icon fsr

文献詳細

雑誌文献

medicina19巻4号

1982年04月発行

文献概要

天地人

203高地

著者:

所属機関:

ページ範囲:P.767 - P.767

文献購入ページに移動
 もう慣れてしまったが,男の子がベートーヴェンのような長髪になるとは思いもよらなかった.そのような親父にとって,高校生の息子の長髪は不快きわまりない.だから髪を短くしろというと,息子が泣いて厭がるそうである.緑なす黒髪の乙女ではあるまいし,それで泣く息子もどうかと思うが,高校生仲間ではごく当り前になっている息子の長髪に目くじらを立てる親父の時代感覚にも首肯しがたいところがある.髪型などは,所詮ネクタイの幅と同じことで,是非善悪で論ずるものではない.単なる流行にしかすぎないことではないか.
 夏目漱石の小説の挿絵にでてくる明治の乙女の髪形は,例の203高地と呼ばれる廂髪である.それまでは,娘は桃割,人妻は丸髷の時代だから,当時としてはモダンな髪であった筈である.しかし,その乙女が成長してというよりは年を老って,乙女の域をとっくにすぎてしまっても,彼女らはこの髪形を捨てられないでいる.大正・昭和となって,その時々のモガ達が,耳かくしとなり断髪となり,やがてパーマの時代になっても,明治の乙女は相変わらず203高地を頭にいただいている.その頃は,明治の乙女も流石に老女だから,昭和初期となれば,203高地は老女の髪形である.老女の髪形として定着したとすれば,それはそれなりに意味があるだろうが,それを目的として定着したのではない.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1189

印刷版ISSN:0025-7699

雑誌購入ページに移動
icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら