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雑誌目次

雑誌文献

medicina18巻5号

1981年05月発行

雑誌目次

今月の主題 出血とその対策

理解のための10題

ページ範囲:P.821 - P.824

吐血・下血

原因疾患の臨床統計

著者: 外山久太郎

ページ範囲:P.750 - P.751

 消化管出血には,顕出血およびオルトトルイジン法やグアヤック法など化学反応によってのみ認められる潜出血がある.前者は,吐血あるいは下血として,日常の臨床でしばしば遭遇するきわめて重要な症状であり,その臨床統計も国内外で数多くみられるが,各研究施設の特殊性,人種差,対象例の条件の相違,また診断技術や機器および治療の進歩,発達などにより,各々の統計には若干の相違が生じてくる.
 本稿の集計は,一施設において吐血・下血を主訴に入院した患者および入院中に吐血・下血をきたした小児系を除く全科入院患者を対象にまとめたものであるが,入院患者67,747人中,消化管出血例は1,257人(1.9%)で,その内訳は上部消化管出血840人,下部消化管出血396人,その他21人であった.本稿では,上部および下部消化管出血例の疾患別頻度を他施設の集計と比較しながら,その特徴について述べる.

出血量と重症度

著者: 川井啓市 ,   梶原譲 ,   藤本荘太郎

ページ範囲:P.752 - P.753

 消化管出血には吐血・下血として認められる顕出血と潜血反応でのみ確認される潜出血とがある.とくに前者の場合には,外科的対応を含めた緊急処置の適・不適の決定を的確に下せるか否かが患者の生命を左右するので,迅速な病態の把握とともに,可能な限り正確に重症度を判定し,緊急内視鏡検査や血管造影を含めたX線検査により出血源の探索をする必要がある.
 消化管出血の場合,重篤な全身消耗性疾患の合併がない限り,患者の重症度は出血量に比例すると考えてさしつかえない.したがってきめ細かな問診,臨床症状,血液生化学的検査成績などの情報を総合的に判断し,正確な全身状態の把握が必要とされる.出血に対する生体の反応は種々の要素が関係するために各人各様であり,何mlの出血があればこういう症状が見られ,血液検査ではHt値が何%となるなどの具体的な説明をするのは不可能といえる.しかしながら,注意深い観察により重症度の判定とともに大ざっぱな出血量の推定が可能であると思われるので,その基準となる考え方を述べてみたい.

緊急内視鏡診断

著者: 竹本忠良

ページ範囲:P.754 - P.755

歴史
 最近では,上部消化管出血例とくに大量出血例に対する緊急内視鏡検査(urgent endoscopy,emergency endoscopy,Notfallendoskopie)の重要性が,ひろく認識されるようになってきた.大変喜ばしい傾向である.
 もともと,上部消化管出血例に内視鏡を含めた検査を積極的に行うことが,出血源の確実な早期診断にきわめて有用であることを,大変熱心に唱えたのはアメリカのPalmer ED(1952)であった.彼の提唱したvigorous diagnostic approach(VDA)という言葉は,今日でも力強く生きている.当時は,現在のようにファイバースコープが出現していなかったので,PalmerとかKatzのような内視鏡専門家が使ったスコープは,硬式の食道鏡および硬性,軟性の胃鏡であった.そのため,十二指腸の出血病変を内視鏡で直接確認することができなかったので,PalmerのVDAではX線検査の併用を必要条件とした.Palmerの熱心な研究は,1961年にDiagnosis of UpPerGastrointestina1 Hemorrhage(Thomas)にまとめられたが,この本は1970年Upper GastrointestinalHemorrhage(Thomas)と大改訂された.

急性大量出血への対応—緊急措置と治療法の選択

著者: 松枝啓

ページ範囲:P.756 - P.759

 急性大量出血は,その発現がしばしば急激で,循環動態を主とした全身状態の急速な悪化を起こすことが多く,その出血による死亡率も5〜50%以上と高率である.そしてその高死亡率の最大の原因は,消化管出血の際,病像を速やかに緊急の問題として把握しなかったり,また出血源を誤診したため適切な治療が行われなかったことに起因している.したがって,急性大量出血への対応としては,図に示したような系統的な病隊へのアプローチ,そしてまた主治医,消化器専門医,外科医,放射線科医などを含めた初期からの緊密なチームアプローチが必要である.

血管造影による診断と治療

著者: 草野正一

ページ範囲:P.760 - P.761

 消化器疾患の診断法として血管造影がまだ十分に臨床応用されていなかった約20年前から,血管造影で消化管出血を診断する試みが始められている.当時は血管造影が消化管出血を造影剤の血管外漏出像としてX線学的に直接証明できる唯一の診断法であったからであろう.その後,血管造影の手技は消化管出血の治療法として発達したために,緊急内視鏡検査が消化管出血の診断に普及した現在でも,消化管出血の管理に重要な役割を果たしている.しかしながら,近年経内視鏡的止血法も急速に発展しつつあり,血管造影を,今後,消化管出血の診断・治療にいかに対応させてゆくべきかは,日常診療の中で重要な課題となりつつある.
 そこで,本稿では消化管出血に対する血管造影の適応,手技,問題点を整理しながら,現時点における血管造影の意義について解説したい.

食道静脈瘤出血

著者: 真玉寿美生

ページ範囲:P.762 - P.763

 食道静脈瘤破裂への待期手術は良好な結果を得ているが,一方,緊急手術の成績が不良なことは周知の事実である.消化器内科・外科・放射線科の医師は,何とかして緊急手術を回避し,患者の予後を改善させようとそのための方策を模索中である.本稿では,肝硬変症に伴う食道静脈瘤破裂の非手術的特殊治療を中心に述べる.

急性出血性胃(十二指腸)粘膜病変

著者: 鎌田武信

ページ範囲:P.765 - P.767

概念と特徴
 急性胃粘膜病変(acute gastric mucosal lesions,AGML)とは,「急性に起こる胃の粘膜出血,びらんおよび潰瘍性病変で,多くの場合その誘因が明らかなもの」と筆者は考えている.
 誘因としては中枢神経障害(頭部外傷,脳血管障害,脳腫瘍など,Cushing's ulcerとよばれる),熱傷(Curling's ulcer),重症病態(大手術後,敗血症,ショックなど),精神的ストレスなどがあり,組織学的には点状出血,びらんなどが多いが,一般に"ストレス潰瘍"とよばれている.これ以外に外来物質(アスピリン,副腎皮質ホルモン剤,非ステロイド系消炎剤などの薬剤,アルコールなど)によって惹起されるものもある.

経内視鏡的止血法—電気凝固法

著者: 赤坂裕三

ページ範囲:P.768 - P.769

 吐血・下血を認めた患者にはただちに内視鏡検査を行い,出血源を発見すればその後の治療を円滑にすすめることができるとの考えは,現在広く臨床の場に定着している.そのうえ,緊急内視鏡検査時に内視鏡鉗子孔を通して直視下に止血操作を行い,診断面のみならず治療面にも積極的な効果を期待しようとする試みもなされてきた.たとえば高周波電気凝固法,止血クリップ法,レーザー凝固法,薬剤の局注・撤布法,cryosurgery,機械的圧迫法などである.
 本稿では,上部消化管出血に対する高周波電気凝固法を用いた経内視鏡的止血(内視鏡的電気凝固止血法endoscopic electro-coagulation:EEC)について筆者らの経験を中心に述べる.

経内視鏡的止血法—高張Na-Epinephrine液局注法

著者: 平尾雅紀

ページ範囲:P.770 - P.771

 救急疾患のうちで,吐血・下血を主訴とする上部消化管出血例の占める比重はきわめて高い.日常診療でこれらに対する診断・治療上の考え方や技術を要求されることが多いものである.この10数年間の内視鏡技術の進歩発展に伴い,上部消化管出血に対する考え方も一変しつつある.緊急内視鏡診断にとどまらず,大きく内視鏡的止血という治療の分野にその主体が及んでいる.
 今回は,筆者らが開発した高張Na-Epinephrine液(HS-E)局注療法について述べたい.

経内視鏡的止血法—レーザー止血法

著者: 水島和雄 ,   並木正義

ページ範囲:P.772 - P.773

レーザーとその止血作用
 レーザー(LASER)とは,Light Amplificationby Stimulated Emission of Radiationの略で,輻射光の誘導放出による光の増幅という意味である.1960年,米国のMaimanが最初のレーザー(ルビーレーザー)の発振に成功し,その後,各方面で急速な発展をとげた.レーザー光は普通の光と違い,①単色性(光線のスペクトル幅が狭く,波長が揃っている),②可干渉性(空間的・時間的コヒーレンスがよい),③平行性(光線の広がりが少なく,波の位相も揃っている平行性のある光),④高輝度性(単位面積あたりの光線のエネルギーが高い)などの特性を有している.その作用として,熱作用,光作用,圧力作用,電磁作用など種々のものがあるが,臨床的に用いられているのは主として熱作用である.
 レーザーには種々のものがあるが,医学に利用されているのは,気体レーザーである炭酸ガスレーザー,アルゴンレーザーおよび固体レーザーとしてのYAGレーザーである.このうち内視鏡的止血に用いられているのは,アルゴンレーザーとYAGレーザーの2種類であり,これらのレーザー光を出血部位に照射し,その熱凝固作用により止血させようとするものである.

下部消化管出血病変と診断

著者: 田島強 ,   喜田剛

ページ範囲:P.774 - P.775

 下部消化管とは,一般的にはTreitz靱帯より肛側を称する.ここからの出血の頻度は報告者により大きく異なっているが,本邦では全消化管出血の10〜40%といわれており,その大部分は大腸疾患からの出血である.
 本稿では下部消化管出血の特徴とその診断について述べ,ついで出血をきたす主な疾患について略述する.

便潜血反応の臨床的意義

著者: 福井光治郎

ページ範囲:P.777 - P.779

検査法
 便潜血反応は,消化器疾患に対するルチン検査法のひとつとして現在広く使用されている.歴史的には,1864年Van Deenがはじめてグアヤック試験を発表し(Ross 1964),それ以来実に多くの基礎的・臨床的研究が行われている.便潜血証明法には,顕微鏡的証明法,吸収線証明法,血清学的証明法などがあるが,これらは手技が複雑面倒で臨床上使用されることはない.一般的には,簡便で敏感に反応する化学的証明法が広く普及している.
 この検査法の原理は図1に示すが,血色素中に存在するペルオキシダーゼが添加した過酸化水素を分解し〔O〕を発生させる.この〔O〕は呈色物質(フェノールフタレイン,オルトトリジン,ベンチジン,グアヤック,ピラミドンなど)を酸化させ色調変化をきたす.この変化により判定するものである.

座談会

消化管出血の臨床—新しい止血法を中心に

著者: 平塚秀雄 ,   木村邦夫 ,   平尾雅紀 ,   比企能樹 ,   岡部治彌

ページ範囲:P.781 - P.789

 上部消化管出血に対する非観血的止血法が,隣接他科や工学の協力のもとに,近年相次いで登場してきた.ここではそのうち,高周波電流による焼灼法,高張Na-Epinephrine液局注法,レーザー法,さらに食道静脈瘤出血に対する血管造影塞栓法を取り上げ,それぞれの療法の実際,適応と限界を,その考案・開拓者にお話しいただいた.

血痰・喀血

血痰・喀血のプライマリ・ケア

著者: 光永慶吉 ,   橋本憲一

ページ範囲:P.790 - P.791

 血痰・喀血は,他臓器の出血と同じく身体の危機,生命の不安感を覚えしめる重要かつポピュラーな徴候である.下気道からの出血であるから,多量の喀血は常に窒息死が恐怖の的となる.しかし,経験的にこうした事態は喀血直後に起こり,患者の来院時や,呼ばれてベッドサイドにかけつけた際には,既にその危険は遠のいている.したがって,血痰・喀血のプライマリ・ケアにあたっては,患者や家族に徒らな不安感を抱かせることのないよう注意しつつ,適宜な応急処置をとるかたわら,手早く的確な系統的診察をして,出血源が主訴のように本当に下気道由来か確かめ,引き続き血痰・喀血の多種多彩な原因疾患のおおよその鑑別を行い,予後を考え合せて,専門医のconsultation,2次以降の高次医療機関への依頼をも配慮せねばならない.

診断のすすめ方

著者: 副島林造 ,   原宏紀

ページ範囲:P.793 - P.795

 血痰・喀血を主訴として受診する患者は,強い不安感を抱いていることが多く,また少量の血痰でも肺癌の初期症状として,早期肺癌発見の重要な手がかりを与えてくれる場合がある.血痰・喀血患者の診療に際して,出血に対する救急処置はもちろんであるが,出血の原因検索に対しても慎重かつ迅速でなければならない.

肺高血圧と血痰

著者: 前田如矢

ページ範囲:P.796 - P.797

 肺高血圧とは,肺動脈圧が正常範囲以上に高くなった状態をいうが,発生機序よりみると,原因疾患が明らかな続発性肺高血圧と,まったく原因不明の原発性肺高血圧とがある.続発性高血圧は,基礎疾患によって起こった病態異常であり,いわば肺高血圧状態とよぶべきものである.基礎疾患としては,肺疾患と心疾患とがある.
 肺高血圧状態では,臨床症候のひとつとして,血痰(ないし喀血)を訴えることがある.その頻度や程度は,原因および重症度などにより種々である.

肺出血

著者: 谷合哲

ページ範囲:P.798 - P.799

 肺内に起こる出血は肺出血といわれ,気管を経て主として口から喀出される.通常これは血痰あるいは喀血と呼ばれ,肺内に起こった病変の徴候として重要である.
 肺内病変から出血にいたる機序や程度の違いは出血の性状に微妙な相違を生じ,疾患の診断・対処のしかたに重要な示唆を与えてくれる.本稿では,肺出血発生の機序・病態生理と,それに基づく対処のしかたについて述べる.ただし,出血性素因による肺出血は割愛する.

血尿 カラーグラフ

血尿の鑑別検査

著者: 林康之

ページ範囲:P.800 - P.801

赤色尿と血尿
 患者のいう血尿は赤色調を帯びた尿であって血尿と確認されたわけではない.血尿の定義は至って簡単で,血液が病的に多量混入した尿ということになろう.多量とはどれくらいかが顕微鏡的血尿で論議の分かれるところであるが,肉眼的に血尿を疑わせるほど赤色調を示すのは尿1ml当たり50〜100万の赤血球濃度以上である.血液は,500万/μlであるから,約2,000倍の希釈が血尿,赤色尿と肉眼的に判定できる限度ということになる.
 一方,赤血球以外の物質の混入で赤色調をきたす場合をあげると,血色素,ヘマチン,メトヘモグロビン,ポルフィリン体,食用色素,色素団形成薬剤の投与排出などである.薬剤のうちには,PSP,BSP,ピリジン色素のように鮮紅色を呈するものから,ピリン剤,サントニン,ラキサトール,クエン酸鉄ソルビトールのように橙色〜橙赤色色素団(錯塩の生成)を形成するものもある.またピリン剤その他の薬物で副作用として血尿を示すもの,血色素尿,ポルフィリン尿をきたす場合があるが,本稿は血尿(赤色尿)の鑑別法を示す目的なので血尿の原因,臨床には触れない.

血尿のプライマリ・ケア

著者: 岩渕勉

ページ範囲:P.802 - P.803

 血尿は,きわめて重大な疾患を含んでいるのでゆるがせにできない症状である.
 血尿を自覚して「尿が赤い」,「血尿がでる」という訴えで来院する場合と,体調の変化,たとえば全身倦怠とか腰痛,発熱などの症状で来院し,尿の検査をして始めて潜血尿を知る場合とに分けられよう.すなわち,肉眼的血尿と顕微鏡的血尿の区別をつけることからプライマリ・ケアが始まるわけである.

内科的血尿

著者: 酒井紀

ページ範囲:P.804 - P.805

 血尿は,臨床的には肉眼的血尿と顕微鏡的血尿に区別して考えられ,前者には泌尿器科的血尿が,後者には内科的血尿が多いといわれている.しかし,肉眼的血尿にも内科的な疾患が含まれている.たとえば急性糸球体腎炎では血尿は重要な臨床徴候のひとつであり,古くからtriasとして肉眼的血尿を重視している.また,上気道感染の際に突然血尿を伴ってくる,いわゆる良性反復性血尿,または特発性血尿とよばれているものなどがある.
 以下,内科的血尿に対する初期診断のすすめ方,原因疾患となるものの病態およびその対策について簡単に述べる.

小児科的血尿

著者: 山下文雄 ,   松尾宏

ページ範囲:P.806 - P.807

子どもの血尿
 溶連菌による急性腎炎とアデノウイルスによる出血性膀胱炎が,肉眼的血尿をきたす代表である.小児に多い紫斑病腎炎も紫斑病(Schönlein-Henoch症候群)の50%に血尿を伴い,遊走腎,水腎症のような奇形,稀に結石も成因となる.腎腫瘍(ウイルムス)も10〜20%に血尿を伴うが,特徴的症状ではない.運動選手でトレーニングのため血尿をみることがある.以前小児では慢性腎炎はきわめて少ないとされたが,最近,学校検尿や偶然の検尿で発見される多数の"無自覚性血尿"は,広義の慢性腎炎,またはその予備軍である可能性が強い.
 自験303例を臨床的に分類すると(表1),「血尿のみ」,「血尿+蛋白尿」と症候(問題)名の記載にとどめざるをえないものが大部分をしめている.

腎出血

著者: 吉田修 ,   野々村光生

ページ範囲:P.809 - P.811

 血尿は日常の診療でよくみられる症状のひとつであるが,それが肉眼的血尿であれ,顕微鏡的血尿であれ,出血部位と原因を把握することがまず大切である.本稿では,腎からの血尿であることが判明した場合の診断のすすめ方と治療について,泌尿器科の立場から簡単に解説する.

下部尿路出血

著者: 小川秀彌

ページ範囲:P.812 - P.813

 上部尿路とは腎および尿管,下部尿路とは膀胱および尿道のことであるが,これら尿路からの出血は一般に血尿ということで認識されている.
 一口に血尿といっても肉眼的血尿から顕微鏡的血尿,純血尿と血膿尿,あるいは症候性血尿や無症候性血尿などさまざまな病態を呈し,しかもやっかいなことに,同一疾患でも種々のかたちの血尿をきたすことがある.たとえば膀胱癌における血尿は,肉眼的血尿の場合も顕微鏡的血尿の場合もあり得るし,感染を伴えば血膿尿にも症候性血尿にもなり得るといった複雑性を有している.また,泌尿器科疾患のうちで血尿をきたし得るものは多岐に渡り,逆に血尿をきたさない疾患をさがすことのほうがむずかしいほどである.

境界領域

鼻出血のプライマリ・ケア

著者: 小林武夫 ,   千國峰子 ,   高橋文夫

ページ範囲:P.814 - P.816

原因と病態
 鼻出血は救急外来では頻度の多い疾患である.表のように大別する.一番多いものは特発性鼻出血であるが,研究が進むにつれ,少しずつ病態が解明されつつある.
 特発性鼻出血のうちキーゼルバッハ部位の怒張した静脈より出血するものは,全鼻出血の約90%を占める.キーゼルバッハ部位とは鼻中隔軟骨部の前下部で,ここには血管叢が多いうえに粘膜下組織に乏しい.鼻孔から指を入れると爪で外傷をうけやすい部である.英米医学ではLittle's areaという.なお,この部は,指でいじると微細な血管が浮き出して,すぐに出血する.筆者(高橋)は擦過血管と名付けたが,怒張血管とともにこの血管は常に鼻出血の予備軍である(図1).

女性性器出血のプライマリ・ケア

著者: 寺尾俊彦 ,   尾池純子

ページ範囲:P.817 - P.819

 女性性器出血は,主として次の3つに大別される.すなわち,①妊娠性のもの(流産,子宮外妊娠など),②性機能の乱調によるもの(機能性子宮出血),③炎症,腫瘍によるもの(子宮粘膜下ポリープ,頸管ポリープ,出血性子宮腟部びらん,子宮粘膜下筋腫,子宮体癌,子宮頸癌,子宮肉腫,絨毛性疾患など)である.
 このうち,一般内科医も遭遇することがあり,かつ緊急処置(緊急手術など)を要するものとしては,出血性ショック症状を呈する子宮外妊娠,進行流産,絨毛性疾患(破壊性奇胎を含む胞状奇胎および絨毛癌を総称する)などがある.とくに子宮外妊娠,進行性流産では腹痛を伴うことが多いので,腹痛と性器出血のある女性患者をみた場合には,常に上記疾患を念頭において,可及的速やかに信頼できる産婦人科医(できれば総合病院の産婦人科で,緊急手術がいつでもできる態勢にあるところ)へ紹介することが必要である.この時点での一般内科医の判断が患者の予後を直接左右することになるからである.

カラーグラフ 臨床医のための内視鏡—パンエンドスコープ

偶発症・人工的な変化および見逃しやすい部位と病変

著者: 多賀須幸男

ページ範囲:P.830 - P.831

①粘膜下血腫 食道入口部(左梨状窩).
②吸引による出血と膨隆 体部の粘膜ひだ上にみられることが多い.
③,④噴門直下の裂傷 ボスミンを加えた水で洗浄すると,裂傷が明らかになった.④の三角形の白色部は食道粘膜.65歳,男性.
⑤,⑥癌浸潤部よりの出血 角上後壁のIIc病変の口側に,一見正常とみえる粘膜上に出血を認める.癌は表層性に噴門付近にまで拡大していた.44歳,女性.
⑦対物レンズ上の"のっかり"
⑧粘膜上の"のっかり" 出血びらんのごとくみえるのは海苔である.

図解病態のしくみ 循環器疾患・5

高血圧および高血圧性血管病変による主要臓器病態

著者: 須永俊明

ページ範囲:P.833 - P.838

 前回までに,高血圧性血管病変の特性や,高血圧と粥状硬化との関係について,形態学的な面からのべてきた.今回は,これらの血管病変を含め,高血圧による重要臓器における病変の成立についてのべる.

臨床薬理学 薬物療法の考え方・5

薬物相互作用の考え方(1)

著者: 中野重行

ページ範囲:P.839 - P.848

 薬物療法においては,1種類だけの薬物が投与される場合よりも,2種類以上の薬物が同時に併用されることのほうが多い.このような多剤併用の場合に,ある薬物が他の薬物の作用を増強したり,逆に減弱したりすることが起こりうる.今回はこのような薬物の相互作用(drug interaction)について考えてみよう.
 同時に投与された2種類の薬物の間にみられる薬物相互作用は,ある場合には薬物による副作用の原因となるし,またある場合には,これを上手に利用することにより,薬物の有効性を高めることも可能となる.そこで,薬物相互作用が起こりうるメカニズムについての十分な理解と知識をもつことが,科学的な合理的薬物療法を実践するための必要な条件となる.

異常値の出るメカニズム・38

尿アミノ酸

著者: 河合忠

ページ範囲:P.849 - P.851

 アミノ酸は,カルボキシル基(-COOH)とアミノ基(-NH3)の両方を有する有機化合物で,動物界では両者が同一の炭素原子に結合しているα-アミノ酸で,構造の違いから表1のごとき5群に分類されている.アミノ酸は蛋白質の構成成分で,きわめて重要な物質であり,正常では尿中には排泄されない.病的にアミノ酸の尿中排泄の増加する病態をアミノ酸尿と呼んでおり,多くは先天性代謝異常に合併する.

臨床講座=癌化学療法

注目されている新抗癌剤—その2:新しい化合物とインターフェロン

著者: 小川一誠 ,   相羽恵介

ページ範囲:P.853 - P.856

新しい化合物
 新しい抗癌剤の開発は非常に困難な分野である.過去の例では,自然界から偶然に,細菌変異株の培養液,化学的合成などの経路により新しい型の化合物が発見されている.ここでは近年開発され臨床上の有用性が確立されたもの,また話題となっている薬剤につき紹介する.

神経放射線学

眼窩・副鼻腔疾患

著者: 古井滋 ,   前原忠行

ページ範囲:P.877 - P.884

 眼窩・副鼻腔領域では眼窩内の腫瘤性病変,副鼻腔炎,副鼻腔腫瘍,骨折などの疾患が放射線診断の対象となり,放射線診断には単純撮影,断層撮影,CT,血管造影などの検査が用いられる.本稿では,はじめにこれらの検査の特徴について簡単に触れ,続いて主な疾患の放射線診断について述べることにする.

腹部単純写真の読み方

イレウス(2)—絞扼性イレウス,麻痺性など

著者: 平松慶博 ,   甲田英一

ページ範囲:P.885 - P.888

絞扼性イレウス
 平松 前回では主として閉塞性イレウスについてお話ししましたが,今回はその特殊型ともいえる絞扼性イレウスと胆石イレウス,さらに麻痺性イレウスについてお聞きしましょう.

画像診断と臨床

肝疾患(4)

著者: 北島武之 ,   黒田敏道 ,   川上憲司

ページ範囲:P.889 - P.896

症例1
患者 M. M. 41歳 女性
主訴 顔瞼,下肢の浮腫

連載 演習

目でみるトレーニング 48

ページ範囲:P.899 - P.905

外来診療・ここが聞きたい

鼻出血をくり返す肝硬変

著者: 大貫寿衛 ,   赤塚祝子

ページ範囲:P.858 - P.861

症例
患者 R. T. 54歳 女性 主婦
 現病歴 6年前より鼻出血を時々認め耳鼻科を受診,肝障害と血小板減少を指摘され内科を併診した.輸血歴はない.鼻出血は朝方に多く20分ほどで自然に止血するという.肝機能検査から肝硬変が疑われ,下部食道に中等度の食道静脈瘤(blue varix)が認められた.

medicina CPC

食思不振,乏尿を主訴とし,けいれん発作,意識障害をきたした72歳男の例

著者: 大岩孝誌 ,   山下秀光 ,   小野駿一郎 ,   三條貞三

ページ範囲:P.914 - P.923

下記の症例を診断してください
症例 I. I. 72歳 男性
主訴 乏尿,意識障害
 既往歴 昭和43年11月少量の吐・下血2〜3回あり,同44年3月多量のコーヒー残渣様の吐・下血あり.同44年3月19日当院外科にて胃切除(BI),輪血せず.組織所見十二指腸潰瘍.

プライマリ・ケア

在宅ケアの実践と問題点(1)

著者: 萱場治 ,   岸本節子 ,   井出久 ,   鈴木荘一

ページ範囲:P.906 - P.911

「在宅ケア」の理念と変遷
 鈴木(司会) 本日のテーマである在宅ケアはプライマリ・ケアの1つの柱でもあり,初期医療,包括医療,安全医療などとともに,一般臨床家にとって,これからの地域医療を進める上での重要課題の1つです.
 歴史的にさかのぼりますと,19世紀の半ばまでの欧米では,開業医の往診による在宅ケアが医療の主役でした.また伝統的な家族主義が保持されていたわが国では,医師と患者の関係は,医師と家族との関係でもありました.医師は往診によって患者の状態とともに家庭環境,生活様式,さらにはself sanitationなどの状況も知り尽くすことができたわけです.

Clinical topics

経気管支肺生検(TBLB)

著者: 倉島篤行

ページ範囲:P.826 - P.827

 近年,肺疾患診療領域で経気管支肺生検(Trans-bronchial Lung Biopsy:TBLB)が有力な診断手技のひとつとして注目され,とくに従来から診断困難であったびまん性肺疾患においては,TBLBが,open lung biopsyにとってかわったといっても過言ではない.経気道的に末梢肺組織を採取すること自体は,すでに硬性気管支鏡時代から試みられ,また,メトラ気管支造影用カテーテルを通じての肺生検も行われているが,flexible fiberopticbronchoscopyを用いての方法が急速に普及したのは,操作が比較的容易で侵襲が少ないこと,気道粘膜病変の観察,生検も同時に行いえ,その柔軟性から鉗子を確実に目的部位へ挿入しうることなどの利点からと思われる.
 以下,筆者の行っている方法を紹介する.

他科のトピックス

内視鏡的凍結手術

著者: 山崎忠光

ページ範囲:P.912 - P.913

 消化管内部の疾患を,内視鏡を用いて観察,診断することはすでに一般的な方法となっているが,これをさらに発展させて,観察のみでなく内視鏡的に治療操作をしようとする試みが近年盛んになってきている.たとえば電気凝固を用いたポリペクトミーや十二指腸乳頭切開,レーザ光線による止血などである.内視鏡的凍結手術もこのような内視鏡的治療を目的として開発されたものである.

オスラー博士の生涯・94

教師と学生(1)—1892年,ミネソタ大学にて

著者: 日野原重明 ,   仁木久恵

ページ範囲:P.866 - P.871

 William Osler(1849〜1919)が,43歳という若さで,ジョンス・ホプキンス大学の内科教授であった時,ミネアポリスのミネソタ州立ミネソタ大学医学部に1892年に招待されて,医学生と教官のために行った講演の前半が以下の内容である.オスラーは1889年5月にボルティモア市に開院されたジョンス・ホプキンス病院に診療主任として着任し,アメリカでの最初のインターン制度を始め,1892年2月には,後に8カ国語に訳された世界の内科学テキストとなった「内科学の原理と診療」(The Principle and Practice of Medicine)を出版した.そして5月には42歳という年でグレース夫人と結婚した.
 この1892年に,この講演をしたのであるが,これはオスラーが1875年,26歳の時に生理学と病理学とをかねた医学原論の講義を担当し,学生の医学教育について17年の経験をもった時点でなされたものである.

天地人

信心

著者:

ページ範囲:P.865 - P.865

 信心とは,信ずべきものを信じることではなくて,信じられぬことを信じることである.地球がまるいとか,ペニシリンが細菌を撲滅するとか,そんなことを信じても,これは信心ではない.やはり,占いや幽霊を信じたり,そして結局は,あるという確証のない神が,あると確信するところが,信心のようである.そして宗教というものが,この信心に根ざしていることは間違いあるまい.
 薪聞の報道だから,信心してよいかどうか解らぬが,ローマ法王の来日したとき,若い人との会見で,「多くの日本人は宗教と関係なく暮してきたが,その日本に宗教が必要か」との質問に対して,彼の答はつぎのようだと報じていた.

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VIA AIR MAIL

著者: 越前宏俊

ページ範囲:P.872 - P.875

いつ崩れるかわからない厳しい生活基盤.しかし1杯のコーヒーと陽気なジョークでおおらかに研究を続ける同僚たちの日常

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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