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雑誌目次

雑誌文献

medicina2巻7号

1965年07月発行

雑誌目次

EDITORIAL

個人指導医—Personal Physician

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.989 - P.991

日本人の医療の実態
 日本人が,どんな医療をうけているかは,住む土地により,また属する社会層により一がいにいえないが,僻地を除いては,ある共通性がある。家族の誰かが病気にかかつた場合,一応近くに開業するかかりつけの医者の世話になるか,連絡のつきやすい診療所か,ある程度,関係のできた病院の先生の世話になる。病気が軽ければ先生のところに行くが,重ければ往診を乞うか,入院を希望するのがたてまえであろう。
 ところが,近くに内科か小児科の開業の先生のいない場合は,急ぎの際は外科でも,眼科でもかまわず,その先生に取りあえず連絡して何とか処置をしてもらうことになる。

今月の主題

肺がん—その診断のむずかしさ

著者: 本間日臣

ページ範囲:P.992 - P.995

 現在,肺がんの根治率はきわめて低い。これは肺がんというものの特殊性による。それでは,肺がんの患者を救い,治癒率を高めるためには,どのようなきびしい制約が横たわつているのであろうか。

細菌性食中毒の臨床

著者: 斎藤誠

ページ範囲:P.996 - P.999

 細菌性食中毒は公衆衛生の分野で広く理解されているが,臨床の分野では認識が低く,その病像表現はすべて急性胃腸炎と考えられているようである。病原の種類と臨床の関連を承知し,身近な下痢症のなかに,その本態を見ることができる。とくに多発している腸炎ビブリオに注目したいものである。

<話合い>タバコと病気—ヘビースモーカーと慢性気管支炎—冠動脈疾患とタバコ—動脈硬化とタバコ—高血圧とタバコ—胃腸疾患とタバコ

著者: 阿部正和 ,   佐藤徳郎 ,   笹本浩 ,   高橋忠雄 ,   太田邦夫

ページ範囲:P.1000 - P.1007

 阿部(司会) イギリスの生物学者のホールデンがいみじくも,「喫煙は,人類の文化に深刻な生物学的影響を及ぼした大発見の1つである」といつておるように,喫煙は,われわれの生理機能になんらかの影響を及ぼしていることは事実です。ぎようは喫煙が疾病の発生にどの程度関係があるのか,また患者に喫煙を許可する際に,どんなことを考えておいたらいいのか,こういうことをお話願いたいと思います。最近出されたアメリカ公衆衛生局のリポートとイギリスの内科医師会のリポートのどれも喫煙と健康に関する問題を,一応あますところなく論じていますが,日本にはそういう権威のあるリポートはない。しかもドクターの立場で,患者に喫煙の相談をもちかけられてもあまり根拠のない発言をしているのが,実状だと思います。
 最初に呼吸器とタバコの問題から入りたいと思いますが,なんといつても肺ガンとタバコはとくに注目された問題です。

Physical Diagnosis

甲状腺疾患の診断

著者: 七條小次郎

ページ範囲:P.1008 - P.1009

 現在,甲状腺については,精細な臨床検査法が組み立てられているが,診断の基本となるものは,あくまでphysical diagnosisである。

診断のポイント

胆石症

著者: 三輪清三

ページ範囲:P.1011 - P.1013

主要症候を把握しながら検査を
 胆石症は典型的な発作症状でもあれば診断は容易であるが,その症状が非定型的であつたり,あるいはまつたく無症状で経過するところのいわゆるSilent Stoneもあるので,その診断はなかなかむずかしいことがある。生前まつたく無症状で,病理解剖ではじめて結石が発見される場合もあるが,このような場合は臨床的には胆石症とよぶことは不適当であろう。また胆石症はその結石の存在部位によつても症状が異なることがあるので,胆石症の診断には結石の存在部位的診断も必要となってくる。胆石症の診断にあたつては,まずその主要症候たる,疼痛,発熱,黄疸などの症候をよく把握し,つづいて諸検査,すなわち十二指腸ゾンデ,X線検査,肝機能検査,腹腔鏡検査,アイソトープ利用による検査などによりその診断を確実にするようにつとめなくてはならない。

血液アミラーゼの異常

著者: 菊地三郎

ページ範囲:P.1014 - P.1016

膵障害とは無関係の場合もありうる
 膵障害の診断に対する血液アミラーゼ測定の意義は,現在でもなおきわめて大きい。とくに急性膵炎の初期,あるいは慢性膵炎の急性発作期などでは唯一の診断根拠となる場合がはなはだ多い。しかしながら,血液アミラーゼ値の臨床的意義を解釈するにあたつてはつぎの2つの事項を念頭におく必要がある。1つは膵障害にはかならずしも血液アミラーゼ値の異常を伴わないということである。急性期ではほとんどの症例において異常上昇を認めるが,ある期間を経過すれば急速に正常化する。慢性膵炎の非発作時では多くは正常値であつて,異常低値を示すことも多くはない。その他の膵疾患ではむしろ異常値を示す場合が少なくなる。したがつて,血液アミラーゼ値は膵障害の否定材料とはなりがたいわけである。他の1つは,血液アミラーゼ量の異常は比較的に膵病変に特異的ではあるけれども,時として膵とは無関係の場合もありうることである。1938年Somogyiが血液アミラーゼの微量定量法を報告して以来,膵障害を主体としない病態においても時として血液アミラーゼ値に異常をきたすことがあるという事実はますます確実にされるにいたつた。
 急性膵炎に対する開腹手術の予後の悪いことはすでに異論の余地がない。もし,膵炎に由来しない急性腹症患者において血液アミラーゼ値の異常上昇のゆえに対症療法に終始するとすれば重大な結果をまねくこともありうるわけである。

髄膜炎

ページ範囲:P.1017 - P.1019

治療のポイント

止血剤の使い方

著者: 滝川清治

ページ範囲:P.1020 - P.1022

まず出血の素因を
 出血性素因を治療する場合,出血の因って来るところを分類し各種止血剤の特徴を生かして適用することが出血による生命の脅威をすみやかに取除く意味において,大切なポイントである。出血機転の研究の進歩によって出血性素因も明らかに分類され,止血剤の本質もかなり明らかになり,適合する薬剤の選択が出来るようになった。
 出血性素因を分類するには少なくともまず血小板数をしらべなくてはならない。血小板滅少性紫斑病(ITP)は普通の血液塗抹乾燥メタノール固定ギムザ染色標本でも血小板がほとんど認められないことによって診断がつくはずである。血小板減少性紫斑病ではないとわかり,血液凝固時間検査またはThrombotestを行なって凝固障害がなく,毛細血管抵抗検査で減弱していれば血管性紫斑病であろうということになる。血液凝固障害があれば検査が繁雑となる。プラスミン量を測定し増加していれば凝固第四相の活性化(線維素溶解性疾患)である。また,抗凝血素(circulating anticoagulant)が増加していないかを検査する。プロトロンビンを測定し減少があれば凝固第二相の障害,線維素原量を測定し低下していれば凝固第三相の障害である。残つたものが凝固第一相の障害すなわち血友病様疾患であり詳細な検査が必要となる。

夜尿症

著者: 中村仁吉

ページ範囲:P.1023 - P.1024

はじめに
 はつきりした排尿動作による,しかも不随意な排尿を"遺尿症"という。そして,この不随意の排尿が夜間睡眠時に起こるか,昼間覚醒時に起こるかによつて,つぎのように分けられている。
 しかしながら,夜尿がなく,昼間遺尿のみを示す例は少なく,全遺尿症のうち5%前後を占めるにすぎない。したがつて,遺尿症の大部分は夜尿症であるといえるので,(なお,夜尿症ではしばしば昼間遺尿をも合併するが)ここでは主として夜尿症について述べることとする。
 さて,不随意の排尿は,生後ある年齢に達するまでは生理的現象であるから,遺尿症を定義するうえに,年齢を規定することが必要となつてくる。

老人性高血圧症

著者: 岸本道太

ページ範囲:P.1025 - P.1027

脳・心・腎の障害も考慮して……
 老人性高血圧の大部分は本態性高血圧であり,この病気の本態は十分には分っていないが,全身,とくに腎その他内臓の細動脈の口径の減少が血圧上昇の第一義的なものと考えられ,今まで,いくつかの昇圧物質があげられているが,その作用の場は細動脈壁であるとされている。いずれにしても,高血圧の結果,心,腎,脳を中心とした臓器に動脈硬化が助長され,それが疾患の症状として前面に出ることが多く,また,高血圧症の予後としても,これら臓器の動脈硬化性病変,すなわち,脳卒中,冠硬化(心筋硬塞),腎硬化症の合併による死亡率が高い。したがって,高血圧症の治療も単に血圧を下げるだけでなく,心,脳,腎などの臓器の障害を十分考慮して,これらの対策を講じる必要がある。むろん,血圧を降圧薬でもつて下降させることは対症療法にすぎないが,動脈硬化を助長する原因の一つが血圧上昇である以上,高い血圧を適当に下げること自体が,臓器の動脈硬化性変化の進行をゆるやかにし,予後を良好にすることになると考えている。私は国立東京第一病院高血圧センターで,高血圧症を血圧,眼底,心,脳,腎の面で精密検査し綜合的に重症度を定め,それに応じて生活,食餌の規制,降圧薬の選択を患者に指示しているので,現在行なっていることを中心として述べてみたいと思う。

うつ病

著者: 桜井図南男

ページ範囲:P.1028 - P.1029

原因別に大別すると……
 うつ状態そのものはひとつの状態像である。だから,それを表わす原因にはいろいろなものがある。しかし,臨床の実際からいうと,まず,つぎの3種類のものを念頭におくべきであろう。
 1)内因性うつ病,2)神経症性うつ病(反応性うつ病),3)症候性うつ病

グラフ

有毒昆虫による病害

著者: 黒佐和義

ページ範囲:P.978 - P.979

 昆虫のうちには毒素をもっていて人体に病害を与えるものが少なくない。加害様式によってこれを分類すると次の4型となる。
 1)吸血時に唾腺から分泌した毒液を注入する型。

肺がん—その鑑別

著者: 本間日臣

ページ範囲:P.981 - P.984

 肺がんと結核,慢性肺炎,その他の炎症性変化とのレ線像における鑑別の要点は,腫瘍は周辺の組織を圧排するところの膨張性変化の所見を呈することであり,他は炎症の治癒像,すなわち線維組織の出現に由来する収縮性の変化を多かれ少なかれ伴うということである。辺縁にあつて血管に冨み,早期に転移を起こす腺がんの場合には,とくに腫瘍が小さい時に診断されねばならないので,出現の時期を捉えること,そしてどのような環境で新しい陰影が現われたかを捉えることが最初の手がかりとなる。扁平上皮がんは,中心に多く連続性に徐々に発展するので,無気肺や,気管支閉塞に由来する炎症像を伴いやすくなるが,細胞診や気管支鏡検査で確認できることが多い。以下に数例のレ線像を例示する。

アミラーゼの簡易測定法

著者: 丹羽正治

ページ範囲:P.985 - P.986

 アミラーゼの簡易測定方法としてわが国では約50年前に発表されたWohlgemuth法が従来から広く採用されている。この方法では特殊な器具は必要でないが,1検体について11本の試験管を使い,37℃30分間の保温も行ない,またデンプン液もしばしば作り変えなければならなかつた。
 ここに紹介する方法はそれよりもさらに簡便であり,1回の検査に必要なデンプンと緩衝物質との混合物が長期保存のきく乾燥状態で封入されているアミラーゼ管を使つて行なうものである。

ファースト・エイド

ひきつけ

著者: 篠塚輝治

ページ範囲:P.1030 - P.1032

 小児の救急処置のうちでも「ひきつけ」の治療はもつとも重要なものの一つである。「ひきつけ」は非特異的反応であるので,この状態だけからその原因である疾病を確診することはむずかしい。「ひきつけ発作」が死に直結することもありうる。また「ひきつけ発作」が長くつづけば,そのために永続的脳障害を遺残する危険も大となる。それゆえに救急処置を行ないながら原因を探索し,適切な原因治療もできるだけ早く行なうように努める。

器械の使い方

肺機能検査器具—どんな器械をどのように揃えるか

著者: 梅田博道 ,   金上晴夫

ページ範囲:P.1033 - P.1035

どんな器械からそろえるか
 梅田 金上先生の肺機能検査室へ行くといろいろな機械がずらつと並んでいて,よだれが出ますね。
 この肺機能を調べる機械というのは,一体どういうふうにそろえていつたらいいでしようか。肺機能というのは幅が広いからいろんなものがあるでしようけれども,それを少し整理して,系統的に並べてみたらどういうことになりますか。

正常値

血中,尿中アミラーゼ値—方法による違い

著者: 丹羽正治

ページ範囲:P.1092 - P.1093

酵素の活性値とは
 アミラーゼ(AM)の正常値について述べる前に注意すべきことがある。それは「酵素の定量」と便宜的にいうことがあつても,ほかの物質の場合と違つて酵素自体がたとえば何mgあるかを直接表現せずに,ある特定の条件のもとでのはたらきの程度,すなわち活性値を測つていることである。
 これは「人の身長をその陰影から推定する」ことに似ている。そのため同一検体の「酵素を定量」しても,測定方法が違つて使う基質や緩衝液の種類や濃度,水素イオン濃度,放置温度や時間などの各種の条件が違えば結果も変動する。また検体中で酵素のはたらきを賦活したり,阻害したりする物質が増減しても活性値は影響されることも一応は考えておく必要がある。そのうえ,活性単位の算出規準も測定方法によつてそれぞれ違つたものが採用されている。

診断問答

産後の脳血管障害と拡張期雑音を伴つた患者の診断

著者: 高階経和

ページ範囲:P.1094 - P.1096

第1部
 医師A―先日の「流行性単球症」のケースは,たいへん珍しいものだと思いましたが,一応流行の時期に出くわさないと,ちよつと見られないものかもしれませんね?
 医師B―ええ,そうですね。私も朝鮮戦争のときに米軍の病院で一緒に軍医さんたちと回診をしましたが,あのころはかなりG. I. たちの間で「流行性単球症」が流行し,そんなに珍しいものとも考えておりませんでしたが,それ以後は久しくお目にかかりませんでしたよ。(笑声)

統計

最近の結核罹患と死亡

著者: 滝川勝人

ページ範囲:P.1010 - P.1010

 わが国における最近の結核の様相は,医学の急速な進歩,社会情勢の変遷結核対策の推進などと相まつて,いちじるしく変化してきております。結核死亡の急速な減少,若年層における結核患者の激減,高年層における結核患者の増加などは,欧米諸国におけると同様に,そのまん延の極期を過ぎたようにも思われます。昭和22年以後のわが国における,医師届出による罹患と死亡の状況を,人口10万対の率で見たのが図であります。これで見ますと,罹患率では昭和26年の698.4をピークとして下降に転じ,死亡率では昭和22年の187.2を最高とし以後ずつと減少しております。
 厚生省においては,わが国における結核の実態を明らかにするため,昭和28年,33年,38年の3回にわたり,全国民を対象として「結核実態調査」を行ないました。その結果をみたのが表であります。すなわち,昭和38年のわが国における全結核患者数は203万人と推計され,これを人口対率で見ますと2.1%となり,昭和33年の3.3%,昭和28年の3.4%と比べて毎回低下しております。

症例

高年者腰痛患者のレ線所見

著者: 恩地裕 ,   立松昌隆 ,   金曽啓時

ページ範囲:P.1069 - P.1073

高年者腰痛を扱う上の注意
 高年者,主として50歳以上の患者で,腰痛を主訴として来院するものが非常に多く,その症状も人により多種多様で,その確定診断,ならびに治療に困難を覚えることは内科医,外科医を問わずしばしば経験されていることと思う。このような高年者腰痛患者の脊椎レ線像,とくに,その腰椎部レ線像でもつともしばしば遭遇する所見は椎問腔の狭小化,椎体辺縁部の骨堤隆起,椎体のレ線透過度の増加,椎体そのものの変形,ならびに脊柱配列の異常などである。すなわち,変形性脊椎症,骨粗鬆症,ならびに仮性辷り症などが一般的所見である。しかし,高年層にあつては脊椎の転位性癌に対する考慮も忘れてはならない。いま一つ,高年者の腰痛を取扱う上で,股関節の変化,とくに女性に多く見られる変形性股関節症の存在を忘れてはならない。患者の訴えだけを重視し,おうおうにして変形性股関節症の存在を見逃すことがある。
 今回はもつとも一般的に見られる変形性脊椎症,骨粗鬆症のレ線所見を主として述べることにする。ここでいう骨粗鬆症とは主として,更年期骨粗鬆症,ならびに老人性骨粗鬆症のことであるが,この骨粗鬆症の病態について若干ふれてみると,骨粗鬆症というのは,字に示されているごとく,骨が粗になることであり,それがとくに脊椎ならびに骨盤など,海綿骨に著明にあらわれ,レ線所見ではその透過度が増加し骨の陰影がうすくなつてくる疾患である。

五十肩—その症例と考察

著者: 清原迪夫 ,   佐藤進

ページ範囲:P.1074 - P.1077

 いわゆる五十肩は症候群であつて,原因も単一ではないが,肩関節の疼痛と運動制限を主訴とする疾患で46〜55歳にもつとも罹患率が高い。ここでは外来で経験した症例をもとに,その臨床の全般について考察した。

他科との話合い

痛み—頸・肩・腕を中心に

著者: 北村和夫 ,   青木虎吉

ページ範囲:P.1078 - P.1083

 痛みを訴える患者は実に多岐にわたる。ともすれば,痛みの部分のみを見て,異常がないとしてかたづけがちであるが,そのために重大な内科疾患によるものをも,見逃がしてしまうことはないだろうか。

基礎医学

肺機能—もつと興味をもつために

著者: 梅田博道 ,   金上晴夫

ページ範囲:P.1086 - P.1091

肺機能検査は,まだ一般的にはなじみの深いものとはいえないけれども,肺疾患のスクリーニングのためにも肺機能の検査について,これだけは知つておきたいもの

座談会

医師像—映画「赤ひげ」を見て

著者: 木下繁太郎 ,   宮脇博 ,   大河内恒 ,   村松博雄

ページ範囲:P.1042 - P.1046

 村松(司会)「赤ひげ」を見てそれが現代の問題と,どういうふうにつながるかということを考えたいんですが,木下先生は診療所をやつておられて,ある意味であの文化文政のころの小石川養生所と同じような立場にあるわけなんですが,いかがでしようか。
 木下 映画を見てたしかに感激しましたよ。だけれども時間がたつてみると,その感激というのがやっぱり赤ひげに対する感激じやなくて,映画のいろんな個々の小さなエピソードみたいなものに対する感激なんですね。

If…

生涯の感激,クロー先生の手紙—国立仙台病院長 中沢房吉氏に聞く

著者: 長谷川泉

ページ範囲:P.1038 - P.1039

古生物学を専攻していたかも……
 長谷川 先生が医学者になられなかつたら,いつたいどんな途を進まれたとお思いですか。まずそのことをうかがわせてください。
 中沢 おそらく地質学者,そして古生物学を専攻していたと思います。その理由はといえば,こんなことになります。私の郷里の新潟県柏崎は石油で有名でした。明治の初め,近くの石地町出身の内藤久寛という人が石油に着目し,日本石油会社を創設し,私の中学時代(明治40年〜45年)まだ健在でした。私は地質学を学び,日本石油の指導的立場になりたいと思つたので,その目的で二高に入りました。ところがその頃から次第に石油が出なくなつて,掘るとガスばかり出るので石油会社も見込み少なくなつたし,さらに二高で地質の講義もあつたが,その先生の講義が実につまらないので,地質をやる気がなくなりました。ただ古生物学というのは面白そうだから,石油はあきらめてその方をやろうか,などと考えているとき,東北大学に医学部ができたので,その方に転じようかと思つて親に相談したら,親戚に一人も医者がいないから,といつて親も乗り気,また東大出の町の院長さんに相談すると,すばらしい立派な先生がきまつているから,ぜひ東北の医学部に入れとすすめられて,方針がきまつたのです。古生物学も面白い学問ですが,やつてみると医学もなかなか面白く,一生の方針としてあの時転換してよかつたと思つています。

海外だより

国際色豊かな医科大学—Hahnemann大学だより

著者: 永野志朗

ページ範囲:P.1050 - P.1052

歴史の香り豊かな大学都市
 私は昨年7月,脳および心臓の代謝研究のため,research fellowとしてHahnemann医科大学にまいりました。
 Hahnemann医科大学は,アメリカの東部Pennsylvania州の第1の都会Philadelphia市にあります。緯度よりみますと日本の盛岡にあたり,夏冬はかなりきびしい気候ですが,春秋は快適な日が続きます。

もっとも印象に残つた本

心ひかれた中国文学—私の読書遍歴

著者: 小宮義孝

ページ範囲:P.1040 - P.1041

クロード・ベルナール「実験医学研究法序説」
 私がまだ東大医学部の3年生か4年生のとき,どうしたわけか,「医学の研究方法」ということに,一方ならぬ関心をひかれていた時期があつた。こうした折,岩波書店の「思想」という雑誌に,当時の精神科の杉田直樹先生が—たぶん,そのころはまだ助教授だつたが—,実験医学研究法,たぶんそうした題で,論文をのせていた。
 その論文のなかで,クロード・ベルナールの「実験医学研究法序説」のことを引用していた。

簡易臨床検査のやり方と評価

血清ルゴール反応

著者: 丹羽正治

ページ範囲:P.976 - P.976

 Mallenらによって発表された血清ルゴール反応の本態は主として血清タンパク分画の変動,とくにA/G比の低下と高度の相関があるとされている。またその操作はきわめて簡単であるため。肝疾患を主とする各種疾患の場合の血清タンパク異常の簡易検査法としての有用性が広く認められている。
 実施 1)試薬:ヨード20g,ヨードカリ40gをあらかじめ少量の水に溶かしたのち水を加えて全量を300mlとし,スポイト付褐色瓶に貯える。

ノモグラム

体表面積算出ノモグラム

著者: 阿部裕

ページ範囲:P.969 - P.969

使用法:横軸に体重(kg),縦軸に身長(cm)をとり,この点より,各軸に直角に垂線を立て,交点を求め,その部位の体表面積を読みとる。小さいノモグラムは小児用である。(Sendroy, J. & Cecchini, L. P., J. App. physiol., 7:1, 1954による)

臨床検査の盲点

体表面積補正

著者: 阿部裕

ページ範囲:P.1097 - P.1097

 臨床検査の成績には血清中濃度のように,被検者の体格の大小とまつたく無関係のものもあるが基礎代謝,腎血漿流量のように体格の大小と密接に関連するものもある。この場合それぞれ体格に応じた正常範囲があるわけであるが,これをいちいち照合していてはきわめて繁雑なので成績を一定の体格の値に換算する方法がとられている。
 ここで,体格の基準として採用されるのが体表面積(body surface area)で,通常m2単位で表わされている。基礎代謝量が体表面積とよく比例することは昔よりよく知られているが,これは体を構成する各臓器,各組織の細胞数が体表面積とほぼ比例する事実にもとづいている。したがつて各臓器の大きさ,血流量,単位時間の最大仕事量なども体表面積に比例し,腎血漿流量,糸球体濾過量などに対し体表面積補正が行なわれるのもこのためである。

医学英語論文の書き方17

医学論文の作り方

著者: 紺野邦夫

ページ範囲:P.1036 - P.1036

 今回も日本人の作つたAbstractを,外人がどう直すかの例を挙げます。左右対照されてよくこらんください。

話題

医原性疾患をめぐつて—第6回日本精神身体医学会シンポジウムから

著者: 池見酉次郎

ページ範囲:P.1037 - P.1037

 近頃,用いられている医原性疾患という言葉の内容は,人によつてかなり異なつており,一般には医師が原因的な役割を演ずるというよりも,医療とくに投薬に伴う副作用といつた意味に解せられている場合が多いようである。しかし,今回のシンポジウムにおいては,心身医学の立場からHurstが最初に用いた本症の定義に則り,「医師と患者との心理的な交互作用によつておこるもので,医師の心身医学や患者心理の理解が深まることによつて,十分さけうる状態」に限定して論ずることにした。
 東大分院の石川講師,名大内科の祖父江講師,鹿大内科の金久教授,菅助教授は,それぞれ,内科の立場から,本症の発生や経過に関与するものとしては,医者の側の諸条件のみでなく,患者の側の諸条件や医者・患者の心理的な結びつきのいかんが,重要な意味をもつものであることを,自験例について述べられた。

脳血管障害のリハビリテーション—第2回日本リハビリテーション医学会シンポジウムから

著者: 杉山尚

ページ範囲:P.1048 - P.1049

リハビリテーション医学会創立までのこと
 わが国におけるリハビリテーション医学会は数年前よりそれぞれ内科系と整形外科系とでその設立が準備されていたが近い将来わが国においても本学会の飛躍的発展が要望される実状にかんがみ,一昨年,つまり昭和38年8月この両者が中心となり,さらにリハビリテーション医学に関係あるすべての領域をも包含する日本リハビリテーション医学会の創立準備会に統合されたことはまことに幸せなことであった。翌昭和39年7月第1回学会が大阪において水野祥太郎教授を会長に開かれたが,本年は汎太平洋リハビリテーション会議にさきだつて,第2回総会が4月11,12の両日虎の門ホールにおいて大島良雄会長のもとに開催された。
 この学会で脳血管障害(C. V. A.)のリハビリテーションシンポジウムが行なわれたが,これは初めからシンポジウムとして企画されたものではなく,集まったC. V. A. に関する一般演題を一括してシンポジウムの形で私が司会するといった肩のこらない新しい形で行なわれたことに意味があったように思われる。リハビリテーション医学におけるC. V. A. のリハビリテーションの占める位置はきわめて大きいもので,このことは昨年同様本年もC. V. A. のリハビリテーションに関する演題が12にもおよび,全演題の1/3を占めていたことでも了解される。

いかなるときに心身症の疑診をおくか—第6回日本精神身体医学会シンポジウムから

著者: 九嶋勝司

ページ範囲:P.1102 - P.1102

 "心身症の診断"というシンポジウムにおいて,精神科および心療内科側などから,患者を診察するにあたつては,身に偏せず,心にかたよらず,病める人間を心身両面から全的に診ていくべきものであることが強調された。基本理念としてはまことにそのとおりであるが,実際に患者を扱つているものには,またこれと異なつた行き方が必要である。

梅毒の血清学的検査のバラツキについて

著者: 鈴田達男

ページ範囲:P.1098 - P.1101

 血清学的検査のバラツキの問題は海外ではすでに一般化しているが,わが国でもおくればせながら大きくとり上げられようとしている。精度管理の面から検査室の在り方がどうしても問題になつてくる。

文献抄録 JAMA 19th Apr.Editorialより

妊娠中のウイルス肝炎

ページ範囲:P.1103 - P.1103

 ウイルス肝炎の併発は一般に男性より女性に多いと考えられており,とくに妊娠中に罹患すると高い死亡率を伴うという報告が多い。一見,妊娠による緊張が母体の抵抗力に影響するのだと考えられるが,母体を救うために,人工流産さえすすめる医師がいる一方,肝炎の経過には妊娠はなんら影響をおよぼすものではないと結論するものもいる。
 それぞれの報告を吟味してみると,これらの相反する意見についてもある程度の説明はつくが,これらの報告は入院患者の回顧的分析にもとづいており,障害が明瞭に判別できる比較的重症の患者が含まれることによつて,どうしても標準的でないかたよつたものになつていると思われる。

ニュース

日本薬剤師会医薬分業などを要望

著者:

ページ範囲:P.1105 - P.1105

 日本薬剤師会(会長 高野一夫氏)は,さる4月21日,神田厚相に(1)今回のカゼ薬問題は,薬事制度ならびに薬事行政に原因があるので,現行薬事制度を全面的に是正する。このため急速,適切な調査機関を設置する,(2)医薬分業はすでに法文化されているが,現実には進展が見られないので,即時医薬分業を推進する方策を講ずる,(3)医薬品ならびに医薬品取り扱い業者に対する国民の信頼を高めるため適切な方途を講ずる,の3点を実現するよう要望した。
 これに対して厚相は,「医薬分業はすでに実施すべき時期にきていると思う。したがつて,十分検討したい」と答えたと伝えられており,医薬分業問題がふたたびクローズアップされてきた。

紛糾する薬価基準の引き下げ

著者:

ページ範囲:P.1104 - P.1104

 日本医師会は,健康保険法の改正で一躍クローズ・アップされた薬価基準の引き下げは,政府がステロイド・ホルモン,抗生物質,活性ビタミンなどの価格検討をメーカーに強要し,これを出発点として全面的な薬価の引き下げを意図するものであり,薬価の全面引き下げは将来の薬の質的低下をまねくおそれがあるので,全面的に反対するとの方針を強力にうちだしている。
 一方,健康連,総評などの代表は,健保法などの改正案を審議している社会保険審議会で,薬価基準の引き下げ問題をとりあげ,「民間会社で1,000億円もの赤字を出せば,社長以下役員はクビものだ」,「薬価基準引き下げを実施すれば,赤字解消に役だつことを知りながら,医師会の反対から放置して国民に過重な負担を強い,しかも赤字が累積したから国民に尻ぬぐいをさせるというのは暴論だ。これが公正な保険行政といえるか」と,厚生省当局の怠慢を鋭く追及している。そして,薬価基準の引き下げ方法についても,薬の卸売り価格の値下がりから,総医療費の約4.5%,450億円の引き下げが可能であるが,現在中央社会保険医療協議会に諮問中の3%分は同協議会の開催が不可能なので後まわしにし,1.5%分をただちに引き下げて国民に返せと主張している。

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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