icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina18巻7号

1981年07月発行

雑誌目次

今月の主題 腹部エコー法の現況—癌診断を中心に

理解のための10題

ページ範囲:P.1213 - P.1217

基礎知識

原理

著者: 入江喬介

ページ範囲:P.1129 - P.1131

超音波(ultrasound)とは(図1)
 超音波診断装置の分野においては,"人に聞こえないほど周波数の高い音"といえる,また,普通の音(波)は,人が聞くことを目的としているとすれば,超音波は"人が聞くことを目的としない音(波)"ともいえる.
 周波数と波長(図2)
 波長が短い(すなわち,周波数が高い)ほど距離方向の分離度(分解能と呼んでいる)がよいが,超音波の減衰は大きくなる.

組織特性

著者: 小林利次

ページ範囲:P.1132 - P.1135

 組織特性(Ultrasonic Tissue Characterization-Linzer,Ultrasonic Telehistology-Hill,Ultrasound Tissue Signature-Nowak)とは何か? 正常組織および病理組織の超音波特性を探究する基礎的研究であると定義できる(表1).1975年,米国のLinzerが第1回の研究会をワシントンで開催して以来,この研究分野が主として米国において急速に進歩した.さまざまな組織構築成分を音響特性パラメータで測定し,その基礎的データ(癌組織を含めて)を基盤にして,超音波診断装置または超音波治療機器の開発にまで進展させることが1つの目的にもなっている(表2).

装置の選び方

著者: 伊藤健一

ページ範囲:P.1136 - P.1137

 現在,超音波診断装置は,技術的にもあるレベルに到達し,製品としての評価も定着してきたと同時に,各メーカーからさまざまな長所をもった製品が出されており,その中から,何をチェックポイントとして,その性能および実用性をみきわめるかが重要な課題となってきている.そこで,本稿では,超音波診断装置の選び方の原則についていくつか説明する.

おとし穴

著者: 片倉景義

ページ範囲:P.1138 - P.1139

 超音波断層装置も,最近は生体組織描出のための改良が進み,実際の生体構造に相当近い超音波像が簡単に得られるようになってきている.このように,超音波により実用的な生体像が得られるようになった背景は,装置階調性の大幅な向上と,電子走査高速撮像化の双方が順次実現されてきたことによる.しかし,装置の階調性を向上することは,装置の小さな欠点を画面上に表示しやすくする方向であり,一方電子走査化は,これまでの手動接触複合走査法に比較して音響的虚像を出現させやすい方向である.このような相反する要求を両立させることは,装置規模が大きくなり困難である.
 このため,現在の電子走査装置は,通常の使用部位については極力異常な虚像の出現が見られないように設計されていて,特殊な使用状況における現象は除外されている.このため,この設計性能は順次向上しつつあるが,使用装置の性能を越える場面においては種々の虚像が出現する可能性が考えられる.そこで,以下に,現在広く使用されている電子走査装置の代表的性能を基礎として,予想される虚像の形態について簡単に紹介する.

臨床診断

びまん性肝疾患

著者: 朝井均

ページ範囲:P.1141 - P.1145

検査の手順およびポイント
 超音波断層法によるびまん性肝疾患の診断は,肝癌,肝嚢胞などの限局性肝病変のごとく,周囲の肝組織と音響的性質をはっきり区別することができないため,断層像の分析のみからはなかなか困難であるといわざるをえない.しかし最近の高解像力を有する装置によれば,以前に比してかなり積極的に診断することが可能になってきている.
 肝のスキャニング方法は,他臓器のそれととくに変わるものではないが,数多い情報を見逃さないためにも,下記の基本走査を順に実施すべきである(図1).

肝癌

著者: 秋本伸

ページ範囲:P.1146 - P.1149

 検査の手順およびポイント
 ①装置:通常はreal-time装置とくにリニア電子スキャン装置を用いる.死角の検索のためにセクタスキャン装置を使用することや,全体像の把握のためにコンタクトコンパウンドスキャン装置を使用することもある。
 ②coupling media:肝を広範囲に検索するためには,やや軟かめのものが適している.市販の検査用ゼリーが硬めの場合,微温湯でといたオリーブ油を用いることもある.

胆嚢癌・胆管癌

著者: 安田是和 ,   柏井昭良

ページ範囲:P.1150 - P.1153

 胆道癌は,早期診断が困難で,治療成績はかならずしも満足できるものではない.しかし最近,超音波検査をはじめとする画像診断の進歩により,切除可能な胆道癌が診断されるようになってきた.

膵癌

著者: 稲葉瑞江 ,   福田守道

ページ範囲:P.1154 - P.1157

検査の手順およびポイント
 やせ型で腹部膨満のみられないとき.膵の描出には特別の前処置は不要で,検査前の一食を休食とするのみでよい.朝食を抜いて午前中に実施するようにする.
 装置は解像度の良好な電子スキャン装置またはセクタスキャナがよく,コンタクトスキャナでは若干馴れが必要である.

脾腫

著者: 古賀孝

ページ範囲:P.1159 - P.1161

 脾は今日もなお"神秘な臓器"である.日常の臨床で触診によって触れるまで,脾にはあまり注意が払われないが,脾は全身的規模の疾患のすべてに反応を起こしていることが,ことに超音波という手法によって明らかになってきた.脾からの情報は,これから一段と活用されることになるであろう.

腎癌

著者: 棚橋善克

ページ範囲:P.1162 - P.1165

検査の手順およびポイント
 ①術前処置 とくに必要としない.小児や疼痛のある患者では,体動を少なくするために,鎮痛剤の使用や軽い麻酔下に行うことも考えられるが,このような場合はむしろ高速走査(メカニカル・セクタ走査や電子走査)で,実時間表示を行ったほうが簡便である.
 ②体 位
 1)原則として,腹臥位で背面からの走査を行う.なぜなら,このルートが一番腎に近く,なおかつ音の伝播をさまたげる腸管が存在しないからである.
 2)上記の体位では,腎上極が肋骨に遮ぎられてうまく描出できない場合,また腫瘤が大きく,腹部より触知できる例などでは,仰臥位や側臥位での走査も有効である.
 3)右腎の場合は,腹壁より肝右葉を通した走査により,良好な画像を得ることも可能である.
 4)複合走査で検査する場合は,呼吸を止めさせて,(通常吸気位で)走査するが,実時間表示の可能な装置ではその必要はない.
 5)メカニカル・セクタ走査により,超音波ガイド下の穿刺を行う場合は,検査前にガイド金具の微調整を行い,刺入する針がよく描出されるようセットしておくことが重要である(図1).

後腹膜腫瘍(副腎を含む)

著者: 東義孝

ページ範囲:P.1166 - P.1169

検査の手順とポイント
 後腹膜と言っても,その範囲は広い.上方は横隔膜から,下方は骨盤内の腹膜の付着部までをいい,横は壁側腹膜の後方の部分から,中央部は脊柱周囲の筋組織までを含む.
 文字どおり解釈すると,十二脂腸の一部や大腸・腎・膵・大動脈・下大静脈なども含むが,一般に後腹膜腫瘍というと,これら臓器は除いて,結合組織・脂肪・筋肉・筋膜・リンパ管・交感神経系などから発生した腫瘍を示す.

動脈瘤

著者: 平敷淳子 ,   畠山信逸 ,   洞口正之 ,   白石明久 ,   高橋美貴子 ,   三橋多佳子

ページ範囲:P.1170 - P.1173

 侵襲なく,任意の断層面の検査が可能な超音波診断は,動脈瘤の診断にも多くの情報を提供する.

膀胱癌・前立腺癌

著者: 斉藤雅人 ,   大江宏

ページ範囲:P.1175 - P.1179

〈膀胱癌〉
 膀胱癌の診断そのものは膀胱鏡という優れた検査法があるので,超音波検査の意義は,癌の浸潤度の判定という面にのみ限られてくる.

子宮・付属器腫瘍

著者: 小林充尚

ページ範囲:P.1180 - P.1183

検査の手順およびポイント
 ①膀胱の適度の充満は絶対に必要である.一般に患者はかなり排尿したくて不快になっているくらいがよいようである.不十分な膀胱充満は誤診の元凶であり,厳につつしむべきである.とくに電子スキャン法の場合にはコンタクト・コンパウンド・スキャン法の場合より充満していることが望ましい.
 ②緊急検査の場合には,250〜300mlの滅菌水などをカテーテルにより膀胱内に注入する.
 ③患者は検査台上に仰臥する.
 ④ついで,腹部を恥骨部より剣状突起の下部まで露出させ,検査液で汚さぬように患者衣服を布やタオルでまわりをカバーする.
 ⑤超音波診断用ゼリーを十分に腹部に塗る.検査中も必要によりゼリーを追加して,探触子と腹部との十分な接触を保つようにする.
 ⑥まず探触子を正中線に沿って置き(電子スキャン法)または走らせ(コンパウンド法),膀胱充満が適度かどうかを確かめ.同時に子宮のおよそのアウトラインを把握する.このとき必ずしも子宮は正中線にあるとは限らないのに留意する.
 ⑦膀胱充満が適度と判断すれば,本格的検査を開始する.
 ⑧横断スキャンを恥骨直上で行い,子宮の確認と左右への偏位度をたしかめ,ついで子宮左右にある可能性の付属器腫瘍をチェックする.横断スキャンが縦断スキャンのガイドとなる.
 ⑨ついで横断スキャンの所見を頭に入れながら,縦断スキャン.横断スキャンと行い記録する.

超音波の新しい応用

腹部腫瘍における超音波映像下の吸引細胞診

著者: 唐沢英偉 ,   五月女直樹 ,   三木亮 ,   上野高次 ,   大藤正雄

ページ範囲:P.1185 - P.1187

 腹部腫瘍の診断は,従来の放射線および内視鏡検査法に加え,超音波,CTなどの新しい画像診断法の導入により,より確実になっている.しかし,これらの検査法によって,腫瘍の存在部位や大きさの診断ができても,癌であるか否かの確定診断の困難な症例がみられる。このような症例に対して,細い針を用いた生検法により腫瘍細胞を採取し,病理学的検索をすることの有用性は,すでに認められるところである.
 腫瘍が触診できる場合の穿刺は容易であるが,深い部位にあったり,穿刺目標が小さい場合に確実に穿刺することは必ずしも簡単ではない.

超音波誘導を用いた穿刺造影法—PTC・PTBD・PTP・膵管造影

著者: 万代恭嗣 ,   渡辺五朗 ,   伊藤徹 ,   二川俊二 ,   牛山孝樹 ,   和田達雄 ,   幕内雅敏

ページ範囲:P.1188 - P.1189

 欧米においては,1972年のGoldbergら,Holmらの穿刺用探触子の開発以来,fine needle biopsyが盛んであるが,超音波誘導を用いた管状構造の穿刺術は,本邦における肝内胆管の穿刺が最初である(横井1974,幕内1976).その後,実時間表示装置の普及とともに,同装置を用いた穿刺が行われるようになり,穿刺技術は長足の進歩をとげた.
 実時間表示装置には,超音波ビームが平行にでるリニア式と,扇形にでるセクタ式があり,両方式ともに穿刺用探触子が開発されている(図1).それぞれ一長一短があるが,現存の装置では,セクタ式がすぐれている.いずれにせよ,実時間表示装置を用いた穿刺では,まさに針が進んでいく状態と,目標臓器が同時に観察されるので,選択的穿刺が安全確実に行える点に特徴がある.

術中超音波検査

著者: 山下裕一 ,   森岡恭彦

ページ範囲:P.1190 - P.1191

 近年,超音波断層装置の進歩はめざましく,とくに実時間表示可能な高速走査装置の実用化により,腹部領域の超音波検査は著しい診断能の向上をみた.そして,術前術後の検査だけでなく,術中に使用できる探触子の開発により,その応用範囲はますます広いものとなりつつある1,2)
 たとえば,本邦に多い肝硬変に合併した原発性肝癌症例においては,腫瘍が小さいとこれを確定することは,術前はもとより術中といえども困難なことがしばしばあり,診断のみならず治癒手術を行うため,また可能なかぎり残存肝機能を保持するうえでも,肝内の腫瘍の拡がりを把握することが必要である.

超音波内視鏡

著者: 福田守道 ,   中野良昭

ページ範囲:P.1192 - P.1194

 超音波診断法は,最近の装置の開発,すなわちレーダー工学やテレビ技術の導入による高性能のコンタクトコンパウンドスキャナ,電子スキャン装置の出現により,顕著な進歩を示し,ほとんどあらゆる臨床医学分野で診断適応の開発,普及が進行しつつある.
 しかしながら装置面の開発が進むにつれ,体外からの走査法の弱点,すなわち皮膚および皮下組織,筋層による音波の著明な減衰,ビームプロファイルの劣化,肺,腸管など含気性臓器による音波侵入の妨害などの存在が認識され,それらの解決策が真剣に検討されつつある.

超音波CT

著者: 高木八重子 ,   久保敦司 ,   橋本省三 ,   中島真人

ページ範囲:P.1196 - P.1197

 超音波を利用した画像診断法としては,パルス・エコー法が現在広く実用化されている.一方,X線によるCT法は,人体の横断断層像を映像化する診断法として,近年,盛んに用いられている.超音波CTはX線CTの基本アルゴリズムを,超音波の透過波の分析に応用しようとするものである.X線のかわりに超音波の透過波によって被検物体を多方向からスキャンし,得られた1次元投影データをCT法を応用して演算処理して,被検物体の横断断層像を画像として再構成する方法であり,超音波の新しい応用として最近研究がすすめられてきている1)

腹部におけるドプラ法

著者: 宮武邦夫 ,   木下直和 ,   榊原博 ,   仁村泰治

ページ範囲:P.1198 - P.1201

 超音波ドプラ法は,当初,連続波が用いられ浅在血管の血流計測が行われた。つづいて,超音波パルス・ドプラ法が開発され,さらに,これとリアル・タイム超音波断層法とを組み合わせることにより,腹部主要血管を断層図上に描写しつつ,そこでの血流を計測することが可能となった.このことは,従来から行われている超音波断層法による形態変化に加えて,ドプラ法による血行動態的情報を得ることにより,各種腹部疾患における病態の非侵襲的把握がより高度となるものと考えられる.
 本稿では,腹部主要血管における血流分析の現状を紹介し,また,将来の展望についても述べたい.

超音波顕微鏡

著者: 伊東紘一 ,   植野映

ページ範囲:P.1202 - P.1204

 超音波顕微鏡という用語自体まだ耳新しいと思われる。超音波顕徴鏡とは光学顕微鏡や電子顕微鏡につづく第3の顕微鏡である.超音波顕微鏡は超高周波の音を用いて,物体の内部を観察することができるものである.光学顕微鏡は物体の表面を見ることができるが,不透明な物の内部を見ることはできない.
 最近では,超高周波超音波技術の進歩により,光学顕微鏡に匹敵する分解能を超音波が得られるようになってきた.そこで生体組織の微細構造をまったく新しい音という媒体を通じて観察し,新しい情報を得ることが期待されるわけである.

鼎談

超音波と癌の診断

著者: 竹原靖明 ,   平田経雄 ,   伊東紘一

ページ範囲:P.1205 - P.1212

 スポットライトをあびて次々と登場する新しい診断法の中でも,超音波診断法は,その非侵襲性,扱いやすさから,将来はdecision treeの要として,また癌の早期発見の強力な武器として期待される.
 そこで本鼎談では,現状においては超音波で癌をどこまで見つけることができるのか,そして将来はどうなるのかについて,率直に話し合っていただいた.

カラーグラフ 臨床医のための内視鏡—パンエンドスコープ

上部消化管内視鏡検査における血管性病変

著者: 三室淳

ページ範囲:P.1222 - P.1223

 消化管の血管性病変はしばしば消化管出血の原因となるが,内視鏡検査は,消化管造影検査よりも血管性病変の診断能においては優れていると考えられる.
 さて,上部消化管内視鏡検査において認められる血管性病変は食道静脈瘤,食道孤在性静脈拡張,血管腫,Osler病に伴う病変などであるが,後2者はきわめて稀である,動静脈奇形,Angiodysplasiaなどは小腸,結腸に認められ,上部消化管ではDieulafoyの胃潰瘍がこれに類するが,出血前にはまず発見されない.従来から静脈瘤に代表される血管性病変は,出血の危険を考えて内視鏡検査に際して最も注意すべきものとされてきた.

図解病態のしくみ 消化器疾患・18

胆石(2)—コレステロール結石の内科的療法—CDCA vs UDCA

著者: 松枝啓

ページ範囲:P.1225 - P.1228

 先月号でも述べたように,コレステロール結石の発生頻度は欧米で最も高く,胆石全体の70%を占める.一方,わが国においてもコレステロール結石の頻度は,第2次大戦後から急激に増加しはじめ,現在では胆石全体の約60%を占めるようになってきた.しかも,将来さらに増加し欧米なみの頻度になることが予想され,コレステロール結石の治療が臨床上重要な問題のひとつになってきた.
 このコレステロール結石の発生機序については先月号で述べたが,この発生機序に基づき,コレステロール結石の合理的内科療法が可能になってきた.今月号では,このコレステロール結石の内科的療法として使用されているCDCA(Chenodeoxycholic Acid ケノデオキシコール酸)とUDCA(Ursodeoxycholic Acid ウルソデオキシコール酸)の作用機序およびそれぞれの特徴について述べたい.

図解病態のしくみ 循環器疾患・7

肥満と高血圧の関係

著者: 須永俊明

ページ範囲:P.1229 - P.1233

 肥満が直接高血圧の発症の原因であるかどうかはよくわからない.しかし,多くの調査で,①肥満者に高血圧が合併している率は正常体重者に高血圧が合併している率より高い.②逆に高血圧者に肥満が合併している率も高い.

臨床薬理学 薬物療法の考え方・6

薬物相互作用の考え方(2)

著者: 中野重行

ページ範囲:P.1235 - P.1242

 薬物療法においては,2種類以上の薬物が同時に併用されることが多い.このとき,併用された薬物が他の薬物の作用を増強したり,逆に減弱することが起こりうる.このような現象を薬物相互作用(drug interaction)と称している.薬物相互作用は,その結果が出血(抗凝血薬の作用増強の場合)や低血糖症状(経口糖尿病薬の作用増強の場合)など臨床的に明らかに認めやすい症状として出現する場合には,発見してそれに対する処置をすみやかに行いうる.しかし,その結果が臨床的に認めがたい症状の場合には,見すごされることも多く,薬物療法の効果が不十分になったり,有害作用の出現につながることにもなりかねない.
 したがって,多剤併用療法が避けがたい場合には,薬物相互作用に関する知識を十分にもっていることが,rational drug therapyを行うために必須の要件となる.しかし,薬物相互作用の例は,枚挙にいとまのないほど多く,これらのすべてを記憶することは,むしろ不可能に近い.そこで,薬物相互作用の発現メカニズムを十分に理解することにより,どのような場合に薬物相互作用の可能性があるかを知り,十分な臨床的経過観察を行い,その所見に適切な解釈を与えうるようにしておくことが大切であろう.本稿の主旨も,個々の薬物相互作用の例をあげることよりも,その発現メカニズムの理解を容易にすることにある.

異常値の出るメカニズム・40

尿沈渣

著者: 河合忠

ページ範囲:P.1243 - P.1245

 尿は,血液と同じように,液体成分と固形成分とに分けられる.液体成分を測定するには種々の物理化学的方法が応用されているが,固形成分については主として形態学的方法で検索しなければならない.そこで,固形成分に異常があるか否かを知るために尿沈渣成分の検査が行われるのである.

臨床講座=癌化学療法

癌免疫療法の現況 その2—造血器腫瘍の免疫療法

著者: 江崎幸治 ,   岡部健一 ,   小川一誠

ページ範囲:P.1247 - P.1251

 ヒト悪性腫瘍に対する免疫療法の意義については,前号に述べたごとく,確定的なものとはいい難いが,臨床的には種々の試みがなされてきており,有効とするものも認められている.本項では,造血器腫瘍,とくに急性白血病を中心に免疫療法の現状について述べる.

腹部単純写真の読み方

外傷

著者: 平松慶博 ,   水野富一

ページ範囲:P.1265 - P.1269

読影のポイント
 平松 今回は外傷の急性腹症でまとめてみたいと思います.
 まず,外傷の病歴がある場合に,どういうポイントを重点的に読影しますか.
 水野 外傷があれば当然骨折が考えられますし,X線写真でまず目に入るのは骨ですから,骨折の有無は必す見なければいけませんね.

画像診断と臨床

腎疾患(1)

著者: 木戸晃 ,   多田信平 ,   川上憲司

ページ範囲:P.1271 - P.1278

症例1
患者M.Y.75歳 男性
主訴 血尿,頻尿

連載 演習

目でみるトレーニング 50

ページ範囲:P.1280 - P.1285

外来診療・ここが聞きたい

成人の難治性扁桃腺炎

著者: 池本秀雄 ,   赤塚祝子

ページ範囲:P.1252 - P.1255

症例
 患者 S. S. 31歳 女性,事務員
 現病歴 10カ月前,急に咽頭痛が出現し耳鼻科を受診,扁桃腺炎と診断されて投薬と処置を受け軽快したが,2カ月後に再び高熱と咽頭痛を訴えて内科を受診した.扁桃は著明に腫大し膿栓が多数認められたので,AB-PCを投与しうがいを励行させたところ約1カ月で軽快した.しかし抗生剤を中止すると扁桃の腫大が起こり,何度も仕事を休まざるを得ない.扁摘をすすめたが拒否された.酒(-),タバコ(-)

第154回呼吸器臨床談話会

びまん性肺陰影を呈する疾患における経気管支肺生検(TBLB)の意義について その1

著者: 谷合哲 ,   吉岡一郎 ,   関根球一郎 ,   芳賀敏彦 ,   岡安大仁 ,   可部順三郎 ,   工藤翔二 ,   松井泰夫 ,   古家堯 ,   北村諭 ,   鈴木光 ,   勝呂長 ,   赤柴恒人 ,   倉島篤行 ,   和泉孝志 ,   鈴木俊雄

ページ範囲:P.1291 - P.1303

 谷合(司会) 本日はびまん性肺陰影を呈する疾患の診断におけるTBLB(transbronchial lung biopsy)の意義といった問題を中心に話し合ってみたいと思います.
 まず,このテーマをご示唆くださった吉岡先生にその趣旨や,現状などについてご説明いただきたいと思います.

プライマリ・ケア

私たちのみたヨーロッパのプライマリ・ケア

著者: 小野肇 ,   安田勇治 ,   菊地博 ,   萱場治 ,   渡辺淳

ページ範囲:P.1304 - P.1311

 渡辺(司会)今やわが国においてはプライマリ・ケアについての関心がますますたかまり,その理念,政策,技術,学問研究や実践のための方法論など各方面にわたって発表がなされています.また現実に各地で実践活動も積極的に行われるようになってきました.こうしてわが国の現状が進展するにつれて,他方外国のプライマリ・ケアの調査研究が必要となるのは当然のなりゆきです.われわれもすでに欧州2回,アメリカ1回の調査旅行を行っていますが,日本での実情を十分に踏まえた上で,今回欧州のプライマリ・ケアについて集中的な調査旅行を行いました.コーディネーターは東大保健学科教授の田中恒夫氏です.
 今回の調査旅行は大変ハードなスケジュールで,15日間に15カ所を公式訪問し,3回の私的な懇談会をもち,さらに13日間毎日田中先生を中心に検討会を行うというきわめて密度の濃い旅行でした.しかも事前研究4回を行い,団員の各専門分野から質問事項を出してもらい,これを調整したわけです.

clinical topics

未分化肺癌—とくに小細胞癌の治療

著者: 小松彦太郎

ページ範囲:P.1288 - P.1289

 肺癌は,他の臓器の癌に比較して種々の組織型が存在することが特徴である.未分化癌には大細胞癌と小細胞癌が含まれるが,大細胞癌は,巨細胞癌を別にすれば,病理学的に充実蜂巣を形成し,粘液染色が陰性なもので,扁平上皮癌にも腺癌にも分類できないものをいい,診断上も治療のうえからも,扁平上皮癌および腺癌の低分化なものとの差は,はっきりしない.一方,小細胞癌は気管支のKultschitzky細胞由来の癌といわれ,APUD系腫瘍と同様の特徴をもち,argentafin陽性の顆粒および電顕上神経分泌顆粒を細胞質内にもっており,ホルモン産生腫瘍としても有名で,臨床症状を示さない例でも,血中および組織中にACTH,セロトニン,MSHなどが証明される例が報告されている.そのほかにも,低Na血症,尿中へのNa排泄,血清浸透圧低下を示す異所性ADH,分泌症候群,重症筋無力症様症状を示すEaton-Lambert症候群などがみられる.また,小細胞癌は,doubing timeが平均33日とその発育速度は早く,早期にリンパ節および遠隔臓器に転移し,5年生存率も全国集計で1.3%と,他の組織型に比較して著しく悪い.
 以上のように,小細胞癌は,発生論的にも症候論的にも,また診断のうえでも予後のうえでも,他の組織型と異なった特徴がみられる.そこで,未分化癌の中でも小細胞癌の治療を中心に述べることにする.

他科のトピックス

膀胱腫瘍の温水療法

著者: 岡田清己

ページ範囲:P.1286 - P.1287

 日本人の泌尿生殖器系癌は消化器系,呼吸器系癌に比べ,その発生頻度はそれほど高くはない.しかし,膀胱腫瘍は泌尿器系悪性腫瘍のなかで最も多く,最近の統計でも増加の傾向にある。膀胱腫瘍は早期発見できれば根治的療法が可能であるが,多くは高年齢層のため,または合併症を有するため手術を行うことが困難な場合がみられる.そのことから,合併症のある患者に対しても行うことのできる治療法の開発が望まれた.
 一方,温熱は正常組織を破壊することなく,選択的に腫瘍組織を破壊することが明らかとなり,温熱療法も癌治療になりうることが考えられていた.さらに,温熱は放射線感受性を高めること,抗癌剤の効果を増強させることが基礎的研究より見出されてきた.ただ,温熱療法を癌治療に応用するには手技に難点があり,また強い副作用を併発することが予想されたため実用化するには至っていなかった.温水療法とは,温水にて臓器温度を上昇させる方法で,温熱療法の特殊型である.今回,まず温熱療法の基礎的実験結果の概要を述べ,次に臨床例について検討する.

オスラー博士の生涯・96

オスラー博士の代表的講演—「一つの生き方」その1―Silliman記念講演:A Way of Life

著者: 日野原重明 ,   仁木久恵

ページ範囲:P.1258 - P.1263

 オクスフォード大学の欽定教授ウィリアム・オスラー博士は,63歳の時,アメリカのエール大学からそのSilliman記念講演者として招かれ,1913年4月20日の日曜日の夕,医学生に次の講演を行った.
 オスラーの伝記(The Life of Sir William Osler)の著者Harvey Cushingは,オスラーがその原稿に書いていた次のメモ—「私は1カ月にわたって簡単に書きとめた筋書をもとにして,アメリカに渡る汽船の上でこれをまとめた.講演をするその日曜日の朝,やっと完成した」を引用し,さらにそれにつけ加えて,「その日曜日の講演前にはニューヘーブンの学士会館に閉じこもって原稿を完成された.彼の読んだ19枚の原稿のうちの最後の7枚はニューヘーブンの学士会館の用箋に手書きにされ,のちにこれをもとにして印刷された」と述べている.オスラーは,この講演の中では,自分の長年の考え,人生観,処生術をきめ細かく,また情熱をこめて学生に述べた.その内容のルーツは,アリストテレス,プラトンの思想に遡り,またカーライルの実践哲学やオスラーの3人の恩師から学んだ内容からのものである。

天地人

職人芸がなぜ悪い

著者:

ページ範囲:P.1257 - P.1257

 近頃肩身の狭い思いをしている言葉に「職人」がある,先日,「大工職人を求む」と大書した看板を見かけたが,看板を作らせた棟梁の心意気が思われた.「職人」……大いに結構、以前は手わざに優れた職人は仕事に対する誇りと見識をもっていた.いまだとて職人自身は誇りと見識を失なってはいないだろうが,「職人」と呼ぶことを周囲が避けているような風潮が感じられる.職人のもつ叩き上げ練り上げられた仕事,「職人芸」は実に美事なものであり,これに芸術性が加わって芸術作品も生まれ出る.切り絵の宮田雅之画伯の刃先からは,めくるめく艶麗の美が作り出され,その作品はバチカン近代美術館に収納されるほどであるが,画伯は言う……紙を切ることは練習すればできる.切り出した線に芸術性が出せるかどうかだ.彼の作品は,職人芸に芸術が加味されて燦然と輝いている.
 職人芸は一朝一夕にして到達できるものではない.鍛練と工夫と苦労と勘の結果生まれてくるものである.どれほどコンピュータが進化し,一見素晴らしいと思える作品が生み出されても,それには手づくりのような魂はない.刀匠の振り下す槌先から,あるいは硝子職人の伴棹(ともざお)の先から生まれる風鈴も,宙吹き3秒で音色が決まるといわれるがいずれも一瞬の技で命が吹き込まれる.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?