵し,多臓器障害性であることが本症の最も特徴とするところである.
 さて,本症の心病変についてはLibman-Sacks型の症贅性心内膜炎が有名であるが,最も高率にみられるものは心膜炎である.このルプス心膜炎(lupus pericarditis)は多くは多発漿膜炎(polysercsitis)の部分症状として出現するが,時には他の漿膜炎とは別個に独立して発症してくることもある.

尿毒症と心膜炎

著者: 秋沢忠男 ,   越川昭三

ページ範囲:P.58 - P.59

はじめに
 尿毒症性心外膜炎は,結核などの感染症に起因する心外膜炎の頻度が減じた現在では,膠原病,腫瘍性心外膜炎と並ぶ代表的な二次性心外膜疾患である.
 1836年Brightが腎臓病に合併する心外膜炎を報告して以来,多数の尿毒症性心外膜炎の研究がなされ,臨床所見や病理学的変化についてはほぼ明らかにされたものの,その原因については未だ明確ではない.また近年心エコー図の開発により,その診断や治療効果の判定などに威力を発揮している.

粘液水腫

著者: 伊藤敬 ,   尾形悦郎

ページ範囲:P.61 - P.63

概念
 粘液水腫(myxedema)と甲状腺の関係は古くから知られ,すでに1870年代の英国ではこれに伴う全身の浮腫,腹水,胸水に関する報告がある.
 心臓との関係が認められたのは1918年Zondeckがmyxedema heartとしてまとめたのが最初とされている.すなわち,①心拡大,②心音,心拍の減弱,③心拍出量の低下,④低電位などの心電図変化,⑤これらの所見は甲状腺製剤の投与にて改善すること,などである,心血管系の変化は,甲状腺機能低下症が持続,進行し,myxedemaが出現した時点でのみ顕在化するとされ,典型的な症例の診断はmyxedemaとしての特徴ある理学的所見だけで可能であり,表に示される甲状腺機能低下症に伴う一般症状と心疾患の関連を考慮することが大切である.長年他の疾患として見過ごされている場合や,この疾患の特徴として患者本人の訴えが少ないことなどがあり,医師側の責任も大きい.このものの頻度としては,成人では40〜50歳以後の女性に多い.これは症状の顕在化するまでの時間が長いこと(6年以上との報告もある),機能低下症の原因に慢性甲状腺炎がこの年代の女性に多いことも一つの理由であろう.

心筋梗塞後症候群

著者: 安藤譲二 ,   安田寿一

ページ範囲:P.64 - P.65

はじめに
 心筋梗塞後症候群(postmyocardial infarction syndrome)は心筋梗塞発症後,通常2週以後に,発熱,胸痛とともに心膜炎,胸膜炎,肺臓炎などを併発すろ原因不明の症候群である.
 1955年,Dresslerは心筋梗塞発症後2〜14週を経て発熱,胸痛がくり返し出現し,心膜炎,胸膜炎,肺臓炎などの所見を呈する患者に注目し,これらの症状は従来の教科書に記載されている心筋梗塞による心膜炎,心筋梗塞の進展,再発,肺梗塞,心不全などの合併症とは明らかに異なっているとしてpostmyocardial infarctionsyndromeと名づけて報告した1〜3).したがって,本症候群をDressler症候群と呼ぶこともある.

治療

心膜穿刺法

著者: 赤塚宣治

ページ範囲:P.66 - P.67

はじめに
 心膜液貯留を認めた場合に,その原因の究明,治療の目的で心膜腔に何らかの方法により到達し,液の採取,組織の採取,気体の注入,薬物の注入などを行う必要が生じる.心膜腔に到達する方法はblind pericardiocentesisによる方法とdirect pericardiotomyによる方法に大別される.それぞれの方法の歴史的背景,得失に関してはKilpatrickとChapman1)による綜説に詳しく記載されている.
 心膜穿刺法は,19世紀初めから用いられるようになった心膜切開法がしばしば細菌感染の原因となったために工夫されたもので,1840年にウィーンの医師Schuh, F.により施行された第4肋間胸骨左縁からの経路が初めてのものである.その後広くblind pericardiocentesisが用いられるようになり,穿刺部位に関しても種々工夫が加えられた.しかし,心膜穿刺は危険を伴うものであり,外科的に直接切開を加える方法との得失の比較が種々なされてきた.

心膜の外科

著者: 古賀道弘 ,   高木博己

ページ範囲:P.68 - P.69

手術適応および手術方法
 心膜疾患で外科的治療が必要となる場合は,①急性の心嚢内液体貯留,②亜急性および慢性の心嚢内液体貯留,⑨心膜の収縮性病変の3つの場合である.

座談会

心膜疾患をめぐって

著者: 中村芳郎 ,   坂本二哉 ,   浅野献一 ,   太田怜

ページ範囲:P.70 - P.80

 臨床誌で各種心疾患に関する特集は多々あるが,心膜疾患に限ると,日常,割にみられるにもかかわらず,特集は意外に少ない.実際には近年の心エコー図法の進歩により,心膜疾患の診断は飛躍的な前進をみせているし,治療も,心タンポナーデのような重篤な病状を除けば.それほど困難ではなくなってきている.
 そこで,本特集の締めくくりとして,心膜疾患全体を俯瞰していただいた.

胸部X線写真の読み方

正常像

著者: 松山正也 ,   徳田裕

ページ範囲:P.90 - P.96

 胸部X線撮影は,今や機械さえあれば誰にでも行い得るルチンの検査法となっている.しかしその読影となると,誰もが臨床医として満足すべきレベルに達しているかは甚だ疑わしいと言わざるを得ない.系統立った,且つ実践的な教育を受ける機会も少なく,従って重大な病変を見落す危険性も少なくはないと思われる.
 そこで今回より,胸部X線写真をどう読むか,その手順から診断まで,松山先生を中心に,主として若い方々の読影力を引き出すような形で,わかり易く解説していただく.

演習・放射線診断学 CTスキャン読影のコツ・7

胆道系

著者: 荒木力

ページ範囲:P.98 - P.103

はじめに
 胆道の画像診断としては,非侵襲性でスクリーニング検査としての性格の強い従来の胆道造影(経口および静注),超音波検査および核医学検査(99mTc-PI,99mTc-HIDAなど)と,これらの検査で拾い上げられた症例を対象とする直接造影法(経皮胆管造影,内視鏡的逆行性胆管造影,手術的胆管造影)とがある.コンピュータ断層撮影(以下CT)は,その情報量,経済性,便宜性,被曝量などを考慮するとこれら二者の間に位置する検査といえる.
 すなわち,スクリーニング検査において的確な情報を得られなかった場合に,あるいは得られた情報を確認し,直接造影検査の適応と選択とを決定する目的で行われる検査と考えられる.上記のスクリーニング検査,とくに超音波検査から得られる情報は,検査者の技術に負うところが大きい傾向はあるが,総じて満足すべきである.したがってCTの役割は,胆道系に関する限り大きいとはいえないが,その客観性と易読性には捨てがたいものがある.

連載

目でみるトレーニング 35

ページ範囲:P.104 - P.109

プライマリ・ケア

私たちの見たアメリカのプライマリ・ケア(1)

著者: 安田勇治 ,   岩崎靖雄 ,   菊地博 ,   伊藤清次 ,   鈴木荘一

ページ範囲:P.140 - P.149

 鈴木(司会) 私たちプライマリ・ケア学会の有志は,昨年の4月28日から5月9日まで,日野原重明先生の案内で,アメリカのプライマリ・ケアを実践している3っの代表的な施設を見学いたしました.
 1つは,ノース・カロライナ州ダラムにあるデューク大学とそのFamily Medicine Center.次は,ボストン市にあるハーバード大学の教育病院であるBeth Israel病院とHarvard Community Health PlanのCambridgeCenterです.もう1つは,ミネソタ州ロチェスターにあるMayo ClinicとそのCommunity CenterとそのすぐそばにあるOlmsted Group Practiceです.

臨床免疫学講座

I.免疫応答とそれに関与する細胞—細胞性免疫を中心に

著者: 堀内篤

ページ範囲:P.114 - P.119

 最近の免疫学の発達はめざましく,新しい事実が次々に明らかにされ,ますます複雑化している.しかもその大部分はマウスにおける研究であり,ヒトの場合にも同じような現象が起こっているか不明の点が多い,ヒトあるいは疾病モデル動物などについての臨床免疫学的研究は,方法論の点で問題が多く,マウスのようには進んでいないが,ここではなるべく臨床と関係のある免疫現象をとりあげ,できうればその事例をあげて説明したい.とくに免疫学にはたくさんの用語があり,なかなか覚えにくいが,比較的よく用いられているものについて,この講座では主として用語を中心とした解説をすることにする.
 下記の項目(順は前後するかもしれないが)について,12回にわたって,連載する予定である.

Laboratory Medicine 異常値の出るメカニズム・22

LH,FSH

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.120 - P.123

LH,FSHの測定法
 下垂体性ゴナドトロピン(LH,FSH)は,以前はbioassayで総ゴナドトロピン値として測定されたが,RIAでLH,FSHに分別して容易に定量されるようになった.両者はだいたい似たような態度を示すが,病態的に異なった態度も示すので,臨床上は同時に測定されることが望ましい.どちらかというとLHのほうが有用といわれる.
 LH,FSHは種々の薬剤により変動をきたすので測定上注意を要する.エストロゲンにはこれら(とくにLH)を促進する作用がある一方,negative feedbackを抑制する作用もみられる.閉経期婦人では本剤投与で正常レベルまで下降を示し,正常男子でも低値をきたす.また結合型エストロゲンであるプレマリン静注では刺激作用がみられる.clomiphene citrate投与では男女ともLH,FSHの上昇がみられ,この作用点は視床下部と考えられている.

老人診療のコツ

老化は乾燥の過程—脱水を忘れるな

著者: 大友英一

ページ範囲:P.124 - P.128

連載にあたって
 老年者の診療のむずかしさは,"思いのほか"という部分が多く,さまざまな問題が生じてくるところにあろう,老齢化社会を唱うまでもなく,日常臨床で大いに悩まれているであろう場面に参考となるよう,老人の特殊性・診療のコツを,具体例に基づきご解説いただく.
 老人診療の専門家大友氏による下記の12回シリーズの予定(順未定).

図解病態のしくみ 消化器疾患・9

下痢(2)

著者: 松枝啓

ページ範囲:P.130 - P.135

はじめに
 前回は,正常な状態における腸管の病態生理やEnterosystemic Cycleなどについて述べた.これらの状態が種々の原因により障害され,便が1日量200g以上排出される状態を下痢と定義した.この下痢を起こす原因および病態生理を知ることは合理的な治療方針をたてるうえで不可欠であるが,ポイントをおさえた病歴の聴取と,便の性状,脂肪便の有無,便のpHや便中の白血球数を調べるなどの簡単な検査を行うことにより下痢の原因が判明することが少なくない.本号では,これらの種々の原因によって起こる下痢について,以下の項目に従って述べてみる.

新しい栄養学の知識

生体リズムと栄養

著者: 林伸一

ページ範囲:P.136 - P.139

はじめに
 生体のはたらきの中には,一定の周期でリズミカルな変動をくり返すものが多い.心拍動や呼吸のような秒・分単位の周期のものから,睡眠と活動のような日周期,女性の性周期にみられる月周期,さらに開花や冬眠のような年周期の現象まであって,このようなリズミカルにゆれうごく動態こそ生命の本質であるとも考えられるのである.受精から発達,老化を経て死に至る個体の加齢現象も,種の営みという視点からみればリズムとみなすこともできる1)
 1日を周期とするリズムは日周リズム,あるいは英語のサーカディアン・リズムcircadian rhythmを直訳して概日性リズムと呼ばれる.circadianのcircaはおよそ,dianは日の意味である.リズムのなかで最も広くみられ,かつ研究も進んでいるのは日周リズムである.それは,このリズムが,地球の自転による昼夜という環境条件の劇的な周期的変動のもとで生活する生物が長い進化の歴史の過程で獲得してきた適応的機能のあらわれであることを考えれば容易に理解できよう.以下,この稿では日周リズムに限って話を進めるので,単にリズムといえば日周リズムを指すものと思っていただきたい.

目でみる心筋梗塞・1

連続切片からみた冠状動脈血栓

著者: 堀江俊伸

ページ範囲:P.86 - P.87

はじめに
 急性心筋便塞は多彩な臨床症状を呈する重篤な疾患である.本症の発生機序を明確にすることは治療および予防に重要である.
 しかし,これまでの検索では必ずしも本症の発生機序について意見の一政をみていない1,2).これは検索の対象例と検索の方法が異なるためであり,対象例と検索法を明確にしておく必要がある.

天地人

塞翁が馬

著者:

ページ範囲:P.153 - P.153

 ある著書の序文で,「洛陽の紙価を高める」という表現をしたら,若い先生から,屑物屋が儲かったという意味ですか,といわれた.この前の「天」の欄(vol. 16 no. 9p. 1439)で,「塞翁が馬」ということを書いて20代の女性十人に読んでもらったら,十人ことごとくその意味を知らなかった.われわれがごく常識だと思っている漢語の表現も,今の若い人にはまるで外国語で,しかし,そのような人々が読者の大半を占めているとすると,物を書く側はよほど注意しなければならぬと思った.まさしく「頂門の一針」である,とまたまたわれらが世代はすぐに書きたくなるのである.だが,さきの随筆は,塞翁が馬の故事をわかってもらえないと面白くないので,ここに改めてその原典を書いてみることにする.
 辺境にすむ翁が馬を飼っていた.ある日その馬が隣国の胡に逃げてしまった.気の毒だと思っていたら,その馬が胡の駿馬をつれてもどってきた.しかしその翁は喜ばなかったのである.間もなく,その息子が駿馬にのって落馬し,大腿骨骨折をおこして破になってしまった.この禍もやがては幸のもとになる.1年あまり後,胡の軍勢が辺境に攻めこんできた.五体満足なものは徴兵としてかり出され,十人のうち九人は死んだ.息子は跛のおかげで戦にかり出されず,父子ともども生きながらえたというのである.

紫煙考

煙の科学(1)

著者: 浅野牧茂

ページ範囲:P.154 - P.156

●たばこの煙には種類がある
 紫煙考というシリーズであるが,紫煙はたばこの燃焼部分から立ち昇っている煙がそうなのであって,たばこ自体を通過して喫煙者の口腔に達する煙は紫色ではなく白色を呈している.
 たばこ煙を科学的に取り扱う場合に,前者を副流煙(sidestream smoke),後者を主流煙(mainstreamsmoke)と呼んで区別する.喫煙の生体影響を考える場合,これまでは単にたばこ煙といえばこの主流煙を意味するものと考えてさしつかえなかった.しかし,喫煙の健康障害が喫煙者自身にとどまらず,とくに閉鎖的空間で非喫煙者が喫煙者と同席せざるを得ない場合に生ずる生体影響が問題にされるようになり,副流煙の存在が注目されるようになった.

他科のトピックス

医薬品による精神障害

著者: 融道男

ページ範囲:P.158 - P.159

 精神科の外来患者を診断する場合,医薬品によって精神症状を生じている可能性について疑ってみなければならない.一般病院患者を対象とした調査で,医薬品による精神症状発現率は2.8%と算定されている1)

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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