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雑誌目次

雑誌文献

medicina17巻5号

1980年05月発行

雑誌目次

今月の主題 甲状腺疾患診療の進歩 座談会

甲状腺疾患へのアプローチ

著者: 飯野史郎 ,   尾形悦郎 ,   藤本吉秀 ,   中島博徳 ,   鈴木秀郎

ページ範囲:P.652 - P.662

 1000人に1人はバセドウ病だ……意外に多い甲状腺疾患を,見逃すことなく的確に診断・治療をすすめるにはどうすべきか.最新の話題を織り込みながら,現時点における甲状腺疾患へのアプローチのしかたを,お話しいただいた.

トピックス

視床下部—下垂体系と甲状腺

著者: 山田隆司

ページ範囲:P.664 - P.667

 ここ10年来におけるこの分野の最も大きな収穫は,視床下部よりTRHが抽出され,合成されて臨床的に応用され,診断,治療の面で大きな福音が得られたことである.今後に残された大きな臨床的課題は,TRHを甲状腺疾患以外にどう使用し得るかということであろう.この意味で,できる限り具体的事実をあげて述べてゆくことにしたい.

LATSからHTSAbへ—Graves病の成因

著者: 森徹

ページ範囲:P.668 - P.669

 Graves病の成因の詳細は今日に至るもなお明らかではない.しかし,本症の病態は血中の甲状腺ホルモン過剰状態による甲状腺中毒症状(頻脈,体重減少,多汗,イライラなど)とともに,びまん性甲状腺腫大,眼症状および皮膚症状(前頸骨部限局性粘液水腫)からなっている.眼や皮膚はともかくも,甲状腺の過形成型の腫大とそれに伴うホルモン過剰分泌を最もよく説明できるのは甲状腺刺激物質の存在である.
 1956年Adamsらは本症患者血清中にモルモット甲状腺を刺激する物質LATS(long acting thyroid stimulator)が存在することを報告した.その後このような刺激物質は自己抗体と考えられ,種属特異性があることが明らかとなり,現在ではヒト甲状腺の特異的刺激物質としてHTSAb(human thyroid stimulating antibody)が注目されており,本症はHTSAbに関連した自己免疫疾患と理解される方向にある.以下,今日までのこの面の研究の進歩を概説し,Graves病の成因についての現時点での考察を試みたい.

甲状腺疾患とHLA

著者: 小西淳二 ,   鳥塚莞爾

ページ範囲:P.670 - P.672

はじめに
 近年マウスを中心とする実験的な免疫遺伝学の著しい進歩により,主要組織適合抗原(major histocompatibility antigen)と免疫応答の遺伝的制御との密接な関わりが明らかにされ,ヒトにおける主要組織適合抗原と考えられるHLA(human leucocyte antigen)と疾患との関連が注目を集めるに至った.そして最近数年間に,従来原因不明あるいは自己免疫機序の想定されてきた種々の疾患とHLAとの相関が相次いで明らかにされている.
 甲状腺疾患についても,従来より遺伝的素因の関与が考えられてきたGraves病や橋本病など自己免疫性甲状腺疾患とHLAとの関連が早くより追求されており,これら疾患の発症に関与する遺伝要因の解明への道が開けつつある.

甲状腺疾患と妊娠

著者: 網野信行 ,   谷沢修

ページ範囲:P.674 - P.677

はじめに
 甲状腺疾患は女性に多発し,しかも妊娠可能域年齢に好発することから,妊娠合併による影響は古くから日常診療でも問題とされてきている.以下,正常妊娠時での甲状腺機能の変動,バセドウ病および橋本病と妊娠合併につき,筆者らが最近見出した新知見も含めて述べる.

検査

甲状腺機能検査のすすめ方

著者: 飯野史郎

ページ範囲:P.678 - P.683

はじめに
 甲状腺疾患を診断するには,まず,甲状腺疾患の種類と特徴を熟知し,甲状腺機能検査法に精通することが必要である.甲状腺疾患には表1に示すごとく,甲状腺の機能異常を伴うもの,甲状腺の炎症,甲状腺の腫瘍などのほかに,最近ではサイロキシン結合蛋白異常症や甲状腺ホルモンに対する細胞受容体異常症などもある.甲状腺機能亢進症は過去においてはバセドウ病と同義語であったが,現在では,それ以外に原発性,二次性(下垂体性など)および三次性(視床下部性)甲状腺機能亢進症を含んだ集合名詞となっていることを理解するべきである.
 甲状腺機能検査法の種類は,表2に示すごとくで,血中甲状腺ホルモン濃度および蛋白への結合状態の検査,甲状腺ホルモンに由来する代謝的反応をみる検査,甲状腺におけるヨード代謝をみる検査,甲状腺機能の調節機構に関する検査,免疫学的検査,組織学的検査,その他の検査がある.これらの検査法の一つ一つは甲状腺機能のすべてを表現するものではなく,血中甲状腺ホルモン濃度,甲状腺の生理的機能,甲状腺の形態などというように,甲状腺機能の一面を表現しているに過ぎないものである.したがって,甲状腺疾患の診断にあたっては,いずれか一つの検査法で足りるものではなく,これらの検査法のなかからその疾患の特徴を表すいくつかの検査法を選び,これらの検査成績を組み合わせることが必要である.

甲状腺ホルモン測定法

著者: 満間照典

ページ範囲:P.684 - P.686

はじめに
 甲状腺ホルモンの測定法としてラジオイムノアッセイ法(RIA)が近年導入され,簡便迅速にサイロキシン(T4)や,3´,3,5 triiodothyronine(T3)を測定する方法として用いられている.さらに,RIA法を用い,3,3´,5 triiodothyronine(reverse T3,rT3),3,3´diiodothyronine,3´,5´diiodothyronine,3,5 diiodothyronineなどの中間代謝産物も測定されるようになった.ここでは現在,日常臨床で広く行われているT3レジン摂取率(T3RU),T4,遊離型T4,T3,rT3の測定法について述べるとともに,測定値の評価をする上の注意点などについて解説する.

TRHによる検査とTSH

著者: 稲田満夫

ページ範囲:P.688 - P.689

視床下部-下垂体前葉-甲状腺系とその調節
 甲状腺機能は,視床下部-下垂体前葉-甲状腺系のフィードバック機構によって調節されている.すなわち,視床下部よりTSH放出ホルモン(thyrotropin releasing hormone,TRH)が分泌され,それは下垂体門脈を経て下垂体前葉に達し,TSHの分泌を促進する.
 TSHは,甲状腺濾胞に作用して,甲状腺ホルモンの合成,分泌を促進させる.視床下部よりのTRH分泌,下垂体前葉よりのTSH分泌は,血中T4およびT3濃度により調節され,それが低下すると,視床下部および下垂体前葉に働き,TRHおよびTSHの分泌が促進される.一方,血中甲状腺ホルモンが過量になると,TRHおよびTSH分泌が抑制される.このように,視床下部-下垂体前葉-甲状腺系は,図1に示すように機能的に一つのループをつくりネガティヴ・フィードバック機構によって,血中甲状腺ホルモンレベルが一定に保たれる.

甲状腺腫の診断と検査の選び方—主として腫瘍性疾患について

著者: 藤本吉秀 ,   小原孝男

ページ範囲:P.691 - P.693

 甲状腺腫のある疾患のうち,バセドウ病と橋本病の診断は比較的容易である.ここではそれ以外の疾患,すなわち主として腫瘍性疾患をとりあげる.腺腫様甲状腺腫,腺腫,癌,悪性リンパ腫が対象となる.これらの多くは結節として現れるが,時にはびまん性甲状腺腫の形で現れることもある.
 鑑別診断上大切なことは,個々の甲状腺疾患の特徴的所見を一通り理解し頭の中に入れておくことである.それがないと,いろいろな検査が可能になった今日,必ずしも必要でない検査を多くして,患者に時間と経済面で負担をかけることになる.

検査(グラフ)

超音波診断とX線診断

著者: 藤本吉秀 ,   小原孝男

ページ範囲:P.694 - P.696

はじめに
 甲状腺腫瘍性病変の大部分のものは甲状腺機能に異常がなく,したがって機能検査の面から診断することはできない.そこで形態学的な面から診断のための検査をすることになる.その第一歩が外からの触診である.しかし触診は甲状腺結節の表面の性状がわかるだけで,内部の構造まではわからない.結節の内部の構造を形態面から検出しようとするのが,超音波検査と頸部側方軟線撮影である.このほかX線検査には前後方向の普通撮影があり,気管の圧排・浸潤状況がわかる.これらの検査はすべて触診所見を基本とし,それを補うものであることを銘記すべきである.

検査(カラーグラフ)

甲状腺シンチグラムと病理

著者: 鳥塚莞爾 ,   森田陸司 ,   小西淳二 ,   池窪勝治 ,   笠木寛治 ,   遠藤啓吾 ,   飯田泰啓

ページ範囲:P.699 - P.703

はじめに
 甲状腺シンチグラフィには従来,131Iが用いられたが,表1に示すごとく,被曝線量の軽減のたあ,123Iまたは99mTcO4の使用が推奨されている.腫瘍シンチグラフィに関しては,99mTc-bleomycin(99mTc-BLM)の有用性を認めている.また,筆者らは十数年前より,各種甲状腺疾患患者に甲状腺針生検による甲状腺組織の検索をルーチンとして実施している.
 以下,甲状腺シンチグラムと組織像とを対比させて述べる.

Graves病

病態

著者: 鎮目和夫

ページ範囲:P.704 - P.705

 Graves病の臨床症状は,大部分が甲状腺ホルモンの細胞に対する作用の過剰によって起こるものである.しかし,眼球突出と下肢に認められることのある限局性粘液水腫(pretibial myxedema)は甲状腺ホルモンの過剰によっては説明できず,また皮膚色素の増加や白斑の出現,爪に認められるonycholysisなど甲状腺ホルモンの過剰によって説明できないものもある.表は筆者の経験した約900例の患者について認められた主な症状である.以下,これらの症状を中心にしてその成立機序を簡単に述べよう.

どの治療を選ぶか

著者: 伊藤國彦

ページ範囲:P.706 - P.709

はじめに
 今日Graves病に対する治療法としては,抗甲状腺剤治療,131Iによるアイソトープ治療,および甲状腺切除術,すなわち外科的治療の三者がある.この三者ともGraves病の際にみられる甲状腺機能亢進症に対する治療法である.自己免疫疾患であるGraves病の病因に対する治療法ではなく,いずれも対症療法といってよい.したがって,Graves病でしばしばみられる眼球突出症に対しては,これらの治療法は無効である.

非外科的治療

著者: 五十嵐徹也 ,   尾形悦郎

ページ範囲:P.710 - P.715

診断
 Graves病の治療を行うにあたり,正しい診断が最も重要なことはいうまでもない.理学所見からhyperthyroidismが疑えるときには,表11,2)に掲げた疾患に注意を払えばよい.hyperthyroidismがこれらのどれに由来するかは,①strumaの有無とその性状,②付随症状(眼症状など)の有無,および,③病歴より比較的容易に判断でき,①T3,T4,T3-RU,②自己抗体,③131I-uptake,④TSHを調べることによって,ほぼ確定することができる.臨床的に問題となる診断上の注意すべき点は,①masked toxicosis,②hyperthyroiditis,③妊娠時,④若年者,⑤新生児であろう.
 hyperthyroiditisは,subacute thyroiditisなどに一過性に見られるもので,病歴を詳細に聴取することが必要で,疑わしい場合は,131I uptake,血沈によって確実になる.このときは,治療法として抗甲状腺剤を使ってはならないことから,とくにこの診断には注意を要する.他の項については後述する.

外科的治療

著者: 牧内正夫

ページ範囲:P.716 - P.717

はじめに
 バセドウ病(Graves病)に対する外科的治療は,すでに19世紀の終わり頃から行われている.当初は未処置のまま手術を行ったため,術後クリーゼが発生して死亡する例も稀ではなかった.今日バセドウ病の手術はまったく安全に行うことができるが,バセドウ病の外科に多大の貢献をした人にPlummer, H. S. がいる.彼はバセドウ病の術後に発生する甲状腺クリーゼの予防法を研究し,大量のヨードを手術前処置として与えるとクリーゼが発生しないことを見出した.これによりバセドウ病の手術成績が著しく向上した.今日では術前に抗甲状腺剤を用いており,その安全性は一層高められ,術後クリーゼはまったく見られなくなっている.
 外科的治療は,他の治療法に比べ治癒率が高く,筆者らの成績では術後5年目で88.5%の治癒率が得られており,術後再発例,機能低下症が少ない.以下,バセドウ病の外科的治療の適応と治療の実際について解説する.

クリーゼ

著者: 小島至

ページ範囲:P.718 - P.719

はじめに
 クリーゼはGraves病における最もcriticalな状態である.特徴的な臨床症状を伴い,適切な治療が行われない場合の予後はきわめて不良であることから,古くより注目されてきた.近年Graves病の病態生理や甲状腺ホルモンの分泌,代謝,作用機序などにつき多くの知見が得られてきたが,クリーゼの本態については未だに明らかでない点が多い.

眼球突出症との関係

著者: 山本通子

ページ範囲:P.720 - P.722

はじめに
 眼球突出は,甲状腺腫,頻脈とともにMerseburgの3徴候として,古典的なGraves病の診断に不可欠の所見であった.しかし日常診療の経験では,教科書に出てくるような典型的な眼球突出症を伴うGraves病患者の割合は必ずしも多くない.一方,臨床的に甲状腺機能正常な者や,稀には甲状腺機能低下症患者でGraves病と同様の眼症状を呈することがあり,それぞれeuthyroid Graves病,hypothyroid Graves病として報告されている.また,甲状腺の組織学的所見が典型的な橋本病患者に眼球突出症を認める場合もある.これらの臨床的事実は,甲状腺疾患としてのGraves病(Graves' thyroid disease)とGraves病の眼症(Graves' ophthalmopathy)とを分けて,図1)のような関係としてとらえると理解しやすい.これについてはeuthyroid Graves病の項で詳述する.
 なお,眼球突出症という言葉は,眼球突出(突眼)という所見と同意語ではなく,Graves病に伴う眼症状全般を示す言葉として慣用されている.本稿ではこの言葉をさらに限定してGraves' ophthalmopathyと同じ意味で用いた.したがって,言葉としては矛盾するが,眼球突出を伴わない眼球突出症の例がある2)ことをあらかじめお断りしておく.

原発性甲状腺機能低下症

病態

著者: 榎本仁志 ,   入江実

ページ範囲:P.724 - P.725

はじめに
 原発性甲状腺機能低下症は,甲状腺自身に原因(表)があって甲状腺ホルモンの合成分泌が障害された状態で1),その病態およびその機序については不明な部分が多いが,本症では甲状腺ホルモンの不足によって各臓器の代謝低下をきたす.また甲状腺機能低下症の原因が自己免疫機序による橋本病などの場合には,他の臓器にも自己免疫による病変がみられることがある.ここでは成人の原発性甲状腺機能低下症について述べる.

治療—成人型

著者: 内村英正 ,   長滝重信

ページ範囲:P.726 - P.727

 甲状腺機能低下症の治療は,原因の如何にかかわらず,甲状腺ホルモンを補充することである.そこで,最初に甲状腺ホルモン補充療法に必要な知識について述べ,次に,実際の治療法について解説する.

治療—クレチン症,小児型

著者: 中島博徳

ページ範囲:P.728 - P.729

はじめに
 小児の甲状腺機能低下症の大部分は先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)であり,種々の病型があるが,その治療法は甲状腺ホルモン補充療法である.近来,新生児マス・スクリーニングによって早期発見される症例が多くなり,補充療法を改めて検討する必要が生じた.
 小児の低下症には後天性のものもあるが稀である.従来,特発性若年性粘液水腫として知られているものは,ほとんど慢性甲状腺炎に引き続いて起こったものと考えられ,このほか131I,ヨード,抗甲状腺剤などによる医原性のものがあるが,これもまた稀である.その治療法は甲状腺ホルモン補充療法であることに変わりはない.

クレチン症のマス・スクリーニング

著者: 中島博徳

ページ範囲:P.730 - P.731

 先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)の発生率は出生3,000〜9,000人に1人といわれ,精神薄弱の原因としてきわめて重要である.甲状腺ホルモンの早期の欠乏は,不可逆性の知能障害を起こすので甲状腺ホルモンの早期補充療法が必要であり,したがって早期発見が不可欠のものである.ところが,クレチン症の新生児期〜幼若乳児期における症状は一般に乏しく,非特異的であるので,早期診断はかなり困難であった.
 先に,フェニールケトン尿症をはじめとした先天性代謝異常症については,いわゆるGuthrie法と呼ばれる新生児乾燥濾紙血液によるマス・スクリーニングがすでに広く行われている.このような状況下に,クレチン症の新生児濾紙血液によるマス・スクリーニングが先進国に普及しつつあり,本邦においても昨年より公費負担による全国施行に向かって発足した.

珍しい甲状腺疾患

TSH分泌異常症

著者: 宮井潔

ページ範囲:P.732 - P.735

はじめに
 甲状腺刺激ホルモン(thyrotropin,thyroid stimulating hormone,TSH)は,脳下垂体から分泌され,その名の通り甲状腺を刺激する作用を有する.一方,TSHの分泌はさらに上位の視床下部から分泌されるTSH放出ホルモン(thyrotropin releasing hormone,TRH)によって調節される一方,甲状腺ホルモンが増(減)すれば,TSH分泌が抑制(促進)されるという.いわゆるネガティブフィードバック機構によって調節されている.したがって,視床下部,下垂体,甲状腺のいずれの部位に障害が起こってもTSH分泌異常が惹起されるわけであるが,ここではとくに,稀ではあるが興味ある症候群をとりあげて解説することとする.

TBG異常症

著者: 紫芝良昌

ページ範囲:P.736 - P.738

 サイロキシン結合グロブリン(TBG)異常症は,それだけでは一つの疾患というわけではない.しかし,TBG異常に関する知識は血中甲状腺ホルモン測定に関するデータを解釈する上にどうしても必要なのであって,この知識なしに血中甲状腺ホルモンに関するデータを解釈すると,誤った治療をすることすら稀でない.TBG異常を正しく理解するためには,血中甲状腺ホルモンの存在状態に関する知識が不可欠である.

Sipple症候群

著者: 小原孝男 ,   藤本吉秀

ページ範囲:P.739 - P.741

 Sipple症候群は,甲状腺髄様癌と副腎褐色細胞腫,ときに上皮小体(副甲状腺)腺腫または過形成が合併して起こる疾患である.散発性発生例もあるが,通常,常染色体優性遺伝の形式で家族性に発生する.本症は,甲状腺髄様癌が他の甲状腺癌と違った病態を有し,さらに一見無関係な複数の内分泌腺の病変が合併して起こることから,基礎,臨床の両面から非常に関心のもたれている疾患である.

理解のための10題

ページ範囲:P.742 - P.744

胸部X線写真の読み方

肺門部肺癌

著者: 松山正也 ,   江口研二

ページ範囲:P.756 - P.763

右肺門部付近の異常影
 松山 第1例は70歳の男性です.血痰と咳が数ヵ月続いて来院された患者さんです.まず正面の写真を読んでいただきたいと思います(図1).
 江口 背腹方向の単純写真です,左右の第4肋骨と鎖骨の位置が重なっているので,X線管球の高さは適正です.脊椎棘突起から両鎖骨頭までの幅を左右比較するとほぼ同じで,正面から撮られた写真です.左右の胸郭をみると,肋間腔にとくに左右非対称の部分はなくて,ほぼ正常です.肋骨横隔膜角は左右ともに肋膜の癒着を思わせる所見があります.

演習・放射線診断学 CTスキャン読影のコツ・11

骨盤

著者: 吉川宏起

ページ範囲:P.764 - P.773

はじめに
 骨盤腔は解剖学的にほぼ左右対称,かつ一定の構造をしている,また胸腹部と異なり,心拍動,呼吸,消化管蠕動によるmotion artifactが少なく,コンピュータ断層(CT)に有利な条件を有している,しかし,CTが骨盤内臓雛の診断上,従来の倹査(腹部単純撮影,断層撮影,経静脈性排泄性尿路造影,超音波断層回エコー),骨盤動脈造影,逆行性膀胱造影,子宮卵管造影など)による情報に付加する新たな情報を提供するのでなければ,検査を施行する意義は失われる.
 今回は骨盤腔の腫瘤性病変を中心に症例を供覧し,CTによる診断,その限界について解説を加え,CTの適応について述べることにする.なお,骨盤の骨病変については今回は省略する.

連載

目でみるトレーニング 38

ページ範囲:P.774 - P.779

プライマリ・ケア

プライマリ・ケアへの提言(1)—農村地域医療の実践から

著者: 若月俊一 ,   本吉鼎三

ページ範囲:P.807 - P.813

 本吉 本日は,佐久病院という地域医療の中核を形成された若月先生に,現在医療の世界で問題になっておりますプライマリ・ケアというものに対して,実践を通じてご提言をいただきたいと思います.
 まず最初に,南佐久病院というものと農村の地域医療との関係を,簡単にお話しください.

臨床免疫学講座

免疫学的寛容と自己免疫疾患

著者: 堀内篤

ページ範囲:P.780 - P.783

免疫学的寛容とは
 私どもの体は非自己である外来抗原に対して免疫反応を起こすのが普通である.しかし,もしAという抗原が体の中に入った場合,Aに対してのみ特異的に免疫反応がみられず,A以外の抗原に対しては正常の免疫応答を行っていることがある.このような現象が免疫学的寛容immunologic toleranceであり,寛容を誘導する抗原を寛容原tolerogenとよんでいる.免疫学的寛容とまぎらわしい用語がいくつかある.たとえば免疫学的麻痺immunologic paralysisは寛容と同義語として用いられることがあるが,これは多量の抗原を投与したことにより(適量なら強い抗体を産生するが)抗体が産生されなくなってしまった現象を意味する.免疫不全immunodeficiencyは免疫担当細胞に欠陥があるために抗原刺激に反応しなくなった現象であり,先天性にも後天性にも起こりうる.免疫抑制immunosuppressionは免疫不全と同義語であり,不特定の抗原に対する非特異的な免疫不応答状態である.後天性に放射線照射や抗腫瘍剤投与でしばしば経験するが,この場合は一過性のことが多い.

Laboratory Medicine 異常値の出るメカニズム・26

カルシウム調節ホルモン—副甲状腺ホルモンとカルチトニン

著者: 屋形稔 ,   原正雄

ページ範囲:P.784 - P.786

 血中カルシウム濃度は比較的安定した値を示すが,このカルシウムの恒常性を保つのは,副甲状腺ホルモン(PTH),カルチトニン(CT)および活性型ビタミンD3である.ここでは副甲状腺ホルモンとカルチトニンについて述べる.血中カルシゥム濃度が低いときは副甲状腺ホルモンが,高いときはカルチトニンが分泌され血中カルシゥムを正常化するように働く(図1).

老人診療のコツ

常に心不全を考える—すべては心不全へ

著者: 大友英一

ページ範囲:P.788 - P.793

はじめに
 心不全は老年者の死因の約20〜30%を占め,肺炎についで多いものである.
 老年者では心不全は明らかな心疾患なしで出現し,また心臓以外の病変によっても出現しやすいことが一つの特徴である.またその出現も緩徐,潜伏性に存在しやすく,かつ明確な症状を示さないこともあげられる.一方,心不全が明確となった際,強心剤などに対する抗抵が大であり,治癒しにくいことから,常に心不全を考慮し,予防,早期発見,早期治療することがとくに大切である.

臨床講座=癌化学療法

急性白血病の化学療法

著者: 稲垣治郎 ,   小川一誠

ページ範囲:P.794 - P.797

はじめに
 悪性腫瘍の化学療法は新抗癌剤の開発と治療技術の進歩により近年著しい発展を遂げているが,白血病が全身的疾患であること,および白血病細胞が他の悪性腫瘍細胞に比較し抗癌剤により高い感受性を示すことより,白血病の化学療法は癌化学療法のモデルと考えられている.したがって白血病の発生頻度は決して高くはないが,癌化学療法を論ずる場合には白血病の化学療法がまず第1に取りあげられ,その重要性が強調される.本稿では筆者らの施設の成績と経験を中心に成人急性白血病の化学療法の現況を概説する.

新しい栄養学の知識

Dietary fiber—生理作用を中心として

著者: 印南敏

ページ範囲:P.798 - P.801

はじめに
 最近,わが国でも食品中の繊維質がdietaryfiber,食事繊維,食品繊維などの名の下に栄養学分野におけるトピックスというだけでなく,一般社会でも多大の関心を集めている.
 欧米先進国で死因の上位を占め,わが国でも増加しつつある高脂質血症,心臓病,糖尿病,大腸ガン,胆石などの成人病の発生が食品中の繊維質の存在と大きな関わりのあることが明らかになってきたためである.

外来診療・ここが聞きたい

マイナー・トランキライザー長期連用の注意点

著者: 伊藤斉 ,   西崎統

ページ範囲:P.802 - P.805

症例
 患者 33歳男性,パイロット
 現病歴 生来神経質な性格.5〜6年前より,くり返す十二指腸潰瘍で近医に通院していた.1年半前に空腹時痛と黒色便にて入院加療,このときZellinger-Ellison症候群は否定された.その後,仕事上のストレスも多く生活も不規則とのことで,制酸剤,抗コリン剤と同時にジアゼパム(セルシン15mg/日)の服用を続けている.現在,十二指腸潰瘍の再発を思わせる症状はないがこのままジアゼパムを続けてもよいものか.

目でみる心筋梗塞・5

解離性大動脈瘤に続発した心筋梗塞

著者: 堀江俊伸

ページ範囲:P.752 - P.753

 急性心筋梗塞と解離性大動脈瘤とは激しい胸痛,背部痛を伴うことで,診断上たえず鑑別しなければならない疾患である.
 通常解離性大動脈瘤では,心電図上梗塞波形を示さない.しかし時には梗塞波形を示すことがあり,二のような場合に通常みられる心筋梗塞との鑑別が必要である.

紫煙考

ニコチンの薬理作用

著者: 柳田知司

ページ範囲:P.816 - P.818

●ニコチンの自律神経作用
 ニコチンが自律神経節に作用する薬物であることはよく知られている.そのため末梢血管の収縮や心拍数増加,血圧上昇などの循環器作用と,胃腸管運動の高進などの消化器作用がみられる.
 ニコチンの薬理作用が複雑なのは,最初に神経節細胞を脱分極し,このとき交感,副交感両神経の刺激効果を現すが,ニコチンはアセチールコリンのように速やかには分解されないので脱分極状態が持続し,節細胞はアセチールコリンに応答できなくなり自律神経遮断作用がみられることである.すなわち,ニコチンは自律神経系の機能を作用の初期には刺激し,後には抑制するということができる.

天地人

ある教授の言葉

著者:

ページ範囲:P.819 - P.819

 最近,渡辺淳一の"白き旅立ち"を興味深く読んだ.これは,日本における志願解剖の第一例となった吉原の遊女,美幾の物語である.この小説に次のような文章があった."正直いって,学識,識見ともに優れた医学者が,最後に「自分の屍体を解剖することを許さない」といって死んだとしたら,ひどく興覚めする部分がある.なあんだ,と思い,いままで優れていると思っていたその人の業績や人格が,すべて嘘っぱちであったような気持にとらわれる".私にもこれに類する経験がある.
 もう随分以前のことで,どんな場所であったか記憶も定かではない.定年退職を間近にしたある内科教授が,元気で定年を迎えられるのが嬉しい,在職中に気がかりだったのは死んだら解剖されることだった,これでほっとしたというようなことを話しておられた,当時若かった私は,この言葉を耳にして,ひどくがっかりしたし,その教授を疏ましくも思った.しかし,今考えてみると,その教授は,その重責を深刻に受けとめていたので,退職という開放感から仲間の教授達に素直にその喜びを語っていたのかも知れない.

オスラー博士の生涯・82

オスラーの最後の文化講演(1918年)

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.820 - P.823

 オスラーは,たびたびの気管支炎の再発で衰弱するからだを支えながら,戦時下にあって公けの仕事を避けることなくやり続けた.私的な仕事としては,オスラーが生涯を通して蒐集したオスラー文庫の目録作りであったが,これはなかなか予定通りには進まなかった.

他科のトピックス

人工血液の臨床応用—腎移植

著者: 本多憲児

ページ範囲:P.814 - P.815

 筆者らが人工血液と称しているものはミドリ十字社が開発したPerfluorodecalinとPerfluorotripropylamineを主成分とする0.01〜0.02μの粒子よりなるFluosol-DA(FDA)である.
 本剤は酸素運搬体であるので,その臨床応用としては原則として酸素運搬体としての性能が重視せられる.したがって筆者らは本剤の臨床応用として,①大量出血により貧血性酸素欠乏症をきたしたとき,その患者の血液が極めて稀な型で,早急に入手困難なとき,②無血体外循環時におけるpriming solution,③屍体腎移植時における屍体内臓器灌流液が考えられている.本稿にては③の屍体内臓器灌流液として人工血液を使用し,屍体腎移植を行った成績について述べる.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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