icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina19巻7号

1982年07月発行

雑誌目次

今月の主題 カルシウム代謝の基礎と臨床

理解のための10題

ページ範囲:P.1246 - P.1248

カルシウム代謝とその調節

骨とカルシウム代謝

著者: 白木正孝

ページ範囲:P.1184 - P.1185

 カルシウムイオン(Ca++)が,種々の細胞の機能調節の因子として重要な位置を占めていることは既知の事実である.Ca++はまた,ある種のホルモンまたは神経伝達物質の細胞内メッセンジャーとして神経の興奮,筋細胞の収縮,分泌細胞の分泌過程などの制禦にも重要な役割を果たしている.このようなCa++の細胞機能調節に果たす役割の重要性ゆえに,血中Ca++濃度の変動幅はきわめて小さくセットされている.
 血中Ca++の恒常性維持のため生体内には大きなCa++プールが存在するが,それは骨に存在するカルシウム塩である.このプールへのCa++の供給とプールからのCa++の放出のバランスが,血中Ca++の恒常性を維持し,このバランスを調整しているものが副甲状腺ホルモン(PTH),カルチトニン(CT)およびビタミンDであると考えられている,本稿では,上記の如く血中Ca++の恒常性維持に重要な役割を果たしている,骨におけるカルシウム代謝につき概説したい.

腎とカルシウム代謝

著者: 吉田政彦

ページ範囲:P.1186 - P.1187

 Ca代謝に関与する主要臓器は,小腸,骨組織と腎臓であり,主要調節ホルモンとしては,副甲状腺ホルモン(PTH),ビタミンD(Vit-D)とカルチトニン(CT)である.本稿では腎臓を主体とするCa調節について解説をする.

腸管とカルシウム

著者: 森内幸子

ページ範囲:P.1188 - P.1189

 生体内におけるカルシゥム(Ca)代謝とその調節は,摂取するCaと排泄されるCaのバランスの調節を介して行われるということができる.Caバランスに直接に関与する器官として,骨,腎臓,腸管や筋肉などがあげられるが,これらの中で,腸管は食物として摂取するCaを吸収する第一の関門となっている.
 腸管におけるCa吸収の過程は,生体のニードに応じて変化するように,種々の因子によって調節されている.一方,食事として摂取されたCaの一部は,腸管において吸収されずに,腸管から分泌されるCaや脱落する吸収上皮細胞に含まれるCaなどの内因性Caとともに糞中に排泄されるが,内因性Caの排泄は生体のニードに依存した調節を受けずに,毎日,一定量のCaが失われていく.

筋とカルシウム

著者: 小浜一弘

ページ範囲:P.1190 - P.1191

 Caイオンは細胞膜に起こった変化を細胞内に伝達するメッセンジャーとして多彩な機能を発揮する.筋収縮をひき起こす興奮収縮連関におけるCaイオンの役割はその実例の1つである.本稿では骨格筋および心筋にスポットをあてて細胞内Caイオン脚注1の機能を解説する.

カルシウム代謝調節ホルモン

副甲状腺ホルモン

著者: 大田喜一郎 ,   岡本幸春

ページ範囲:P.1192 - P.1194

 副甲状腺ホルモン(PTH)は最近の分泌蛋白の生合成,solid phase methodによるPTHの合成,副甲状腺細胞の分離などの進歩により,PTHの生理作用,生化学,分泌,代謝などについて明らかになってきた.そこで筆者らはその知見の一端について記述してみたい.

カルチトニン

著者: 森本茂人 ,   大西利夫 ,   熊原雄一

ページ範囲:P.1196 - P.1197

 カルチトニン(calcitonin:CT)は,1962年Coppらにより血中Ca低下ホルモンとして発見され,1963年Hirshらにより甲状腺から分泌されることが見出された.発見当初はPTH,Vit. Dとともに血中Ca調節に必須のホルモンと考えられたが,CT産生腫瘍の甲状腺髄様癌例でCT分泌過剰によると思われる症状や,甲状腺全摘後のCT分泌不足によると思われる症状が認められないことから,CTの生理的役割は成人にとっては非常に重要とは思われず,Ca代謝についてもPTH,Vit. Dの補助的な役割を担っていると考えられる.CTはCa代謝に関与する以外に,最近,消化管,胸腺,肺,脳などにおいても見出され,これらの部位での働きの解明が待たれている.

ビタミンD

著者: 松本俊夫

ページ範囲:P.1198 - P.1199

 ビタミンDは,20世紀初頭にくる病を治癒し得る脂溶性の必須栄養素(ビタミン)として発見された.現在では,皮膚において紫外線の存在下でprovitamin Dからprevitamin Dを経て生合成されるものであることが知られている1).ビタミンDの代謝産物である1,25水酸化ビタミンD(1,25(OH)2D)は,副甲状腺ホルモン(PTH),カルチトニン(CT)と並ぶ,Ca代謝調節ホルモンの1つであり,ビタミンDは,この活性型ホルモンの前駆物質である.本稿では,1,25(OH)2Dの各標的臓器における作用を概説した後,その活性化反応の調節機構について最近の知見をまとめてみたい.

臨床

血清カルシウム値の読み方

著者: 孫孝義 ,   古川洋太郎

ページ範囲:P.1200 - P.1201

 血清カルシウム(Ca)濃度は,副甲状腺ホルモン(PTH),活性型ビタミンDおよびカルシトニンで代表されるCa調節ホルモンによる精妙な調節機構によって維持されており,他方,これらのホルモンの主な作用臓器である腸管,骨および腎における各種の病態生理と深いかかわりをもっている.
 血清Caの異常は,この調節機構に破綻の生じていることを示し,たとえわずかであっても無視できない所見となる.正確な血清Caの測定なしにはCa代謝異常症の発見や診断は不可能といってよい.

原発性副甲状腺機能亢進症

著者: 清水多恵子

ページ範囲:P.1202 - P.1203

定義
 原発性副甲状腺機能亢進症は副甲状腺自体の異常(腺腫,癌あるいは過形成)が先にあって,副甲状腺ホルモンが過剰に分泌されるために起こる疾患である.慢性腎不全にみられる血中Caの低下のために副甲状腺ホルモンが分泌過多になっている続発性副甲状腺機能亢進症や,他組織の悪性腫瘍による高Ca血症(偽性副甲状腺機能亢進症)とは区別される.

続発性副甲状腺機能亢進症

著者: 吉山直樹

ページ範囲:P.1204 - P.1205

数多い疾患が続発性副甲状腺機能充進症をひき起こす(表1)が,その成因は単純ではなく,理解しにくい場合もある.そこで,いくぶんでも理解を助けるために,Ca代謝に関与する基本的因子のいくつかを,思い起こすことをおすすめしたい.周知のとおり,Ca代謝を調節する3つのホルモン—副甲状腺ホルモン,カルチトニン,活性型ビタミンDと,Ca代謝の主要な場である腸管(吸収),骨組織(貯蔵),腎(排泄)の3つの臓器の状態が,Ca代謝異常を理解するために重要である.(しかし,その成因が解明されていない疾患もまだ多く,成因としてここにあげたものには,仮説にすぎないと考えられるものもあえて含めたことをお断りする.)

副甲状腺機能低下症

著者: 岡野一年

ページ範囲:P.1206 - P.1207

 副甲状腺機能低下症には,特発性副甲状腺機能低下症,続発性副甲状腺機能低下症,および偽性副甲状腺機能低下症が含まれるが,偽性副甲状腺機能低下症は次の項目で述べられるので,前二者についてのみ述べる.

偽性副甲状腺機能低下症

著者: 筒泉正春 ,   深見隆則 ,   今井康雄 ,   坂口和成 ,   吉本祥生 ,   藤田拓男

ページ範囲:P.1208 - P.1210

 偽性副甲状腺機能低下症(PHP)は1942年にAlbrightらによりはじめて報告された疾患で,腎機能が正常であるにもかかわらず低Ca,高P血症および低リン酸尿症を示し,これらの異常が外因性のPTHの投与によってもほとんど改善されないことを主徴とする.本症は標的臓器のホルモンに対する受容体の異常の存在が認あられた最初の疾患であり,以後の研究の端緒ともなった点で,臨床上および受容体研究の上からも興味ある疾患である.本邦では厚生省受容体研究班での全国的な患者の集計により統一的な診断基準の作製が進められている.

高カルシウム血症—癌に伴うもの

著者: 大畑雅洋

ページ範囲:P.1212 - P.1213

 高Ca血症は癌患者の10〜20%にみられ,そのうちの80%には骨転移が認められるが,残りの20%では骨に癌細胞を証明することはできない.一方,高Ca血症の最も多い原因疾患は癌である.骨転移のない高Ca血症の原因疾患となる癌のうちで多いのは,腎細胞癌,気管支癌,肝臓癌である.乳癌は一般的に骨転移による高Ca血症を起こし,その頻度が高い.

骨粗鬆症

著者: 中井瑠美子

ページ範囲:P.1214 - P.1215

 骨粗鬆症はマトリックスと骨塩の比率は変わらず,その両者ともに減少している,すなわち骨量の減少している状態と考えられている.本症はクル病や骨軟化症と同様に単一の疾患ではなく,種々の原因により発症した状態の総称であり,通常表1のごとく分類される1)
 primary osteoporosisは原因不明のもので,いわゆる閉経後または老人性骨粗髪症と呼ばれるものに相当する.一方正常人の骨量の減少は40歳以降の男女,とくに女性に多く見られ,この生理的骨量の減少と病的骨量の減少をどう考えるかは問題のあるところであるが,実際に認められる骨量の減少が,生理的骨粗鬆化の範囲を越え,さらに臨床的にも腰背痛を訴える場合は,閉経後または老人性骨粗鬆症と診断すべきであろう.以下primary osteoporosisについて述べる.

骨ページェット病

著者: 林泰史

ページ範囲:P.1216 - P.1217

 ページェット病はPaget J(1877)が骨変形を有する男性例を17年間にわたり観察,剖検し,「骨の慢性炎症の一型(変形性骨炎)」のタイトルで報告して以来,広く認められるようになった.本疾患は過剰な骨吸収にひき続き,過剰骨形成を伴うのが特徴で,骨組織像では層状骨のモザイク様病変と過度の血管新生や骨髄の線維化が特徴的である.骨代謝の面でみると現在判明しているいずれの代謝制御機構をも逸脱した局所的骨病変といえる.

骨軟化症

著者: 下辻常介

ページ範囲:P.1218 - P.1220

 骨軟化症(またはくる病)は,骨の石灰化障害のために骨塩の沈着しない骨基質,すなわち類骨組織(osteoid seam)が過剰に形成される系統的な骨病変である.骨軟化症とくる病とは本質的に同一である.成長中の小児では,類骨組織の増加だけでなく,骨端軟骨の石灰化障害のため発育障害が主病像となり,くる病といわれる.一方,骨端軟骨の閉鎖以後,すなわち成長の完了した後で類骨組織の増加する場合が骨軟化症である.

腎性骨異栄養症

著者: 相澤純雄 ,   川口良人 ,   雨宮光比古 ,   宮原正

ページ範囲:P.1222 - P.1225

臨床上の位置付け
 骨は体内で最も大きな器管で,支持組織として,Ca,Pi,重炭酸などの貯臓器管として重要である.また骨は一見静的に見えるが常に退行,新生を行うダイナミックな組織でもある.
 腎性骨異栄養症(renal osteodystrophy:ROD)とは腎疾患に併う骨病変を総称して呼ぶ.とくに慢性腎不全においては,ほとんど全例において何らかの異常が起こっている.そして長期透析療法において未解決な合併症の1つである.

妊娠とカルシウム代謝

著者: 佐藤和雄

ページ範囲:P.1226 - P.1227

 胎児には30〜40gのCaが蓄積されるが,とくに妊娠8カ月以降に急速に進行する.また胎児の骨成長は母体の栄養状態,年齢,経産回数に関係なく進むといわれ,症例報告としては先天性骨軟化症や先天性クル病の例がみられるが,非常にめずらしいとされている.このように妊娠時のCa代謝は母体側よりみれば非常に多量のCa消費が起こるわけで,このような一種のcatabolismの状態をhomeostaticに維持するための変化が起こるであろうし,胎児側では著明なCaのanabolismがautonomousともいえる状態で進むため,それに必要なCa吸収が経胎盤的に母体の状態に関係なく積極的に行われる1,2).本稿ではこのような変化の特徴の一部を述べる.

トピックス

癌とビタミンD

著者: 宮浦千里 ,   須田立雄

ページ範囲:P.1228 - P.1229

 ビタミンD(Vit.D)は小腸と骨を標的器官とするCa調節因子として広く知られており,その活性型代謝産物である1α,25(OH)2D3は,標的細胞のcytosolに存在するリセプター蛋白との結合を介して作用を発現すると考えられている.また,最近では小腸や骨以外の組織(皮膚,膵,副甲状腺,腎,下垂体など)にも,1α,25(OH)2D3と特異的に結合するリセプター蛋白の存在が報告され,それらの組織におけるビタミンDの作用も検討されるようになった.
 とくに昨年来,数種の腫瘍細胞に同様な1α,25(OH)2D3リセプターの存在が証明され,癌細胞へのビタミンDの関与が注目されている(表)一これら腫瘍細胞への1α,25(OH)2D3の作用に興味が持たれるが,悪性黒色腫細胞では10-10〜10-8Mの1α,25(OH)2D3により増殖抑制効果が認められている1).乳癌の株細胞の増殖に対しては,濃度に依存して抑制作用と促進作用があるという報告と,濃度に依存せず常に増殖を抑制するという報告に分かれている.1α,25(OH)2D3のこれら腫瘍細胞への作用は不明な点が多いが,リセプター蛋白の存在はそれぞれの腫瘍細胞が,1α,25(OH)2D3の標的細胞である可能性を強く示唆している.

カルシウム拮抗薬

著者: 多田道彦 ,   門馬正明

ページ範囲:P.1230 - P.1231

 Ca拮抗薬(Ca antagonists)とは,血管平滑筋や心筋(作業心筋,特殊心筋)における興奮収縮連関においてカルシウム拮抗性に作用し,その収縮性の低下を惹起させることにより,血管拡張,心筋収縮・刺激伝導抑制作用を示す薬剤のことを言う.平滑筋,心筋の収縮機構に関する最近の研究から,この薬剤作用の中心は,細胞内へのCaイオン流入を抑制することが指摘された.
 今日,Ca拮抗薬として臨床的に使用されている代表的薬剤は,verapamil,nifedipine,diltiazemで,これらのCaイオン流入抑制作用は血管平滑筋に対して非常に特異性の高いものである.したがって常用量では血管拡張剤として作用するが,投与量によっては,心筋収縮抑制・抗不整脈作用をも示すことがある.

カルシウム結合蛋白

著者: 奥恒行

ページ範囲:P.1232 - P.1233

 Caは多くの根元的な生命現象の調節に関与しているが,Caイオンが直接的作用をするのではなく,Ca結合蛋白質(CaBP)を介して作用を発現することが次第に明らかになってきた.現在のところ,いわゆるCaBPと称されている蛋白質はおよそ100種類ほど見出されている.CaBPは高等動物から植物に至るまで広く分布し,細胞内だけでなく,細胞外にも存在する.

座談会

カルシウム代謝のトピックス

著者: 富田明夫 ,   須田立雄 ,   今井昭一 ,   折茂肇

ページ範囲:P.1235 - P.1244

生体内の分布と役割 1%たらずが細胞外液中に/非常に狭い範囲で調節されている 生体内のバランス 通常成人の場合は/骨粗髪症の原因によっては多く摂ったほうがよい細胞機能との関係 筋肉の収縮に決定的な役割/ある種の細胞分化に関与 カルシウム濃度の調節機構 3つの調節因子がある/血中Ca濃度を高める因子―ビタミンDと副甲状腺ホルモン/血中のCa濃度を下げる因子―カルチトニン/細胞内のCa濃度の調節因子は何か/生理的レベルのカルチトニンの作用は未知数 カルシウム代謝に異常をきたす疾患 原発性副甲状腺機能充進症/特発性副甲状腺機能低下症/代謝性骨疾患/osteomalaciaについて/どのassayがいいか/ケミカルタイプの副甲状腺機能充進症の治療 OAFとPGについてOAFは腫瘍の末梢血中に存在する/PGとOAFの関係/悪性腫瘍で高Ca血症を呈する頻度/T細胞白血病とOAFの関係/Osteoporosisの治療カルシウム拮抗薬 細胞の外から中に入るCaを抑制/心筋より平滑筋に強い作用/スパスムスで起こる狭心症の治療に/労作性狭心症にも効く/血中Ca濃度はほとんど変化しない/適量なら他の作用は起こらない/高血圧への薬効機序/制癌剤の耐性が解除される/筋ジストロフィー症にも効く?

カラーグラフ 臨床医のための腎生検・7 糸球体病変・7

半月体性糸球体腎炎,管内管外性糸球体腎炎

著者: 坂口弘

ページ範囲:P.1252 - P.1253

 半月体性糸球体腎炎(crescentic GN)は図1のように80%以上の糸球体に半月体がみられ,図2のように係蹄は細胞増殖がなく,虚脱に陥っているもので,管外性糸球体腎炎(extracapillary GN)ともいわれる.電顕では基底膜の断裂がみられ,螢光では通常免疫グロブリンはみられないが,ときにIgGのみられる例がある.
 この型の腎炎は腎不全が急速に進むので,急速進行性腎炎(rapidly progressive glornerulonephritis,略してRPGN)といわれるが,RPGNは症候名で本来はRPGNsvndrome が正しい.

連載 演習

目でみるトレーニング 62

ページ範囲:P.1256 - P.1261

画像診断 心臓のCT・7

心膜炎

著者: 太田怜 ,   林建男

ページ範囲:P.1262 - P.1265

 通常の心X線像では,心陰影の拡大があっても,それだけで心臓そのものが大きくなったものか,心膜液貯留によるものかを決めるのは困難である.しかし,CT像によれば,心臓そのものと貯留液との間では,CT値に著しい相違があるので,上の両者はきわめて容易に識別される.
 また,ごくわずかの心膜液貯留は,通常の心X線像ではわかりにくい最近では,心エコー図が,これを検出するのによいとされている.しかし,その手がかりとされているecho free spaceは,心外膜下の脂肪層による場合もあるとのことである.すなわち,心エコー法では,心膜液と脂肪層を区別することはできない.ところが,CT法では,脂肪はそのCT値が-30以下であるのに対して,心膜液は0からプラスのほうに分布しているので,CT像では心膜貯留液と脂肪の弁別が可能である.

画像診断と臨床

心大血管(III)

著者: 鈴木茂 ,   原田潤太 ,   川上憲司

ページ範囲:P.1267 - P.1276

症例1(図1〜5)
 患者 M. N. 19歳 男性 学生
 現症 身長177.5cm,体重52 kg,脈拍108/分整,血圧:右上肢120/60,左上肢124/58mmHg.胸部に湿性ラ音を,また第二肋間胸骨右縁にLevine 1/6度収縮期雑音,Erb領域に3/6度の拡張期雑音を聴取した.肝腫(+)で軽い起坐呼吸を呈していた.

講座 図解病態のしくみ 消化器疾患・28

Parenteral & Enteral Nutrition(7)—Cetral Parenteral Nutrition

著者: 松枝啓

ページ範囲:P.1279 - P.1285

 Total Parenteral Nutrition(TPN)には,末梢静脈より投与するPeripheral Parenteral Nutritionと,中心静脈内に投与するCentral Parenteral Nutritionがあるが,このうちPeripheral Parenteral Nutritionについては先月号で述べた.とくに,脂肪乳剤(Fat Emulsions)の開発により比較的容易にPeripheral Parenteral Nutritionが施行できるようになったが,このPeripherai Parenteral Nutritionのためには,末槽の良い静脈が存在することが必須条件であり,必ずしもすべての患者に施行できるわけではなく,また末梢に良い静脈が存在しても,長期にわたる施行によりそれらの静脈が静脈炎などのため閉塞し,使用不能になることも稀ではない.したがって,末梢に良い静脈が存在しない場合や長期にわたるTotal Parenteral Nutritionが必要な場合には,中心静脈にカテーテルを挿入し施行するCentral Parenterai Nutritionが必要になってくる.今月号では,このCentral Parenteral Nutritionの実際,およびその施行中に起こりうる合併症とその治療について述べたい.

図解病態のしくみ 臓器循環・6

胃・腸管の循環—解剖,生理,病態生理のまとめ

著者: 須永俊明

ページ範囲:P.1287 - P.1291

 消化管の循環系の簡単な解剖,生理および病態生理の一部を列挙して,整理した.
 1)解剖上の特性は,吻合である.胃の壁内では,非常に多くの吻合があるが,胃と十二指腸との間にはほとんどない.
 2)解剖上,血行維持の立場からは,短胃動脈と左下横編膜をのこすのがよい.

異常値の出るメカニズム・51 酵素検査・11

血清α-ヒドロキシ酪酸脱水素酸素(HBD)

著者: 玄番昭夫

ページ範囲:P.1293 - P.1299

HBDの本体
 α-ヒドロキシ酪酸脱水素酸素(α-hydroxybutyrate dehydrogenase,HBD)とは,という反応を触媒する酵素として知られているが,しかしこのような酵素は実在しないと考えられている.これに対して乳酸脱水素酵索(LDH,EC 1.1.1.27)は,という反応を触媒するが,しかしLDHは乳酸以外に,一般にα-ヒドロキシモノカルボン酸(L-2-ヒドロキシモノカルボン酸)を酸化する酵素としても知られている.したがって左記(1)式はおそらくLDHによってその酸化還元反応が行われているものと思われる.つまりHBDはLDHそのものと考えられるが,しかし臨床的に血清LDHと同HBDを区別して灘定しているのは,疾患によって両酵素の変動がきわめてユニークなものがあるためである(図4).このようにHBDとはまったく臨床的な名称であるが,それではこのようなユニークな変動パターンを示しうるその背景は一体どのようなものであろうか.

臨床薬理学 薬物療法の考え方・12

臨床薬効評価の問題点

著者: 中野重行

ページ範囲:P.1301 - P.1308

 合理的な薬物療法を行うためには,個々の患者の病態像に合わせて,最適薬物の最適量を,最適投与間隔で,しかも最適投与経路で投与する必要がある.そのためには,鯛々の患者の有する病態像が,投与薬物の生体内における薬物動態と薬物に対する生体の感受性にどのような影響をもたらすか,という点に関して十分な情報が整っていなければならない.さらに,最適薬物を選択するためには,種々の病態像における薬物の有効性と安全性に関する科学酌な情報が得られていなければならない,前者は,薬物の投与量,投与間隔,投与経路の最適なものを選択する際に必要な情報であり,後者は最適薬物を選択する際に欠かすことのできない情報となる.この中で,現在広く行われている「臨床薬効誰価」は,主として後者の薬物の選択(すなわち,ある病態像に対して有効かつ安全な薬物を選択する)に際して必要な情報を得る手段となっている,現行の臨床薬効評価法の根底を流れている基本酌な考え方,その具体的な方法については,前回まで3回にわたってまとめた1〜3).その中でも述べたように,薬効評価なかでもとくに「有効姓の評価法」に関しては,いわば標準化されてしまった感さえある現状といえる.
 しかし,いかなる人にも長所と欠点があるように,標準化された感さえあるこの「臨床薬効評価法」にも,種々の問題点が認められる.

コンピュータの使い方・1【新連載】

歴史と現状,コンピュータへのアクセス

著者: 坂部長正 ,   開原成允

ページ範囲:P.1309 - P.1315

 昔から人間は,集計,分類,加減乗除などの計算に多くの時間と労力を費してきた.1694年ライプニッツは加減算のくり返しで乗除算のできる計算機を作ったが,そのときの彼の言葉「奴隷のように時間をかけて計算することは人間のやることではなく,機械にまかせるべきだ」は,今日でも電子計算機(以下電算機)のテキストによく引用されている.
 その後,電子技術の進歩,社会構造の改新,戦争などが,より速く正確な計算という要求をかりたて,1946年エッカートらは18,800個の真獲管を使った130キロワット,重量30トンという巨大な計算機を作り,ENIACと名付けた.これが徴界初の電算機とされている.ついで1952年フォン・ノイマンが命令を数値でおきかえ符号化したプログラム内藏の計算機を完成し,UNIVACの名称で発売された.

外来診療・ここが聞きたい

高血圧のあるパーキンソン病の例

著者: 大友英一 ,   村山正昭

ページ範囲:P.1318 - P.1322

症 例
患者 T. I. 56歳 女
主訴 手のふるえ,履き物がはきにくい

診療基本手技

尿道カテーテルの挿入法

著者: 高尾信廣 ,   西崎統

ページ範囲:P.1316 - P.1317

 尿道カテーテルは,ベッドサイドにおける手技としては比較的簡単な手技といえるので,かえって蓬本約なことを忘れやすい.常に何のために尿道カテーテルを挿入するのか,目的を考えながら処置をしたい.
 尿道カテーテルはいろいろな状況下で挿入されるので,一酸的なコツについてはうまく表現しにくいが,筆者らが主に日常気を信けている点を中心に記してみる.

特別企画 非ホジキンリンパ腫の分類と治療

I.非ホジキンリンパ腫の分類

著者: 片山勲

ページ範囲:P.1351 - P.1357

1.LSG分類の生い立ち
 非ホジキンリンパ腫の分類は現在,世界的に大変混乱している.その理由は従来広く愛用されてきたRappaport分類1)がいくつかの点で免疫学的新知見と矛盾することが次第に明らかにされ,したがってそのまま使用し続けることができなくなってきたためである.そこで最近約10年間に,数多くの新分類が提唱されてきた.アメリカからだけでもLukes-Collins,Dorfman,Berard,Nathwaniらによって4種類の提案がなされた.一方,ドイツ,フランス,イギリスからもそれぞれ別個の提案がなされている.いずれもその考え方と術語に多少の相違があり一長一短で,国境を越えて広く採用されるほどの説得力を発揮した分類はまだ見当たらない.
 このような混乱した現況を打開するために,須知泰山博士を筆頭とする専門家の委員会Lymphoma Study Group of Japan(LSGと略す)が最近,右掲の新分類を提唱した2)

II.非ホジキンリンパ腫の治療

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.1358 - P.1366

1.非ホジキン病の病期1)
 非ホジキン病の病期分類はホジキン病と同様の方法で,Ann arbor staging classification(表1)をもとにして分けられているが,ホジキン病に比して利用率が高くない.つまり,①予後の判定に有用でないこと,また②非ホジキン病ではリンパ節以外の部位がおかされることが多いこと,がその主な理由である.さらに,AとBに分けられ,Aは症状のないグループ,Bは,発熱,寝汗,体重減少(体重10%以上)のあるものとする.
 臨床的病期分類は,まず注意深く現病歴をとり,身体所見をみること,血液検査,レントゲン検査を行わなければならない(表2)2).Preauricularnodeの病変が疑われるときには,Waldeyer's ringにもリンパ腫があることが多いので,咽頭から喉頭にかけて十分検査する必要がある.Epitrochlear nodeの腫大は非ホジキン病に特有で,ホジキン病にはほとんどみられない.また非ホジキン病ではリンパ節以外の病変が比較的多くみられ,骨や皮膚がよくおかされるので注意深く診察を行う.胸部X線像ではおよそ26%が陽性で,大部分が縦隔か肺門部の異常を呈する.胸水の性状が乳び液または濾出液であり,細胞診が陰性であればIV期にはならない.肺実質のみの病変は頻度が少ないので(2%以下),胸部断層撮影は胸部単純X線が正常であれば撮る必要はない.

CPC

下壁梗塞に完全房室ブロック,心不全を合併し,急性期に死亡した56歳女性の例

著者: 角田興一 ,   鏡味勝 ,   高橋正志 ,   小方信二 ,   稲垣義明 ,   鈴木勝 ,   小川芳信 ,   金子重夫 ,   住田孝之 ,   斎木茂樹 ,   竹内信輝

ページ範囲:P.1325 - P.1337

症例 56歳 主婦
 入院:昭和56年3月25日
 死亡:昭和56年3月28日

オスラー博士の生涯・108

プラトンが描いた医術と医師 その2—1898年John Hopkins病院医史クラブ例会にて

著者: 日野原重明 ,   仁木久恵

ページ範囲:P.1340 - P.1349

 ウィリアム・オスラーは,ジョンス・ホプキンス大学病院の歴史クラブの例会で,「プラトンの対話」の英訳本を材料に,ギリシャ時代の医師の考え方や医師像について講演をした.前号にはその前半を紹介したが,本号でこの講演が完了する.プラトンが述べた医学と心理学,心身を併せた全人的医学は,今日のholistic medicineの祖といえよう.本号では医のアートとプラトンの医師観が述べられている.

天地人

スキンシップ

著者:

ページ範囲:P.1339 - P.1339

 3時間待ちの3分診察で,「先生,今日はしかじか待ちました」と愚痴った患者がいた.「お坊さんのように,高血圧の人を100人ならべて,いちどきにお説教できれば,われわれも楽なんですが」となだめたところ,いくら待っても,先生にさわってもらえば,それでよいのだと,その患者がいった.
 確かにその通りで,今どき聴診などしても,どれほどの情報も得られないように思うが,そのことによって患者に与える安堵感は格別なものなのであろう.事実,自分が病気になって聴診器をあてられると,それが日頃ヤブだと思っている友達の医者の場合であっても,なにか身内を探られているような気がするものである.

--------------------

ECHO

著者: 小坂樹徳

ページ範囲:P.1367 - P.1367

 Q 糖尿病のブドウ糖負荷試験(GTT)で,ブドウ糖負荷量の基準値がNIHとWHOより75gと示されたが,その意味と根拠および従来の50g,100g GTTとの換算法について御教示ください.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?