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雑誌目次

雑誌文献

medicina19巻10号

1982年10月発行

雑誌目次

今月の主題 自律神経失調症—心身症としての考え方・扱い方

理解のための10題

ページ範囲:P.1822 - P.1824

自律神経失調症とは

学童期および思春期にみられるもの

著者: 岩波文門

ページ範囲:P.1754 - P.1755

 高学年の学童期には起立性調節障害(O. D.)が多くなる.この主症状はめまい・立ちくらみという症状に集約されてよいと思う.そして思春期にかけて増加してくるものに過敏性大腸症候群,過換気あるいは過呼吸症候群,神経性食欲不振症あるいは思春期痩症と呼ばれているものなどがある.このほかに幼児期あるいは低学年の学童期から引き続いて症状を示している夜尿症,気管支喘息,チックなどもあり,また起立性蛋白尿もあるが,今回は代表的なものとして過敏性大腸症候群,過換気症候群および神経性食欲不振症について述べることとする.
 さて自律神経失調症とくに心身症と呼ばれるものの発症には,不適当な環境条件がこの原因あるいは誘因として欠くことのできないものであるが,小児自身の個体に関する内的条件が大きな意義をもっている,つまり図1に示したように形成された個体差で,とくに図2に示したように自律神経不安定性および情緒不安定性のある個体が環境に上手に適応できないばあいに本症の発症をみることが多い.一方,自律神経機能も安定し,情緒も安定している個体でも,ごく悪い環境の中におかれた場合には,一過性に軽い心身症状を呈することはあり得る.

成熟期および更年期にみられるもの

著者: 長谷川直義

ページ範囲:P.1756 - P.1757

 今日,自律神経失調症を独立した疾患として認めていない学者もみられる.婦人の場合は1952年,Curtius & Krugerが卵巣機能不全,習慣性便秘,血管運動神経不安定症状をTriasとする症候群を,Vegetativ-endokrine Syndrom(内分泌自律神経症候群)と呼んだものも,卵巣機能不全を合併した自律神経失調症であると考えられている.また昔から巷間にいわれてきた血の道という言葉も,主として分娩後にあらわれる自律神経失調症と考えられ,1954年九嶋はこれを婦人自律神経失調症(Vegetosis,Vegetose)と命名した.
 婦人の自律神経失調症は,間脳自律神経中枢の機能失調によって起こる自律神経症状(不定愁訴)を主徴とする症候群である.自律神経失調症に相当する症状は女性に圧倒的に多いが,男性にもないわけではないので,婦人の場合は,とくに婦人自律神経失調症と呼ばれる.以下,成熟期および更年期にみられるものの臨床的特徴と疑診のおきかたについて述べる.

老年期にみられるもの

著者: 勝沼英宇 ,   新弘一 ,   瀬川美津子 ,   田村彰彦 ,   南條悦子

ページ範囲:P.1758 - P.1759

 加齢とともに老人はいわゆるpolypathologyという特殊病態に変わり,潜在的に多疾患を保有し,多彩な症状が現われる.これらの症状は,1つの疾患単位として何れか特徴づけられる症状であり,症状に応じた数の病名がつけられるのが普通である,これに対し,全身症状あるいは神経,循環器,呼吸器,消化器,皮膚系など広範囲にわたるような多彩な症状を呈していながら,病原の本態を把握できない一連の症候群がある.このような症候群は青壮年者にもみられるが,老人により多く遭遇し,その数も実に多数で,しかも症状は経過中も一定しておらず,不定で自律神経器質障害を認めないのを特徴とする.阿部らは患者が訴えるこれら一連の不定愁訴に対して不定愁訴症候群と命名した.この不定愁訴群は,自律神経器質障害を伴わず,自律神経の機能失調に由来するとして,これを自律神経失調症候群と呼称している.したがって,阿部らのいう自律神経失調症候群は不定愁訴症候群と同一であり,かつ自律神経失調症でもあると理解される.
 しかし,老人は老年期の病態生理から,身体的にはまったく健康であることは少なく,大半の老人は臓器機能の低下を示し,それに伴って自律神経も機能のみならず,器質的病変も大なり小なり加わっていることが推測される.

類縁疾患との鑑別

めまい

著者: 山﨑可夫

ページ範囲:P.1762 - P.1763

症例
 幼児の病気が軽快した頃から嘔気・嘔吐を伴うめまいが発現し,最初の内科で感冒,第2第3の内科でメニエルの診断のもとに治療したが軽快せず,紹介されて来院した30歳の主婦に心身医学的療法を行い,症状が消失した.

頭痛

著者: 安藤一也

ページ範囲:P.1764 - P.1765

 自律神経失調症という概念はきわめて曖昧なものである,器質的原因に基づかない(したがって自律神経系にも病変はない)諸種の不定愁訴を訴える症例をさしているようであるが,これらの愁訴と自律神経機能の失調とは結びつかないものが大多数で,そのほとんどは神経症ないしデプレッションあるいはその軽症例である.心身症の大部分のものには自律神経系が関与しているが,それを自律神経失調症とは呼ばない.したがってここでは自律神経失調症の頭痛という曖昧なとらえ方ではなく,心身症に属する頭痛を主体とする疾患についての解説とその鑑別について述べることにする.

動悸・不整脈

著者: 菊池長徳

ページ範囲:P.1766 - P.1767

 動悸とは通常心臓の早い拍動を感ずることをいうが,これはあくまでも自覚症状であり,必ずしも実際の心拍数が多いとは限らない.また心拍数が多くても,必ずしもみんなが動悸を感ずるわけではなく,個体の感受性が関係してくる.
 動悸の病態生理としては,不整脈を含む頻脈のほかに心迫出量の増加があげられており,器質的,機能的を問わず日常診療の場での自覚症状としてはよく聞かれるものである.すなわち生理的には運動時や不安緊張時に自覚されるが,病的には各種の不整脈(頻脈,徐脈,期外収縮)や心疾患(先天性および後天性),呼吸器疾患,その他甲状腺機能亢進症や貧血などでみられる.

全身倦怠

著者: 桂戴作

ページ範囲:P.1768 - P.1769

 自律神経失調症ほど愁訴の多い疾患はない.いわゆる不定の愁訴である.その中で,全身倦怠1)という症状はかなり多いものである.そして,しばしば易疲労性を伴い,この両者はほぼ同一の感じで使われているのが現状である.
 全身の不全状態をあらわす症状であり,身体的,精神的に活力が低下したときに起こり,一般には,"だるい","ものうい"などと呼ばれる感覚でもある.

腹痛・下痢

著者: 中川哲也

ページ範囲:P.1770 - P.1771

 自律神経失調症という病名は,患者が種々の身体症状を訴えるにもかかわらず,それを説明できるような器質的な病変が認められないとき,主として内科系の医師によって用いられてきた.しかし,このような患者が精神科医の診察を受けると,神経症やうつ病と診断されることも多かったようである.実際に神経症やうつ病の場合にも,種々の自律神経症状を呈することがあるので,このような場合は,本来の自律神経失調症から除外されるべきであると思われる.
 さて消化器系における自律神経失調症状としては,腹痛,悪心,嘔吐,下痢,便秘,食欲不振などがあり,これらの症状は寒冷,疲労,運動などの刺激によっても生じるが,臨床的にもっとも密接なかかわりがあるのは情動ストレスによる場合である.それゆえ,消化器の自律神経失調症状に対しては,心身医学的な配慮を忘れてはならない.

性障害

著者: 河野友信 ,   玉井一

ページ範囲:P.1772 - P.1773

 性問題を扱う特殊な臨床科を除けば,性障害を主訴として患者が受診してくることはほとんどないであろう,一方,多彩な自律神経症状を訴えながら,検査をしてもそれを裏づける器質的な病変を見出しえない患者は,内科を中心に決して少なくない.そして,このような患者には性障害を伴っているものが多い.
 本稿では,自律神経症状を訴える患者の性障害について概説する.

不眠

著者: 筒井末春

ページ範囲:P.1774 - P.1775

 不眠は睡眠障害の1つとしてよく知られているが,一般に睡眠時間が短縮し,しかも熟唾感が得られない場合や,あるいは睡眠時間がほぼ正常であっても,朝の覚醒時に爽快感が得られない場合を意味しているものと思われる.
 自律神経失調症においては,主訴としてよりも随伴症状の1つとして,不眠をみとめることがある.そこで不眠について他疾患との鑑別をふくめて述べてみたい.

登校拒否

著者: 阿部忠良

ページ範囲:P.1776 - P.1777

 自律神経失調症の1つである起立性調節障害orthostatische Dysregulation(以下O. D.)も登校拒否症school phobia(以下S. P.)も,朝起床後に種々の身体症状を訴え,午前中はその訴えが強いが,午後になると訴えが少なくなってくるのが1つの特徴である.したがって両者の鑑別は最初困難なことが多く,S. P. をO. D,と考えて治療されていることがある.
 本稿では両者の鑑別について,とくにO. D,を疑われたS. P. 例の初期症状について述べる.

抑うつ

著者: 森温理

ページ範囲:P.1778 - P.1779

 抑うつを主症状とする疾患はうつ病である.うつ病は歴史的にみればクレペリン(1899)が躁うつ病を疾患単位として設定したときに始まるが,今日ではうつ病(ないしは,うつ状態)といわれるものの範囲はかなり広く,ときにその概念や分類をめぐって混乱がみられる.しかし,実地臨床的立場からは,次のように分類するのが最もわかりやすいように思われる.

検査のすすめ方

簡易検査法—身体面

著者: 山口剛

ページ範囲:P.1780 - P.1782

 自律神経失調症の診断を下すためには,心身両面からの総合的判断に基づいた検査が必要である.身体面の検査法およびその順序を表1に示す.
 本稿では,自律神経失調症状のとらえ方および本症患者の特徴や注意点を要約して述べ,さらにベッドサイドで簡単に施行できる自律神経機能検査について解説する.

簡易検査法—心理・社会面

著者: 深町建

ページ範囲:P.1784 - P.1785

 患者を心身両面から診るに際し,一方身体的諸検査を行い,他方心理テストを施行するというように,心理テストを身体的諸検査に対応するものと単純にとらえてはならない.心理テストで異常所見が得られたからといって,その所見を症状とどのように関連づけて評価するかは,身体的諸検査の場合ほど容易ではなく,さらにその結びつきを患者に理解させることは,いっそう困難だからである.

専門的検査法

著者: 坪井康次

ページ範囲:P.1786 - P.1787

 自律神経系は,複雑な構造および機能を有しており,自律神経機能の検索は必ずしも容易ではないが,種々の方法が考案されている.
 また自律神経失調症の診断には,心身両面からのアプローチが重要であり,各種の自律神経機能検査を組み合わせて用いることにより,その機能異常を把握する必要がある.ここでは主に,電気工学的手法によるポリグラフ的方法と特殊生化学的方法について述べる.

薬物療法

薬物治療の原則

著者: 中野弘一

ページ範囲:P.1788 - P.1789

 自律神経失調症は心理的要因と体質的要因とがミックスして発症することが多いことから,心身医学的アプローチが必要なことは広く知られている.本稿では自律神経失調症の治療に対する考え方と,1つの柱である薬物療法に焦点をしぼり述べる.なお薬物療法と心理的因子との関連でプラシーボ効果や薬物依存については別稿で述べられる.

薬物療法の位置づけ

著者: 石川中

ページ範囲:P.1790 - P.1791

心身症と自律神経失調症
 自律神経失調症と心身症は,互いに密接な関係にある.
 まず自律神経失調症は,日本心身医学会の診断・診療指針の中の心身症の分類の中に,神経系の心身症として含まれている.

循環器系症状に対して

著者: 篠田知璋

ページ範囲:P.1792 - P.1793

 人間の生あるかぎり,自律神経系は絶えず失調しているわけだが,その失調が激しく持続した際には,身体各所に固定した機能失調症候を呈し,そのために,人間は,各所の不快な自覚症状をもつに至る.これらの機能失調の機序がすべて生理学的に解明されているわけではないが,循環器系愁訴に関しては,心電図24時間モニター,自動血圧計による機能的測定などの開発によって,かなり解明につながる情報を得ることが可能となっている.このことは,本症の治療にあたって,たいへん有利なことであり,とくに薬物療法に際しては,より適確な薬剤選択が可能となり,従来のような模索的な抗不安剤の投与にとどまる治療に比して,適切に行え,患者に多くの福音をもたらすといえよう.

消化器系症状に対して

著者: 川上澄 ,   佐々木大輔 ,   成田則正 ,   石岡昭

ページ範囲:P.1794 - P.1795

 自律神経失調症とは,全身にわたる不定の身体症状を訴えるが,それを説明するのに十分な器質的病変が証明されない機能的疾患で,しかもその原因として自律神経の障害が重要視される疾患といえる.
 自律神経の失調を来たす病因としては,種々のものがあるが,器質的病変が存在しても,それが中枢性ないしは末梢性に自律神経を障害することはしばしばある.外傷,感染,中毒,内分泌障害,代謝障害などがそれにあたるが,これらは原疾患を治療しないと,自律神経の失調症状も改善しないので,一般には自律神経失調症とはいわない.

神経・筋肉系症状に対して

著者: 山中隆夫 ,   野添新一

ページ範囲:P.1796 - P.1797

 心身症としての取り扱いの必要な神経・筋疾患は全身あるいは局部筋肉の著しい過緊張と疼痛を主徴候とするが,その発症や持続,悪化の過程において環境や情動刺激の影響を強く受けやすいことが大きな特徴である.
 これに属する疾患には,神経系のものとして,筋緊張性頭痛,偏頭痛,心因性頭痛,自律神経失調症,知覚異常(いたみ),運動異常(麻痺)などがある.筋肉系のものには,斜頸,書痙,手指振戦,チック(眼瞼痙攣,まばたき,首振り,体部)などの不随意運動や腰背筋痛,さらに慢性関節リウマチ,頸腕症候群など器質的障害を基礎にもつものも含まれる.

精神症状に対して

著者: 岩井寛

ページ範囲:P.1798 - P.1799

 人間は心身相関の存在であり,情緒回路を通して心と身体が相互影響的に対応して知的,情緒的,意志的な精神状態をもたらし,それと同時に身体的変化をもつかさどる.この点に関してはCannon WB1)がホメオスタシスを強調し,Selye H2)がストレスと生体機構の変化を強調したが,筆者3)はそうしたメカニズムが下記のような過程のもとに,間脳における自律神経系を経て身体全体に,心身相関の影響を及ぼしていくと考える.

心理療法

一般医にできるもの

著者: 末松弘行

ページ範囲:P.1800 - P.1801

 一般医にできる心理療法といえば,まず面接療法があげられる.これは,面接によって行う短期精神療法,あるいはカウンセリングである.ここでは自律神経失調症の患者に対する面接療法ということで,ごく基本的なもののみに触れる.次に自律訓練法がある.これは,やや専門的な治療法であるが,他稿ではとりあげられていないので,ここで述べる.

交流分析

著者: 杉田峰泰

ページ範囲:P.1802 - P.1803

 心因的要素の強い自律神経失調症においては,自分でも気づかない性格の歪みや,周囲との人間関係のまずさ,さらには不適切な生活習慣などが影響している.交流分析は,これらの気づきを増し,効果的なセルフ・コントロールを促す方法である.
 交流分析では,主に集団の場で,次の4種類の分析をこの順序で行う.①構造分析,②交流パターン分析,③ゲーム分析,④脚本分析

予後と経過

治療経過に悪影響を及ぼす因子

著者: 樋口正元

ページ範囲:P.1804 - P.1805

 自律神経失調症の発症の要因は,それらが改善されない限り,そのまま治療経過に悪影響を及ぼす因子となる.また発症後に起った体の内部環境および外部環境の変化のなかには,同じくその治療経過に好ましくない影響を与えるものが少なくない.
 治療経過に悪影響を及ぼすこれらの諸因子を,内部環境的なものと外部環境的なものに分けて述べる.

予後

著者: 難波経彦

ページ範囲:P.1806 - P.1807

 いかなる疾患においてもそうであるように,その疾患の予後について判定検討することは容易なことではない.とくに,心身症としての自律神経失調症においては,心身症という病態の発症のメカニズムにおいて,心理的因子および社会的因子の関与が重大な位置を占めている.そして,その心理的・社会的因子も,より多く関与している症例から,その関与が少ない症例まで多岐にわたっており,さらに,その心理的・社会的因子の内容の程度によっても予後が大きく左右されてくることはいうまでもない.
 そこで本稿においては,筆者らが2度にわたって実施した予後調査に関するデータ1,2)を中心に,心身症としての自律神経失調症の予後について述べてみる.

予防的配慮

著者: 吾郷晋浩

ページ範囲:P.1808 - P.1809

 自律神経失調症に対する"予防的配慮"には,そもそも自律神経失調症にならないためにどのような予防的配慮が必要かということと,すでに自律神経失調症になった人がよくなって再発をみないようにするためにどのような予防的配慮をすべきか,という2つのことが含まれているであろう.また,"予防的配慮"には,その個人が自分でなすべき予防的配慮と,まわりの人がその個人のためになすべき予防的配慮とが含まれているであろう.
 ここでは,すでに自律神経失調症になってよくなった人が,再発を予防するために自分でどのような配慮をすべきかということを中心に述べることにする.

座談会

心身症の現状と新しい動向

著者: 石川中 ,   川上澄 ,   樋口正元 ,   筒井末春

ページ範囲:P.1811 - P.1821

心身医学の範囲 臨床医学の総論である 心身症への糸口 はじめから厳密に区分けしない/何か心身症的なものはないか/器質的疾患を除外する必要はない/心身医学的コンサルテーションの確立を 心身症の現代的特徴 性格心身症が増えている/基本的しつけの欠除が原因?/増えている痛みの患者 登校拒否症 過敏性大腸症候群が/登校拒否症の原因は/教育関係者だけでは治せない/円形脱毛症は登校拒否予備軍 医学教育の中での位置づけ すべての場で心身医学的アプローチを教える/疾患ではなく患者をみる習慣を/バック・グラウンドに注目させる/専門家に回せるだけの知識でよい/看護婦にも必要心身医学的治療法の実際 薬物療法が最重要/交流分析+行動療法で/長びけば自律訓練法も/最近は自己制御的治療法に/医師の治療的自我の確立を 今後の展望 やはり医学教育で/各大学に講座,診療科を/新しい治療法の開発を/日本が東洋と西洋の接点に

カラーグラフ 臨床医のための腎生検・10 糸球体病変・10

糖尿病性糸球体硬化症

著者: 坂口弘

ページ範囲:P.1828 - P.1829

 糖尿病では標題の糖尿病性糸球体硬化症のほかに腎臓には強い動脈硬化症,腎盂腎炎(急性のものには乳頭壊死もある),集合管上皮のグリコーゲン沈着などがみられる.
 動脈硬化症は全身の動脈硬化症の部分症であるが,hyaline typeの細小動脈硬化症がしばしばみられ,腎盂腎炎とともに糖尿病に特有というわけではないが,起こりやすいということである.

連載 演習

目でみるトレーニング 65

ページ範囲:P.1831 - P.1837

画像診断 心臓のCT・10

心筋症

著者: 太田怜 ,   林建男

ページ範囲:P.1838 - P.1844

 肥大型心筋症は,単純心X線像では一般に心陰影の拡大はみられないので,心X線像による診断は困難である.しかし,造影CT法によれば,心内腔の大きさや,中隔,自由壁の厚さなどがよく判るので,肥大型心筋症の診断には,心エコー図同様,造影CT法がきわめて有効である.
 拡張型心筋症は,心拡大のあるときは,単純心X線像でも,それと推測できるが,そうでないときは,造影CT法によってはじめて発見される場合もある.

画像診断と臨床

脳血管障害

著者: 田口芳雄 ,   木野雅夫 ,   川上憲司

ページ範囲:P.1847 - P.1856

症例1(図1〜5)
 患者 M. S. 44歳,男性(N-2054)
 家族歴,既往歴 特記すべきことなし.

講座 図解病態のしくみ 消化器疾患・30

Parenteral & Enteral Nutrition(9)—Enteral Hyperalimentation(2)

著者: 松枝啓

ページ範囲:P.1859 - P.1863

 先月号では,消化管における栄養素の消化吸収の病態生理,およびEnteral Hyperalimentationのための種々のLiquid Dietの特徴について述べ,さらに,個々の患者における吸収障害の病態に適合するDietの選択がEnteral Hyperalimentationの治療効果を上げるためには不可欠である旨述べた.
 今月号では,このEnteral Hyperalimentationの施行に伴う主な合併症の病態生理について述べ,それらの合併症を予防するための具体的方策について述べたい.

臨床薬理学 薬物療法の考え方・14

腎機能障害時の薬物投与法(2)

著者: 中野重行

ページ範囲:P.1865 - P.1874

 生体内で代謝されることなく,腎臓から尿中へ排泄されることにより除去される薬物を投与した場合には,腎機能障害時にその薬物の排泄が遅延する.この薬物排泄の遅延は,腎機能障害の程度により異なる.このような場合に,腎機能正常者に対するのと同じ方法で薬物投与を行うと,薬物が体内に蓄積してくるために,腎機能正常者に過量の薬物を投与したのと同様の結果になり,薬物による有害反応を生じうることになる.有効血中濃度域の狭い薬物や,毒性の強い薬物の場合には,とくにこの問題は重大である.そこで,腎機能障害時には,その障害の程度に応じて薬物投与法の調整を行う必要が生ずる.
 血中薬物濃度を測定しつつ薬物投与法の調整を行っていくことは,とくに重篤な腎機能障害時には理想であるが,わが国の医療の現状では残念ながら不可能に近い.そこで,今回は,血中薬物濃度の測定値がえられない場合に,腎機能障害を有する患者に最適の薬物投与設計を行う場合の方法に焦点をあてることにする.

異常値の出るメカニズム・54 酵素検査・14

血清モノアミンオキシダーゼ(MAO)

著者: 玄番昭夫

ページ範囲:P.1875 - P.1880

MAOの臓器分布
 国際生化学連合命名委員会のコードNo EC 1.4.3.4にamine oxidase(flavin-containing)という酵素があり,これがモノアミンオキシダーゼ(monoamine oxidase,MAO)と呼ばれてきたミトコンドリア由来の酵素で,次式のようにモノアミン類の酸化的脱アミノ反応を触媒する.
 R・CH・NH2+H2O+O2=R・CHO+NH3+H2O2

コンピュータの使い方・4

病歴管理におけるコンピュータの利用

著者: 坂部長正

ページ範囲:P.1881 - P.1887

 医師は,患者を診察したときに必ずカルテを作成し,検査や処方,注射,処置などのオーダをする.このオーダに基づいて薬剤師や検査技師は,それぞれ処方箋を扱ったり,報告書を作成し,看護婦は看護記録を書き,このほかにX線フィルム,ECG,EEGなどの膨大な記録も生まれる.
 一般的に"病歴"は,医師が習慣的に使っている名称であり,正確な定義は明らかでないが,上述のすべてを包含した医療に最も重要な医学的・管理的データを収めた,膨大かつ広範囲な情報源ということになろう.

外来診療・ここが聞きたい

リウマチ熱の考え方・扱い方

著者: 塩川優一 ,   村山正昭

ページ範囲:P.1908 - P.1910

症例
〔症例1〕J. K. 7歳,女
 主訴 発熱,耳介発赤
 57年2月2日,嘔気,嘔吐とともに39度の発熱,球結膜の充血,耳介の皮膚炎様の発赤にて来院.口腔粘膜に点状発赤,リンパ節腫脹(-),心炎の所見なし.麻疹罹患の既往なしとのことで,麻疹,溶連菌感染の疑いにてAMPC 1.0gを投与開始,3日後に解熱す.
 検査所見 WBC 3,700,GOT 21,Fe 67,ASO 1,280単位,CRP(-),赤沈25mm/時

診療基本手技

Sengstaken-Blakemore tube(S-B管)の挿入法と管理

著者: 高尾信廣 ,   西崎統

ページ範囲:P.1888 - P.1889

 臨床研修中に急性消化管出血の患者に遭遇する機会は比較的多い.その出血部位をいち早く診断するのは決して容易ではないが,食道静脈瘤破裂による出血を強く疑った場合や,確信を得た場合には,その止血法としてSengstaken-Blakemore(S-B)tubeがまずその適応となることが多い.この方法は,機械的圧迫による止血効果を期待したものであり,実際,止血効果は比較的確実である.したがって,挿入のタイミングを躊躇してはいけない.しかしS-B管の挿入は患者に与える苦痛は大きく,また重大な合併症も起こしやすいので注意が必要である.そこで,S-B管の挿入法と管理のコツについて述べる.

米国家庭医学の発展・2

家庭医学はGPへの逆行か—家庭医と一般医の相違

著者: 木村隆徳

ページ範囲:P.1904 - P.1905

 家庭医学を基礎づける基本的概造は,専門科として公式認可(1969年される1/4世紀も前にJohnsonという人が発表しています1).家庭医(family physician)は一般医(general practitioner)に比して①自己の受けた訓練の限界をよりよく知り,守り,②診療調整の技術を駆使して適切にコンサルタントを呼び入れ,③人間全体としての治療を強調し,④病気,人格,経済,社会問題の関係を知り,⑤医療の近代的技術面と日常ありふれた疾病を取扱う技能と興味をもつことに加えて,主治医,患者,他医師との関係を強調します.

CPC

人工妊娠中絶後下血が持続し,その後突然頭痛・嘔吐,意識消失した28歳主婦の例

著者: 佐藤勝則 ,   奥田邦雄 ,   大谷彰 ,   村上信乃 ,   近藤洋一郎 ,   小方信二 ,   安徳純 ,   安達元郎 ,   押尾好浩 ,   石毛英男 ,   富田伸 ,   吉沢熈 ,   熱田英雄 ,   針原康 ,   長尾孝一 ,   登政和

ページ範囲:P.1911 - P.1921

症例 28歳 主婦
 入院:昭和56年11月2日(脳外科入院)
 昭和56年11月8日(内科転科)
 昭和56年11月9日(外科転科)
 死亡:昭和56年12月22日

オスラー博士の生涯・111

トマス・ブラウン卿—その2.著書「医師の信仰」およびその3.評価(1905年10月12日 ロンドン市Guy's HospitalのPhysical Societyでの講演)

著者: 日野原重明 ,   仁木久恵

ページ範囲:P.1892 - P.1899

 前号(19巻9号)では,オスラーが17歳の時から愛読し,終世これを座右においた本「医師の信仰」の著者Thomas Browne(1605-1682)に関する講演(1905年)の前半(その1:人物について)の翻訳文を紹介した.
 本号は,その後半で,Browne卿の「医師の宗教」その他の名著を紹介し,その美文と内容を賞嘆し,彼の性格,学識,信仰と当時の世の批判などについてオスラーが講演したものを和文で紹介する次第である.

天地人

わが身をツネって人の痛さを知れ

著者:

ページ範囲:P.1891 - P.1891

 健康で体力のあることは医師として絶対に必要な資質の一つである.やや極端な言い方をすれば,学問的に優秀でも虚弱で体力のない医師より,学問的には十人並みでもスタミナとガッツのある医師の方が実地診療上はるかに頼り甲斐があることすらある.これは急患や重患を扱う医師—とくに外科系医師の場合そうで,数日間不眠不休で診療にあたっても過労によって判断力が低下したり,感情的に不安定になったり,疲労困憊して最後の最後まで受持患者の疾患と闘い抜く闘志と精神力を失うようであってはならないのである.
 しかし,その反面,「生来健康で病気知らず」の医師は患者にとって必ずしも有難い存在とは言いかねる点もある.それは,ちょうど順境に育った苦労知らずの秀才人間が,社会の底辺にある不幸な人々の気持をよく理解できないのと同じである.健康に恵まれた者には病苦に打ちひしがれた人々の気持は「理屈」でわかっても「実感」として体得できないのである—自分が彼らと同じ境遇におちいるまでは…….

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VIA AIR MAIL

著者: 福井次矢

ページ範囲:P.1900 - P.1903

言語・宗教の多様性,驚くべき数のアルコール中毒患者など,日本とは違う医療事情の中でのプライマリ・ケアの研修は,外来トレーニングが中心

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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