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雑誌目次

雑誌文献

medicina18巻12号

1981年11月発行

雑誌目次

臨時増刊特集 臨床医のためのCTスキャン 序文

著者: 田坂晧

ページ範囲:P.2030 - P.2030

 X線診断では,ときどき「読影のコツ」ということばにお目にかかることがあります.X線写真の読影には,なにか名人芸的な勘のようなものが必要だという先入感があるのかも知れません.X線診断の修練では,このような意味の「コツ」を期待する気持が残っているとしたら,むしろそれを取り除くところから始めるべきであると考えています.
 X線診断で,読影という作業を合理的に客観的に進めていくのに,必要な基礎が2つあります.第1は,種々のX線撮影やCTなどで,画像がどのようにつくられるかについて,基礎的に十分な理解をもっていることです.第2には,画像に対応するもととなる正常のX線解剖,および種々の病変で起こる形態の変化についての局所解剖学的な正確な知識をもつことです.この2つから,どの症例についても常に,再現性のある,一定の確からしさをもった判断が,いつでも同じように進められるようにするところに,X線診断の基本的姿勢があります.

脳血管障害(正常解剖を含めて)

著者: 町田徹

ページ範囲:P.2031 - P.2031

 脳血管障害はわが国の死因の首座を占め,諸外国に比しても著しく高い死亡率を示す.またその発症は通常急激で,たとえ死に至らない場合でも重大な後遺症を伴うことが多く,早急なる対応が要求される.一方脳血管障害は,血管の破綻による出血性変化と血管の閉塞による梗塞性変化とに大別され,これら二者を鑑別することは治療方針の決定上きわめて重要である.しかし,臨床上,神経学的手技のみでは両者の鑑別に困難を覚える場合も少なくなく,脳シンチグラムや脳血管造影などの従来の神経放射線学的検査法を用いても,鑑別診断は必ずしも容易なことではなかった.
 近年のコンピュータ断層(CT)の導入により脳出血と脳梗塞とは一層正確かつ簡単に鑑別されうるようになってきた.CTはわずかなX線吸収値の差異を画像として再現するために,急性期の血腫は高吸収値として,陳旧性梗塞は低吸収値として描出される.もちろん,CTが脳血管障害の診断に万能であるというわけではない.血管障害は一般にそうであるが,変化が急速であることから,ある特定の時期に行われたCTでは他疾患と紛らわしい像を呈したり,所見を有さない場合がある.逆にいえば,脳血管障害のCT診断は時間的な要素を抜きにしては行いえない.

正常CT像

ページ範囲:P.2032 - P.2034

図1軸方向CT正常像

脳出血

ページ範囲:P.2035 - P.2039

 脳実質内血腫の大部分は,いわゆる高血圧性脳出血と呼ばれるものであり,破裂動脈瘤,動静脈奇形,腫瘍(図4),血液疾患(図5),抗凝固因子(図6)の使用などに原因の求められることはむしろ稀である.成因の如何にかかわらず,急性期の血腫自体はCT上比較的辺縁の明瞭な高吸収域としてとらえられる.現在のところ血液のX線吸収値は主としてヘモグロビン濃度によると考えられており5,6),急性期の血腫が高吸収値を示すのは血管外に漏出した血液が血漿成分の吸収により濃縮されてヘモグロビン濃度が高まるためであるとされている.血腫は発症後ごく早期から高吸収値を示し,周囲に帯状の低吸収域を伴う(図7-A).この低吸収域は,最近の報告によれば血腫の圧迫による周囲脳組織の急性乏血性壊死とする考えが有力である1).発症1〜2週頃より徐々に血腫の融解吸収が起こり,X線吸収値の低下がみられ始める.血腫は等吸収値から低吸収値へと移行を示し,通常1カ月後にはほとんど低吸収値を呈する.このようなX線吸収値の低下は必ずしも血腫の体積の減少を意味するのではなく,とくに等吸収値血腫の場合には周辺の脳室系に対するmasseffectなどから血腫量の減少を推定せねばならない.さらに時間を経過すると血腫は縮小しX線吸収値は脳脊髄液と同程度に低下し,ついには固定するものが多い(図7-B).

クモ膜下出血

ページ範囲:P.2040 - P.2043

 クモ膜下出血の主な原囚は動脈瘤,動静脈奇形,出血性素因,中毒などであり,脳内血腫がクモ膜下腔に破綻し続発性クモ膜下出血を惹起することもあるが,ここではクモ膜下出血の原因として最も多い動脈瘤と動静脈奇形についてのみ述べる.
 クモ膜下出血におけるCTの有用性は脳槽内血腫,脳内血腫,脳室内血腫(図18)および随伴する脳梗塞(図19)を正確に描出しうる点にある.血腫は通常脳槽内の高吸収域として認められるが(図20),脳内血腫に比べX線吸収値の低下が速やかであるため発症早期にCTを行わねばならない.すなわち,発症後5〜7日以内に施行されたCTでは,75〜100%に脳槽内血腫を見出しうるが,7日目以後になるとほとんど血腫を指摘し得ないからである2,7).しかし脳槽内高吸収域の消失は必ずしも血腫の吸収のみによるものではなく,CT上,低吸収値を示す部位に手術時明らかな血腫の存在を認めることがある.また脳槽内血脈の広がりからある程度破裂動脈瘤の存在部位を推定できるが,このことは多発動脈瘤の場合とくに有用である(図18).動脈瘤自体がCTで描出されることも稀ではない(図21)が,現在のCTの解像力では詳細な形態学的観察は血管造影に頼らざるをえない.

脳梗塞

ページ範囲:P.2044 - P.2049

 脳梗塞は発症24時問以内にはCT上何ら異常を示さないことが多く(図23-A),脳出血に比し一般に診断は困難である.しかし脳卒中発作が確実で,発作直後にCTを行えば脳出血は容易に除外され,脳梗塞と診断しても臨床上ほとんど問題はない.脳梗塞のCT像も時間の経過とともに変化し,24時間以内には所見を有さなかったものが次第に低吸収値を示す.発症後4〜7日目ではほぼ全例に低吸収域が認められ,mass effectを伴う場合もある3)(図23-B).発症後1カ月以上を経た陳旧性梗塞巣は血管支配領域に一致したクサビ型の辺縁明瞭な低吸収域を示し(図24),多くは同側の脳室拡大などの二次的萎縮性変化を呈する(図25).
 CT開発初期の報告では脳梗塞は一般に増強効果を有さないとされていたが,近年かなり高頻度に増強効果を示すことが知られてきた9)(図26,27).この増強効果は発症1〜4週の間に約60%の頻度でみられ,時には低吸収値を示した梗塞巣が増強効果により脳実質とほぼ等しいX線吸収値を示し,かえって診断困難となることがあり,造影前CTの重要性が強調されている8).脳梗塞にみられる増強効果の機序は,いわゆるぜいたく灌流の部の毛細管床の拡張および梗塞巣における血液脳関門の破綻によると考えられている.

天幕上腫瘍

著者: 町田徹 ,   前原忠行

ページ範囲:P.2051 - P.2051

 われわれの施設にコンピュータ断層撮影(CT)が導入されて,すでに約5年が経過した.その間に多数の臨床例が経験され,いまや脳腫瘍のみならず脳疾患の診断にCTは欠くことのできない検査手段としての位置を占めるに至った.とくに腫瘍の検出率は高く,造影後のCTを行うと,ほとんど100%に近い診断率を得ることができる.しかし,腫瘍の質的診断に関しては,血管造影や断層撮影による情報が非常に大切である.
 本稿では天幕上腫瘍について述べるが,まず他検査との比較という意味でCTと血管造影などの相違点に触れ,各腫瘍の組織別のCT所見は後でごく簡単に解説するにとどめる.したがって,掲載される症例は必ずしも組織別に配列されるわけではないので,一部前後することもあり,いささか見にくい点もあるかもしれない.最初にお断わりしておく.

脳腫瘍とCT

ページ範囲:P.2052 - P.2052

 頭蓋内腫瘤性病変を疑うときにCTを行う際には,すべての脳が含まれるようにスライスを選ぶことが重要である.傍矢状部では骨の影響を受けて小さな腫瘍が見逃されることがあるので,できれば冠状方向CTを追加することが望ましい.

脳実質内腫瘍か実質外か

ページ範囲:P.2053 - P.2055

 腫瘍の質的診断においては,まずその腫瘍が脳実質内性(intra-axial)であるのか脳実質外性(extra-axial)であるのかを決定することが重要である.このことはCTでもある程度は判断しうるわけであるが,腫瘍が骨に近接して存在する場合には,partial volume effectのため必ずしも容易ではない,やはり血管造影によって腫瘍部の血管が頭蓋内板から離れた走向を示すのか,内板に押しつけられた走向を示すのかを検討することが大切である(図1,2).例外的にexophyticに発育した脳実質内腫瘍が血管を内板から離れた方向に偏位させることがある(図3).このような例では当然CTでも腫瘍は頭蓋に広く接して存在する像を呈することになる.

隣接する骨の変化

ページ範囲:P.2056 - P.2057

 CTでもウィンド幅やウィンド・レベルを変化させることにより,ある程度骨の変化を読み取ることができる,しかし,ウィンド幅やウィンド・レベルの設定によって病変の大きさが容易に変化してしまうことに注意せねばならない.
 天幕上腫瘍の場合,骨変化が錨別診断上最も重要であるのはトルコ鞍部であるが,CTでは直接トルコ鞍の矢状断を得ることが困難である.たとえばCT上鞍上部腫瘍の所見を示す際に,トルコ鞍の拡大,鞍底の菲薄化,あるいはpneumosinusdilatanceなどの所見を断層撮影によって知ることは鞍上部腫瘍の鑑別診断に非常に大事である(図4,5).また中頭蓋窩腫瘍では通常の軸方向撮影を行い,中頭蓋高底の骨構造の変化を確認しておく必要がある(図6).

腫瘍血管と腫瘍濃染像

ページ範囲:P.2058 - P.2059

 腫瘍に対する栄養血管の同定,腫瘍濃染像のパターンを知ることも,腫瘍の質約診断には欠くことができない.CTでも腫瘍が非常に強い増強効果を示せば,おそらく血行豊富な腫瘍であろうと推定することはできるが,栄養血管を知るには,どうしても血管造影が不可欠である(図7).また,CT上はあまり増強効果の著明でない腫瘍であっても,血管造影を行うと多数の腫瘍血管を認めることもある(図8).腫瘍内の不規則な腫瘍血管の増生や,早期静脈出現などの血管造影所見は腫瘍の悪性度を術前に知る上での1つの目安となる.

他疾患との鑑別

ページ範囲:P.2060 - P.2060

 とくにグリオーマや転移性腫瘍では,特徴的なCTのパターンはないといってもよいくらいで,脳梗塞,脳膿瘍,血腫などと類似したCTパターンを呈することがある.脳梗塞でも発症後比較的新しいものでは増強効果やmass effectを伴いうるので,グリオーマとの鑑別が難しいことがある(図9).また血腫でもその吸収過程で環状増強効果を示し,腫瘍に類似したCTパターンが見られる場合もある.しかし,いずれも時間の経過とともに,急速にCTパターンが変化するので,追跡CTを行えば腫瘍との鑑別は容易である.

腫瘍のX線吸収値

ページ範囲:P.2061 - P.2065

 腫瘍内の嚢胞成分の描出(図10,1)や,石灰化,脂肪の検出にはCTが最有力である.特に脂肪は-100〜-50Hounsfield unit程度の低吸収を示し,これの存在によって脂肪腫や奇形腫の質的診断が可能である(図12).またCTは通常のX線撮影ではわからないような小さな石灰化も検出することができ,腫瘍の質的診断に役立ちうる(図13).しかし,石灰化が通常のX線撮影でも判断しうる場合には,その形態を知る上で単純X線写真のほうがはるかに有用である(図14).
 以上,脳腫瘍診断に対するCTと他検査の比較という立場から,いくつかの項目に分けて述べてきたが,脳腫瘍診断においてCTが有力である点について,以下に実際に症例を呈示し,若干補足する.

クモ膜下嚢胞

ページ範囲:P.2068 - P.2068

 非常に良性の腫瘍で脳実質外性に発育する.CTでは脳脊髄液とほぼ等しいX線吸収値を示すので,CT脳槽造影を行って腫瘍の辺縁を描出することができる,類表皮腫との鑑別には,造影された脳槽内の陰影欠損としての腫瘤の辺縁が平滑であるか,凸凹に富んでいるかが大切な所見である.また,クモ膜下嚢胞の場合には,脳槽内の造影剤が,徐々に嚢胞内へと移行することがあり,他疾患との鑑別,および手術適応の決定の上でも重要な所見である5),したがって,クモ膜下嚢胞を疑ってCT脳槽造影を行うときには,経時的にCTを施行することが望ましい.
 その他にも,まだまだ天幕上腫瘍の種類は多いが,いずれも稀なものであり,ここでは省略する.

後頭蓋窩腫瘍

著者: 前原忠行

ページ範囲:P.2069 - P.2069

 脳腫瘍の診断,とくにその局在診断におけるコンピュータ断層撮影(CT)の価値は多くの認めるところで,検査が完全に行われさえすれは,ほぼ100%の検出率といわれている.天幕上の腫瘍に関しては,すでに多くの報告が見られるので,ここでは天幕下,すなわち後頭蓋窩の脳腫瘍にかぎって,中でもそれらの性質の判断にCTがどの程度役に立つかという点を中心に,代表的症例を供覧し解説を加えることにする.

後頭蓋窩腫瘍の局在診断

ページ範囲:P.2070 - P.2070

 後頭蓋窩はその構造上広範囲で頭蓋底部の骨に近接すること,また,比較的小児の症例が多いことなどから,種々のartifactにより局在診断についても天幕上のものほど容易ではなく見落とされる可能性もあるため,病巣の存在の有無に関してはX線吸収値の差による直接的所見のほかに,次のような種々の間接的所見にも注意して判断することが必要である.
 1)第4脳室の偏位,圧排変形
 2)橋前槽,小脳橋角槽および四丘体槽などの変形(狭小化あるいは拡大)
 3)中脳水道,第3脳室および側脳室の拡大

脳実質性腫瘍か脳実質外性腫瘍か

ページ範囲:P.2071 - P.2071

 後頭蓋窩に腫瘍が存在することがわかると,次にその質的診断を行うことになる.後頭蓋窩とかぎらず,すべての頭蓋内腫瘍の診断に共通していることであるが,CTの所見はけっして各腫瘍に特異的なものではなく,かなりの部分で類似している点があるので,そのパターンの上のみから質的診断を試みることは困難である.むしろ腫瘍の局在や解剖学的拡がりを詳細に検討することにより,年齢や性別を考慮した上でその部位に好発する腫瘍という観点から組織学的診断がすすむことが多い.
 そこで,まず第一に,脳実質性腫瘍(intra-axialtumor)か脳実質外性腫瘍(extra-axial tumor)かを鑑別することが必要となるが,とくに天幕下腫瘍に関しては小児のものはほとんど脳実質性腫瘍で,成人のものは概して脳実質外性腫瘍が多い傾向がみられる.このような点を考慮した上で,さらにCTの所見上,次のような特徴がみられれば脳実質外性腫瘍,そうでなければ脳実質性腫瘍と考えることになる.

脳実質外性腫瘍—聴神経鞘腫(Acoustic Neurinoma)

ページ範囲:P.2072 - P.2073

 造影前のCTでは等吸収値ないし低吸収値(10〜20Hounsfield Unit)を示すため,腫瘍の拡がりを知る目的でも造影剤の使用を欠かすことはできない.造影後にはほぼ全例で何らかの増強効果(contrast enhancement)がみられ(20〜40 H),側頭骨錐体後部に接した形での腫瘍の局在が,明瞭となる.増強効果のパターンについてみると約半数以上のものが辺縁の明瞭な結節状を呈し,内部に嚢胞性成分と思われる低吸収域を含むこともあるが(図2),場合によっては完全に低吸収値の嚢胞性で,その壁に沿って環状の増強効果を呈することもある(図3).しかし,稀には低吸収値腫瘤でまったく増強効果を示さないこともあり,このような例では水溶性ヨード造影剤Metrizamideなどで拡大した脳槽を造影してCTを行うことにより,その中の陰影欠損像として,はじめて腫瘍の拡がりが明確となる(図4).
 脳実質外性腫瘍であるので初期には脳実質を内側へ偏位しつつ発育するため,周囲のクモ膜下腔が拡大するのが特徴的であるが,さらに腫瘍が大きくなると脳槽の圧迫狭小化を示してくる.最も鑑別の困難なものは小脳橋角部の髄膜腫で,かなり類似したCT所見を呈しうることから,最終的には断層撮影における内耳道拡大の有無が決め手となることが多い(図2,6).

脳実質外性腫瘍—三叉神経鞘腫(Trigeminal Neurinoma)

ページ範囲:P.2074 - P.2074

 これは造影前にやや高吸収値(19〜31H)を示すことが多く,均等かつ著明な結節状増強効果を呈するとされているが,先に述べた聴神経鞘腫との鑑別は必ずしも容易ではない.しいていえば三叉神経鞘腫のほうが錐体尖(petrous apex)よりに局在し,しばしば天幕切痕をこえて中頭蓋窩へ進展する傾向を示す(図5).
 三叉神経鞘腫とかぎらず後頭蓋窩の脳実質外性腫瘍が天幕切痕をこえて上方進展(trans-incisural upward extension)を示す際には次のようなCT所見が見られるとされている.①脳幹の反対側への偏位,②同側の四丘体槽の圧排挙上,③拡張した第3脳室後部の切断途絶,④同側の側脳室下角の前方偏位,⑤中脳水道狭窄に伴う水頭症.

脳実質外性腫瘍—髄膜腫(Meningioma)

ページ範囲:P.2075 - P.2075

 小脳橋角部あるいは天幕に生ずるものが大部分であるが,いずれも天幕上の髄膜腫と同様に比較的辺縁の明瞭な淡い高吸収値(20〜40H)を示し,均等かつ著明な増強効果(30〜55H)を呈する(図6).とくに小脳橋角部のものは先に述べた聴神経鞘腫との鑑別が問題となるが,髄膜腫のほうが周辺により著明な浮腫による低吸収域を伴い,高頻度に水頭症を呈するといわれている.もちろん,石灰化を示す場合や,内耳道に拡大がなく,血管撮影で髄膜枝から血行をうけて均等な腫瘍濃染を示すような場合には,髄膜腫という診断が容易に行われる.

脳実質外性腫瘍—クモ膜嚢胞と類表皮腫(Arachnoid Cyst and Epidermoid)

ページ範囲:P.2076 - P.2076

 橋前槽や小脳橋角槽にクモ膜嚢胞あるいは類表皮腫が生ずることがある(図7).いずれも比較的辺縁のり明瞭な低吸収値陰影で,まったく増強効果を示さないことから鑑別困難なことが少なくないが,これも先に述べたMetrizamideで脳槽を造影してCTを行うことにより区別しうることがある.すなわち腫瘤の辺縁が不規則な類表皮腫に対しクモ膜嚢胞では平滑で,また,経時的にCTを行うと,脳槽との間に何らかの交通を有するクモ膜嚢胞では徐々に造影されてその吸収値が上昇するのに対し,類表皮腫ではまったく不変であるという相違点が見られる.

第4脳室腫瘍(Ependymoma and Choroid Plexus Papilloma)

ページ範囲:P.2079 - P.2080

 上衣細胞腫(ependymoma)は小児期から思春期に好発する第4脳室内腫瘍で,造影前には等吸収値ないし高吸収値を示すが,約30%とかなり高率に石灰化を伴うことから,そのような場合にはもちろん非常に高い吸収値を示すことになり,また,中心部壊死を生ずると不規則な低吸収域を含むようになる.造影剤による増強効果のパターンも多様で髄芽腫などとの鑑別が困難なことが多い.腫瘍が完全に第4脳室内に限局する場合には周辺に第4脳室残存部によるlow density haloを伴うのが特徴的とされているが,上衣細胞腫はしばしば第4脳室から出て小脳谷,小脳橋角槽,橋前槽へと浸潤しつつ発育する傾向があるため,広汎に進展するとその局在から質的診断を行うことは困難となる(図10).
 脈絡叢乳頭腫(choroid plexus papilloma)は比較的辺縁のシャープな高吸収値陰影で中等度以上の増強効果を示し,著明な水頭症を伴うとされている(図11).

小脳虫部腫瘍(Medulloblastoma)

ページ範囲:P.2081 - P.2082

 成人では転移性脳腫瘍が小脳虫部に生ずることがあるが,何といっても小児の髄芽腫(medulloblastoma)が,虫部腫瘍の代表的なもので約75%はこの部位に発生し,第4脳室あるいは大槽へと進展するが,通常central locationを示すのが特徴的である.造影前には,やや高吸収値を示すものが多く,通常,腫瘍全体に比較的均等な増強効果を生ずる.周辺には浮腫による低吸収域を伴い,橋前槽,小脳橋角槽および第4脳室は圧迫狭小化して描出されない(図12).第4脳室後部付近に生ずるため,早期に閉塞性水頭症をきたすのも特徴的である.さらに髄芽腫は上衣細胞腫,松果体腫などと同様に,しばしば髄液を介して脳室壁やクモ膜下腔に播種性転移(seeding)をきたすことがあるが,この診断に関しては今日のところCTにまさるものはない(図13).

小脳半球腫瘍(Astrocytoma, Hemangioblastoma and Metastasis)

ページ範囲:P.2083 - P.2085

 小児期の星細胞腫(astrocytoma)の好発部位で,一側小脳半球に限局するものが最も多いが,場合によっては虫部に浸潤し両側半球に拡がることもある.充実性腫瘍は等吸収値ないし高吸収値を示し,約半数で増強効果がみられる.約半数弱では低吸収値の嚢胞性成分を伴い,このような場合には壁在結節の部分あるいは嚢胞壁にそって増強効果を生ずる(図14).
 成人では血管芽細胞腫(hemangioblastoma)や転移性腫瘍(metastasis)が小脳半球に生ずるが,前者は星細胞腫との鑑別が困難なことが多く,最終的には血管撮影を欠かすことはできない(図15).病巣が多発性であったり原発巣の存在の知られている場合には転移性腫瘍という質的診断が容易であるが(図16),孤立性病巣の場合にはきわめて困難となる.

頭部外傷

著者: 古井滋 ,   前原忠行

ページ範囲:P.2087 - P.2087

 頭部外傷の放射線診断は主に単純撮影,CT,血管造影などの検査によって行われる.このうちCTは頭蓋内血腫の検出に優れること,脳挫傷や脳浮腫などの脳実質の損傷を直接的に描出できること,比較的侵襲が少なく容易にくり返せる検査であることなどから,ことに急性期の頭部外傷の診断や治療方針の決定,その後の経過観察などにおいて非常に大きな役割を果たしている.ここでは外科的治療の対象となることの多い急性期の頭蓋内血腫の診断を中心に頭部外傷のCT診断について述べることにする.

硬膜下血腫

ページ範囲:P.2088 - P.2090

 一般に急性期の頭蓋内血腫はCTでは明確な高吸収域として描出され,したがってその存在診断は容易なことが多い.血腫の吸収値は時間の経過とともに低下し,等吸収値から低吸収値へと移行する.血腫の吸収値は血腫中のヘモグロビン濃度と比例することが知られており1),稀に高度の貧血を伴う症例では急性期の血腫が高吸収域を示さない場合も経験される.
 硬膜下血腫のほとんどは,bridging veinが硬膜下腔を通過して静脈洞に入る部位での同静脈の破綻によって発生する.

硬膜外血腫

ページ範囲:P.2091 - P.2092

 硬膜外血腫の多くは,頭蓋骨の骨折に伴う髄膜動脈枝の破綻によって発生する.硬膜外血腫は,上矢状静脈洞や横静脈洞などの静脈洞からの出血によって生じることもある.
 急性期の硬膜外血腫は,頭蓋に接する両側に凸なレンズ型の高吸収域として描出されることが多い(図9,10,11)2,3).硬膜外血腫は一種の骨膜下血腫でもあることから,硬膜下血腫に比べて限局した拡がりを示し,比較的狭い範囲で頭蓋に接する特徴をもつとされている.単純撮影やCTで描出される血腫部に一致した骨折線は,硬膜外血腫の診断を強く示唆する所見であり,また硬膜下血腫との最終的な鑑別には血管造影が有効な場合が少なくない.

脳内血腫,脳挫傷,脳浮腫

ページ範囲:P.2093 - P.2095

 急性期の脳内血腫は,mass effectを伴う脳実質の均一な高吸収域として描出される(図10)2,3).高吸収域の辺縁には低吸収域を認めることが多く,周囲脳実質の浮腫や虚血性変化に伴う所見とされている.受傷直後の脳内血腫は急激な増大を示す場合があることから,急性期の脳内血腫ではCTによる経時的な追跡検査が重要となる.脳内血腫は,時に受傷後数日を経て発生することもあり,この種の血腫はdelayed hematomaと呼ばれている6)

炎症性疾患(頭蓋内)

著者: 前原忠行

ページ範囲:P.2097 - P.2097

 頭蓋内の炎症性疾患の病態としては,脳炎,髄膜炎,肉芽腫および脳膿瘍が代表的で,その病因としては細菌性,真菌性,ウイルス性ならびに寄生虫性のものが含まれる.
 ここでは中でもCTが比較的特徴ある所見を呈し,臨床上有用と考えられる髄膜炎と脳膿瘍を中心に,各病態別に代表的症例を供覧し解説を加えることにする.

脳炎(encephalitis)

ページ範囲:P.2098 - P.2099

 脳炎は脳の非化膿性炎症で原発性と2次性に大別される.
 原発性脳炎(primary encephalitis)の病因はウイルスで,通常動物を介して人間に伝播される.一般に脳全体をびまん性に侵すが限局性のこともある.CTでは時期によってはmass effectを伴って広汎な低吸収域を示すこともあるが,多くの場合,まったく所見がみとめられない(図1).したがって実際には臨床症状,髄液検査,とくに髄液中のウイルス抗体の証明あるいは髄液培養や脳生検によるウイルス自体の証明から診断されることになり,CTはむしろ脳膿瘍の可能性を除外することにその役割があるといえる.

髄膜炎(meningitis)

ページ範囲:P.2100 - P.2102

 髄膜の感染症は稀には硬膜外,あるいは硬膜下腔に限局しておのおの硬膜外膿瘍(epidural abscess)や硬膜下蓄膿(subdural empyema)を生ずることもあるが,多くはクモ膜下腔でleptomeningitisの形をとる.この髄膜炎はさらに化膿性,肉芽腫性およびリンパ球性に分けられる.
 化膿性髄膜炎3)(purulent meningitis)は連鎖球菌,ブドウ球菌,髄膜炎菌,肺炎球菌などの種々の化膿性細菌によるもので,感染経路としては,①遠隔炎症病巣からの血行感染,②開放性頭蓋骨骨折に伴う直接感染,③中耳感染症の直接波及または血栓性静脈洞炎を介する逆行性感染などが代表的である.髄膜炎の初期にはCT上,明らかな所見は見られないが,結合組織増殖のはじまる時期になると種々の所見が認められるようになる.髄膜炎にしばしば随伴する無菌性硬膜下水腫(Subdural effusion)は脳表をとりかこむ薄い三日月型の低吸収値陰影を呈し,これが細菌的に感染した硬膜下蓄膿(subdural empyema)では,その被膜部に線状の増強効果の見られることもある(図3).また,髄膜炎が脳室上衣まで波及すると脳室上衣炎(ependymitis)を生じ,CTでも脳室壁にそった増強効果や脳室壁の癒着による脳室変形などが描出されるようになる(図4).

肉芽腫(granuloma)

ページ範囲:P.2103 - P.2103

 肉芽腫を呈するものとしては結核腫に代表される非化膿性細菌性,真菌性および寄生虫性のものがあるが,いずれもわが国においては稀で,日常の診療において遭遇することはきわめて少ない.結核腫7)は通常,肺結核からの2次的なもので副中心小葉,橋被蓋および小脳に好発し,とくに成人では大脳半球や脳幹部に,また小児では小脳に多いとされている.
 CTのパターンは他の病因によるものと同様に,造影前には孤立性あるいは多発性の軽度低吸収値または等吸収値陰影を示し,造影後に結節状あるいはMicro-ringと称される小さな環状増強効果を示す.このMicro-ringは乾酪性病巣を示唆し,壁は巨大細胞を含む炎症性肉芽組織で,中心の低吸収域が乾酪巣をあらわすと言われている.

脳膿瘍(cerebral abscess)

ページ範囲:P.2104 - P.2106

 脳膿瘍8)は化膿性細菌による限局性病変で,化膿性髄膜炎と同様の感染経路をとるが,とくに中耳感染症からの直接波及によるものは側頭葉に好発し,側静脈洞の血栓性静脈炎は小脳の膿瘍を生じやすい.また先天性心疾患,心内膜炎や気管支拡張症などに見られる血行性感染の場合は,しばしば多発性で灰白質白質接合部(corticomedullaryjunction)に好発する傾向がある.膿瘍が完成すると最内層(肉芽組織層),中層(膠原質,線維層),外層(反応性神経膠組織層)の3層の被膜を有し,内部に膿を貯留する.
 CTの所見はきわめて特異的で,造影前には例外なく結節状の低吸収値陰影を示し,場合によっては被膜部が淡い高吸収値環を呈する.造影後には被膜部にそって環状の増強効果が生じ,この環状像は辺縁が平滑で均等な厚さを示し,脳膿瘍被膜の完成にともなって薄くなる傾向が見られる.また著明な浮腫による低吸収域を周囲に伴うのも特徴的で,さらに約30〜40%のものは主病巣に娘膿瘍(daughter abscess)を伴う多房性を示し,稀には多発性のこともある(図8,9).

脊椎・脊髄疾患

著者: 町田徹

ページ範囲:P.2107 - P.2107

 脊椎・脊髄疾患の診断におけるCTの有用性は頭蓋内疾患の場合に比べ,現在のところ,かなり低いと言わざるを得ない.その理由は,1つには本質的に縦に長い構造物に対し,通常,CTは軸方向のスライスを得るべく行われるため,非能率的であるという解剖学的理由が考えられる.さらに,現在のCTの解像力では,周囲を骨に囲まれた脊髄自体を描出することが困難であることがあげられる.CTの解像力の問題は,高分解能CTの開発により解決される日も近いと思われるが,現在多くの施設ではクモ膜下腔に造影剤を注入し,その中の陰影欠損像として脊髄自体を描出する方法が行われている.

脊髄腔造影を併用したCT

ページ範囲:P.2108 - P.2109

 筆者らの施設では脊髄腔造影に水溶性非イオン性造影剤であるMetrizamideを主として使用している,Metrizamide 3.75gを溶解液8.9mlにて溶解,170mgI/mlの濃度の溶液約10ccを髄注しているが,CTによるクモ膜下腔の描出にはさらに低い濃度の溶液を用いても十分な造影能を得ることができる.しかし脊髄造影を同時に行う場合には,より高い濃度(200mgI/ml〜270mgI/ml程度)の溶液を用いる必要がある.この際,あまり高濃度の造影剤はCTではartifactの原因となることがあるので,造影剤が拡散によって薄まるまで,十分時間をおいてCTを行ったほうが良い像を得ることができる.造影剤の髄注による副作用として重篤なものは痙攣であるが,①なるべく低濃度の溶液を用いる,②多量の造影剤が急速に頭蓋内に流入するを避ける,③てんかんの既往に留意する,などで痙攣の発症をほとんど防止することができる.しかし,軽度の副作用としての頭痛,悪心などはかなり高頻度に出現するようである.その他,ヨード禁忌の患者に投与してはならないことは言うまでもない.
 脊髄腔造影を併用してCTを行うと,造影されたクモ膜下腔の中に円形の陰影欠損として脊髄が描出されてくるが,頸部と胸腰椎移行部ではやや太く見えることが多い(頸膨大,腰膨大)

骨の変化と病変の周囲への進展

ページ範囲:P.2114 - P.2115

 腫瘍,または炎症性疾患の場合,病変が周囲軟部組織に広がることが多い.このような病変の周囲への進展を見るにはCTは非常に優れているし,脊髄腔造影を併用すれば脊柱管内の腫瘍と圧排された脊髄との関係も明確となる(図9,10).脊髄造影では硬膜外性腫瘍の存在しかわからないが,CTでは周囲軟部組織と腫瘍の関係がよくわかる(図11).なお破壊性の骨変化はとくに椎体前方の場合,椎間板とのpartial volume effectのため判然としないことがある.

病変のX線吸収値

ページ範囲:P.2116 - P.2116

 石灰化や脂肪の検出にはCTが最も優れているので,病変のX線吸収値から質的診断が可能なことがある.脂肪は通常,-50〜-100Hounsfieldunit程度のX線吸収値を示すことから,CTによる脂肪腫の診断は容易である(図12).また髄膜瘤などは0 Hounsfield unit前後のX線吸収値を呈する(図13).髄膜瘤では造影剤を髄注することで,嚢胞内のX線吸収値が上昇するという特徴がある.なお髄膜脊髄瘤ではChiari-Arnold奇形を合併する頻度が高いので,頭部CTも施行すべきである.

造影剤静注による増強効果

ページ範囲:P.2117 - P.2117

 血管性病変,とくに脊髄動静脈奇形がよい適応となる(図14).術前に脊髄と動静脈奇形のnidusとの位置関係を知ることが重要であるが,脊髄腔造影を併用すればある程度この目的も達せられると思われる.造影剤静注後CTを行えば,脊柱管内に高吸収域として動静脈奇形を描出しうる3)が,脊髄動脈造影を行って,流入動脈およびnidusの位置を知ることが不可欠である.一方,腫瘍では造影剤静注は頭部の場合と異なり,質的診断にはあまり役立たないが,低吸収を示すため一見嚢胞性と思われた病変が,増強効果を呈することから充実性であると判断できることもある(図15).

脊髄腔造影の応用

ページ範囲:P.2118 - P.2121

 脊髄疾患の多くは,通常のCT検査ではなんら異常所見を認めないので,脊髄腔造影を併用することになる.椎間板ヘルニアの場合でも椎間板自体をCTで描出できないときには,クモ膜下腔の狭小化と,脊髄の圧排による扁平化が診断のよい手がかりとなる(図16).
 椎間板ヘルニアの診断では単純X線撮影における椎間板腔の狭小化,脊髄造影上,nerve root腫脹などの所見が大切である.椎間板造影も行われることがあるが,陽性所見が得られても臨床症状と必ずしも一致しないことが多い.

頭頸部

著者: 八代直文

ページ範囲:P.2123 - P.2123

 頭頸部のCT診断は,他領域に比べてCTの応用範囲が限られている.その最大の理由は,眼科領域,耳鼻咽喉科領域の病変は,外部からのアプローチが比較的容易で,視診,触診などの理学的検査の有効性が高いことにある.また,超音波検査・軟線撮影などの,簡便でありながら診断力の高い他検査法がすでに存在することも理由のひとつである.
 CT画像の点でも,頭頸部は副鼻腔・側頭骨・気道内などの含気と骨構造が接して存在するため,非常にartifactを生じやすく,初期のCT装置では読影に価する画像を得ることが困難であった.また,頸部は細いために相対的に解像力が低下し,しかも脂肪組織が少ないため,組織をCT画像の上で分離することが困難である.最近になって第3世代,第4世代のCT装置が登場し,画像の質が向上して,ある一部の領域の病変に関してはCTの有効性が認められるようになってきてはいるが,それでも頭頸部の病変に関するCTの役割は大きくはない.

CTの特徴

ページ範囲:P.2124 - P.2124

 CT装置の第一の特徴として,X線吸収差の検出能力が高い点があげられ,軟部組織をX線吸収値差によって区分することが可能である.頭頸部では,正常甲状腺は他の筋肉などの軟部組織よりも高吸収を示す.また,cysticな病変は,水に近い低吸収値を示すため,CTのよい適応である.腫瘍などの病変内の微小石灰化巣に対してもCTはある程度有利であるが,頭頸部では軟線撮影の応用範囲が広いため,他領域に比して応用に限界がある.脂肪組織を大量に含んだ病変では,CT値から病変の質的診断が可能な場合がある.
 CTの第二の特徴として,軸方向の断層像である点があげられる.この特徴を有効に生かせば,病変の立体的構造や他臓器との関連の理解が容易になる.手術や経皮的な生検などを計画する場合にも非常に有用である.一般に,腫瘍性疾患では,病変の局在に関する限り手術所見とCT像はよく対応するといえる.被験者の頭部の傾きを変えて,直接に前頭断方向のCT撮影を行う方法(coronal section)は頸部以外では可能であり,軸方向断層と併用して,病変の立体的進展の理解に役立つ場合が多い.

眼窩

ページ範囲:P.2125 - P.2126

 眼窩内には豊富な脂肪が存在するたあ,眼窩内腫瘍の存在診断および局在診断に関しては,CTは信頼性が高い.しかし,病変の存在は描出できても,眼窩内疾患のCT像は,ほとんどnon-specificといってよくCT像から質的診断を下すことは,まず不可能である.retinoblastoma,opticnerve glioma,meningioma,転移性腫瘍などの頭蓋内進展の判定には,CTは非常に有用である.

副鼻腔

ページ範囲:P.2127 - P.2129

 副鼻腔疾患に対しては,最も有効なものは悪性腫瘍の頭蓋内進展の判定である.mucoceleなどに関しては,内部のCT値から内容物の性質を判断できる可能性はあるが,これは末梢的な問題である.骨破壊などの描出は,多軌道断層撮影がより優れている.良性・悪性の判断も,典型的なものでは可能であるが,判定に迷うようなものでは臨床像,最終的には病理組織像に帰着する.

頸部

ページ範囲:P.2130 - P.2131

 頸部は脂肪が少ないため,組織間の分離が十分には行えない.甲状腺はCT上高吸収値を示すため他と区別することができるが,甲状腺疾患に対しては,触診・軟線撮影・シンチグラムなどの簡便で有効な検査法が多いため,CTの応用範囲は狭い.頸部の腫瘍は,一般に,腫瘍の性質によらず,non-specificな軟部腫瘤として描出されることが大部分で,CTから質的な診断はむずかしい.頸部の嚢胞やcystic hygromaなどのcysticな病変は,その広がりの判定や立体的構造の理解の上でCTのよい適応である.

その他

ページ範囲:P.2132 - P.2134

 側頭骨疾患では,耳小骨や内耳構造の変化のような細かい病変の判断にはCTは不向きである.悪性腫瘍の頭蓋内進展の有無の判定が最もよい適応であるが,十分に大きな腫瘍であれば,立体的な理解にCTが有効な場合もある.
 咽頭部,喉頭部の疾患に対しては一般に視診,内視鏡が有効なため,CTの応用範囲は限られている.腫瘍の気道外への進展の判定にある程度は有効であると考えられるが,最大の適応は,上咽頭・鼻咽頭の悪性腫瘍の頭蓋内進展の判定である.

座談会 CTスキャンの適応と限界・1

脳神経領域

著者: 小林直紀 ,   前原忠行 ,   澤田徹

ページ範囲:P.2136 - P.2147

 澤田(司会) CTが導入されてから,とくに神経病領域ではneurologyが変わったといわれるぐらい臨床的に応用されるとともに,従来わからなかったことが非常によくわかってきたという面があります.日本ではCTがかなり普及しておりまして,とくに私のように脳血管障害をみておりますものは,毎日のようにCTの恩恵に浴しています.とはいうものの,素人からみますと,まだまだ十分にCTを使いこなせていない面があるのではないかと思われます.
 そこで今日は臨床的な立場から,CTの適応と限界についてお話をうかがいたいと思います.

縦隔

著者: 田坂晧

ページ範囲:P.2149 - P.2149

 通常の断層影影と同様に,CTでも呼吸を止めている数秒の間に撮影が終わるようになったのは最近のことです.これで胸部の診断については,通常の断層撮影と対等に使用できる最低の条件が満されたといえます.
 CTが使えるようになった利点は次の2つに要約できます.
 1)胸部の横断面での形態が判断できる.
 2)コントラスト分解能が高いので,従来のX線撮影では濃度差がなかった内部構造を描出できる.

上部縦隔のCT像

ページ範囲:P.2150 - P.2151

 大動脈弓から胸郭入口までの上部縦隔は,今までのX線診断で解剖学的形態を具体的に知るのは簡単ではありませんでした.このため腕頭動静脈の造影も必要となることがしばしばでした.血管系の周囲は成人になると脂肪組織が比較的多い部位であり,CTでは単純スキャンで血管,食道,気管などの断面がほぼ正確に判断できるようになりました.図1は,この部分の横断面でのシェーマを示したものです.図2は上部縦隔に病変がない例のCT像です.無名動脈が気管の前にあるのや,左鎖骨下動脈と食道および気管との関係など,横断面における形態がよくわかります.
 上部縦隔の右背側では,気管の背後に右上葉の後内側が入り込んでいるところがあります.奇静脈弓より上方の部分になるので,このへこみを奇静脈上部陥凹(supraazygos recess)とよびます.この陥凹の深さは人によりずいぶん差があります.図2の例では気管が脊柱のすぐ前に接していて,この陥凹は浅く,気管のうしろまでは入っていません.この部分の肺と胸膜に少し病変があります.図3-Aの例では,この陥凹は気管と食道のうしろまで,脊柱の正中線を左側にこえて深く入り込んでいて,左右の上葉の内側が接するまでになっています.図3-Bでは,左右の肺の間に食道が介在している例です.

縦隔内のリンパ節

ページ範囲:P.2152 - P.2153

 縦隔内には大血管,気管,食道の間や周辺に多くのリンパ節があります.これらのリンパ節の腫張は,縦隔の輪郭から隆起するような大きさになると単純X線撮影や通常の断層撮影で判断することができます.しかし,縦隔の内に入ってしまっているリンパ節腫脹は,今までは描出が不可能でした.
 図4は,悪性リンパ腫で縦隔内リンパ節腫脹がある例です.単純撮影と断層撮影では,肺門リンパ節に軽度の腫脹を示すものがあることは肺門陰影の異常からわかります.縦隔リンパ節については,矢印で示したところに,正常では奇静脈弓の陰影がある部分が,少し外方に突出していて,右気管気管支リンパ節群の腫脹があることが判断できます.CTは気管分岐部の少し下で右肺動脈が上行大動脈の背後を横走する中部縦隔のレベルの画像から,上部縦隔で気管の前に無名動脈がくるレベルまでの4枚(C〜F)を示します.

縦隔腫瘤影の判断

ページ範囲:P.2154 - P.2156

 図6は胸骨柄の背後にある悪性胸腺腫で,単純撮影で上部縦隔に右方に膨隆する異常影があります.CTでは右腕頭静脈を右方に押し出すように,気管の右前で胸骨との間に腫瘍があることがわかります.
 図7は正面像で,同様に右の鎖骨の下から右方に突出する矢印の陰影があります.鎖骨の上にまでみえますので,胸腔の少しうしろまであるといえます.この例は子宮頸癌の再発例で転移性腫瘍も鑑別診断の問題になります.CTは大動脈弓から上の4枚(B〜E)を示します.大動脈弓の壁には強い石灰化がみえますが,単純撮影でも大動脈弓頭は上方に大きくなり,壁から少し内側に離れて石灰化があります.これは古い解離性大動脈瘤と考えられ,側方向の撮影で大動脈弓から上方に膨隆する陰影をつくっていました.

大血管病変

著者: 町田喜久雄

ページ範囲:P.2157 - P.2157

 全身CT(computed tomography)の臨床的有用性は,次第に認識されつつあるが,大血管病変の診断においても有力な診断手技となりつつある.とくに大動脈瘤の診断などについては,すでにいくつかの報告もあり1〜4),従来の放射線診断と異なった情報を非観血的に提供してくれる利点を有している.
 周辺の臓器も同時に描出されるので,血管病変とそれら周囲臓器との関係もよく理解できる.動脈と関係の深い静脈も同様に描出されるので,上・下大静脈の状態の診断にも使用することができる.動静脈の太い枝もある程度描出するので,それらの病変も時に診断することができる.肺動静脈病変も,時に診断することができる.

大動脈瘤

ページ範囲:P.2158 - P.2164

 大動脈瘤のCT診断所見について,37例の症例について検討を加えたが,主な所見は大動脈の拡大(37/37),変形(34/37),石灰化(34/37),血栓を思わせる造影剤で染まらない低吸収値領域の存在(32/37)であった.
 そしてCT診断の特長を列記すると,1)大動脈全体の横断面での太さ,形態,壁の状態がよく識別できる.
2)石灰化の存在,位置がよくわかる.これは内膜の位置を示すので,解離を判断することができる.
 3)造影剤の投与によって血栓と血流部分を区別して見ることができる.
 4)他の腫瘍との鑑別に有用である.
 5)非観血的で安全な検査法である.
 などがあげられる.

その他の疾患

ページ範囲:P.2165 - P.2167

 大動脈瘤以外の血管病変の診断にも有用である.
 症例7 異型大動脈炎症候群(K. N. 43歳女性)
 大動脈弓(AA)のレベル(A)では異常は見られないが,気管分岐部(Bf)のレベル(B)では,胸部下行大動脈は細く,かつ石灰化が認められる.さらにその下部のスライス(C,D)では,下行大動脈は著しく狭小化し,石灰化もCではより著しい.LAは左房,RAは右房,Lは肝臓を示す.

肝臓(上腹部の正常解剖を含めて)

著者: 板井悠二

ページ範囲:P.2169 - P.2169

 CTの読影にあたり重要なことは,正常解剖,肉眼病理およびそのCTパターンに加え,常に機器の性能限界を知るのに努めることである.肝臓はこれらが端的に出現する点でも,臨床的比重からも,全身CTで重要な位置を占めている.その検査法の限界を知りつつ最大限に性能をひき出すことが,検査,読影を行う者に要求されるのは当然であろう.
 以下,正常解剖,機器のアーティファクト,検査法,代表的病変につき読影上の注意点を述べてみる.

肝細胞癌

ページ範囲:P.2173 - P.2178

症例1 肝硬変+肝細胞癌(図5)
A.造影前,B.bolus injecton後,C.その2分後
 Aでは肝右葉内側半が妙に丸い.小円形のはっきりとした低濃度影があり,この内側には輪郭の明確でない不整形の低濃度影がある.右葉の前方の低濃度影は輪郭が平滑ではないが,上下のスライスから胆のうといえる.したがって,この前内方は右葉内側区であり,これより左矢状裂を隔てて大きな左葉外側区が見られる.このアンバランスは肝硬変と合致する所見である.この外側区の輪郭は前方および後方(胃の内側)で弧状に突出しているが,外側区内にはあまりはっきりした濃度差はなく,2カ所に小さい低濃度影が見られるだけである.これは血管かもしれない.外側区と右葉の間に数個の類円形陰影が見られる.これは門脈,肝動脈,胆管およびプラスアルファであろう.位置,太さから肝門部の門脈は同定できることが多い.一方胆管は,拡張時には造影剤静注後は濃度差よりわかるが,通常は血管に似る.

コランジオーマ

ページ範囲:P.2179 - P.2179

症例1 コランジオーマ(図14)
 造影前,肝左葉外側区にほぼ均等な低濃度影が見られ,造影後その内部が不規則に染まり,低濃度影と高濃度影が入りまじった像を呈した.
 コランジオーマは変異が多く,肝細胞癌や転移性肝腫瘍,良性腫瘍,膿瘍,のう胞の典型像と異なるとき,常に鑑別疾患にあげる必要がある.造影で染まらぬものが多いが,本例のごとき態度をとるものも少なくない.

海綿状血管腫

ページ範囲:P.2180 - P.2181

症例1 海綿状血管腫(図16)
 A.造影前,B.bolus injection 10秒後,C.20秒後(別のシリーズで,造影剤を追加注入している),D.80秒後,E.200秒後
 造影前,肝中央の弧状の石灰化がまず目につく.右葉背方には大きな不整形の一様な低濃度影が見られる.B〜Eで周囲が濃染し,次第に低濃度部の面積が減じていく.大まかな時間的関係は大動脈,下大静脈,肝の濃度を比べるとわかる.肝癌と血管腫は通常の造影法でも多くはCT上判定可能である.つまり造影後肝実質より絶対的に高濃度部があれば血管腫といってほぼ正しい.稀に肝癌にもこのような所見を見るが,その際は本例のごとき経時的変化を追えばよい.

脂肪肉腫

ページ範囲:P.2181 - P.2181

症例1 脂肪肉腫(?)(図18)
 右腹腔をすべて占めるような巨大な腫瘍があり,残余の肝は右方へ大きく偏位している.この腫瘍は著しく低濃度であり,中央部一帯には樹枝状の陰影が見られ,この部は造影剤により強いenhanceを示す.脂肪のきわめて多い腫瘍だが,組織診は得られていない.脂肪を多量に含む肝腫瘍は稀だが,CTは最も敏感に検知し得る.

転移性肝癌

ページ範囲:P.2182 - P.2186

症例1 転移性肝癌(図19)
 肝内広範に多数の大きさの異なる類円形の低濃度影あり.その境界はかなり鮮鋭である(A).bolus injectionでは辺縁部に軽度の染まりを示し,一部では内部にも染まりを伴う(B).原発は大腸癌.
 大小不同の多数の類円形陰影が転移性肝癌の典型像といえる.

肝内血腫

ページ範囲:P.2187 - P.2187

症例1 肝内血腫(図27)
 A.造影前,B.bolus injection後(主に門脈相) 造影前肝内に多数の低濃度影が見られる.下大静脈,門脈に該当すると思われるが,外側区のものは幅も太く2カ所に分かれている.また,左葉内側区背方肝門に近いものは低濃度影がより大きいが,この部にはこんなに太い血管はなく,これは明らかに異常陰影といえる.
 門脈相を中心にとらえたBでは,Aで見られた低濃度の大半は絶対的高濃度影におきかえられ,門脈といってよい.しかし問題の内側区は染まらず,相対的濃度差を増している.また右葉背側右方に小さな円形の低濃度影が出現している.小さい陰影ではのう胞か充実性腫瘍かは判定できない.しかし,Aを見直しても該当所見ははっきりせず,体表面が同一でも内臓のスキャン面がずれていることに再度注意を払われたい.CT上の診断は,enhanceを示さない充実性腫瘍.血管造影上は腫瘤の存在も不明で,手術の結果は血腫であった.

肝膿瘍

ページ範囲:P.2188 - P.2188

症例 肝膿瘍(図28)
A.造影前,B.造影後
 造影前は中央部が低濃度で,外方へいくほど周囲肝に近づき,輪郭は判然としない異常陰影が見られる.門脈,下大静脈が合わせ認められる.ところが造影後一転して先の中央部のみが輪郭の鮮鋭なのう胞類似の強い低濃度影を示す.ただし典型的のう胞はより円形であり,この低濃度の周囲がわずかに不均等の陰影を呈している.

肝硬変

ページ範囲:P.2189 - P.2190

症例1 肝硬変(図29)
 左葉外側区が著しく肥大し,左葉内側区,右葉との間隙が増している.

Budd-Chiari症候群

ページ範囲:P.2190 - P.2190

症例 Budd-Chiari症候群(側副路)(図32)
 造影前大動脈周辺に同大の同濃度の陰影を見る(A).リンパ節にしては椎体部側方にまで陰影が見られる点が異常である.
 bolus injectionでは大動脈に遅れて,これらが染まり,さらに脾臓,肝臓内側にも類似の拡張血管が見られる(B,C).

肝のう胞

ページ範囲:P.2191 - P.2191

症例1 多発性肝のう胞(図33)
 肝内に大きさの異なる多数の円形陰影が見られる.小さいものは5mmを割る.辺縁は平滑で,小さいものはより濃度が高くなっている.これはpartial volume phenomenonによる.さらに肝の外縁に接し,数個の類円形の高度の低濃度影が認められ,前方の1個は明らかに肝内にある.本例は開腹手術後であるので,肝周囲に残存する空気によるものと思われる.しかし肝内になぜ空気が入ったかは説明がつかない.
 CTでは説明のつけられない像にしばしば遭遇する.あるものは解剖学より,あるものはCTの知識そのものが増えることで解決される.不明のものはこじつけずに記録,記憶し,解決しようとする努力を放棄してはならない.

上腹部の正常解剖

ページ範囲:P.2193 - P.2195

 脂肪の多い患者では,多くの臓器の輪郭が明瞭に認められる.その1例をシェーマとともに示した.ただし,本例は軽度の脂肪肝のため肝内の血管がわずかしか認められない.

胆道系

著者: 荒木力

ページ範囲:P.2197 - P.2197

 胆道の画像診断としては,非侵襲性でスクリーニング検査としての性格の強い従来の胆道造影(経口および静注),超音波検査および核医学検査(99mTc-PI,99mTc-HIDAなど)と,これらの検査で拾い上げられた症例を対象とする直接造影法(経皮胆管造影,内視鏡的逆行性胆管造影,手術的胆管造影)とがある.コンピュータ断層撮影(以下CT)は,その情報量,経済性,便宜性,被曝量などを考慮すると,これら二者の間に位置する検査といえる.
 すなわち,スクリーニング検査において的確な情報を得られなかった場合に,あるいは得られた情報を確認し,直接造影検査の適応と選択とを決定する目的で行われる検査と考えられる.上記のスクリーニング検査,とくに超音波検査から得られる情報は,検査者の技術に負うところが大きい傾向はあるが,総じて満足すべきである.したがってCTの役割は,胆道系に関するかぎり大きいとはいえないが,その客観性と易読性には捨てがたいものがある.

検査上の注意点

ページ範囲:P.2198 - P.2198

 胆道のCT検査においては,他の検査法と同様,少なくとも検査前6時間程度の絶食が必要である.これは胆道系,とくに胆嚢の収縮を防ぐためと,造影剤に対する反応に対処するためである.
 尿路造影用経静脈性造影剤(meglumine iothalamateなど)の使用は,器官の識別を容易にし,門脈などの血管系を造影する利点があり,一般に胆道系疾患の読影に貢献する.胆道造影用経静脈性造影剤(meglumine iodipamideなど)は,正常胆道系を識別するには都合がよいが,後述するように,胆道疾患のうちCTの主対象の1つは閉塞性黄疸であり,ここでは,この種の造影剤はあまり役に立たず*,逆に閉塞機転のない場合(すなわち正常に胆道系に排泄された場合)には,濃縮されるため胆道内の病変は隠されてしまうことがある.このため胆道造影剤は,特殊な目的に利用されることはあっても,一般的には使用することはない.

閉塞性胆道拡張

ページ範囲:P.2199 - P.2205

 胆管拡張の有無 外科的黄疸か否かを決定する胆管拡張は,約95%の正確さでCTにより診断される.正常の胆道内腔は,胆嚢以外は通常認められないので,胆管内腔を認めた場合は拡張していると考えてよい.胆汁はX線吸収値が5〜20HU**程度であり,実質臓器や血管に対し低いから,拡張した総肝管および総胆管は,CTの横断断層面では円形ないし楕円形の低濃度像として,また拡張した肝内胆管は樹枝状低濃度陰影として描出される(図1).
 経静脈性造影剤は,周囲の肝組織や胆管壁の濃度を高くする(contrast enhancement)ので,拡張した胆道系は認めやすくなる.また,拡張した肝内胆管は,門脈に比べ濃度が低く蛇行する傾向があるが,紛らわしい場合には,やはり経静脈性造影剤の使用により簡単に区別される.すなわち門脈は,造影後,肝実質とほぼ同濃度となり"消える"が,拡張した胆管は低濃度陰影として残る.

先天性胆道拡張

ページ範囲:P.2206 - P.2207

 総胆管(図10),左右主肝管および肝内胆管の拡張は容易に認められる.先天性拡張ではその拡張部と正常部との移行が急であり,肝周辺部の胆管拡張は認められない(図11).閉塞性胆管拡張が肝周辺部に向かって次第に細くなっていくのとは対照的である5).ただし,閉塞性黄疸でも,初期に,稀に肝外胆管のみの軽度拡張を示すことがあり,小さい総胆管胆嚢腫との区別が必要となる.また逆に,総胆管嚢腫でありながら肝内胆管の閉塞性拡張を示すことがある.この場合,結石,癌などの閉塞原因が存在すると考えるのがよい.両者ともに先天性胆管拡張に合併する頻度は高く,また先天性胆管拡張に伴う単なる炎症性の一過性黄疸では,肝周辺部のびまん性胆管拡張は見られないからである.
 先天性肝外胆管拡張でも,肝内胆管の拡張を伴わない巨大な腫瘤を形成する場合,時に診断が困難であり(図12),胆道系造影剤や胆道シンチグラフィにて確診される.

胆嚢癌

ページ範囲:P.2208 - P.2208

 胆嚢癌は悪性肝外胆道腫瘍の約50%を占め,組織学的には約85%は腺癌であって,他に未分化癌,扁平上皮癌,混合癌などがあるが,肉眼的にはびまん性浸潤型が多く,早期癌の発見の大きな障害の1つとなっている.また胆嚢癌の胆石合併率は高い(60〜80%)が,胆石自体がきわめて頻度の高い病変であり,胆石の胆嚢癌合併率は数%である.CT上,胆嚢癌は次のような形態をとる.
 1)胆嚢内腔に突出する(図13)・
 2)胆嚢壁の一部が肥厚する(図14).
 3)胆嚢壁全体に浸潤がおよび肥厚する(図15).
 4)胆嚢床を中心とした大きな腫瘤を形成し,胆嚢自体の同定がむずかしい(図16).

胆嚢水腫

ページ範囲:P.2209 - P.2209

 胆嚢の大きさを異常とする明確な基準はないが,直径5cmを超えていたら,一応,拡張していると考えられる.しかしながら,これを超えていても必ずしも病的とはいえないし,少なくとも閉塞機転があるとはいえない.また糖尿病では,一般に胆嚢が大きい傾向がある.胆嚢頸部および胆嚢管の閉塞原因としては,結石,sludge,腫瘍,リンパ節腫脹および炎症性浮腫などがあげられるが,CT上はっきり指摘できるのは,結石と大きな腫瘍だけである(図17).

その他

ページ範囲:P.2210 - P.2211

 CTは肝内胆嚢に見られるような臓器相互の関係を明確に摘出することができる(図18).
 胆嚢結石のCTによる検出率は約80%であるが,胆嚢造影および超音波検査という優れた検査法があり,胆嚢結石を目的としてCTを行うことは例外的である.

膵臓

著者: 板井悠二

ページ範囲:P.2213 - P.2213

 膵臓の全体像がCTによって非侵襲性に明瞭に描出されることは,まさに驚きそのものであった.しかし,このことと根治可能な膵癌がCTで発見し得るか否かとはまったく別問題である.現在までの知見の集積に基づく答は,切除可能癌の多くは,なんらかの所見を有すが,膵内に留まり膵輪郭に変化を与えぬ膵癌をルチーン検査で見出すことは困難という悲観的なものである.だが進行膵癌が90%くらい正診されるとの報告は,それ自体やはり価値ありとみなすべきである.少なくも過剰な検査を避け,速やかに診断に至る点でCTの有用性は認められる.そのほか,膵結石,膵のう胞についてはきわめて有効かつ信憑性が高い.膵自体の大きさも正確に評価でき,経時的変化も客観的に評価し得る.
 膵CTの読影を正常膵とスキャン法,膵癌,膵炎に分けて記す.

正常膵とスキャン法

ページ範囲:P.2214 - P.2216

 膵臓は後腹膜腔に位置し,前方は網のう(bursaomentalis)を隔てて胃と接し,右側は頭部を十二指腸下行脚が囲み,鉤部下方を水平脚が通る.頭部・鉤部の後方には下大静脈が,膵頸部には食い込むように上腸間膜静脈が,また体部後方には上腸間膜動脈がそれぞれ体軸方向に走る.脾静脈は膵体尾部背側上方を併走し,ともに脾門部に向かう.上方は肝臓が,下方は小腸が占める.
 膵頭部は左腎静脈と下大静脈の合流する高さにほぼ位置し,多くは左頭側へゆるやかに斜走する.また水平面内では,大動脈を囲むように前方に凸のなだらかな弓なりを示す.膵横径は頭部から尾部へと徐々に細まる.正中部では上腸間膜動脈の前方部で一段と狭まる.

膵癌

ページ範囲:P.2217 - P.2230

 膵腫瘍は,その境界が明白に濃度差として膵陰影内に追えることは稀であり,多くは膵輪郭の変化に基づく膵腫瘤の存在,時にびまん性腫大に基づく.この点,腫瘍部そのものを濃度差として把える肝腫瘍とは異なる.腫瘤部の輪郭も典型例では不鮮鋭化し,浸潤を物語り,また膵周囲脂肪織が消失ないし部分的に減弱する.大病変では低濃度部を腫瘤内に見ることが多いが,腫瘍そのものではなく壊死部と推定される.近年,切除標本とCT像を対比させた京大1外グループの報告によれば,低濃度部には壊死が見られず,腫瘍の乏血部そのものに基づくという.稀には,一様な低濃度が腫瘤部全域を占める癌もある.
 図5は膵頭部癌の典型例で,頭部の腫大,輪郭の不整,内部のまだらな低濃度が見られ,下大静脈と腫瘤の一部では脂肪織を欠く.

膵炎

ページ範囲:P.2231 - P.2236

 急性膵炎の多くはCTの対象とはならない.これは臨床生化学的データのみで十分診断がつくことに加え,約半数ではCT上まったく所見を欠くためである.急性膵炎の典型像は膵のびまん性腫大と濃度の低下である.
 CTが偉力を発揮するのは,高度膵炎に続発する膵周囲への浸潤の拡がり,膿瘍,仮性のう胞の形成をとらえることである.膵後面には前腎筋膜(Gerota's fascia)があり,腎と境され,膵側はanterior pararenal spaceと呼ばれる.一方,前方は腹膜で網のうに囲まれ,左側方は下行結腸に隔てるものなく移行する.したがって高度の膵炎が生ずると,浸出液,出血壊死はこのスペースに充満する.逆にこの像を見れば,この部の腫瘤は膵炎に由来するものとみなしてよい.図21は腹部中央から左側に拡がる腫瘤があり,これは先に記した膵周囲の空間に相当する.この内部には種々の大きさの低濃度部があり,さらにその中に多数の小円形の高度な低濃度影が見られ,これはガスといえる.すなわち,膵炎に続発した膵膿瘍である.

座談会 CTスキャンの適応と限界・2

肝・胆・膵領域

著者: 草野正一 ,   荒木力 ,   大藤正雄

ページ範囲:P.2238 - P.2250

 大藤 (司会)消化器疾患におけるX線CTの応用に関しては,現在なお評価が定まっていない面があるように思います.
 そこで今日は,第一線で実際に診断に当たられている草野先生,荒木先生から,内科の立場で,X線CTの現状,その実際的な使われ方,また,診断の能力などの点を肝・胆・膵領域についてお聞きしたいと思います.

腎臓

著者: 八代直文

ページ範囲:P.2251 - P.2251

 正常腎実質は,水溶性造影剤の静脈内投与によって濃染するため,腎のCTでは,他の腹部実質臓器に比して,より小さな病変を捉え得る可能性が高い.また,CT像は横断断層像であるため,他の検査法では知ることの困難な,腎病変部と周囲構造物との関係を容易に知ることができる.本稿では,主として第3世代CT装置を使用して描出できる腎および腎周囲構造物の正常解と,腎CTの検査手技について最初に略述する.次に臨床上遭遇する機会の多い腎単純嚢胞と他の病変との鑑別について述べ,最後に,腎腫瘍性疾患に対するCTの役割について考察する.

正常解剖

ページ範囲:P.2252 - P.2254

 腎は後腹膜腔後部に位置し,内側は,上方では横隔膜脚,下方では腸腰筋によって椎体と境される.腎の前方および後方は,副腎とともに腎筋膜(Gerota's fascia)と呼ばれる強い線維性の筋膜で覆われており,前後の筋膜は腎の外側で癒合して腎を包んでいる8).通常では腎筋膜の内外に豊富な脂肪層が存在するため,正常で腎筋膜の前葉,後葉を描出することができる(図2).
 腎筋膜は,腫瘍,炎症などが存在する場合には肥厚するため,同定はさらに容易である.腎腫瘍では,腫瘍の進展度の分類上のメルクマールとして使用される(後述)ため,腎腫瘍の術前検査の場合にはとくに注意を払うべきである.また,腎以外の後腹膜病変(膵炎,その他)でも腎筋膜に肥厚などの変化を認める場合がある.

検査手技

ページ範囲:P.2255 - P.2258

 第3世代のCT装置では10秒以内での撮影が可能なので,大多数の症例では呼吸停止により,artifactの少ない像を得ることができる.後腹膜の脂肪が十分に存在する症例では,腎筋膜は同定可能であるべきである.腎腫瘍などで腎筋膜の状態が問題になるような場合には,腹臥位,側臥位などに体位を変えると,仰臥位では同定困難であった部分の腎筋膜の同定が容易になる場合がある.
 水溶性造影剤の静脈内投与は,とくに腎腫瘍が疑われる場合には,禁忌がないかぎり行うべきである.

腎単純嚢胞と他病変との鑑別

ページ範囲:P.2259 - P.2261

 腎の単純嚢胞は50歳以上の人口の50%以上に見られるとされ,非常に頻度の高い疾患である.筆者らの経験でも,腹部の他臓器を目標に行ったCT検査で偶然に発見されるものが多い.腎のmass lesionの95%以上は単純嚢胞であり,単純嚢胞であれば,無症候であるかぎりは治療を必要としないので,腎のmass lesionの診断にあたっては,単純嚢胞と充実性病変の区分を能率よく行うことが重要である.
 超音波断層は腎のmass lesionのスクリーニングにこのような目的で使われ,単純嚢胞の大部分のものは超音波断層で確診可能である.しかし,一方では,嚢胞壁に発生するような悪性腫瘍や,中心部の壊死,液化のために単純嚢胞との区別が困難な腎腫瘍の症例も存在することが明らかになってきたため,施設によっては,経皮的に腎嚢胞の穿刺を行い,内容液の生化学検査,細胞診,嚢胞内腔の造影も行われるようになりつつあった.

腎腫瘍性疾患に対するCTの役割

ページ範囲:P.2262 - P.2270

 充実性腎腫瘍の大部分は悪性であるため,原則として外科的治療の対象となる,腎腫瘍の性質についてのCT診断は,腎過誤腫,脂肪腫などのように脂肪成分を含むようなものでは例外的に可能であるが(図17,18),大部分の症例ではCTから腫瘍の組織診まで確実に行うことは困難であり,臨床的にも大きな意味はない.したがって,腎腫瘍性疾患に対するCTの役割は主として腫瘍のstagingにあり,腎腫瘍と腎周囲構造物の立体的関係を同時に描出できるCTは,この点で非常に有用で,手術所見とCT像はよく対応する4)
 腎腫瘍(腎細胞癌)に対する標準的なstaging分類は表に示した.筆者らの経験で,手術的に腎細胞癌であることが確認された30例について,CT上stageII以下であると判定された16例については,すべて正診であった.腎細胞癌のように血行豊富な腫瘍では,実際に腎筋膜や後腹膜への浸潤がなくても,腎被膜動脈,腰動脈などから腫瘍への血行が描出されることがあり,parasitic blood supplyとして知られている.このような場合には,血管造影では正確なstagingは困難であり,stageII以下の腫瘍については,CTの信頼性が高いと思われる.

副腎

著者: 古井滋

ページ範囲:P.2271 - P.2271

 撮影時間の短縮をはじめとするCT装置の進歩によって,腹部CTにおける正常副腎の描出率は著明に増加し,最近の装置ではほぼ全例で左右の副腎の同定が可能となっている1).副腎疾患についても,原発性アルドステロン症の副腎腺腫のような比較的小さな病巣の検出が可能となったことから,CTの臨床的価値が評価され,すでに各種疾患のCT所見,他の検査法との比較,CTの使用法などについての検討も数多く行われている.
 本稿では,当科で経験した症例といくつかの文献をもとにして,主な副腎疾患のCT診断法について記載する.

原発性アルドステロン症

ページ範囲:P.2274 - P.2275

 原発性アルドステロン症の原因の約70%は皮質腺腫であり,残りのほとんどは両側副腎皮質過形成であるとされている.副腎皮質腺腫は5g以下の小さなものが多く,その90%以上が一側性,単発性である.
 CTは腺腫の検出を目的として行われ,一側の副腎に腫瘤を認め,反対側の副腎が正常の形態を示す場合には,腺腫が強く疑われる.過形成の症例では,両側の副腎は正常の形態を示すことが多いとされている4).当科ではCTで,長径1〜2.5cmの6例の腺腫が診断され,うち4例で病理診断が得られている.

クッシング症候群

ページ範囲:P.2276 - P.2276

 クッシング症候群は,副腎腫瘍によるものと,下垂体腺腫や異所性ACTH産生腫瘍による両側副腎過形成によるものとに大別される.副腎腫瘍は比較的大きく,CTで容易に検出されることが多い.過形成では両側の副腎は正常かまたは全体に腫大した形態を示す4)
 当科では副腎腫瘍を5例,下垂体腺腫による過形成を1例経験している.副腎腫瘍の長径はCT上3〜6cmで,そのうち4例で皮質腺腫の病理診断が得られている.腺腫4例はいずれも比較的平滑な辺縁と,均一な内部構造をもち,その吸収値は造影前のCTでは肝よりも低く,腎とほぼ同じ程度であった.反対側の副腎は正常またはやや縮小した形態を示して全例で描出され,またスライスによっては,患側の副腎が正常の形態を示して描出される症例も見られた(図4).

褐色細胞腫

ページ範囲:P.2277 - P.2277

 褐色細胞腫はクロム親和性細胞から発生する腫瘍で,カテコールアミン分泌による症状を伴うことが多い.またその10%以上は副腎外に発生するとされ,10%前後の頻度で多発性腫瘍や悪性腫瘍が報告されている7)
 当科では病理診断の得られた褐色細胞腫を3例経験し,そのうち1例は術後に再発した両側性の腫瘍であった,褐色細胞腫では時に腫瘍内に嚢胞性部分または壊死巣と思われる低吸収域が認められることがあり4),当科の症例でも2例で病巣内に低吸収域が認められている(図6).

その他の副腎疾患

ページ範囲:P.2278 - P.2279

 内分泌機能をもたない副腎腫瘍の場合には,腹部腫瘤や排泄性尿路造影の異常を主訴にCTが行われることが多い.CTは腫瘍の部位や拡がり,他の臓器との関係,内部構造などを知るうえで有効であり,多くの場合には副腎腫瘍の診断が可能である.しかし大きな腫瘍の場合には,時にCT所見から原発臓器の同定が困難な症例も経験される(図8).
 急性副腎不全の場合には血腫が,慢性副腎不全の場合には石灰化巣が認められることがある.また,副腎以外の疾患の検査を目的として行ったCTで,転移性腫瘍,内分泌機能のない副腎腺腫,副腎嚢胞などの副腎疾患が偶然発見される場合も少なくない1,4,6)(図9).

骨盤

著者: 吉川宏起

ページ範囲:P.2281 - P.2281

 骨盤腔は解剖学的にほぼ左右対称,かつ一定の構造をしている.また胸腹部と異なり,心拍動,呼吸,消化管蠕動によるmotion artifactが少なく,コンピュータ断層(CT)に有利な条件を有している.しかし,CTが骨盤内臓器の診断上,従来の検査(腹部単純撮影,断層撮影,経静脈性排泄性尿路造影,超音波断層(エコー),骨盤動脈造影,逆行性膀胱造影,子宮卵管造影など)による情報に付加する新たな情報を提供するのでなければ,検査を施行する意義は失われる.
 本稿は骨盤腔の腫瘤性病変を中心に症例を供覧し,CTによる診断,その限界および適応について述べることにする.

正常解剖

ページ範囲:P.2282 - P.2283

 CT診断に際し,骨盤の横断面の正常解剖に精通する必要がある.CTがあくまで組織のX線吸収値差をもって画像を作製している以上,軟部組織からなり,ほとんど吸収値に差のない骨盤各臓器間の識別は本来不能である.しかし,正常者の場合,るいそう者,小児などを除けば各臓器の間に脂肪組織が介在し,ある程度まで識別することができる.ところが対象となる腫瘤性疾患では,極端なるいそうで十分な脂肪組織の介在がなかったり,また骨盤内腫瘍のため骨盤の正常構造が乱されていることが多く,臓器の同定すら困難となる.婦人骨盤における巨大な卵巣腫瘍がよい例で,骨盤内臓器は本来固定が堅固でなく,配列は容易に乱れるため,泌尿器系臓器(膀胱,尿管),女性生殖臓器(腟,子宮),消化器系臓器(小腸,大腸)を各々識別するには種々の工夫が必要である.
 泌尿器系臓器は経静脈性水溶性ヨード化合物を用いると識別は容易である.女性生殖臓器のうち,卵巣についてはよい方法が得られていないが,腟,子宮では,指標となるもの(ネラトン管,コンレイガーゼ,タンポンなど)の挿入が試みられている.また,膀胱の壁の厚さを明らかにするため,尿,生食,電気,オリーブ油などで膀胱を充満させる場合もある,それぞれ,どの方法が最適か結論はでていないが,可能な限りartifactの少ない方法をとることが必要である.

婦人科系骨盤内腫瘍

ページ範囲:P.2284 - P.2296

 頻度的には子宮筋腫,卵巣腫瘍が多く,したがって骨盤内腫瘍の起源臓器の決定が診断の重要なポイントとなる.子宮起源か卵巣起源かの鑑別は困難で,巨大な腫瘤像を呈する場合はことさらである.
 この場合,ひとつには,正常子宮の同定が可能であれば,漿膜下筋腫などは例外としても,高率に子宮外起源といえる.子宮の描出の点で,横断面のみのCTに比較し,断面像を自由に選べるエコーがすぐれている.CT上,正常子宮を同定するためには,恥骨上縁よりスライスは必ず1.5cm間隔とするなどの工夫により,高率に同定可能であったとの報告1)がある.

泌尿器系骨盤内腫瘍

ページ範囲:P.2297 - P.2301

 経静脈性排泄性尿路造影,逆行性膀胱造影および膀胱鏡などでは主に膀胱の内腔の情報が得られるのに対し,CTはこれに加えて,腫瘍の臓器外への進展についての情報が得られるのが特徴である.ことに膀胱癌の壁外浸潤の程度,精嚢腺・直腸・前立腺・前腹壁への浸潤の有無の診断に威力を発揮する.その際,経静脈性水溶性ヨード剤に加え,膀胱内を尿,生食,空気,あるいはオリーブ油などによって充満させ,腫瘍部を上方にする体位でのスキャンが行われる.
 また精嚢腺への浸潤を見るには,腹臥位にして,精嚢腺と膀胱壁が離れる体位でseminal vesicle angle4)を見ることが必要である.膀胱壁は造影により明瞭化されるため,造影後CTは必要である.ただし,腫瘍の範囲が不明確になるため,膀胱に多量の造影剤が排泄される前にスキャンを行う必要がある.松林らは膀胱腫瘍20例について〔腫瘍の幅/高さ〕を求め,1.0以下はすべてstageB1以下,1.5以上はすべてstage B2以上という報告をしている5)

その他の疾患

ページ範囲:P.2302 - P.2304

症例1 悪性リンパ腫(T細胞型)(15歳,男性)
 リンパ系病変へのCTの臨床応用は有効とされ,ことに後腹膜,縦隔リンパ節の描出にすぐれ,ホジキン病のstage分類などに使用されている.CTの役割は腫大リンパ節の描出で,ことにリンパ管造影にて造影されないリンパ節(リンパ節の構造が失われ造影剤が取り込まれないもの,あるいは内腸骨,腎門,腸間膜,腹腔,縦隔リンパ節など)の描出に努めるべきである.リンパ管造影で欠損像としてのみ描出される小転移巣などの検索は適応とはならない.
 リンパ管造影のリンパ節相(図25-A)で,左鼠径および外腸骨,総腸骨,左傍大動脈リンパ節の腫大,構築破壊像が認められ,外腸骨リンパ節(矢印)は欠損像を呈し,その腫大範囲は明らかでない.リンパ管造影後のCT(図25-B,C)で,左腸腰筋に沿って鼠径部に至る軟部組織濃度の腫瘤が認あられ,内部に散在性にlipiodolの取り込みが見られている.

骨・筋肉病変

著者: 荒木力

ページ範囲:P.2305 - P.2305

 X線コンピュータ断層撮影(以下CT)の頭部における有用性はいうまでもなく,腹部,胸部においても,その診断能力および限界が理解されるようになり,CTがきわめて有効である臓器および病変と,ほとんど役に立たない領域とが区別されるようになった.骨・筋肉組織は,CT診断においては比較的新しい分野であり,その評価もまだ固定したとはいえないし1,2),その臨床への応用もひろく理解されているとはいい難い.過去2年間に,東大病院放射線科で施行された78例の,骨・筋肉組織(四肢,骨盤,肩部,肋骨および脊椎)病変のCTを検討し,その特徴について考えてみたい.

CTの適応

ページ範囲:P.2306 - P.2306

 表に見るように,この分野においてCTの適応される病変は,腫瘍,なかでも悪性腫瘍,または組織病理学的に良性であっても破壊性,浸潤性の強い腫瘍が圧倒的に多い.そのほかには,脊椎後縦靱帯骨化症や環軸回転性脱臼のように,CTの横断断層面の特徴を利用したものがある.腫瘍以外の腫瘤性病変(膿瘍,血腫など)もCTの対象となるが,従来のX線検査により明らかな良性腫瘍や単純な骨折については,CTの意義は少ない.

スキャン法

ページ範囲:P.2307 - P.2307

 GE-CTT 8800 scannerを使用し,スライス幅10mm,スキャン時間10秒でスキャンしたが,この分野は頭部と同様,生理的な動き(呼吸など)の影響のないところであり,時間はそれほど問題とならない.また原則として左右対称であるから,やはり頭部と同様,左右差が異常発見の手がかりとなることが多く,四肢においても両側を同時にスキャンするのがよい.また骨病変では,従来のX線像と比較しながらスキャンしてゆくことが不可欠である.軟部組織腫瘍は,原則として周囲筋組織よりX線透過性が高く,したがってCT値は低いが,時にほとんど区別できないこともある.また,水溶性造影剤静注により,腫瘍が周囲と区別されることもある.この場合,腫瘍により,周囲より濃度が高くなる場合と低くなる場合がある.この造影効果(contrast enhancement)は,静注法やスキャンする時間により,同じ腫瘍であっても変化すること3),造影剤の動態と血流とは違う4,5)ことをよく理解して,分析,診断する必要がある.
 また,骨組織のCT値は,その石灰含有量によりかなりの違いがある.たとえば,石灰化していないosteoidは+40〜+80HUであり1),骨化の強い皮質では+1,000HUに近い.したがって画像の表示に際し,そのウインドウレベルとウインドウ幅を動かすことにより"骨化"部の大きさも変化することに注意しなくてはならない(図1).

骨および軟部腫瘍

ページ範囲:P.2308 - P.2317

 骨および軟部腫瘍におけるCT診断上の特徴をあげると次のようになる.
 1)従来のX線撮影(断層も含む)において,主として解剖上の位置から診断しにくい部分が容易に描出される(症例1,2).

腫瘍以外の腫瘤性病変

ページ範囲:P.2318 - P.2319

 腫瘍以外の腫瘤性病変としては,膿瘍,血腫,髄膜瘤がある.髄膜瘤では,内容のCT値がほぼ0であることと,脊椎に欠損のあることが決め手となる.また,腫瘍は一般に壁が比較的厚く,造影剤により濃染するが,内容は水と腫瘍のほぼ中間のCT値を示し,造影効果を示さない.しかしながら,嚢胞性病変と膿瘍および腫瘍のCT値にはかなり重なりがあり,また機種によってCT値に信頼のおけないものもある.また,小さな病変や病変の辺縁では,partial volume effectがあり,CT値のみに頼るのは危険である.

その他の疾患

ページ範囲:P.2320 - P.2322

 腫瘤性病変(腫瘍,膿瘍,血腫)のほかに,CTが有効であるものとして,脊椎後縦靱帯骨化症(症例13),黄色靱帯骨化症(症例14)や骨棘の脊椎管内への突出の程度を知ること,側彎症(症例15)による脊椎および内臓のねじれや,漏斗胸による胸郭変形の程度を知ることがある.

座談会 CTスキャンの適応と限界・3

腎・副腎・後腹膜・骨盤領域

著者: 平松慶博 ,   八代直文 ,   三條貞三

ページ範囲:P.2324 - P.2334

 三條(司会) 今日は腎,副腎,後腹膜,骨盤についてのCTスキャンの適応と限界というテーマでお話をうかがいたいと思います.最初に,鮮明なCTの画像を得るたあには装置の取り扱い上,どういうことに注意すべきか,平松先生,いかがでしょうか.

X線CT装置の現況

著者: 遠藤真広

ページ範囲:P.2335 - P.2335

 X線CTの開発(1972)以来,ほぼ10年を経過し,わが国に第1号機が導入(1975)されてからも6年を経過した.過去を振り返ってみると,1975〜1977年頃がX線CTの技術的発展の最も華やかな時期であり,毎年,新しい世代のCTが発表された.しかし,最近の2,3年は,X線CT装置のハードウェアに本質的な改良は行われていない.X線CT技術における最近の発展は,主としてソフトウェアの改良と結びついたものである,このような情況は,X線CT技術が発展期を終え,安定と成熟の時期に到達したことを示している.
 ここでは,X線CTのハードウェアの現況を,2〜4世代の相互比較に的を絞った形で説明する.この問題は,従来から,しばしば議論されてきたが,現在のような安定期にこそ,十分,冷静な議論を行うことができよう.また,現在の発展の焦点であるソフトウェア的改良のいくつかを概説し,X線CT装置の現況を理解する一助としたい.

X線CTの走査方式の比較

ページ範囲:P.2336 - P.2338

 図1は,現在,臨床に使われている,いわゆる第2,第3,第4世代の走査方式を示したものである.この他にも,いくつかの特異な走査方式が提案されているが,わが国では使用されていないので,ここでは省略した.
 図1Aは,第2世代の走査方式であり,頭部専用の装置の大部分はこの方式を採用している.第2世代のCTでは,X線管-検出器系の直進および回転という,やや複雑な機械的運動を行うため,1回の走査にほぼ1分を要する.図1Bは,第3世代の走査方式であり,全身用の装置の多くはこの方式を採用している.第3世代のCTでは,X線管-検出器系を患者の周囲に回転させるだけで,走査を終了することができるため,走査時間は第2世代にくらべて,大幅に短く,3〜10秒である.図1Cは第4世代の走査方式であり,いくつかの全身の装置が,この方式を採用している.第4世代のCTでは,検出器を静止させX線管のみを回転しているため,第3世代とくらべて走査時間をやや短くできる(1〜10秒).

ソフトウェアの改良

ページ範囲:P.2339 - P.2342

 4世代出現後のX線CTの技術的発展は,主としてソフトウェアの改良によるものである.それには次のようなものがある.
 1)Computed Radiography
 2)Dynamic Scan, Gated Scan
 3)Zooming(Review)
 4)3次元再構成
 5)CT像による放射線治療計画
 これらのソフトウェアは,多くの全身用CT装置に標準的に装備される傾向にある.

座談会 CTスキャンの進歩

心臓CT・RI-CT・NMR-CT・Digital Radiography

著者: 松山正也 ,   舘野之男 ,   町田喜久雄 ,   田坂晧

ページ範囲:P.2344 - P.2356

 田坂(司会) CTが臨床的に使われ出してから,日本でも5年を経て,経験も豊富になり,確実に役に立つのがどの領域かもわかり,どんどん使われています.まだ,これから進歩すると思われる領域もあります.また装置もX線CT以外の新しいものが開発されてきておりますので,その全般について話し合いたいと思います.
 CTという言葉についてですが,これは英語のcomputed tomographyの略です.日本ではコンピュータ断層撮影という名前が使われております.アメリカの論文などでは演題のタイトルには最近まであまりCTという略語は使わないで,きちんとcomputed tomographyと書いてあったようです.日本でも正式には,コンピュータ断層撮影という言葉を使ったほうがよさそうですね.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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