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雑誌目次

雑誌文献

medicina17巻2号

1980年02月発行

雑誌目次

今月の主題 末梢性ニューロパチー

理解のための10題

ページ範囲:P.236 - P.238

基礎知識

末梢神経の構造と機能

著者: 渡辺誠介

ページ範囲:P.168 - P.169

はじめに
 構造と機能という題をあたえられたが,解剖については病理の項で述べられると思うので,ここでは臨床症状や生理検査を理解するのに必要な基礎的事項を解説してみたい.

基礎知識・グラフ

末梢性ニューロパチーの病理

著者: 朝長正徳

ページ範囲:P.171 - P.173

病理学的検査の実際
 末梢神経障害を診断するためには,臨床的には運動ニューロンの障害,知覚障害さらに自律神経障害の有無を検索せねばならない.これに対応する診断上の病理学的検査は,末梢神経および筋(時には皮膚も)のバイオプシーである.末梢神経生検には主として腓腹神経sural nerveが用いられる.生検時,神経を切断せずに短冊状に切りとる(fascicular biopsy).腓腹神経は主として知覚神経よりなり,sensoryあるいはsensory-motor neuropathyでは診断的価値があるが,motor neuropathy,motor neuron diseaseではふつう変化が少ない.この場合には筋生検による筋萎縮の状態(神経原性変化),筋内神経枝の変化をしらべる.
 腓腹神経生検は正常対照の所見が報告されているので,病的状態の判定にきわめて有用であるが,あくまでも末梢神経の末端の一部をみているにすぎず,末梢神経全体の病理像を把握するためには,剖検材料による神経細胞,根,神経近位部・遠位部,末端(筋終板,知覚終末など)について三次元的に把握する必要がある.

診断

分類

著者: 古和久幸

ページ範囲:P.175 - P.177

はじめに
 末梢性ニューロパチーは病型,症状,原因による分類がなされている.最近ではこれに病理学的所見を主体とした分類も加えられている.
 臨床上最も有用なのは原因による分類で,治療に直接関係をもつからである.しかし,現段階で原因別の分類をした場合,あまりにも多くの原因不明の末梢性ニューロパチーの存在を無視することができない.黒岩1)の統計によれば,多発性ニューロパチー625例のうち原因不明が60%を占めていたという.末梢性ニューロパチーがいろいろな全身性疾患に随伴して現れ,その発生機構が十分に解明されていない今日,分類の決定版を持ちえないのも致し方のないことといえよう.ここでは現在用いられているそれぞれの分類を述べ,それらの組み合わせによる末梢神経障害の臨床診断にふれることとする.

主要徴候

著者: 安徳恭演 ,   後藤幾生

ページ範囲:P.178 - P.179

はじめに
 末梢神経は運動神経,知覚神経,自律神経からなっており,末梢性ニューロパチーではこれらの障害による徴候が出現する。

検査—電気生理学的検査と生検

著者: 鳥居順三

ページ範囲:P.180 - P.184

はじめに
 末梢性ニューロパチーの診断は,患者の詳細な問診や,臨床神経学的ベッドサイドの診察によって行われる.しかしながら,これだけで診断を確定できない場合があり,補助診断によりその障害部位や程度を明らかにすることができることが多い.末梢性ニューロパチーの補助診断として第一にとり上げられなければならないのは電気生理学的検査electrophysiological examinationであり,診断確定のための組織学的検査は生検biopsy of peripheral nerveによって得られる標本で行われる.本稿ではこの両者について述べることにする.

頻度の多いニューロパチー

Guillain-Barré症候群

著者: 濱口勝彦

ページ範囲:P.186 - P.187

はじめに
 Guillain-Barré症候群(以下GBSと略す)は,急性特発性多発根神経炎acute idiopathic polyradiculoneuritisあるいは感染後多発神経炎postinfectious polyneuritisともいわれ,末梢性ニューロパチーの中で,比較的特異なタイプの多発神経炎である.

糖尿病性ニューロパチー

著者: 山村安弘 ,   鬼頭昭三

ページ範囲:P.188 - P.190

はじめに
 糖尿病に合併する神経障害の存在は古くから知られている.この中には脳および脊髄病変に基づく神経症も包含されるが,糖尿病とより本質的な関連を有すると考えられているのは,ここにとりあげる末梢性ニューロパチーである.糖尿病者間における末梢性ニューロパチーの頻度は報告者によりまちまちであるが,これはひとつには神経学的検索の精緻さによるものであり,いまひとつには糖尿病自体のとらえ方,ないしは糖尿病診断基準の多様性にもかかわっている.さらに,そこにみられる神経障害が糖尿病の存在となんらかの関係があるのか,または単なる加齢によるニューロパチーをみているにすぎないのかを鑑別することも必ずしも容易でない.したがって,実際には糖尿病者にみられた末梢神経障害を糖尿病性ニューロパチーと呼んでいる場合が多い.
 頻度は,前述のごとく糖尿病者の5%という報告から95%という冲中の報告まであって,まちまちである.最近の研究では対称性のpolyneuropathyは約25%の症例に存在するが,電気生理学的な末梢神経の異常はほぼ全例にみいだされる,といわれる.男女差はほとんどなく,40歳代より高齢に多い.糖尿病の罹病期間の長いもの,糖尿病のコントロールの不十分なものに多くみられる.

手根管症候群

著者: 飯田光男

ページ範囲:P.192 - P.193

はじめに
 手根管症候群(carpal tunnel syndrome)は欧米での報告例が多く,本邦での報告は稀であるが,事実頻度の高い注目すべき疾患である.
 本症候群はentrapment neuropathy(entrapは罠にかけて捕えるの意)に属する疾患のうちでは代表的なものの一つである.entrapment neuropathyとは,末梢神経が線維性,骨性のトンネル構成部を通過する部位で,何らかの原因により圧迫されたり,締めつけられた結果,運動,知覚あるいは血管運動神経が障害されたものに対し命名されたものである.この神経障害は数多くの末梢神経で発生するが,上肢における手根管症候群が最も頻度の高いものといわれ,主婦に多発し全身性疾患との関連が問題となっている.

変形性脊椎症

著者: 片山宗一

ページ範囲:P.194 - P.195

はじめに
 変形性脊椎症にみられる臨床症状は,大別すると,①脊椎構築上の脆弱化による頸・項部痛,腰痛および運動制限(脊椎症状),②骨棘や椎間軟骨による神経根圧迫の結果生ずる上・下肢の知覚あるいは運動障害(神経根症radiculopathy),③骨棘,椎間軟骨の脊髄に対する直接の圧迫,あるいは脊髄血管への圧迫による脊髄症状(脊髄症),④椎骨動脈圧迫による椎骨・脳底動脈循環不全に分けられる.
 変形性脊椎症による神経根症は,頸椎ではC6,C7,C5,腰椎ではL5,S1,L4の順に最も多くみられる.後者は通常,坐骨神経痛として取り扱われるので,ここでは日常臨床上,しばしばみられる頸椎症について述べる.

随伴性末梢神経障害

尿毒症性ニューロパチー

著者: 宮原正 ,   平山隆勇

ページ範囲:P.196 - P.197

尿毒症性ニューロパチーとは
 尿毒症性ニューロパチーuremic neuropathyは尿毒症患者にみられる末梢神経障害で,尿毒症以外の原因によるもの,たとえば,経過中に投与された薬物あるいは併発した他の疾患によるニューロパチーは,尿毒症性ニューロパチーとはいわない.
 尿毒症性ニューロパチーに関する報告は,約100年前Kussmaulによって行われた尿毒症患者の坐骨神経病変に関するものが最初である.本症が頻発し注目を集めたのは1961年頃透析療法が普及した直後である.わが国で関心がもたれるようになったのは,やはり透析療法が広く実施されるようになった1964〜65年頃である.透析療法が導入されはじめた頃には,不十分な透析下での延命であったため,本症が腎不全患者の50〜80%と高頻度にみられたが,透析方法の改善進歩により近年その発症頻度は著しく減少している.

膠原病

著者: 広瀬源二郎

ページ範囲:P.198 - P.199

はじめに
 膠原病の概念に含まれる疾患には種々のものがあり,また近縁疾患と考えられるもの,それらの重なりあい,移行についてはまだはっきりした見解が得られていない.しかし,これらの膠原病にみられる神経系障害としてのニューロパチーの臨床像,病理所見は比較的類似しているため,膠原病に伴うニューロパチーとして一括し,それらの臨床像,診断,治療について簡単に触れてみたい.

悪性腫瘍

著者: 本多虔夫

ページ範囲:P.200 - P.201

はじめに
 悪性腫瘍は,神経系内に転移したり浸潤したりして,それを破壊し症状を起こすことがある.また,このような直接的侵襲がないのに,原因不明の神経筋疾患が悪性腫瘍に合併することがある.このような神経筋疾患は,癌性ニューロミオパチーcarcinomatous neuromyopathyとかparaneoplastic neurological syndromeなどの名で呼ばれている.この中には小脳変性症,多発筋炎,筋無力症様症候群など,神経筋系をその種々の部位で侵す疾患が含まれるが,悪性腫瘍に随伴する末梢性ニューロパチーもその一つに数えられる.本稿ではこのニューロパチーにつき,その病像,鑑別診断,成因に分け記述する.

ビタミン欠乏症

著者: 有馬寛雄 ,   井形昭弘

ページ範囲:P.203 - P.205

はじめに
 末梢神経障害は日常診療の上で最も頻度の高い神経疾患で,ビタミンの欠乏はその大きな要因である.とくに豊かになったわが国ではいわゆる全欠乏型の栄養障害はかげをひそめ,その代わり豊かさの中の飢えともいうべき栄養のアンバランスが問題となっている.
 本稿ではビタミン欠乏,とくにビタミンB欠乏について論じてみたい.

中毒性末梢神経障害

アルコール

著者: 河野裕明 ,   高木敏

ページ範囲:P.206 - P.207

はじめに
 アルコール中毒(以下アル中)患者に伴う末梢神経障害1)は脚気と関係があるといわれ,この疾患を一般にアルコール牲ビタミン欠乏性多発性神経炎とよんでいる.しかし,この疾患の発生機序についてはまだ明らかでない.また,アルコール摂取と末梢神経障害の発症については,他のアルコール性臓器障害のそれと同様個体差がある.

ビンクリスチン

著者: 松岡幸彦

ページ範囲:P.208 - P.209

はじめに
 中毒性末梢神経障害のうちで,医薬品によるものは近年重要な位置を占めており,社会的な関心を集めているものも少なくない.
 ビンクリスチン(Vincristine,以下VCRと略)は,キョウチクトウ科の植物ツルニチニチソウから抽出されたアルカロイドで,細胞分裂抑制効果のあることが見出され,現在とくに白血病や悪性リンパ腫の治療薬として広く使用され,大きな効果をあげている.その副作用としては,脱毛,胃腸障害,麻痺性イレウス,貧血,白血球減少,皮膚落屑なども知られているが,そのなかでも末梢神経障害は発現頻度が高く,重要なものの一つである.したがってVCRを投与中の患者では,常に末梢神経障害の発現を念頭に置き,観察を怠らないようにしなければならない.

シンナー

著者: 斎藤豊和

ページ範囲:P.210 - P.211

はじめに
 シンナー中毒と一般に総称されている有機溶剤中毒は産業公害としてのみならず,一部の不良青少年の"吸入遊び"によるものもあり,社会問題にもなっている.
 シンナーは脂肪族アルコール(酢酸エステル,メタノール,ブタノール)と芳香族炭化水素であるtolueneが主要構成物質であるが,有機溶剤による末梢神経障害ではtolueneとn-hexaneが重要な役割をしていることがわかっている.したがって,ここでは主にn-hexane,tolueneによる末梢神経障害を中心に述べる.

遺伝性ニューロパチー

家族性アミロイドーシス

著者: 荒木淑郎

ページ範囲:P.213 - P.215

アミロイドーシスと末梢神経障害
 アミロイドーシスとは,線維構造を有する特異な蛋白「アミロイド」が,細胞外に沈着する原因不明の代謝病である,約130年前,Virchowによって,アミロイドーシスの名称ならびに疾患概念が確立されたが,原因はまだ不明であり,特別な治療法も見出されていない.アミロイドーシスの臨床像は,アミロイドの臓器あるいは組織沈着によって多彩であるが,全身性の場合と限局性の場合がある.予後は前者が不良である.
 アミロイドーシスにおける神経系の障害は,原因不明の原発性アミロイドーシスに多くみられ,続発性アミロイドーシスではほとんど認められない.また神経系の障害は家族性アミロイドーシスにおいて著しく高頻度にみられ,非家族性のものは低頻度である.さらに興味あることは,神経系の障害は,末梢神経系と自律神経系にみられることで,中枢神経系の障害はきわあて稀であるという点である.

Charcot-Marie-Tooth病

著者: 福原信義

ページ範囲:P.216 - P.217

はじめに
 Charcot-Marie-Tooth病は末梢神経の変性疾患のうちの代表的なものであり,1886年Charcot & MarieとToothにより別個に報告された.腓骨筋萎縮,進行性神経性筋萎縮症ともいわれる.通常,20歳以前に歩行障害をもって発症し,大部分は常染色体優性遺伝であるが,孤発例もみられる.本症は原因がまったく不明であり,その進行を防ぐ有効な治療法もないが,本症を早期に確実に診断することは,不必要な治療を避けるためにも重要である.

遺伝性感覚性ニューロパチー

著者: 高須俊明

ページ範囲:P.219 - P.221

定義および分類
 遺伝的背景の下に,主として末梢性知覚ニューロンの軸索が系統的,選択的に変性・萎縮を起こしてくる疾患群を遺伝性感覚性ニューロパチーhereditary sensory neuropathy(HSN)と総称する.左右対称性を保ちつつ,慢性に,多くは進行性に経過する.
 Ohta, M. ら(1973)は上記の定義の下にHSNを4型に分けた(表).このうち,Ⅰ型,Ⅱ型は感覚性ニューロパチーが病像の主体をなすが,Ⅲ型,Ⅳ型においではそれは病像の一部をなすに過ぎない.

最近注目されているニューロパチー

色素沈着,剛毛,浮腫,免疫グロブリン異常を伴う慢性多発性神経炎

著者: 西谷裕

ページ範囲:P.222 - P.223

はじめに
 本症候群は血清の蛋白異常,とくに形質細胞腫と密接に関連して,亜急性ないし慢性に進行する知覚,運動性ポリニューロパチーである.ことに本邦の報告例では表1,2)にみられるごとく,全身の著明な色素沈着,浮腫,剛毛,糖尿病,女性化乳房,陰萎などの多彩な臨床症状を伴うために,その成因について最近とくに注目されている3〜5)
 形質細胞腫が直接的な骨破壊,細胞浸潤などによらないニューロパチーを合併する頻度は3〜15%と推定されている.DavisとDrachman(1972)6)は,文献上より46例の本症候群を集め,それの頻度が必ずしも稀ではなく,その80%の症例で神経症状が骨髄腫の発見よりも先行していたことを指摘している.したがって,そのニューロパチーの詳細な観察と,本邦例の多くにみられるような他の手がかりとなる徴候とを組み合わせれば,原因不明のポリニューロパチーから本症候群の発見される頻度はさらに高まるものと推定される.これは,本症候群では種々の治療が可能6)なこととあわせて,きわめて重要なことと思われる.

Neuralgic Amyotrophy

著者: 塚越廣 ,   栢沼勝彦

ページ範囲:P.224 - P.225

はじめに
 Neuralgic amyotrophyは,突然肩甲帯から上腕にかけての神経痛様の激痛で発症し,それに随伴または続発して同部の弛緩性麻痺と筋萎縮をきたし,予後が良好でほとんどの例で完全寛解を示すという特徴的な臨床像を呈する疾患である.本症は1940年代英国の軍隊で多発することから注目され,1948年ParsonageとTurner1)により初めて総括されneuralgic amyotrophyと命名され,以後報告者によりacute shoulder neuritis,paralytic-brachial neuritis,Parsonage-Turner syndrome,brachial plexus neuropathy2)など種々の名称で記載されている.
 本症の発症機序については不詳で,これが一つの疾患概念か単なる症候名かは報告者により一定していない.厳密にはまったく基礎疾患の見い出されない特発例のみをneuralgic amyotrophyとする立場もあるが,一般には感染,血清注射,免疫療法などに随伴して現れるものも本症に含める.また家族性発症例3,4)や再発例4)の報告も散見される.近年Bradleyら4)は,本症をacute-nontraumatic brachial plexus neuropathyのうち,家族性のもの(後述)および痛みを伴わないものを除外したsubgroupとして位置づけている.

座談会

末梢性ニューロパチーの診断とその限界

著者: 里吉営二郎 ,   広瀬和彦 ,   朝長正徳 ,   古和久幸

ページ範囲:P.226 - P.235

 末梢性ニューロパチーにはさまざまなものが含まれ,原因も多彩であり,また神経病学へのとっつきにくさも加わってか,敬遠されがちである.そこで,臨床経験豊富な専門家の方々にお集まりいただき,どんな検査をどのようにすすめ,臨床症状のどこにポイントをおいてアプローチしていくべきかをお話いただいた.また,一般臨床医が遭遇することもある代表的な末梢性ニューロパチーについては,個々具体的に診療上の注意点を解説,整理していただいた.

胸部X線写真の読み方

シルエット・サイン

著者: 松山正也 ,   徳田裕

ページ範囲:P.246 - P.252

 松山 今回は胸部における病巣の位置決定に重要なシルエット・サインについて述べてみたいと思います.このサインは,古くは1935年頃から,左上葉舌区の病変に際して,胸部X線上心左縁が消失することが知られており,その後,中葉の病変でも心右縁が消失することが知られ,X線診断に応用されていたものです.
 1950年Felsonが"silhouette sign"としてはじめて総括したもので,今日では胸部X線写真読影の基本ともなるべきものであり重要ですので,症例を中心に解説してみたいと思います.

演習・放射線診断学 CTスキャン読影のコツ・8

膵臓

著者: 板井悠二

ページ範囲:P.254 - P.260

はじめに
 膵臓の全体像がCTによって非侵襲性に明瞭に描出されることは,まさに驚きそのものであった.しかし,このことと切除可能な膵癌がCTで発見し得るか否かはまったく別問題である.現在までの知見の集積に基づく答は,膵内に留まり膵輪郭に変化を与えぬ膵癌を見出すことはきわめて困難という悲観的なものである.だが進行膵癌が90%くらい正診されるとの報告は,それ自体やはり価値ありとみなすべきである.少なくも過剰な検査を避け,速やかに診断に至る点でCTの有用性は認められる.そのほか,膵結石,膵のう胞についてはきわめて有効かつ信憑性が高い.膵自体の大きさも正確に評価でき,経時的変化も客観的に評価し得る.
 膵CTの読影を正常膵とスキャン法,膵癌,膵炎に分けて記す.

プライマリ・ケア

私たちの見たアメリカのプライマリ・ケア(2)

著者: 安田勇治 ,   岩崎靖雄 ,   菊地博 ,   伊藤清次 ,   鈴木荘一

ページ範囲:P.288 - P.292

Mayoのプライマリ・ケア教育システム
 鈴木(司会) アメリカのプライマリ・ケアの教育について,菊地先生ご紹介ください.
 菊地 アメリカの大学は,地域医療と非常によく結びついていることが特徴だと思います.日本のように,大学の使命が,国家試験を通って学生を送り出してしまえばそれでいいというのではなくて,地域と密着していることがアメリカの大学教育の特徴です.Mayo Clinicに例をとれば,Mayo Clinicのあるミネソタ州の中から95%ぐらいの学生を採る.残りの5%を,大学のないアラスカなどから採って教育をしている.その場合でも,ミネソタから採っている学生の授業料は,アラスカから来ている学生よりも安くしているわけです.

臨床免疫学講座

免疫不全と疾患

著者: 堀内篤 ,   入交清博

ページ範囲:P.262 - P.267

 免疫不全とは免疫応答機構の欠陥による機能異常を意味しており,それによって起こる疾患を免疫不全症候群immunodeficiency syndromeとして一括している.免疫不全症候群には先天的な異常あるいは遺伝子レベルで規定された原発性(先天性)免疫不全症候群primary (congenital) immunodeficiency syndromeと各種疾患および薬剤などによって二次的に免疫不全状態に陥る続発性(後天性)免疫不全症候群secondary (acquired) immunodeficiency syndromeに二大別される.原発性免疫不全症候群は一般に幼児期に診断されるが,軽症例では成人になってから発見されることがある.これを成人型原発性免疫不全症候群と呼んでいる.

Laboratory Medicine 異常値の出るメカニズム・23

甲状腺ホルモン

著者: 屋形稔 ,   三国龍彦

ページ範囲:P.268 - P.271

甲状腺ホルモンの分泌と測定
 甲状腺からはサイロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)の2種のホルモンが分泌される.その産生分泌は下垂体TSHの支配をうけているが,バセドウ病の原因と目されるLATS-PやISIといった免疫グロブリンや,絨毛性疾患にみられるTSH様物質によっても刺激されるし,甲状腺内腫瘍が自律性にホルモン産生をすることもある.血中のT3は量的にはT4の1〜2%にすぎないが,生物学的活性はT4の数倍の強さをもっている.またT3は甲状腺から分泌されるばかりでなく,むしろその大部分は末梢においてT4から転換されることが明らかになっている.すなわちT4は脱ヨードされてT3とリバースT3(rT3)となり,さらにT2とT1へ代謝されるが,T3,T4を除いてはホルモン活性をもっていない.また血中のT3,T4はほとんどすべて血清蛋白と結合して循環している.しかし生物学的に真の活性を有するのはこれら蛋白に結合しているホルモンではなく,遊離型のホルモンであって,これをfree T3(FT3)およびfree T4(FT4)とよんでいる.FT4においては全T4濃度のわずか0.03%程度にすぎないが,これらが最もよく甲状腺機能を反映しているといえよう.
 甲状腺ホルモンは有機ヨード化合物であるから,血中ホルモン濃度はこのT4結合蛋白(TBP)中のヨードを測定することで間接的に知ることができる.

老人診療のコツ

不定の精神症状,意識障害,神経症状—まず慢性硬膜下出血を考える

著者: 大友英一

ページ範囲:P.272 - P.275

 老年者では痴呆化を始め,不定の精神症状,神経症状を示しやすいものである.痴呆を主とした精神症状のみの場合もあり,さらに神経症状の加わることも多い.また意識レベルの低下を中心とする場合も少なくない.
 このような場合,第一に考えるべきものが慢性硬膜下出血(血腫)である.

図解病態のしくみ 消化器疾患・10

下痢(3)—急性下痢

著者: 松枝啓

ページ範囲:P.276 - P.281

はじめに
 急性下痢はその発現が急で下痢自体も重篤なことが多く,臨床上最も頻回に遭遇する下痢であるため,プライマリー・ケア上大切な問題である.この原因疾患としては,前述のように細菌性やウイルスによる急性胃腸炎が主なものであるため,ここではその急性胃腸炎の診断および治療について述べる.

外来診療・ここが聞きたい

腎尿管結石のfollowing up基準

著者: 和久正良 ,   西崎統

ページ範囲:P.282 - P.286

症例
 患者 29歳 男性,会社員(営業)
 現病歴 約半年前から,時々長く歩くと,左腰に鈍痛を伴うだるさがあることに気づていた.ここ1週間前から,夕方になると疲れやすく微熱が続くとのことで来院.微熱に対しては感冒の治療で改善し疲れもとれたが,時々出現する左腰痛の精査を希望した.なお,血尿や頻尿はいままでになかった.

目でみる心筋梗塞・2

心電図所見と剖検所見の対比

著者: 堀江俊伸

ページ範囲:P.242 - P.243

 臨床上心電図所見から梗塞部位の拡がりやその重症度を知ることは,治療ならびに予後の判定に重要である.次に検索例を示す.
 患者:R.K,56歳,男,会社員.

medicina CPC

呼吸困難と高度の肝機能障害を示した22歳男性の一剖検例

著者: 斉藤久雄 ,   山下秀光 ,   中村嘉孝 ,   村上義次 ,   太田怜

ページ範囲:P.296 - P.308

下記の症例を診断してください
 症例 22歳 男
 主訴 起坐呼吸と肝機能障害
 家族歴 両親とも健康,特記することなし.

紫煙考

煙の科学(2)

著者: 浅野牧茂

ページ範囲:P.293 - P.295

●たばこ煙有害作用の指標
 たばこ煙は前回に紹介したようにさまざまな有害物質を含んでいるが,たばこ煙の有害作用の指標として,以下のごとき事項があげられている1)
 1)一般的たばこ煙毒性の指標として全粒子相物質(TPM)およびニコチン
 2)ニコチン毒性の指標としてたばこ煙のpH
 3)気相毒性の指標としてCO,CO2およびHCN
 4)気道粘膜繊毛上皮に対する毒性の指標としてアセトアルデヒドおよびアクロレイン
 5)毒性と香喫味に関与する揮発性塩基としてピリジン
 6)揮発性の発癌促進因子の指標としてフェノール類
 7)発癌性因子の代表としてベンツアントラセンおよびベンツピレン

天地人

タバコと健康問題

著者:

ページ範囲:P.309 - P.309

 タバコが人体に有害だということは,コロンブスが発見した新大陸からイギリス,スペインへタバコを持ち帰った16世紀の初めに,すでに議論されている.この論議は紙巻タバコの生産量と消費量が増えるにつれて活発となり,また多くの報告もなされてきた.しかし,一般にはタバコに対してあまりにも寛大すぎる.これだけ健康への害がはっきりしているのに専売公社はなお広告をしている.一般の企業でこれだけ害のはっきりしているものを販売していたら,とっくの昔に住民運動とか消費者の集いとかに押しつぶされ,倒産しているであろう.健康への害だけではない.多くの火事のもとはタバコの吸いがらであり,駅のホームや公園を汚す元凶もタバコである.
 近頃とくにおかしく思うのは,「公害をなくす会」とかの人達がタバコを吸いながら環境庁ヘデモをしていることである.正に漫画的だし,銀行ギャングがコソ泥をしかるようなものだ.

オスラー博士の生涯・79

傷心のうちにもオスラー文庫の目録作りにはげむ(1918年)

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.312 - P.316

 一人息子のリビアが死亡した4ヵ月後にオスラー夫妻はクリスマスを迎えた.今までになく寂しいクリスマスであったが,オクスフォードのオープンアームズのオスラーの家は多勢の若い人々で賑わい,夫妻は心の寂しさを隠しながら,若ものの心の憩いの家として,私宅を提供した.

他科のトピックス

レーザーメスによる脳腫瘍の手術

著者: 滝澤利明

ページ範囲:P.310 - P.311

レーザーとその応用
 脳腫瘍の手術は出血との不断の闘いである.しかも外科の有効な止血手段である止血鉗子や結紮法を適用できない.そのため脳外科独自のさまざまな止血法が考案されてきた.
 その中でもっとも重要なものは,米国のH. Cushingが1926年にはじめて導入した電気メスである.これは高周波電流を生体に通電するとジュール熱が発生し,組織を熱凝固するもので,革命的な発明であった.その後半世紀以上,電気メスは脳外科医の主要な武器であり,現代の脳外科は電気メスなしでは考えられないのである.一方,量子エレクトロニクスの成果であるレーザーは1960年に誕生した.LASERという言葉はLight Amplification by Stimulated Emission of Radiation(誘導放出による光の増幅)という英語の頭文字を連ねて作った合成語である.通常レーザー光を発生する装置をさすが,場合によりレーザー光線そのものを意味する.レーザー光は自然界に存在しないまったく人工的な光である.自然光との違いは波長も位相も揃った光であるという点で,そのため波の山と山,谷と谷を重ねあわせて増幅できる.しかも光であるから特殊なレンズで一点に集光できる.つまり,一点に莫大なパワーを集中できるわけであり,波長によっては鋼鉄でもダイアモンドでも一瞬にして穿孔する.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻12号(2023年11月発行)

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60巻11号(2023年10月発行)

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特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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