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雑誌目次

雑誌文献

medicina18巻9号

1981年09月発行

雑誌目次

今月の主題 ウイルス肝炎のトピックス

理解のための10題

ページ範囲:P.1578 - P.1580

肝炎ウイルスの本態

肝炎ウイルスA,B

著者: 森次保雄

ページ範囲:P.1510 - P.1511

 経口感染によるウイルス肝炎と非経口感染によるウイルス肝炎が血清学的に異なるウイルスによるものであることがわかり,A型,B型とされたのは1940年代のことであった.その後長いあいだ原因ウイルスが検出されなかったが,1960年代にようやくオーストラリア抗原とB型肝炎の関連が明らかにされ,1970年になるとA型肝炎ウイルスも検出された.その結果両ウイルスはまったく異なるウイルスであることが確認された.

非A非B型肝炎ウイルスおよび関連抗原抗体系

著者: 藤松順一 ,   志方俊夫

ページ範囲:P.1514 - P.1515

 ヒトのウイルス性肝炎のうちA型肝炎およびB型肝炎については,それぞれ肝炎ウイルスが分離され,高感度の免疫血清学的診断法の確立により確定診断が可能となり,さらには予防ワクチンの導入も間近となった.一方非A非B型肝炎は,現在輸血後肝炎の約90%以上,また散発性の急性ウイルス性肝炎の約50%を占め,慢性化率も高いことが知られている.しかしながら病因ウイルス本体の物理化学的性状,および免疫血清学的診断法は多くの研究者が激しい競争をくり広げているにもかかわらず,まだ明らかになっていない.
 本稿では,チンパンジー実験を中心とした非A非B型肝炎ウイルスに関する研究,およびその関連抗原抗体系に関する研究の現状を紹介する.

ウイルス肝炎の臨床

A型肝炎の早期診断

著者: 飯野四郎

ページ範囲:P.1516 - P.1517

 1973年,FeinstoneらによりA型肝炎ウイルス(HAV)が発見され,A型肝炎診断の道が拓けた.日本では免疫電顕法での診断も行われていたが操作が煩雑であり,一般的な方法となりえなかった.また,免疫粘着血球凝集法(IAHA)によるHA抗体測定法も使用されたが,抗原として使用するHAVが十分に得られないこと,および初期血清と回復期血清で抗体価の上昇を比較するため,回復後に診断がつくという欠点があった.その後,Radioimmunoassay(RIA)によるHA抗体測定法(HAVAB-Mキット,Abbott)が導入され,これを用いて上記IAHAと同様に2点で比較する方法,2-メルカプトエタノール処理によりIgMをこわしてHA抗体価の下りをみる方法などが行われたが,種々の制約があり,A型肝炎の確実な診断法とはなりえなかった.しかし最近,IgMクラスのHA抗体をRIAにより特異的に測定する方法が開発され,ようやくA型肝炎の診断が早期に確実にできるようになってきた.ここではこれを中心に述べる.

A型肝炎の臨床と予後

著者: 谷川久一

ページ範囲:P.1518 - P.1520

 1973年,A型肝炎ウイルス(HAV)が糞便中に発見されてからわずかの間に,同肝炎の疫学,診断法,臨床像,肝組織変化などほとんどのことがわかってきた.本邦では未だ衛生環境が欧米に比べてやや劣ることも原因するのか,本邦の急性肝炎散発例の約20%がA型肝炎といわれ,地域により多少その頻度は異なっているとはいえ,まだまだ私どもの周辺に多い疾患である.ごく最近,この肝炎を発症の初期に容易に診断することができるようになって,臨床像が明らかになるにつれて,初め考えられたほど容易な症例ばかりでないこともわかってきた.

HBs抗原carrierの予後

著者: 古田精市 ,   赤羽賢浩

ページ範囲:P.1522 - P.1524

 無症候性HBs抗原carrier(AsC)およびB型肝炎ウイルス(HBV)関連慢性肝疾患の予後を明らかにすることは,慢性肝疾患の発症,慢性化の病態を考察する上で,各種のHBV関連マーカーをある程度追跡できることから,少なくとも原因が明らかでない肝疾患を論ずる場合より,より詳細な検討が可能であるばかりでなく,肝疾患の実地臨床上からもきわめて有意義である.本稿では筆者らの教室および関連病院で経験した症例につき,その予後を検討した成績を述べる.

非A非B型肝炎の臨床

著者: 鈴木宏

ページ範囲:P.1526 - P.1527

 ウイルス肝炎に伝染性肝炎(A型肝炎)と血清肝炎(B型肝炎)の2つがあることは古くから知られていたが,この両者の確定診断が可能となって以来,このいずれにも属さない,第3の肝炎のあることが明らかになっている.この肝炎ウイルスは未だ完全には分離・同定されておらず,確定診断の方法がないため,現時点では除外診断によらざるをえない.また,この肝炎ウイルスは現在,少なくとも3種類以上存在すると推定されている.したがって,現在ではこれらを総称して,A型にもB型にも属さないという意味で,非A非B型肝炎と呼んでいる.

ウイルス肝炎の病態

輸入肝炎と肝炎ウイルス

著者: 藤野信之 ,   小幡裕

ページ範囲:P.1528 - P.1530

 輸入肝炎には,日本人が外国で発病もしくは帰国後に発病する場合と,外国人旅行者が国内へ肝炎を持ち込む場合とがあるが,わが国においては近年海外への渡航者が増加するにつれて,前者が非常に重大な問題となってきた.そこで,過去6年間の自験例を参考にして,海外での肝炎の罹患状況について述べてみたいと思う.

劇症肝炎と肝炎ウイルス

著者: 高橋善彌太 ,   清水勝

ページ範囲:P.1532 - P.1533

 劇症肝炎は急性肝炎の経過中,意識障害をはじめとする急性肝不全症状が出現する予後不良の症候群であり,その死亡率は80〜90%と報告されてきている.1974年以後,本邦の劇症肝炎の実態調査を行っているが,そのなかで初発症状から意識障害発現までの日数により予後が異なり,10日以内に意識障害をきたした症例は,11日以後の症例に比べ生存率が高いという事実を見出している1).前者を劇症肝炎急性型,後者を亜急性型と臨床2病型に分類し,生存率,治療効果などを論ずる場合,年齢などの因子とともに,この臨床2病型を考慮する必要性を報告してきている.本稿では日本消化器病学会の定義にしたがって全国集計された結果に基づき,劇症肝炎と肝炎ウイルス,生存率などを中心に述べる.

ウイルス肝炎の免疫病理

著者: 山本祐夫

ページ範囲:P.1534 - P.1535

 肝炎ウイルスとしては,A型肝炎ウイルス,B型肝炎ウイルスが明確にされている.さらにA型やB型でない,非A非B型肝炎ウイルスの存在が認められているが,まだその正体は明らかではない.
 一般に細胞に対するウイルスの作用は,ウイルスのグループによってかなりの特徴がみられる.ウイルスが生体に入ったときに,大別して次の3つのパターンに分けられる1)

肝硬変における肝炎ウイルスとアルコール

著者: 武内重五郎 ,   蓮村靖

ページ範囲:P.1536 - P.1537

 肝の高度の線維増生とびまん性の再生結節形成を形態学的特徴とする肝硬変は,ごく一部の例外を除けば,年余にわたる持続性の肝細胞変性・壊死と再生の反復によって生ずると考えられている.そしてこの慢性的な肝細胞破壊と線維増生の主因として肝炎ウイルス1)とアルコール2)が作用し,さらに個体の免疫応答能の異常を伴った自己免疫機序もまた関与することが近年広く知られるようになった.本稿では,肝炎ウイルスとアルコールが肝硬変の成立にどのようにかかわっているのかに関する最近の考え方を略述する.

ウイルス肝炎の予防

肝炎ウイルスの消毒

著者: 遠山博

ページ範囲:P.1538 - P.1539

 肝炎ウイルス消毒法を論ずることは至難である.それは,①その感染性失活はヒトかチンパンジーで証明されなければ真に消毒されたと断定できない.②加熱の場合は温度,時間,作用条件の組み合わせ,薬剤では濃度,時間,作用条件の組み合わせが無数にあり,その最少必要条件を確定することは培養可能,あるいは小動物で実験可能な微生物の場合と異なって至難である.③抽出精製したウイルスと異なり,自然状態ではウイルスは血漿あるいは排泄物の蛋白質などで保護されていることが多い.④肝炎ウイルスの消毒効果を論ずるといってもせいぜいB型肝炎のそれに過ぎず,その結果で他種の肝炎ウイルスに対する消毒効果を類推するに過ぎないことなどによるからである.
 肝炎ウイルス消毒法を真に確立するには,大量のチンパンジーを必要とするが,それは非常に高価であり,またそのスタッフや施設を獲得するにも莫大な経費がかかり,またチンパンジーは現在シェラレオネを除く他のアフリカ諸国は輸出を禁じているので入手・使用が困難である.

A型肝炎の予防

著者: 荒川泰行 ,   勝原徳道

ページ範囲:P.1540 - P.1541

 A型肝炎(HA)は,衛生環境のよくない地域での発症率が高く,①個人衛生がうまく守れない精薄施設,保育所,年少者の寮などの特殊な環境下,②汚染された飲食物を介して,また③海外の高頻度地域への居住者,などで小流行性にあるいは散発性に発症を認めることが多い.とくにわが国の最近の散発性A型肝炎の約半数は③によるいわゆる輸入肝炎によって占められている.
 HAは糞便経口感染で伝播するため,その予防対策は,上・下水道などの社会的衛生環境を整備することはもちろんであるが,他の腸管系感染症と同じように,汚染地域においては,①生水を飲まず,②魚貝類などの生物を食べず,かつ③手洗いの励行,などの個人的衛生を徹底することが重要でありかつ有効である.

B型肝炎ワクチン

著者: 志方俊夫

ページ範囲:P.1542 - P.1543

 KrugmanがMS-1,MS-2の人体実験を行ったとき,すでに患者血清を熱で処理したものを接種するとワクチンとしてはたらき,その後肝炎にかからないことを証明したが,Blumbergも,オーストラリヤ抗原が肝炎ウイルスに関係があるとわかったかなり早い時期にこれを使用してのワクチンの特許を出している.
 すなわちウイルスがみつかればそのウィルスによる疾患をワクチンで予防しようということは誰もがすぐ考えることであり,このようにしてこれまで多くのウイルス性疾患がコントロールされていったのである.

抗HBsヒト免疫グロブリン(HBIG)—急性B型肝炎発症に対する予防効果とその限界

著者: 大林明 ,   坂本久浩

ページ範囲:P.1544 - P.1546

 かつては医療従事者はHBウイルス(HBV)感染の代表的なhigh risk groupであった.しかし近年,患者血液,供血者血液についてのHBs抗原(HBs-Ag)のチェックや,またとくにhigh riskであった透析室での透析装置の改良による手技の簡略化,ディスポーザブルの器具の使用などから,急性B型肝炎の病院内発生は著しく減少している.とはいうものの,現在でも急性B型肝炎患者のうちで医師,看護婦,検査室技師の占める割合は大きい.
 HBV感染の抜本的な予防には他の伝染性感染症におけると同様,ワクチンが最も効果的であろう.HBVワクチンについては,すでに欧米では不活化HBs-Agでもってのpreliminary studiesが完了しており,安全性と有効性は高く評価されている1,2).わが国でも第1相投与実験がはじめられ,その安全性が確かめられつつある.おそらく数年を経ずして普及するであろう.それまでは従来通り,HBV感染を自覚した人に高力価抗HBs抗体ヒト免疫グロブリン(HBIG)による受身免疫によって発症を阻止する方式でのぞまざるをえない.換言すれば,感染事故のかぎりにおいてはHBIGによる発症予防はワクチン普及までの過渡的な対策である.

B型肝炎ウイルスの母児感染遮断

著者: 矢野右人

ページ範囲:P.1548 - P.1549

 B型肝炎ウイルス(HBV)の感染が成立すると急性肝炎として発症するが,劇症肝炎を除き成人では予後良好で,慢性肝炎あるいはHBV持続保持者(HBV carrier state)に移行する例は原則的になく,約2ヵ月で完治する.一方,わが国には約300万人と推定されるHBV carrier stateが存在し,その由来は幼小児期でいまだ免疫能が完成していない時期のHBV感染によることが次第に判明してきた.これらのHBV carrier stateの時期,実体が明確にされているのは母児感染についてのみである.感染源,そして感染の時期が明確にされている母児感染は,生まれてくる児の方向が運命づけられることでもあり,その予防対策は緊急かつ重大な課題となってきた.ここでは自験例を中心に,HBV母児感染の予防対策について述べる.

慢性B型肝炎の治療

インターフェロンおよびインターフェロン誘起剤

著者: 海老名卓三郎

ページ範囲:P.1550 - P.1553

インターフェロンとは1)
 抗ウイルス剤ならびに抗腫瘍剤として注目をあびるようになったインターフェロン(IFN)は次のような性質を持っている.①分子量15,000から60,000の糖蛋白である.②抗体とは異なり,直接ウイルス粒子を不活化するのではなく,前もってIFNを細胞に処理しておくと,その細胞でのウイルスの増殖を抑える作用を持っている.③抗体と異なり,ウイルス特異性がなく,種類の異なったウイルスに対して広く増殖を抑える.④一方IFNは種特異性があり、ヒトのIFNを作るにはヒトの細胞を使わなければならず,これまで制約を受けていたが,最近ヒトの細胞を大量に培養する技術が工業化され,IFNの大量生産ならびに臨床応用が可能となった.さらに最近遺伝子工学による大量産生が試みられている.
 最初抗ウィルス作用により発見されたIFNがその後種々の生物活性を持っていることが次々報告され,生体内における微調整物質の感がある.その中でも細胞増殖抑制作用,抗腫瘍性マクロファージの誘導能やナチュラル・キラー(naturalkiller, NK)細胞活性増強能が知られ,抗腫瘍効果も期待されよるうになった.

インターフェロン療法

著者: 服部信 ,   小林健一 ,   加藤康洋 ,   平井信行 ,   田中敬三 ,   金井正信

ページ範囲:P.1554 - P.1555

 インターフェロンは近年ウイルス疾患,腫瘍,神経疾患,精神病に用いられ,夢の薬といわれている.しかしながら,反面,インターフェロンはファッションのような状態にあるといういい方で浮わついた状態のものであるとしていて,正確な評価は必ずしも定まっていない.GreenbergらMerigan一派により,1976年New England Journal of Medicine誌上に,B型ウィルス肝炎に対する投与成績が発表されるや、従来肝炎ウイルスに直接有効な作用を示すものがなかっただけにその反響はすさまじいものであった.しかしながら,インターフェロンの量産になお隣路のあること,インターフェロン投与による有効例はあるが,持続的に有効な例はきわめて少ないこと,発熱などの副作用のあることなど,あまりにも未解決の点が多い.またB型の慢性肝炎に有効といっても前肝硬変状態になると効なく,またB型肝炎ウイルスと関連の高い肝細胞癌に対しては臨床的にインターフェロンが有効との成績はなお得られていない.劇症肝炎,急性肝炎に関する成績も少ない、1930年代にインターフェロンはその存在が発見されていたにしては,臨床応用の道は意外にあまりにもおそい.インターフェロンは,バラ色に輝いてみえる面と,どうしようもない暗い面と両極端の間を絶えずゆれ動き,正当な評価が今後にまたれる.

Adenine Arabinoside療法

著者: 渡辺省三 ,   市田文弘

ページ範囲:P.1556 - P.1558

 Adenine arabinoside(9-β-D-arabinofuranosyladenine,ara-A)はin vitroで広範なDNAウイルスおよびある種のRNA腫瘍ウイルスに対して抗ウイルス活性を有する合成purine nucleosideである.その作用機序の詳細については不明な点もあるが,生体内で燐酸化を受け,ara-AMP,ara-ADPを経てara-ATPとなって競合的にDNA合成を阻害すると考えられている.また,ADPがdADPへ変化する反応を触媒するadenosine diphosphate reductaseをも阻害するといわれている.
 低濃度のara-Aでは細胞のDNA合成に比してウイルスDNA合成がより選択的に抑制されることが,ヘルペスウイルスを用いた実験成績から得られている.さらにara-Aが個体の液性および細胞性免疫機構のいずれをも抑制することが少ないとの報告もある.これらの知見はara-AがDNAウィルス感染症に対して有用な抗ウイルス剤となることを示している1)

免疫抑制療法

著者: 太田康幸 ,   日野寿子

ページ範囲:P.1560 - P.1562

 慢性B型肝炎の治療のなかで免疫抑制療法が占める位置は,今日なお賛否両論相半ばしているといえよう.B型肝炎ウイルス関連抗原と抗体系の測定法が確立され,とくにHBe抗原抗体の測定がRadioimmunoassay法の開発により実用化したことで,血中で測定されるDNA polyrnerase活性とHBe抗原とがきわめて密接に関連していることが明らかとなり,肝細胞内でのHBウイルス増殖の指標として用いうることが認められるようになったことは周知のとおりである.HBe抗原陽性からHBe抗体陽性へ変化する現象,いわゆるseroconversionが起こることを観察することは,B型肝炎の治療における原因療法に直接つながることであり,注目を引くところである.
 一方,慢性肝疾患に関する免疫病理学的研究においても,リンパ球subsetでの変化,免疫遺伝学的な研究,なかでもHLA系についての研究の進歩は,免疫抑制療法の意義について新たな疑問を投げかける結果となり,治療の目標としては,免疫"抑制"ではなく,免疫"調整"であるべきだとの意見が出て,レバミゾールの試験的な投与などの試みも現われたが,なお実用化し,定着するに至ってはいない現状である.

免疫賦活療法

著者: 井上恭一 ,   佐々木博

ページ範囲:P.1564 - P.1565

 慢性肝炎に対しては古くから,コルチコステロイド剤(以下CS剤),アザチオプリン(以下AZ),6MPなどの免疫抑制剤が多用され,これらの薬効に関しては欧米ではcontrolled trialによりその有効性は確認されている.しかし慢性肝炎の一部の症例では,これらの免疫抑制により病勢をコントロールできない場合があり,かかる際には同じ免疫療法剤のなかでも免疫賦活剤あるいは免疫調節剤の投与が試みられている.ここでは免疫賦活剤のなかでも代表的な薬剤と考えられるD-ペニシラミン(以下D-Pen)の作用機序および投与法について述べ,D-Penのほか最近リウマチ性関節炎(以下RA)にしばしば投与が試みられているレバミゾール(Levamisole),free radicalscavengerとしてのシアニダノール〔(+)-Cyanidanol-3〕の慢性肝炎への投与の可能性,および免疫賦活療法の中で特異な位置を占めるトランスファー・ファクター(以下TF)の有効性についても述べる.

座談会

ウイルス肝炎をめぐる最近の問題点

著者: 瀧野辰郎 ,   鈴木司郎 ,   西岡幹夫 ,   藤沢洌

ページ範囲:P.1567 - P.1577

 昨年はB型肝炎ワクチン元年といわれ,ウイルス肝炎に対する予防をはじめとして,より実際的な臨床上の取り組みが全国的規模で展開されてきつつある.一方,インターフェロン,Ara-Aなど,一般にも大きく報道され,その新たな治療薬としての期待が高まってきている。そこで本座談会では,まさにウイルス肝炎との闘いの最前線におられる諸氏に,現時点での最新の問題点,展望につきお話し合いいただいた.

カラーグラフ 臨床医のための内視鏡—パンエンドスコープ

いろいろな胃癌

著者: 佐伯克美 ,   東京消化器病研究会・有志 ,   関東逓信病院・消化器科

ページ範囲:P.1584 - P.1585

 "いろいろ"というと,早期胃癌の分類や進行胃癌の種種の型を考えたくなるが,そのような分類に関係なく,毎日の診療でみるいろいろな型を選んでみた.

図解病態のしくみ 消化器疾患・19

急性膵炎の診断—Amylase/Creatinine Clearance Ratio(CAm/Ccr Ratio)の診断的特異性とその問題点

著者: 松枝啓

ページ範囲:P.1587 - P.1592

 急性膵炎の診断基準は,従来より腹痛を伴う血清および尿中アミラーゼの上昇,または尿中アミラーゼの上昇がみられる場合とされてきた.しかしながら,血清および尿中のアミラーゼの上昇は,後述するように急性膵炎以外の多くの疾患または状況においてみられ,急性膵炎の確定診断が困難なばかりか,その診断自体の信頼性に疑問が残ることが少なくない.したがって,より特異性の高い急性膵炎の診断法として登場してきたのが,Amylase/Creatinine Clearance Ratio(Cam/Ccr Ratio)である.すなわち,急性膵炎においてAmylase/Creatinine Clearance Ratio(CAm/CCr Ratio)が特異的に上昇することを,1975年にWarshawとFulerが報告して以来,多くの臨床家により"新しい急性膵炎の診断法"として使用されてきた。今月号では,この急性膵炎におけるAmylase/Creatinine Clearance Ratio(CAm/Ccr Ratio)の上昇のpathogenesisを述べることにより,その診断的特異性および問題点について述べたい.

図解病態のしくみ 循環器疾患・9

高血圧とカテコールアミンとの関係

著者: 須永俊明

ページ範囲:P.1593 - P.1598

 血圧の調節には,中枢性および末梢性の交感神経系の関与が非常に重要であることは,すでに血圧調節の項で述べた.また一方,血圧を心拍出量と末梢血管抵抗の積として表わすとすれば,末梢血管抵抗,すなわち末梢血管収縮は,交感神経末端から分泌されるノルアドレナリンが強く影響している.またノルアドレナリンに対して,アドレナリンは心拍出量にも関与するであろう.
 またカテコールアミンの系列にはドーパミンーβ-水酸化酵素の血圧上昇に対しての関与も重要であり,カテコールアミンとレニン-アンジオテンシン系との関係,β-ブロッカーと血中カテコールアミンとの関係なども重要である.

異常値の出るメカニズム・41 酵素検査(1)

血清クレアチンキナーゼ

著者: 玄番昭夫

ページ範囲:P.1599 - P.1603

クレアチンキナーゼの臓器分布
 クレアチンキナーゼ(EC 2. 7. 3. 2,CKと省略)は昔からこれをクレアチンホスホキナーゼと呼んできたため,現在でも臨床的にはCKではなくCPKと省略されて使用されていることが多い.
 この酵素は,
 ADP+クレアチン
 (式省略)ADP+クレアチンリン酸
という化学反応を触媒する酵素で,国際生化学連合酵素命名委員会(EC)の主分類2である移転酵素群の1つである.そしてADPとクレアチンリン酸からはじまるこの酵素の逆反応は,古くからローマン反応と呼ばれてきた筋化学史上有名な反応でもある.これからもわかるように,本酵素は筋肉(とくに骨格筋,心)のエネルギー代謝に関与している重要な酵素であるため,図1からみられるように骨格筋中に最も多く含まれ,また心にもきわめて多いという臓器局在性(偏在性)の強い酵素である.そのほか脳,網膜,平滑筋(消化管,膀胱,子宮など)にも含まれるが,それ以外の臓器には痕跡程度しか存在しない.

臨床薬理学 薬物療法の考え方・7

薬物の有害反応(1)

著者: 中野重行

ページ範囲:P.1605 - P.1610

 薬物療法の目ざすところが,「病める人」の治療を成功させることにあることはいうまでもない.しかし,この目的を達成するための手段として使用される薬物は,生体内で種々の薬理作用を生ずる化学物質であるために,期待して使用しようとする薬理作用以外の,治療上不必要であったり好ましくない作用がどうしても出現しうることになる.薬物により生ずるこのような好ましくない作用は,「薬物の有害反応(adverse drugreactions)」と呼ばれ,眠気のような一過性の症状から,肝障害のような臓器の非可逆性の障害,さらにはペニシリンによるアナフィラキシー(anaphylaxis)のように致死的で重篤なものまで多岐にわたっている.基本的には,すべての薬物は有害反応を起こす可能性があるとの認識が必要である.
 薬物を処方する医師たる者は,薬物の有害反応とは一体何なのか,有害反応の生ずるメカニズムはどうなっているのか,有害反応の出現頻度はどのくらいか,有害反応が生じたときどのようにしてそれを見つけ出すか,有害反応が出現したならばどのように処置したらよいのか,といった点について明確な知識と考えをもっていなければならない.しかし,それにも増して重要なことは,薬物の有害反応の出現をどのようにしたら予防することができるかを、真剣に考えることであろう.

臨床講座=癌化学療法

肉腫の化学療法

著者: 堀越昇 ,   小川一誠

ページ範囲:P.1611 - P.1614

 本稿では肉腫として,骨および軟部組織の悪性腫瘍を中心にして,これら疾患の化学療法について述べてみたい.内科医にとって肉腫は遭遇する機会の比較的少ない疾患であるが,整形外科・小児科領域の悪性腫瘍のなかでは重要な位置を占める.肉腫の化学療法は,1970年代に入ってadriamycin1)およびmethotrexateの大量療法2,3)の出現後,とくに骨肉腫では飛躍的な治療成績の向上が認められている領域である.

腹部単純写真の読み方

急性膵炎

著者: 平松慶博 ,   水野富一

ページ範囲:P.1635 - P.1641

 平松 今回は,急性膵炎のX線診断について解説していただきます.急性膵炎の診断にも,通常の急性腹症と同様に臥位と立位が必要ですが,胸部所見が得られることもあり,立位の胸部正面写真も加えておきたいと思いますね.

画像診断と臨床

肝外閉塞性黄疸(1)

著者: 仲吉昭夫 ,   多田信平 ,   川上憲司

ページ範囲:P.1643 - P.1652

症例1(図1〜8)
 患者 Y. Y. 69歳 男性
 主訴 黄疸

連載 演習

目でみるトレーニング 52

ページ範囲:P.1653 - P.1659

外来診療・ここが聞きたい

肝硬変の合併症とその処置

著者: 上野幸久 ,   竹越國夫

ページ範囲:P.1620 - P.1624

症例
 患者 I. S. 65歳 男性 三味線ひき
 現病歴 昭和54年5月,自分のしていることがわからず,服をまちがって着たり,宇を書けなかったり,もの忘れが口立つようになった,同年6月,某医にて脳動脈硬化症といわれ,治療を受けたが改善せず,昭和55年6月,当院に受診した.

プライマリ・ケア

地域健康教育の諸問題(1)

著者: 宮坂忠夫 ,   西三郎 ,   本吉鼎三

ページ範囲:P.1662 - P.1668

 本吉(司会) 本日は,地域健康教育の諸問題というテーマで,健康教育については日本の第一人者である宮坂先生と,公衆衛生院にありながら,地域医師会とともに地域保健に意欲的に取り組んでおられる西先生をお迎えして,お話をうかがいたいと思います.
 まず最初に,地域健康教育の実践が現在は具体的にどのように行われているのか,そしてそれは満足すべき状態にあるのか否か,また,どの程度の範囲,レベルにおいて行われているのかなどの点につきまして,宮坂先生からお話しいただきたいと思います.

Clinical topics

発熱

著者: 中村毅志夫

ページ範囲:P.1616 - P.1619

 正常人の体温は37℃以下であり,午前よりも午後に高く,その日差は個人により異なる.日差は男子よりも女子に著明であり,小児は成人よりも著明である.午後の体温の上昇は食事の摂取や運動によると考えられているが,すべてを説明することはできない.
 正常の熱の産生は生体の代謝活動による.主な産生の場所は,筋肉・肝臓・心臓である.激しい運動は筋肉における熱の産生を増加し,体温を上昇させる.長距離走は,速度にもよるが,600〜1,600cal/時の熱を産生するといわれる1)

他科のトピックス

脳圧降下剤と人工血液を用いた脳梗塞の治療

著者: 鈴木二郎 ,   吉本高志

ページ範囲:P.1660 - P.1661

 筆者らは,種々の脳梗塞の実験モデルを開拓し研究し,その結果,脳圧下降剤であるマンニトールには脳梗塞発現に対する抑制作用があることを発見し,実験的,臨床的な面より報告してきた.その後,人工血液として開発されたperfluorochemicals(FC)の酸素運搬能と微細粒子に注目し,実験動物の脳梗塞の治療に用いたところ,マンニトールとFCの併用投与は,おのおのの単独投与に比し,脳梗塞の発現を明らかに抑制することが判明した1)

オスラー博士の生涯・98

「病院は大学である」The Hospital as a College—1903年Academy of Medicine, New Yorkでの講演

著者: 日野原重明 ,   仁木久恵

ページ範囲:P.1628 - P.1633

 今回紹介するW. オスラーの一文は,1903年12月に,ニューヨークのAcademy of Medicineでなされたオスラーの54歳の時の講演である.
 オスラーは1889年にジョンス・ホプキンス病院を発足させた中心人物であり,この病院を新しくできたジョンス・ホプキンス大学医学部の教育病院として学生に開放した.

天地人

ペンは剣よりも強し

著者:

ページ範囲:P.1627 - P.1627

 所沢の富士見病院の事件以来,医療110番などというものもできて医療に対する監視の是非も議論されるようになった.医の領域は以前は聖域視されてきただけに,近頃の風当りは殊のほか強く,行き過ぎがあるくらいである.これに比べるとマスコミの報道に対する監視は,肝腎のマスコミがこれを拒否する限り表沙汰にすることが難しい.
 ところがこのマスコミというものは現代では実に巨大な存在で,功もあるが罪の方もはかり知れない.新聞記者やテレビ記者の不当な報道や不適当な態度に腹を立てても,それに対する評言は絶対といってよいほど彼らは表面上受け容れることをしない.私達の周囲にも,正しい主張や科学的良心をもった発言が心ない新聞記者によって歪曲されて報道され,すっかり記者嫌い,新聞嫌いになっている人を多く見うける.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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