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雑誌目次

雑誌文献

medicina17巻10号

1980年10月発行

雑誌目次

今月の主題 感染症—治療の実際

理解のための10題

ページ範囲:P.1574 - P.1576

抗生物質の基礎知識

蛋白結合率

著者: 深谷一太

ページ範囲:P.1482 - P.1483

はじめに
 すべての薬物は血中・組織中で,それぞれ血清・組織蛋白とくにアルブミンとある割合で結合して存在し,一部は赤血球に吸着していることが知られている.抗生物質も同様であり,遊離型と結合型はある比率を保って平衡状態となっており,血中からの遊離型の消失とともに,結合が離れて次第に遊離状態となると考えられている.
 各抗生物質について,蛋白結合率は一定の数値として表わすことができるが,結合率の測定方法の相違により得られる数値が異なり,また同一方法でも,薬物濃度や用いる血清の動物種によっても異なる.さらに病態下の患者から得られた血清は,健康者血清と同じ値を示さないことがあるなど,きわめて多くの条件の制約をうけている.

薬物動態

著者: 中野重行

ページ範囲:P.1484 - P.1488

効果と薬物動態(pharmacokinetics)
 細菌感染症に対する抗生物質の効果は,一体なにによって規定されているのであろうか? 抗生物質の効果は,第1に細菌感染症起炎菌の抗生物質に対する感受性,第2に起炎菌の存在部位における薬物濃度によって規定されている.ここでは,第2の薬物濃度の問題に焦点を絞って説明をする.
 抗生物質が殺菌作用または静菌作用を発揮するには,あるレベル以上の薬物濃度が必要である.もちろんこの薬物濃度は細菌の種類によって異なる.この抗菌作用発現に必要な最低薬物濃度は,in vitroの実験により求めることができ,殺菌作用を発揮する最小有効濃度はMBC(minimal microbicidal concentration),静菌作用を発揮する最小有効濃度はMIC(minimal inhibitory concentration)とよばれている.これらの値はin vivoにおける抗生物質の効果をあげるために,投与量と投与法を決定するための有益な手がかりになる.

抗生物質の使い方

えらび方

著者: 清水喜八郎

ページ範囲:P.1490 - P.1491

はじめに
 抗菌剤の選択といっても,原則的にむずしいことはない.つまり,①原因菌の決定,②感受性試験,③薬剤の特性(病巣部位への移行など),④重症度,⑤宿主側要因,⑥副作用を考慮して選択することが原則である.

使用量・使用期間

著者: 斎藤玲

ページ範囲:P.1492 - P.1493

はじめに
 感染症治療における抗生物質の役割は,感染病巣における病原菌を除去することである.そのため,薬剤選択の条件として,病原菌に対して強い抗菌力を有し,かつ感染病巣への移行がよい薬剤を選択しなければならない.さらに感染病巣においては病原菌の増殖阻止,および死滅させるに必要な有効濃度がなければならない.現在,多くの抗生物質が使用されているが,有効量,中毒量,体内動態などから,それぞれの使用量が呈示されている.しかし,その使用量を,どのような方法で投与するかによって治療効果に差がでてくる.たとえ使用量を増加しても,使用方法に不備があれば治療効果をあげることはできない.ここでは抗生物質の使用方法,使用量,使用期間などについて,一般的な考え方について述べる.

臓器障害のあるとき

著者: 小林譲

ページ範囲:P.1496 - P.1499

はじめに
 細菌感染症の治療は,病巣の部位,病原微生物の種類および薬剤に対する感受性が明らかな場合は,抗菌力があり,かつ病巣がある臓器・組織への移行がよい薬剤を用いることが原則である.すなわち,正しい診断に基づいて,最も適切と思われる抗生物質を用いるが,単に試験管内で抗菌力が強いというだけでなく,薬剤の吸収,排泄,血中濃度,臓器移行性,持続時間などをよく理解して用いることによって,十分な効果が期待できる.
 さらに,実際の使用にあたっては,薬剤の治療効果とともに副作用に対する配慮も大切である.薬剤側からは,大量・長期間使用するほど副作用は起こりやすく,利尿剤や血漿増量剤との併用によって増強される場合がある.他方,生体側では,腎・肝・心などに障害がある場合に注意が必要で,とくに腎障害の場合に重篤な副作用をきたしやすい.

起炎菌別の対策

真菌症

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.1500 - P.1501

問題となる真菌症
 約5万から20万種もの真菌が存在しているが,たかだか100種類くらいの真菌が人間に感染を起こすものといわれている.一般に真菌による感染症はつぎのように4群に分けられる.
 1)全身性(または深在性)真菌症
 2)皮下組織にみられる真菌症
 3)皮内にみられる真菌症
 4)表在性真菌症
 内科的にもっとも問題となる全身性真菌症は,土中に存在している真菌の胞子を吸入することによって感染がはじまる.したがって初期感染像は肺にみられ,これらはよく細菌性肺炎やウイルス性肺炎と区別が困難なことが多い.また,これらの肺炎像はさらに,慢性経過をとることもみられる.さらに,真菌は肺から血液を介して全身へ拡がり転移性病院をつくっていく.

無芽胞嫌気性菌感染症

著者: 小林章男 ,   菅野治重

ページ範囲:P.1502 - P.1504

はじめに
 嫌気性菌感染症では,菌体外毒素により重篤で特徴のある症状を呈するガス壊疽菌,破傷風菌,ボツリヌス菌などのグラム陽性有芽胞嫌気性桿菌が以前より病原菌として知られていた.
 近年,本来非病原性で人体の正常細菌叢を形成している無芽胞嫌気性菌(以下嫌気性菌と略す)が,分離培養法の発達によって臨床材料より高頻度に分離されてきている.これらの菌は弱毒菌であり,好気性菌やそのほかの嫌気性菌と協力して病原性を発揮していると考えられている.

ウイルス感染症

著者: 武内可尚

ページ範囲:P.1505 - P.1507

 ウイルス感染に対する対策にも,種痘の普及徹底からついに痘そうを根絶せしめえた例のように,グローバルな視野からの対策と,先天性にしろ後天性にしろ,免疫不全にある個体がウイルスに暴露されたときの対策といったように,ピンからキリまである.
 ヒトにかかわりをもつウイルスは,現在知られているだけでもおそらく300以上はあろう.これらのウイルス感染のすべてがわれわれに問題となるとは限らないが,主要なウイルスに対しても抗ウイルス薬はほとんど存在しない.ウイルスは宿主細胞の代謝サイクルに便乗して増殖するので,仮に試験管内で殺ウイルス的に作用する薬剤が見出されたとしても,それが生体にとって安全であると期待することはきわめて困難である.一方,多くのウイルス感染症は急性病原体消滅型の感染形式をとり,あとには強弱さまざまの免疫を残す.感染形態が重症化することのあるものに対しては,γグロブリンによる受動的予防やワクチンによる能動的予防を考えるとか,それほど重篤な形をとらないものでは,もっぱら対症療法により嵐が過ぎ去るのを待つとか,細菌合併症の予防ないしは治療に中心がおかれる.これらの対策を表1をにまとめてみた.少しく言及すれば.教育というのは一般市民への啓蒙のことを意味するのみならず,医師自身の個々のウイルス感染症に対する理解を深めることがなによりも大切である.

寄生虫症

著者: 大友弘士

ページ範囲:P.1508 - P.1511

わが国における変遷
 厚生行政年次報告書として刊行されている厚生白書でみるかぎり,わが国の寄生虫浸淫率は近年著しく減少したといっても過言ではあるまい.しかし,これは第2次大戦後猖獗をきわめた回虫,鉤虫など,ヒトを固有宿主とする腸管寄生虫症や,積極的な撲滅対策の推進によってその流行に終熄がみられた日本住血吸虫症および糸状虫症など特定の寄生虫症についていえる現象である.これに対して,鞭虫症はいまなお流行地域が少なからず存在するし,嶢虫症もその感染経路が家族生活,保育園・幼稚園,幼稚園などの幼児施設,小学校の集団生活と密接に関連しているため,著しい減少傾向はみられないほか,最近10年以上もの間患者発生や宮入貝棲息の報告がなかった千葉県利根川流域の河川敷に,日本住血吸虫の人体および乳牛への寄生や感染貝が検出されるなど,全般的にみた場合,わが国の寄生虫症の現状はいまなお幾多の問題を残し,軽視を許さないものがある.
 一方,最近における食品流通機構の改善に伴う食生活の変化は食物を通して偶発的に感染する寄生虫症を広域化し,ペットブームは動物由来の寄生虫感染の増加を招来しつつある.さらに,世界保健機構(WHO)と国際食糧農業機構(FAO)は103の病原体を病因とする80疾患を包含する人畜共通感染症(Zoonoses)をとりあげ,そのなかで人畜共通の寄生虫症を重視している.

小児感染症としてのマラリア

著者: 大友弘士 ,   日置敦巳

ページ範囲:P.1512 - P.1515

はじめに
 マラリアは感染性の高い疾患で,全世界人口のおよそ1/2を占める16億人以上が感染の危険に曝露されているといわれており,年間1億2,000万人に達する発症者があるものと推定されている.とりわけ,holoendemicな地方では,幼小児における直接死因の5〜15%を占め,100万人に及ぶ犠牲着を数えるなど,世界的にみればきわめて重要な小児疾患の1つである.

リケッチア感染症

著者: 橘宣祥

ページ範囲:P.1516 - P.1517

はじめに
 現在わが国でみられるリケッチア症にはつつが虫病と腺熱リケッチア症がある,なかでもつつが虫病は,ここ数年患者の発生が増加する傾向にあり注目されている.しかも,少数ではあるが死亡例の報告もみられることは,適切な診断と治療が要求される感染症の1つであることを示している.
 腺熱リケッチア症は,Rickettsia sennetsuを病原とし,伝染性単核症と同様の症状を示し,西日本で散発的に発生する疾患であり,感染経路や発生状況について現在も検索がつづけられている.予後はおおむね良好で,治療はつつが虫病に準じて行われる.したがって,ここではつつが虫病の治療を中心に述べる.

クラミジア感染症

著者: 徐慶一郎

ページ範囲:P.1518 - P.1519

クラミジアの概念
 クラミジアは,PLT群すなわちオウム病Psittacosis,鼠径リンパ肉芽腫症Lymphogranulomainguinale,トラコーマTrachomaなどの病原体である.
 以前には,大型ウイルスとよばれていたこともあるが,いろいろな性状がウイルスとも細菌とも,またリケッチアとも異なっており,現在ではクラミジアグループとして独立した病原体群として分類され,ユニークな存在になっている.

性病

著者: 岡本昭二

ページ範囲:P.1520 - P.1521

梅毒
 頻度とトレポネーマの薬剤感受性 わが国の梅毒は昭和22〜23年ごろの第2次大戦直後の大流行以来,急激に減少している.昭和40年を中心とする小流行があったが,近年では散発的に顕症梅毒の発生がある程度である.厚生省の伝染病および食中毒統計1)によると,梅毒の届出患者数は昭和25年に121,464名であったが,昭和52年には3,026名に減少している.
 米国においても,ペニシリンが治療に用いられるようになった1950年代には梅毒症例の急速な減少があったが,1960年代より第1期・第2期梅毒の症例が増加しはじめ,1970年代には第1期・第2期梅毒届出症例は20,000名を前後している.

臓器感染症の治療法

脳炎・髄膜炎

著者: 高瀬貞夫 ,   中村正三

ページ範囲:P.1522 - P.1524

はじめに
 脳炎・髄膜炎の病原体にはウイルス,マイコプラズマ,リケッチア,細菌,原虫および寄生虫があり,その病理像は化膿性,漿液性,肉芽腫性などさまざまで,発症経過もまた急性,亜急性,慢性などと多様である、したがって治療にあたっては血液-脳関門の存在による薬剤の髄腔内移行への難易を考慮した上で,適切な時期に的確な薬剤の投与が望まれ,さらにこれらの疾患では患者の予後を大きく左右する意識障害,痙攣,高熱,体液異常や肺炎,尿路感染など多くの合併症がみられ,対症療法もまた重要な問題である.本文では比較的頻度の多い疾患の治療について述べる.

扁桃炎・副鼻腔炎・中耳炎・外耳炎

著者: 古内一郎 ,   馬場広太郎

ページ範囲:P.1526 - P.1527

扁桃炎
 急性扁桃炎は感冒などの上気道炎に併発しやすい.病型はカタル性,濾胞性,腺窩性に分類されるが,Waldyer咽頭輪への炎症波及によって,それぞれアンギーナをつけて呼称される.起炎菌はどのタイプもレンサ球菌,ブドウ球菌,肺炎球菌などであるが,βレンサ球菌による場合は症状が強い.
 しかし,in vitroの陰窩内細菌培養では,多種の細菌が検出されグラム陰性桿菌などの咽頭常在菌の関与も考慮しなければならない.

肺炎

著者: 松本慶蔵

ページ範囲:P.1528 - P.1530

はじめに
 最近,肺炎・気管支炎による死亡率が上昇し,一時期比較的軽視された感染症,とくに肺炎を中心にした呼吸器感染症に再び関心が高まっている.その理由として,肺炎では重症肺炎,難治性肺炎の増加があげられ,感染をうける宿主,抗生剤の開発と使用に基づく菌交代,老人の増加などがその背景1)をなしている.本稿においては,治療の実際の場での検査のすすめ方,起炎菌未定のまま抗生剤を使わなければならないときの,抗生剤をはじめとした抗菌剤選択の基準,投与法,投与量,期間などを具体的に述べる.

肺結核

著者: 青柳昭雄

ページ範囲:P.1531 - P.1533

はじめに
 肺結核の治療の原則は一般療法,化学療法,外科療法の3つの柱より成り立っていたが,大気,安静,栄養の一般療法は治療効果の面での評価がうすれている.外科療法の適応も,純粋な肺結核症では化学療法のみでは菌陰性化せず,肺機能的に手術可能な症例に限られ,その頻度もかなり減少している.
 したがって,現在肺結核治療の主流は化学療法であり,初図治療では適当な抗結核薬が副作用なく投与されれば,100%の菌陰性化が得られるようになっている.しかしながら,実際には必ずしも全例が菌陰性化を示していない.

細菌性心内膜炎

著者: 雨宮武彦

ページ範囲:P.1534 - P.1536

はじめに
 細菌性心内膜炎(bacterical endocarditis)とは,心内膜とくに弁膜,時には心臓に近い大血管内膜に細菌集簇を含む病巣があり,菌血症をはじめとして血管栓塞,心障害など多彩な臨床症状を呈する自然治癒傾向のない全身疾患である.なお真菌などによる心内膜炎を含め,一括して感染性心内膜炎(infective endocarditis)とも呼ばれる.
 経過上,急性細菌性心内膜炎(ABE)と亜急性細菌性心内膜炎(SBE)とに分けられる.頻度はSBEがはるかに多い.ABEは数日より数週の経過であり,ほかの感染巣よりひきつづき急激な発症,重篤な経過で,臨床症状は敗血症の像をとる.無疵な弁を侵し,病理像はE. ulcerosaである.起炎菌は黄色ブドウ球菌のような毒力の強い菌が多い.これに反しSBEは通常基礎に心疾患があり,発症進展は緩慢で経過は2〜3カ月以上,弱毒菌が主で緑連菌が大半を占める.心内膜には細菌集簇巣が含まれる器質化血栓(疣贅verruca)がみられ,E. ulceropolyposaである.しかしABE,SBE両者には根本的な相違はなく,もちろんどちらともいえない症例もある.要するに生体の防御力と起炎菌の毒力の相関により決まる.

急性胆のう炎・胆管炎

著者: 佐藤寿雄 ,   高橋渉

ページ範囲:P.1537 - P.1539

はじめに
 急性胆のう炎・胆管炎などの急性炎症合併例は,胆石症手術成績不良群のひとつである1).急性胆のう炎・胆管炎では急性期に手術を行うと副損傷を起こしやすく,炎症の進展を刺激して経過を不良にするなどの理由から,間歇期に手術を行うほうが合理的であると考えられる。適切な化学療法を中心とした保存的療法を行えば,通常2週間以内に急性炎症は消褪するものである。この時期まで待てば十分に検査もできるようになるので,安全に根治手術を行うことができる.

消化管感染症

著者: 大貫寿衛

ページ範囲:P.1540 - P.1541

はじめに
 感染性腸炎治療の第1は脱水対策で,第2が除菌である.ことに小児,老人,重症例では補液が重要で,脱水の程度,心疾患などの合併症の有無によって補液量を増減する.電解質に注意することが大切だが,成人では大量補液を要するほどの症例は少ない.補液の詳細は省略し,以下の本稿では抗菌剤の投与に関して述べる.

尿路感染症—とくにその捉え方

著者: 大澤炯

ページ範囲:P.1542 - P.1547

特徴
 解剖学的条件 尿路は気道と同様,腎や前立腺内まで樹枝状に分岐する内腔をもち,その感染発症のメカニズムとその後の経過には,管腔システムの狭窄,閉塞,拡張,さらには腫瘍や結石,留置カテーテルなど,異物の存在が細菌寄生の足がかりとなるので,形態による影響が大きい.
 尿路系では,つねに流下流出をつづけるべき尿が介在し,上記諸条件による尿の停滞は,ただちに恰好の細菌培養地を提供することが,ほかにみられない特徴となっている.

その他の治療法

compromised hostにおける治療

著者: 高橋隆一

ページ範囲:P.1550 - P.1551

 原疾患およびその治療などによって感染に対する抵抗性の減弱した患者を,compromised hostという.したがって合併する感染はいわゆる日和見感染opportunistic infectionが多い.compromisedhostの状態は各種の疾患に認められるが,ここでは代表的疾患である白血病,悪性リンパ腫などを中心に述べてみたい.

好中球輸血

著者: 飯塚敦夫

ページ範囲:P.1552 - P.1554

はじめに
 悪性腫瘍の治療として強力な化学療法を行う場合,感染症の治療が重要な課題となっている.従来から,好中球減少時の感染症に対して大量の抗生物質療法が行われてきた.しかし,抗生物質の大量投与によっても感染症を抑えることができない場合,好中球輸血が必要になってくる.最近,諸種の血球分離装置の開発により,大量の好中球採取が可能となり,好中球輸血が臨床的に応用されるようになってきた.
 ここでは,筆者らのこれまでの好中球輸血の経験をもとに,好中球輸血の概要を述べてみたい.

γグロブリン製剤

著者: 藤井良知

ページ範囲:P.1556 - P.1558

はじめに
 動物を免疫して得た抗血清で,難治感染症を制御できるようになったが,異種動物の血清蛋白のための血清病対策に苦しみ,ヒト血清蛋白中の抗体に関心が移っていったのは当然であろう.異種動物より作製されたジフテリア,破傷風ならびに蛇毒素に対する抗毒素血清はまだ使用されているが,ここでは触れない.
 Cohnの血漿蛋白第II分画にγグロブリンが集まり,そこに大部分の有効抗体があることが明らかになってから,この分画をとり出したヒトγグロブリン(IgG)製剤が使用されるようになった.ある疾患の回復期血清,あるいは能動的にヒトを免疫して得た血清から,高度免疫IgG製剤が能率よく作製される.

座談会

新しい感染症

著者: 清水長世 ,   大友弘士 ,   藪内英子 ,   中村毅志夫

ページ範囲:P.1560 - P.1572

 新しい感染症といっても,そのなかには,まったく新しく発見されたもの,最近見直されてきたものなどいろいろある.いずれも外来で頻繁に遭遇するものではないが,知っていなければ重大な結果を招くものである.そこで本座談会では,輸入感染症,日和見感染症などを中心に,現況,注意事項,検査施設,第1選択薬などにつき具体的にお話しいただいた.

胸部X線写真の読み方

先天性心疾患(2)

著者: 松山正也 ,   原典良

ページ範囲:P.1580 - P.1587

 松山 今回は先天性心疾患のうち,とくに上縦隔に異常陰影をきたしうる疾患を中心に,話を進めたいと思います.

演習 放射線診断学 神経放射線学・4

脳血管障害(3)—クモ膜下出血(動脈瘤と動静脈奇形)

著者: 古川宏起 ,   前原忠行

ページ範囲:P.1588 - P.1594

 クモ膜下出血というのは一つの病態を示しているにすぎず,的確な診断名とはいえない.その原因を追求してこそはじめて診断に到達しうる.クモ膜下出血をきたす最も代表疾患は脳動脈瘤,脳動静脈奇形,高血圧,脳動脈硬化性疾患である.そのほか,頻度は少ないがモヤモヤ病,脳腫瘍,頭蓋内感染症,全身血液疾患などもその原因疾患となりうる.
 クモ膜下出血の原因を追求する上で,放射線検査は重要な地位を占める.ここでは脳動脈瘤,脳動静脈奇形を中心に,放射線検査の進め方,診断法について述べることにする.

プライマリ・ケア

地域医療を考える(2)—上郷健康センターの活動に学ぶ

著者: 宮原伸二 ,   本田三郎 ,   永井友二郎

ページ範囲:P.1622 - P.1625

どんな活動を
 永井(司会) それでは,上郷健康センターの文化活動の具体的な内容をご紹介いただけますか.
 宮原 まず夏の健康祭,それから冬にやる文化祭,あとは新聞発行,サークルづくりがおもです.

臨床免疫学講座

補体とその異常

著者: 堀内篤 ,   長谷川広文

ページ範囲:P.1596 - P.1600

補体とは
 補体complementとは抗原抗体反応がひきがねとなって,その後に続いて出現してくる血清中の糖蛋白質であって,いろいろな免疫現象と深いかかわりをもっている.現在までに15の因子が発見されており,一定の順序で活性化されるのが特徴である.活性化の経路としてclassical pathwayとalternative pathwayが知られている.
 補体因子の名前はWHOの委員会で決められており,反応順に第1,第4,第2,第3から第9因子までをC1〜C9の記号であらわすようになった.現在確認されているヒトの補体因子を表に示した.

Laboratory Medicine 異常値の出るメカニズム・31

バゾプレシン

著者: 屋形稔 ,   鴨井久司

ページ範囲:P.1602 - P.1604

バゾプレシンの測定法
 人体の抗利尿ホルモン(ADH)であるバゾプレシンは,アルギニンバゾプレシン(以下AVP)とも呼ばれ,その血漿AVPの測定法には,生物学的方法とラジオイムノアッセイ(RIA)がある.生物学的方法は繁雑であること,非特異的であること,感度が悪いことなどの理由から,感度が良く,特異性の高いRIAが最も信頼され用いられている.RIAでも血漿AVPを測定するには,どの抗体も血中の非特異的物質と交叉反応をすることから,必ず抽出操作が必要である.
 尿中AVPの測定もRIAで行われるが,信頼性に乏しい.また血中濃度は微量であり,高感度の抗体を必要とすること,抗原が不安定な物質であることから,いまだキット化されておらず,一部のラボラトリーのみで測定されている、鴨井による高感度抗体を用いたRIA法の血中正常値は0.5〜5pg/mlの範囲である.

老人診療のコツ

ぼけの対策(1)—ぼけはなぜ起こるか

著者: 大友英一

ページ範囲:P.1606 - P.1609

 高年齢化とともに老年者のぼけ(老年痴呆)は,精神科,神経内科をとわず,老年者を扱うすべての分野で大きな問題となりつつあり,一般内科医もある程度まで関与せざるをえなくなってきている.

外来診療・ここが聞きたい

高尿酸血症の及ぼす影響

著者: 佐々木智也 ,   西崎統

ページ範囲:P.1610 - P.1614

症例
 患者 U. K. 48歳 男性 建設会社勤務(営業)
 現病歴 数年前から,血圧がやや高いとのことで塩分制限を続け,定期的に血圧測定を受けている.とくに薬の服用はしていない.約3カ月前の会社の検診にて,高尿酸血症(uric acid 8.7mg/dl)を指摘され来院した.
タバコ:20本/日,アルコール:ビール1本/日

臨床講座=癌化学療法

悪性リンパ腫の化学療法

著者: 堀越昇 ,   小川一誠

ページ範囲:P.1616 - P.1619

はじめに
 悪性リンパ腫は,ホジキン病Hodgkin's Lymphoma(HL)と,これ以外のnon-Hodgkin's Lymphoma(NHL)に病理学的に大別されている.両者の比率は,欧米でのHL 1:NHL 1.5に対し,わが国ではおよそ1:5と,NHLが圧倒的に多い.
 NHLは病理学的に亜分類がなされ,細網肉腫・リンパ肉腫の分類から,Rappaport1)のnodular・diffuseの2つのパターンに大別し,さらにそのおのおのを,lymphocytic(well,poorly diferentiated),histiocytic,およびmixed typeに分ける分類(表1),さらに近年ではリンパ系腫瘍細胞の表面形質の免疫学的な新たな研究に基づく分類がいろいろ提唱されており,わが国からも新分類案がだされている、臨床側からは,はやく国際的な病理組織学的分類が決められ,それが予後や治療成績を反映するものであることが望まれる.いまのところは,Rappaport分類を基にした治療成績が発表されている.

medicina CC

小児科から出血傾向を有する45歳男の例

著者: 久藤文雄 ,   赤塚祝子 ,   畑隆志 ,   高橋隆一

ページ範囲:P.1626 - P.1636

症例 N. T. 45歳,男,電力会社作業員
 主訴 皮下出血
 現病歴 小児期から軽度の打撲によって皮下出血を起こしやすかった.昭和43年抜歯後3日間出血の続いたことがある.昭和48年左下肢の打撲後大きな血腫を認めたことがある.昭和50年になって上下肢の皮下出血が出没し,歯肉出血を認めるようになったため,昭和50年2月17日A病院に入院した.

天地人

女性と美しさ

著者:

ページ範囲:P.1643 - P.1643

 数年前の週刊誌に,美容院で男性美容師にヘアスタイルを指定した若い女性が,「ブスには似合わない」といわれて告訴に至った事件を扱った記事があった.美容師がとくに男性であったのと,女性が検査技師という点が興味があった.検査室という職場は,女性の柔かい雰囲気とはほど遠い硬質のものである.美容などにも気を配る余裕のないコンプレックスもあったのかもしれない.一方,大威張りの水商売の女性や奥さん連中の機嫌を始終とっていなければならない男性美容師にとって,あまり自信のなさそうな若い相手は,うっぷん晴らしのいい吐け口であったのであろう.いずれにしろ双方ともに鬱屈した立場の者同志の衝突のようである.
 それはともかく,女性にとって容貌をよくみせるのはお金の次くらいに大切らしく,高価な化粧品は飛ぶように売れるし,街角に美容院は濫立している.こんなところの男性美容師になったら,暇をもて余した奥さん族のトリすました態度に似合わぬ品のない会話,赤裸々な欲望むき出しのホステス族など,女性研究の絶好の場であろうと空想することがある.

オスラー博士の生涯・87

オスラーの宿病との闘い(1919年)

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.1644 - P.1648

 オスラー博士夫妻は,1919年の夏には,イングランド南部の聖ブレレイド湾の海の家で約5週間を過した.夫オスラーを案じての夫人の配慮からである.ここでオスラーは失った21ポンドの体重をとり返えした.
 しかし,9月に入ってオックスフォードへの帰途かぜを引き,帰宅してから熱が出始め,しつこい咳の発作で悩まされる日が続いた.
 ギブソン医師の往診を受け,また,看護婦も一人付添うことになった.

他科のトピックス

リウマチの極低温運動療法

著者: 山内寿馬 ,   三浦和也

ページ範囲:P.1620 - P.1621

はじめに
 慢性関節リウマチ(以下RA)は関節病変を主とした全身性の慢性・進行性の炎症疾患といえるが,その原因は不明である.
 RA患者が高度の身障者へ進行するのは炎症・疼痛による運動器の可動制限と安静による内臓機能の衰えが最大の原因と考えられる.

紫煙考

タバコと血流

著者: 浅野牧茂

ページ範囲:P.1638 - P.1641

 ●喫煙の急性心臓・血管作用とニコチン 喫煙時には,喫煙者本入の自覚の有無にかかわらず,かなり著しい心臓・血管系機能の変化が起こる.これは主としてタバコ主流煙中から吸収されたニコチンの作用によると考えられている.図1のように,1),シガレット喫煙時の血中ニコチン濃度変化と,心拍数および血圧の変化の平行関係,およびこのシガレット主流煙中ニコチン量と対応する量のニコチンを,喫煙ペースに合わせて分割静注した場合の同一各指標変化の平行関係が調べられており,少なくともニコチンが主役を担っていることは確かである.
 吸収されたニコチンは末梢自律神経系の神経節に作用し,その末梢の支配臓器に刺激効果を現わすが,心臓、血管系機能では,一般に交感神経刺激効果で心拍増加,血圧上昇のほか,心拍出量,1回拍出量,心収縮速度,心筋収縮力,冠血流,心筋酸素消費,不整脈発生,心電図変化などが増加すると報告されている2).このような急性作用は,もちろん,主流煙中のニコチン量の多少あるいは有無によって強さが異なる.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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