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雑誌目次

雑誌文献

medicina18巻13号

1981年12月発行

雑誌目次

今月の主題 肺機能検査から疾患肺へ

理解のための10題

ページ範囲:P.2116 - P.2118

基礎知識

肺機能検査のすすめ方

著者: 堀江孝至 ,   和泉徹

ページ範囲:P.2028 - P.2030

 肺機能検査が臨床的に応用されるのは①肺機能障害の型,障害度の判定,診断の補助,②small airway diseaseの検出,③術前検査,④呼吸困難の評価,診断,⑤胸部X線や臨床所見で指摘できない潜在する肺病変の検出,⑥各種薬剤や放射線照射による肺への障害の検出,⑦治療方針の選択などにおいてであり,また塵肺法,大気汚染による障害度の決定など社会医学的な面にも利用されている.ただ肺機能検査で特異的に疾患が診断されることはまれで,問診,理学所見,胸部X線その他,検査でえられる情報の裏付けとして意義があり,過大評価すべきでないことを認識する必要がある.他項で血液ガスや病変部位と機能検査について解説され,重複する部分もあるが,本項では検査のすすめ方について解説した.

ガス交換異常のとらえ方

著者: 太田保世

ページ範囲:P.2032 - P.2033

 ガス交換異常を,肺・胸郭系およびその調節機構の障害と考えれば,肺不全という言葉が浮んでこよう.さらに広く解釈して,組織・細胞レベルのものまで包括すれば呼吸不全が,主としてミトコンドリアでの異常を考えると,dysoxia(Robin,1977)という言葉にもなる.
 肺での機械的な空気の出し入れの障害は換気障害であり,閉塞性と拘束性の換気障害に分類して考えるのが普通である.ところが,換気不全(ventilatory failure or insufficiency)というときには,ハイパーカプニアやハイポカプニァを指すという使い方をすることもある.

病変部位と機能検査

気道病変

著者: 佐々木孝夫

ページ範囲:P.2034 - P.2037

 気道系の第1の役割は,導管としての役割で,ガスを流すことでその目的を達成する.したがって,どれだけガスが気道系を流れるかが気道系の具体的な機能の問題となる.しかし,気道系自身はガスを流す駆動力をもっていず,むしろ気道系はガスの流れを規制する側にある.
 導管の気流を規制する性質は,直接的規制機構のいかんをとわず,次の2つの方法で数量化される.すなわち,
 1)ある特定の駆動圧での気流量
 2)ある特定の気流量を流すのに必要な駆動圧,すなわち,気流抵抗
 の2種類の検査で検討される.

実質病変

著者: 福地義之助

ページ範囲:P.2038 - P.2040

肺の実質と間質
 ある臓器の実質とは,本来その臓器が遂行すべき機能が営まれる部分と解するのが一般的である.肺についていえば,ガス交換が営まれる肺胞腔が実質と考えられるわけで,実質細胞としては肺胞腔の内壁を形成する肺胞上皮細胞があげられる.肺胞上皮細胞は薄く内腔の大部分を被覆するI型細胞と,肺胞隅角に好んで存在し,corner cellとかつて呼ばれたこともある,比較的大型のII型細胞とから成り立っている.両者を合わせても,肺内細胞の総量に占める比率は小さく,この点で肺は実質細胞に富む肝臓などと対照的である.むしろその構造は腺構造によく似ていて,気腔が腺房に相当し,肺胞上皮細胞に囲まれた肺胞腔は実質の中に含めるべきであるとする山中らの指摘1)は妥当なものと思われる.
 このように肺実質を肺胞上皮細胞を含む肺胞全体と定義すると,肺の間質はその他の部分となり,実質と隣接して存在する.

間質病変

著者: 高橋敬治 ,   池田英樹

ページ範囲:P.2042 - P.2044

間質病変とは
 間質とは,肺胞上皮細胞と肺毛細血管内皮細胞との中間部を指す.したがって,間質は肺実質の一部である.間質病変では,この層に線維芽細胞などの細胞浸潤や,浸出液の貯留が認められ,この層の肥厚が観察される.また,膠原線維,弾性線維などの線維組織の増加も認められる.これらが肺の機能に著しい影響を及ぼす.この間質の線維組織は肺表面活性物質とならんで,肺の力学的特性を規定する大きな要素である.
 間質病変検出の方法として,換気力学的な面より静肺コンプラィアンス,肺気量の測定,間質の肥厚に伴う肺胞ガス交換異常の検出法として,拡散機能および動脈血ガス分析がある.

肺血管病変

著者: 兼本成斌

ページ範囲:P.2046 - P.2049

 肺血管病変をもたらす疾患はWHOのレポート1)をもとにして以下のようにまとめることができる(一部筆者改編).
 ①動脈壁を1次性に障害する疾患
  a.原発性肺高血圧症
  b.結節性多発性動脈炎
  c.高安動脈炎
  d.その他の動脈炎

換気調節異常

著者: 本田良行

ページ範囲:P.2050 - P.2052

呼吸調節系の構成
 近年呼吸調節に関する研究は数多く,簡単にまとめることはむずかしい.図1は,ごく模式的にその大要を示した.呼吸ポンプとしての肺の動きは,その周囲を囲んでいる胸郭の運動によって他動的に行われる.胸郭運動は,呼吸中枢群より脊髄を通って,横隔膜と肋間筋がドライブされることによって達成される.換気の大きさは,安静時から最大時には十数倍にも及ぶほど大きく変化する.その大きさを決める呼吸中枢の活動は,図1に示すように少なくとも4つの入力がある.
 1)皮質,視床下部,脳幹網様体などの高位中枢からの影響.意識のレベルにより左右されることが大きく,行動性調節(behavioral control)とも呼ばれる.

各種肺疾患と機能検査

気管支喘息

著者: 笛木隆三 ,   富岡眞一

ページ範囲:P.2053 - P.2055

 気管支喘息の定義として広く利用されているのは,American Thoracic Society(ATS)とCiba Guest Symposiumによる提案である.両者ともアレルギーを含めた病因については言及しておらず,気管支喘息の症候群としての性格を裏づけている.ちなみに,前者を引用すると,"種々の刺激に対して気管および気管支が反応性を高め,気道系の広汎な狭窄によって特徴づけられる疾患であり,その狭窄が自然に,あるいは治療によって改善されるものを気管支喘息という"と定義している.
 要約すれば,①気道過敏性,②広汎な気道狭窄,③可逆性の3点が診断のポイントとなろう.

肺気腫

著者: 川城丈夫 ,   綾部徳子

ページ範囲:P.2056 - P.2057

 肺気腫は1961年のWHOの定義によれば,「終末細気管支より末梢において,その壁の破壊を伴って気腔が尋常の大きさを越えて拡大することによって特徴づけられる状態」とされている.ところが臨床的に重要なことは,臨床において得ることのできる情報から,その症例が肺気腫と診断しうるか否かを判断できることである.肺気腫研究会(1962年7月)において肺気腫の臨床診断基準が提案され,わが国で広く使われてきた,この臨床診断基準においても肺機能検査が重要な役割を果たしている.

慢性気管支炎

著者: 中島重徳 ,   津谷泰夫

ページ範囲:P.2058 - P.2060

 慢性気管支炎という疾患は古くから知られているが,現在でもその診断基準について不鮮明な点が残っており,新しい興味ある問題を含んでいる.
 それは,本症の概念がFletcherの定義で代表されるように,患者の問診に基づいた症状を主体とした診断であること,病期により幅広い病像を呈すること,onsetがはっきりしないこと,他疾患との合併が少なくないことなどによる.また,本症は肺機能上あまり特徴的なパターンを示さず,silent zoneといわれている末梢気道病変との関係が深く,とくに初期ではほとんどすべての肺機能検査で異常を示さない.重篤になってはじめて高度の異常値を示すこともあり,その過程では種種のパターンの肺機能障害が認められる.

細気管支炎

著者: 大久保隆男

ページ範囲:P.2061 - P.2063

 細気管支炎を呼吸機能という面から眺めるとき,その中にまったく対照的な両極端を見出し奇異な感じに打たれる.その1つは,いわゆるsmallairway diseaseで,silent zoneの病気といわれるように,機能的にはまったく正常に近く,その変化を検出することはかなり困難である.一方,本間,山中らのdiffuse panbronchiolitis1)または滝島らのfibrosing bronchiolitis2)といわれる一群は,きわめて強い閉塞性障害と,それにより惹起されるガス交換障害を示し,これらが同一の部位の障害によるものとは到底考えられないほどである.
 滝島3)によれば,慢性閉塞性肺疾患COLDの分類は表のごとくである.未分類は(1)〜(3)の診断基準に合致しないか,あるいは確定診断がえられないもので,その中のsmall airway disease型は1秒率70%以上で,末梢気道病変の診断法によりsmall airwayの閉塞性病変が示唆されるもの,とされている.

上気道閉塞

著者: 白石透

ページ範囲:P.2064 - P.2067

上気道閉塞とは
 気道のうち鼻腔から喉頭までが上気道,気管以下終末細気管支までが下気道である(山中 晃,1980)が,機能障害の立場からは,胸郭内か胸郭外かが問題であるので,肺機能に関する論議では頸部気管と喉頭とをひとまとめにして"上気道"として扱うことが多い.
 上気道閉塞の原因は,結核,糸状菌による肉芽腫,長期挿管後瘢痕性狭窄,反回神経麻痺,良性・悪性腫瘍などきわめて多様である.

肺胞蛋白症

著者: 荒井達夫 ,   三重野龍彦

ページ範囲:P.2068 - P.2070

 肺胞蛋白症pulmonary alveolar proteinosisは,不明の病因により肺胞腔内にエオジン好性でPAS陽性の微細顆粒状蛋白様物質が貯留充満する疾患である1).肺胞隔壁には原則として異常はない.
 肺胞蛋白症の肺機能はこのびまん性alveolarfillingによる肺実質障害の所見を示す2,3).本稿ではまず本症の肺機能所見を概述し,つぎに自験例での成績を示す.

肺線維症

著者: 田村昌士 ,   鈴木康之

ページ範囲:P.2072 - P.2074

 肺線維症では,主として胞隔および末梢気道領域の間質の炎症,あるいは線維化病変が比較的びまん性にみられることが特徴である.このようなびまん性線維化病変は特発性間質性肺炎(IIP)から原因の明らかなじん肺などまで,多くの疾患で認められる.したがってそれぞれの疾患によって臨床症状,胸部理学的所見,一般検査所見が異なることはもちろんであるが,胸部X線所見および呼吸検査所見も多少相違する点がないとはいえない.しかし本稿はできるだけ肺線維症全般に共通する呼吸機能障害をとりあげ,その障害パターンと検査の進め方を中心に述べてみたい.

過敏性肺臓炎

著者: 金野公郎 ,   山口美沙子

ページ範囲:P.2075 - P.2077

 過敏性肺臓炎とは有機塵埃抗原を吸入することによって個体が経気道的に感作され,再びこの抗原を吸入すると,肺に肉芽腫形成を伴う肺臓炎がひき起こされる一群の疾患である.現在知られている抗原物質の大きさは1μ以下のものが多く,したがって病変の主座は肺胞および呼吸細気管支領域であり,そのpathologyも肺胞実質系では問質性肺炎像から線維化,あるいは嚢胞状気腫化まで多彩な変化がみられ,気道系でもとくに細気管支炎などが知られている.したがって本症は病態生理学的見地からみると,これら多彩なpathologyおよび免疫学的機序(III型アレルギーあるいは最近問題となっているIV型アレルギーの関与)と対応する可逆性病変と不可逆性病変との共存,および肺胞病変と気道病変との共存とを背景とする多彩性によって特徴づけられ,かつこの特徴性は本症の病態の経時的推移によってはじめて把握しうる特質も有している1)

肺塞栓症

著者: 川上義和 ,   山本宏司

ページ範囲:P.2078 - P.2080

 肺血栓・塞栓症pulmonary thromboembolismは,急性あるいは反復性に肺動脈の閉塞を起こす病態である.診断には,肺血流シンチ,肺血管造影,凝固線溶系検査が有用である.気道系の変化は2次的であり,診断における肺機能(とくにメカニックス)の役割は小さい。しかし,肺血流を障害するため換気・血流比(VA/Q)を変化させ,ガス交換障害はほとんど必発である.以下は,急性型を中心に述べる.

心疾患—MSを中心に

著者: 石川皓

ページ範囲:P.2082 - P.2084

 僧帽弁狭窄症(MSと略す)の肺機能障害の主因をなすものは肺うつ血であり,この点では急性心筋梗塞,高血圧性心疾患などによる左心不全に共通する.すなわち左房圧の上昇に伴い肺静脈圧,肺毛細管圧(心カテーテル検査における肺動脈模入圧)は上昇し,怒張した血管による細気管支の閉塞,さらに間質組織,肺胞の浮腫により,換気機能,換気/血流分布,拡散機能は障害される.MSの特異な点は,肺静脈圧の上昇が長年にわたって徐々に生じてくるため,肺循環状態に適応する時間的余裕があることで,たとえばリンパ管の増大によるドレナージなどにより,急性心筋梗塞時にみられるような急性肺浮腫は生じ難い.MSにおいて臨床的に肺浮腫を証明する場合には,肺静脈圧はかなりの高値を示すものである.従来よりMSの重症度と肺機能障害とは相関するとされ,外科的適応の際の参考にされているが,近年従来の肺機能検査では正常域にある軽症のMSにおいて,細気管支領域に閉塞性障害を有することが示唆され注目される.

Pickwickian症候群

著者: 谷本普一

ページ範囲:P.2086 - P.2088

 Pickwickian症候群は,①肺胞低換気を伴う高度の肥満,②傾眠,③ぴくぴく動く軽い痙攣,④チアノーゼ,⑤周期性呼吸,⑥続発性赤血球増加症,⑦右室肥大,⑧右心不全などを主徴とする疾患で,とくに肥満,傾眠および周期性呼吸の徴候が重要である.その発症機序はまだ十分に解明されてはいないが,肥満による肺胞低換気hypoventilationが基本的病態である.

過換気症候群

著者: 西田修実

ページ範囲:P.2090 - P.2092

解釈の仕方
 この症例は,TVもfも増加して,MVおよびVAは著増し,Pao2の上昇,Paco2の著明な低下,pHの著しい上昇をきたしている.
 このような所見は,拡散障害,シャント,換気・血流の不均等分布,循環障害などを伴わない疾患ないしは状態,すなわち,興奮,人為的過換気,過換気症候群,貧血・CO中毒・メトヘモグロビン血症のように活性ヘモグロビンの減少した場合,代謝性アシドーシスなどでみられるが,この症例では過換気によってPaco2は著明に低下し,そのたあにpHが上昇した呼吸性アルカローシスであるので,代謝性アルカローシスは否定され,TVもfも増加して,MVは29.3l/minと著増し,pHも7.77と著明に上昇しているので,この症例は過換気症候群と診断されうる.

小児の肺機能

著者: 吉田豊 ,   坂芳樹

ページ範囲:P.2094 - P.2095

 小児肺機能検査は測定機種,被検児の検査協力や小児の発育を無視することはできない.小児においても閉塞性呼吸器疾患の増加,幼若期の重症呼吸器疾患の成長後の影響などが明らかとなり,小児肺機能検査が注目されるようになった.
 ここでは小児のスパイロメトリーを中心に述べる.

呼吸不全

著者: 鶴谷秀人

ページ範囲:P.2096 - P.2098

呼吸不全の概念
 呼吸不全をいかに定義するかについてまだ完全な意見の一致をみていない.呼吸不全とは「呼吸機能障害の結果,動脈血ガス分圧が異常値を示し,それがために生体が正常な機能を営みえない状態」をいう.これは国療呼吸不全研究会(1975〜)で用いているものであるが,現在最も広く使用されている笹本の定義(1969)と,Campbellの定義(1965)を合わせたものである.前者には"呼吸機能障害の結果"という条件はなく,後者には,"それがために……"より以下の項目はない.共通しているのは,「動脈血ガス分圧が異常値を示す」という点で,動脈血ガス値が得られなければ呼吸不全と診断できない.

トピックス

負荷試験

著者: 吉田稔 ,   関雅彦

ページ範囲:P.2100 - P.2103

 ある種の負荷が生体に加えられると,生体はそれに対し適応するような反応を示すが,健常者と疾患例では自ら反応の仕方は異なる.このような観点から呼吸器疾患領域においても各種の負荷試験がその病態の把握,診断のために活用されている.以下,これに関連した2,3のトピックスについて述べる.

局所肺機能検査

著者: 木村敬二郎 ,   長谷川鎮雄

ページ範囲:P.2104 - P.2105

局所肺機能の臨床的意義
 総合肺機能による成績は,肺全体としての,いわゆる平均化した機能を表わしているために,障害範囲が限局していたり,代償が十分である場合には,病変部の機能障害を正確に把握することが困難である.このような局在する病変や機能障害の分布を検出する手段として,局所肺機能検査法の開発がすすめられてきた.かつては肺癌の手術適応や予後の判定に関するデータを求めるために,カーレンス氏管を用いた左右別肺機能測定がなされ,左右別酸素消費量より左右肺血流の比率を推定する方法が用いられた.しかし,今日ではより侵襲の少ない方法としてラジオアイソトープが用いられるようになり,シンチカメラの改良や電算機とのシステム化により,さらに細分化された領域の局所肺機能検査が行われるようになった.対象とする疾患範囲も拡大され,肺塞栓の診断,肺癌の手術適応や残存肺機能の予測,あるいは閉塞性肺疾患の早期診断および進展度の判定,肺高血圧,右心機能の評価など広い分野での応用,研究がなされている.

肺手術と肺機能

著者: 芳賀敏彦

ページ範囲:P.2106 - P.2107

 肺の手術と肺機能の関係を云々する時には次の3つのことがらが考えられる.第1はいわゆる術前検査としての肺機能で,これは行われる予定の肺手術が術中と術直後安全に,また長期後機能障害を残さず行われうるかということの予測を得るためである.次は術中の問題で,肺の手術中に偶発事故が起こる可能性があるので,その時どのような肺の機能になっているかを知るためであり,最後は術後で通常手術自身による直接の,しかも近接の(術後1週間ないし1カ月の間の)時の状態と,それから肺の手術によってかなり長期的に影響される変化についての肺機能のこの3つが考えられる.そこで順を追ってこの3つの場合の肺機能の特徴について述べる.

EIAをめぐって

著者: 榎本哲 ,   堀江孝至

ページ範囲:P.2108 - P.2109

 気管支喘息患者が運動後に呼吸困難を訴えたり,喘息発作を誘発されることは日常しばしば経験される.これらはexercise-induced asthma(EIA)と呼ばれ,主に喘息患者に起こる非特異的な現象として理解されている,EIAは比較的簡単に誘発でき,発作の持続も短かいため喘息研究のモデルとして多くの研究成果が発表され,発現機序についてもかなり究明されている.本稿ではEIAの発症に影響する因子,発症機序,治療について最近の成績も含めて概説する.

症例

著者: 堀江孝至 ,   斉藤頴

ページ範囲:P.2110 - P.2115

症例1
強度の喘鳴が持続し呼吸困難をくり返した例
 患者 49歳 男性,刑務官.
 主訴 喘鳴,息切れ.

カラーグラフ 臨床医のための内視鏡—パンエンドスコープ

圧排・粘膜下腫瘤・処置

著者: 池上文詔 ,   関東逓信病院・消化器内科 ,   東京消化器病研究会・有志

ページ範囲:P.2122 - P.2123

 隆起性病変をみた時に,まずこれが病的なものであるのか,あるいは生理的な状態であるのかを知っておくことが大切である.一般には,粘膜性,粘膜下,外部よりの圧排の鑑別は必ずしも容易とはいえない.しかし,粘膜面に変化はなくとも,変形・圧排により食道,胃,十二指腸以外の病変の存在が示唆されることは,日常稀ならず経験することである.したがってわずかな隆起も軽視しないで,解剖学的位置関係を十分に認識して,病的な所見であるか否かを判断すべきである,今回はよく見られる生理的な変化もあわせて供覧する.
 さて本シリーズも本号にて最終となったのであるが,これまでは内視鏡診断について解説を加えてきた,現在では,内視鏡は診断上の有力な武器であることに止まらず,処置治療の分野への進歩,発展にも目覚ましいものがある.当院における内視鏡検査件数の推移と処置,治療について表示したが(表),パンエンドスコープ件数の増加とともに処置件数も増加し,多種多様にわたっている.

図解病態のしくみ 消化器疾患・22

Parenteral & Enteral Nutrition(1)—飢餓と外傷時の代謝

著者: 松枝啓

ページ範囲:P.2125 - P.2130

 臨床栄養学の最近のめざましい進歩に伴い,種種の疾患における栄養不良状態の改善をはかることが,原因疾患の治療効果を上げるのみならず,合併症を予防するうえで最も重要な臨床上の課題の1つであることが明らかになってきた.とくにProtein-Calorie Malnutritionの概念が臨床に導入され,またその病態生理が明らかになるにしたがって,患者の栄養不良状態の評価の進歩がもたらされ,より合理的な治療が可能になってきた.
 とくに,Total Parenteral Nutrition(TPN)やElemental Diet(ED)に代表されるParenteal & Enteral Hyperalimentationが開発されて以来,種種の疾患におけるProtein-Calorie Malnutritionの治療が効率よく施行できるようになり,その臨床的意義は測りしれないものがある.

図解病態のしくみ 循環器疾患・12

境界域高血圧

著者: 須永俊明

ページ範囲:P.2131 - P.2137

 Borderline hypertensionとか,labile hypertensionとか,mild hypertensionとか,高血圧症の中で血圧が,正常域より高目で常に高血圧範囲にないような場合,またはこれに年齢的な因子を加えて,若年性高血圧として,もっと広範囲から取り扱うような考え方がある.しかし,問題点は,これらの病態が,実際にprehypertension(本態性高血圧の前期)の範疇に入るのかどうかである.
 もちろん,prehypertensionというように範囲を区切ってしまうことにも問題があるが,この点に最も重要な問題が含まれている.

臨床薬理学 薬物療法の考え方・9

臨床薬効評価(1)

著者: 中野重行

ページ範囲:P.2139 - P.2143

 薬物療法の基本は,「患者の病態生理から考えて最も適した薬物を選択し,その患者個人に最も適した薬物量を,最も適した方法で投与することを通じて,その治療の有効性と安全性を最大限に高める」ことにあるが,このことは今までにくり返し述べてきた.そのためには,薬物動態学の知識にもとづいた投与量と投与間隔の設計法の利用が有力な手段となりうる.また,薬物の同時併用時にみられる薬物相互作用の知識も不可欠となる.しかし,最も適した薬物を選択するためには,そのために役立つ信頼性ある科学的なデータが存在することが必要である.
 さてそれでは,ある病態像の患者に投与した薬物がその病態の正常化に役立っているのかいないのか(すなわち効いているのか効いていないのか)は,どのようにして判定できるのであろうか? 前回は,薬物投与中に患者に生じた種々の治療上好ましくない症状が,はたして薬物のために生じたもの(薬物による有害反応)であるのかないのかの判定がしばしば非常に困難であること,さらにはその困難さへの対処のしかたについて述べた.一方,薬物の治療効果(有効性)の評価に関しては,薬物の有害反応の評価に類似した難しさを有しつつも,現在ある程度広く認められた方法が確立されている.

異常値の出るメカニズム・44 酵素検査(4)

アルカリホスファターゼ

著者: 玄番昭夫

ページ範囲:P.2145 - P.2150

正常血清アルカリホスファターゼの由来
 正常成人血清アルカリホスファターゼ(alkalinephosphatase,A1P,EC 3.1.3.1)の大部分はA1P2型,一部分はA1P3型から成り,また正常小児血清では大部分がA1P3型,一部分がA1P2型である.そして正常人でも血液型がBまたはO型の場合は,痕跡のA1P5型を認めることがあり,また妊娠後半期の婦人ではA1P4型が増加してくる.
 ここでA1P3型は骨由来,A1P4型は胎盤由来,A1P5型は小腸粘膜由来の各A1Pである.問題になるのはA1P2型の由来に関してである,肝疾患の際にA1P2型が血中に増加してくることから,このときの由来は肝であるとしてまず間違いないが,正常の場合のA1P2型がすべて肝由来であるという確証はない.それは図1の臓器分布からも想像できるように,正常血清A1Pの供給源としての肝の含有量はいささか物足りないように思われる.正常人で食事,とくに脂質に富む食事をした後に血清A1Pが増加してくることが知られている1,2),そして小腸粘膜には図1のようにA1Pが豊富なことから,小腸A1P-カイロミクロン結合物が肝に到達し,Kuppfer細胞で代謝的変化を受けてA1P2型ないしその類似型に転換し,そしてその一部が大循環系に移行するのではないかとも考えられている2)

臨床講座=癌化学療法

治癒への条件と将来への展望

著者: 小川一誠 ,   永田隆樹

ページ範囲:P.2151 - P.2154

 小児の急性リンパ性白血病(ALL)では5年生存率が50%以上の症例に得られ,また進行したホジキン病ではMOPP療法により約70%の症例が10年以上再発なく経過している.これら両疾患は癌化学療法の進歩により治癒可能となった代表的な例である.これに対して,日常の臨床でわれわれが多く対象としている成人の腫瘍の成績はどの程度まで進歩しているのか,もし治癒可能な腫瘍があるとしたら,その条件は何であるか,本稿では成人固型癌の中で治癒可能と考えられる腫瘍の成績を通じて,癌化学療法の将来を記述してみたい.

腹部単純写真の読み方

小児(2)

著者: 平松慶博 ,   甲田英一

ページ範囲:P.2169 - P.2174

腹腔内遊離ガス
 平松 今回はまずこの写真(図1,2)から説明していただきましょうか.
 甲田 これは胸部と腹部の立位と臥位の写真ですが,臥位の写真(図1)では腹部のX線透過性が高まっていて,しかも腸管の中のガスとその外のガスのために,腸管壁がよく見えます.腹腔内の遊離ガスがあることがわかります.そのほかにこの症例では鎌状靱帯(↑)が見えてきております.

連載 演習

目でみるトレーニング 55

ページ範囲:P.2176 - P.2181

外来診療・ここが聞きたい

抗生物質の使い方(2)—合併症のあるときと注意すべき副作用

著者: 島田馨 ,   竹越國夫

ページ範囲:P.2186 - P.2189

症例
 患者 M. M. 74歳 男性 タクシー運転手
 現病歴 昭和53年1月,健康診断にて早期胃癌および高血圧を指摘される.同年同月,当院に受診したが,患者は手術を拒否し,高血圧のみ経過を追った.55年10月頃より,食後に嘔気・嘔吐が出現し,消化器外来に受診し,同年11月に入院した.

プライマリ・ケア

上手な自己研修のあり方(2)

著者: 菊地博 ,   山手慎吾 ,   鈴木仁一 ,   新野稔

ページ範囲:P.2192 - P.2196

 新野(司会) 前回,鈴木先生のほうから自己研修のやり方についていろいろなご提案がございました.また自己研修を阻害する因子の分析もございました.そこで菊地先生,ご自分の診療の場において自己研修を阻害する因子として,鈴木先生のご指摘されたこと以外にありましたらおっしゃってください.それから,そういう阻害因子をどのように解決してきたのかについてもお話しください.たとえば,おびただしい情報をどのように整理してご自分のものにされているのか,などについてです.

Clinical topics

重症腸チフスの治療

著者: 中村毅志夫

ページ範囲:P.2190 - P.2191

 腸チフスとパラチフスは,わが国において年間400例以上発生しており,消化管感染症の中ではコレラについで重症であるにもかかわらず,医師を含めて一般に関心が低い.このように,依然として罹患者が多い理山は,海外よりの輸入感染症の増加と,健康保菌者からの伝染が多いためと考えられる.

オスラー博士の生涯・101

「25年後に」—臨床医学の教育と学習精神—50歳の時のオスラー博士の講演

著者: 日野原重明 ,   仁木久恵

ページ範囲:P.2158 - P.2166

 ウィリアム・オスラー博士がジョンス・ホプキンス大学の教授として,新しい医学教育を行っていた50歳の時,1899年9月にカナダの母校マギル大学の医学生,教職員のために特別講演を依頼された.母校の講師に任命されてから25年経ってのことである.
 この講演でオスラーは母校の発展を喜ぶとともに,さらに効果的な医学教育を期待し,よき臨床医を作るための教育方法の刷新と教育理念についてここで語っている.
 その内容は80有余年後の今日の日本の医学校への手きびしい批判でもあり,また本当の医師作りとは何かが示されているのである.これはまた教養の香り高いオスラーの名講演の一つでもある.

天地人

ヤング犯罪考

著者:

ページ範囲:P.2157 - P.2157

 最近若者や子供による犯罪が多発している.暴力的なものも多く,殺人まで犯しても,罪の意識もないのを見聞すると,肌が粟立つ思いである.こういう風潮の責任をどこに帰するかとなると,まことに複雑で難しく,結論は出ずじまいになることが多い.おそらく単一の原因ではないだろうし,年代の差で判っているようでもお互い疎通し難い点もあるのではあるまいか.
 ひとつには,初等,中等の教育者がきわめて無責任になったことを挙げる人もある.反対に日教組に代表される人々は,教育荒廃の責任は社会や政治にあると叫び,この論調をまた若い連中は徹底して真似をするという悪循環もある.

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「medicina」第18巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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