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雑誌目次

雑誌文献

medicina19巻1号

1982年01月発行

雑誌目次

今月の主題 内分泌疾患—今日の知識 診断のすすめ方

低身長

著者: 高野加寿恵

ページ範囲:P.6 - P.7

定義
 同性,同年齢の者に比べて病的原因により身長が著しく低いものをいう1)

低血糖症

著者: 大根田昭

ページ範囲:P.8 - P.9

 疾患によっては,その疾患の存在を知っているだけで診断の糸口を把むことができ,その後は容易に正しい診断に達することができる.低血糖症はまさにそのような疾患群である.この際,中枢神経の障害を合併するので,適切な処置によって,その障害から速やかに回復させる必要があり,早急に診断を確定せねばならない.

鉱質コルチコイドによる高血圧

著者: 猿田享男

ページ範囲:P.10 - P.11

 アルドステロンをはじめ,デオキシコルチコステロン(DOC),コルチコステロンなど鉱質コルチコイドの過剰状態では高血圧が発症しやすい.しかし,これらの鉱質コルチコイドが主因となって生じる高血圧はそれほど多くなく,むしろ本態性高血圧,腎性高血圧あるいは神経性高血圧など,諸種高血圧の血圧調節に対する1因子として,重要な役割を果たしているものと考えられている.

褐色細胞腫

著者: 佐藤辰男

ページ範囲:P.12 - P.13

 褐色細胞腫とは,副腎髄質あるいは旁神経節から生ずる腫瘍で,カテコールアミン(以下,CA)を産生,放出する.したがって,この過CA血症により,高血圧をはじめ種々の臨床症状を呈し,しかも腫瘍を外科的に切除すれば,治癒せしめることが可能である.
 本症の臨床症状は,5-Hとしてhypertension(高血圧),headache(頭痛),hypermetabolism(代謝亢進),hyperidrosis(多汗)およびhyperglycemia(過血糖)の5つに統括され,ほかにも体重減少,動悸,視力障害,便秘などが見られる.すなわち,高血圧でもバセドウ病や糖尿病を加味したものということになる.しかも,これらの症状が軽量の差はあれ,常に見られる持続型と,普段は無症状であるのに突然に出現してくる発作型とがある.

クッシング症候群

著者: 安田圭吾 ,   三浦清

ページ範囲:P.14 - P.16

 クッシング症候群は,慢性的コーチゾル過剰状態に起因する特徴的臨床症状(図1)を呈する症候群である.その病態生理学的機序により,①下垂体からの副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)過剰分泌による副腎皮質過形成を来たす下垂体性クッシング症候群(クッシング病),②コーチゾル産生副腎皮質腫瘍(腺腫または癌腫)によるクッシング症候群,③下垂体以外の非内分泌腺組織の癌腫からACTH様物質が過剰に分泌され,副腎皮質過形成を来たす異所性ACTH産生症候群,の3型に大別される.各々の頻度は,1965年から1974年までの本邦における586例の集計では,クッシング病356例,副腎腺腫175例,癌腫8例,異所性ACTH産生症候群4例,不明43例であった1)
 クッシング症候群それぞれ,異なった治療を必要とするため,診断に際しては慢性コーチゾル過剰の確定診断とともに,病型診断および腫瘍の局性診断が必要である.

SIADH

著者: 斉藤寿一

ページ範囲:P.20 - P.21

 臨床的にSIADH(syndrome of inappropriate ADH)が疑われるのは,ほとんどの場合低ナトリウム血症の発見が出発点となる.日常の検査において血清ナトリウム低下がみとめられるほかに,患者の倦怠感または傾眠などの症状が前駆する場合もある.SIADHの低ナトリウム血症は,治療を加えなければ数日以上の持続を示すのが普通であり,再検によりこれを確認することもできる.
 一方,SIADHを来たしやすい疾患1),すなわち肺未分化細胞癌,肺炎,髄膜炎,クモ膜下出血,ギランバレー症候群,急性ポルフィリアあるいはビンクリスチン使用の各症例においては,現時点でSIADHが存在しなくても,疾患の経過中にSIADHが発症する可能性を想定して,血清ナトリウムの頻回測定を行う必要もある.

高プロラクチン血症

著者: 山路徹

ページ範囲:P.22 - P.23

 プロラクチンのラジオイムノアッセイが普及した結果,高プロラクチン血症という1つの症候群が誕生した.高プロラクチン血症は種々の基礎疾患に伴って現われるので,病因を十分に理解し,その裏にひそむ疾患を見逃さない注意が必要である.

原発性副甲状腺機能亢進症

著者: 古川洋太郎

ページ範囲:P.24 - P.25

 副甲状腺ホルモン(PTH)は活性型ビタミンDとともに血清カルシウム(Ca)を上昇させる作用をもつ.

副甲状腺機能低下症

著者: 多久和陽 ,   山本通子 ,   尾形悦郎

ページ範囲:P.26 - P.29

 副甲状腺ホルモン(以下PTHと略す)は,生体内において活性型ビタミンDとともに、細胞外液Caイオン濃度の低下を防ぎ,血中Ca濃度の狭い範囲での調節に関与している重要なCa調節ホルモンである.

Bartter症候群

著者: 藤田敏郎

ページ範囲:P.30 - P.31

 1962年NIHのBartterら1)によって発表された本症候群は,当初内分泌疾患として記載されたが,最近では腎疾患(腎尿細管機能障害)として報告されている.しかし,その病態は多彩な内分泌代謝異常を呈することから,本疾患は腎生理学と内分泌学の境界領域に属するものと考えられる2)

検査値の読み方

TRH試験,LH-RH試験

著者: 斎藤史郎

ページ範囲:P.32 - P.33

 甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)および黄体化ホルモン放出ホルモン(LH-RH)は,下垂体に直接作用して,それぞれ甲状腺刺激ホルモン(TSH)・プロラクチン(PRL),ならびに黄体化ホルモン(LH)・卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を刺激するので,これらのホルモンの分泌予備能検査に用いられる1,2).その成績の評価は,血漿ホルモンの基礎値,負荷試験時の最大増加値(頂値-基礎値),頂値に達するまでの時間,基礎値に回復するまでの時間などを,正常範囲と比較して行う.
 基礎値の高値はホルモン分泌機能の亢進によることが多く,その原因として,①negative feedback機構の作動,②ホルモン産生腫瘍,③ホルモン不応症などがあげられる.PRLの場合は,②のほかに視床下部障害によるPRL分泌抑制因子(PIF)の分泌不全によることが多い.最大増加値が正常範囲より小さいときは,低〜無反応と判定され分泌予備能の低下を,過大反応のときは,ホルモン分泌細胞の機能亢進を示す,頂値に達する時間の遅延は,視床下部に起因する下垂体ホルモンの分泌障害を示唆する.

甲状腺ホルモン

著者: 稲田満夫

ページ範囲:P.34 - P.35

 甲状腺ホルモンは,アミノ酸であるサイロニンの3,5,3',5'位の水素がヨードで置換されたヨードサイロニンであり,ヨードの結合位,ヨードの結合数により,生物学的・物理化学的性状が異なってくる.

副腎皮質ホルモン

著者: 宮地幸隆

ページ範囲:P.36 - P.37

 副腎皮質からは糖質コルチコイドであるコルチゾール,鉱質コルチコイドであるアルドステロン,および副腎性のアンドロゲンであるデヒドロエピアンドロステロンなどのステロイドホルモンが分泌される.これらステロイドホルモンは,ラジオイムノアッセイにより容易に測定されるようになり,各種疾患による変動が報告されている.

境界領域

腺腫様甲状腺腫

著者: 小原孝男 ,   藤本吉秀

ページ範囲:P.38 - P.40

 腺腫様甲状腺腫は,甲状腺組織を中心に濾胞上皮の過形成とコロイド貯留が起こり,そこに出血,壊死,結合織増生などの2次的退行性変化が加わり,過形成と退行性変化とがくり返し起こることによって,多発性結節の型をとる疾患である.したがって,腺腫や癌など本来の腫瘍性病変とは区別して取り扱う必要がある.
 欧米の教科書をみると,その病因にはヨードの摂取不足,先天性代謝異常,あるいは食物中のgoitrogen摂取などによる甲状腺ホルモン産生性の低下と,それに続くTSH分泌亢進が関与しているとされている.こうした症例では,まず思春期にびまん性の甲状腺腫が生じ,それが長期間継続して,中年以降になって,甲状腺全体に多発性結節が形成されるという過程をとるものが多い.

腫瘍マーカーとしてのホルモン

著者: 阿部薫

ページ範囲:P.42 - P.43

 腫瘍がホルモンを産生し,これを血中で測定することにより腫瘍の診断,治療効果の判定,すなわち腫瘍マーカー(tumor marker)として用いることは,最近におけるラジオインムノアッセイ(radioimmunoassay,RIA)の進歩により,臨床的に広く用いられている.このホルモンを腫瘍マーカーとして用いられることができる腫瘍には,内分泌腺の腫瘍と異所性ホルモン産生腫瘍とがある.
 内分泌腺の腫瘍でホルモンを大量に産生するものでは,血中ホルモンは理想的な腫瘍マーカーである.しかし,異所性ホルモン産生腫瘍の場合には,異所性ホルモン症候群を呈するような症例では,血中ホルモンが腫瘍マーカーになり得るが,むしろ多くの例では,腫瘍マーカーとして用いることができないのが現状である,以下,内分泌腺の腫瘍と異所性ホルモン産生腫瘍に分けて述べてみる.

Transsphenoidal Microsurgery

著者: 景山直樹 ,   桑山明夫

ページ範囲:P.44 - P.45

 近年radioimmunoassayの発達とともに,従来は少ないと考えられていたホルモン過剰分泌性下垂体腺腫が,実は全下垂体腺腫の2/3以上も存在することが判明するとともに,内分泌検査によって腺腫の小さいもの(直径10mm以下のものをmicroadenomaと呼ぶ)が多数見つかるようになった.このような小さなものはトルコ鞍内に限局しているので,従来行われていた開頭術では発見困難であった.このような要求に対応できる手術法として現われてきたのが,いわゆるHardy法(sublabial rhinoseptal transsphenoidal approach)である.

Gonadal Dysgenesis,Tubular Dysgenesis

著者: 久貝信夫

ページ範囲:P.46 - P.47

 性染色体異常による原発性性腺機能低下症の代表的な症候群として,Gonadal dysgenesis(Turner症候群)とTubular dysgenesis(Klinefelter症候群)について概説する.

Anorexia Nervosa

著者: 末松弘行

ページ範囲:P.48 - P.49

 Anorexia nervosa1)は食欲異常という症状から消化器疾患とされたり,病因論から精神疾患とされたりする.しかし,著明なやせ,無月経などの症状があり,間脳,下垂体機能異常を中心とした内分泌機能異常があるので,境界領域にある内分泌疾患として,その診断や検査などについて述べる.

治療

粘液水腫昏睡

著者: 小出義信

ページ範囲:P.50 - P.51

 粘液水腫昏睡は稀にはなったが,いまだに時にみられ,筆者は今冬2例を経験した.本症は表1に示すごとく,昏睡,呼吸不全,低血糖,低Na血症などの多彩な病態を呈し1),死亡率は50〜70%と高い.したがって本症の治療は救急を要し,甲状腺ホルモンの迅速な補充と,甲状腺ホルモン欠乏に基づく個々の病態に対する治療が必要となる.表2にその要旨を示し,以下に詳細を述べる.

バセドウ・クリーゼ

著者: 森徹

ページ範囲:P.52 - P.53

 バセドウ・クリーゼは,未治療または不十分な治療をうけているバセドウ病患者に,何らかのprecipitatingfactorが加わって発症する,きわめて重篤な病態である.最近では治療面の進歩から,死亡率もだいぶ低下してきている.以下本症に関する最近の知見を含め概説する.

抗甲状腺剤による無顆粒球症

著者: 柴芝良昌

ページ範囲:P.54 - P.56

 甲状腺機能亢進症は,現在,抗甲状腺剤によって治療するのが最も普通に行われているが,残念ながら,抗甲状腺剤によって治療された甲状腺機能亢進症1,000人に2〜3人に無顆粒球症を生ずることがある.無顆粒球症自体は重篤な合併症で,薬剤を直ちに中止し適切な治療が行われれば,1〜2週間で完全に回復しうるが,もし無顆粒球症の存在に気付かれずに服薬を続けたり,適切な治療がなされなければ,今日でも死亡率の高い疾患である.そこで無顆粒球症について,現在の知見をまとめておきたい.

妊娠とバセドウ病

著者: 百渓尚子

ページ範囲:P.58 - P.60

 バゼドウ病患者が妊娠を合併した場合,バセドウ病と妊娠が互いに悪影響を及ぼすことなく治療でき,しかも健常児が得られれば理想的であることは言うまでもない.本稿では,バセドウ病あるいはその治療が,妊娠経過や胎児に与える可能性のある影響について述べ,次にそれを考慮した治療法について述べる.

トピックス

ACTH前駆体とγ-melanotropin(γ-MSH)

著者: 中井義勝 ,   深田順一 ,   本下富美子 ,   田中一成 ,   黄俊清 ,   塚田俊彦 ,   井村裕夫

ページ範囲:P.61 - P.63

 従来よりペプチドホルモンの構造は,そのものを分離・精製することによって明らかにされてきた.しかし近年の遺伝子工学技術の進歩により,ACTH前駆体のメッセンジャーRNA(mRNA)に対して作られた,相補性DNA(cDNA)のヌクレオチド構造から,ACTH前駆体の全構造が明らかとなった.その結果,従来知られなかったN端部にMSHと類似の構造を有するペプチド(γ-メラノトロピン;γ-MSH)の存在が知られるようになった.
 本稿ではACTH前駆体およびγ-MSHに関する最近の知見を,筆者らの成績を中心に述べる.

出産後一過性甲状腺機能異常症

著者: 網野信行

ページ範囲:P.64 - P.65

 従来,出産後の甲状腺機能異常症としては,Sheehan症候群における下垂体性甲状腺機能低下症が教科書的に記載されている.筆者らは最近自己免疫性甲状腺疾患が出産後増悪し,しばしば一過性の甲状腺機能異常を示すことを見出した.最近,これらの変化が(postpartumautoimmune endocrine syndromesと名付けられ,国際的な成書にも記載されつつある1)
 これらの異常はSheehan症候群とは比較にならないほど高頻度で発生しており2),単なる育児ノイローゼとして取り扱われている場合もあり,臨床的に注意しなければならない.以下,筆者らの最近の知見を簡単に述べてみたい.

ホルモン作用とカルモデュリン

著者: 小出義信

ページ範囲:P.66 - P.67

 種々の代謝調節因子のなかでもホルモンはとくに重要であり,その作用機序は多くの研究者により追求されてきた.現在,ホルモン作用の細胞レベルでの媒介物質としてのcAMPの地位はほぼ確立され,図1上段に示すように,その要旨は,①ホルモンと細胞膜受容体の特異的結合,②adenylate cyclaseの活性化によるcAMP生成増加,③cAMP依存性蛋白リン酸化酵素(A-kinase,図ではR2C2として表示した)の活性化,④蛋白,酵素のリン酸化(E-P),⑤ホルモン効果発現という一連の反応系から成る.一方,カルシウムイオン(Ca2+)が,ホルモン作用を含む多くの代謝調節系に関与していることは,古くから知られていたが,その作用機序の解明は遅れていた.しかし最近のCa2+結合蛋白,とくにカルモデュリン(CaM)に関する研究の進歩により,かなり明らかになったので,その概要について述べてみたい.

Malignant Hypercalcemia

著者: 岡崎具樹 ,   尾形悦郎

ページ範囲:P.68 - P.71

 malignant hypercalcemiaとは,悪性腫瘍に高Ca血症を伴うものを総称した病態である.その中には,大別して,①明らかな骨転移,骨浸潤を伴い,骨からのCa遊離が高Ca血症を来たしているものと,②骨転移,骨浸潤がなく,腫瘍から産生される骨吸収促進因子が高Ca血症を来たしているもの,との2つがある.
 肺癌,腎癌,悪性リンパ腫などで5〜40%にみられる本症は,これらの悪性腫瘍の予後を大きく左右する要因でもある.代表的疾患とそれに伴う高Ca血症の頻度を表に記す.

Glucagonoma,Somatostatinoma,VIPoma

著者: 山口建 ,   阿部薫

ページ範囲:P.72 - P.75

 膵ラ島腫瘍は,図1に示すように,さまざまなホルモンを産生し,それに伴って種々の臨床症候群が出現してくる複雑な病態である,本稿では,このうち,比較的最近,疾患単位として確立された.Glucagonoma,Somatostatinoma,VIPomaについて,臨床病態を中心に述べてみたい.

座談会

内分泌疾患の診療をめぐって

著者: 長瀧重信 ,   宮井潔 ,   福島孝徳 ,   尾形悦郎

ページ範囲:P.77 - P.90

甲状腺疾患を見つけるコツ 疑わしければすぐ検査を/甲状腺を触れる習慣を/ルチンの血液検査にもヒントが 下垂体疾患を見つけるコツ 下垂体腫瘍は意外と多い/ほんのわずかな徴候でも/対立視野測定法をルチンでやれ/疑ったら頭部単純X線を/lateral 1枚でも十分 検査値の読み方のコツ まず生理的な調節機構の理解を/負荷試験の意義を理解せよ/検査法は病態に応じて選べ/検査法選択のコツ/検査は多いほうが診断率が高いが/初診時には十分な検査を/経過観察は病態に応じて必要なものだけを/血中ホルモンの測定が原則 下垂体疾患のトピックス Hardy法はきわめて安全な手術/acromegalyも第1選択は手術/prolactinomaはprolactin 100前後のうちに外科へ/妊婦の患者はケース・バイ・ケ一ス/とにかく早期に外科へ/Cushingは手術がむずかしい/ 最近の進歩 甲状腺疾患以外でも甲状腺ホルモンが低くなる場合がある/他の病気と合併したときはホルモンの値が動く/バセドウ病の病因論の現況/出産後一過性甲状腺機能異常症の意義/マス・スクリーニングとしてのホルモン検査の意義 まとめ

理解のための10題

ページ範囲:P.92 - P.94

カラーグラフ 臨床医のための腎生検・1 糸球体病変・1

正常の糸球体と微小変化

著者: 坂口弘

ページ範囲:P.98 - P.99

 腎生検,電子顕微鏡(以下電顕と略す),螢光抗体法(以下螢光と略す)の普及によって,腎炎,ネフローゼといわれていたものが,いくつかの型の糸球体病変の症状であることがわかってきて,今日では腎生検による組織診断が腎炎,ネフローゼという症状による臨床診断にとってかわってきた,というのは,組織診断のほうがより確かに個々の患者の予後の推定,治療指針の目安になるからである.
 そこでこのシリーズでは,12回にわたって,それぞれの型の糸球体腎炎の組織所見について簡単に説明することにする.

連載 演習

目でみるトレーニング 56

ページ範囲:P.101 - P.107

画像診断 心臓のCT・1

正常CT像

著者: 太田怜 ,   林建男

ページ範囲:P.108 - P.111

 最近の全身用CTの進歩と普及はめざましく,各種疾患に対する有用性も十分検討されてきた.しかしながら,心疾患に対するCTの応用は,心臓の動きのため不利と考えられ,心拍同期法や高速スキャン法による検査も試みられている.一方,心拍非同期の従来のCTでも心内構造の評価が可能であるとの報告も多く,筆者らもこの方法で日常の診療に十分役立つ情報を得ている.

画像診断と臨床

婦人科疾患(2)—卵巣腫瘍

著者: 森本紀 ,   多田信平 ,   川上憲司

ページ範囲:P.113 - P.121

症例1(図1〜7)
患者 T. S. 52歳 主婦
主訴 卵巣腫瘍の精査

今月の焦点 対談

神経因性膀胱の新しいとらえかた

著者: 安田耕作 ,   服部孝道

ページ範囲:P.122 - P.135

 服部 近年神経因性膀胱の研究がすすみ,その診断や治療面に大きな進歩がみられるのですが,一般には,この神経因性膀胱neurogenic bladderへの理解がまだあまり普及していないように思います.そこで今回,このような対談というかたちでとりあげて,その正しい理解と治療のために,できるだけわかりやすく話しをすすめていきたいと思います.

講座 図解病態のしくみ 消化器疾患・23

Parenteral & Enteral Nutrition(2)—Protein-Calorie Malnutrition

著者: 松枝啓

ページ範囲:P.137 - P.144

 先月号では,Protein-Calorie Malnutritionの発生の基本的病態である飢餓と外傷時における代謝について述べた.すなわち,人間が生存するためには,脳や赤血球,白血球などにエネルギー源としてグルコースをたえず供給する必要があるにもかかわらず,人体における炭水化物の貯蔵はきわめて少量であり,肝臓にグリコーゲンとして75g貯えられているにすぎない.そのため,飢餓時,外傷時またはストレス負荷時におけるエネルギー源としてのグルコースは,その大部分が,筋肉組織に貯えられた蛋白質を分解して発生したアミノ酸と,脂肪組織の分解により生じたグリセロールから新生される.さらに,それらの状況下で急激に消費されるVisceral Proteinを合成して補給するために,骨格筋などが分解消費される.したがって,そのような飢餓,外傷またはストレス負荷時のCatabolismが亢進した状態が長期におよぶと,筋肉組織に貯蔵された蛋白質の枯渇や脂肪組織の消耗が起こり,Protein-Calorie Malnutritionが発生する.
 このProtein-Calorie Malnutritionの発生は臨床上重篤な問題であり,患者の予後を左右する大きな因子の1つである.今月号では,このProtein-Calorie Malnutritionの評価の方法,発生頻度,そしてその結果として惹起される臨床上の問題点などについて述べたい.

図解病態のしくみ 臓器循環・1

冠循環—解剖,生理・病態生理のまとめ

著者: 須永俊明

ページ範囲:P.145 - P.152

 循環系は,multipleまたはparallelなsystemiccircuitを形成している.それぞれその局所での調節メカニズムが働いているという特徴をもっている.この中で,特殊な型をもっているのが,肺循環である.またvitalな面から,脳循環,冠循環,腎循環,体循環,筋循環,皮膚循環および内分泌器官の循環に分けられる.
 図1にGanongのシェーマを掲げる.

臨床薬理学 薬物療法の考え方・10

臨床薬効評価(2)

著者: 中野重行

ページ範囲:P.153 - P.158

 合理的な薬物療法を行うためには,目前にいる個々の患者の病態像に最も適した薬物を選択する必要がある.この最適な薬物の選択を行うためには,種々の病態像における薬物の有効性と安全性に関する科学的データが集積していることが必要である.したがって,種々の病態像を有する患者層を対象にして,個々の薬物が有効かどうか,有効ならどの程度まで有効なのか,また有害反応はどのようなものがどの程度の頻度で出現するのか,といった「臨床薬効評価」の仕事は,治療の科学性を高めていくとき,決して素通りすることのできないプロセスであるといえる.
 「臨床薬効評価」の必要性,臨床薬効評価の段階についてのアウトライン,対照群を設けた比較試験が必要な理由などに関しては,前回述べた.今回は,現在広く行われているいわば標準化された感さえある臨床薬効評価の根底にある考え方を中心にして,人間を対象とした仕事に伴う倫理性の問題などにも触れることにする.

異常値の出るメカニズム・45 酵素検査(5)

γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP)

著者: 玄番昭夫

ページ範囲:P.161 - P.165

γ-GTP活性の臓器分布
 γ-glutamyl transpeptidase(γ-GTP)の正式な名称はγ-glutamyltransferase(EC 2.3.2.2)である.この酵素はγ-グルタミルペプチドのγ-グルタミル基を他のペプチド,あるいはL-アミノ酸などに転移する反応を触媒するものであるが,臨床検査ではγ-グルタミルペプチドとしてγ-グルタミル-P-ニトロアニリドのような合成基質を用い,このγ-グルタミル基をグルシルグリシンに転移させ,生成したP-ニトロアニリンの黄色を405nmで比色するという簡便法が用いられる.
 γ-グルタミル-P-ニトロアニリド+グリシルグリシン
 γ-GTP→γ-グルタミルグリシルグリシン+P-ニトロアニリン
 この方法で測定した血清γ-GTPの正常値の1例を示すと,図1のように飲酒の習慣のない健康人では10.7〜45.0U/lになるが,大酒者では,10.7〜78.0U/lになる1).一般にこの方法の非大酒者正常値上限は40〜50U/lと考えられている.

外来診療・ここが聞きたい

急速進行性を思わせる慢性糸球体腎炎

著者: 杉野信博 ,   村山正昭

ページ範囲:P.182 - P.186

症例
患者 H. M. 49歳 女
主訴 浮腫,息切れ

診療基本手技

輸液量と点滴速度との関係

著者: 高尾信廣

ページ範囲:P.175 - P.175

 研修医になりたてのころの問題は静脈注射についてのことであろう.静脈注射のテクニック上の問題は経験を積むにしたがって上達するのでまず問題はないが,ここで,点滴,とくに「輸液量と点滴速度に関するオーダー」について考えてみる.
 輸液内容(質,量)については普通指示さ[れているが,輸液の速度(点滴数)まで細かく指示されていることは,特別な場合(たとえば,心不全,脱水症,hypovolemic shockなど)を除いては少ない.普通のIVD(intravenous drip)速度とは,一体どの位の速度をいうのであろうか.一般的な輸液セットで考えてみよう.

medicina CPC

高血圧症,右片麻痺で入院,高レニン血症,著明な蛋白尿を呈し,諸種の治療に抗し,消化管穿孔等を併発して死亡された30歳の男性

著者: 吉田象二 ,   鈴木良一 ,   浅田学 ,   唐沢秀治 ,   長尾孝一 ,   熊谷朗 ,   伊良部徳次 ,   高橋力 ,   奥田邦雄 ,   近藤洋一郎 ,   橋本博史 ,   安徳純 ,   諸橋芳夫 ,   重松秀一 ,   斉木茂樹 ,   秋草文四郎

ページ範囲:P.189 - P.201

症例 30歳 男性 塗装業
 初診 昭和55年12月18日
 入院 昭和56年1月4日

オスラー博士の生涯・102

科学のパン種 その1—ペンシルバニア大学のウィスター解剖・生物学研究所開所式での講演(1894年)

著者: 日野原重明 ,   仁木久恵

ページ範囲:P.170 - P.174

 アメリカ合衆国のジョンス・ホプキンス大学の医学部の開学(1893年)に貢献したウィリアム・オスラー教授は,翌1984年5月21日に,前任地のフィラデルフィアのペンシルバニア大学に竣工したウィスター解剖・生物学研究所(The Wistar Institute of Anatomy and Biology)の開所式の講演に招かれた.ペンシルバニア大学医学部の解剖学教室は英国のエジンバラ大学と競う,アメリカでの最高の地位を築いていたところで,以下の講演の中でとりあげられた多数の学者,教育者を加えて発展してきたのである.
 その歴代の解剖学教授の中で,特に光っていたし C. ウィスターを記念して,その甥であるI. J. ウィスター将軍が,この研究所の新しい建物を寄付したのである.この講演では歴代の解剖学教授をたたえるとともに,次号の後半では,医学における基礎的科学的訓練の賜ものは医師の生涯を教育でのパン種として働くことである,と説いている.
 この「パン種」は新約聖書にある句1)からとられた言葉である.

天地人

武士の情

著者:

ページ範囲:P.169 - P.169

 「武士は食わねど高揚子」とか「武士は相身たがい」というのは意味も解るし,なぜかということも解る.「武士の情」はしばしば使われ,意味は解るが,なぜ「武士の」なのかとなると難しい.
 お腹が減っていても,満腹のふりをするのだから,武士は本音よりも建前を重視したのであろう.建前論からは許せない.それを許してやるのは,余程の情だというのが,「武士の」の意味なのだろうか.はたまた,武士は剛毅を建前としているが,もののあわれを知らなければまことの武士ではない.だから立派な武士には情愛があるはずで,そのような情の発露を「武士の情」というのだろうか.

洋書紹介

—R. Douglas Collins 著—Dynamic Differential Diagnosis

著者: 柴田昭

ページ範囲:P.90 - P.90

問題の所在を簡潔直截に示す
 Illustrated djagnosis of systemicなど"目でみる内科診断学──臨床編,検査編,臓器編"の三部作で有名なR. D. Collinsが,このたび新たにDynamic differential diagnosisの名のもとに鑑別診断学の書物を刊行した.前作三部が長らくこのようなスタイルで一世を風靡した"The Ciba Collection of medicalIllustrations"と同じく写実的描写であったのに対し,このたびは同じイラストレーションではあっても,線画となっている.線画というのは余計な贅肉を一切取り除いて,問題の所在を簡潔直截に示す上で,きわめて効果的な方法であるが,それだけによほどの自信がなければできないことである.前作三部の実績をふまえたCollinsの並々ならぬ自信が窺えようというものである.
 書物の内容も著者自身が述べているようにきわめてユニークである.まず,あらゆる自,他覚的症状を,①痛み,②腫瘤ないし腫脹,③血性排泄物,④非血性排泄物,⑤機能異常の5つに分類し,これに収まり切らないものを第6章"その他の症状と徴候"にまとめている.そして主訴ないし主症状のそれぞれに3段階の思考過程を設定している.

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VIA AIR MAIL

著者: 木戸友幸

ページ範囲:P.178 - P.181

初日から徹夜.3日に1度の34時間労働.奴隷のような1年で得た大きな自信.最先端ニューヨークにおけるファミリー・プラクティス研修の現実

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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