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雑誌目次

雑誌文献

medicina18巻1号

1981年01月発行

雑誌目次

今月の主題 糖尿病診療の現況

理解のための10題

ページ範囲:P.78 - P.80

発症機序

遺伝

著者: 三村悟郎

ページ範囲:P.11 - P.13

 糖尿病の発症機序を論ずる場合,その背景にある遺伝をさけては通れないといえる.糖尿病の遺伝学的研究は1930年以降よりはじまり,表1に示すように常染色体劣性遺伝,優性遺伝,多因子遺伝と変遷を経て,今日インスリン依存性糖尿病(insulin dependent diabetes, IDD)と非依存性糖尿病(insulin independent diabetes, IID)の遺伝機構が異なっているのではないかという考えが提唱されるに至ったが,糖尿病の遺伝機構は依然として遺伝学者にとって悪夢であるというNeelの提言のように,完全には明白となっていない.

Virus感染

著者: 林皓三郎

ページ範囲:P.14 - P.15

 前世紀末にHarris(1899)が,彼の流行性耳下腺炎(mumps)患者がひき続いて糖尿病を発症したことから,両者のつながりに注目して以来,virus感染が,若年性糖尿病juvenile onset diabetesの原因となっているかもしれないという症例報告が,これまでに少なからずなされてきている.

自己免疫

著者: 平田幸正

ページ範囲:P.16 - P.17

 糖尿病者に臓器特異性の自己免疫疾患あるいは特異性自己抗体を伴う頻度が高いことは,欧米において古くから注目を惹いていたようである.糖尿病が膵島に対する自己免疫によって起こるのではないかという考え方は,若年発症糖尿病の発症初期に認められるinsulitisの所見によって強く支持されていたといえる.このinsulitisの所見は,古くからウイルス感染か自己免疫のいずれかで説明されると考えられたものである.しかし,いずれにしても自己免疫が糖尿病の原因となりうるという直接的な証明法はきわめて困難であった.
 ところが1974年に至り,Bottazzoら1)により,膵島細胞抗体(islet cell antibody, ICA)がはじめて証明されたことにより,膵島に対する自己免疫の成立を,糖尿病とくにタイプI糖尿病(インスリン依存性糖尿病)の1つの原因として考えうる直接的な手がかりが与えられた.その後,さっそくICAを中心に各種の研究がすすみ,今日に至っている.

インスリン感受性と受容体

著者: 繁田幸男

ページ範囲:P.18 - P.20

糖尿病の病態とインスリンとの関係については,現在主としてインスリン分泌動態の面から論じられている.たしかに糖尿病患者ではブドウ糖負荷後の血中インスリン反応は減少しており,ことに初期の分泌が低下している.しかし反面,肥満や化学的糖尿病を含む耐糖能異常者にインスリン分泌反応が高まっているものが少なくない.これは分泌されたインスリンの組織に対する作用,言い換えれば,インスリン感受性の低下が示唆されるのである

Low insulin responders

著者: 小坂樹徳

ページ範囲:P.22 - P.23

 糖尿病は単一の原因によって起こる均一な疾患ではなく,遺伝的・環境的に異なる機序によって発症してくる不均一な疾患カテゴリーであることが判明してきた.糖尿病はインスリン依存症(IDDM)と非インスリン依存症(NIDDM)とに大別されるが,IDDMばかりでなくNIDDMでも,発症の基本的機構はインスリン不足であるという古い考え方が,最近改めて重視されてきた.
 すなわち,NIDDMではグルコースに対するβ細胞の反応性が低下しており,とくにトルブタミド,グルカゴン,イソプロテロノールなどの分泌刺激には反応するearly diabetesあるいはそれ以前のprediabetic stateにおいても,グルコース負荷後の血中インスリン反応は本来subnormal(low insulin response)であることが指摘された(Ceraseら1967,小坂1967).

インスリン以外の膵ホルモン

著者: 井村裕夫

ページ範囲:P.24 - P.25

 膵ラ島から分泌される主要なホルモンは,グルカゴン(A細胞),インスリン(B細胞),ソマトスタチン(D細胞),pancreatic polypeptide(PP)(F細胞)である.これらホルモンの生理作用に関しては不明の点も少なくないが,体内におけるエネルギー基質,とくにブドウ糖の移動や代謝の調節に大きな役割を演じているものと考えられる.
 糖尿病はブドウ糖の代謝異常を主徴候とする疾患であるので,これら膵ホルモンは糖尿病の成因,ないしは代謝異常の成立に重要な役割を演じていることが推測される.とくにインスリンは糖利用を促進し血糖を降下させる唯一のホルモンであるので,糖尿病の成因に重要な役割を演じているが,ほかのホルモンも関与している可能性が考えられる.またA,B,D,F細胞は相互に相接して存在するので,これら細胞間の相互関係も注目しなければならない。

検査

ブドウ糖負荷試験—新たに提案された75gGTTを中心に

著者: 羽倉稜子

ページ範囲:P.26 - P.29

 ブドウ糖負荷試験(GTT)におけるブドウ糖負荷量は,100gと50gが世界的にひろく用いられてきたが,国際的に共通する統一的な判定基準というものはなく,幾人かの研究者が提唱している基準値のうち,各人が適当と思うものをそれぞれ用いていた.
 最近,NIH1)およびWHO2)は,国際的標準化を目指して75gGTTの施行を提案し,新基準値を発表した.

ヘモグロビンA1

著者: 中山秀隆

ページ範囲:P.30 - P.32

 成人赤血球に含まれるヘモグロビン(Hb)は総Hb濃度90%以上のHbA(A0またはAII,α2β2),約2.5%のHbA2(α2δ2),約0.5%のHbF(α2γ2)とHbA0のpost-translational modificationにより糖と結合したHbA1から成る.
 HbA1はglycosylated Hbと呼ばれ,陽イオン交換樹脂にてHbA0の前に溶出されHbA1a,A1b,A1c,A1d,A1eの分画があるが,A1d,A1eはごく微量で臨床上ほとんど問題とならず,これら微量成分のうちHbA1cが量的に最も多く,全体の約5%を占める.糖尿病ではHbA1cが2〜3倍に増量することが見出され注目されている.

血糖の自己測定

著者: 田嶼尚子 ,   池田義雄

ページ範囲:P.34 - P.35

 糖尿病患者の在宅検尿が一般化されたのは,1950年代からのことである.患者自身の手になる尿糖検査は,インスリン治療者のインスリン量を調節する上で,外来通院時の血糖値とあわせて治療上のよい指標とされてきた.そして自己検尿の実施は,同時に病気を自ら管理していく上での大きな力づけとなってきた.しかし,尿糖はあくまでも血糖値を間接的に反映しているにすぎない.腎の尿糖排泄閾値に変化のあるとき,あるいは低血糖発作時に尿糖検査は無力である.ましてや病状の不安定なインスリン依存性糖尿病や,厳格なコントロールを要求される妊娠糖尿病では,いかに在宅検尿をくり返しても隔靴掻痒の感をまぬがれない.
 このような実情をふまえて,従来の管理方法では不十分だったタイプの糖尿病を,よりよくコントロールするための手段として導入されたのが血糖の自己測定である.おりから改良が重ねられてきた簡易血糖測定法を用いて,在宅のまま患者に血糖を測定させるという手段の有用性はすでに各方面から高い評価をうけている1〜3)

合併症

合併症の進展

著者: 星充

ページ範囲:P.36 - P.39

 今日糖尿病治療における最も重要な課題の1つは,合併症の発症と進展の阻止である.糖尿病の合併症は血管合併症とそれ以外のものに大別されるが,血管合併症は病理学的にmicroangiopathyとmacroangiopathyに,それ以外のものとしては神経病変,白内障などが臨床上問題となることが多い.
 microangiopathy(細小血管症)は,全身のほとんどすべての臓器における毛細血管基底膜の肥厚として,電子顕微鏡的に観察されており,インスリン作用不足による代謝異常に基づくものと考えられている.macroangiopathy(動脈硬化症)は動脈壁における脂質沈着や血栓形成などが原因となるが,糖尿病に特徴的というよりは,老化と関連して高頻度にみられるもので,動脈硬化の進展阻止は,必ずしも容易でない.

神経障害

著者: 松岡健平

ページ範囲:P.42 - P.43

 糖尿病患者に神経障害が合併することは古くから知られており,diffuse symmetrical neuropathyとmononeuropathyに大別される.前者は体神経系に広くpolyneuropathyの型で発現すると同時に,自律神経系も侵される.後者はまったく趣きを異にし,その症状の予後が良好なのに比べ,永久に不治であるかのごとく続く期間がある.原因はインスリン作用不足下における高血糖状態より,神経組織にpolyol類が蓄積し,ブドウ糖のとり込みに反比例してmyoinositolの減少がみられる.結果として,節性脱髄や軸索変性が起こっていることがわかっており,原因は代謝性の要因であることが示唆されている.後者は脳神経あるいは体神経系の単一の神経支配領域に症状をもたらし,無治療の状態でも2週間から3カ月のうちに改善をみることから,血管閉塞が原因とされている.

カラーグラフ

網膜症

著者: 林正雄

ページ範囲:P.40 - P.41

 糖尿病性網膜症(糖尿病性網膜病変,以下網膜症と略す)は,網膜毛細血管と網膜静脈の変化を主な特徴としているが,このほかに出血(点状出血dot hemorrhage,しみ状出血blot hemorrhage,刷毛状出血,網膜前出血および硝子体出血),白斑(硬性および軟性白斑),血管新生および増殖性変化などが認められる.この網膜症の進行の模様は,若年性糖尿病と成人糖尿病とではかなり異なり,一般に中年以降の糖尿病では多くが緩慢に進行するといわれており,各年代を通しては,悪性のものと比較的良性のものというように,おおむね二大別されるようである.
 網膜症を知るためには,臨床的にその経過を追ったScott分類を理解することが最も便利である1,2).わが国でも最近網膜症について眼科のみでなく,内科をはじめ各方面からとくに関心が寄せられてきているが,本症が臨床上重要視されるのは,以下の理由による.

腎症

著者: 柴田昌雄

ページ範囲:P.44 - P.45

 糖尿病性腎症(以下,腎症と略す)は,糖尿病の血管合併症の中でも,糖尿病性網膜症(以下,網膜症と略す)とならんで,臨床上最も重要なものである.その理由は,腎症がその患者の生命予後に大きな影響を及ぼすからである.このように重要な合併症であるにもかかわらず,その成因ならびに進展機序の解明は十分ではない.それゆえ,腎症の治療についても,今ひとつ根本的なものがない.このような現状を認識し,腎症につき,とくに臨床的に重要と思われる点に絞って記述する.

治療

食事療法

著者: 川手亮三

ページ範囲:P.46 - P.48

 従来血管合併症が少ないことを特徴としていたわが国においても,糖尿病患者の約半数が血管合併症で死亡しており,血管合併症の予防が糖尿病治療上重要な課題となっている.
 食事療法が糖尿病治療の根本であり,適正なカロリー(カロリー制限)が食事療法の第1の原則であることは広く知られている.また食事内容の適正な配分が食事療法の第2の原則であることも「糖尿病治療のための食品交換表」に指摘されている.しかし,食事内容の中脂肪の摂取量については,基準値がまだ決定されていない.過去のわが国における脂肪摂取量は,欧米に比して著しく低値であったので,糖尿病食事療法上あまり問題とならなかったが,近年わが国一般国民の脂肪摂取量は急速に増加してきた.

インスリン治療の原則

著者: 松田文子

ページ範囲:P.49 - P.51

 糖尿病治療におけるインスリン療法は一種のホルモン補充療法と解されるが,ほかのホルモン補充療法に比較して問題点が多い.現在のインスリン製剤と投与法の範囲では,理想的な補充療法を実施することは不可能である.それはインスリンの生理的分泌は門脈内になされること,食事摂取で速やかに上昇するきめ細い生理的リズムがあること,ほかのホルモンとの拮抗または共同作用が存在すること,ならびに組織でのインスリン感受性の変化や,需要量の変動があることなどのためである.
 糖尿病は単にインスリンの絶対的不足のみで生じるものではなく,組織でのインスリン作用の障害,インスリン需要量の増大による相対的不足,およびインスリン分泌調節のずれなどで起こる種種の不均一な病態を総称している.

運動療法

著者: 北村信一

ページ範囲:P.52 - P.53

 運動は糖尿病病態によい影響があるところから,糖尿病治療の一手段としてとりあげられている.しかし,運動療法の効果は運動の種類,程度と糖尿病患者の病態とのかね合いにより一様ではないので,実施にあたっては,結果的に有効となるように個々の病態に合わせて適正な運動を指示することが重要である.

糖尿病性昏睡

著者: 坂本信夫 ,   堀田饒

ページ範囲:P.54 - P.56

 糖尿病患者の意識障害には,特異的なものとして,①ケトアシドーシス性昏睡,②非ケトン性高浸透圧昏睡,③医原性低血糖があげられ,非特異的なものとして,④乳酸アシドーシス,⑤合併症による昏睡(脳血管障害,腎不全,肝性昏睡など)がある.ここでは,頻度の高い①と②について述べてみたい.

人工膵臓

著者: 菊池方利

ページ範囲:P.58 - P.61

背景
 人工膵臓が人々の脳裏に現実の型をとって現われはじめたのは,従来の皮下分割注射によるインスリン治療が糖尿病患者の糠代謝を完全に正常化するには至らないこと,および,その結果,罹病期間が長くなり,血糖値が高くなるにしたがって,合併症の発生および進展の増加することが認識されるようになってからである.
 しかし人工膵臓という発想はかなり以前からあった.Claude Bernardが,すべての生体はいかにかけ離れた存在であろうと,その内部環境を一定に保つことを本来の目的とする,と考えたことにはじまるといってもよいであろう.Cannonがこの内部環境の恒常性維持にホメオスターシスという名称を与えた.そして近代になってこの思想はWienerらの制御情報理論となって発展した.ホメオスターシスと制御情報理論との間の関係を究明したGoodmanは血糖コントロールをその例証として選んだ.この領域が最も実験的情報を多く有していたからである.この種の装置が,まず糖尿病治療の領域で開発されたのは歴史の必然といえる.

スルフォニル尿素剤治療の現況

著者: 石渡和男

ページ範囲:P.62 - P.63

 UGDP論争が行われた1970年代の前半には,わが国でも糖尿療治療におけるスルフォニル尿素(SU)剤およびビグアナイド(BG)剤の価値について,否定的意見が強力に述べられたことがある.現在では,1979年2月に発表された米国糖尿病学会の見解にみられるように,UGDPの研究については,否定的な意見が世界の大勢になり,経口剤療法は再び正当に評価されるようになった.
 Joslinによって近代糖尿病治療学が確立されて以来,糖尿病の治療は食事療法と運動療法の厳格な実施を前提として,インスリンや経口剤による薬物療法が行われるのが原則であったが,経口剤療法ではこの原則が守られないことがしばしばであった.UGDP論争を契機にして,原則にたちかえることが強く要請されるようになったのは世界的事実であり,歓迎されるべきことである.

進行した糖尿病性網膜症の治療

著者: 清水昊幸

ページ範囲:P.64 - P.65

病期区分
 進行した糖尿病性網膜症とはどのような状態のものをいうのか.この問いに答えるのに好都合な糖尿病性綱膜症の病期区分がある.糖尿病性網膜症を大きく2病期に分割して,背景網膜症(background retinopathy)と増殖期糖尿病性綱膜症(proliferative state of diabetic retinopathy)とする分け方である.この区分はDavisら1)によって提唱され,今日広く受け人れられている.
 第1の背景網膜症の時期には,病変は網膜内に限局していて,小血管瘤,点状出血,硬性白斑,毛細血管網の閉塞,網膜の浮腫などがみられるが,いずれも網膜内の限局した変化で,視機能の急激な悪化は起こりにくい.

座談会

糖尿病治療の展望

著者: 馬場茂明 ,   赤沼安夫 ,   垂井清一郎 ,   葛谷健

ページ範囲:P.67 - P.77

 糖尿病の治療は,発症機序の解明とともに,個々の病態に応じた配慮・工夫がきめ細かくできるようになりつつある.そこで本座談会では,糖尿病治療の現況と現在の治療法の課題・工夫,さらに将来期待される新しい治療法の展望などについて,お話しいただいた.

カラーグラフ 臨床医のための内視鏡—パンエンドスコープ

スクリーニングで発見された病変とその頻度—とくにX線検査との比較

著者: 東京消化器病研究会・有志 ,   関東逓信病院・消化器内科 ,   小沢昭司

ページ範囲:P.82 - P.83

 上部消化管の検査に細径前方視鏡(パンエンドスコープ)を用いることが非常に多くなった.胃カメラを中心とした側視鏡による所見とはいくらか異なるところがある.この点を留意してわれわれグループの症例を順次お目にかける予定である.

図解病態のしくみ 消化器疾患・13

過敏性大腸症(3)—診断と治療

著者: 松枝啓

ページ範囲:P.85 - P.89

 先月号,先々月号で過敏性大腸症の病態生理について述べた.この病態生理を正しく理解することにより,診断はもとより合理的な治療が可能になる,今月号では,この診断と治療について具体的に述べたい.

図解病態のしくみ 循環器疾患・1

血圧に影響する因子の解析

著者: 須永俊明

ページ範囲:P.91 - P.95

 血圧に影響する因子は,いろいろな分け方がある.今回は,大きく2つに分けて解説する.1つは,血圧を規定すると考えられる因子(いわゆる生理的因子)と血圧の調節にあずかると考えられる因子であり,他は,実際に血圧を測定する場合に,影響がでてくる原因とでもいうべき因子である.とくに後者は血圧側定上の実際面での問題であり,上記の分類は少しく無理があろうが,つけ加えることにする.

臨床薬理学 薬物療法の考え方・1

投与量のきめ方(1)

著者: 中野重行

ページ範囲:P.97 - P.103

連載にあたって
 薬物の体内動態に関する研究がすすむにつれ,従来の経験的な薬物療法に対する反省が高まっている.そこで科学的根拠に基づいた正しい薬物療法の考え方,その実際を,臨床の場に則して症例,演習などを取り入れ,わかりやすくご解説いただく.
 臨床薬理学の旗手中野氏による下記12回のシリーズの予定.

異常値の出るメカニズム・34

尿比重と尿浸透圧

著者: 河合忠

ページ範囲:P.105 - P.107

尿比重・浸透圧の検査法
 尿比重測定には,尿比重計(浮秤計)を使う方法と尿屈折計を使う方法とがある.元来,尿比重計を使っていたが,尿比重と尿屈折率がほぼ相関することから,わが国では1965年ごろから広く使われはじめた.しかし,屈折計の目盛の基礎となるノモグラムは多数試料の実測によって経験的に作成されたものであるため,メーカーによって異なる.また,食塩や尿素では比重と屈折率に及ぼす度合が異なり,しかも食習慣によって尿組成が大きく異なるため,尿屈折計法による測定値と比重計による測定値にかなり乖離のみられることが少なくない.そこで,わが国の実状に合った日本臨床病理学会ノモグラムが発表されている(臨床病理27:1026-1031,1979).今後,尿屈折計の目盛は本ノモグラムによって作成されることにより,規準化が可能となる.
 尿浸透圧測定は浸透圧計により行うが,近年では小型機器も市販されるようになり,かなり広く実施されるようになった.

臨床講座=癌化学療法

抗癌剤の生い立ち

著者: 藤本修一 ,   小川一誠

ページ範囲:P.109 - P.113

 癌化学療法の発展の歴史は,抗癌剤の発見の歴史でもある.表1に示すごとく,1946年にGilmanら1)が慢性白血病および悪性リンパ腫に対するnitrogen mustardの有効性を最初に報告し,続いて1948年にFarberら2)が葉酸拮抗物質amino-pterin(methotrexateはこの誘導体)を用いて小児の急性白血病で寛解導入に成功して以来,癌の化学療法の歴史が始まったと考えられる.
 その後,主な抗癌剤だけをあげても,1950年代には6種の,1960年代には実に18種の臨床上有用な薬剤が開発され,それとともに一部の悪性腫瘍では治癒も望めるようになってきた3)

神経放射線学

脳腫瘍(3)—第三脳室近傍腫瘍(傍鞍部,松果体部を含む)

著者: 町田徹 ,   前原忠行

ページ範囲:P.117 - P.123

 第三脳室およびその近傍部には,病理組織学的に実にさまざまな種類の腫瘍が発生する可能性がある.したがって当然,放射線学的に得られた検査結果も多彩で,たとえば奇形腫のように特有の歯芽像により頭蓋単純写真1枚あれば容易に診断されるものから,下垂体微小腺腫のように内分泌学的検索が決め手となり,放射線学的にはまったく異常所見を認めないようなものもある.
 一方,この部の腫瘍は,頭蓋底に接して存在することが多く,頭蓋底の骨に何らかの変化が見出される場合,断層撮影によって詳細に骨の変化を観察する必要がある.また,第三脳室や鞍上槽に腫瘍が存在するときには,腫瘍の輪郭を正確に把握する目的で気脳撮影を行うこともある.CTの発達・普及した今日でも,この部の腫瘍に対する気脳撮影の役割はまだまだ大きいものがあると思われる.

腹部単純写真の読み方

撮り方と読み方の基本

著者: 平松慶博 ,   甲田英一

ページ範囲:P.125 - P.131

連載にあたって
 腹部単純写真は,近年,CTの出現や血管造影法などの進歩でX線解剖がより詳細になったことにより,その意義が見直されてきている.そこで本欄では,X線検査としては最も簡単なものでありながら,1枚の写真がもたらす情報をなかなか生かしきれていない実状に鑑み,腹部単純写真の読影の実際とコツを,対談形式でわかりやすく解説していただく.
 今後の連載予定は以下の通り.
 2.石灰化
 3.腹腔内遊離ガス
 4.閉塞(イレウス)
 5.腹腔内液体貯留
 6.外傷
 7.虫垂炎
 8.急性膵炎
 9.腹部血管病変
 10〜12.小児の腹部病変

画像診断と臨床

肝疾患(1)

著者: 秋庭真理子 ,   多田信平 ,   川上憲司

ページ範囲:P.133 - P.139

連載にあたって
 華々しい脚光をあびるCT,超音波検査,RIなどの画像による診断法は,さらに日々改良が加えられ専門化・高度化が進む一方,近年これら種々の診断法の体系化の試みが始められている.あまりの改良の速さに,十分なデータの積み重ねが追いつかない現状もあるが,新しい診断装置は着実に臨床の場へ入りつつある.そこで本欄では,現在与えられた条件の話し合いのもとではどんなアプローチが可能なのかを,症例に則した内科,放射線科の中で探っていただくことにした.腹部病変を中心に,1年間連載の予定である.

連載 演習

目でみるトレーニング 44

ページ範囲:P.141 - P.147

外来診療・ここが聞きたい

肝障害を有するHBs抗原持続陽性例

著者: 鈴木宏 ,   西崎統

ページ範囲:P.152 - P.155

症例
患者 H. K. 33歳 男性,会社員
現病歴 生来健康であった.約2週間前,獣血に行ったところ肝障害を指摘され精査の目的で来院した.現在,自覚症状はない,アルコール:少量(つき合い程度),タバコ:20本/日

medicina CPC

労作時の息切れ,浮腫を主訴とする79歳男の例

著者: 宮沢佑二 ,   日野理彦 ,   羽田治夫 ,   佐川文明 ,   後藤晃 ,   春見建一

ページ範囲:P.157 - P.169

下記の症例を診断してください
 症例 79歳 男
 主訴 息切れ,浮腫
 家族歴 特記することなし

プライマリ・ケア

初期診断・初期治療の諸問題—(1)あるべき医師像

著者: 阿部正和 ,   川久保亮 ,   永井友二郎

ページ範囲:P.170 - P.175

 永井(司会) 今日のテーマである初期診断・初期治療の諸問題については,その医学的な観点からのお話しは,昨年6月に行われました第3回日本プライマリ・ケア学会で,阿部先生に特別講演をしていただき,大変好評でした.今日の鼎談ももちろん医学的観点が基本にあるわけですけれども,プライマリ・ケアというさらに広い観点からこの問題にアプローチしてみたいと考えております.
 そこでプライマリ・ケアという観点とはどういうことかということですが,これにはいろいろな考え方があります.今日は,私が昨年のプライマリ・ケア学会の会頭講演でお話しした考え方に基づいて進行させていただきたいと思います.

Clinical topics

成人急性白血病の薬物療法

著者: 高久史麿

ページ範囲:P.114 - P.115

 急性白血病の治療は近年著しい進歩を遂げ,とくに小児の急性リンパ性白血病では5年以上生存する症例が50%に達したと報告されている.これに反して成人の急性白血病はリンパ性,非リンパ性を問わず小児に比べてその予後がはるかに不良である.

他科のトピックス

光ファイバを用いた心臓内圧測定

著者: 松本博志 ,   小林健二

ページ範囲:P.150 - P.151

 光ファイバを用いたカテーテル先端型血圧測定装置は,心臓カテーテル法の発展に伴って開発されてきた技術である.
 本装置は圧変換素子をカテーテルの先端に取り付けた構造の,プローブ型の圧力および心音変換器(トランスジューサー)である.ここにトランスジューサーを設計する上での要点を列記すると,①安全性,②感度,③周波数応答,④S/N,⑤直線性,⑥安定性,⑦操作性,⑧製作性,⑨安価などである.これらはトランスジューサーの超小型化と相反する事項が多く,安全性の重視下における大きさと特性との戦いである.

オスラー博士の生涯・90

定年の時期(1)—波紋を起こしたジョンス・ホプキンス大学での告別講演(1905)

著者: 日野原重明 ,   仁木久恵

ページ範囲:P.178 - P.183

 ウィリアム・オスラー博士は,当時ペンシルバニア大学医学部の内科教授であったところを,新しい医学部をジョンス・ホプキンス大学に創設したいというギルマン総長に懇望され,1887年5月にはペンシルバニア大学を辞し,1888年に,ボルチモア市に赴いた.
 そして,ジョンス・ホプキンス病院の内科主任となり,この病院を中心に医学部を創設し,内科教授となった.

天地人

知らぬ私が悪いのか

著者:

ページ範囲:P.177 - P.177

 「みれる」とか「みれない」ということばは,文法的にいっても誤りであり,今は,われわれのような年輩のものはそれが耳ざわりで,どうにもいやなことばだという感じがするのですけれども,しかし,これも「みれる」「みれない」「起きれる」「起きれない」ということばが一般化してくれば,それを防ぐ道はないわけでございます(池田弥三郎・元慶大教授著『ゆれる日本語』).
 国鉄をはじめ私鉄の大部分の駅では,「発車をいたします」,「停車をします」だの「到着をします」などと放送しており,まことに耳ざわりである.福田恒存他編による『死にかけた日本語』(英潮社刊)では,『これらは名詞であるが本来動詞であるから,「発車します,到着します」でさしつかえない上に,そのほうが簡単明瞭で,言葉づかいとしても自然である』と述べている.「—をする」は政治家諸侯が好み,一国の大代表たる宰相も,実現をしたい,考慮をしたい,計画をしていない,などと使っているが,をは不要である.選良諸侯は,を入れることによって重重しくしているつもりであろうが,たとえ誤りでないとしても不自然なことである.最近ではNHKあたりでも「—れる」「—をする」を採用しているようだが,NHKはお気付きか.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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