icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina18巻2号

1981年02月発行

雑誌目次

今月の主題 心不全の動向

理解のための10題

ページ範囲:P.262 - P.264

心臓のはたらき

心臓収縮のメカニズム

著者: 入内島十郎

ページ範囲:P.192 - P.193

 心筋と骨格筋の大きな差異のひとつは,活動電位の持続と収縮の持続の関係が異なることである.骨格筋では収縮が始まらないうちに活動電位が終了するが,心筋ではほとんど収縮の間中,活動電位が継続している.このため,心筋では収縮の加重が起こり得ない.加重が起こるためには,先行する刺激によって生じた機械的反応が続いているうちに,筋が再び刺激される必要があるが,先行する活動電位が持続しているため,心筋では収縮中に再びこれを刺激することができないのである.

心筋のエネルギー産生系

著者: 香川靖雄

ページ範囲:P.194 - P.195

心筋代謝の特色
 心筋は骨格筋と似て横紋筋であるが,持続的に活動しているので,代謝の上では呼吸筋などとともに典型的な赤筋に属する.これに対して,正常は休止状態にあって,必要に応じて急激な運動を行う四肢筋などの白筋は心筋と著しく異なっている.生体の活動はすべてATPの加水分解のエネルギーに依存しているといっても過言ではないが,そのATPを合成する代謝経路(エネルギー産生系)として赤筋では酸化的リン酸化,白筋では解糖系が優位にある.このために心筋では表1に示すように酸化的リン酸化の場であるミトコンドリアが多く,その反応で消費する酸素を供給するためにミオグロビン含量が高い.赤筋の赤色はミオグロビンやミトコンドリア内のチトクロームのヘムに由来する.これに対して解糖系の酵素含量は低く,乳酸脱水素酵素もその一成分であるが,心筋では白筋のそれと違いH型とよばれ,乳酸をピルビン酸にかえるのに有利なもので,血清アイソザイム診断にも広く用いられる.脱水素酵素のうちでも酸化的リン酸化の成分となっているコハク酸脱水素酵素は多い.
 酸化的リン酸化は,図のようにミトコンドリア内膜で電子伝達のエネルギーをHATPaseを介してATP合成に用いる反応で,酸素を要するきわめてATP産生効率の高い過程(グルコース1分子換算ATP 38分子)である.

心臓パフォーマンスの指標

著者: 細田瑳一

ページ範囲:P.196 - P.197

 心不全を診断しその重症度を評価する目的で,心機能の測定が行われる.ここでは,比較的一般的に用いられている評価の指標をとりあげ,計算法と心不全の際の変化について略述する.

心不全の病態

心原性ショック

著者: 勝山一貴世 ,   山本亨

ページ範囲:P.198 - P.199

 心原性ショック(cardiogenic shock)は心臓のポンプ作用の急激かつ著明な低下が原因となり発生する組織灌流の低下,すなわちショック状態であって,結果的には組織は酸素欠乏に陥る.心原性ショックの原因を病態生理面より分類すると表に示すとおりである.
 臨床上最も発生頻度の高い心原性ショックは心筋梗塞において起こるもので,冠状動脈の血流障害によって心筋が壊死状態になり,心筋収縮力が急激に低下しショック状態に陥る.

うっ血性心不全

著者: 安田寿一

ページ範囲:P.201 - P.203

 心不全とは,心臓のポンプ機能の低下によって心臓が末梢組織の代謝要求に見合うだけの十分な血液を拍出できなくなった病態をいう.また,うっ血性心不全は,全身の臓器組織を流れる血液のうっ滞をきたし,それに伴う臨床症状の発現する場合をいう.これらの病態の根本的な原因は心臓の機能不全にあるが,それにもかかわらず心臓機能不全の程度とうっ血症状とは必ずしも平行して現れない.その理由は,心機能の低下とうっ血症状の発現の間には種々の神経性・体液性因子が介在し,病態を修飾するからである(図).

急性右心不全

著者: 高畠豊

ページ範囲:P.204 - P.205

右心機能
 右心不全とは,右室の前負荷(静脈還流の増大)・後負荷(右室流出抵抗増大)の過重,右室心筋収縮能の低下あるいは右室充満の障害により,右室後方,すなわち全身静脈系のうっ血と臓器の需要に対して十分な心迫出量が維持しえなくなる状態である.しかし一方,有名なStarrの実験,すなわちイヌの右室全面を焼灼しても,心迫出量や血圧が維持され,心機能の低下がみられないという事実,あるいは先天性三尖弁閉鎖症に対する右房と肺動脈を吻合し,右室をbypassするFontan手術などから見ると,右室の生体における必須的役割については,なお不明の点も多い.
 臨床的・実験的にみると,左室と右室とでは負荷の増大に対する反応,すなわち心室容量の拡大,心室拡張終期圧の上昇,心室壁の肥厚など両者の間には基本的な相違はない.

心不全とカテコールアミン

著者: 山崎昇

ページ範囲:P.206 - P.208

 心筋内のノルアドレナリンは図1のごとく,血中タイロシンがとり込まれて,タイロシン,ドーパ,ドーパミンを経て合成されるが,この心筋内ノルアドレナリン合成系における律速酵素(ratelimiting enzyme)はtyrosine hydroxylase(THO)である.合成されたノルアドレナリンは,最終的には特異的な顆粒構造物である粒状小胞(granulated vesicle)へと移行し,ATPと安定したcomplexをなしており,約35倍に濃縮されている.
 粒状小胞の中に貯えられているノルアドレナリンは交感神経系の刺激により放出され,その一部は作動細胞のβ受容体に結合して活性を発現するが,その大部分は再び心筋の交感神経に再結合するか,循環血流へと失われていくか,catechol-O-methyltransferase(COMT)により分解され不活化すると考えられている.一方,貯蔵されたカテコールアミンは,神経細胞内に存在するmono-amine oxidase(MAO)により分解されると考えられている.

心不全と臓器相関

心不全と肝臓

著者: 戸嶋裕徳 ,   緒方康博

ページ範囲:P.210 - P.211

 心疾患が原因で肝障害を生じる場合,あるいは心臓と肝臓とが同時に障害される場合など,心機能障害と肝機能障害とは密接に関連している.とくにうっ血性心不全においては,黄疸をはじめ種種の肝機能障害が生じることは日常臨床においてしばしば経験することである.本稿では,うっ血性心不全における肝機能障害について述べる.

心不全と腎臓

著者: 浅野泰 ,   草野英二

ページ範囲:P.212 - P.213

 腎臓は左右あわせて約300g,体重の約0.5%と小さな臓器であるが,正常時の血流量は心拍出量の約20〜25%を受け,臓器重量あたりでは最も血流が豊富な臓器といえる.腎はこの豊富な血流を受けて体液の量的および質的な恒常性を維持する働きがあり,心臓の持つポンプ機能とともに脈管内を流れる体液の流量や成分を調節している.心不全は,この互いに影響しあう一方の障害であることから,当然他方の腎へ影響してくる.本稿では,以下に心不全発生因子としての腎の役割と心不全下の腎機能について解説する.

心不全時の冠循環

著者: 加藤和三 ,   相澤忠範

ページ範囲:P.215 - P.217

 冠循環障害すなわち冠不全の結果生じる心筋虚血が心不全の原因となることは,臨床的にも実験的にもよく知られている.その代表的な例はいうまでもなく心筋梗塞であるが,狭心症またはいわゆる無痛性虚血性心疾患で心不全をきたすことも稀でない.ところが逆に心不全時に冠循環がどのような影響をうけるかは,意外なことにあまりわかっていない.以前から不全心では心筋は酸素欠乏状態にあるといわれているものの,その成り立ちや意義は不明のまま放置されてきた.そこで本稿ではそのような心不全時の冠循環について考察してみることとするが,これまでの報告はきわめて少なく,しかも誌面の関係もあってその概略を記述するにとどめることを予めおことわりしておきたい.

心不全と不整脈

著者: 早川弘一 ,   高山守正

ページ範囲:P.218 - P.221

心不全と不整脈の関係
 心不全と不整脈の関係は,いろいろな面から取り上げることができるが,実地臨床の立場からみると,次の場合が問題となろう.
 1)洞リズムにおける心不全が何らかの原因で増悪した場合→冠循環の悪化,カテコールアミンの上昇など→不整脈の発生
 2)異常な頻脈ないし徐脈の発生→心不全の発生ないし悪化
 3)心不全の存在→薬剤の使用(ジギタリス,カテコールァミンなど)→不整脈発生
 4)不整脈の存在→抗不整脈剤の使用→心不全発生
 いずれの場合も,臨床的に重要な意義を有するが,ここでは2)の場合に焦点をあてて述べることにする.

心不全の診断

診察所見

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.222 - P.223

 心不全とは,心臓のポンプ作用が衰えて,全身の組織に十分に血液を配給できなくなった病態を表わす言葉である.そしてこれは次のように分類される.
 I.低送血量性心不全
  1)収縮不全:左心不全,右心不全
  2)肺循環系の障害,先天性心疾患による右心不全
  3)拡張不全
 II.高送血量性心不全
  重症貧血,甲状腺機能亢進症.動静脈瘻
 このように,心不全の成り立ちには種々のものがあるが,一応左心不全,右心不全に大別して,その際の診察所見の特色と,とり出し方について述べる.

胸部X線像

著者: 松山正也

ページ範囲:P.224 - P.226

 心不全とは全身の組織が必要とする酸素を供給し得なくなった心機能障害であり,過重な心室負担,心筋の疾患,虚血性心疾患などで認められる.主として右心側に原因を有する右心不全と,左心側の原因による左心不全とがあるが,多くは両者が合併する.

モニター法

著者: 鈴木嘉茂 ,   長谷川貢 ,   新谷博一

ページ範囲:P.227 - P.229

 心不全のモニター法は近年非常に進歩し,心不全の状態を血行動態面から的確に診断し,治療に対しても合理的な指針を与え,さらに治療効果もより精細に知ることができるようになった.以下,現在行われている心不全のモニター法について簡単に述べる.

心不全の治療

ジギタリス剤の使い方

著者: 佐藤友英

ページ範囲:P.231 - P.233

薬理作用と作用機序
 ジギタリスの心臓に対する薬理作用は,陽性変力作用positive inotropic effectと電気生理学的作用electrophysiologic actionに2大別される.本剤の徐脈化作用と副作用としてのジギタリス不整脈は主としてこの電気生理学的作用による.たとえば頻拍型心房細動にジギタリスを投与すると,房室結節の刺激伝導速度はジギタリスによる直接作用と迷走神経興奮を介する間接作用によって抑制され心室拍数が減少する.さらにジギタリスが過剰になると,心筋自動能亢進,不応期の短縮,興奮性の増大,刺激伝導速度の遅延などが複雑に組み合わさって多彩なジギタリス不整脈が出現する.中枢神経作用は,主にジギタリス中毒の心外性症状(消化器症状や神経症状)として現れる.
 本剤の作用機序は現在でも決定的な説はなく不明といわざるを得ない.陽性変力作用(心筋収縮力増強作用)の機序がNaポンプの抑制を介するか否かという点から論争がある.しかし終局的には,心筋細胞内の遊離Ca++を増加し収縮力を増大させることには異論がない.他方,電気生理学的作用の機序としては,ジギタリスのNa+KATPase抑制作用がより密接に関与している.このように陽性変力作用と電気生理学的作用の間の詳細な関係については,今後さらに解明されなければならない.

β促進剤

著者: 上羽康之 ,   伊藤芳久

ページ範囲:P.234 - P.235

 心不全発生時,交感神経活動の亢進をきたすことは,カテコールアミンの血中濃度,尿中排泄量の増大1)より明らかであり,それが心機能の賦活に有利に作用することは,交感神経作用抑制剤であるレセルピン,β遮断剤を用いた場合に,臨床像の増悪をみることより支持される2).この交感神経作用物質であるカテコールアミンの心脈管系に対する作用効果は,表1のようにα,βの2種類の受容体の刺激効果による.また効果発現の機序については,心筋細胞にあっては,細胞膜のβ受容体に作用し,adenylate cyclase活性を賦活してATPよりcyclic AMPの合成をたかめ,その結果,筋小胞体などからのCaの遊出,利用を促進するとともに,細胞膜におけるCaの透過性をたかめ収縮力の増大が得られる.
 それ故,β促進剤を用いた場合には,強力な心収縮力の増強と末梢血管の拡張が惹起されるため,心不全の治療には好適と考えられる.しかし現実には,その使用には種々の制限が存在する.表2はβ促進剤の代表的薬剤であるイソプロテレノールの,心脈管系に対する作用効果を示したものである.すなわち心収縮力の増強のほか,心拍数の増加による心筋酸素消費量の増大,心自動能の亢進による不整脈の発生は,心不全の治療には不利な点と考えられる.

ドーパミン

著者: 藤田達士

ページ範囲:P.236 - P.237

ホルモンとしてのドーパミン
 1963年Goldbergらがノルアドレナリンの前駆物質であるドーパミンを4例の「うっ血性」心不全患者に投与したところ,Na利尿を得て,治療効果があることを報じた.今日では「うっ血性」心不全の治療に不可欠の薬物となっている.
 出血などで血圧が下降すると副腎静脈中に多量のノルアドレナリン,エピネフリンとともにドーパミンが放出される.ノルアドレナリンの前駆物質であることよりも,むしろ積極的にβ刺激作用を発揮し,腎血流を保ち,腸間膜血流を増して肝や膵臓および腸管からのショック物質洩出を防ぐという生体防御反応を荷っている.

利尿薬

著者: 黒岩昭夫

ページ範囲:P.238 - P.239

種類と作用
 直接的に腎に作用して尿量を増加せしめる利尿薬には表に示すようなものがある.サィアザイド系薬剤,ループ利尿薬,炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド),抗アルドステロン薬が主なものである.そのほかに水銀利尿薬があるが,現在は本邦では用いられていない.これらの薬剤は尿細管の種々の部に作用して,Naの再吸収を抑制し,水分の再吸収を抑制して利尿効果を現す.アセタゾラミドはアルカローシスのときに効果が強く,利尿の結果アシドーシスになる.利尿効果は,サイアザイドは中等度であり,ループ利尿薬は最も強力ある.アセタゾラミド,抗アルドステロン薬の利尿効果は弱い.
 サイアザイド利尿薬は非常に多く,その代表的なものはチクロペンサイアザイド(ナビドレックス 0.25mg錠),ハイドロクロロサイアザイド(ダイクロトライド 25mg錠),メチクロサイアザイド(エンデュロン 2.5mg錠),トリクロメサイアザイド(フルイトラン 2mg錠)などである.ループ利尿薬とされるものはブメタミド(ルネトロン 1mg錠,0.5mg注),エタクリン酸(エデクリール 50mg錠),フロセミド(ラシックス 40mg錠,20mg注)である.炭酸脱水酵素阻害薬はアセタゾラミド(ダイアモックス 250mg錠)がある.また,抗アルドステロン薬はスピロノラクトン(アルダクトンA 25mg錠),トリアムテレン(トリテレン 50mgカプセル)がある.

末梢血管拡張薬

著者: 木全心一

ページ範囲:P.240 - P.243

主な効果
 末梢血管拡張薬を用いるときには,①末梢血管抵抗を減らし,心室の仕事量を減らしながら心拍出量を増加させること,②肺動脈圧を下げて左心不全症状を改善することを主な目的として利用している.この2つの効果を期待するところからいって,心室収縮力のかなり落ちた重症心不全がその対象となる.
 後負荷軽減による心拍出量の増加 心不全の基本的な病態は,心室の収縮性の低下による心拍出量の減少と,末梢側への血液のうっ滞である.血管拡張薬は,心拍出量を規定している主な4つの因子のうち,心室の収縮性と心拍数という心筋酸素消費量を増加させる因子を変えずに,末梢血管を拡張して後負荷を減らし心拍出量を増加させ,静脈を拡張し静脈還流を減らし,肺動脈圧を下げ,前負荷を減少させることを目的としている.

補助循環の現況

著者: 古田昭一

ページ範囲:P.246 - P.249

 日常行っている心臓手術のうち,開心術では,一時的に心臓の動きを止め,内腔をからにする必要がある.その間,心肺機能を代行するのが,人工心肺使用による体外循環法であり,心・肺機能が一時的に不全に陥った場合に,機械的に補助するのが補助循環である.同じ装置を同じ手段で用いても,目的が異なれば,補助循環と呼ばれることもあり,また人工心肺装置の使用による体外循環といわれることもある.
 人工心肺の開発はGibbonらにより1937年頃から行われ,臨床的成功は1953年であった.補助循環,とくに人工心臓の研究は,米国では1957年阿久津,Kolffらにより開始されている.しかし,臨床実施は1967年Kantrowitzらによりintra-aortic balloon pumping(IABP),1970年代になり膜型肺による呼吸不全の治療が開始された(ECMO).さらに,米国のNIHが,1975年より左心補助心臓を心臓手術後心機能の著しく低下した患者に限り使用することを許可したために,欧米を中心に補助心臓の臨床的使用が増加している(現在では100例以上に達しているものと推定される).

座談会

心不全にどう対処するか

著者: 宮下英夫 ,   関口守衛 ,   新井達太 ,   太田怜

ページ範囲:P.251 - P.261

 最近では,心不全の第1選択薬は利尿剤だという説が出たり,ジギタリスの血中濃度の測定などの細かい配慮,さらには血管拡張剤,補助循環法など新しいアプローチも試みられて,心不全の治療は大きな変貌をとげつつある.ここでは,治療法を中心に心不全の診療の現況を具体的にお話いただいた.

カラーグラフ 臨床医のための内視鏡—パンエンドスコープ

嚥下痛・嚥下困難を訴えた例を検査して発見された病変

著者: 土谷春仁 ,   東京消化器病研究会

ページ範囲:P.266 - P.267

食道異物
①誤ってPTP包装のまま錠剤を服用し,食道のつかえ感と嚥下痛を訴え約10時間後に来院した(中央区江戸橋内科センター診療所)②魚骨.食後咽頭痛あり,翌日より嚥下時の胸骨裏面痛出現.発症3日後に来院(葛飾区佐伯医院)

図解病態のしくみ 消化器疾患・14

大腸憩室症(1)—病態生理

著者: 松枝啓

ページ範囲:P.269 - P.273

 大腸憩室症(Diverticular Disease of the Colon)は20世紀の疾患ともいわれ,欧米ではとくに近年その頻度が増加しており,最近の調査では60歳以上の約1/3に大腸憩室症が存在すると報告されている.この主な原因としては,後述するように食物の調理方法の変化により線維の少ない低残渣食を摂取するためと考えられている.
 一方,大腸憩室症は人種や地域により発生頻度や発生部位により著しい差があると考えられてきた.すなわち,欧米では左側型憩室,とくにS状結腸憩室が多いのに対し,わが国では反対に右側憩室が多く左側憩室は少ないとされてきた.しかし,欧米に定住した日本人にも年とともに左側憩室の頻度が増加するという事実があり,また最近の本邦の報告でも,高年齢者では左側結腸憩室のほうが右側結腸憩室よりも高頻度であり,欧米型と同様の内輪筋の肥厚を特徴とする筋層異常が認められたと報告されている.とくに,わが国においても食生活の欧米化が起こり低残渣食を摂取することが習慣化した現在,欧米型の左側結腸憩室症が高頻度に起こる可能性は大であり,さらに,この左側型は一名「左側の虫垂炎」といわれるほど頻回に憩室炎を起こし臨床上しばしば問題になるため,ここでは主に左側型大腸憩室症についてその病態生理を述べ,それに基づく合理的治療法について検討したい.

図解病態のしくみ 循環器疾患・2

高血圧発症のメカニズム

著者: 須永俊明

ページ範囲:P.275 - P.280

まえがき
 前回は,血圧規定因子,調節因子および実際に血圧測定時に考えるべき因子に分けて述べた.今回は,簡単に高血圧発症のメカニズムについて,その病態生理を中心に解説する.それには,①神経因子の関与(神経性調節性因子),②心-血管因子の関与(血行力学的要素),③内分泌性因子の関与,④腎性因子の関与(腎-昇圧系,腎降圧系および腎の体液量調節メカニズムなど)に分けて考える.

臨床薬理学 薬物療法の考え方・2

投与量のきめ方(2)

著者: 中野重行

ページ範囲:P.281 - P.287

 薬物の同一用量を投与した場合の血中薬物濃度には,一般に考えられている以上に大きな個人差が認められる.たとえば,phenytoin 1日300mgを処方された外来患者100名の血漿中phenytoin濃度の個人差は,図1に示すように大きなバラツキを示す1).一般に入院患者に比較して,外来患者の血中薬物濃度のバラツキが大きい.これは,薬物の内服が処方どおりに守られない可能性が,外来患者により大きいためと考えられる.外来患者であることによる内服の不規則性を差し引いて考えても,この血漿中phenytoin濃度の個人差は大きいといえよう.抗てんかん薬としてのphenytoinの有効性は,血漿中濃度が10〜20μg/mlのときに高い2)ことを考えると,このバラツキの臨床における意味は大きい.ほかの多くの薬物の投与量と血中濃度の間にも,薬物動態の差に由来した大きな個人差が存在する.
 抗不整脈薬であるprocainamideの臨床効果と血漿中procainamide濃度との関連性を,142名の患者を対象にして調べた結果が図2である3).血漿中procainamide濃度が2μg/ml以下では,有効性は10%にしかすぎない.血中濃度の上昇に伴って有効性は高まり,4.1〜6.0μg/mlの領域ではほぼ90%有効である.6.1〜8.0μg/mlになると90%以上有効であるが,同時に軽いながらも副作用も出現しはじめる.

異常値の出るメカニズム・35

尿糖

著者: 河合忠

ページ範囲:P.289 - P.291

 尿糖といえば,尿中に出現する糖を総称しているが,とくに指示されていない限りは尿中のグルコースを意味する.したがって,グルコースについて述べるが,最後にグルコース以外の糖についても簡単にふれる.

臨床講座=癌化学療法

癌化学療法の理論的背景

著者: 藤本修一 ,   小川一誠

ページ範囲:P.293 - P.297

はじめに
 前稿では抗癌剤の生い立ちについて記述したが,本稿では,そのようにして見いだされた抗癌剤が,どのような作用機作を持ち,その性質が癌化学療法において,どのように利用されているか,換言すれば,癌化学療法の理論的背景について記述したい.しかし,生化学,細胞力学(cytokinetics),薬理学,毒性学などの多岐にわたる学問から成り立つ癌化学療法を詳述するには,紙数が限られているため本報では,それらの概略に触れるにとどめたい.抗癌剤の作用機作について記述するにはcytokineticsに関しての理解が重要と思われるため,まずこのことから記述する.

神経放射線学

脳腫瘍(4)—後頭蓋窩腫瘍

著者: 吉川宏起 ,   前原忠行

ページ範囲:P.309 - P.316

 後頭蓋窩腫瘍を実質性(intra-axial)と実質外性(extra-axial)に大別し,それぞれの腫瘍における神経放射線学的診断法について述べる.診断を進めるに際して,腫瘍の組織型による発生頻度,発生部位,好発年齢を知ることは重要である.大略を簡単に述べると,後頭蓋窩腫瘍は成人では実質外性腫瘍が多く,小児では実質性腫瘍が多い.組織学的分類を行うと,実質性腫瘍には神経膠腫(星細胞腫,髄芽細胞腫,上衣細胞腫)が多く,実質外性腫瘍には神経鞘腫と髄膜腫の頻度が高い,これらの腫瘍の組織型とその発生母地にはある程度の相関性があり,これを模式的に表わすと表1のようになる.したがって多くの場合,種々の神経放射線検査を施行し,腫瘍の正確な局在診断が行われれば,鑑別すべき腫瘍の数は自然に絞られてくる.
 なお本稿では,転移性腫瘍については省略している.CT像は単純撮影に合わせるため頭部を下方から見ている像にしてある.また各検査別に説明を加えたため,多少重複している箇所があることを最初に断っておく.

腹部単純写真の読み方

石灰化像

著者: 平松慶博 ,   甲田英一

ページ範囲:P.317 - P.325

 平松 今回は,石灰化陰影について解説いただきましょう.

画像診断と臨床

肝疾患(2)

著者: 秋庭真理子 ,   多田信平 ,   川上憲司

ページ範囲:P.327 - P.334

症例1
患者 T. A. 55歳 男性
主訴 食思不振,腹痛,体重減少

連載 演習

目でみるトレーニング 45

ページ範囲:P.335 - P.341

外来診療・ここが聞きたい

B型肝炎ウイルス無症候性保持者のe抗原陽性例

著者: 鈴木宏 ,   西崎統

ページ範囲:P.344 - P.347

症例
 患者 A.N.26歳 女性(独身),会社事務
 現病歴 生来健康であった.検診でHBV carrierであることが発見され,e抗原も陽性であった.

プライマリ・ケア

初期診断・初期治療の諸問題—(2)開業医の使命

著者: 阿部正和 ,   川久保亮 ,   永井友二郎

ページ範囲:P.350 - P.355

 永井(司会) 前回は主に医師としてのあるべき姿というものについてお話しいただきました.今回は,もう一歩すすんで,第一線医療の担い手である開業医の初期診断,初期治療にあたっての具体的な心構えから,開業医の医療全体の中での使命,評価のしかた,今後の課題などを,外来での診断・治療のプロセスに沿って考えてみたいと思います.
 まず心構えですが,一番大切なことは何でしょうか.

Clinical topics

慢性骨髄性白血病の急性転化とその治療

著者: 高久史麿

ページ範囲:P.298 - P.299

 慢性骨髄性白血病(CML)急性転化例の予後は従来きわめて不良であるとされ,CML症例の死亡の主要な原因が急性転化にあることは現在でも変わりがない.しかし最近になって,CMLおよびその急性転化に関する従来の考え方に大きな変化がみられ,それに伴って急性転化例に対する治療に際しても以前とは異なった方法が試みられるようになった.

他科のトピックス

ステロイド外皮用剤の功罪

著者: 籏野倫

ページ範囲:P.348 - P.349

 よく知られているように,副腎皮質ステロイド(以下ステロイドと略)は強力な抗炎症,抗アレルギー作用をもっており,皮膚科方面では外用として湿疹,皮膚炎群をはじめ炎症性皮膚疾患に対して優れた効果を発揮している.しかしステロイドのもつ生物学的な活性が増強されればされるほど,皮膚組織に及ぼす影響も著しくなって,遂には二次的病変がひき起こされるようになる.もっともステロイドの有する薬理作用によるものばかりでなく,適応症選択の誤まり,あるいは乱用によるもの,さらにその基剤の影響も無視できない例もあることはいうまでもない.
 ステロイドは皮膚疾患を治療するために全身的投与も行わなければならぬことは他科疾患に対する場合と同様であるが,この場合,卓効を示す一方では,周知のようなさまざまな副作用を呈することもさけて通ることはできない事実である.

オスラー博士の生涯・91

定年の時期The Fixed Period(2)—ジョンス・ホプキンス大学のアメリカ医学への寄与

著者: 日野原重明 ,   仁木久恵

ページ範囲:P.302 - P.307

 ウィリアム・オスラー博士は,ジョンス・ホプキンス大学医学部の創立の立て役者として病理のウェルチ教授その他と大活躍をしたが,16年の内科教授,ジョンス・ホプキンス病院の診療部長の職を辞して英国のオックスフォードに隠退するという宣言をした.そして1905年2月22日に告別講演を行った.
 その前半は本誌の前号に紹介したが,彼は,60歳代の教官は大学にプラスするより弊害を与えるほうが多いという大胆な発言を,医学部の同僚の前で公然と行ったことは,講演後,大学内部だけでなく,アメリカ医学界全体に大きなセンセーションを投げかけた.

天地人

仲人のつぶやき

著者:

ページ範囲:P.301 - P.301

 ごく最近,ひさしぶりに仲人をつとめた.それも,結婚式当日だけの"式仲人"でなく,見合から結納,そして挙式まで,媒酌人としてのフルコースをつとめた.
 最初の出合いから当人同志のフィーリングが合って,話はとんとん拍子に進んだ.近頃にしては意外なほど古風な両家のしきたりにいささか気骨が折れたが,結婚式はまったく当世風そのものであった.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?