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雑誌目次

雑誌文献

medicina17巻11号

1980年11月発行

雑誌目次

今月の主題 高血圧症—最近の動向と展望

理解のための10題

ページ範囲:P.1738 - P.1740

成因と病態生理

遺伝

著者: 家森幸男

ページ範囲:P.1660 - P.1661

 ヒトの本態性高血圧の発症に遺伝素因が関係することは,さまざまな研究により明らかにされてきた.しかし,血圧そのものがさまざまな生理的,生化学的要因で左右されることからも,高血圧が複雑な遺伝・環境相関で決定されることは当然で,ヒトにおける高血圧の遺伝の研究には自ら限界があるといえる.
 一方,選択交配によって高血圧を自然発症する実験動物の系統が成立したことから,遺伝により高血圧が惹起されるという確証が得られ,さらに遺伝機構や主遺伝子数などヒトでは分析が困難だった高血圧の遺伝の研究も急速に進歩をとげた.

食塩

著者: 竹下彰

ページ範囲:P.1662 - P.1663

はじめに
 高血圧患者の治療上,食塩摂取量の制限がきわめて重要であることは衆知のことである.しかし,食塩と高血圧の関係は単に治療上重要であるというだけではない.食塩摂取は本態性高血圧の成因にも関与している可能性が示唆されている.なぜなら,地域社会における本態性高血圧症の発生頻度は,その地域における平均食塩摂取量と有意の相関を示すことが明らかにされており,さらには,食塩負荷による血管抵抗・血圧の上昇は,高血圧素因がある場合にのみ,みられることが明らかにされてきたからである.

中枢神経系—調圧神経の中枢反射機序

著者: 中村圭二

ページ範囲:P.1665 - P.1669

はじめに
 この数年間にカテコーラミン(CA)ならびに20を超える中枢ペプチド・ニューロンの局在分布が明らかにされ,その受容体の性格も明解にされつつある.従来からの中枢電気生理学的な成果の上に,もっと具体的に中枢神経系路が語られる現況である.
 正常血圧の発生と維持は,総末梢血管抵抗と心拍出量によりほぼ決定されている.この両者に対する中枢神経系の関与の程度は未だ不明な点が多い,しかし正常血圧の変動は,圧受容体を経由する調圧神経の中枢反射機序によりminimizeされている.この調節能力を超える場合には血圧は上昇し,昇圧が持続すれば心血管系を器質的に変化させ高血圧状態を維持すると考えられる.したがって本稿では,主に圧受容体の反射について,その調圧神経系の中枢機序を中心に紹介したい.

カテコールアミン・交感神経系

著者: 三浦幸雄

ページ範囲:P.1670 - P.1671

 生体の血液循環系には,神経性や体液性の精密な調節機序が存在し,組織灌流が適切に維持されている.高血圧は循環系の機能的な異常であり,その成因や病態生理の解明にこれら調節系の動向がまず問題となるのは当然のことと思われる.中でも神経性機序は最も基本的な調節系として古くから注目を集め,広範な検討が加えられてきた.本稿では,主として臨床的な立場から,高血圧の成因と交感神経系との関係について私見をまとめてみたい.

レニン・アンジオテンシン系

著者: 笹栗学 ,   荒川規矩男

ページ範囲:P.1672 - P.1673

はじめに
 レニンは腎糸球体輸入細動脈上皮より血中に分泌され,血漿蛋白のα2グロブリン中に含まれるレニン基質を水解して不活性型のアンジオテンシンⅠ(AⅠ)を作る.AⅠは循環中に,主に肺において変換酵素によって活性型のアンジオテンシンⅡ(AⅡ)を生成する,活性というのは,血管収縮作用とアルドステロン分泌作用である.これをレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系と称している.このレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系に関する最近のいくつかの新知見を概略紹介する.

カリクレイン・キニン系,プロスタグランディン

著者: 阿部圭志

ページ範囲:P.1674 - P.1677

はじめに
 カリクレイン・キニン(K-K)系やプロスタグランディン(PG)は生体内の臓器で広く産生遊出される降圧物質で,腎に作用して水・Naの排泄を促進させたり,昇圧系のレニン・アンジオテンシン・アルドステロンと密接な相互関係をもっていることも明らかにされ,このような作業を介して血圧調節に関与しているのではないかと考えられている.

内分泌因子

著者: 竹田亮祐 ,   森瀬敏夫

ページ範囲:P.1679 - P.1681

はじめに
 高血圧症の成因に関連する内分泌因子のうち,視床下部-下垂体系機能およびステロイドホルモンについて,主として実験動物で得られている知見をとりあげ,ヒトにおける高血圧の臨床で対応するような病態が認められるかどうかについて述べる.

血行動態

著者: 柳沼淑夫

ページ範囲:P.1682 - P.1683

 日常臨床においてわれわれは収縮期血圧(最高血圧),拡張期血圧(最低血圧)を測定しているが,ともすれば,拡張期血圧が高ければ,収縮期血圧,平均血圧が低くても抵抗血管の収縮が起こっていると考え,拡張期血圧が低ければ,どのような原因であれ血管拡張があり末梢血管抵抗が低下していると思ってしまいがちである.血圧を構成する主な因子は心送血量(または1回心拍出量)末梢血管抵抗,動脈(主に近位動脈)壁の伸展性だといわれている.しからばこの3者がどのように影響し合って血圧を決定しているのであろうか。本稿では,高血圧における動脈系の血行動態に与える変化と,心臓との関係に主眼を置いて解説することにする.

診断

高血圧診断法の最近の進歩

著者: 田中敏行 ,   池田正男

ページ範囲:P.1684 - P.1685

診断の基本方針
 高血圧の診断の第1歩は,各種の検査法が発達した現在でも,血圧計により血圧を測定することに始まる.疫学調査は血圧値の連続的な分布を示しており,高血圧と正常血圧との区別は人為的にならざるを得ないが,WHO専門委員会報告1)では,収縮期圧で160mmHg以上,拡張期圧で95mmHg以上のいずれかを満たすものを高血圧と定義している.この場合,少なくとも3回の血圧測定に基づいて高血圧の診断を下すことに留意すべきである.しかし血圧は1日の内でも刻々と変化する,いわゆる日内変動を有し,また血圧計の普及に伴って家庭での血圧測定が次第に行われるようになるに従い,医師が診療施設で測定する血圧と家庭血圧とが必ずしも一致しない点が指摘されてきて,どの時点の,どのような環境の血圧値を高血圧の指標とするかという新たな問題が生じてきた.本号でも,このトピックに関する解説が行われている.
 高血圧の診断にとって重要であるのは,血圧の高さのみでなく,患者の予後の判定,治療方針の決定などに密接に関連した,主要臓器障害の程度,すなわち重症度の評価である.この目的のため,いくつかの診断基準が提唱されているが,本邦ではWHO専門委員会報告1)の3病期に分ける分類と,東大3内科高血圧研究会の基準が広く使用されている.

血圧の経時的測定法と連続的測定法

著者: 栃久保修 ,   野田和正

ページ範囲:P.1686 - P.1688

はじめに
 高血圧症の診断基準として,現在WHOの分類,随時血圧が160/95mmHg以上というのが多く用いられている.1978年WHO専門家委員会の報告では,健常と高血圧との間には明らかな境界線がないこと,また3回以上の血圧を2回は異なる時点で測定して決める必要があるとしている.すなわち高血圧症の診断基準は疫学的に人為的に決定され,胃潰瘍や癌などの病気のように病理組織的な根拠のもとに診断されるものではない.臨床家が時として困ることは,ある個人において,この随時血圧が1日の内で大きく変動し,環境やそのときの精神状態などで異なる値を示すことである.
 各個人の正しい血圧を評価するためには,できるだけ頻回に測定する必要があり,経時的あるいは連続的に血圧測定する技術的進歩が望まれている.ここでは主に筆者らの教室で用いている方法について概略を述べ,その応用についても若干触れたい.

血圧の日内変動と家庭測定

著者: 土屋雅之

ページ範囲:P.1690 - P.1692

はじめに
 血圧は動揺症を有するため,降圧療法においては,いかなる状態あるいは時点で測定された血圧を指標として用いるかは大きな問題である.近年種々の血圧測定機器が開発され,血圧を長時間また頻繁に測定することや,家庭で測定することも比較的容易となりつつある.ここでは血圧日内変動と家庭血圧が高血圧症の"診断"に果たす役割に焦点をしぼり解説する.

腎血管性高血圧症

著者: 村山猛男 ,   河辺香月

ページ範囲:P.1694 - P.1696

はじめに
 腎血管性高血圧症renovascular hypertension(RVH)の成因は次のようである.まず,①何らかの原因で腎動脈に狭窄が生じ腎への血流が低下し虚血状態に陥る,②そのため傍糸球体装置が刺激され,レニン・アンジオテンシン系renin-angiotensin system(RAS)が賦活されて高血圧が成立し維持される.この成因と病態生理を考慮して診断方法を組み合わせれば,比較的高率に正確な診断がなされうる.

副腎性高血圧

著者: 福地總逸

ページ範囲:P.1697 - P.1699

はじめに
 副腎性高血圧としては,皮質からの鉱質コルチコイド分泌過剰に由来するものと,髄質からのカテコールアミン分泌過剰によるものとがある.

先天性副腎過形成と高血圧

著者: 遠藤義晃 ,   三浦清

ページ範囲:P.1700 - P.1702

はじめに
 先天性副腎皮質過形成(congenital adrenocortical hyperplasia,CAH)の病因としては副腎皮質ステロイド生合成系における酵素不全があげられ,表に示すように,欠損酵素の種類によりいくつかの病型に分類される.それぞれ特有な症状を示すが,このうち高血圧を伴う病型としては11β-hydroxylase(11β-OH-lase)欠損症と17α-OH-lase欠損症が知られている.以下,主として両病型の病態,診断について,知見の進展に注目しながら述べる.

妊娠性高血圧

著者: 猿田享男

ページ範囲:P.1703 - P.1705

はじめに
 妊娠中や分娩後には高血圧が発症しやすいことが知られているが,それらの定義ないし成因に関しては,未だ十分な整理がなされておらず,不明瞭な点が多い.ここでは,妊娠中や分娩後にみられる高血圧について,その成因および病態に関して,これまでの諸家の成績を整理して概説してみたい.

治療

病態に応じた降圧剤の選択

著者: 尾前照雄 ,   阿部功

ページ範囲:P.1707 - P.1709

 作用機序の異なる多種類の降圧剤が開発され,降圧療法は以前に比べ著しく容易となった.高血圧の病態は,病因と病期によって一様でないので,同一症例についても常に特定の薬剤が最適であるという保証はない.降圧療法は,半ばはscience,半ばはartともいわれるように,医師の好みによってかなりの部分が左右されている.これらの点をふまえて,現時点での一般的な選択法について記述する。

境界域高血圧,収縮期性高血圧

著者: 飯村攻

ページ範囲:P.1710 - P.1711

境界域高血圧
 境界域高血圧(borderline hypertension)というのは比較的新しい言葉で,明確な定義や診断基準が確立しているわけではない.その詳細は他1)にゆずり,ここでは,現在最も広く用いられているWHOの,収縮期圧140〜159mmHg,拡張期圧90〜94mmHgのいずれか一方または両者を示すものを境界域高血圧とする基準に従い,以下に論をすすめることとする.
 境界域高血圧の頻度は,Julius2)によれば,米国では中・老年の20%,若年の10%といわれる.筆者らが得た本邦の成績は,20〜40歳の正常男子勤務者集団(2,928名)の11.0%,40〜64歳の農村住民(988名)で,40〜44歳14.2%,45〜49歳15.6%,50〜54歳23.9%,55〜59歳24.1%,60〜64歳22.8%と,WHOの基準による高血圧ほどではないが,ほぼそれに近い頻度を示す.

降圧薬の臨床薬物動態

著者: 海老原昭夫

ページ範囲:P.1712 - P.1713

薬物の生体内運命
 薬が効果を発揮するためには,作用部位において一定以上の濃度に達し,それがある時間持続することが必要であると考えられている.そこで薬の効果を考えるには,薬物の生体内運命を知ることがきわめて重要となる.
 口から投与された薬は胃腸管から吸収され,はじめ血液中の薬物濃度が次第に上昇するが,やがて最高レベルに達する.血液中に入った薬は血液以外にも分布するが,一般には,一部は肝で代謝され,また一部は腎から未変化体のまま排泄されて,血中濃度は次第に低下し,やがて体の中からまったく消え去る.このような薬の生体内運命は薬物動態pharmacokineticsと呼ばれている.薬の効果を最大限にひき出し,副作用を最小限に抑えるためには,患者の臨床的観察はもちろん重要であるが,このような薬物動態を考慮しながら,薬の投与設計を行っていくことがきわめて効果的である.

α遮断薬

著者: 三須良実 ,   久保孝夫

ページ範囲:P.1714 - P.1715

 1948年,Ahlquistが効果器のアドレナリン性受容体をαとβに分類して以来,α遮断薬は細動脈のα受容体遮断により,拡張,血圧下降を起こすと理解されてきた.しかし近時,交感神経終末側にも,ノルアドレナリン(NA)受容体をはじめ各種受容体があり,NA遊離を制御している事実が明らかになりつつあり1〜3),α遮断薬の作用様式についても,新しい解釈が必要となった.本稿では,NA受容体に関する最近の考え方を解説した後,従来のα遮断薬と新しい型のプラゾシンとを区別して,それぞれの特徴を簡単に記載する.

β遮断薬

著者: 築山久一郎 ,   大塚啓子

ページ範囲:P.1716 - P.1718

はじめに
 降圧剤としてのβ遮断薬は,最近の高血圧治療指針,たとえば米国の主要医療機関による合同委員会,WHO高血圧専門委員会の指針によっても第2ないし第1選択薬とされ,臨床上その使用頻度の増加は著しい.
 20数種のβ遮断薬が開発され臨床に供せられると,薬理作用の相違に基づく使用法,病態の相違による薬剤選択が実際上の問題となる.β遮断薬の降圧効果は,従来の降圧薬に比し必ずしも大きくないが,降圧療法の目的は血管合併症の発症および進展阻止にあり,β遮断薬は,とくに高血圧に合併する心筋梗塞,突然死の予防効果を示唆する報告があり注目される.本稿では,上述の問題点と使用法の実際の概略を述べる.

レニン・アンジオテンシン系阻害薬

著者: 宮森勇 ,   木越俊和 ,   森本真平

ページ範囲:P.1719 - P.1721

はじめに
 腎血管性高血圧症,悪性高血圧症,高レニン本態性高血圧症などのレニン・アンジオテンシン依存性高血圧に対して,レニン・アンジオテンシン系(RA系)の抑制は,きわめて有効な降圧効果が期待される.近年,RA系を抑制する薬剤としてアンジオテンシンIIアナログとアンジオテンシンI変換酵素阻害薬が開発され,臨床的に応用されている.

カルシウム拮抗薬

著者: 草野英二 ,   浅野泰

ページ範囲:P.1722 - P.1724

はじめに
 最近,虚血性心疾患の治療薬として登場した,カルシウム(Ca++)拮抗薬の降圧効果が注目されつつある.代表的なものとして,ニフェジピン,ジルチアゼム,ベラパミルなどがあり,いずれも心筋および血管平滑筋へのCa++の流入を抑制して,心収縮力の低下および冠血管,末梢血管拡張などの作用を発現すると考えられている.以上のことから,これらCa++拮抗薬は抗狭心作用のみならず降圧作用も有することが示唆され,事実,種種の高血圧症に対する有効性が報告されている.
 高血圧の成因に関しては種々の要囚の関与が考えられているが,一義的には末梢血管抵抗の増大に基因する.Ca++拮抗薬は直接血管平滑筋に作用し,興奮収縮連関に影響を与え,降圧効果を発現する点,幅広く高血圧症に効力を発揮する可能性がある.高血圧の発症,維持にはCa++の重要性も考えられており,本薬剤は高血圧の機序解明にも一役を担うことが予想され,興味ある薬剤として検討されている.

高血圧の地域管理

著者: 籏野脩一

ページ範囲:P.1725 - P.1727

高血圧の地域的取り組み
 高血圧が公衆衛生の問題とされるのは,その頻度が高いこと,放置すれば死や障害の原因となること,それら合併症の予防は可能であるのに患者が放置していることが多いことなどのためである.
 1978年の統計によれば,40歳以上の国民の総死亡64.4万名のうち,高血圧関連の死亡は31.1万名で死亡の48%を占めた.45歳以上では有病率,受療件数とも高血圧は単独で首位を占め,その医療費は年間1,400億円に及ぶ.高血圧の合併症をも加えると,件数は1.5倍,医療費は12倍にもなる.高血圧は高年齢ほど増加するので,高齢化が急速に進行しているわが国では,今後ますます重要性を増すであろう.老人痴呆もふえる.わが国の老人痴呆は高血圧を原因とする脳血管障害によるものの比率が高い.てれらの状況は高血圧制圧に向けて一層の行政努力と住民の取り組みを要請している.

座談会

高血圧の治療—最近の進歩を語る

著者: 猿田享男 ,   阿部圭志 ,   築山久一郎 ,   海老原昭夫

ページ範囲:P.1728 - P.1736

 近年,作用機序を異にする数多くの降圧薬が登場し,それに高血圧の病態の解明もすすんで,高血圧は大変コントロールしやすくなった.座談会では経験豊富な方々に,その臨床知見を盛り込みながら,新しい降圧薬の特徴,実際の使用法などについてお話しいただいた.

胸部X線写真の読み方

大動脈疾患

著者: 松山正也 ,   村松準

ページ範囲:P.1742 - P.1750

大動脈のみかたの基本
 松山 大動脈は,年齢による変化が非常に強いところですから,写真読影にあたっては年齢を考慮することが大切です.今回は,とくに後天性の大動脈疾患のX線写真の読み方を解説していただきますが,その前に,大動脈の変化をみる場合の基本的な注意点についてお話しいただきたいと思います.
 村松 高血圧をもった人や高齢者では,大動脈硬化に伴う大動脈の延長と拡大が起こってきます.大動脈は,心基部と横隔膜部分で固定されていますので,大動脈の延長が起こると,上行大動脈は右方に張り出し,大動脈弓部は鎖骨にまで達し,大きな弧を描き,また下行大動脈は左方に偏位し大きく蛇行してきます.

演習 放射線診断学 神経放射線学・5

脳腫瘍(1)—神経膠腫と転移性腫瘍

著者: 八代直文 ,   前原忠行

ページ範囲:P.1752 - P.1758

はじめに
 神経膠腫は脳腫瘍全体の30〜40%,転移性腫瘍は5〜10%を占めるとされ,日常の臨床でも遭遇する機会の非常に多い疾患である.転移性腫瘍は,原発巣の病状や転移巣の症状によっては,診断・治療の対象にならず放射線的検査が行われない場合があるため,剖検での頻度はさらに高率である.また,老人や腫瘍患者を主な対象としている施設では,最も頻度の高い脳腫瘍でもある.
 神経膠腫の分類は,1926年にBaileyとCushingよって提唱されたグリア細胞の発生および分化に基づく分類が有名であり,これが基本となっている.神経膠腫の中での頻度は,神経膠芽腫50%,星状細胞腫20%,脳室上衣腫10%,髄芽細胞腫10%,乏突起膠腫5%,混合型5%とされているが,本稿では狭義の神経膠腫として,神経膠芽腫,星状細胞腫,乏突起膠腫を主にとりあげる.

連載

目でみるトレーニング 43

ページ範囲:P.1759 - P.1763

プライマリ・ケア

プライマリ・ケアの実践(1)

著者: 渡辺淳 ,   新野稔 ,   本吉鼎三

ページ範囲:P.1794 - P.1799

 本吉(司会)本日は,「プライマリケアの実践」というテーマで,去る6月14,15日の両日にわたり開催された第3回日本プライマリ・ケア学会の成果を踏まえてお話いただきたいと思います.

臨床免疫学講座

どのような免疫能検査が行われるか

著者: 堀内篤

ページ範囲:P.1765 - P.1769

 あるヒトの免疫能がどの程度保たれているかについて検査する方法はいくつかあるが,試験管内での反応が生体内の状態をどの程度反映しているか,はっきりしないものもある.
 ここでは,比較的よく用いられている検査法の臨床的意義の概略を述べることにする.多くの場合これら諸検査の総合判断によって決められているが,試験管内での検査ではしっかりしたコントロールをとることが大切である.

Laboratory Medicine 異常値の出るメカニズム・32

カテコラミン

著者: 屋形稔 ,   三国龍彦

ページ範囲:P.1770 - P.1773

カテコラミンの生合成と代謝
 カテコラミン(CA)はドーパミン,ノルアドレナリン(NA)およびアドレナリン(A)の総称で,交感神経,副腎髄質のクロム親和性細胞においてチロジンから生成される.
 血液中から交感神経末端のクロム親和性細胞にとりこまれたチロジンは,チロジン水酸化酵素によりドーパとなり,ついでドーパミンに転換され,さらにドーパミンβ酸化酵素(DBH)の働きでNAが生成される.副腎髄質では同様にして生成されたNAからさらにフェニルエタノラミン-N-メチル転換酵素(PNMT)によってAが合成され,これらは細胞内のクロム親和顆粒中に貯えられる.NA,Aは交感神経の刺激により血中に分泌されるが,大部分は再び交感神経末端や脳内にとりこまれて不活性化されたり,速やかに尿中に排泄されるため血中のCA濃度はきわめて微量である.

老人診療のコツ

ぼけの対策(2)—ぼけの診断と治療

著者: 大友英一

ページ範囲:P.1774 - P.1777

鑑別診断
 痴呆化を示す多くの疾患があることはすでに述べたが,ここでは実際臨床で鑑別上重要なものを述べる.
 うつ病 老年者では最も痴呆と誤診されやすいものである.痴呆出現の初期に抑うつ状態が出現しやすいことから,老年痴呆に抑うつ状態が先行するものと考えられていたものである.

図解病態のしくみ 消化器疾患・11

過敏性大腸症(1)—病態生理・その1

著者: 松枝啓

ページ範囲:P.1778 - P.1781

はじめに
 過敏性大腸症は,消化器科受診患者の60%を占めるほど多い疾患で,"過敏性大腸症を制する者は消化器を制する"とまでいわれているが,この疾患にはまだ不明のことが多く,臨床上多くの問題を残している.すなわち,過敏性大腸症の症状自体は非特異的であり,種々の炎症性腸疾患や吸収不良をきたす疾患と酷似しているため確定診断が困難である.一方,長期治療を必要とするかもしれず,その治療は経験的かつ対症療法的で治療効果も一定しない.さらに,過敏性大腸症における精神的ストレスの役割についても未だ完全には理解されていない.以上のような理由で,過敏性大腸症の患者はわれわれ臨床医にとっては大きなChallengeであり,また興味ある疾患の一つである.
 しかし,過敏性大腸症は,最近では腸管の運動異常(Intestinal Motility Disorder)と考えられており,その診断の多くは除外診断によってなされる、そして,その症状は種々の神経ホルモン的または精神社会的な因子によって修飾される.したがって,過敏性大腸症の効果的治療を行うには,その疾患の完全な治癒を求めるのではなく,症状の軽減をはかり,その疾患に対する患者の順応性を促進する方向で種々のアプローチがなされるべきである.

臨床講座=癌化学療法

悪性黒色腫の治療

著者: 江崎幸治 ,   小川一誠

ページ範囲:P.1782 - P.1785

はじめに
 悪性黒色腫は皮膚に発生する腫瘍のなかでは,最も全身的転移をおこしやすく,進行も早いので,化学療法の対象となる腫瘍である,また比較的若い年齢層に発症すること,時に腫瘍の自然退縮が観察されるように,その発症,経過に免疫学的要素が関与していると思われることなどから,発生頻度は少ないながら,欧米でも本疾患に関しての報告が多い.しかし,わが国ではさらに頻度が少ないため,本疾患の治療に関する系統的報告は乏しい.
 悪性黒色腫の5年生存率は欧米の種々の報告によると,24〜42%といわれる.治療の第一選択の方法は,まず皮膚腫瘤の外科的摘出で,それが病理学的に悪性黒色腫と判明すれば,筋膜を含む原発巣の広範囲摘出である,所属リンパ節の郭清に関しては意見の一致をみていないが,所属リンパ節への転移の有無は患者の予後に大きく影響する.つまり所属リンパ節転移陰性の患者の5年生存率は約60%であるが,顕微鏡的に転移陽性の場合は30%となり,さらに臨床的にリンパ節腫大のある場合には10%以下となる.このように悪性黒色腫の治癒を目指すには,病初期の外科的切除が第一であるが,転移が早く,その予測も不可能な場合もあり,化学療法の効果に期待が寄せられる.さらに近年は免疫療法も種々試みられている.本稿では,悪性黒色腫治療の現況を概説したい.

外来診療・ここが聞きたい

右足関節痛,RAテスト(+)のとき

著者: 佐々木智也 ,   西崎統

ページ範囲:P.1788 - P.1792

症例
 患者 K. K. 37歳 女性,主婦
 現病歴 今年の初め頃,右肩から右上腕にかけての痛みがあり近医を受診,RAテスト(十)といわれ鎮痛剤を服用して改善した.4月頃になって,何ら誘因なく右足関節痛が出現,とくに発熱や右足関節の腫れはない.最近ときどき,朝手指のこわばりがある.

天地人

モンテーニュの旅

著者:

ページ範囲:P.1807 - P.1807

 最近読んで面白かったのは,田中重弘著「女の世紀を旅した男」(北洋社,1980)という本です.「ルネサンス・ヨーロッパ見聞」の副題が示すとおり,〈女の世紀〉というのは欧州16世紀のことであり,これを〈旅した男〉はかの有名な思想家モンテーニュその人です.名著「随想録」の著者に「イタリア紀行」なる旅日記のあることは知っていましたが,もちろん読んだてことはありませんでした.田中氏の興味深い,しかも秀れた紹介のおかげで,早速ガリマール版のモンテーニュ全集(一冊本)を買い込み,「随想録」の方は敬遠しながら「旅日記」の拾い読みをはじめたところです.
 田中氏はモンテーニュの旅行の道をフランス,スイス,ドイツ,オーストリア,イタリァと追跡されましたが,じつは私もルネサンスの錬金術医師として名高いパラケルススの遍歴の跡を「巡礼」してみたことがあります.2年前の夏のことでした.

オスラー博士の生涯・88

医学の座右銘(The Master-word)(その1)—医学生へのメッセージ

著者: 日野原重明 ,   仁木久恵

ページ範囲:P.1808 - P.1813

 ウィリアム・オスラーは,1849年カナダのオンタリオ州に生まれ,18歳の時にトロントのトリニティ大学文科に入学し,将来牧師となるための勉強を始めた。ここでは神学を教えたジョンソン牧師と生物学を教えたボペル教授とが,ともに生物学の愛好者であったことから,オスラーはこの二人の先生の感化を大いに受けた.翌年,オスラーは医科へ転向したいと望み,これを了承したボベル教授は,彼を自分が教えているトロントの医学校へ迎えた.オスラーはここで,基礎医学を勉強したのち,1870年にはモントリオールに移り,マックギル大学の医学部で臨床医学の勉強をした.この大学を卒業して欧州に留学した後,再び母校で研究を始め,医学通論の講義などもしたが,その後ペンシルバニァ大学の内科教授に招かれた.また1889年には,新しく創設されるジョンス・ホプキンス大学医学部の内科教授として,ボルティモアに赴任したのである。その後の彼の内科学者ならびに臨床家,教育者としての活躍には目覚ましいものがあった.
 オスラーは,方々の医学校や医学会の講演を頼まれることが多かったが,1903年の秋には彼の母校トロント大学に生理学の実験研究室を備えた新館が落成し,その祝賀式に特別講演を頼まれた.その時の医学生へのメッセージが,この「医学の座右銘」である。

他科のトピックス

ポジトロンCT

著者: 舘野之男 ,   宍戸文男

ページ範囲:P.1800 - P.1801

はじめに
 炭素などのラジオアイソトープは,14Cにその例をみるように,生命現象の解明に大きな貢献をしている.しかし,14Cは,第1にその放射線の透過力がきわめて弱いものであること,第2に半減期が約6,000年と非常に長いものであることのため,丸ごとの人間を対象とする臨床医学ではその応用範囲はきわめて限られたものにならざるをえなかった.
 ポジトロンCTは,これら炭素をはじめとする生体構成元素のアイソトープを患者に直接用いることを可能にしたもので,今後の発展が期待されているものである.

紫煙考

タバコと消化管

著者: 梅田典嗣

ページ範囲:P.1804 - P.1805

患者へのためらい
 胃潰瘍と診断した患者にそれを告げると,いかにも残念そうな顔をして「タバコは喫ってはいけませんか」とたずねられることが多い.そのたびごとに「それは喫わないほうがよいでしょう」と私は答える.そのように答えながら,私は患者に対する同情とともに私自身ある種のためらいを感ずる.
 喫煙の害が声高に叫ばれる昨今でも愛煙家の数は多く,なかなかやめられない人の多いのが現実である.タバコと肺癌との密接な関連はすでにいいつくされ,また呼吸器系,心血管系に対する悪影響は論をまたない.しかしながら,消化器疾患との関連は意外とはっきりしていないのである.愛煙家の患者に対し潰瘍があるからといって禁煙を宣告するのはいと易いてとであるが,本人にとっては生活パターンを変えることにつながるのできわめて重大なことである.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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