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雑誌目次

雑誌文献

medicina2巻12号

1965年12月発行

雑誌目次

EDITORIAL

簡易検査とその評価

著者: 小酒井望

ページ範囲:P.1777 - P.1779

 「簡易臨床検査のやり方と評価」は本誌創刊号以来本号まで21回連載されて来たし,またグラフにもしばしば簡易検査が紹介されて来た。実地診療における簡易検査の重要性がますます増加する今日,簡易検査の正しい使い方を普及することは,本誌の性格からいつても,重要と考えられたからに外ならない。
 「簡易臨床検査のやり方と評価」は毎号1ページの読切り連載の形式をとり,筆者は臨床検査の第一線に活躍する人々が当つている。字数に制限があるためか,意を尽せないうらみもあり,また取上げるテーマの相違もあつて,筆者によつてアクセントの置き方がかなり相違している。「検査は面倒だ。設備がいる。時間がかかるとお考えですが,ほらこうすると簡単にできますよ。それに中央検査室でやつている面倒な方法と比べて,こんなに成績がよく一致しますよ。」という解説の仕方もあれば,「ちよつとお待ちなさい。宣伝通り受取つてはいけませんよ。簡易検査はやはり簡易検査です。限界があります。それを承知で使わないと,とんでもないことになりますよ」という説明もある。「評価」にもこのように一見うらはらにみえるような評価の仕方があるものである。しかしよく考えてみると,どの簡易検査も,うらはらな二つの面をもつているのであるから,どちらにアクセントをおくかによつて一方の面が強調されることになるのはやむを得まい。

今月の主題

いわゆるPAP—マイコプラズマ肺炎を中心に

著者: 北本治

ページ範囲:P.1780 - P.1784

 「原発性異型肺炎」(PAP)とは,正式には「原因不明原発性異型肺炎」(Primary atypical pneumoniae etiology unknown)といわれるものである。現在いわゆるPAPの原因としてMycoplasma pneumoniaeが約30〜5O%を占めることが,実証されるようになつた。したがつて,現段階での焦点はMycoplasma pneumoniaeによる肺炎であると考えられるので,以下それを中心に述べる。

慢性腎炎のリハビリテーション

著者: 木下康民

ページ範囲:P.1785 - P.1789

 慢性腎炎の定義はいまだにあいまいな点が少なくない。慢性に経過する腎炎のなかでリハビリテーションの対象となるのは,いわゆる亜慢性腎炎が大部分を占める。私どもの臨床経験をもとに,その概念を整理した。

<話合い>慢性腎炎のリハビリテーション

著者: 加藤暎一 ,   木下康民 ,   上田泰

ページ範囲:P.1790 - P.1796

 慢性腎炎はなおりうるものか,についてはその立場により見解の異なるところであろうが,今回はそのリハビリテーションをめぐつて,日本の腎生検の隆盛に先鞭をつけられた,上田・木下両先生にお話をうかがつた。

Physical Diagnosis

膵臓疾患診断のコツ

著者: 築山義雄

ページ範囲:P.1800 - P.1802

 膵疾患の診断は,実際以上にむずかしく考えられてはいないだろうか。
 "膵炎診断の第一歩は,その存在の可能性に考えおよぶことである"というGulekeの言葉のとおり,常に膵を念頭において診療にたずさわるならば,少なくとも現在よりは多くの膵疾患が正しく診断されるようになるはずである。

診断のポイント

鼻出血

著者: 松岡松三

ページ範囲:P.1803 - P.1804

 鼻出血には症候性に起こるものと特発性に起こるものとがあり,症候性のものには局所的原因によるものと全身的原因によるものとがある。局所的原因によるものは耳鼻科の疾患として扱われ,悪性腫瘍,出血性鼻茸,鼻ジフテリアなどがあるが,これらは局所の所見から診断は容易である。全身的疾患の一つの随伴症状として現われる場合には反復する鼻出血によつて全身的の疾患が発見されることが少なくないので,はなはだ重要な症状である。

解離性大動脈瘤

著者: 渡辺昌平

ページ範囲:P.1805 - P.1807

 解離性大動脈瘤は,珍しい疾患であり,近年まで,これを救う積極的手だてはなかつた。しかし,現在,血管外科のいちじるしい進歩に伴い,根本的に修復手術を行なうため,早期に,確診を行なう必要があるようになつた。
 解離性大動脈瘤は病理学的に,中膜の病巣性変性過程(壊死)を起こし,そこに,内膜の裂け目から,血液が浸出,ないし,流れ込みをきたし,血管の周囲は中等度,ないし,高度に増大し,縦裂きを生じる。したがつて真性大動脈瘤と区別して,dissecting haematomaともいえる。

膵がん

ページ範囲:P.1808 - P.1810

治療のポイント

高血圧症

著者: 尾前照雄

ページ範囲:P.1811 - P.1812

高血圧症の分類
 治療が正しい診断のもとに行なわれねばならぬことは,高血圧症の場合もけつして例外でない。血圧上昇ある場合の多くは本態性高血圧症であるが,これに似た病像をもちながら,はつきりした原因のある高血圧,すなわち2次性の高血圧を鑑別する必要がある。高血圧をきたす疾患の臨床的分類としては,Pickering1)のものがすぐれているので,最近の知見をも加えてこれを多少修飾したものを参考までに第1表に示した。この分類からも明らかなように,本態性高血圧症とは,拡張期血圧の上昇があつて,しかも原因の明らかでない高血圧症をいうのであつて,拡張期圧の高くない高血圧は,はつきりした原因がつかめなくても本態性高血圧症とはいわないことになつている。収縮期圧だけが高いものは収縮期性高血圧(systolichypertension)とよぶが,収縮期圧だけが異常に高く,拡張期圧の低い場合,すなわち脈圧の増加がいちじるしい場合は,心血管系の先天的ないし後天的異常(動静脈瘻,動脈管開存,大動脈弁閉鎖不全症,大動脈とその大きな分枝の硬化)によることが多く,これは心拍出量の増加もしくは大動脈の弾力性低下によつて起こる。心拍出量の増加による脈圧の増加はこのほか,徐脈(完全ブロック),重症貧血,甲状腺機能亢進症,発熱,骨のPaget氏病などがあげられる。

進行性筋萎縮症の生活指導

著者: 佐藤哲

ページ範囲:P.1813 - P.1814

病型の差異が予後を決める
 進行性筋ジストロフィーは,四肢躯幹の横紋筋をおかす進行性遺伝性疾患としてあまねく知られているが,現在のところ適確な治療法がないため,診療の場においては,診断の確立後は種々な治療法を経験的に行なうほか機能保持,心理的,社会的支持によつて患者がつねにより豊かな人生がおくれるよう,配慮しなければならない。そのためには,本症の予後を左右する病型間の差異に着目する必要がある。わが国で一般に行なわれているWaltonの分類に従えば,もつとも多いものはDuchenne型で,主として四肢ことに腰帯,下肢をおかし,腓腹筋その他の仮性肥大(末期には消失)が特徴となるが,いずれにしても幼児期に発病,経過は迅速,早晩肩甲帯,上肢におよび,四肢躯幹の運動機能を低下させる。Facioscapulohumeral型は,思春期に発病,肩甲帯,顔面筋から始まり,経過は緩慢で,顔面では表情が弱く,閉眼困難,口唇突出,口笛をふくことが困難,などの障害がめだつが,四肢筋萎縮は徐々で長年月を耐え,その間lordosis,scoliosisなど,躯幹の変形もめだつてくる。

妊娠と薬剤

著者: 西村昻三

ページ範囲:P.1815 - P.1817

 最近妊婦に投与された薬剤の胎児に及ぼす影響が注目されるようになつてきた。胎児の特性上これらの影響は経験をもとにしながら徐々に判明してきたものであるが,不明のものも少なくなく,今後にまつところの大なる分野である。これらの薬剤は妊娠早期に投与されるほどその影響は大きく,流産や種々の奇形をおこす原因となるが,末期に近づくにつれ解剖学的な奇形となつてあらわれるよりも胎児の発育障害や,あるいは新生児期の障害となつてあらわれることが多い。
 今回は臨床的立場からすでに胎芽や胎児に対する危険が知られたり,あるいは推測されている薬剤を中心に,その対策について略述する。

メディチーナがとりあげた今年の主題

ページ範囲:P.1798 - P.1799

1月
血清肝炎
鳥居 有人

グラフ

異常血色素症

著者: 柴田進

ページ範囲:P.1766 - P.1767

 1910年Herriekが鎌状赤血球貧血の最初の症例を報告し,1949年Pauling,Itano,Singerand Wellsがこの病気の患者の血液にHb Sを発見して以来,異常血色素症の調査は急速に進展し,現在全世界に約130種の異常血色素が分布していることが判明した.
 これらのうちもつとも大切なものは鎌状赤血球貧血とサラセミア(thalassemia)であって,わが国においては遺伝性黒血症(田村・高橋病)である.

異常血色素

著者: 柴田進

ページ範囲:P.1769 - P.1771

 溶血液(赤血球を水で溶解させた液)を電気泳動法(濾紙,寒天など)で調べ,正常血色素とちがつた泳動像を有するヘモグロビンを検出すれば,それが異常血色素である。クロマトグラフィー,溶解度試験,Singerのアルカリ変性試験または分光鏡検査でそれを確認する。異常な血色素成分を分離精製し,犬血色素との雑種血色素生成試験またはグロビンの尿素解製濾紙電気泳動法で病的鎖がα鎖かβ鎖か調べる。
 それがきまつたらグロビンまたは病的鎖をトリプシンで消化し,消化物のfingerprintをつくる。これに正常な血色素では見られない異常斑点があらわれる。この異常斑点を抽出し,要すればキモトリフシンなどで消化し,再び消化物のfingerprintをこしらえ,正常なものと比べて異常斑点を調べる。それを抽出し,加水分解して薄層クロマトグラフィーなどで水解物を調べ,個々のアミノ酸を検討すると,どんなアミノ酸がいれかわつて異常血色素の病的ポリペプチッド鎖になつたかわかる。

オズモメーター

著者: 古川俊之

ページ範囲:P.1772 - P.1774

 体液滲透圧の正確な測定は体液電解質失調の診断ならびに治療上重要な意義を有し,体液生理の研究にも不可欠である。滲透圧は溶液のモル濃度に比例するので,分子量測定の際と同様,氷点降下度から求めることができる。この場合に要求される精度は±1mOsm/kg H2O程度であるから,従来のBeckmann温度計を使う装置では不十分な点が多く,温度計の熱容量を試料のそれに比して無視できる程度にすること,試料の冷却および氷晶生成が均一に行なわれること,終末点が明瞭なこと,および一回の測定所要時間が短いことなどが要求される。
 最近のオズモメーターは温度計としてサーミスターを採用,精度と熱容量の問題を解決し,試料の攪拌,氷結刺激も電気的に一定の条件で行ない,さらに氷晶生成の瞬間を肉眼でとらえる代りに過冷却法を採用して安定した測定値を得ている。この装置の登場によつて,尿濃縮試験が腎障害の早期診断に応用できる程度まで精度が向上したのを初め,基礎,臨床の多方面にわたる進歩がもたらされた。

ファースト・エイド

しゃっくり

著者: 名尾良憲

ページ範囲:P.1880 - P.1881

 "しやつくり"は横隔膜の間代性けいれんによつて起こる症状で,急速な吸息と同時に声門が閉鎖するために,奇妙な音が発生する。この求心性刺激の伝達は迷走神経と横隔神経中の知覚線維によつて行なわれる。これが中枢に達し,さらに横隔神経中の運動線維を介して遠心性伝導が横隔膜に達して"しやつくり"が起こる。"しやつくり"の中枢は延髄にあつて,呼吸中枢,嘔吐中枢の近傍に存する。それゆえ,"しやつくり"の際に呼吸障害,嘔吐などが起こることがある。
 "しやつくり"は上述の反射弓のどこが刺激されても起こるわけである。胸腔底部,腹腔の病変にて直接的に横隔膜が刺激されると"しやつくり"が起こる。また横隔神経,迷走神経は縦隔内を走行するから,胸腔内の病変は"しやつくり"を起こす。また中枢が刺激されても"しやつくり"が起こる。epidemic hiccupとよばれるものが記載されているが,おそらく中枢神経系のウイルス感染症によるものであろう。

器具の使い方

血球計算板

著者: 野村武夫

ページ範囲:P.1821 - P.1823

血球計算板の種類
 わが国ではもつぱらビュルケルーチュルクBürker-Türk型・ノイバウエルNeubauer型・トーマThoma型の3種類の血球計算板が使用されている。いずれも計数区域の深さはカバーグラスで被うと0.1mmとなるように設計されているが,計数分画の目盛り方にそれぞれ特徴がある。すなわちビュルケル-チュルク型およびノイバウエル型ではH型の溝で区切られた2つの計数区域にそれぞれ1辺3mmの正方形の分画(9mm2)が目盛つてあるが,トーマ型では2本の測溝ではさまれた計数区域の中央に1辺1mmの正方形の分画(1mm2)が1つだけ目盛つてある(図1)。ビュルケル-チュルク分画およびノイバウエル分画は図2に示したごとくであり,4隅の1mm2の分画は白血球計数に,中央の細かく目盛つた1mm2の分画は赤血球計数に使用される。トーマ分画はビュルケル-チュルク分画の中央の1mm2の分画と同一であり,赤血球・白血球両者の計数がここで行なわれる。

正常値

尿酸

著者: 吉村隆

ページ範囲:P.1818 - P.1820

日常検査になりつつある
 体内尿酸は主としてプリン体のアミノ基脱および酸化により生成されたもので,排泄は大部分が腎を介して行なわれる。このように尿酸代謝は生成と排泄のバランスの上に成り立つので,体内尿酸の増加,すなわち高尿酸血症は代謝異常にもとづく痛風や腎機能不全による排泄障害などにみられる。ことに痛風は近年わが国でも激増傾向にあり,血清尿酸値,尿中排泄量の測定は日常診療に欠くべからざる検査になりつつある。

この症例をどう診断する?・5

出題

ページ範囲:P.1757 - P.1757

■症例
43歳 女性
 既往症:14年前肝炎に罹患したことあり。

討議

著者: 梅田博道 ,   和田敬 ,   田崎義昭 ,   金上晴夫

ページ範囲:P.1887 - P.1890

肺門部の陰影
 梅田 43歳の主婦,14年前に肝炎に罹患したというのだけれども,この肝炎はあんまり関係なさそうですね。39年の春まではレントゲンに異常がない。39年10月に首すじがはる,まあ肩こりですね。目まいがあり,レントゲンとつたらば,肺門部に異常な陰が見つかつた。そうするとこの肺門部に陰がある病気を,ここでずらつと並べて解決すればいいということになりそうですね。
 第一にがん,まあがんといわないでもいいんで何かツモールじやないかというのが,まず一つある。ツモールだとすれば,それがいつたいどこのものなのか,肺内のものなのか,肺の外のものなのか。こういうことになると思います。それからまた,ツモールでなければ,そのほかに結核もあるでしようし,いろいろあるわけだが,これは左肺門部だけで,右はなんともなかつたんでしようか。

統計

わが国における日本人の死亡場所について

著者: 滝川勝人

ページ範囲:P.1797 - P.1797

 日本における日本人の死亡場所について,人口動態統計よりこれをみますと,表1のとおりで,病院・診療所における死亡が年々増加しているのに対し,自宅における死亡が年年減少傾向にあります。これは国民の受療率の向上とともに注目されます。しかしながら,これをイングランド・ウエールスにおける統計と比較してみますと,1962年におけるその割合は,病院51.2%,その他の施設3.2%,自宅40.5%,その他5.0%と,病院などの施設内死亡が半数以上をしめております。また,日本においては,女性の自宅死亡の多い点もとくに注目されます。
 これら死亡場所については,死因により大きな差異のあることはいうまでもありませんが,主要死因について,最近の日本およびイングランド・ウエールスの状況をみたのが表2であります。すなわち,日本では呼吸器系の結核においてはその約2/3が施設内死亡ですが,中枢神経系の血管損傷においては,その約1割が施設内死亡にすぎません。これらについても,日・英両国を比較してみますと,きわめて興味深いものがあります。

症例

マクログロブリン血症

著者: 平山千里

ページ範囲:P.1857 - P.1860

 マクログロブリン血症は,1944年Waldenströmが粘膜出血,リンパ腺腫,骨髄のリンパ球様細胞増殖を主徴とする症候群を記載し,1948年本症候群の患者血清にマクログロブリン(MG)の増加する事実を認めたので,マクログロブリン血症は独立の疾患と考えられるようになつた。本疾患は,現在マクログロブリン血症Waldenström型(MGW)とよばれている。後述するように,マクログロブリンは,その他の疾患でも増加しており,この場合は続発性マクログロブリン血症とよばれている。
 本邦では,三好(1948)がLymphadenosis hyperglobulinemicaとして初めて記載し,その後MGWと同定された。本邦での報告例は,1963年まで6例であり,まれな疾患である。

肺がんとまちがわれた症例(3)

肺化膿症

著者: 金上晴夫

ページ範囲:P.1861 - P.1865

肺がんと鑑別を要する重要な疾患
—高年者の肺化膿症—
 高年者の肺化膿症の原因のうちで,肺がんがかなり大きい比率を占めているといわれている。事実発熱を伴い,胸部レ線上空洞を伴う陰影で肺化膿症と診断されて治療していたものが,喀痰申からがん細胞を発見して肺がんであると判明した症例もあり,同様な所見を肺がんと診断されて治療しているうちに,抗生物質の長期投与が奏効して陰影の消失を見,肺化膿症であることがわかつた症例もある。したがつて高年者の肺化膿症は肺がんと誤まられるというよりは,肺がんと鑑別を要する重要な疾患といえよう。
 肺化膿症が肺がんと誤まられる原因の一つとしては,高年者の肺化膿症の原因のうちで肺がんの占める比率が多いという理由のほかに,肺化膿症がその時期によつて内容が充実して,腫瘍性陰影を示すことがあるということ,また肺がんの症例のうちで,空洞を示すことが,しばしばみられるという理由によるものといえよう。もちろん,自覚症状という点からいつてもせき,たん,血痰,胸痛,発熱と両者に共通した諸点がある。

他科との話しあい

頭部外傷とその後の処置

著者: 土屋五郎 ,   斎藤佳雄

ページ範囲:P.1866 - P.1872

 近年交通事情がますます煩雑になるにつれて,脳外科以外の一般医の所に頭部外傷患者が運びこまれてくる頻度が非常に多くなつた。適切な処置を欠くと,取り返しのつかないこともある。これら頭部外傷患者が運びこまれたとき,まず,どのような点に注意しなければならないか。

基礎医学

異常血色素

著者: 柴田進

ページ範囲:P.1873 - P.1877

 1960年,異常血色素の猟人と呼ばれ,ケンブリッジ大学の臨床生化学者として有名なDr.Hermann Lehmannがわが国を訪れ,京都で"皆様,一方でその対象を分子ないし原子のレベルで論じ得る域に到達し,他方でその成果が民族遺伝学および人類学にまで肉迫している点で,今や異常血色素症の研究は他に類例を見ないようになりました"と演説したことがある。私は1965年の今日わが国で行なわれた異常血色素の研究の進歩のあとを回顧して,この解説を書きながら,今更のようにLehmannの言葉が正しかつたことを思い知らされている有様である。

If…

敗戦で埃をはらつた英国史の訳本—前秋田県立中央病院長 飯塚女子高等学校長 大里俊吾氏に聞く

著者: 長谷川泉

ページ範囲:P.1826 - P.1827

恵まれた時代のしあわせ者
 長谷川 先生が医師にならなかつたら,どんな途を歩まれたと思いますか。
 大里 私は選択の自由ももたずに医学を修めたのですが,旧制第五高等学校(熊本)第三部入学以来,58年を経たこんにち,かえりみて,医学以外に何か得意の学科があつたとは思えません。当時はまだ"身体が弱いから医者にでもなそう"といわれたころでした。病弱がちであつた私は,医師にならなかつたらば,健康の点からだけでも落伍者になつたでしよう。

海外だより

イギリスにおける癌研究の歴史とその現況—チェスター・ビーティ研究所だより

著者: 大沼尚夫

ページ範囲:P.1828 - P.1830

 イギリス人は「古き良き時代」と口癖のようにいいます。かつての栄光の歴史を今もつて懐しむ彼らの心情のなかにはあらゆる面で世界をリードしていたという誇りを持ちつづけているのでしよう。癌研究という限られた領域だけ見てもイギリスの歴史はすなわち世界のそれに通ずる面が多々ありますので,イギリスの癌研究所の代表ともいわれる当研究所の歴史を中心としていかにかつてのイギリスの癌研究が築かれたかをふりかえり,それが現在にどのように連なっているかを書いてみたいと思います。

ルポルタージュ

大阪成人病センター

著者: 張知夫

ページ範囲:P.1831 - P.1833

ルポのページは少なく,センターは広し。というわけで,正直のところ筆を持つのがおつくうだ。なにしろ紹介すべきことがあまりにも多いのだ。スタッフのおびただしい研究業績,最新鋭の検査設備,ここで開発された診断技術の数々 etc

私のインターン生活

聖ルカ病院にて

著者: 丸田守人

ページ範囲:P.1840 - P.1840

Bedside教育
 朝8時,病棟に出る。われわれinternの1日が始まる。まず受持患者(平均15人)のchartに目を通してから回診する。これは1時間後にひかえる各医長の回診の準備でもある。この医長回診では,いわゆるbedside教育が行なわれている。少数の症例を選択して,その症例の徹底的検討と最新の診療の打ち合せを行なうが,その際,われわれは患者の病歴や状態,検査成績をよく頭に入れておくことはもちろん(chartを見ることは許されない),あらかじめ読んで来た文献も発表するなど,活発に討論がなされている。その間に静脈注射,輸血,輸液があれば行ない,入院があれば,historyをとって,physicalを書き,食事,安静度,検査事項,使用薬などすべてのorderを書いた上で,residentに見てもらう。この入院についてであるが,日本の一般病院に比べると,在院期間が約半分の16.6日であるため,30ベットある病棟に入院患者が1日3人ある日も稀ではない。

文献抄録

耐糖検査偽陽性の腎性糖尿—JAMA August 2, 1965より

著者: 浦田卓

ページ範囲:P.1836 - P.1836

はじめに
 糖尿は一つの症候である。発熱が一つの症候であるのと同様である。で,糖尿をみれば,それが食餌性糖尿か,腎性糖尿か,それとも糖尿病--耐糖力が衰えたために血糖値が異常に高くなつているもの--であるかを決めなければならない。それには,血糖曲線を描いてみるのが常道である。
 さて,血糖検査をするさい,大切な注意が一つある。それは,検査まえの3日間は被検者に少なくとも1日含水炭素200〜300gmを含む食餌をとらせておくということである。というのは,含水炭素を制限すると,正常人でもブドウ糖の体内における利用が障害され,したがつて血糖検査をすると,糖尿病類似の耐糖曲線がえられる,ということになりかねないからである。

胸腺の網様細胞にインシュリン様血糖降下因子発見せらる—JAMA, July 19, 1965メジカル・ニュースより

著者: 浦田卓

ページ範囲:P.1837 - P.1837

 胸腺にインシュリン様の血糖降下因子を発見したのは,ニューヨーク医科大学(ニューヨーク市)の研究者パンスキーおよびその協同研究者のローレンス・ハウス博士とローレンス・コーン医学博士の3人である。
 彼らは,白血病にかかつたAKR系ハツカネズミの糖代謝異常を研究していたさい,ある種の血糖降下因子が胸腺にあるのではなかろうかと,ふと気がついたのである。メスのAKRハツカネズミに進行性の低血糖症がおきると,胸腺は肉眼的に肥大するとともに,胸腺の組織は組織学的な崩壊を示す。白血病のAKRハツカネズミの胸腺だけでなく,非白血病の各種の哺乳動物の胸腺に,血糖降下因子を探求しようという意欲に彼らを駆りたてたのは,じつに上記の発見であつた。

ニュース

フランスの医師と医療保険

著者:

ページ範囲:P.1838 - P.1838

 フランスでは,1928年に医療保険法が制定されてから今日まで,フランス医師連盟の不断の努力によつて,政府は医業の性格を自由な職業としてみとめてより,次のような自由医療の原則が「医療憲章」に定められている。
 なお,現在のフランスの医療保険は,すべての賃金労働者とその家族を被保険者としており,医師をおとずれる患者の約90%は医療保険の被保険者である。しかし,この制度が医師の経済的な立場を改善したことも多数の意見の一致しているところであり,その理由は,第1に患者の受診率がいちじるしく向上し,第2に医療費の支払いが保険制度で保証されており,第3に医師と患者のつながりも「医療憲章」で従来どおり尊重されていることなどによるものである。

社会保障制度審議会の答申

著者:

ページ範囲:P.1839 - P.1839

 首相の諮問機関である社会保障制度審議会(会長 大内兵衛氏)は,健康保険法,日雇労働者健康保険法,船員保険法のいわゆる「保険三法」の改正案について,さる2月1日から神田厚相の諮問をうけていたが,さる8月28日総会を開き,同審議会特別委員会(委員長 長谷部忠氏)がまとめた「医療費問題に関する意見ならびに保険三法改正案に対する答申案」を原案どおり決定した。
 この答申で同審議会は,政府の医療行政を"腰だめ方式"で"その場かぎりの政策"と強く批判すると同時に,医療保険制度全般について根本的に再検討し,医療費体系の合理化をはかるべきであると述べている。また,政府の保険三法改正諮問案そのものに対する答申については,同じ諮問案を審議中の厚相の諮問機関である社会保険審議会(会長 末高信氏)の審議に影響をあたえないよう配慮しながらも"総報酬制の採用"と"薬剤費の被保険者本人の半額自己負担制"についてはほぼ全面的に否定し,同時に保険財政に対する国庫負担の大巾増額を強く打ちだしている。しかしながら,首相に答申する時期については,社会保険審議会の答申時期を配慮し,大内会長に一任することになつた。

痛みのシリーズ・2

顔面痛—不定型な痛み

著者: 清原迪夫

ページ範囲:P.1884 - P.1885

比較的若い人に多い
 頭部,顔面,頸部にくる限局しない痛みがこの部類に属する痛みの特徴である。痛みの起こり方は,突然的であつたり,また持続的であつたり,一定しない。時として,痛みのある側に自律神経症候を伴い,性格として神経質な心配性な人に多い。
 痛みの分布は,神経線維の支配と一致せず,痛みの性質は,局在性に乏しく,び慢性で,むしられるような痛みとか,握られるような嫌な痛みという表現がなされる。持続時間は,日余に及ぶものが多く,意識するときはいつも感じるともいう。

簡易臨床検査のやり方と評価

GOT

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.1764 - P.1764

 血清GOTは急性心筋硬塞あるいは急性肝炎時,早期に特異的上昇を示し,診断学的意義のきわめて高いことは,すでによく知られている。その測定術式も比較的煩雑なKarmen法に代わつて,簡易な比色法が登場し,さらにこれを応用した簡易試薬のキットが発売されるにいたり,実地医家にとつても手がるに測定しうるようになつた。

Bed-side Diagnosis・4

A case of Neurological Disease in Middle Aged Woman

著者: 和田敬

ページ範囲:P.1882 - P.1883

Dr. A(Medical Resident):Good morning, Dr. B. How was the first Asian and Oceanian Neurological Congress?
Dr. B(Medical Consultant):Good morning Dr. A. The meeting of Asian and Oceanian Neurological Congress was excellent. We had very interesting papers and discussions.

MEDICAL HISTORY

古代ヘブライの医学—Annals of Int. Med. Aug. '65より

著者:

ページ範囲:P.1886 - P.1886

 ヘブライ最古の医学文献はAsaphという古代ユダヤ人の手になるものである。Asaphは,医師Asaph,賢者Asaph,天文学者のAsaph,ユダヤ人Asaphなどいろいろに呼ばれているが,その生涯についてはなにも知られていない。有名な医学史のテキストをあれこれひもといてみても,Asaphとその仕事に関する記録はほとんどない。
 Garrisonの医学史にもAsaphに関する記事は,ただ一行"アジアで書かれたもつとも古いヘブライの医学書は7世紀にメソポタミアの医師Asaph Judaeusが書いた医薬の書物である"とあるだけである。

トピックス

ソ連の医師組合/エディンバラにおける放射線研究

ページ範囲:P.1824 - P.1824

 ソ連の医師組合—ソ連邦医療従事者労働組合—は医師を中心とし,その他すべての医療従事者--医師,補助医,看護婦その他を含む広汎な組織となつている。したがってその組合員総数はおよそ400万人と称せられている。各医学研究所の研究員,赤十字社,赤半月社の職員,医科大学,医学専門学校の教職員もまた,この労働組合に加入している。しかし交通省の病院や外来診療所で働らく医師や看護婦は鉄道運輸労働組合に属しているといったぐあいで,その辺の帰属は必ずしも一定していないようである。
 医療労組は2年に一度大会を開催し,中央委員会を改選する。1963年に開かれた大会では110人の活動家から構成される現中央委が選出され,さらにそこから11人の幹部会員が選ばれている。現在委員長は女医のナデジータ・グリゴリエワ女史(51歳)で,組合本部はモスクワにある。

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きのう・きよう・あした

著者: 和田武雄

ページ範囲:P.1825 - P.1825

 ×月×日 ハンガリー・ラジオより便り。合唱団の人たちを診た礼状であるが,私がgood Samaritanでありたい,などと気どったいいかたをしたことが,驚きだつたらしい。カゼひきで寝込んだチボーが,自分のうたつているレコードだから,といつてカバーにサインをしてくれたが,その写真の真中でかれはいまも笑いかけている。目を閉じると,あの子らの美しい合唱が耳の底に残つているのだが,解放20年というハンガリーの政治意図を聞かされると,どうぞイデオロギーの渦のなかに,この清らかな声がかき消されるようなことがないように,と祈らざるをえない。
 政治理念と人間性の高揚。それは完全に一致した方向になければならないはずなのに,それを実行する段階になると動物的人間がむき出される。前者のみの闘争,闘争が叫ばれて,肝心かなめの後者は影をひそめてしまう。作られたものとしての人間には,自らの手では埋めえない陥せいが,そこにある。

「medicina」第2巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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