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雑誌目次

雑誌文献

medicina17巻7号

1980年07月発行

雑誌目次

今月の主題 アレルギーの現況

理解のための10題

ページ範囲:P.1074 - P.1076

基礎知識

組織障害の病理

著者: 下川保夫 ,   張田信吾

ページ範囲:P.990 - P.993

はじめに
 アレルギー反応における組織障害は,生体における抗原抗体反応に基因する病像であり,その変化は抗原刺激をうけた細胞の障害で始まり,時間とともに変化する.しかもこの変化は,反応局所のみならず,全身性にも影響を及ぼし修飾される.
 アレルギー反応は,抗体の性状と反応様式などにより便宜的に4型,すなわち,I型;Anaphylactic type,II型;Cytotoxic type,III型;Arthustype and immune complex type,IV型;Delayedhypersensitivity typeに分類される1).ここでは特徴ある病理組織像を呈するIII型とIV型を中心として説明する.

組織障害の化学

著者: 江田昭英

ページ範囲:P.994 - P.997

はじめに
 アレルギー反応は,抗原抗体反応によって惹き起こされる局所性あるいは全身性の組織障害を伴う反応である.反応の様式からCoombsとGell1)はアレルギー反応をI〜IV型に分類している.
 また,極大反応に達するまでの時間の長短によりI〜III型は即時型反応とよばれ,IV型は遅延型反応とよばれる.組織障害の面からみると,I型では機能的障害が著明であり,II〜IV型では器質的障害が著明である.

レアギン産生の調節機序

著者: 高津聖志

ページ範囲:P.998 - P.1002

はじめに
 喘息やじん麻疹,あるいはペニシリンアレルギーなどに代表される即時型アレルギーは,レアギン(IgE)抗体によって惹き起こされる.ブタクサ花粉が体内に侵入した場合,それに反応するレアギン抗体を産生する人はアレルギーになるし,産生しない人はアレルギーになりにくいといわれる.したがってレアギン抗体の産生を抑制,停止できればアレルギーの発症を防ぎ,あるいはアレルギーを治療できるかもしれない.
 レアギン抗体の産生を効果的に抑制するには,その産生機構を明らかにし,いかなる調節機構が存在しているか知らなければならない.1960年代後半からの免疫生物学の著しい進歩により,蛋白抗原に対するIgM, IgG抗体産生の細胞性機構の全貌が明らかにされようとしている.機能を異にする2種類の細胞--T細胞とB細胞--の協同作業により抗体産生が誘導されるが,T細胞中にはB細胞の分化に促進的に働く細胞群(ヘルパーT細胞;Th)のみならず,抗体産生に抑制的に作用する細胞群(サプレッサーT細胞;Ts)も存在する.レアギン産生の抑制を考える際,Tsの誘導が重大な鍵を握ることになる.ここではレアギン産生に関与するB細胞,T細胞,および両者の相互作用に関し最近の知見を述べてみたい.

アレルギー性好酸球増多症の機序

著者: 山本昇壮

ページ範囲:P.1004 - P.1006

はじめに
 好酸球増多を来たす疾患は成書に多数記載されているが,それらのうちアレルギー性疾患は代表的なものの1つであろう.好酸球増多の機序やその生物学的意義については十分解明されていない点が多いが,近年アレルギー学の進歩と相俟って好酸球を炎症局所に集積させる種々の好酸球遊走因子が発見され,また好酸球の機能の解析が進むにつれて,アレルギー性疾患における好酸球増多の機序あるいはその生物学的役割が理解されやすいものになって来つつあるように思われる.
 本稿ではこれらの点をふまえて,アレルギー反応における好酸球増多の機序について略述を試みたい.

診断・検査法

問診・診察のすすめ方

著者: 牧野荘平

ページ範囲:P.1008 - P.1010

はじめに
 アレルギー内科の診療の対象としては,外因アレルゲンによるアレルギー性疾患と,膠原病などの自己免疫性疾患があるが,本稿では,前者に属する気管支喘息,アレルギー性鼻炎,結膜炎,花粉症,アトピー性皮膚炎,薬剤アレルギー,食餌アレルギー,アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA),過敏性肺臓炎,アレルギー性接触性皮膚炎,じん麻疹,血管浮腫,昆虫アレルギーなどについて述べる.
 アレルギー性疾患の多くは,喘息での気道過敏のように標的器官の過敏があり,そこに抗原(アレルゲン)が接触することで,局所に抗原-抗体結合によるアレルギー反応が起き,症状が発現する.

IgEの性状と検査

著者: 河合忠

ページ範囲:P.1012 - P.1013

IgEの構造と機能
 免疫グロブリンE(IgE)は,ヒトのアレルギー反応に関与するレアギン抗体として1966年石坂らにより発見された.
 IgEは分子量196,000,沈降定数8Sで,fast-γ1域に泳動され,12%にも及ぶ多量の糖質を含有し,単位分子は1対のL鎖(κ鎖またはλ鎖)と1対のε鎖から成っている.IgE骨髄腫蛋白について,とくにその構造が明らかにされつつある.すなわち,ε鎖は550個のアミノ酸残基から成り,多数のメチオニンを含むのが特徴である.またε鎖は図に示すように,IgMのμ鎖と同様に1つの可変部(Vε)と4つの不変部(Cε 1,Cε 2,Cε 3,Cε 4)の5つのドメインを有する.ε鎖は15個のhalf-cysteinsを含有し,そのうちの10個はそれぞれのドメインの鎖内SS結合を形成し,また1個は対応するL鎖と2個はCε 2をはさんで対応するε鎖と鎖間SS結合を形成している.残りの2個のhalf-cysteinsはCε 1ドメインをはさんで鎖内SS結合を作っている.

レアギンの検出法

著者: 真野健次 ,   宮本昭正

ページ範囲:P.1014 - P.1017

はじめに
 アレルギー性疾患のヒトの血清中に,即時型アレルギーを惹き起こすレアギンが存在することは以前から知られていたが,周知のように石坂らによってこれがIgE抗体であることが解明された.
 レアギンの関与する反応をテストする方法にはいろいろあり,in vivoの方法として皮膚テストや誘発試験が用いられているが,これについては別なところで述べられるものと思われる。つぎにin vitroの方法としてはヒスタミン遊離試験や好塩基球の脱顆粒試験なども行われるが,これらは手技が複雑であり再現性にも問題があり,特別な研究目的以外臨床には不向きである.したがってここでは臨床的にも実用的なradioimmunoassay(RIA)によって特異的なIgEを測定するradio-allergosorbent test(RAST)と,最近急速に発展してきたenzyme immunoassay(EIA)について述べる.

LAIテスト

著者: 向山徳子

ページ範囲:P.1018 - P.1019

はじめに
 遅延型過敏反応を検出する方法としては種々のものが挙げられるが,白血球粘着阻止試験(leukocyte adherence inhibition test,以下LAI testとする)は抗原特異的にみられ,しかも少量の血液で比較的短時間に行い得るところから近年注目されてきている.
 LAI現象は1972年HallidayとMiller1)により報告された.つまり担癌マウスの腹腔より白血球を分離し,これにその癌組織(細胞)より抽出した特異抗原を作用させるとかガラス表面への粘着性が低下することを報告した.この現象はその後,各種の可溶性抗原を用いて追試確認され,遅延型過敏反応の検出方法の一つとして臨床的に応用されるようになった.

皮膚テスト

著者: 高橋昭三

ページ範囲:P.1020 - P.1021

はじめに
 アレルギー性疾患では,原因抗原の確定は診断および治療上きわめて大切である.このためまず手はじめに行われるのが皮膚テストである.詳しい問診により得られた情報から,疑わしい推定抗原を主体にして皮膚テストを行うが,推定抗原への手がかりが得られない場合には,各アレルギー性疾患に応じ,原因抗原になりやすいものについての検査を行うのが普通である.アナフィラキシー・ショックを起こしやすい薬剤については,使用前にルーチン・スクリーニングとして皮膚テストが行われる.

いろいろなアレルゲン

食物

著者: 柴崎正修

ページ範囲:P.1022 - P.1023

はじめに
 食物アレルギーは,ある種の症状や病気が特定の食物の除去により軽快し,再投与によって再び出現することにより診断されている.しかし,食物アレルギーといっても,免疫学的反応系が必ずしも明らかでない場合も多く,厳密には不耐性と呼ぶべきものが少なくない.近年,食物に対する特異IgE抗体のin vitroでの検出法が開発されるようになって1),食物アレルギーもまた狭義の意味で遺伝素因の上に成立し,血液中に特異IgE抗体を証明できるアトピー性疾患の一つであると考えられるようになってきた.しかしながら,食物アレルギーは,IgEが発見される以前から,主として血球凝集反応やゲル内沈降反応で研究されており,IgG, IgM抗体によっても惹き起こされる可能性を示している.また,最近では,細胞性免疫反応のin vitroの測定法が食物抗原でも行われるようになり2),食物アレルギーにおける遅延型アレルギーの関与が示唆されている.以上のように食物アレルギーの病態は多種多様であるが,ここではI型の食物アレルギーを中心にのべる.

薬剤

著者: 吉田浩 ,   粕川禮司

ページ範囲:P.1025 - P.1027

はじめに
 薬剤アレルギーとは,治療量またはそれ以下の量の薬物の投与によって,薬効とは異なる抗原抗体反応により発現するものをいう.アレルギー反応は通常,初回投与時には発現しないと考えられるが,時には初回投与をうけた際にも発生しうる.これは知らないうちに感作をうけたか,またはほかの薬剤をふくめた種々の物質との交叉反応に基づくものと考えられる.薬剤アレルギーの症状は薬剤により異なり多彩であり,その発現機序や発現における個体差,in vitroでの診断法など問題点は多いが,本稿では発生頻度,症状,薬剤の抗原性,素因,診断などについてふれる.

真菌

著者: 木村郁郎 ,   谷崎勝朗

ページ範囲:P.1028 - P.1029

はじめに
 外界に存在する真菌の数は10万種類以上である.このうちヒトに対して病原性のあるものは90種類ぐらいで,深部真菌症を惹き起こすものは20種類ぐらいである.これらの病原性真菌は,その発育場所が人体内であるか人体外であるかによって内因性と外因性に分類される.内因性真菌としては,Candida,Actinomyces(放線菌)などがあり,そのほかの大部分の真菌は外因性である.このように,われわれの生活環境には多数の真菌が存在しており,これら真菌に暴露されやすく,最も影響を受けやすい臓器は,呼吸器であることはいうまでもない.

寄生虫

著者: 石崎達

ページ範囲:P.1030 - P.1032

寄生虫抗原の特性
 寄生虫は大別して,単細胞生物の原虫類と,多細胞生物で高度に分化した体制をもち,消化器・神経・生殖器・運動のための筋組織をもち,立派に発達した防御作用も果している皮膚をもつ蠕虫類(線虫.吸虫・条虫)の2種類に分類される.原虫類でも各種に分化した機能をもつ付属物があり,核が中心になっている点で細菌・ウィルス類よりはるかに高等である.したがって人の体に寄生虫が侵入した場合の宿主・寄生虫関係は免疫学だけで取上げてみてもきわめて複雑である.体を構成する体成分・虫卵や幼虫・排出物などは各々別の蛋白成分をもち,それぞれの蛋白成分が抗原性をもつことが考えられるから,人の側の生体反応も複雑である.したがって免疫学の発達に伴い寄生虫の寄生による生体反応は見直されてきた.そして線虫類Nippostrongylus braziliensisなどは免疫研究のモデル感染生物に使用されている.
 免疫学的には,寄生虫感染はCoombsの4型1)のすべてを発現させ,免疫抗体のすべてを産出させると考えられ,IgEを特別大量に生産するのはその特質の一分野である.

花粉

著者: 清水章治 ,   信太隆夫

ページ範囲:P.1034 - P.1035

はじめに
 花粉を起因アレルゲンとして発症する疾患は花粉アレルギーと総称される.アレルギー性結膜炎や鼻アレルギーなどいわゆる眼鼻症状が惹起されれば花粉症とよばれ,当該植物の開花期と一致して発症する特徴がある.一方,花粉によって起こる気管支喘息は花粉喘息とよばれるが,花粉症ほど明確な季節性を有しない.しかも気管支でのアセチルコリン感受性が両者では明らかに異なっている1).鼻アレルギーでは病因アレルゲンとして4〜5割に花粉が関与しているが,気管支喘息では1割にも満たない.

動物

著者: 中沢次夫 ,   小林節雄

ページ範囲:P.1036 - P.1038

はじめに
 動物がアレルゲンとなる場合には,その動物の体成分や排泄物であることが多い.そして多くの場合は,それらの動物に職業的に接することからアレルギー症状が発現する.最近はこのほかに,ペットとして動物を飼育することによるアレルギーの報告が増加している.以下,動物アレルゲンの抗原活性を中心に述べる.

日常生活用品

著者: 猪熊茂子

ページ範囲:P.1040 - P.1041

はじめに
 アレルギーにはいくつかの型があるが,日常生活用品によるアレルギーは,即時型反応による喘息や鼻炎のほか,遅延型反応による接触性皮膚炎が多くを占めると思われる.

臓器別の症状と診断のコツ

皮膚

著者: 相模成一郎 ,   木村友子

ページ範囲:P.1042 - P.1044

はじめに
 皮膚に表現されるアレルギー性病変は多彩である.それはアレルギー性反応のすべての型の病変が皮膚に出現すること,および,1つの発疹の原因は一定のアレルゲンや1病型に限定されていないからである.たとえば薬疹におけるアレルギー性炎症の病型,臨床像,その原因薬の関係をみればこのことが了解されよう(表1).しかし,アレルギー性反応による皮膚病変(発疹)を強いて類型化allergic reaction patternすれば,つぎのようになる.
 i)血管性反応 blood vascular reaction
 ii)湿疹性反応 eczematous reaction
 iii)肉芽性反応 granulomatous reaction
 以上の3つの反応性パターンは,個々にclearcutに皮膚に表現されうるものでなく,互いにoverlapすることが多いが,上記3パターンに分けて記述することにする.

著者: 三村康男 ,   湯浅武之助

ページ範囲:P.1045 - P.1048

眼のアレルギーの特徴
 アレルギー反応の症状は,各臓器のもつ解剖学的な特徴と,その臓器のもつ機能によって規定される.眼組織については,精巧な視機能を遂行する眼球と,眼球の保護および視機能遂行の補助を行う付属器に分けて考えると非常に理解しやすい.とくに外界に露出しているために種々の病変を生じやすい前眼部には付属器として眼瞼,結膜,涙器,眼筋がある.眼瞼のおもな作用は,眼球の機械的保護であるが,組織学的には皮膚に属するので,眼瞼に生ずるアレルギー病変は発症機序よりみて皮膚アレルギーに属するものである.しかも,眼瞼皮下組織は疏であるために浮腫傾向が強く,代表的なものとして,Quink浮腫をあげることができる.
 結膜は,結膜嚢内に侵入した病原菌,異物およびその他の有害な刺激の眼球内への波及の防止を涙液の助けをかりて行っている.上皮下にはリンパ濾胞がよく発達しているが,無菌条件での飼育動物ではリンパ濾胞形成不全がみられるので,結膜下リンパ濾胞は結膜嚢内の細菌侵入に対処して発達したものであって,前眼部のアレルギー性病変の好発部位となっている.

著者: 奥田稔 ,   大塚博邦

ページ範囲:P.1050 - P.1051

はじめに
 鼻粘膜に起こるアレルギーの中で臨床上主要なものは,I型吸入性アレルギーで,その鼻症状は発作性再発性のくしゃみ,水性鼻漏,鼻閉である.しかし抗原の種類,侵入径路,起こるアレルギーの型により症状も変わる.

気管支・肺

著者: 可部順三郎

ページ範囲:P.1052 - P.1053

はじめに
 気管支・肺のアレルギー疾患をその基本型から分類すれば,I型アレルギーに属する気管支喘息,II型のGoodpasture症候群,I+III型のアレルギー性気管支肺アスペルギルス症,III(IV?)型の過敏性肺臓炎のほか,種々の病型あるいは非免疫学的機序によるものも含まれる薬物起因性肺炎,薬物喘息,PIE症候群などが挙げられる.

著者: 山本祐夫

ページ範囲:P.1054 - P.1055

はじめに
 臨床面でアレルギー症状を惹き起こすアレルゲンとして,食物,薬剤,真菌,寄生虫,花粉などが挙げられているが,これらのうち,アレルギー反応により肝障害を惹き起こすものは薬剤である.薬剤の多くのものは肝ミクロゾームに存在する薬物代謝酵素系で代謝を受けるが,その過程において薬物あるいはその代謝中間体が肝細胞成分と強い結合を生じ,ハプテン-キャリアを形成する場合のあることが知られている.
 この免疫学的なキャリア蛋白としては,肝ミクロゾーム蛋白,および肝細胞膜成分であるliverspecific lipoprotein(肝特異脂蛋白)の重要性が指摘されている1)

造血器

著者: 古沢新平

ページ範囲:P.1056 - P.1058

はじめに
 アレルギー性機序の明らかな造血器障害は薬剤により惹起されるもので,障害される血球の種類により溶血性貧血,血小板減少および顆粒球減少とに分けられる.なお薬剤の関与しない自己免疫性機序によるものについてはここでは触れない.
 薬剤アレルギーによる血液障害の免疫学的機序には,現在つぎの3通りが考えられている.

座談会

アレルギー性疾患の治療—現在と未来

著者: 富岡玖夫 ,   中島重徳 ,   牧野荘平 ,   信太隆夫

ページ範囲:P.1060 - P.1073

 アレルギー性疾患の治療は,次々と開発される新薬などにより著しい進歩を遂げているが,患者の社会生活との関係など,単なる診療技術を超えた難しい面もある.
 そこで,本座談会では気管支喘息を中心に,アレルギー性疾患の実際的治療法のポイントと未来への展望をお話しいただいた.

胸部X線写真の読み方

心臓・肺血管陰影のみかた

著者: 松山正也 ,   前田如矢

ページ範囲:P.1079 - P.1086

 松山 今回から6回にわたって循環器,とくに心臓のX線診断について勉強したいと患います.
 まず心内腔の様子,あるいは,肺血管の状態をどのようにX線上で見ていったらいいのか,墓木的な読影のポイントをうかがっていきたいと思います.

演習 放射線診断学 神経放射線学・1

頭部外傷

著者: 前原忠行

ページ範囲:P.1087 - P.1093

神経放射線学シリーズについて
 神経疾患の診断に際して放射線検査法の占める役割はきわめて大きく,中でも外科的治療の対象となりうるものに関してはこれを欠かすことはできない,従来,神経疾患を対象とした放射線検査法としてはX線単純撮影,断層撮影のほかに,特殊検査として脳血管造影,気脳撮影,脳室造影,ミエログラフィーおよび脳シンチグラムなどがその代表的なものであったが,1972年コンピュータ断層撮影(CT)の開発以来,各種検査法の適応も大きく変化しつつ今日に至っている.
 このシリーズでは,主として卒後研修医の方々を対象として,次の12の疾患群にっき,それぞれ代表的症例を供覧しつつ検査法の適応および読影のポイントについて解説を加える予定である.

連載

目でみるトレーニング 40

ページ範囲:P.1094 - P.1099

プライマリ・ケア

救急医療を考える(1)

著者: 熊田正春 ,   木村勝直 ,   岡部純一 ,   安田勇治

ページ範囲:P.1126 - P.1131

 安田(司会) 私は救急医療というのは地域医療の顔ではないかとつねづね考えています.開業医の先生方をはじめみなさんが,いつでも,だれでも,どこでもという使命感を持って一生懸命やっているにもかかわらず,現実はどうかといいますと,なかなかそのスローガンどおりにはいかず,やはり未解決の問題がたくさん残されているように思われます.
 今日ここに集まっておられる先生方を簡単にご紹介いたしますと,熊田先生は横浜市の病院協会会長として市の救急医療システムの整備.発展を指導され,木村先生は名古屋市の救急医療情報システムの完成に尽され,また,岡部先生と私は日本プライマリ・ケア学会の常任理事として地域医療に取り組んでおります.

臨床免疫学講座

免疫複合体と疾患

著者: 堀内篤 ,   数田康仁

ページ範囲:P.1102 - P.1106

 ある種の抗原,たとえばウシガンマグロブリン(BGG)で動物を感作し,血清中にBGGに対する抗体が上昇した時期に採血し,分離した血清を試験管に入れ,その中にBGGを加えると白濁して沈降物ができる.この沈降物は抗原と血清中の抗体(沈降抗体)が反応してできた抗原・抗体複合物,すなわち免疫複合体immune complex(IC)である.
 生体内でも外から入った抗原あるいは自己免疫疾患のように抗原性をもった体の成分と,それに対する抗体との間でICが形成されている.このICはふつう網内系などの食細胞に貪食されて処理されている.これをimmune eliminationとよんでいる.つまりこの過程は自分にとって不利となる抗原に対する生体の防御反応である.しかし,ICが食細胞でうまく処理されないような状態になれば,疾患として発症することがある.これがCoombs and Gellのアレルギー病変分類によるIII型の免疫複合体過敏症である.一般にICが病因の主役である疾患を免疫複合体病immune complex diseaseとよんでいる.

Laboratory Medicine 異常値の出るメカニズム・28

アンドロジェン

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.1108 - P.1110

アンドロジェンの分泌・調節
 血中のアンドロジェンには,主として副腎皮質から分泌されるアンドロステロン(An),デハイドロエピアンドロステロン(DHEA),DHEA sulfate(S),エチオコラノロン(Et)などと,睾丸から産生されるテストステロン(TS)が存在する.前者はコルチゾールと同様に,ACTHの調節をうけるが,フィードバック機構図(本誌16巻10号)に示したようにネガティブフィードバック作用はなく,いわゆるopen loopの形をとっている.この生合成は副腎網状層で行われ,図1のごとくプレグネノロンから17-OHプレグネノロン,DHEAを経てアンドロステンジオン(A-dione)にいたる経路であるが,量的にもかなりの量で,副腎産生TSも含めて女性の主要アンドロジェンの分泌源となる.
 TSはLHによって生成維持されるもので,LHはLeidig細胞でc-AMPの生成増大,蛋白合成増加をきたし,これが刺激となってTSを産生すると考えられる,TSはまたLH,FSHの分泌を抑制するネガティブフィードバック作用を有し,末梢組織でデハイドロテストステロン(DHT)という強い抑制力をもつ活性型に転換される(本誌17巻1号).

老人診療のコツ

発症不明の運動障害—動作緩慢,自発性低下はパーキンソン病を疑え

著者: 大友英一

ページ範囲:P.1112 - P.1116

はじめに
 パーキンソン病は脳血管障害についで老年者に多い神経疾患であり,老齢人口の増加とともに多くなってきている.
 本症は,脳軟化症,あるいは脳動脈硬化症,老年痴呆などとされ,適切な治療を施されずに放置されている場合が必ずしも少なくなかったが,最近はすぐれた抗パーキンソン剤の開発普及とともに,放置されるということは減少しつつある.

臨床講座=癌化学療法

肺癌の化学療法

著者: 井上雄弘 ,   小川一誠

ページ範囲:P.1118 - P.1121

はじめに
 肺癌の中で,小細胞癌small cell carcinoma(SCC)は化学療法や放射線療法に反応しやすく,その他の組織型(腺癌,扁平上皮癌,大細胞癌)は化学療法に反応しにくいためnon-small cell carcinoma(NSCC)として,一括して取り扱われることが多い.SCCはNSCCに比し治療に反応しやすいが,一面細胞増殖が早く,早期に所属リンパ節および遠隔転移(骨髄,肝,脳など)を起こすという特徴をもっており,現在では白血病・悪性リンパ腫に準じた強力な化学療法(intensive chemotherapy)が施行されるようになっている.本論文では以上のことから,SCCとNSCCに分けて今日の化学療法の現況を概説することにしたい.

外来診療・ここが聞きたい

高年者の高血圧

著者: 稲垣義明 ,   西崎統

ページ範囲:P.1122 - P.1125

症例
 患者 O. T. 67歳女性,主婦
 現病歴 約半年前に賢盂賢炎にて近医に入院し治療を受けた.そのとき高血圧(178/96)を指摘された.その後とくに自覚症状がないので放置していたが,家人のすすめで来院した、なお,7年前に胆石の手術を受けた.そのとき血圧は142/92であったという.

呼吸器臨床懇話会(1979年12月21日)

呼吸器疾患の臨床における形態と機能(その1)—症例を中心とした問題の解析

著者: 岡安大仁 ,   芳賀敏彦 ,   堀江孝至 ,   谷合哲 ,   杉田博宣 ,   松井泰夫 ,   田中元一 ,   関根球一郎 ,   森成元 ,   可部順三郎 ,   吉岡一郎 ,   河端美則 ,   岩井和郎

ページ範囲:P.1132 - P.1139

 岡安(司会) 「呼吸器疾患の臨床における機能と形態」という今日の座談会のテーマをお考えくださった芳賀先生からまず口火をきってくださいませんか.
 芳賀 このテーマは,たとえば,American Thoracic Societyのsubcommitteeの中にfunction and structureという部分がありますし,今年の第20回胸部疾患学会総会で初めてやった教育講演の主題が「機能と構造」ということで特に新しいことではありません.私自身はいままで主として機能のほうをやっておりましたがそれだけではなかなか疾患全体の理解ができません.形態といいますと,古くはレントゲン写真で代表されておりましたが,これは影を見ているにすぎないので,レントゲン写真と機能という時代は,すでに過去となりつつあって,その後に出てきたのがbiopsyです.しかし,biopsyか剖検かとなると,剖検は亡くなる前の変化が強く出るので,いろいろな機能検査の成績と,剖検時とでは質的な差があまりに強く,それほど参考にならないと思っておりました.

紫煙考

喫煙と免疫能低下

著者: 大成浄志

ページ範囲:P.1142 - P.1143

●灰皿の置いていない部屋
 今,私はこの原稿を,ロスアンゼルスのVeterans Hospital(復員軍人病院)の中にある研究所の一室で書いているところです.こちらに来て,まだ1カ月ほどですので,米国の詳細な喫煙事情をお伝えできませんが,まず大変驚き,かつ感心したことは,ほとんどの部屋に灰皿を置いていないことです.もちろん私の部屋にも置いてありません.ドクターは,タバコを喫わないものと始めから決めているらしく,灰皿が要るかとも聞いてもらえませんでした.
 カリフォルニア州は米国の中でも公共の場所での喫煙がきびしく禁じられていて,エレベーターはもちろん,建物の至る所に,"NO smoking",場所によっては"Positivelyno smoking"の札がかかっています.また,そのつもりで注意して観察してみますと,さすがにくわえタバコで街を歩く人はほとんど見られませんし,まして自動車の中からタバコをポイッと投げ捨てる人は見かけられません.カリフォルニアでは,火のついたタバコを投げ捨てることは法律で禁じられており,見つかると多額の罰金を取られます.

天地人

色香に迷う

著者:

ページ範囲:P.1151 - P.1151

 先日ある宣伝誌の編集会議で,この頃は美しい色刷りが当り前になって読者の眼を惹きつけるのが難しくなったので,香水入りのページを作ってみてはどうか,との意見が出た.しかし,ただ香水を紙に振りかけても駄目で,一度活字で刷った後にもう一度インクならぬ"香水"を使って印刷機を廻して刷りあげるのだそうだ。そうすると長い間香水のふくよかな香りが紙について,嗅覚を刺激するというわけである.読者を"色と香"で迷わせ宣伝効果を上げようという魂胆だが,最終的にはこの奇抜なアイデアも実現しなかった.
 それにしても,色香に迷わされるのは異性間に限ったことかと思っていたが,どうやらそうでもないらしい.われわれ人間社会のユニセックス化が目立ってきた故であろうか.ところで,人間に限らず,どのような動物の雄も雌の愛をうるために涙ぐましい努力をしている.まず自己を顕示して,自分の存在を相手に知らさなければならない.それにはいろいろな方法があるが,匂いによるコミュニケーションもその一つである.

オスラー博士の生涯・84

教えることと考えること—医科大学における2つの機能—1895年1月8日カナダのマギル医学校での講演

著者: 日野原重明 ,   仁木久恵

ページ範囲:P.1152 - P.1157

 ジョンスホプキンス大学医学部の内科教授で,当時45歳のオスラー博士は,1895年1月に,母校のカナダのマギル大学医学部の増築落成式に招かれて講演をした.それがこの"Teaching and Thinking"である.
 オスラーは1872年にマギル大学医学部を卒業し,2年の欧州留学後,母校に帰り,生理・病理学を教えた.1884年にはペンシルバニア大学の内科教授,1889年にはジョンスホプキンス大学医学部創立のために内科教授としてボルチモアに赴任した.

他科のトピックス

子どもの自殺

著者: 稲村博

ページ範囲:P.1140 - P.1141

 子どもの自殺といっても,年齢によって特徴が異なる.大まかにいえば,15歳前後を境にして著しく変化するといえる.

海外レポート

アメリカにおけるプライマリー・ケアと研修体系(2)—Family Medicine教育の実際と,Family Medicine Clinicでのトレーニング

著者: 須永俊明

ページ範囲:P.1144 - P.1148

Family Medicineとは
 Family Medicineの医学部における表示は,ある大学では,Dept. of Family Medicineとのみいわれているが,多くの大学では,Dept. of Community and Family Medicineとしてあることが多い.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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