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雑誌目次

雑誌文献

medicina19巻8号

1982年08月発行

雑誌目次

今月の主題 実地医に必要な臨床検査のベース 座談会

臨床検査にまつわる諸問題

著者: 小酒井望 ,   河野均也 ,   阿部正和 ,   河合忠

ページ範囲:P.1374 - P.1385

正しい検査データを得るために必要なこと検査工程以前の必要事項/検査センターに依頼する場合の問題点/検体採取から検査までを迅速に/検体採取時の患者の状態の把握/検体を自分の目で見ることの重要性/検査工程で必要なこと/精度管理/まず検査技師のトレーニング/患者の病態と検査データがかけ離れているとき/臨床と検査室は夫婦の関係/臨床検査専門医の養成正しい検査データの読み方検査データを読むうえでの留意点/検査値は検体が採取されたときの成績/物事を洞察する努力と柔軟な精神/正常値,異常値のとらえ方/予測値とは/身体所見とあわせて総合的に判断/reversed CPC-基本的な検査データを読む修練緊急検査体制医師が自分で検査する習慣を/検査室側の問題点/定着すべき緊急検査24時間,1週7日体制/緊急検査は必要最小限度のものを検査室はパンク寸前—どう対処するか検査が雪だるま式に増える要因/適切なprofiling作成を真剣に考える時期にきている/検査項目の見直し—重複や不要な検査の切り捨て/検査センターの果たす役割まとめ

医療における臨床検査の役割

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.1386 - P.1387

 聴診器1本に象徴される医師像は,今や過去のものとなった.身体的所見を精密にとることと,検査所見を適切に評価することの2本立てが,近代的医師の象徴となったのである.今や臨床検査なしに現代の医療は成立しないといっても過言ではない.「検査に対する関心をもたず,これを実施もしない医師は,もはや過去の世代に属する」ことになったのである.

正しい採血

抗凝固剤の使い方

著者: 河野均也

ページ範囲:P.1388 - P.1390

 血液を検査材料として用いる臨床検査の中には,血液学的検査の大部分や,血液化学的検査の一部など,適切な抗凝固剤を加え,凝固を阻止した血液について実施しなければならない検査がある.現在使用されている抗凝固剤にはさまざまな種類のものがあるが,それぞれの抗凝固剤には特徴があり,検査の目的にかなった抗凝固剤を選んで正しく使用することが大切である.

採血部位

著者: 藤巻道男 ,   福武勝幸

ページ範囲:P.1392 - P.1393

 今日の臨床検査では,一度に大量の採血をして,多項目の検査を行い,多くの情報を組み合わせて正確な診断を導くために,静脈血採血を行うのが通常となっている.しかし,特殊検査や症例によっては適切な採血部位を選択しなければならないし,またそれによる測定値の変動も知っておく必要があろう.

食事の影響

著者: 村田健二郎 ,   江川宏

ページ範囲:P.1394 - P.1395

 臨床検査における採血は一般に早朝空腹時が原則とされているが,緊急の検査あるいは外来患者からの採血では食事の影響を考慮する必要がある.また食習慣や生活環境も各個体に大きな影響を与え,これが個人差として現れるものもある.そこで臨床検査における食事の影響については,
1)長期的影響(食習慣,生活環境)
2)短期的影響
①食物中に含まれる成分そのものの血中濃度への影響
②食事による生体内他成分への影響
 ③乳び血清による測定法上への影響に分けて論述することとする.

体位の影響

著者: 玄番昭夫

ページ範囲:P.1396 - P.1398

入院患者と外来患者
 日常入院患者の血清総蛋白量が外来患者のそれに比較すると低い,という印象を持っておられる方が多いことと思われる.試みに総蛋白量などの変動がそれほど期待できないと考えられる精神科,眼科,皮膚科,整形外科などの入院と外来患者各100名(ただし血液成分については男女各100名の各200名)について比較してみると,総蛋白は入院患者で平均0.6g/dl,アルブミンは0.53g/dl,そしてClは1.3mEq/l,それぞれ外来患者より低いが,その他の成分に有意差は認められなかった18).このような差は,主として臥位と立位,あるいは安静と活動の違いを反映したものと考えられる.

保存・運搬の影響

著者: 土屋達行 ,   土屋俊夫

ページ範囲:P.1400 - P.1401

 血液を利用する検査は,採血後できるだけすみやかに測定,分析すべきである.しかし,検査センターの利用など外部依頼を行う場合は,正確な検査成績を得るために,検査目的に応じた試料の適切な保存,運搬条件を守る必要がある.

成績管理

成績管理の必要性と問題点

著者: 斉藤正行

ページ範囲:P.1402 - P.1403

 正確,精密な信頼できる検査成績を常に臨床に報告するためのチェックシステムを精度管理という.したがって,あくまで検査を行う部門が自ら行うことである.わが国では第三者またはユーザーが同一検体を多数の検査施設に配布し,そのバラツキを調査することが精度管理の主体と誤解されてきているが,これは精度調査(proficiency survey)と呼ぶべきものである.信頼おける成績を得るためには,当然この2つの吟味が必要となる.

技術的精度管理の方法

著者: 佐々木禎一

ページ範囲:P.1404 - P.1405

 現在臨床検査の分野で働く人々は,臨床検査成績の精度管理quality control(以下QC)とはどんなものかよく理解しており,さらにQCを活用して常に診断的に有用で信頼のおける検査成績を報告できるよう,日々努力を重ねている.一方,これら報告された成績を,診断上の有効な情報として利用している臨床側でも,「QCが臨床検査成績の精度向上のための不可欠な課題である」と理解して,強い関心を示している現状である.
 有効なQCの手段としては,高度な統計学的方法を駆使したもの,近代的な検査室の自動化システムに導入されたものも含めて,種々考案,提起され,利用されているが,日常広く普及しているのは種類もそれほど多くなく,しかも基本的なものが中心である.本稿ではその中から,検査成績を利用解釈する立場にある臨床家に実際役立つような技術的精度管理の方法を述べてみたい.

日医精度管理調査の歩み

著者: 藤沢正輝 ,   舩山玲子

ページ範囲:P.1406 - P.1408

 医師は問診・診察および臨床検査によって,患者からその必要とする多くの情報を収集する.ここでとくに大切なことは,これらの情報を総合的に評価し,診断・治療方針の決定,経過の観察,予後の判定および治療効果の確認に役立てるということであり,この場合,客観的かつ科学的な情報の提供源となる臨床検査が重要視されるのである.また,医療の概念は疾病を対象としたcareの概念から健康を目指したcareの概念へと進んでおり,早期発見・早期治療のみならず,積極的健康づくりと建設的医療が国民の間で認識されつつあり,臨床検査の役割も予防を目的としたものが要求されるに至っている.
 臨床検査の成績は常に一定の正確度と精密度を保持しなければならず,検査成績の誤差を検討し,それらを最小限に止めるよう管理する「精度管理」が必要となる.とくに多量の検休を短時間で処理するに当たって,検査の簡易化・迅速化のみならず,正確性と再現性の維持が要求されており,臨床検査の精度向上が望まれている.

管理された検査データと臨床

著者: 竹内和男

ページ範囲:P.1410 - P.1411

 精度管理データとは,臨床医の立場から一言でいえば"信頼できるデーダ"ということである.しかしながら,いかに精度の高いデータといえども,それが生きたデータとして有効に用いられ,診療に還元されなければ無意味なものとなってしまう.したがって,管理されたデータの臨床での利用のしかたが重要となってくる.本稿では,臨床検査を用いる際の基本的な考え方ならびに注意について,またデータのスクリーニングへの利用などについて述べる.

正常値

集団正常値の分布型

著者: 久米均

ページ範囲:P.1412 - P.1413

 臨床化学検査項目の正常値の分布型は,従来から正規分布,対数正規分布がよく用いられる.前者は分布が左右対称とみなせる項目に対し,後者は右にスソを引く項目に対して用いられる.歪んだ分布に対して便宜的に対数正規分布をあてはめて処理することは,分布のあてはまりの程度がよければ数値的には何ら問題はない.しかし分布型を定める要因にはいろいろな要素があり,歪んでいる分布はすべて対数正規分布に従っていると考えることに無理がある.以下,分布型を定めるいくつかの要素について考えてみよう.

集団正常値の求め方と性格

著者: 清瀬闊

ページ範囲:P.1414 - P.1415

 日常われわれが診療に用いている正常値と呼んでいるものは,集団正常値の意味であり,この集団正常値は時により性別,年齢別に分けられ,いかにも正しい物差しのごとくに思われているが,その作成の根拠にまで遡ってみると,きわめて曖昧な点が多い.
 現在最も普通に用いられているのは文献引用,あるいは分析機器,キット貼布の正常値であり,それがその施設に適当かどうかの検討が行われていないことが多い.しかし,分析技術上精度がいかに良好で,またコントロールサーベイでいかに優秀な成績をあげても,正確度に差を生じ,日常検査の分析精度とその施設使用の正常値の間のギャップがある.自己施設での正常値を作成保有している施設はきわめて少ないが,これは正常人あるいは健康人を統計上有意な数だけ集め難いことによる.またたとえ正常値を作成していても,少数の職員を健康人と見なして求めていることも多い.したがって,同じ健康人といっても,患者集団と年齢,性,その他職業などの分布差もあって,必ずしも適切な正常値とはいい難い.

個人正常値と個人差

著者: 北村元仕

ページ範囲:P.1416 - P.1418

 血液の化学成分濃度にも個体差のあることが,近年広く知られるようになった.臨床医学の対象は個々の患者であるから,個体差のある成分ではその個人の生理的な動き,すなわち個人の正常値が病態の識別に大きな役割を果たすことになる.

臨床参考範囲とその意義

著者: 臼井敏明

ページ範囲:P.1420 - P.1421

正常値の矛盾と臨床参考範囲の提唱
 一般に1つの臨床検査技術が確立されると,その検査に対して正常人を対象とした正常値が設定され,これを基準として異常群,すなわち疾患群を判別する過程が考えられている.しかし正確な正常値を求めようとして追求していくと,分析技術,正常人の範囲,個人の生活環境および行動の変化などの多くの問題点に遭遇し,次第に正常値の輪郭が曖昧となり,遂には求めることが不可能となる.
 Smith(1946)はこの正常人または正常値の存在の否定についての哲学的考察を行っているが,筆者はこの点を論理の矛盾として明確に指摘した.すなわち,「正常値とは正常人の生体計測情報」であり,「正常人とは生体計測情報が正常値を示す人」である.したがって,正常値が決まらないと正常人が定義できず,逆に正常人が定義できなければ正常値が求まらないという自己矛盾があり,したがって正常値を理論的に定義することは不可能である.

生理的変動因子

性差

著者: 宮地隆興

ページ範囲:P.1422 - P.1425

 正常範囲の設定は,種々の因子の配慮のもとになされねばならない.性差もその因子の1つであるが,性差にもまた種々の因子が関与している.性差をしらべるために多くの項目の正常範囲の報告をしらべてみると,性差ありとの報告の一方でまた性差なしの報告もみられ,その性差の程度も報告者により種々である.したがって,性差について決定することも困難であると感じた.本稿ではまず性差について,性差の原因および報告者による性差に関する種々の報告のある理由を考察し,性差のある項目を表にまとめてみた.

年齢

著者: 大場康寛

ページ範囲:P.1426 - P.1427

 生体成分の生理的変動の重要な要因の1つとして「年齢」が挙げられ,正常値の設定あるいは日常診療の病態判定において,必ず考慮しなければならないと指摘されている.事実,生まれてから小児期,成人期,そして老年期へと加齢していく過程において,明らかに各種生体成分の検査値の正常範囲が変動推移することが認められている1〜3)
 本稿では,日常診療にもっとも関係の深い代表的な臨床化学的成分および血液学的成分の加齢による変動について概観し,生理的変動因子「年齢」と正常値の関係について述べ,日常診療の参考に供したい.

日差,季節差

著者: 置塩達郎

ページ範囲:P.1428 - P.1429

 人間は朝覚醒起床し,活動し,休息し,食事を摂り,排泄し,夜に臥床睡眠するという1日の生活パターンが普通である.このように人間の1日の生活行動には変化があり,リズムがある.そして昼と夜という明暗や,温度の変化をはじめとするさまざまな外的環境の変動があり,1日あるいは1年というサイクルの中で生活している.一方,生体はホメオスタシスという大きな原理のもとに適応性をもっている.したがって臨床検査値に,日内,日差,季節的変動があるのは当然である.
 本稿では,個々の検査値の変動の詳細は記述できないので,これら変動についての基本的な考え方について述べる.

運動

著者: 井川幸雄

ページ範囲:P.1430 - P.1431

 運動の検査値におよぼす影響について述べる場合には,その運動の強度とそれに費やした時間についての情報が必要となる.運動の強度については,その時の酸素消費量が目安になるが,最近,臨床では代謝単位metabolic units(METS)が用いられるようになった.これは坐位での安静時代謝量は酸素消費量として3.5ml/kg・分で,約1kcal/kg・時となるので,これを1METSとし,運動時(労作時)代謝量が,この何倍にあたるかを示すものである.ゆっくりした歩行や家事では4METS,早足,農作業などでは6METS,ジョギングが9METS,ランニングはスピードにより,毎時のkmの数値がほぼMETSにあたる.たとえば毎時20kmで走れば20METSで,一流スポーツマンでのそれになる.ゴルフ,ボーリングなどでは4〜5METS,サッカー,ホッケーなどでは10METS以上になる.
 5〜6METS以上では血液中乳酸の蓄積も起こり,生体負担度は大きいと考えてよい.

アルコール摂取

著者: 山崎晴一朗 ,   梶原敬三 ,   陣内冨男

ページ範囲:P.1432 - P.1434

 近年わが国においても,急速な経済成長による生活水準の向上,あるいは社会環境の複雑化に伴って飲酒の機会が増え,とりわけ現代社会生活の中で生じる精神的,肉体的ストレスを解消する手軽な手段として晩酌が広く行われている.そこで,晩酌による血液生化学的検査への影響について考察してみた.

喫煙

著者: 浅野牧茂

ページ範囲:P.1436 - P.1438

喫煙の生理薬理1)
 喫煙習慣と健康障害との関連からもっぱら問題とされるのは,シガレット(紙巻きたばこ)の喫煙である.元来パイプたばこあるいはシガー(葉巻きたばこ)を用いていた人々では口腔喫煙が主であるのに対し,シガレット愛好者は肺喫煙をする人々がほとんどで,たばこ煙中有害物質の体内への取り込みが著しく多いため,喫煙の身体影響が大きいと考えられている.
 シガレット喫煙時に発生する煙中物質として,現在4,000種以上の化合物が判明しているとされるが,肺喫煙によってたばこ煙中のニコチンは90%以上が肺からただちに吸収され,他の物質もおよそ82〜99%が吸収されるといわれている.生体影響をもたらす物質は多数あるが,最も重要な役割を担っているのがニコチンで,喫煙時に吸収される量はカテコラミン類を遊離させるに十分である.喫煙時の急速なアドレナリンおよびノルアドレナリンの血中レベル上昇は,心臓血管系機能亢進,気管支収縮とこれに伴う肺機能変化,脂質代謝変化,血糖上昇などに直接あるいは間接の機転を介して関与する.

薬剤による影響

薬剤と臨床検査

著者: 林康之

ページ範囲:P.1440 - P.1443

 一般的にいって,薬剤投与と臨床検査とは目的とするところがまったく異なる.医療行為のうち,前者は治療手段であり,後者は診断である.そして双方の接点となるのは,治療効果を検査値により客観的に判断しようとする考え方を当然とする現医療の思考法にある.
 薬剤は診断にもとづき適切なものを適当量与えられたとして,その結果の確認は病態の推移にともなう自他覚症状と検査値の変動を見守ることで行われる.自他覚症状の経過は,もっぱら観察者と患者の主観的判断による.そして検査値のみが客観的指標を与えるものとして,その特異性と技術的信頼度をおり込んだうえで重視される.検査値の変動が非常によく病態変動に対応するものである限り,以上の考え方でなんら問題はない.問題は検査値の変動因子に,病態変動のほか分析技術上の変動要因が数多くみられることである.そして,投与する治療薬剤自体が変動因子としてかなりの比重をもつことが明らかにされ始めた.とくに近年の化学療法剤をはじめとする各種新薬の開発は,投与による副作用の検出に検査値を利用するようになり,薬剤の試料中混入による検査値の変動も問題になり始めた.もちろん,このような問題提起のうらには,臨床検査値自体の分析精度の向上と,各種化学療法剤のように大量投与あるいは持続投与を必要とし,かつ副作用の発現と治療域値とを接近させて使用する薬剤の増加したことを考えねばならない.

尿検査への影響

著者: 林康之

ページ範囲:P.1444 - P.1445

 日常検査のうち,尿検査は薬剤混入による影響を最も受けやすい.投与薬剤は吸収されて全身組織に拡散し,主として尿中へ濃縮された形で排出される.薬剤の血中濃度は希釈拡散後には1gが細胞外液に均等化したとしても血中濃度は102μg/mlであるが,尿中では10mg/ml濃度に上昇しうる.この尿中薬剤濃度の高いことと,薬剤の代謝産物を含めて排出されることが尿検査を妨害する原因である.尿検査の妨害は,判定不能,偽陽性,偽陰性の結果で示され,真値または正しい成績の得られない直接妨害と,薬剤の副作用の結果予期しない検査成績を認める間接妨害とがある.

薬剤と臨床検査

血液検査への影響

著者: 菅野剛史

ページ範囲:P.1446 - P.1447

 薬剤の臨床検査への影響を考える場合,①分析試料(血液)中に薬剤またはその代謝産物が存在するために,直接反応系に対して干渉を与える場合と,②薬物のもつ薬理作用またはその副作用のために,生体の反応として計測値が変動する場合に大別される.
 これらの問題は,前者においては測定法の特異性という観点,干渉の除去という観点で測定法に改良がなされていくことから,用いられている測定法の原理,またはその測定系に用いる試薬類の変更などで干渉の態度も異なり,時には一時的な現象であったりすることもある.

検査値の新しい利用法

予測値,パニック値とは

著者: 岡村一博

ページ範囲:P.1448 - P.1449

 臨床検査で得られた結果は,正常値に比較して吟味されるのが普通である.しかし,検査値を正常値か,高値か,低値かと評価してみても,異常値をとる疾患は多数あって正しい診断はどれかと迷い,またたとえ正常値が得られても"患者"は正常でないのは,検査を依頼した医師がよく知っている.
 臨床検査を的確に日常の診療に応用しようとするときには,診療の3ステップ,すなわち診断,治療,予後判定のどの段階で検査を使用しようとするのかを明らかにすればよいであろう.

計量診断への利用—プログラムパッケージ活用のために

著者: 古川俊之

ページ範囲:P.1450 - P.1452

 科学が思考実験のツールとしてコンピュータを取り入れたことは,今世紀最大の技術革新の1つとされているが,このことはコンピュータが医学研究の必需品となりつつあることからもよく理解できる.
 一方,計量診断は疾病の特性の認識,分類,予後・経過の予測,治療効果の判定ないし予測,その他の大局的判断を,厳密な仮説(モデル)に基づいて推定するものということができる.多変量解析や一般記述統計処理は,実験や臨床観察によって得られたデータを分析して,対象の性質を把握し研究の見通しを得るために広く用いられており,計量診断の基礎手法として不可欠の理論である.

カラーグラフ 臨床医のための腎生検・8 糸球体病変・8

IgA腎症

著者: 坂口弘

ページ範囲:P.1454 - P.1455

 1968年フランスのBergerらが糸球体メサンギウム領域にIgAが沈着するものを報告した.臨床的には軽度の蛋白尿,顕微鏡的血尿,ときに肉眼的血尿を伴い,予後は一般に良好であると報告した.その後,欧米,わが国で本症の報告が多数なされている.
 IgA腎症の光顕所見は病変の軽いものから中等度,高度のものまでいろいろである.そしてその特徴の第1は糸球体ごとにメサンギウム細胞の増殖の程度が異なり,また図1のように1つの糸球体でも部位により増殖の程度が異なることである.そのためdiffuseとかfocalと簡単にいえず,筆者は便宜上表1のように6段階に分けて整理している.これは小児,成人の例数と組織所見を一括したものである.

連載 演習

目でみるトレーニング 63

ページ範囲:P.1458 - P.1463

画像診断 心臓のCT・8

濃度増強法

著者: 太田怜 ,   林建男

ページ範囲:P.1464 - P.1466

 前回までに述へてきたように,単純CTのみでも診断に十分有用な情報を得ることができるが,心房中隔レベル以下のスライスでは,心筋と血液とのX線吸収差がないことから,心臓の内部構造を描出することはできない.このためにcontrast enhancement(以下 CEと略)が,不可欠な手段となる.一般に頭部,腹部領域のCEは60%前後のヨード含有造影剤を100ml 10〜15分かけ注入する点滴静注法が行われ,腫瘍などの診断で時に急速静注法が用いられるが,心臓のCEでは造影能を向上させる目的で,種々の造影法の工夫がなされている.

画像診断と臨床

心大血管(IV)

著者: 鈴木茂 ,   原田潤太 ,   川上憲司

ページ範囲:P.1467 - P.1477

症例1(図1〜6)
 患者 S. S. 47歳 女性
 現病歴 10歳台に感冒罹患時によく扁桃腺炎を起こしていたが,リウマチの既往は不明.20歳台に下肢浮腫出出現.31歳時,突然目まいの後に右半身の不全麻痺.その後麻痺は徐々に軽快.32歳時起坐呼吸,動悸にて他院受診,心疾患といわれる.非直視下交連切開術(CMC)を受け,その後症状の改善をみていた.45歳ごろより再び下肢の浮腫が出現.また階段をゆっくりのぼるようになる.

今月の焦点 対談

脳の左右差—どこまでわかっているか

著者: 杉下守弘 ,   岩田誠

ページ範囲:P.1480 - P.1492

 岩田 昨年,カリフォルニア工科大学のR.Sperry教授が,分離脳の研究でノーベル賞を受賞されました.また最近は日本でも一般マスコミなどで,脳の機能の左右差に関する一般人向けの解説記事が目につくようになりました.これまで未知の世界といってよかった脳の暗部にすこしずつ光があてられつつある現在,様々な形で,脳の機能の左右差について関心がもたれているようです.
 そこで本日は,分離脳研究とは一体何のためにどんなことをする研究か,また臨床的にはどんな意味があるのか,そしてその研究成果から,現時点では脳の機能の左右差についてどの程度のことがわかっているのかなどについて,大脳の基礎的解説をまじえながら,お話ししてみたいと考えております.

講座 図解病態のしくみ 臓器循環・7

四肢末梢循環―皮膚・筋の循環のまとめ

著者: 須永俊明

ページ範囲:P.1493 - P.1499

皮膚循環の特性
 一般に皮膚の循環の特徴は,皮膚温の維持が主役であって,栄養供給や酸素の供給などは副である.

臨床薬理学 薬物療法の考え方・13

腎機能障害時の薬物投与法(1)

著者: 中野重行

ページ範囲:P.1501 - P.1506

 薬物療法を行うとき,腎臓はその機能を正しく評価しておかなければならない重要な臓器の1つである.その理由として,次のようなことがあげられる.先ず第1に,腎臓は生体内に投与された多くの薬物あるいはその代謝産物の生体外への主たる排泄のための臓器であり,したがって,腎機能障害があれば,これらの薬物(parent drugs)あるいはその活性代謝産物(active metabolites)の尿中への排泄に影響を及ぼし,その結果として薬物の作用の強さ(intensity)と持続時間(duration)が変わりうるからである.第2に,腎臓は多くの薬物あるいはその活性代謝産物により障害を受けることがあり,その結果として腎機能障害を生じうるからである.
 そこで,腎機能障害時における薬物投与設計はどのように考え,どのように工夫したらよいか,さらには,どのような薬物投与中にどのような腎機能障害が生じうるのか,といったことを考えてみることにしよう.

異常値の出るメカニズム・52 酵素検査・12

血清リパーゼ

著者: 玄番昭夫

ページ範囲:P.1509 - P.1514

リパーゼの種類と反応形式
 臨床検査でリパーゼ(lipase)と呼んでいるものは膵リパーゼのことである.これは水不溶性のトリグリセリド(中性脂肪)を加水分解する酵素であり,その酵素作用はトリグリセリドと水の界面においてのみ行われる.
 トリグリセリド+H2O=ジグリセリド+脂肪酸

コンピュータの使い方・2

医事業務システム—医療料金計算と保険請求

著者: 三宅浩之

ページ範囲:P.1515 - P.1520

 病院,診療所におけるコンピュータの利用は,わが国では医事業務,とくに診療報酬請求事務が月末に集中するため,この合理化の手段としてレセプト作成用システムの普及という形で急増してきている.
 昔の手書きによる漢字を含むレセプトは,コンピュータの利用により仮名,数字を中心に置き換えられたが,最近では電子機器技術の進歩で漢字の取り扱えるコンピュータの出現により,いわゆる漢字レセプトが作成できる段階に入ってきた.

外来診療・ここが聞きたい

糖尿病に合併した末梢神経障害の例

著者: 大友英一 ,   村山正昭

ページ範囲:P.1524 - P.1526

症例
患者 R. H. 63歳女
主訴 手足のしびれ感

診療基本手技

留置尿道カテーテルの管理

著者: 高尾信廣 ,   西崎統

ページ範囲:P.1522 - P.1523

 尿道カテーテルの手技および管理は,日常診療において最もよく用いられるものの1つである.そのためにかえって,その管理が軽視されたり,ときには思いがけない合併症を起こすことが少なくない.筆者らが普段ベッドサイドで気をつけているポイント,および実際に経験した合併症について記す.

オスラー博士の生涯・109

結びの言葉(1905年)—"私は私が出会ったすべてのものの一部である"(ユリシーズ)テニスン

著者: 日野原重明 ,   仁木久恵

ページ範囲:P.1530 - P.1533

 ウィリアム・オスラー博士(1849-1919)は,1889年5月にペンシルバニア大学を辞するに当り,Aequanimitas(平静)と題する告別講演をしたが,この講演のほか,21の講演が,Aequanimitasと題する単行本に収められている.この本の22番目の講演は,以下に紹介する「結びの言葉」である.
 この講演はオスラーがジョンス・ホプキンス大学を去って,オクスフォード大学の欽定教授に赴任する直前の1905年5月2日にニューヨーク市でアメリカ合衆国およびカナダの医師によって催されたオスラーの送別晩餐会の席上の挨拶である.

天地人

借金考

著者:

ページ範囲:P.1529 - P.1529

 自分が幸せなためなのか,気が弱いためなのか,つい財布を忘れたというときの借金は別として,世間でいういわゆる借金というものを,これまでしたことがない.ところが,幸いなことなのか,不幸なことなのか,借金を申込まれたことは度々ある.
 そして,これは明らかに不幸なことに,その借金が返ってきたためしがない.もっと悪いことには,借金を返してもらえないのに,盗人に追銭で,同じ人の重ねた借金に応じたこともある.再度金を貸さなければ,前の借金をふみ倒されるかもしれぬというケチな考えかたからなのだろうが,結局はあとの金も返ってきはしない.

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VIA AIR MAIL

著者: 福原俊一

ページ範囲:P.1534 - P.1540

2日目にはひたすらベッドが恋しくなる超過密勤務.その中で学ぶ,抗生物質の使い方,Swan cath・erterの適応など,アメリカ医学の原則と慎重さ

ECHO

著者: 遠山博 ,   笹森典雄 ,   平田幸正

ページ範囲:P.1542 - P.1543

 Q B型およびnonA,nonB肝炎の医療従事者への感染は,外科手術以外にどのような経路をとるのか,また日常どのようなことに気をつけたらよいでしょうか.
(東京都学生 24歳)

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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