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雑誌目次

雑誌文献

medicina17巻3号

1980年03月発行

雑誌目次

今月の主題 肺の炎症性疾患—最近の動向

理解のための10題

ページ範囲:P.396 - P.398

診断

鑑別診断のすすめ方

著者: 伊藤和彦 ,   高納修

ページ範囲:P.329 - P.331

はじめに
 近年新しい抗生剤の使用により,感染症に対する化学療法は偉大な進歩を遂げた,しかし反面,日常経験する感染症は従来とは著しく病像を異にしてきており,呼吸器分野においてもその鑑別に際し,困難なことも多い.そこで本稿では肺炎を起因菌によって表1のように分け,その鑑別のすすめ方について述べる.

起炎菌とその決定

著者: 松本慶蔵

ページ範囲:P.332 - P.333

起炎菌の決定の意義
 細菌性呼吸器感染症の的確な診断と治療の遂行に当たって最も重要なことが,起炎菌の決定であることはいうまでもない.喀痰を対象にして起炎菌を決定する時,口腔内細菌の汚染をうけるため,それを排除する方法が試みられ,その方法として喀痰内細菌叢定量培養法(喀痰定量法)と喀痰洗浄培養法が主に行われつつある.前者は筆者らが推進してきた方法で,後者は大阪市大第1内科塩田・三木が推進してきた方法である.これらの方法によってすべての細菌性感染症の起炎菌が決定できる訳ではない.その理由として次の事項があげられる.
 ①既に抗生剤の投与をうけている場合,②ウイルス感染が主体で細菌感染が従の場合,③的確な喀痰ではなく,唾液が主体である場合などがあげられ,重症の細菌感染症では①のことが多いが,そのほかに意識が混濁していて喀痰が採取できない場合もある.喀痰が得られない時には,気道内分泌物を経気管的に採取する気管穿刺吸引法(transtracheal-aspiration;TTA)が有用である.

日和見感染—とくにPneumocystis carinii肺炎について

著者: 森健 ,   池本秀雄

ページ範囲:P.334 - P.338

はじめに
 相次ぐ抗生剤の開発により,病原性の強い微生物の感染症は,早期治療が行われるかぎり,ほぼ治癒させることができるようになった.一方,種々の薬物療法などの進歩によって,白血病などの重篤疾患を有する患者の延命効果が期待できるようになった.これらの結果,新たに出現したものがopportunistic infectionsである.これは宿主の正常細菌叢を構成している微生物や,平素無害と考えられている菌,あるいは雑菌とされている外因性微生物によって惹起される感染症である.このop portunistic infectionsに対する訳語としては,日和見感染がよく用いられているようである1)
 以下日和見感染の概略について述べ,その代表的疾患の1つとして,最近とくに注目されているPneumocystis carinii肺炎を取り上げてみたい.

抗酸菌

粟粒結核の現状

著者: 岡安大仁 ,   児島克美

ページ範囲:P.340 - P.341

はじめに
 粟粒結核は胸部X線上びまん性の粟粒大の粒状影を呈し,少なくとも2臓器以上に粟粒大の結核結節を認める疾患であり,乾酪病巣から血流中に入った結核菌が豊富な血流を有する毛細血管床をもつ臓器に侵入し,その結果として多臓器にわたって毛細血管床に塞栓をつくり,播種性の結核結節を形成することによって惹起される.化学療法以前には本症の全てが死亡したが,優れた抗結核剤の出現により結核症が著しく減少してきたのにつれ,粟粒結核の臨床像も過去20数年間に大きな変化を認めるにいたっている.とくに子供の初感染結核の合併症としての死亡率の高い粟粒結核は減少し,中高年層の陳旧性初感染巣の再燃に伴う晩期播種型が増加している1).わが国でも本症の変貌をとらえ,第48回日本結核病学会総会(1973年)のシンポジウムで「最近の粟粒結核症」が取り上げられたが,勝呂2)は人口動態統計,日本病理剖検輯報,全国アンケート調査例ともに,最近発生頻度の増加がみられ,577例の調査例では若年者(20〜24歳)に,剖検輯報例では壮・老年者(40歳以上)に高率であったとしている.このように発症年齢の高齢化に伴い定型的な病態を呈する症例が少なくなり,剖検によって初めて播種性結核結節を検出し,本症と診断されるような,いわゆるcryptic typeの粟粒結核が増加している.

乾酪性肺炎

著者: 青柳昭雄

ページ範囲:P.342 - P.344

はじめに
 肺葉全体またはその大部分に一様に拡がった浸出性病変を主とし,放置すれば多くは大きい乾酪壊死病巣を形成し,軟化して多房性の空洞を生ずる肺結核症を乾酪性肺炎と呼んでいる.
 臨床症状,胸部X線像が一般細菌による大葉性あるいは区域性肺炎と類似しているので,本症の特徴を熟知しておくことは肺炎の鑑別診断上必要である.

非定型抗酸菌症

著者: 山本正彦

ページ範囲:P.346 - P.347

概 念
 非定型抗酸菌症(atypical mycobacterial disease)は非定型抗酸菌(atypical mycobacteria)による感染症であり,そのほとんどは肺疾患であるが,少数例には皮膚病変,リンパ節病変,髄膜炎を含む全身播種型などの肺外疾患をみることもある.
 非定型抗酸菌の定義はヒト型結核菌(ウシ型菌を含む)以外の抗酸菌の総称であり,したがって多くの菌種(species)の集りであるため,単にその抗酸菌がヒト型結核菌と異なるとするのみでは不十分であり,菌種までに同定することが望ましい.

真菌と寄生虫

アレルギー性気管支肺アスペルギルス症

著者: 伊藤章

ページ範囲:P.348 - P.349

はじめに
 アレルギー性気管支肺アスペルギルス症は,アスペルギルスが原因抗原となり,アトピー性体質者にI型とIII型のアレルギー反応が同時に起こったものと考えられ,外因性アレルギー性喘息と外因性アレルギー性肺胞炎の中間に属する.Pepys2)は,アスペルギルスの胞子あるいは菌体が原因となって起こるヒトの呼吸器疾患を,アトピー性素因の有無により表1のごとく分けている.
 非アトピー性体質者に起こる外因性アレルギー性肺胞炎でアスペルギルスによるものは麦芽業者にみられるA. fumigatusやA. clavatusの大量吸入が原因となる麦芽肺症malt worker's lungが知られている.アトピー性体質者のアレルギー性気管支肺アスペルギルス症は,1952年英国でHinson1)らによって報告されたのが最初で,英国での報告例が多い.米国では従来症例は比較的少なかったが,1967年Spotnitz3)らの報告以来数十例を数え,本邦では1971年加藤4)らによる第1例が最初である.

肺吸虫症

著者: 辻守康

ページ範囲:P.350 - P.351

はじめに
 わが国の肺吸虫症はほとんどがウェステルマン肺吸虫の寄生によるが,1974年に林,横川らが宮崎肺吸虫の人体寄生例を見出して以来,この宮崎肺吸虫症患者も現在までに約70例が報告されている.外国ではウエステルマン肺吸虫のほかケリコット肺吸虫,スクリアビン肺吸虫,タイ肺吸虫,アフリカ肺吸虫,メキシコ肺吸虫,ペルー肺吸虫などの人体寄生例が報告されている.これらのうち現在なおわが国でしばしばみられるウエステルマン肺吸虫症の概略について記すとともに,宮崎肺吸虫症の症例についてもふれてみたい.

マイコプラズマとウイルス

マイコプラズマ肺炎

著者: 原耕平 ,   泉川欣一

ページ範囲:P.352 - P.354

マイコプラズマ肺炎とは
 1944年Eatonは原発性異型肺炎患者より一種の微生体を分離したが,これはその後の研究によりマイコプラズマの性状を有することが判明した.ヒトから分離される9種類のマイコプラズマのうち,病原性を有するものはMycoplasma Pneumoniae(M. Pneu.)のみとされているが,本菌が肺炎をはじめ,気管支炎,上気道炎をも惹起し,また最近は慢性呼吸器疾患の増悪に関与することも判明してきている.
 原発性異型肺炎のうちの30〜40%がM. Pneu. によるとされているが,この肺炎は感染1〜2週後に上気道症状やときには全身症状をもって発症し,咳嗽,喀痰,発熱を主症状として,胸部X線上主として両側下肺野に淡い均等影を示し,比較的軽微な経過をとって改善をみる疾患である.しかし時として経過中に種々の合併症を併発して,有効な薬剤の投与に拘らず長期にわたって排菌を認めたり,症状が持続することもある.

オウム病

著者: 河合健 ,   藤野忠彦

ページ範囲:P.355 - P.357

はじめに
 オウム病Ornithosis, Psittacosisは,クラミジアの感染症で,従来ヨーロッパでの報告が多かったが,わが国では1957年の報告以来まれながらみられ,新しい形の肺炎として注目されている.自然界では,オウム,インコ類が主として感染するが,ハト,ニワトリ,七面鳥,鷲鳥,カナリアなどもおかされる.クラミジアに感染した鳥類は,肺炎や下痢をおこし衰弱するが,その際これらの鳥と直接接触するか,排泄物,痰などを吸引して発病するものである.
 鳥と人との関わりが病気の原因となるものとして,クリプトコッカス症と鳥飼病があげられるが,前者は鳩が保菌者としての意味をもつもので,排泄物中のクリプトコッカスに感染することから,オウム病に類似する.鳥飼病は,鳥の排泄物中の有機塵埃抗原によって,経気道的に感作された結果としておこる過敏性肺臓炎である.

膠原病とアレルギー

リウマチ肺臓炎

著者: 重松信昭 ,   松葉健一

ページ範囲:P.358 - P.359

はじめに
 慢性関節リウマチ(RA)は関節罹患を主とする系統的疾患であるが,ほかにも眼(keratoconjuctivitis),リンパ節,心臓,皮膚などに病変をみることがある.肺罹患は,最初にEllmanら1)によりrheumatoid lungとして報告されたが,その後,その特異性をめぐって種々の考察が加えられた.そして,RA症例と非RA症例とで,胸部X線像や剖検所見の対比がなされ,RA患者に多くの非特異性病変がみられるとの指摘もあったが,Rubinらの注意深いreviewなどにより,現在ではRAと肺の間質性病変との関連性が一般に受けいれられている2)
 筆者らは,1969年にびまん性間質性肺炎像(UIP)を呈する疾患について検討し,他のびまん性肺疾患との鑑別,さらにはUIPに含まれるrheurnatoid lungと特発性肺臓炎との異同につき考察した3).今回は,その後に得られた知見や最近の報告を加えて,RAに伴う肺および胸膜病変の実態,その発生機序,および診断,治療に関する新しい問題をとりあげてみたい.

Goodpasture症候群

著者: 荻間勇 ,   山本保

ページ範囲:P.361 - P.363

はじめに
 Goodpasture症候群(以下G症)は,①喀血を説明しうる明らかな変化が肺胞や肺動脈にみとめられない,②多発性動脈炎に類似する血管炎を他の臓器にみとめない,③巣状,またはびまん性腎炎がみられる,などの条件をみたすものとされていた.
 1964年以後,本症の免疫組織学的,血清学的知見が集積され,①肺出血,②腎炎,③Anti-Glomerular Basement Membrane Antibody(以下anti-GBM抗体)の三者がみとめられたものをG症とする定義が定着しつつある.

過敏性肺臓炎

著者: 可部順三郎

ページ範囲:P.364 - P.365

はじめに
 過敏性肺臓炎は有機粉塵の吸入によって起こる農夫肺症farmer's lungおよび類似疾患を総括する名称で,外因性アレルギー性胞隔炎extrinsic allergic alveolitisともよばれる.
 農夫肺症は1713年にRamazziniが高温の穀物を扱う労働者に起こる疾患としてはじめて記載し,1932年Campbellによって,かびた枯草の曝露が原因となって起こる症候群として現在の形にまとめられた.

反応性肺炎

尿毒症性肺炎

著者: 光永慶吉 ,   橋本憲一

ページ範囲:P.366 - P.367

診断基準
 尿毒症性肺炎は重症腎疾患の末期,尿毒症状態において肺に現れる中心性亜急性肺水腫を主体とした病態である.
 本症の特異性に関しては現在なお論議があり,単なる左心不全やoverhydrationによる肺水腫に過ぎないとする論もある.しかし,臨床上また解剖時に左心不全やoverhydrationの所見に乏しい例にも本症が存在し,また後述するごとき血管透過性亢進に基づく病理学的所見,特徴ある胸部X線像や人工透析療法による急速な消腿などは本症の独立性を示唆するものと思われる.

放射線性肺炎

著者: 吉田稔 ,   関雅彦

ページ範囲:P.368 - P.370

はじめに
 肺や胸郭内諸臓器の悪性腫瘍,たとえば悪性リンパ腫,食道癌,縦隔腫瘍等に対して,60Co,ベータートロン,リニアックなど高エネルギー放射線による放射線療法が今日しばしば行われている.それに伴い放射線照射による肺組織への反応,障害が生ずるが,これが一般に放射線性肺炎,radiation pneumonitisと呼ばれている.これについての最初の報告は1921年Grooverらによりなされたが,その後もこれに関連しての実験的,臨床的報告が多数認められる.放射線の組織への影響は,基本的にはRubin,Casarettらも指摘するごとく,放射線の組織吸収に伴い,組織内に有機過酸化物を生ずること,さらに遺伝物質であるDNAに影響を及ぼすこと,蛋白質や多糖類等の非遺伝物質への放射線の障害により,細胞膜の透過性の亢進をもたらすことなどから,放射線照射が肺の形態的変化,つまり線維化や機能的障害の原因となる.要するに,放射線性肺炎は腫瘍に対する放射線治療上の副作用として発症するもので,臨床的には放射線の種類,エネルギー量と共に,その影響をうける個体側の状態,年齢,胸壁の厚さなどが発症ならびにその障害程度を左右する重要な要因としてあげられる.

薬剤誘起性肺臓炎

著者: 田村昌士

ページ範囲:P.372 - P.373

はじめに
 最近薬害による肺病変に対する関心が高まってきているが,一般に薬剤によって起こる肺病変としては間質性肺炎,肉芽腫性肺臓炎,胸水貯留,肺水腫,好酸球性肺浸潤,気管支喘息,肺高血圧症,縦隔および肺門リンパ節腫大,石灰沈着,肺塞栓症,呼吸筋麻痺など多彩をきわめる.ここでは紙数の都合もあるので,薬剤による間質性肺炎(肺臓炎)を中心に述べることにしたい.

その他

びまん性間質性肺炎

著者: 吉良枝郎 ,   荒木高明

ページ範囲:P.374 - P.376

炎症としての病理像
 本症は厚生省特定疾患の1つに指定されており,近年注目を集めている原因不明の疾病である1)
 山中2)による本症の特徴的病理像を表1に示した.病理学総論的にいえば炎症とは,①循環障害-透過性亢進,②細胞成分の浸出 ③組織の変質,④組織増殖の形態像で特色づけられるが,有害な刺激が加わり組織障害,これに対する一連の防御,修復反応が起こる過程である.刺激としては微生物,化学的物質その他多彩な原因がありうる.これらの病理学的過程と本症の病理像とを対応させると,①としては肺間質の水腫,肺胞壁に沿った硝子膜の形成,②としては好中球は目立たないが単球,組織球,リンパ球,大食細胞の浸出 ③としては肺胞の虚脱,呼吸細気管支の拡張(bronchioloectasis),これらの組み合わせによる蜂窩肺の形成,④としては肺胞隔壁など間質に線維化がみられ,本症は原因は不明であるが有害な刺激が肺の間質局所に加わり,発生した炎症としてとらえることができる.しかも肺胞腔を主な場とする肺炎球菌などによる細菌性肺炎とは異なり,本症では前述の特色をもつ炎症が,びまん性に肺の間質に進展する特色がある.この種の病変が進展すると終末像として肺の線維化が間質を中心に発生してくるため,同意語的に肺線維症という名称も使用される.

Fibrosing bronchiolitis

著者: 大久保隆男 ,   菊地亮 ,   富岡元明

ページ範囲:P.377 - P.379

はじめに
 肺胞・気道系の終末細気管支を中心とする領域に,気道粘膜から気管支周囲組織にまでわたる炎症性変化の存在する慢性気管支炎の一型を,びまん性汎細気管支炎として最初に記載したのは本間・山中ら1)であった.
 一方,筆者らの教室では,本症とほぼ同様の疾患をfibrosing bronchiolitis(滝島2))として扱っているが,これは本症を慢性閉塞性肺疾患COLDの中で慢性気管支炎の一型として取り扱ってゆこうとする立場をとるからである,本文では,これらの点を含めて,主に定義と診断について述べてみたい.

治療

肺感染症に対する抗生物質最近の進歩

著者: 大崎饒

ページ範囲:P.381 - P.383

はじめに
 呼吸器感染症に用いられる抗生剤は,年々新しい多種のものが開発されている.有機化学の進歩もさることながら,呼吸器感染症の様相が変遷していることもその大きな要因と考えられる,従来みられていた肺炎球菌,Klebsiella感染症による大葉性肺炎等急性炎症例は減少し,これに対し慢性気道感染症あるいは肺気腫を代表とする慢性閉塞性肺疾患の感染合併による急性増悪をきたすような例が増加してきている.これら慢性気道感染の起炎菌としては,従来の抗生剤に抵抗性のあるH. influenzae,Staphylococcusグループが知られてきた.細菌側の抵抗性獲得の要因のほかに,生体側にも免疫能力の低下している,いわゆるcompromised hostが増加し(免疫能を低下させる疾患に罹患,あるいは免疫抑制剤の投与を受けているもの)今まで正常細菌叢の一種とされていたものが病原性を発揮するようになったり(これには細菌ばかりでなく真菌も含まれる),あるいは新種の感染症legionnaires'diseaseが出現したり,呼吸器感染症のコントロールは複雑となってきている.細菌の薬剤抵抗獲得の機序は近年の生物学,生化学の進歩により解明されてきており,これにうちかつ抗生剤の開発も盛んであるが,抗生剤の汎用による起炎菌の変遷も明らかとなり,細菌-抗生剤-抗生剤抵抗性細菌-新抗生剤という絶え間ない抗争のくり返される危険性もある.

肺結核の短期強力療法

著者: 今野淳 ,   萱場圭一

ページ範囲:P.384 - P.385

はじめに
 結核の治療には初回化学療法が最も重要であり,初回化療は有効かつ強力に行うことが再発を防ぐ上からも大切である.従来の標準的な初回化療の治療方針としては,速やかに入院の上,SM,PAS,INH三者併用療法を最低1年以上行い,その後次第に軽快し活動性病変が認められなくなれば,PAS,INH併用,さらにはINH単独と漸減する,ただし重症な場合は最初の1〜3ヵ月SMを毎日使用することになっている.しかし,それでも排菌の止まらない治療失敗例がたまたまみられた.しかるにその後EBが出現し,またさらに強力なRFPが使用されるに及んで,SM,PAS,INHの代りに,SM,INH,RFPまたはEB,INH,RFPの強化三者併用療法を初回から用いれば重症例でも早期に100%の菌陰転をみ,X線基本病変,空洞改善率にもすぐれ,また入院および治療期間も短縮でき,再発率も少なく,初回化療の失敗を防ぐことができることがわかった.

座談会

肺炎の鑑別診断とその扱い方

著者: 滝沢敬夫 ,   谷本普一 ,   吉良枝郎 ,   金上晴夫

ページ範囲:P.386 - P.394

 抗生剤の出現以来,肺炎は昔ほど恐れられることはなくなったが,起炎菌が決定できずに手こずる例も多くなっている.とくに最近増えているマイコプラズマ肺炎や,さらに宿主側の要因による日和見感染症など,まだまだ問題が多い.そこで本欄では原因菌を同定できない時点での鑑別診断および治療薬の選び方のポイントを話していただいた.

胸部X線写真の読み方

実質性病変と間質性病変

著者: 松山正也 ,   甲田英一

ページ範囲:P.404 - P.409

 松山 前回にsilhouette signについてお話いたしましたが,同様に肺の実質性疾患と間質性疾患のX線上の見方は,肺疾患診断上非常に大事です.したがいまして,本日は,典型的な例をあげて読んでいただきたいと思います.

演習・放射線診断学 CTスキャン読影のコツ・9

副腎

著者: 古井滋

ページ範囲:P.410 - P.414

はじめに
 撮影時間の短縮をはじめとするCT装置の進歩によって,腹部CTにおける正常副腎の描出率は著明に増加し,最近の装置ではほぼ全例で左右の副腎の同定が可能となっている1).副腎疾患についても,原発性アルドステロン症の副腎腺腫のような比較的小さな病巣の検出が可能となったことから,CTの臨床的価値が評価され,すでに各種疾患のCT所見,他の検査法との比較,CTの使用法などについての検討も行われている.
 本稿では,当科で経験した症例といくつかの文献をもとにして,主な副腎疾患のCT診断法について記載する.

連載

目でみるトレーニング 36

ページ範囲:P.416 - P.421

プライマリ・ケア

多摩ニュータウンにおけるメディカルプラン(1)

著者: 小松真 ,   田中恒男 ,   中村弘夫 ,   本郷元夫

ページ範囲:P.446 - P.451

 本郷(司会) 昭和40年代の初頭からはじまった,多摩ニュータウン計画という大規模な新しい町づくりもすでに10数年の歳月を経ました.この10年はいかにして新しい医療構想,医療体制を実現させていくかという努力の積み重ねであり,さらに将来に向けての新しい問題への取り組みであったと思います.
 地方の時代といわれ,定住圏構想としての町づくりが各地域で進められる現在,この多摩ニュータウンにおけるメデイカルプランの歩みが各地の町づくりと医療体制づくりの参考になろうかと考えます.

臨床免疫学講座

感染と生体防御反応

著者: 堀内篤

ページ範囲:P.424 - P.428

 一般に細菌やウイルスの微生物あるいは原虫や寄生虫類の寄生体による感染症は,感染因子の病原性と宿主の感受性,すなわちhostparasite relationshipによって左右されている.宿主の免疫監視機構は侵入したこれらの病原体(抗原)を非自己と認識し,その病原性に応じた防御機構を働かせて,生体諸機能の恒常性が損われるのを防ごうとしている.実はこの機序を解明することが現在の免疫学の出発点であった.感染免疫の研究はやがて感染予防にまで発達し,ワクチンの開発は人類に大いに貢献している.

Laboratory Medicine 異常値の出るメカニズム・24

コルチゾール

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.430 - P.433

コルチゾールの分泌と調節
 コルチゾールは副腎皮質から分泌され,ブドウ糖,蛋白代謝作用の強いいわゆるグルココルチコイドの代表的なステロイドである.このほかにコルチゾン,コルチコステロン(電解質作用の方が強い)もこの種に属し,11-OHCSや17-OHCSとして測定されるものの主たるものである.コルチゾールはACTHの影響下で皮質束状層よりコレステロールから合成され,ラットの実験でコレステロールのコルチゾールへの変換速度は副腎細胞に作用しうるACTHの量に正比例するといわれる.
 このACTHのステロイド合成機序については明らかでない点も多いが,副腎におけるcyclic(c)-AMPの関与がもっとも有力である.つまりACTHが副腎に到達してから1分以内にステロイド分泌増加がみられるが,その直前にc-AMPの急増がみられる.副腎でのc-AMPはプロテインキナーゼのregulatory subunitに結合することでプロテインキナーゼを活性化させ,次いで蛋白の燐酸化を促進させることでコレステロール側鎖を切断するという説である.ACTHはc-AMPを介してコレステロールからのステロイド合成を刺激すると思われる.

老人診療のコツ

肺炎は発熱のみで!—無熱でも肺炎を疑え

著者: 大友英一

ページ範囲:P.434 - P.437

肺炎は第一の命取り
 抗生剤の普及した現在においても,老年者の死因の第一を占めるものは肺炎である.
 浴風会病院における剖検例からみると,60〜70%に肺炎が認められており,この肺炎が認められた例の45%では肺炎が直接死因,8%が間接死因となっており,老年者が死亡する場合,その約1/3は肺炎が死因となっているのである.

外来診療・ここが聞きたい

くり返す尿路感染症

著者: 和久正良 ,   西崎統

ページ範囲:P.438 - P.441

症例
 患者68歳 男性,自由業(画家)
 現病歴 約2年前に,雨の中を歩いた翌日,高熱が出現,かぜだろうと自己判断して近医を受診し治療を受けたがすっきりせず,某病院を受診した.そのとき,腎盂腎炎と診断され治療を受けた.その後も何回となく2〜3日続く高熱と混濁尿をくり返していたが,今回も約1週間続く微熱と混濁尿で来院した.

新しい栄養学の知識

蛋白質の特異動的作用

著者: 林伸一

ページ範囲:P.442 - P.444

はじめに
 食事をすると,まもなく身体が暖かくなり,夏だと汗が出てきたりすることは,誰でも体験して知っている.このような,食事によるエネルギー代謝(熱産生)の亢進は,今世紀の初め頃,ドイツの生理学者Max Rubnerによって,特異動的作用(specific dynamic action)と名づけられた.しかし,そのずっと以前に,Lavoisierが,すでにこの現象を見だしている.燃焼が酸化反応であることを発見し,呼吸と燃焼が本質的に同じ現象であることを洞察したLavoisierは化学の父とも栄養学の父とも呼ばれるが,彼が1785年に炭酸ガスの発見者であるBlackに宛てて出した手紙の中で,人間の酸素消費量は安静状態で最も少なく,寒冷,食事,および運動によって増加することを報告しているのである.つまり,すでに彼はエネルギー代謝の基本的要因を定量的に把握していたわけで,ただ驚きのほかはない.
 このように古くから知られ,また多くの研究がなされたにもかかわらず,特異動的作用の原因は,まだ解明されたとはいえない.また,概念の混乱もしばしば見受けられる.ここでは,最近の知見をふまえ,特異動的作用の本態と機序について,私の考えをまとめてみたい.不備な点も多くあると思うが,大方のご批判をいただければ幸せである.

目でみる心筋梗塞・3

心筋梗塞後の心室瘤

著者: 堀江俊伸

ページ範囲:P.400 - P.401

 心筋梗塞後の心室瘤は梗塞後におこる合併症のうちでもっとも頻度が高い.
 心室瘤とは剖検上「左室の限局的な瘤状突出であり,同時に内腔の突出をも伴うもの」と定義され,左室造影上では,「収縮期,拡張期の全経過を通じて,本来の左室腔より心内腔が異常に突出しているもの」と定義されている.

天地人

処方箋

著者:

ページ範囲:P.455 - P.455

 フランクフルトの空港で飛行機を待つ間所在なく歩きまわっていると,ふと薬局の文字が目に入った.少々体調に異常を覚えていたこともあって反射的にドアを押すと,白衣姿の青年が丁重に,「何をお求めですか」と問いかけてくる.アメリカ風のドラッグストアとは趣き違って簡素・清潔そのもので,飾られているものがないからあれこれ品定めをすることもない.斯くかく然かじかのものをと告げると,「ああ,それには医者の処方箋が必要です」という.さもありなんと自己紹介よろしく理由を伝えると,即座に「分かりました.では価格も医者用でけっこうです」と,引き出しの中からしかるべき2,3点をとり出す.整頓された店内のしつらえ同様に応答の言葉づかいも簡潔でむだがない.「余分なことかもしれませんが,ここに服薬注意が記されています.さようなら」と,まあこのような次第だった.ドイツ的だなあと思った.
 湯浅年子さんの『続・パリ随想』(みすず書房)の中に「病人憲章」という一項がある.外国での発病から医療をうける手順の中で,医者と患者の信頼関係・相互不信がとりあげられているが,「薬はのんでいますか」「いいえ,どれも効かないからやめてアスピリンをのんでいます……」と診断と治療への疑念をぶちまけ,何のためにこの薬が必要なのか説明をしてくれないし,時には錠剤を三分の一ずつのみなさいというが,計りもしないでどうして正確に1/3にできるかと不満を述べている.

オスラー博士の生涯・80

"Aequanimitas"

著者: 日野原重明 ,   仁木久恵

ページ範囲:P.456 - P.461

 本欄もオスラーの晩年時代に入って,あと数回を残すのみとなったが,本号では,時代を少し遡り,1889年5月1日に行われたペンシルバニア大学を去るにあたっての彼の遺した最も有名な講演の一つを,全文を紹介する.

紫煙考

喫煙と喉頭癌

著者: 佐藤武男

ページ範囲:P.462 - P.463

●喫煙史と喉頭癌の疫学
 1492年Columbusがアメリカ新大陸を発見し,タバコを旧大陸に持ち帰るまでは,ヨーロッパ,アジア,アフリカには喫煙習慣はなかった.喫煙習慣があったのはアメリカインディアン,マヤ人などであり,紀元前よりタバコ栽培していたに過ぎなかったのである.
 その後は急速にフランス,ポルトガル,スペイン,イタリアなどのラテン諸国,地中海沿岸諸国,オランダ,イギリスなどに普及し,16世紀,17世紀前半までに全世界に及ぶのである.わが国へは17世紀初頭に鹿児島,長崎などにタバコ種子が入ってくる.

他科のトピックス

風疹生ワクチン—その特徴とポリシー

著者: 植田浩司

ページ範囲:P.452 - P.453

 風疹生ワクチンは女子中学生を対象に昭和52年度より定期予防接種として行われるようになった.これまでの他のワクチンが対象となる伝染病の症状の軽減を目的としたのに対し,風疹生ワクチンの目的は妊婦の風疹感染に起因する先天異常,すなわち,先天性風疹症候群congenital rubella syndrome(CRS)の発生を予防することにあり,積極的に先天異常の一つの予防を可能にし,これを実現させようとする,医学の歴史における画期的なできごとである.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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