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雑誌目次

雑誌文献

medicina19巻3号

1982年03月発行

雑誌目次

今月の主題 リハビリテーションの現況

理解のための10題

ページ範囲:P.488 - P.490

治療法

理学療法

著者: 谷岡淳

ページ範囲:P.394 - P.396

 リハビリテーションで実施される理学療法には,受動的なものと能動的なものがある.前者は主に物理的mediaを用い,熱(温熱・冷熱),水(温水・冷水),電気(低周波・高周波・超音波)やマッサージを人体に施すことによって全身のリラクゼーションや局所の疼痛の寛解,軟部組織の伸展性の増大などを日的とする療法である.能動的理学療法では運動(体操)に主眼がおかれ,種々の運動麻痺や神経・筋骨格系の損傷に対しダイナミックな機能回復を促進することが目的になる.リハビリテーション技術の進歩に伴い,物理的手段を主体にする理学療法がややもすると等閑される傾向にあるが,適応を熟知し運動療法と併用することによって,リハビリテーションの効果がさらに期待できる.
 以下,温熱療法,水治療法,牽引療法について概説する.

運動療法と治療体操

著者: 石田暉 ,   千野直一

ページ範囲:P.397 - P.401

 運動療法は筋骨格系の機能異常に対して処方されるものであるが,運動による影響は局所ばかりでなく,循環器系,神経系をはじめ内分泌系にも及ぶことを常に考慮しておかねばならない.すなわち,前述の器官に合併症のある患者の運動療法は慎重に内容を選択すべきであろう.
 運動療法の中には,関節可動域運動(range ofmotion exercise,ROM),筋力増強運動,巧緻運動,持久力運動などがあるが,処方の内容は診断名が同じであるからといって,画一的であってはならない.あくまで個別に処方されるべきである.そのために,患者の障害(impairment)を的確に診断し,適切な運動を選び出す必要がある.また.一たん処方しても患者の状態に変化があれば,それに応じて運動内容をかえることは,薬の処方と何ら変わることはない.

ハリ治療

著者: 井上和彦

ページ範囲:P.402 - P.404

 リハビリテーションにおいて,痛みを除去することが治療の主目的である場合があり,このような場合にハリ療法が単独で,また他の治療法との組み合わせにより用いられる.
 ハリ治療は古くから中国および日本などで疾病に対する重要な治療法の1つとして行われてきた.この治療法が脚光を浴びるようになったのは,東洋医学への再認識とMelzack, Wall & Caseyの提唱したgate control説である.gate control説とは,「痛みは痛みの経路に限局した神経活動によって起こるのではなく,むしろそれぞれ特殊機能を有するいくつかの互いに作用する神経系の活動の結果であり,染色性の特異な膠様質が求心上行路の一つの門をつくり,細い線維活動で開かれているが,phasicな太い線維活動で閉じられようとし,この門の開閉には中枢から下行する促進系と抑制系が影響する」というものである.この痛みを科学的に考えることが痛みに対する治療を進歩させた方現在は否定的であるにせよ,Melzackらの痛みを神経生理学的に説明することが,古くから東洋において行われているハリ治療に学問的支持を与え,そしてハリの有効性が多くの医師により再認識された.

薬物療法—筋弛緩剤について

著者: 初山泰弘

ページ範囲:P.406 - P.407

 筋のつっぱりを伴う運動障害"痙性麻痺"に対する薬物療法は,リハビリテーションの分野では機能訓練の併用療法としても導入されている.
 痙性に用いられる薬剤は骨格筋の緊張を緩めるものとして筋弛緩剤と呼ばれる.

心理療法

著者: 崎尾英子 ,   河合洋

ページ範囲:P.408 - P.410

 「心理療法」という言葉が発せられるときに,それを聞く人間1人1人に喚起されるイメージは大いに異なっている.ある医師には自分の分野とは無関係のできごとのように思え,別の医師には医学の領域外のもの,また別の医師には精神分析の別語である,という風に受けとられるかもしれない.薬物療法,運動療法のようにその言葉自体が明確にその内容を示すものと異なり,この言葉は漠然と捉えどころがない.
 本論はこの一見わかりにくい心理療法という言葉を明確化し,それが決して医学の枠外のものでも,狭い理論の枠に限られたものでもなく,日々の臨床場面に十分に活用可能であること,そしてその活用が今後の医療の実践において重大な積極的価値をもつものであることを示そうとするものである.

言語治療

著者: 柴田貞雄

ページ範囲:P.412 - P.413

言語行動のシステムとその障害
 言語の行動を以下の5つの経路に分ける(図).
 ①話された言葉(音声記号)が聴器を通って大脳の言語中枢へ到達する.
 ②言語中枢において,音声記号(〔RINGO〕という音)から対応する概念("赤くて丸くて甘ずっぱい果実")を想起する.
 ③②と反対に,ある概念を想起し,それに対応する音声記号をプログラムする.
 ④プログラムに従い発声発語器官を動かして,その音声記号を実現する(構音).
 ⑤聴覚的にフィードバックする.
 経路②,③ではさらに語と語を統合して文を作る(構文)機能を持ち,より複雑な概念を組み立ててゆく.

補助用具

義肢と装具

著者: 武智秀夫

ページ範囲:P.414 - P.418

 外傷や疾病のため四肢を切断した人たちのことを切断者といい,切断された四肢の欠損をおぎない,失われた機能をできるだけ正常に近づけるために用いるものが義肢である.
 上肢の切断に用いる義肢を義手といい,下肢の切断に用いる義肢を義足という.切断部位の表現には切断高位が用いられる.たとえば肩関節離断,前腕切断,膝関節離断,大腿切断といったようである.義肢はこの切断高位に対応し,肩義手,前腕義手,膝義足,大腿義足というように呼ばれている.

車椅子,杖,歩行器

著者: 加倉井周一

ページ範囲:P.420 - P.426

車椅子
 車椅子の種類 車椅子は大別すると,(1)原則として使用者が自ら操作するもの,(2)介助者が手押しで動かすもの,(3)電動車椅子,の3つに分類される.
 1)使用者が自ら操作する手動車椅子:①車椅子普通形(後輪駆動形)standard type wheelchair.ユニバーサル形,または後方大車輪形とも呼ばれ,自在輪(キャスター)が車体の前方にあるもの.折り畳み可能なものが多い.

社会復帰

作業療法

著者: 福田恵美子

ページ範囲:P.427 - P.431

 作業療法を,基本的・原理的な面にポイントを置き述べたいと思う.
 疾病の治療に,作業そのものが役立つという考え方は,相当古くから抱かれていたもののようで,エジプト,ギリシャ,ローマにもその芽生えがみられる.実際に意識して作業を適用する治療法は,主として精神科領域から始まった.スイスのRollierは,結核の後療法にこれを用い,このときの精神的な問題に対しても有効であることを指摘している.

社会復帰の実際

著者: 五味重春

ページ範囲:P.432 - P.434

 「リハビリテーションの現況」という特集のなかで,表題について執筆を依頼されたが,リハビリテーションの目標と社会復帰との関係を明らかにしたい.
 リハビリテーションの目標は,障害によって失われる障害者自身の人間として社会に生きる権利の回復にある.リハビリテーションの適切な和訳がないころに更生という語が用いられ,今なお残っている.

疾患とリハビリテーション

脳卒中

著者: 福井圀彦

ページ範囲:P.436 - P.437

脳卒中リハビリテーションとCT,RI
 「脳卒中のリハビリテーション(以下リハ)は発病当日から始まる」という考え方が普及してからかなり経過するが,発病当日より歩行訓練や言語治療を開始するという意味ではないことは明らかで,体位変換,良肢位保持を除いて,case bycase,その具体的方法についてはかなりの隔たりがある.
 最近のCT,RIの普及は発病直後あるいは早期に病変の種類,位置,広がり,脳循環(局所も含め)の動態などを明らかに示してくれる時代をもたらし,手術の適応,生命の予後のみでなく,リハ的予後,再発のリスクなどに関しても情報を提供してくれるので,リハプログラムをたてる上で大変好都合となった」とはいうものの,CT所見が同様でも,臨床症状や経過にかなりの相違があることが少なくないことも銘記すべきである.

脊髄障害

著者: 岩倉博光

ページ範囲:P.438 - P.439

 広い意味で脊髄障害の場合に用いられる語にmyelopathyがあるが,これは原因が感染性のもので炎症性病変が存在する場合には別にmyelitisと呼ばれる以外,中毒,代謝障害,変性,血管障害,圧迫外傷,物理的要図,栄養障害,あるいは先天性疾患などによるものを一括して取り扱っている.

慢性関節リウマチ

著者: 菅原幸子

ページ範囲:P.440 - P.442

 慢性関節リウマチ(以下RAと略す)は症状が増悪緩解をくり返し,症例によりいろいろな異なった長い経過をたどる.しかも一度本疾患の特徴的骨・関節の破壊を生ずると,その多くは進行性であり,しかも不可逆性であるため,機能障害や変形を生ずる.RAはいまだ病因が明らかにされておらず,したがって治療にあたっては病因に基づく根治療法はなく,すべて対症療法である.炎症症状を抑制し,関節機能を保持して変形の招来と悪化を防止し,日常生活および社会生活を維持させるのを治療の方針として,薬物療法,理学療法を十分に活用させ,症状に応じた適切な治療を長期にわたって実行するような管理を行わなくてはならない.

腰痛症

著者: 米本恭三

ページ範囲:P.444 - P.447

 腰痛は各人が日常しばしば遭遇する悩みの1つであるため大変身近に感じられる。しかしこの腰痛なる症状をひき起こす病態を考えたどき,いかに多くの疾患を鑑別しながら適切な治療を考えていかなければならないかという点で,惑いさえ覚えるのである.単に腰痛症と呼ばれ簡単に片付けられていた症例の中に,ときとして脊椎への転移癌まで含まれている可能性があるため,的確な診断に基づく症状の把握はリハビリテーションを行う際にまず要求される最も大切なことであろう.
 従来の腰痛に対して行われてきた基礎的研究や診断,治療に関する報告は多岐にわたり,すべてについて限られた誌面の中で述べることはむずかしい,しかし重要な知見に関しては多数の著書の中に記されているため,必要に応じて参照されたい.ここでは筆者らが行ってきた研究の一端を述べ,実際に腰痛治療の折,いかなる点に注意を払いながらリハビリテーションを行っていくべきかについて論じたい.

末梢神経障害

著者: 伊地知正光

ページ範囲:P.448 - P.450

 末梢神経障害のリハビリテーションは,その障害が回復性のものか,非回復性のものかで,処方およびプログラム,さらに目標が異なってくる.
 また,非回復性のものも,残存する筋力で代償できるものか,何らかの機能再建術を行えば代償機能が向上するものか,あるいは,患肢そのものだけでは代償能力がないと判断される類の障害であるのかによって,ゴールの設定に配慮が必要となる.

筋疾患

著者: 中瀬浩史 ,   杉田秀夫

ページ範囲:P.452 - P.453

 筋ジストロフィー症,とくにDuchenne型(DMD)は適切な治療法のない予後不良の疾患であるが,逆に運動機能を可能なかぎり保持し,日日の生活を意義あるものとするためにも,リハビリテーションの果たす役割は重要である.DMDには筋疾患のリハビリテーションの多面的な問題点が集約してあらわれており,すでにいくつか優れた論文が発表されているが1〜5),以下DMDについて述べる.

心筋梗塞

著者: 石神重信

ページ範囲:P.454 - P.455

 近年,心臓疾患の増加と,急性期治療の進歩による死亡率の低下から,心疾患患者へのリハビリテーション(以下リハと略す)の必要性は増大してきている.
 心筋梗塞を例とすると,従来絶対安静の期間が2週から4週間と長かった方法から,急性期より積極的にリハを行って早期退院,早期かつ充実した社会復帰(復職を含めた)の方向に変わってきている.

呼吸器疾患

著者: 木田厚瑞

ページ範囲:P.456 - P.458

呼吸器リハビリテーションの概念
 呼吸器リハビリテーションは,急性,慢性の経過を問わず,呼吸器疾患の総括的,統合的な臨床的管理を意味する言葉として用いられている(American College of Chest Physicians,1974の定義による).ここで担当する医師は,プログラムを実施にうつす際のチームのリーダーであり,オーケストラにおける指揮者にもたとえられている1)
 呼吸器リハビリテーションでは理学療法(physiotherapy)と心理的・社会的な連携性(psychosocial implication)が重要な2要素としてあげられている2〜4)

精神障害

著者: 比賀晴美

ページ範囲:P.460 - P.462

 わが国において,精神障害者のリハビリテーションが注目され始めたのは第二次大戦以降のことである.イギリス,アメリカなど諸外国からの影響や,向精神薬の導入という事情がその背景にあった.1960年代,精神科病棟の開放化が始まり,薬物療法,生活療法を主体とした日常治療に加えて,精神障害者の再社会化を目指した社会療法としてのリハビリテーション活動が盛んになっていった.以後,いくたの試行錯誤をへて,現在では「障害者の人権そのもの」を重視したリハビリテーションへと目が向けられている.
 なお,本稿では精神科リハビリテーションの対象として最も中核を占める精神分裂病を中心に記述する.

症候とリハビリテーション

排尿の障害

著者: 陣内一保

ページ範囲:P.464 - P.467

 排尿の障害は本来泌尿器科的問題であるが,リハビリテーションの面からみると,重大な機能障害(impairment)である.
 排尿行為はトイレ動作としてADL(日常生活動作)の一部をなしている.トイレの使用に介助を要したり,ベッド上で排泄した尿の始末に他人の手を借りたりすることは,ADLの障害,すなわち能力障害(disability)としてとらえられる.

血行障害と四肢切断

著者: 長尾竜郎

ページ範囲:P.468 - P.471

 四肢切断はわが国では70〜90%が外傷性であるに反し1),欧米では約70%が血行障害によるものであり,いわば内科,老人科の対象である.しかしわが国でも老齢化や食生活の欧風化とともに血行障害による切断が急増しつつあり,一般内科医にもその方面の知識が必要となってきている.
 ここでは血行障害による切断前後の諸問題の整理を主眼としたので,閉塞性動脈疾患,血管外科,リハビリテーション医学などの詳細は成書に譲りたい.

視覚障害

著者: 中島章 ,   赤松恒彦

ページ範囲:P.472 - P.474

 視覚障害者のリハビリテーションには視力障害,視野障害,明暗順応障害,色覚障害,立体覚障害などを含むが,今回は視力障害,視野障害者を対象としたリハビリテーションを中心に述べてみたい.
 視覚障害リハビリテーションの大きな特徴は,他のリハビリテーションと異なり,機能回復がほとんど望めない状態に対するリハビリテーションであることである.すなわちリハビリテーションそのものが代行感覚の訓練,補装具による感覚代行,および補強などである.視覚機能を発達させるためのリハビリテーションとしては,乳幼児における斜視弱視,屈折性弱視に対する視能訓練がある.このために視能訓練士が養成され,眼科の診療の中で視能訓練が行われている,今回は視能訓練にはふれない.

聴覚障害

著者: 鈴木淳一

ページ範囲:P.476 - P.478

聴覚障害の種類,程度,特徴―ひとに見えない障害
 聴覚障害は,視覚障害と違って,いわば「見えない障害」,すなわち,まわりの人にとってわかりにくい障害である.盲人は,立居も不自由ということで周囲の同情をひくのに,難聴者は"勝手つんぼ"などといわれ,しばしば同情よりは反感さえ買うことのあるのは不可思議である.聴覚障害は,ある程度かくすことができるし,かくしたい心理が障害者の多くに認められる.これは,他の多くの障害と異なる大きな特徴であり,障害発見とその治療,リハビリテーション実施上の大きな困難の1つである.聴覚障害は,視覚障害とは異なった,しかし,同様にあるいはそれ以上に重大な障害である.
 難聴を分類して,
 中枢性難聴 内耳性難聴―感音性難聴
 外・中耳性難聴―伝音性難聴
 のように大別することができる.このうち,声を大きくさえすれば理解できるのは,外・中耳性難聴(伝音性難聴)である.

座談会

リハビリテーション最近の話題

著者: 上田敏 ,   大川嗣雄 ,   明石謙 ,   横山巌 ,   大井淑雄

ページ範囲:P.479 - P.487

診療技術の進歩biofeedback法/義肢,装具/生理学的な研究の展開/脳卒中・片麻痺の診療上の進歩 リハビリテーション診断学 リハビリテーションにおける診断とは/医師の役割 リハビリテーション教育 卒前教育/もっと実際的な教育を/卒後教育/内科医も認定医に パラメディカル教育 PT, OTはふえてきた/義肢・装具士の学校も 専門施設のあり方 日本とアメリカでは方向が逆 リハビリテーションと入院施設 ベッド数は不足ぎみ/ベッドは必ず必要/ベッドなしでできるものも リハビリテーションと社会復帰 復職のための要因/重度障害者の就職はいまだに困難/メディカル・ソーシャルワーカーの養成を/リハビリテーション医学の限界? 外国の状況と国際交流 日本のレベルは欧米なみ/開発途上国に学ぶ/人材のレベルはまだまだ リハビリテーションの将来と課題 臨床心理学的なアプローチを/他領域からの関心と取り組みを

カラーグラフ 臨床医のための腎生検・3 糸球体病変・3

メサンギウム増殖性糸球体腎炎

著者: 坂口弘

ページ範囲:P.492 - P.493

 ほとんどすべての糸球体に一様にメサンギウム細胞の増殖のみられるもの(末梢のメサンギウム領域に4個以上のメサンギウム細胞の増殖を伴っているもの)で,増殖の軽度のものから高度のものまでいろいろあるが,進行したものではメサンギワムの硬化が著しくなる.
 メサンギウム増殖性腎炎という名称は長くて少し不便であるし,一般にprolif. GNといえばメサンギウムの増殖を主体とするこの型の腎炎を表わしていることは常識であるので,筆者は日常はメサンギウムを略しprolif. GNとして用いている.

連載 演習

目でみるトレーニング 58

ページ範囲:P.495 - P.501

画像診断 心臓のCT・3

弁の石灰化

著者: 太田怜 ,   林建男

ページ範囲:P.502 - P.505

 リウマチ性弁膜症の際,弁尖の石灰化は病理所見ではしばしばみられている,しかし,これを生前発見することは難しい,わずかにX線透視下で,弁の動きとして発見されたり,心エコー図の上で,弁からの反射エコー輝度の著しい増強から,それと推定されるにすぎない.
 ところが,CT像では,このような弁尖の石灰化がきわめて容易に発見できる.

今月の焦点 対談

Therapeutic Drug Monitoringの必要性とその意義

著者: 石崎高志 ,   河合忠

ページ範囲:P.508 - P.521

 河合 私ども医師が患者を治療する場合,いろいろな方法を使っているわけですけれども,やはり最も頻繁に行われ,また重要なものとしては,薬物の投与があると思います.昔から医師の"匙加減"とまでいわれて,いろいろ薬の配合などを経験的に行ってきたわけですが,その後,錠剤の普及によって匙加減もだんだんなくなり,一律に投与される傾向が強くなってきたわけです.
 しかし,最近,臨床薬理学的な研究が進むことによって,体内での薬物の動態がだんだん解明されてきました,それによって,できるだけ客観性を持たせた,それぞれの患者に最も適した投薬を行おうという気運が高まってきています.それを広く"drug monitoring"と呼んでいるのですが,本日は,この道で長年研究を重ねておられます石崎先生に,いろいろおうかがいしたいと存じます.

講座 図解病態のしくみ 消化器疾患・25

Parenteral & Enteral Nutrition(4)—必要カロリー量・蛋白質量の算出去と合理的治療法の選択

著者: 松枝啓

ページ範囲:P.523 - P.527

 先肝号までに,栄養不良状態の病態生理の基礎となる"飢餓と外傷時の代謝",そして栄養不良状態の合理的評価法,さらにProtein-Calorie Malnutritionの病態生理,臨床的意義および臨床像や診断法について述べた.
 このProtein-Calorie Malnutritionの治療には,その栄養不良状態の程度に応じた段階的治療がなされるべきであることも先月号で述べたが,今月号ではこのProtein-Calorie Malnutritionの治療について具体的に述べたい.

図解病態のしくみ 臓器循環・3

腎循環—解剖,生理,病態生理のまとめ

著者: 須永俊明

ページ範囲:P.529 - P.535

 腎の機能または仕事は,血流量を大量に必要として,酸素(量)は,それほど必要としないといわれる.これらをやや具体的に示すと,①腎血流量は,1200ml/min,400ml/100g/minと非常に多い.この量は,心拍出量22%内外であって,この大量の血液が腎を流れているのである.②これに対して,腎の酸素消費量は,15ml/min,5ml/100g/minで,非常に少ない.またA-V酸素較差は,1.3ml/100ml bloodである.

臨床薬理学 薬物療法の考え方・11

臨床薬効評価(3)

著者: 中野重行

ページ範囲:P.537 - P.542

 合理的な薬物療法を確立するためには,臨床における薬効の評価は必要不可欠なプロセスである,このような「臨床薬効評価」に関する倫理性の問題各試験段階の特徴,比較対照試験の必要性,二重盲検法の重要性,推計学の利用などについては,前回までに述べた.今回は,「臨床薬効評価」の各段階の目的と,一般に広く行われている手続きについてまとめることにする.
 すでに記したように,ヒトを対象とした臨床試験は,普通比較的少数の健常人を対象とした第1相試験(phase 1 study),次いで,その薬物の有効性が期待される病態像を有する患者層を対象とした第2相試験(phase 2 study),さらにその薬物の有効性と安全性の確認段階である第3相試験(phase 3 study)へと進む.この段階までに薬物の有効性が確認されると薬として許可になるが,さらに市販された後に長期にわたって臨床の場でその安全性と有用性の評価を行う場合には,これを第4相試験(phase 4 study)と称している.

異常値の出るメカニズム・47 酵素検査(7)

血清コリンエステラーゼ

著者: 玄番昭夫

ページ範囲:P.543 - P.549

コリンエステラーゼの種類と分布
コリンエステラーゼの種類
 一般にコリンエステラーゼ(Cholinesterase ChE,EC 3.1.1.8)と呼んでいるものは,次のようにアセチルコリンのみならず,その他のアシルコリン(ベンゾイルコリン,ブチリルコリンなど)の加水分解を触媒する酵素である.
 これに対して,アセチルコリンエステラーゼ(Acetylcholinesterase,AChE,EC 3.1.1.7)とは,という反応を触媒する酵素に対して名付けられたものである.前者のChEを別名偽のコリンエステラーゼ(Pseudocholinesterase)と呼び,そして後者のAChEを真のコリンエステーゼ(Truecholinesterase)と呼ぶのは,ChEがアセチルコリンも分解するので,おそらくAChEの偽ものといった意味からであろうと思われる.そしてこの両者を区別して測定したいときには,ChEの場合はベンゾイルまたはブチリルコリンを,AChEの場合はアセチル-β-メチルコリンをそれぞれ基質として使用する.すなわち,アセチル-β-メチルコリンはChEによって分解せず,AChEによってのみ分解(ただしアセチルコリンのときよりもその分解速度は遅い)されるのに対し,AChEはベンゾイルやブチリルコリンを分解しないからである.

外来診療・ここが聞きたい

Lone fibrillation

著者: 井上清 ,   村山正昭

ページ範囲:P.568 - P.572

症例
患者 K. H. 42歳 男
主訴 不整脈と心窩部圧迫・不快感

診療基本手技

点滴セットを用いた腹水採取法

著者: 藤田善幸

ページ範囲:P.401 - P.401

 腹水大量貯留の入院患者において,圧迫症状が強く苦痛も強いとき,また,自己腹水濃縮還元装置使用のときなどで,大量の腹水採取が必要となる場合をしばしば経験する.通常,套管針を用いて排液するが,その針の太さのため患者への負担が大きく,また,抜去後の穿刺孔からの漏水や感染などの合併症を引き起こす場合を稀に経験する.そのため,当内科ではなるべく套管針を用いず,静脈穿刺用カニューレ(angio cath)を用いて行うようにしている.この方法の特徴は,簡単に穿刺できるほか,点滴セットに接続できるため,排液速度の調節,および排液量の正確な測定が可能なことなどである.

CPC

52歳時より慢性関節リウマチを罹い,咳嗽,息切れ,微熱を主訴として入院した61歳男性の例

著者: 諸橋芳夫 ,   斎藤陽久 ,   山口一 ,   浅田学 ,   鈴木良一 ,   安達元郎 ,   登政和 ,   石井志博 ,   今井賢二 ,   吉田象二 ,   塚本俊彦 ,   住田孝之 ,   関保雄 ,   吉沢熈 ,   野辺地篤郎 ,   本間日臣 ,   熊谷朗 ,   斎木茂樹 ,   山中晃

ページ範囲:P.574 - P.585

症例 61歳 男性 無職
初診 昭和47年2月8日
入院 第1回 昭和47年2月17日〜昭和48年9月28日
第2回昭和54年1月17日

オスラー博士の生涯・104

結束,平和,ならびに協調—メリーランド州内科外科医師会の総会での告別講演(1905年)

著者: 日野原重明 ,   仁木久恵

ページ範囲:P.552 - P.560

 ジョンス・ホプキンス大学医学部の創設に貢献し,ここで1889年から16年間医学教育と研究と診療に身を捧げたウィリアム・オスラーは,1905年にボルチモア市を去り,オックスフォード大学に転任した.彼は,1905年2月には,ジョンス・ホプキンス大学を去るに当って,「固定期間」(Fixed period)と題する告別講演を,また1905年4月には,母校のカナダのマギル大学で「学究生活」と題するアメリカ大陸を去るに際しての告別講演をした.
 そして同じ年の4月29日には,アメリカ合衆国を去る最後の告別講演をメリーランド州内科外科医師会の総会で行ったのである.

天地人

議論の真贋

著者:

ページ範囲:P.551 - P.551

 国の内外を間わず同じであると思うのだが,議論をして正当に黒白が明らかになることは少ないようである,個人の間でも厚かましい独善的な人間の方が外見上は尤もらしいことを並べたてて議論に勝つのが普通で,正当の主張をしているような人間は,内心で決して納得できないと呟きながらバカバカしくなって黙してしまうことが多い.この場合,彼がいかに相手を憐れんだり,蔑んだりしても負けは負けである.
 政治の駆けひきも同じで,歴史的に有名なのは,維新の際の会津藩で,どこの藩にも負けぬ忠誠心をもちながら,岩倉という怪物政治家の弁口と策略,そして薩摩藩の巧みな裏工作などに負けて,永く賊の汚名に甘んじなければならなかった,現在でも政治家の厚顔無恥を攻撃してみても,そうした政治家でなければ今の世の中を動かすことが出来ないのも事実である.また北方領土は返還すべきと叫んでみても,巨大な国力をバックにしたゴリ押しの論理の前には犬の遠吠えと同じく無力である.

洋書紹介

Edeiken, J. 著—Roentgen Diagnosis of Diseases of Bone in 2 vols. 3rd ed.

著者: 古瀬信

ページ範囲:P.471 - P.471

1,600枚以上の豊富なX線写真
 1973年に第2版が出版されて以来,8年ぶりの改訂である,1962年が初版ということであるので,20年の歴史を持つ,いわば古典の部類に入るStandardなtextbookの一つである.初版については私の知るところでないが,名著の声高き故に,改訂第2版の出版とほぼ同時に買求め,以来,私のbone radiologyに関する知識のよりどころとなっている.
 外傷を除くほとんどすべての骨病変について記載されており,とくに骨腫瘍,代謝性骨疾患の項ではX線所見ばかりでなく,病理所見や臨床像がわかりやすく,理路整然と解説されているのが魅力であった.一行の文章に知識の糧を見出し,"Pearl"といって仲間に誇らしげに教えてやるのも,無味乾燥なtraining時代の楽しみの一つでもあった.

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VIA AIR MAIL

著者: 木戸友幸

ページ範囲:P.562 - P.565

押しの強いユダヤ人.しぶとく適応する外国人医師たち.彼らとともに当直もこなし,卒後のポジションもその成績で決まる学生の臨床実習の効果

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻12号(2023年11月発行)

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特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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