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雑誌目次

雑誌文献

medicina18巻10号

1981年10月発行

雑誌目次

今月の主題 脳循環の基礎と臨床

理解のための10題

ページ範囲:P.1752 - P.1754

鼎談

脳循環をめぐる諸問題

著者: 後藤文男 ,   坪川孝志 ,   田崎義昭

ページ範囲:P.1676 - P.1688

 最近注目されているPositron Emission CTなどにより脳の深部の循環・代謝の3次元の測定が可能になりつつある現在,全脳循環あるいは局所脳循環・代謝の測定法の基礎および臨床を振り返り,それらを測定することの臨床的意義はなにかなどについて,話し合っていただいた.

脳循環研究の進歩

著者: 相澤豊三

ページ範囲:P.1690 - P.1691

 ヒトの脳は左右の内頸動脈A.carotis interna と,左右の椎骨動脈A.vertebralisとによって血液の供給を受けている.この3大動脈系の灌流する領域は,正常では選択的であり,高等な機能を司る大脳は主として内頸動脈系がこれを担当し,生命と直接不可分の関係を保っている.
 尾側脳幹部(間脳・中脳・橋・延髄)および小脳は主として椎骨動脈系から栄養されており,自律神経系から血液の配分を受け,しかも選択的に一定の動脈は一定の視床下部の核群を養っているといわれている.それらの動脈は脳底部で,ひとまずお互いに連絡してWillis動脈輪をつくっているが,この前・中・後3対の大脳動脈に脈絡叢動脈・小脳動脈その他が加わって脳に給血するものである.このことは人体の生物学的防禦機構を示すよい例であり,片側の主幹動脈が閉塞しても,大脳両半球に血液供給を確保することができるからである.

脳循環の生理

脳循環を左右する因子

著者: 神田直

ページ範囲:P.1692 - P.1693

 脳血流は安静休息時にはほぼ安定しているが,脳代謝の亢進,呼吸の変化,REM睡眠時など種々の条件下では容易に変動する.脳循環を左右する因子は脳灌流圧と脳血管抵抗であり,この関係は脳血流=脳灌流圧/脳血管抵抗で示される,脳血管抵抗に影響する因子としては,化学的因子,神経性因子,血液粘稠度,頭蓋内圧,体温,諸種薬剤などがあげられるが1,2,3),なかでも化学的因子が最も重要である.以下脳循環に影響を及ぼす諸因子について解説する.

脳循環の自動調節

著者: 島津邦男

ページ範囲:P.1694 - P.1696

定義
 脳循環は脳への血液の循環,すなわち脳血流と同義語に用いられるが,自動調節autoregulationは一般の英辞典にその記載がない.医学英辞典の代表であるDorland's illustrated medical dictionaryにおいても,第24版までにはautoregulationの項目がなく,最も新しい第25版(1974年)で,はじめて記載されており,①the intrinsic tendency of an organ or tissue to maintain constant blood flow despite changes in arterial pressure,②the adjustment of blood flow through an organ in order to provide for its metabolic needs.③the factors tending to maintain a constant blood pressureの3つの説明が付されている.

脳循環と代謝の測定

全脳平均血流量の測定—N2O法について

著者: 澤田徹

ページ範囲:P.1698 - P.1699

 ヒトのCBF(脳血流量)をはじめて定量的に測定したのはKety & Schmidt(1945)である.この方法は一般にN2O法と呼ばれ,わが国では相澤ら(1954)の慶大変法がよく利用されている1).1960年代後半から133Xeなどのアイソトープを用いた局所脳血流測定が実用化され,全脳平均血流量を測定するN2O法は古典的な方法となりつつあるが,in vivoのヒトのCBFの測定法としては測定値の信頼度がもっとも高く,かつCMRO2(脳酸素消費量)も同時に知りうることから,現在でもその有用性は衰えていない.

局所脳循環

著者: 坂井文彦

ページ範囲:P.1700 - P.1701

 脳の機能には分化した局在性のあることが古くより知られ,一見一様に見える脳組織が実際にはそれぞれの部位ごとに異なった作業を分担していると考えられている.そのため脳の機能,代謝,循環などを論ずる場合には,脳内の局所における状態を知ることが他臓器の場合以上に必要となってくる.1955年Landauら1)は,動物においてオートラジオグラフ法による局所脳血流量の3次元的測定法を開発し,正常安静時においても脳血流は脳の局所でかなり異なる値を有することを報告している.ヒトにおいても脳循環代謝諸量を3次元的に測定することは脳の機能の局在性を知るためばかりでなく.脳血管障害の病態生理の理解を深めるための大きな課題であった.1945年Kety & Schmidtがヒトの全脳循環代謝測定を可能にして以来,現在までにいくつかの測定法が開発されてきたが,技術上の制約のため必ずしも満足のいく局所脳血流動態をとらえうるものではなかった.ヒトにおけるいわゆる局所脳血流測定法の第1歩はIngvar & Lassen2)による85Krあるいは133Xe動注法である.これは放射性アイソトープ(RI)を内頸動脈内に急速注入し,頭部に固定した複数のRl detectorにより脳内RI clearance curveを記録し,各detectorがとらえる局所での脳血流を算出するものである.

オートラジオグラムによる脳局所血流—代謝測定法

著者: 桜田修

ページ範囲:P.1702 - P.1704

 中枢神経系は,機能の異なる細胞群が複雑な回路網をもって連絡しつつ作用を発揮する臓器であり,脳機能と密接な相関をもつ脳血流,脳代謝を指標として微細な脳機能変化をとらえる場合,全脳レベルでの脳血流,代謝の測定では,その変化も平均化され,詳細をとらえることが困難なことが多い.そこでおのずから,脳局所血流,代謝の測定法が必要となってくる.すでに多くの方法が発表され,すぐれた業績が報告されているが,ここでは,オートラジオグラムによる脳局所血流,代謝測定法について簡単に述べたい.

脳循環障害の成因と病態

皮質枝系と穿通枝系梗塞の成因

著者: 村井淳志 ,   亀山正邦

ページ範囲:P.1706 - P.1707

 脳卒中とよばれる病態には多数の疾患が含まれていて,これを臨床的に鑑別することは,これまで容易ではなかった.脳卒中の成因を解明するためになされた疫学調査でも,剖検例を除けば出血か梗塞かの診断でさえ確実であったとはいいがたい.それゆえまず脳出血と脳梗塞のリスク要因を明らかにすることが,当面の課題であった.CTが臨床に導入されて以来,脳卒中の診断は容易かつ確実になった.また個々の症例で,リスク要因が常に同程度作用するわけではない.われわれは脳梗塞について,これを動脈の病変部位によって分類し,リスク要因を検討した.その結果このような分類が,脳梗塞の成因を解明するために有用であることが明らかになった.

虚血性脳疾患と血液凝固性亢進

著者: 山之内博

ページ範囲:P.1708 - P.1709

 脳梗塞やTIAなどの虚血性脳疾患の原因として動脈硬化は重要であるが,流れる血液側の条件,ことに血栓を形成しやすい状態も無視できない要因の1つと考えられる.
 ここでは,筆者らの検討成績を含めて,血栓の形成されやすい状態すなわち血液凝固性亢進の観点から虚血性脳疾患との関連について考察したい.

虚血性脳疾患の脳循環

著者: 海老原進一郎 ,   北川泰久

ページ範囲:P.1710 - P.1711

 ヒトの脳循環代謝測定法によってとらえうる虚血性脳血管障害の基本的病態について解説する.

虚血性脳疾患の脳代謝

著者: 藤島正敏

ページ範囲:P.1712 - P.1713

 血中よりとり込まれたブドウ糖はピルビン酸へと代謝されるが,この過程は細胞質で行われ,酸素を必要としない(嫌気的解糖).さらに代謝は進みピルビン酸はacetyl Co Aに導かれ,オキザロ酢酸と結合してクエン酸回路(TCA cycle)を1回転する間にCO2とHに分解される.このHは電子伝達系に運搬され,酸素と結合しH2Oとなる(好気的解糖).この反応過程で多量のエネルギーが放出され,高エネルギー燐酸化合物であるATPが,1分子のブドウ糖から約30個あまり産生される(図1).
 虚血低酸素血症のように酸素供給が低下した状態では,好気的解糖が障害されるためにATPの産生は抑えられる.一方,嫌気的解糖は正常の数倍に亢進し,組織内に乳酸が著しく増加する.

頭蓋内圧亢進と脳循環

著者: 永井肇 ,   新田正廣

ページ範囲:P.1714 - P.1716

 頭蓋内圧亢進は,脳神経外科医が日常診療に際してしばしば遭遇する病態である.固くて伸展しない頭蓋骨によって囲まれた頭蓋腔の中で内圧が高まると,全体的に脳血流が低下して脳機能が障害されるとともに,可塑的な性質を有する脳組織は圧迫により変形,偏位して,天幕切痕あるいは大後頭孔へ,ヘルニアを起こし病態をますます複雑なものにしている.
 本稿では,頭蓋内圧が亢進した際に起こる,血圧,脳波の変化を脳循環動態と関連づけて検討を加える.

脳循環障害の検査

急性期の検査のすすめ方

著者: 篠原幸人

ページ範囲:P.1717 - P.1719

 脳循環障害検査法の最近の進歩は著しく,CTスキャンおよび脳血流測定などの検査が,診断や治療方針の決定に威力を発揮している.しかしこれらの検査は高価な器械を必要とし.どこでも誰でも行えるものではない.
 図に通常の脳循環障害急性期の検査のすすめ方を示したが,その順をおって簡単に解説を加えてみる.

頭部CT(グラフ)

著者: 高木康行

ページ範囲:P.1720 - P.1723

 脳血管障害急性期の診断にCTスキャンは絶大な威力を発揮する.脳循環障害に際してCTスキャンは,その動態は示しえないが,形体的病態は他の診断手段とは比較にならない正確さで表現しうる.すなわち,病変の性質が出血か梗塞か,部位はどこか,浮腫・mass effectの有無・程度,脳ヘルニアの進行状態などをすばやく非侵襲的に知ることができる1)

超音波血流検査—その意義

著者: 白石純三

ページ範囲:P.1724 - P.1726

 脳循環障害の検査法としての超音波血流検査には,技術的にはドプラ法による血流計測と,モード断層法およびパルス・ドプラ法を組み合わせて頸部血管の形態と流速分布を調べる方法があるが,一般に普及し臨床応用のなされているのは,前者の連続超音波ドプラ法である.本法は被検者に何ら苦痛をあたえることのない非侵襲の検査であり,しかも装置の価格も特殊なものでないかぎり比較的廉価であるため,単にスクリーニング・テストとしてのみならず,使いようによっては非常に有意義な病態生理学的情報をあたえてくれる検査法である.

OPG(眼球脈波)

著者: 山口武典 ,   宮下孟士

ページ範囲:P.1728 - P.1729

 OPG(oculoplethysmography,眼球脈波)は,眼動脈の血流変化に伴う眼球容積の拍動性変化を圧脈波に変換して記録し,左右を比較することによって,頸動脈の狭窄性病変の有無を非観血的に検出しようとする検査法である.この方法はKartchnerら1)によって開発,実用化されたもので,他の非観血的診断法に比べて診断精度は高く,技術的にも容易であるため米国ではかなり広く用いられている.

脳循環障害の臨床

病型鑑別

著者: 赫彰郎 ,   北村伸

ページ範囲:P.1730 - P.1732

 脳血管障害の病型鑑別は,最近のCTスキャンの進歩により,100%近く確実になってきたといってよい.しかし,急性期においてはCTスキャンの実施が必ずしもどこでもできるとはかぎらず,病歴や神経学的所見,髄液所見などから鑑別しなくてはならないことがまだ多くある.なかでも,脳出血と脳梗塞の鑑別は治療の面からも重要である.わが国では,1962年に文部省脳卒中総合研究班により,1958年のMillikanらによるNIHのAdhoc Committeeの脳血管疾患分類に準じた本症の分類と診断基準が発表された.その後WHOの分類(1970),厚生省の脳卒中による寝たきり防止に関する研究班による脳血管発作の鑑別表(1977)などが発表されている.
 ここで,脳出血と脳梗塞,クモ膜下出血の主な鑑別点について,教室においてCTおよび脳血管撮影で診断確定した脳出血99例,脳梗塞104例,クモ膜下出血212例について検討した結果を中心に述べてみたい.

後大脳動脈領域梗塞症

著者: 秋口一郎 ,   亀山正邦

ページ範囲:P.1734 - P.1735

 後大脳動脈領域梗塞症posterior cerebral artery territory infarction(以下PCAI)は,中大脳動脈など,他の領域の梗塞症にくらべ,多種多様の臨床症候を示す1〜5).その理由としては,①PCA領域には視床,中脳・脳幹,海馬などの臨床的に重要な構造が多く存在すること,②後頭葉のみでなく側頭葉や頭頂葉も環流域に含まれること,③血行動態に各種のvariationがあり個体差が大きいこと,などが挙げられる.したがって梗塞巣の位置と大きさは,動脈閉塞の部位とWillis輪,側副血行の動態により決定される.もし側副血行が十分であれば,後交通動脈の近位部の閉塞でもまったく無症候の場合もある.後交通動脈より遠位部の閉塞でも,前・中大脳動脈からの側副血行が十分であれば,障害は比較的軽度ですむ1).このようにPCAIの血行動態臨床症候は複雑であるが,最近,CTスキャンの普及により梗塞巣を客観的にとらえることが可能となった.したがって従来よりも部位診断,症候学的分析が容易となり,その頻度も脳梗塞中,8.4%4),7.1%(一側PCAIのみ)5)と,さほど稀でないことが明らかにされている.

出血性梗塞

著者: 小林祥泰

ページ範囲:P.1736 - P.1737

 出血性梗塞は梗塞巣の中に漏出性出血を伴うものであり,臨床的にもいわゆる貧血性梗塞とは異なった病像を呈する.また,とくに脳梗塞に対するウロキナーゼなどの線溶療法の適応を決める際には,本病態の理解が必須である.

小梗塞

著者: 鈴木一夫 ,   沓沢尚之

ページ範囲:P.1738 - P.1739

 剖検脳でみると,脳の小梗塞(lacunar infarction)はテント上では大脳基底核や内包,視床に多く認められ,テント下では橋に多く認められる.これらの部位はいずれも脳血管穿通枝動脈により灌流される領域であり,その小梗塞に起因する臨床症状は軽く,予後も概して良好である.また,小梗塞を生じても臨床症状を呈さないことも多い.
 Fisherは,小梗塞によりひき起こされる典型的臨床像を病理所見と対比させ,lacunar strokeとして,①pure motor hemiplegia,②pure sensory stroke,③homolateral ataxia and crural paresis,④dysarthria-clumsy hand syndromeの4型にまとめた1).その後,視床,内包部のlacunaeによる1病型がsensorimotor strokeとして報告された(Mohr 1977).

多発梗塞性痴呆

著者: 尾野精一 ,   東儀英夫

ページ範囲:P.1740 - P.1741

 多発梗塞性痴呆(multi-infarct dementia,以下MIDと略す)は,老年痴呆(senile dementia)とならんで,老年期に痴呆を呈する疾患のなかで,わが国では頻度の高いものである.MIDとは,Hachinski(1974)により提唱された用語で,痴呆の発現にとって重要なのは,脳の動脈硬化よりもむしろ,これに合併することの多い多発性の小さな脳梗塞であるという最近の知見をふまえた表現で,従来の概念でいえば,脳動脈硬化性痴呆あるいは脳血管性痴呆とほぼ同じ意味と考えてよく,従来使用されていたlacunar dementiaに相当するものである.現在では,脳動脈硬化性痴呆や脳血管性痴呆よりも,MIDという用語が広く用いられるようになりつつある.

脳循環障害の治療

血栓溶解剤—その適応を中心として

著者: 荒木五郎

ページ範囲:P.1743 - P.1745

 血栓溶解剤は,プラスミノーゲンをプラスミンにするアクチベーターで,ウロキナーゼ(以下UKと略す)が広く使用されている.この線溶療法の目的は,脳梗塞にUKを投与して血栓を溶解して,血流を再開通させることにより脳梗塞巣を最少限に止めるということにある.しかし,血栓が実際に溶解するかどうか,また溶解後の血流再開に際し,神経機能が回復しうるかどうか,さらに再開通による続発症(脳浮腫,出血性梗塞)が起こらないかどうかが問題となる.このような問題点を含み,適応の選択には,慎重とならざるをえないというのが現状である.UK投与の対象が脳血栓か脳塞栓か,発症からUK投与までの時間によっても,その効果,合併症も異なってくる.

脳循環改善剤

著者: 深津敦司 ,   伊藤栄一

ページ範囲:P.1746 - P.1747

 脳循環改善剤ということばは,脳血管拡張作用,血小板凝集阻止作用,赤血球変形能増強作用などを有し,一般的に脳血管拡張剤として総称される薬剤と同義で使われることが多い.ここではこれに加えて低分子デキストラン,血小板凝集阻止剤としてのアスピリンにも言及する.

脳血管障害の治療

虚血性脳血管障害の手術適応

著者: 水上公宏

ページ範囲:P.1748 - P.1749

 脳主幹動脈の狭窄あるいは閉塞によって脳への血行が減少または途絶すれば,脳虚血により神経症状が出現する.
 しかし頸部内頸動脈では,その内腔が2mm以下にならなければ脳血流は減少せず,また仮に完全閉塞を来たしたとしても,ウィリス動脈輪を中心とする各種の副血行路から血流が保たれるので無症状の場合もある.しかしこれらの副血行路からの血流が十分でないと,脳組織は浮腫→壊死と進展することになる.したがって狭窄性〜閉塞性の脳虚血性疾患の手術適応は,脳血管撮影所見のみによっては決定できない.

カラーグラフ 臨床医のための内視鏡—パンエンドスコープ

噴門部,幽門部周辺の病変

著者: 服部了司 ,   東京消化器病研究会・有志 ,   関東逓信病院・消化器内科

ページ範囲:P.1756 - P.1757

 かつて上部消化管病変の検索において,最も見逃しを恐れた部位は噴門部周辺と幽門部周辺であった.
 最近,細径前方視鏡が一般に普及するようになり,この部位の観察が従来の側視鏡に比べはるかに容易になり,日常的に多彩な病変が見出されるようになった.しかし,噴門部に関する限り,早期胃癌対進行胃癌の比率が期待したほど改善していないのは,噴門部の特異的な組織解剖学的構造により,癌自体の発育や転移の速度が早いためかもしれない.

図解病態のしくみ 消化器疾患・20

肝性脳症の病態生理

著者: 松枝啓

ページ範囲:P.1775 - P.1781

 Hepatic Encephalopathy(肝性脳症)は,Hippocratesによっても記載されているが,最初の臨床的記述はShakespeareの"Twelfth Night"において記されている.すなわち,アルコール中毒のSir Andrew Aquecheekの台詞で,"I'm a great eater of beef,but believe it does harm to my wit"と述べているが,これは蛋白の摂取によりHepatic Encephalopathyが惹起されることを初めて記載したものである.このように,Hepatic Encephalopathyは古来より存在したことは明らかであり,その頻度も近代になり増加の傾向にある.わが国においても,近年食生活の欧米化に伴い蛋白摂取量が増加したためか,日常の診療においてしばしばこのHepatic Encephalopathyに遭遇する.このHepatic Encephalopathyの合理的治療は,その病態生理を正しく理解することにより可能となる.すなわち,今月号ではHepatic Encephalopathyの病態生理を述べ,来月号ではその病態生理に基づく合理的治療法について述べたい.

図解病態のしくみ 循環器疾患・10

高年者高血圧症

著者: 須永俊明

ページ範囲:P.1759 - P.1763

 老年者高血圧には2つの種類の高血圧が含まれると考えられる.すなわち,いわゆる中年からつづいている高血圧の延長という型と,老年に入ってからはじめて高血圧状態になるという型の2つである.いずれの型でも,本来の高血圧症の合併症のほかに,老年者全般への合併症で修飾されていることが特徴的である.

異常値の出るメカニズム・42 酵素検査(2)

血清トランスアミナーゼ(GOT・GPT)

著者: 玄番昭夫

ページ範囲:P.1765 - P.1769

GOT・GPTの臓器分布
 GOT(EC 2.6.1.1,正式にはaspartate aminotransferase,ASTという)あるいはGPT(EC 2.6.1.2,正式にはalanine aminotransferase,ALTという)とは,
 L-アスパラギン酸+2-オキソグルタール酸⇌オキサロ酢酸+L-グルタミン酸
 L-アラニン+2-オキソグルタール酸⇌ピルビン酸+L-グルタミン酸
という反応を触媒する酵素で,両者とも一種のピリドキサルリン酸蛋白である.すなわち補酵素としてピリドキサルリン酸を必要とし,これが,GOT,GPTの蛋白部分(アポ酵素,すなわちアポGOT,アポGPT)に結合したピリドキサルリン酸蛋白(ポロ酵素)が上記反応を触媒できるGOT,GPTである.この両酵素の相対的臓器濃度を比較してみると図1のようになる.すなわちGOTは心,肝,骨格筋に多い酵素であるが,GPTはほぼ肝特異性といわれるほど肝に局在している酵素である.腎にはGOT・GPTともに比較的多く含まれるが,腎疾患で血清GOT・GPTは上昇してこないので,腎について考慮する必要性はない.

臨床講座=癌化学療法

制癌剤感受性試験

著者: 井上雄弘 ,   小川一誠

ページ範囲:P.1771 - P.1774

 制癌剤感受性試験は,制癌剤スクリーニングを目的とする場合と,文字通り個々の患者に対する制癌剤適応決定のための感受性テストとして用いられる場合の2とおりがある.本章では,後者について記述する.
 現在,日常臨床において制癌剤として繁用されている薬剤は約30種類あるが,各種の癌に対するその有効率はせいぜい30%前後である.そして,癌の臨床医にとって個々の患者に対する適切な制癌剤の選択は,患者の予後を直接左右する問題であるために,その重要さは外科医のメスさばきに匹敵するとさえいえよう.制癌剤選択のために,従来より各種の制癌剤感受性試験が試みられてきているが,いまだに十分な臨床効果との相関を示すものは少ないといえる。本稿では,いままでの制癌剤感受性試験について解説するとともに,最新の感受性試験としての信頼度が高いin vitroコロニー法(human tumor clonogenic cell assay)について紹介する.

腹部単純写真の読み方

腹部血管障害

著者: 平松慶博 ,   徳田政道

ページ範囲:P.1799 - P.1806

 平松 今回は腸管血管損傷の腹部単純を中心とする診断についてお話を聞きたいと思います.

画像診断と臨床

肝外閉塞性黄疸(2)

著者: 仲吉昭夫 ,   多田信平 ,   川上憲司

ページ範囲:P.1807 - P.1815

症例1(図1〜6)
患者 U. T. 75歳 男性
主訴 黄疸

連載 演習

目でみるトレーニング 53

ページ範囲:P.1817 - P.1823

外来診療・ここが聞きたい

肝機能検査ほぼ正常で食道静脈瘤を発見したとき

著者: 上野幸久 ,   竹越國夫

ページ範囲:P.1784 - P.1787

症例
 患者 K. U. 69歳 女性 主婦
 現病歴 生来健康.昭和50年7月,健康診断の胃X線検査にて食道静脈瘤を指摘され,同年9月当院を受診した.

プライマリ・ケア

地域健康教育の諸問題(2)

著者: 宮坂忠夫 ,   西三郎 ,   本吉鼎三

ページ範囲:P.1827 - P.1832

糸口はどこに
 本吉(司会)今回は,まず健康教育の活動を地域で行う場合,だれが何をどのようにやればいいのかから考えてみたいと思います.宮坂先生からお願いします.
 宮坂 私は,前回に西先生が言われたような生活の知恵の自発的な拡がりというものは,1つの理想論であり,地域のいわゆるリーダーを集めてなにかを計画するということのほうが,現実性があるような気がしますね.

他科のトピックス

ヘマトポルフィリン誘導体とレーザ光線による早期肺癌の診断・治療

著者: 早田義博 ,   小中千守

ページ範囲:P.1834 - P.1835

 ヘマトポルフィリン誘導体(HpD)は,腫瘍親和性が強く,photo dynamic効果のあることが知られている.この性質を利用した癌の診断,治療への応用は,近年,世界で脚光を浴びつつある.筆者らは1979年以降,HpDとレーザ光線を組み合わせた診断,治療システムを開発し,肺癌,胃癌などに施行した,本稿では早期肺癌の診断,治療について記述する.

オスラー博士の生涯・99

「学究生活」The Student Life

著者: 日野原重明 ,   仁木久恵

ページ範囲:P.1792 - P.1798

 ウィリアムオスラー(1849〜1919)は,15年間アメリカ合衆国メリーランド州ボルティモア市に生活し,その間ジョンス・ホプキンス大学医学部の創設とジョンス・ホプキンス病院での診療,研究,教育,運営に全力を注いだ.
 健康がすぐれないことと,後進に大役をゆずりたい気持で,55歳の時,ここを辞し,英国オクスフォード大学に欽定教授として移ることになった.
 転任前の1905年4月にはカナダのモントリオール市の母校マギル大学医学部に招へいされ,英国に赴く前に北アメリカの医学生,医師に,「学究生活」と題する次の講演を行った.オスラーの遺した数多い講演の中でも,特に有名なものである.

天地人

せめて医師なら

著者:

ページ範囲:P.1791 - P.1791

 隠語……特定の仲間の間にだけ通用するように,特別の意味を付与して用いる語.かくしことば(新村出編,広辞苑).
 平野威馬雄編の符蝶・陰語六千語「芸者からスリまで」によれば—陰語や符蝶は一種のエスペラントで,それを通じて,特殊の用途を満たすことができるが,陰語は仲間同志の間だけで,秘密に意志を交換し合うために使われるという点が違っている.仲間以外の人達に知られては陰語の用をしない—と述べている,セリ市の掛け声や指の動きは一種の符蝶であろう.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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