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雑誌目次

雑誌文献

medicina17巻6号

1980年06月発行

雑誌目次

今月の主題 慢性肝炎をめぐる諸問題

理解のための10題

ページ範囲:P.898 - P.900

座談会

慢性肝炎の取り扱い方—考え方から治療まで

著者: 上野幸久 ,   奥平雅彦 ,   奥村英正 ,   西崎統

ページ範囲:P.836 - P.848

 慢性肝炎は,とくにその臨床上の取り扱いに関しては,定義,分類においてさえいまだ専門家の間でも意見の一致をみておらず,まして一般臨床家にとってその病態のみかたから治療,予後まで,実際に患者を目の前にして,どう考え,どう処置するか苦慮することも多いと思われる.そこで本欄では,一般臨床家,また読者代表の立場で西崎先生に,慢性肝炎の診療に直結する問題点を,ご専門の各先生から聞き出していただいた.

分類

病理医の立場から

著者: 奥平雅彦 ,   佐々木憲一

ページ範囲:P.850 - P.853

慢性肝炎の概念
 慢性肝炎とは,「少なくとも6カ月以上存続する肝臓の炎症で,肝炎ウイルス感染が原因と想定されるものをいう」というのが,わが国のみならず欧米における現時点での共通した理解である.
 病理学的な慢性炎症の概念は,「数カ月ないし数年間にわたり存続する炎症であり,その組織反応は,円形細胞浸潤と線維芽細胞や組織球の増殖性反応が特徴的である」1).肝臓の炎症においても,慢性という概念の基幹は炎症が長い間存続しているというtime factorが優先する.また,肝臓の慢性炎症では線維芽細胞や組織球の増殖性反応はあまり目立たないということもわきまえておく必要がある.

臨床家の立場から

著者: 鈴木宏

ページ範囲:P.854 - P.855

 慢性肝炎という病名は第二次大戦前にはなく,腹腔鏡および肝生検が行われるようになってはじめて認められたものである.最初は急性肝炎からの移行が注目され,肝硬変の前段階としての意義が強調された.その後,Weplerが急性汗炎の既往のない,いわゆる原発性慢性肝炎の存在することを認め,その成因について問題が提起された.1964年,Blumbergらのオーストラリア抗原の発見を契機として肝炎ウイルスに関する知見が進歩するとともに,慢性肝炎の成因についても新しい観点からの検討が行われるようになっている.
 慢性肝炎の分類についても,慢性肝炎が主として組織学的所見を中心として診断されてきたことから,現在でも組織学的所見から行われているのが現状である.しかし,種々の臨床検査法の進歩に伴って,慢性肝炎の分類も臨床的立場(組織所見を含む)から改めて考え直すべき時期にきていると思われる.

経過と予後

慢性肝炎に移行しやすい急性肝炎

著者: 佐々木博 ,   井上恭一 ,   市田文弘

ページ範囲:P.856 - P.858

はじめに
 急性ウイルス肝炎の予後に関連する因子としてはウイルス側,および個体側の要因があげられている.前者については本症の主要な起因ウイルスであるA型肝炎ウイルス,B型肝炎ウイルスおよび非A・非B型肝炎ウイルスのうち,A型肝炎ウイルスによるものでは慢性肝炎への移行はないと考えられ,また非A・非B型肝炎ウイルスでは遷延化,慢性化率の高いことが指摘されている.一方B型肝炎ウイルスでは初感染例の多くは治癒すると推測されている.個体側の要因としては,高齢者に遷延化,慢性化率の高いことが報告されており,またウイルス一個体間の関連では,液性抗体,細胞性抗体の反応様式が急性肝炎の病型,慢性化に関わる可能性が指摘されている.
 形態学的には,本症の典型例に認められる肝細胞壊死の程度は,単細胞壊死ないし巣状壊死が主体であるが,ときに帯状壊死を伴い,さらに帯状壊死相互間の壊死性連絡(bridging necrosis)を認めることがあり,後者の特徴を示すものは,Subacute hepatitis1),Subacute hepatic necrosis2)とよばれてきた.

慢性肝炎は果して肝硬変の前段階か

著者: 古田精市 ,   清沢研道

ページ範囲:P.860 - P.862

はじめに
 肝硬変の原因には肝炎ウイルス,アルコール,胆汁うっ滞,薬物中毒,うっ血,代謝異常,寄生虫など種々列挙されるが,本邦で最も重要な原因はウイルス性肝炎であることは周知のことである.なかでもB型肝炎ウイルスの持続感染が肝硬変への進展上重要な鍵を握っていることは疑いのない事実である.
 最近非A・非B型肝炎ウイルスについても,その持続キャリヤーが存在することはほぼまちがいないものと考えられている.筆者ら1)も非A・非B型の慢性肝疾患患者の血中にウイルス様粒子の存在を認めており,非A・非B型肝炎ウイルスの肝硬変への進展に果す役割も無視できない.

HBs抗原陽性例と陰性例の比較

著者: 太田康幸 ,   吉田智郎 ,   大野尚文 ,   恩地森一

ページ範囲:P.864 - P.866

はじめに
 慢性肝炎の病因として,容認されているものを,頻度別に高いものから順にあげると,肝炎ウイルス,薬剤,自己免疫,その他となるが,全症例のおよそ80%に肝炎ウイルス感染との関連が注目されている.
 肝炎ウイルスについては,A型,B型,非A・非B型ウイルスの存在が明らかにされているものの,現実に確認されているウイルスは,A型とB型の2つにとどまり,非A・非B型ウイルスの分離・同定には,なお若干の月日を要するもようである.ところで,近年明らかにされたところによると,A型肝炎での遷延・慢性化例は皆無に近いことから,慢性肝炎の大部分は,B型か非A・非B型肝炎ウイルス感染との関連において調査をすすめる必要がある.したがって,HBs抗原陽性と陰性の慢性肝炎を比較するということは,B型に対する非B型,つまり非A・非B型ウイルス肝炎と,肝炎ウイルスには関係がない薬剤や自己免疫を病因として起こる慢性肝炎を加えて対比しつつ,両群の差異を明らかにすることとなろう.しかし,本稿では,肝炎ウイルスとの関連が深い例に限り,B型例と非B型例とにつき,自験症例を比較した成績を述べることとする.

慢性肝炎と肝癌

著者: 佐藤俊一 ,   中沢一臣 ,   小岡文志

ページ範囲:P.868 - P.870

 急性ウイルス肝炎の一部は慢性肝炎を経て肝硬変に移行する.肝硬変と原発性肝癌とは密接な関連を有するので,当然ウイルス肝炎との関連が問題となる.とくに肝細胞癌ではHB抗原が高率に陽性であり,B型肝炎との関連が注目される.しかもHB抗原が持続陽性の慢性肝炎から肝細胞癌が発生する症例がみられることから,B型肝炎ウイルスの持続感染と発癌との関連が重視されている.また非A・非B型肝炎ウイルスにも持続感染が考えられることから,これらウイルスと肝癌との関連も注目されつつある.ここではB型肝炎を中心に肝癌との関連を述べる.

慢性肝炎の予後を判断するには—肝生検と慢性肝炎の予後

著者: 兼高達弐 ,   土井優子

ページ範囲:P.872 - P.875

はじめに
 肝生検が行われ,慢性肝炎と診断された症例の予後がどのようなものであるか,これが本稿のために提供された命題である.
 これまでに,多くの研究者がこの問題を検討し,報告している.肝細胞の変化を重視するのがよいか,間葉系の反応が主要な因子となるのか.また,組織学的な所見のどれをとりあげて予後を推定したらよいのか.大勢はすでに決しているように思われる.

慢性肝炎の予後を判断するには—肝機能検査の上から

著者: 豊川秀治

ページ範囲:P.876 - P.877

はじめに
 慢性肝炎の予後を正確に判断することはかなり困難なことである.まして組織所見を欠いては時に危険が伴うが,一般には臨床経過より予後の判断がなされる.慢性肝炎は経過が長く,容易に治癒しうるものではないが,いたずらに長期の生活制限を強いることは患者にとっても,社会にとっても損失である.この点からも予後を正確に判断することは重要である.診断が正しくなされたとして,日常臨床上慢性肝炎の予後を判断する上で有用な肝機能検査などに触れてみたい.

成因からみた慢性肝炎

B型肝炎

著者: 矢野右人

ページ範囲:P.878 - P.881

はじめに
 B型肝炎ウイルス感染による急性B型肝炎は,ごく一部劇症肝炎へ移行する例を除き,成人では予後良好で,慢性肝炎あるいはHBs抗原持続保持者(carrier state)へ移行することは原則的にないことが次第に判明してきた.
 一方,HBウイルスの母児感染によるcarrier state成立が明らかにされ,わが国に約300万人存在するとされるcarrier stateの大多数が出産直後より小児期までの感染によると推定されるに至った.したがって,B型慢性肝炎の起源は成人後のB型肝炎ウイルス初感染によるものではなく,幼小児期より次第に慢性肝炎として完成されていくものと思われる.これは輸血などによる成人後の非A・非B型慢性肝炎の発症とは明らかに異なる.臨床上B型慢性肝疾患とされるのは全carrierの約10%である.他は無症候性HB抗原保持者(asymptomatic carrier state)であるが,これらウイルス学的慢性感染症と肝組織像よりみた肝の慢性炎症の間に大きなギャップがあり,区分が不明確である.HB抗原検出が容易に行われるようになり,carrier stateの発見,およびそのfollow-upより,軽症例あるいはasymptomaticcarrierとの境界例がとり上げられ,B型慢性肝炎としてとり上げられる例が幅広くなってきたといわざるをえない.

自己免疫性慢性肝炎

著者: 蓮村靖 ,   大宮司有一

ページ範囲:P.882 - P.883

はじめに
 慢性活動性肝炎は,進行性で破壊性の肝炎が持続しつづけるという性格(self perpetuationという)をもつ難治性の肝疾患である.この慢性活動性肝炎には,しばしば液性ならびに細胞性免疫異常が認められるため,本症の成立すなわち上に述べた性格の形成に,免疫異常が関与しているとする考え方が広く受け入れられている.
 慢性活動性肝炎の一部の症例には,高γグロブリン血症や種々の自己抗体(抗核抗体や抗平滑筋抗体,ときにはLE細胞現象など)が認められることがある.ところがこれらの症例では,HBs抗原の存在をみることは比較的まれである.そこで,このような自己抗体陽性の慢性活動性肝炎は,SLEなどの自己免疫疾患の場合と同じように,肝に対し自己免疫状態が成立しており,これが疾患の本態をなす肝炎,すなわち自己免疫性慢性肝炎であるとする考え方が近年発表され,B型肝炎と区別して病態を把握しようという意見が述べられてきている.事実本症では,B型肝炎と異なり,肝細胞膜自己抗体(liver membrane autoantibody:LMA)が特異的に証明され,この抗体に対する抗原をめぐる免疫現象こそが本症を特徴づけているとする学者がいる1)

薬剤性慢性肝炎

著者: 浪久利彦 ,   北見啓之 ,   飯島敏彦 ,   市川尚一

ページ範囲:P.884 - P.885

はじめに
 薬剤性慢性肝障害の診断基準はまだ確立されていないが,薬剤が原因となって発症した肝障害が6カ月以上持続し,肝組織所見が犬山分類による慢性肝炎の組織診断基準をみたすものと理解される.その成因に関しては,中毒性,アレルギー性を問わず慢性肝障害例の多くに血中自己抗体を認めることから,多くの例に自己免疫機序が関与しているものと考えられる.
 ここでは自験例を中心として,慢性例を死亡例および治癒遷延例と比較し,慢性化の背景となった諸因子について検討するとともに,薬剤性慢性肝障害の発生機序に関して考察を述べる.

原発性慢性肝炎

著者: 志方俊夫

ページ範囲:P.886 - P.887

はじめに
 原発性慢性肝炎という概念はドイツ学派により古くからとなえられていた考え方である.われわれが観察する慢性肝炎の症例の約半数は急性肝炎の既往がない.このような症例がどのようにして発症したのかということは昔から問題にされていた.たとえばわれわれの気付かない無黄疸性の急性肝炎の時期があったのではないかという議論である.また一方B型肝炎ウイルスが見出されてから,そのキャリヤーの存在が明らかになった.そしてそのような症例の肝生検を行うと最少限の慢性肝炎から,かなり強い病変まで見出されたのである.家族性に認められるキャリヤーで20歳台くらいで慢性肝炎の症状がはっきりするものがあり,また急性肝炎様のシューブを起こす症例もあることも明らかになった.
 最近日本の臨床家は成人がB型肝炎ウイルスに感染すると,急性肝炎を起こすが,この急性肝炎はよくなおり,ほとんど慢性肝炎に移行することはなく,B型肝炎ウイルスもクリヤーされる.一見急性のB型肝炎から慢性肝炎に移行したようにみえる症例は,実はキャリヤーの急性発症で,その発症初期にHBc抗体をはかると,すでにその抗体価は高く,キャリヤーの急性発症であることが明らかになると主張している.

慢性アルコール性肝炎

著者: 池上文詔 ,   打越敏之

ページ範囲:P.888 - P.889

 大酒家にみられる肝病変として,従来より脂肪肝,アルコール性肝炎,肝硬変が知られている.近年は脂肪肝から肝硬変への移行が疑問視されるようになり,アルコール性肝炎がこれにかわる病変として注目されている.アルコール性肝炎は,以前は急性アルコール性肝炎といわれた病変で,Mallory体を高頻度に認め,多核白血球浸潤を伴う肝細胞壊死が中心となる急性炎症と,中心帯の線維化と脂肪化を伴う病変と理解され,1974年アカプルコにおけるIASLの定義1)が現在一般に容認されている.しかしこのアルコール性肝炎は欧米においてはアルコール性肝障害患者のかなりの例に認められるのに反して,わが国では施設によって差はあっても一般にはアルコール性肝疾患の1/4以下にしか認められないとされている2).ではわが国における大酒家の肝病変の主体を占め,肝硬変の前段階として存在する病変はどのようなものであろうか.このきわめて単純な疑問が,本院のような職域病院において日常肝生検の組織学的診断に従事するうちに生じてきた.1975年以前には本院においては,大酒家の肝生検組織標本に対して,その大多数を慢性肝炎非活動型と診断していた.しかし,1975年より犬山分類あるいはヨーロッパ分類によるウイルス性慢性肝炎と明らかに異なる組織学的特徴を有するアルコール性肝障害に対して,「慢性アルコール性肝炎」なる診断名を使用するようになり,日本肝臓病学会にも発表し3),現在にいたっている.

治療

副腎皮質ステロイドおよび免疫抑制剤の適応と限界

著者: 平山千里 ,   川崎寛中 ,   周防武昭

ページ範囲:P.890 - P.893

治療効果の評価
 慢性肝炎,とくに慢性活動性肝炎に対しては,経験的に古くから副腎皮質ホルモンまたは免疫抑制剤が投与されており,これらの薬剤は,患者の自覚症状,肝機能,肝生検像などの臨床所見をかなり改善することが報告されている.たとえば慢性活動性肝炎に,副腎皮質ホルモンを投与すると,症例の一部に食欲の亢進,全身倦怠感などの自覚症状が好転し,また生化学的検査では,ビリルビン,トランスアミナーゼ,γグロブリンの低下などがみとめられる.また肝組織像でも,炎症所見の改善をきたす場合があると報告されている.
 しかしながら,副腎皮質ホルモンを具体的に投与してみると,無効例や増悪例があること,その中止により反跳現象がみられること,またとくにその長期投与で種々の重篤な副作用が出現するため,その治療効果については疑問視する傾向もある,事実,副腎皮質ホルモンはインターフェロンの生成を抑制し,また,細胞性,液性抗体の生成を抑制するなどの成績があげられている.したがって,すくなくともウイルスに起因する病型,とくにわが国で問題となる肝炎ウイルス起因性の慢性肝炎に対する治療効果については疑問点も多い.

患者管理

著者: 河田肇

ページ範囲:P.894 - P.897

はじめに
 患者と医師が何年間にもわたって長いつきあいを必要とする慢性疾患の場合,急性症とは異なって,患者の日常生活,食事習慣,精神状態にいたるまで,医療担当者側の細かい心づかいを必要とする場は予想以上に大きいと思われる.ことに慢性肝炎のように,患者にはほとんど自覚症状がなく,有効的確な治療手段も知られていない場合,いかに根気よく,平静な心で,望ましい療養態度を守りつづけさせることができるか,臨床医の豊かな経験と暖い人間性,患者との相互信頼感にまつところが大きい.
 以下,項を追って私見を述べてみよう.

胸部X線写真の読み方

肺野型肺癌

著者: 松山正也 ,   江口研二

ページ範囲:P.908 - P.914

 松山 肺野型の肺癌はX線上,一般にcoin lesionとして認められますので,ほかのいろいろな疾患とくに結核腫など良性疾患との鑑別が問題になるところです.
 今回は肺野型肺癌について,X線写真を読んでいただきたいと思いますが,読影上注意すべき点を,組織学的な特徴や病変の進展形式を折り込んで説明をしていただきたいと思います.

演習・放射線診断学 CTスキャン読影のコツ・12(最終回)

骨・筋肉病変

著者: 荒木力

ページ範囲:P.916 - P.923

はじめに
 X線コンピュータ断層撮影(以下CT)の頭部における有用性はいうまでもなく,腹部,胸部においても,その診断能力および限界が理解されるようになり,CTがきわめて有効である臓器および病変と,ほとんど役に立たない領域とが区別されるようになった.骨・筋肉組織は,CT診断においては比較的新しい分野であり,その評価もまだ固定したとはいえないし1,2),その臨床への応用も広く理解されているとはいい難い.過去2年間に,東大病院放射線科で施行された78例の,骨・筋肉組織(四肢,骨盤,肩部,肋骨および脊椎)病変のCTを検討し,その特徴について考えてみたい.

連載

目でみるトレーニング 39

ページ範囲:P.924 - P.929

プライマリ・ケア

プライマリ・ケアへの提言(2)—農村地域医療の実践から

著者: 若月俊一 ,   本吉鼎三

ページ範囲:P.960 - P.965

住民参加のポイント
 本吉 次は住民参加の問題になりますが,先生は早くから大衆というものを念頭において,社会的事象を考えていくという思想的訓練を経られたわけですので,医療における住民参加の問題についても,思想をお持ちになっておられると思います.
 いままでの日本の医学教育に欠けていた点の一つは,住民参加の問題にもあると思います.患者に接触する技術は皆さん持っていますけれども,いわゆる地域住民という対象になりますと,なにか尻ごみする医師が多いですね.

臨床免疫学講座

免疫と遺伝

著者: 堀内篤

ページ範囲:P.932 - P.936

 免疫遺伝学immunogeneticsとよばれる分野が注目されている.これは抗原あるいは抗体と遺伝子の関係を明らかにしようとする学問であり,免疫応答に個体差があるのは遺伝的要因によるという考えから出発した.免疫遺伝学に関する論文を読むと,表現のむずかしい多くの専門用語が使われており,初心者にはなじみにくい.ここではなるべくやさしく解説するつもりである.

Laboratory Medicine 異常値の出るメカニズム・27

インスリン,Cペプチド

著者: 屋形稔 ,   三国龍彦

ページ範囲:P.938 - P.940

インスリンの分泌調節
 インスリンの分泌は膵ラ島B細胞において,まずプレプロインスリンが生成され,ついでプロインスリンに転化し,これがインスリンとCペプチドに分解されて放出される.このとき,プロインスリン1分子からインスリンとCペプチド各1分子が産生されるため,血液中にこの両者はほぼ平行して存在する.しかし,図1のように,インスリンは門脈を経て肝を通過し,ここで一部不活性化されるのに対し,Cペプチドは分解されずにそのまま血中に放出され,大部分腎において代謝されるので,血液中では必ずしも等モルではないし,肝疾患ではインスリンの比率が高くなり,腎不全などでは逆にCペプチドが優位となりうる.血液中にはこのほか,プロインスリンや他の分解産物も少量ながら認められる.
 インスリンの分泌は表に示すような種々の因子によって刺激あるいは抑制をうけている.3大栄養素をはじめ各種のホルモンや陽イオンによって促進されるほか,自律神経系の調節をうけている.したがって,日中のインスリン濃度は食事やストレスによって激しく変動するのは当然であるが,空腹時における基礎レベルはほぼ一定した値をとる.この基礎分泌に性差は認められず,加齢による影響も少ない.

老人診療のコツ

めまいは重篤な症状

著者: 大友英一

ページ範囲:P.942 - P.945

定 義
 広義のめまいは立ちくらみ(dizziness)とめまい(vertigo)に分けられる.神経内科領域ではこの二つを明確に分けて論ずるのが常である.その理由は,この両者の臨床的意義がはっきり異なるためである.
 立ちくらみは姿勢の不安定,空間に対する認識障害の一種であり,ぐらつく,揺れ動くなどと表現される.

臨床講座=癌化学療法

癌化学療法の原則

著者: 小川一誠 ,   室崎志朗

ページ範囲:P.946 - P.949

はじめに
 癌化学療法とは抗癌剤を用いて体内の癌細胞を全滅して癌を治癒することを目的とする.そして対象とする症例により2つの分野に大別される.1つは局所療法である手術・放射線治療を受けた後で,体内に残存している顕微鏡的レベルの癌細胞を根絶して治癒させることを目的とするadjuvant chemotherapyであり,他は全身性疾患である白血病および進行した悪性腫瘍に対する化学療法である.
 いずれにしても抗癌剤を用いるが,現在の薬剤は癌細胞のみを選択的に破壊するのではなく,同時に正常細胞・組織も同程度またはより以上に損傷する.よって化学療法に副作用は不可避であり,それに対する知識を有し,十分なる対策を立てた上で治療計画を実行すべきである.

新しい栄養学の知識

ストレスと栄養

著者: 鈴江緑衣郎

ページ範囲:P.950 - P.953

はじめに
 経済活動の活発化に伴い,社会機構の複雑化,それに伴う対人関係の煩雑化など,人々は強い精神的ストレスを感ずるようになった.また騒音,振動,生活リズムの乱れなど現代は,まさにイライラの時代といえよう.
 人間が健康な生活を送るためには栄養・運動・休養の3つが大切である.このうち休養には肉体的休養のほか精神的な休養も必要であるが,現代社会は出生,進学競争や対人関係などストレス要因が多く,そのため胃潰瘍,十二指腸潰瘍,胃炎,下痢などの消化器障害を起こす例がきわめて多い.

外来診療・ここが聞きたい

若年性高血圧

著者: 稲垣義明 ,   西崎統

ページ範囲:P.954 - P.958

症例
患者○川○三,35歳男性,建設会社(現場監督)
現病歴 約7年前にかぜで近医を受診し,そのとき高血圧(170/-)を指摘された.その後,会社の健診時にも高血圧といわれ,定期的に簡易人間ドックを受けているが,高血圧以外は異常はなかった.3年くらい前から,ときどき後頭部が熱くなるような感じや動悸があり降圧剤(フルイトラン1錠,アルドメット2錠)を服用しているが,血圧はほとんど変わりないとのことで来院した.

目でみる心筋梗塞・6

川崎病に続発した心筋梗塞

著者: 堀江俊伸

ページ範囲:P.904 - P.905

 川崎病は急性熱性皮膚粘膜リンパ腺症候群(Mucocutaneous lymph node syndrome,MCLS)ともいわれ,特異な症状を有する1).ことに本症では冠状動脈瘤が約20%と高頻度に発生し,この冠状動脈瘤内に血栓が形成され,心筋梗塞を起こし,全患児の約1〜2%が急死する.次に2剖検例を呈示する.
 症例1 T. A.,4歳,男.生後6カ月に川崎病に罹患.4歳になって大学病眈を受診し,心電図異常(図1)を指摘され,精査のため入院.冠状動脈造影上,動脈瘤が認められ,その中に血栓形成が疑われたため(図2),右冠状動脈に母親の大伏在静脈を旧いてバイパス手術を施行したが5カ月後に急死.

天地人

なるべくなら

著者:

ページ範囲:P.971 - P.971

 外交官がyesといえばmay be, may beといえばno,もし外交官がnoといえば,その人は外交官の資格がないそうだ.女はどうか.女がnoといえばmay be, may beといえばyes,最初からyesといったらその女は淑女でない.
 ある夜,12時もすぎてから,女房・娘を連れた大一座で,深夜スナックに行った.それぞれ食物を注文した揚句に,私の番になったがなにも欲しくない.

オスラー博士の生涯・83

オスラー最後の文化講演(古典協会長として,1919年)

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.972 - P.977

 第1次欧州戦争は,1918年11月に終わったが,その後のオスラーの生活は,あいかわらず多忙な日が続いた.その頃,英国国民の生活もいろいろと物資不足による困難な状態が見られ,肉や砂糖などすべて配給制となっていた.オスラー家を訪れる数多くの客も配給切符持参でといった具合で実に窮屈な生活が続いた.

海外レポート

アメリカにおけるプライマリー・ケアと研修体系(1)—General MedicineとFamily Medicine

著者: 須永俊明

ページ範囲:P.978 - P.981

はじめに
 昨年8月の末に,日野原先生の主催されたプライマリー・ケアについての国際会議が,東京でひらかれた.その会議に出席して,その翌日私はダーラムのDuke大学の内科学教室(主任:Cecilの内科書の編集者のWyngaarden教授)のところへプライマリー・ケアの実際と,その方向性を研究するために出張を命ぜられ,出かけて行った.
 プライマリー・ケアについては,アメリカでも,わが国でもいろいろと論じられながらもなかなか理解しにくいという声をよく聞く.私自身も,勉強不足をよいことにして,ほとんど先入観や知識なし(一般的なことを知っている程度)で出かけて行ったのである.

他科のトピックス

体外受精

著者: 鈴木秋悦

ページ範囲:P.966 - P.967

 体外受精の研究は,生殖生物学の長い歴史にあって,常に中心的な課題として,多くの生物学者の挑戦を受けてきた.
 1963年に,卵子に関する研究者としては第1人者であるオックスフォード大学のAustinは,「体外受精の研究は,受精のメカニズムを明らかにするだけでなく,受精の阻止法,すなわち,安全にして完全な避妊法の発見につながり,ひいては発生異常すなわち先天異常発現防止への基礎的研究の土台となる」として,この研究の重要性を強調した.

紫煙考

喫煙と脳卒中

著者: 家森幸男 ,   木原正博

ページ範囲:P.968 - P.970

はじめに
 喫煙,わけてもcigarette smokingが,さまざまな循環器疾患の重要なrisk factorであることは古くから知られており,すでに19世紀の後半より,狭心症との関係を論じた報告が見うけられる.有名な米国のFramingham studyによれば,心筋梗塞による死亡率は,喫煙群において,非喫煙群の実に3倍に達するという1).しかも,こうした喫煙の害は,ひとり喫煙者にとどまらず,胎児や,passive smokingとして非喫煙者にまで及ぶことが懸念されており,近年禁煙推進運動が国際的な広がりを示し,喫煙が一大社会問題としてクローズアップされていることは,けだし自然のなりゆきといってよい.しかし科学的にみれば,喫煙と健康については未解決の問題がまだまだ多く残されており,この方面への関心を一層高める研究を促進する意味からも,WHOが今年1980年を国際禁煙年と定め,「Smoking or Health-choice is yours(喫煙か健康か―選ぶのはあなた)」として一大キャンペーンを開始したことは,大いに歓迎すべきことといわねばならない.
 さて,喫煙と健康に関する研究はこれまでに膨大な量に及ぶが,循環器疾患に限ってみれば,その大半は欧米で最大の死亡原因である虚血性心疾患に関するものである.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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