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雑誌目次

雑誌文献

medicina2巻8号

1965年08月発行

雑誌目次

EDITORIAL

知覚の検査

著者: 佐々木智也

ページ範囲:P.1149 - P.1151

ふたたび神経疾患診断のかなめについて
 神経疾患の診断は正確にとらえられた現症を組織的に分析すれば,巨大で高価な診断器具を使用しないでもかなり適確に行なわれる。一方,もし仮りに,中央検査室で行なわれているすべての検査を実施したとしても,神経学的な現症が不十分であれば診断はくだせない。すなわち,神経疾患の診療には医師のもつている五感を縦横に駆使して初めて得られるものの価値が大きく,医師以外の技術員はあまり頼りにならない。もちろん,これはすべての臨床検査法が無意味であるというのではなく,髄液検査,ミエログラフィー,脳血管造影,気脳法,酵素活性などの価値は大きい。
 さて,このようにたいせつな神経学的現症は,あくまで正確な方法,手順によつて調べられ,記録されなければならない。そのすべてについて述べるのは,紙面のつごうもあり不可能であるので,知覚の検査について述べたい。知覚の検査は神経疾患の部位診断にはもつとも有効な方法であることはよく知つていても,どのような注意をして,何を利用して,どのようにして行なつたらよいかは案外知らない場合があるように思われる。

今月の主題

蛋白尿—その考え方

著者: 井村棲梧

ページ範囲:P.1152 - P.1156

 内科病院を訪れる患者の5%前後は蛋白尿が証明される。これらの蛋白尿のかなりの部分は,慢性腎炎によるものであろうが,そうでない蛋白尿もずいぶんあることが推定され,ことに慢性良性蛋白尿とでもよんでよいものが,あるのではなかろうか。ともあれ,これらの蛋白尿を見た場合にはどのように考え,どのように取り扱つたらよいか。

薬物による肝炎

著者: 小坂淳夫

ページ範囲:P.1157 - P.1160

 薬物による肝障害は四塩化炭素などのいわゆる肝臓毒が直接肝細胞を障害するのとは異なり,投与日数や投与量とは関係なく現われ,ウイルス性肝炎との鑑別も難かしい。したがつて,実地医家はどういう薬剤がこのような肝障害を起こすかを知つておくことが必要である。

<話合い>薬物による肝炎

著者: 岩本淳 ,   高橋忠雄 ,   原三郎 ,   三辺謙

ページ範囲:P.1161 - P.1167

 薬物による肝炎は,まさしく医原性疾患の代表的なものの一つであろう。診断,予防ともに大変むづかしいものであるが,臨床家として知つておかなければならない考え方,手がかりなど……。

Physical Diagnosis

心臓病診断のコツ

著者: 山川邦夫

ページ範囲:P.1168 - P.1169

 心臓病の診断においても,理学的所見の正しい把握が必要である。これに加えて胸部レ線,心電図,心音図まで,駆使させれば心臓病のおおよその診断は可能である。

診断のポイント

原因不明の浮腫

著者: 鷹津正

ページ範囲:P.1171 - P.1173

 浮腫には全身性および局所性の2種がある。その成因には末梢血管においてStarlingの平衡を破る因子,すなわち細動脈および細静脈の毛細管に接する部の血圧,血液膠滲圧,組織圧などのほかに毛細管の透過性,さらに組織間腔液の静脈系に返るに必要なリンパ管の変化がある。全身性浮腫をきたすにはNaの蓄積を必要とする。以上の因子に影響を与える疾患は浮腫をきたしうるが,日常われわれが見るのは心疾患,腎疾患,肝疾患,低蛋白血症(以上全身性),アレルギー性浮腫,炎症,静脈血栓(以上局所性)などである。したがつて原因不明の浮腫といえば以上の疾患群を除外したものとなる。以下日常の臨床において留意すべき事項について述べる。

尿素窒素の高いとき

著者: 柴田進

ページ範囲:P.1174 - P.1176

問題にしなければならないのは
 血清尿素N(窒素)濃度の正常値上限を15mg/dlとし,それ以上を尿素N濃度の増加とみなすことにすれば,高尿素N血症は臨床検査室(化学部門)で取り扱う血液資料7個について1個の割合で遭遇するところのごく平凡な病的現象である。
 ところが高尿素N血症の8O%までが尿素N濃度20mg/dl以下の症例である。このようにごくかるい高尿素N血症は病気の経過中に一過性に出現するもので,ことに病院に入院した当初の問処置を受けずにいる患者に多い。2回目の検査を数日後に実施してみると尿素Nは正常範囲に戻つている。

自発性気胸

ページ範囲:P.1177 - P.1179

治療のポイント

腰痛性疾患—まず原因疾患の鑑別を

著者: 藤本憲司

ページ範囲:P.1180 - P.1181

 腰痛または坐骨神経痛を訴える患者は実に多い。しかもその原因となる疾患の数も多い。であるから各症例に適切な治療を行なうためには,まず原因疾患を鑑別することが前提となるわけであるのに,往々にして単に腰痛症または坐骨神経痛という病名のもとに,鎮痛剤の注射または投薬が漫然と行なわれているのを見かける。以下,日常多く遭遇する腰痛性疾患の鑑別診断の要点と治療法について簡単に述べる。

糖尿病と酒

著者: 中山光重

ページ範囲:P.1182 - P.1183

ウイスキーは悪くないとよく聞くが
 お酒を飲んで良いかどうかとは糖尿病患者からよく受ける質問である。それは量によると答えると,次にはお酒の中ではウイスキーがよいときくがどうかという質問である。私の診ているある患者は小料理屋に行つて飲んでいた時,同席の糖尿病の客から,ウィスキーか合成二級酒は糖尿病によいときかされ,以来もつぱら合成酒による糖尿病治療を試みていると話した者がいる。このようにウイスキーとかブランデーとかの蒸溜酒が糖尿病に賞揚されたのはずいぶん古い話で,これは別表にあるように酒の中に糖質が入つていないためである。
 明治から大正の始めにかけて,インシュリンの発見される前の時代は血糖の測定も容易なことでなかつたし,糖尿病の治療はもつぱら糖尿を無くすことに努力が払われた。糖尿を皆無にするためにはいきおい糖質を極端に制限し,糖質を含まないアルコール飲料をカロリー源として利用したのである。

ネフローゼ症候群

著者: 浅野誠一

ページ範囲:P.1184 - P.1185

まず原病を考える
 ネフローゼ症候群は一つの疾患単位ではなくて種々の原病によつておこされる症候群であるから,治療をはじめる前に,その原病を考えることである。純型リポイドネフローゼ,腎炎のネフローゼ期,Lupus erythematodeo腎症,糖尿病性腎症(Kimmelstiel症候群),梅毒腎,アミロイド腎,骨髄腫腎,薬物中毒腎(てんかん治療剤Tridioneなど),腎静脈血栓などの原病となるべきものを診断することは,それぞれ原病に対する特殊な治療法によつて軽快しうるものが含まれているからであり,また,しばしば劇的に奏効するsteroid療法は上記のうち最初の三者にしか効果が期待できないからである。そして原病が特殊なことが明らかなものは,当然その原病に向つての治療が必要で,たとえば梅毒腎ならば駆梅療法,薬剤中毒腎ではその薬剤の投与中止がまず必要である。
 ネフローゼ症候群は原病はなんにせよ,図のような系列のもとに浮腫を発生すると考えられるから,種々の治療法の作用点の位置をみて,その上位の治療法がよいことになる。ACTHや副腎ステロイドの真の作用機序についてはなお不明の点が多いが,現在,本症候群の出発点に作用すると考えられているので,これが有効なことが最ものぞましい。

新しい駆虫剤

著者: 岩田繁雄

ページ範囲:P.1186 - P.1188

 ここ数年のあいだに数回にわたり寄生虫病の化学療法について記述している(1)。本年ドイツ医事週報のNr. 6,266頁にZurich大学のHegglin教授の下のAmmann(2)が寄生虫病の治療を書いている。これと私が数回にわたつて書いているものと比べたら,彼我の関係およびSchwalzwelderら(3)の米国の文献もあるのでこれを見ていただいたらだいたい世界の先進国の寄生虫駆虫剤の現況がおわかりになると思う。

グラフ

肺の開胸生検による診断—Open Lung Biopsy

著者: 正木幹雄 ,   山中晃

ページ範囲:P.1138 - P.1139

 肺のびまん性陰影を持つ疾患群は,種類が多く,診断をつけるのに困難であり,したがってしばしば,その治療も適当を欠くことがある。このような肺のびまん性疾患群の解明には,現在のところ,肺の生検以外に適当な方法がない。
 肺の生検には,(1)針による方法(Needle Biopsy)と,(2)開胸による方法(Open Lung Biopsy)との2方法があるが,生検針を使用する方法は,簡単で,手っとり早い手技ではあるが,針でとられる材料は小さいので,的確な診断を下し得ることが少なく,また禁忌も多い。

CRP試験とCRテスト

著者: 小酒井望

ページ範囲:P.1141 - P.1144

 CRP C-Reactive Proteinとは肺炎球菌の菌体のC多糖体と反応する蛋白質のことで,肺炎球菌による感染の場合のみならず,体内に炎症のある場合,組織の破壊のある場合に出現する。すなわちCRP試験陽性となる.健康人ではCRP陰性である。
 (なおCRPの由来については本誌Vol.1.No.6,p.126を参照されたい)

51Crによる赤血球寿命の測定

著者: 倉光一郎 ,   柴田久雄

ページ範囲:P.1145 - P.1146

 原理 CrO4-は赤血球膜を透過して血球内のヘモグロビンと結合し,還元されてCr+となり,再び赤血球膜を通して逸脱することができなくなる。Cr+は赤血球自体か崩壊しない限り細胞内に止まり,赤血球崩壊に際して放出されたCr+は赤血球膜を透過しえないので,再利用はされることがなく,速やかに尿路より排泄される。放射性クロム51Cr(半減期,27.8日)の6価のNa251CrO4を用いれば,この原理によつて赤血球を51Crにより標識づけることができる。

ファースト・エイド

急性腹症のX線診断—そのとり方

著者: 石川誠

ページ範囲:P.1229 - P.1232

 急性腹症は急激な体性痛をきたす代表的なものであり,多くは緊急手術の対象となる。すなわち,その痛みは側壁腹膜,腸間膜根,小網ならびに横隔膜などに病変がおよんで,その部に限局して起こる痛みであり,また非対称性の持続性の痛みで,体動によって増悪するなどの特長がある。この際内腔臓器の伸展や痙攣に伴う拡張などによる内臓痛も加われば,その特長である悪心,嘔吐顔面蒼白,発汗などをきたすのが普通である。なお,内臓痛は躯幹の中心線上に対称性に起こり,体動により痛みの程度は軽減する。そして胃,十二指腸,胆管,膵管性の内臓痛は心窩部に,小腸性のは臍膀周囲に,上行・横行結腸の拡張痙攣では臍下部に,肝・脾屈曲部のそれでは,それぞれ右または左季肋部になどと一定の部位に周期性におこるものである。この内臓痛には鎮痙剤が奏効し,一般に外科的処置を必要としない。
 急性腹症では,主として激烈な体性痛,それに内臓痛や,それぞれの連関痛も加わつて起こるものであり,実際にはつぎのような疾患が含まれる。すなわち,(1)胃腸管などの穿孔,(2)腹膜炎,(3)胆石に化膿性胆嚢炎や胆道炎を合併したもの,(4)腎盂結石および腎周囲膿瘍,(5)各種絞抱性イレウス,(9)急性膵壊死,(7)嚢腫の茎捻転,(8)腸間膜血管の栓塞または血管痙攣,(9)腹腔内大出血,(10)脊髄癆による神経発症などがある。

器械の使い方

基礎代謝計

著者: 井川幸雄

ページ範囲:P.1193 - P.1195

基礎代謝とは何か
 基礎代謝(Basal Metabolism)とは早朝空腹時,絶対安静状態でのエネルギー代謝のことで,そのとき生体の産生する熱量(単位はカロリー)をいう。このような状態でも生休の内部で心筋,呼吸筋などは活動しており,そのほか腺,粘膜などでも分泌,呼吸などの活動がある程度行なわれて熱産生(heat production)があるのでこのような代謝が見られる。さらにこのほかにも成長期や消耗性疾患からの回復期には体成分の合成が進行しているので,このような時期にはそのためのエネルギー代謝も必然的に基礎代謝のなかに入つてくる。さて生体の代謝量はその活動の状態で非常に変化するので,基礎代謝を測定するためには被検者を基礎的条件(basal condition)で測定することが必要である。すなわち,(1)検査前少なくとも12時間は絶食していること。(2)前夜十分睡眠をとつてあること。(3)検査室で測定前少なくとも30分は安静臥位をたもつたあとで測定する。外来の患者では60分以上の安静が必要である。(4)安静中,測定中に寝入ることは避ける必要がある。睡眠時の代謝は基礎代謝より低い(睡眠時の脈拍,呼吸数が覚醒時より少ないのと同様)。(5)検査室は静かで,室温18〜20℃,温度60%で快適であることが必要。(9)発熱時や月経時は避ける。

正常値

血清尿素窒素

著者: 越川昭三

ページ範囲:P.1254 - P.1255

 血清尿素の濃度を表わすのに,多くの場合尿素そのものの濃度よりも尿素窒素が用いられる。それは尿素そのものの濃度よりも窒素として表現したほうが,残余窒素NPNとの関係がより明らかになり蛋白代謝の一環としてみていくうえにつごうがよいからである。尿素の分子量は60で尿素中の窒素は28であるから,尿素窒素は尿素濃度に28/60を乗じたものになる。
 尿素は細胞膜を自由に通過することができるから,だいたい全体水分量に均等に分布していると考えてよい。つまり体組織のどこをとつても尿素濃度はだいたい等しい。(例外は腎と脳であつて腎ではいちじるしく濃縮され,脳では脳血管関門によつてやや低めの濃度で存在する。)したがつて血液尿素窒素BUNも血清尿素窒素SUNも等しいはずであるが,表からもわかるようにBUNのほうが少し低い。これは赤血球中の水分が少ないことによるもので,水分あたりに換算すれば等しくなる。SUNは5〜23mg/dlという比較的ひろい範囲に分布している。それはSUNが,尿素の生成と,尿素の排泄という2つの機構のバランスのうえに成立しているものだからである。つまり尿素の生成が多くなれば当然血清尿素は高くなる。しかしこのような場合でも尿素を排泄する機構すなわち腎が正常であるかぎり,SUNが正常限界をこえてまで高くなることは,まず起こらない。この関係をもう少し詳細に見てみよう。

この症例をどう診断する?・1

出題

ページ範囲:P.1129 - P.1129

■症例
 53歳の男子事務員。
 既往症:小学生時代より胃腸の具合がわるい。酒は1〜2合,タバコ1日10〜20本。

討議

著者: 田崎義昭 ,   和田敬 ,   金上晴夫

ページ範囲:P.1259 - P.1265

 今月号から「この症例をどう診断する?」を数回にわたつて連載することにしました。一つの症例をめぐつて,ディスカッションをしながら診断をすすめていくということは,すでに病室なり,医局なりの現場で行なわれていることですが,その誌上再現を意図してこの欄を設けました。ねらいとすることは,診断の結果もさることながら,参加者の診断のすすめ方,考え方の過程を知ることが,現実に役立ちもするし,もつとも関心の深いところであろうと考えたからです。「恥をかく会」と名づけようかという話が出たほど,そのままの討議を掲載させていただきました。

神経疾患リハビリテーションの実際・I

片麻痺

著者: 上田敏

ページ範囲:P.1189 - P.1192

 脳卒中後片麻痺のリハビリテーションの実際について述べる。なお脳外傷後,脳手術後の片麻痺についてもほぼ同様のプログラムが成り立つ。

症例

VitaminD抵抗性骨軟化症

著者: 恩地裕 ,   立松昌隆

ページ範囲:P.1233 - P.1236

 腎疾患と骨格系とは,その代謝において密接な関係があり,腎疾患を多く扱う内科医においては骨格系の変化について,つねに留意する必要がある。

手こずつた胆のう疾患

著者: 武田誉久

ページ範囲:P.1237 - P.1241

 胆のう・胆道疾患の診断は,ガンを除いてさほど難かしいものではないが,こみ入つたものになると胆のう造影もほとんど無力である。ここに紹介する3症例は,目の前の患者を見て合致しない点があつた場合,すべての成績や情報を疑つてみる必要のあることを反省させられたもの。

他科との話合い

小児をどう診るか—正常と異常の範囲

著者: 今村栄一 ,   春日豊和

ページ範囲:P.1242 - P.1247

 たえず発育している子どもの正常か病的かの判断は,かならずしも容易ではない。個人差もまた大きいので一つの規準では測ることができない。子どもの正常と異常をどのように判断するか。

基礎医学

痰の細菌学—呼吸器感染の原因菌のさがしかた

著者: 小酒井望

ページ範囲:P.1250 - P.1253

 肺,気管支の細菌感染,それが一次的なものであれ,ウイルス感染その他にひきつづいて起こつた二次的なものであれ,いずれの場合でも,痰の採取,細菌検査,原因菌の感受性検査,化学療法というのが診療の常道になつている。それでは痰の検査によつて原因菌,つまり感染の主役をなしている菌が確実につかめるであろうか。また痰の検査によつて原因菌をつかむにはどうすればよいであろうか。

If…

元教授も教え子も技術差0の保険—元岐阜医大教授 亀井奎介氏に聞く

著者: 長谷川泉

ページ範囲:P.1198 - P.1199

医師なら上・下の差がない
 長谷川 先生が医師を志された動機はどんなことでしようか。お家の関係者にドクターはおいでになりませんね。
 亀井 家には医師に関係のある者はおりません。病める者を助ける仕事だから,といえば若さのもつ感傷のようになりましよう。こういうことはありますね。医師には,比較的上・下というものがない。法科ですと,大臣から保険やにいたるまでたいそう差があります。私はぼんくらですから,医師なら上・下はないし,食いつぱぐれはありませんから……

海外だより 31

①Explore and Dream

著者: 黒島晨汎

ページ範囲:P.1202 - P.1203

〈New Orleansより友へ〉
 K君,医学部卒業おめでとう。君も僕と同じように将来を基礎医学の研究にうちこみたいとのお便り拝見しました。いろいろと真剣に考えられたうえのことと諸手をあげて賛成したいと思います。さてきようは君のご要望にこたえてアメリカにやつてきて1年間,見たり感じたりしたことについて書くことにします。
 現在アメリカの医学が臨床,研究ともにその質においても量においても世界の最先端にあり,その研究環境がどんなに快適なものであるかについてはすでに多くの人が話されているところです。ですから語られるべきもの,羨望されるべきものはいままでにほとんど尽されてしまつている感があり,ここにことさら同じことをくりかえすことは必要ないと思うのですが,君にとつては身近の僕が書くことですからより実感があり役だつのではないかと思います。

もつとも印象にのこつた本

土台からくつがえされた病気の概念—Viktor von Weizsäcker:Fälle und Probleme(症例と問題)

著者: 野村実

ページ範囲:P.1200 - P.1201

 「こんな本が日本で読まれていますか」とハイデルベルヒである開業医先生から渡された本は,ワイゼッケルの「医学のこなたとかなた」(Diesseits und Jenseits der Medizine)であつた。思えばそれは私がかれの名を知つた最初であつた。その本に魅せられてから,かれの著作をあさつて,はや10年になり,そのなかでこの「症例と問題」はもつとも私の印象にのこつた。
 この本はわずか203頁の小著で,緒言以外は著者が1946年5月から翌年3月までにハイデルベルヒ大学「一般内科」講座で行なつた臨床講義47である。各章とも症例と問題を異にし,4〜6頁におさめてある。

化学療法の開祖Ehrlichの足跡—Paul Ehrlichの50年忌に

著者: 高橋功

ページ範囲:P.1204 - P.1206

〈医学史上の天才〉
 Paul Ehrlichは1915年8月20日に亡くなつた。だから今年はその50年忌にあたつている。
 Ehrlichは化学療法の開祖と呼ばれ,そしてSalvarsanの発見者という肩書をもつている。それはそれにちがいない。けれどもEhrlichの業績はそれにとどまらない。彼はまず考える人であつた。そして非常に勘がよく,霊感といつてもいいほどその考えは非凡で,深遠で緻密であつた。そしてその考えはつねに理論に足をふまえていた。しかも彼は実験を重んじ,それに対する努力を惜しまなかつた。もし,医学史上の天才をえらべといわれたら,私は,まずEhrlichを推すに躊躇しない。

私の意見

病院の将来

著者: 新田実男

ページ範囲:P.1197 - P.1197

 近頃外来診療をしていると患者さんの側から進んで精密検査を希望される方が多くなつてきたように思う。"胃の具合が悪いのでレントゲンによる透視診断をしてもらいたい。""脈が不規則になるし,むねが苦しいので心電図をとつてほしい。"等々である。胸部のレントゲン検査を希望して受診する患者さんなども勿論多いのである。この患者さんには検査の必要はなかろうと思いながらも,もしきわめて微細な病変があつて,しかもそれが将来重大な症状を起こしてくるようなものが隠れていたら……と考えるとやはりできるだけ検査はすすめるべきであるし,また事実その中から,やつてよかつたとほつとする例も出てくるわけである。
 現在の日本人の疾病の実態からその対策がいろいろな面から一般に啓蒙され,その消化の度合はさまざまであるにせよ,ともかく早く検査を受けておこうとする考え方で病院に訪れる方が多くなつてきたものと思う。

海外の医学

アメリカにおける腎疾患治療の現状—とくに腹膜潅流法について

著者: 飯田喜俊

ページ範囲:P.1208 - P.1210

人工腎臓にとつてかわつた腹膜灌流
 腹膜灌流といえば,われわれにとつてすでに過去のものであると考えられてきた。しかし,私は一昨年から昨年にかけてアメリカジョージヤ州,アトランタのエモリー大学の内科腎臓病科において,最近の腎疾患の診断,治療について学んだが,この腹膜灌流が腎疾患治療に対し,いかに有用であり,また広く用いられているかを見て,いまさらのように驚いたのである。この現象はしかし,アメリカにおいてもとくにここ数年来,著明であつて,たとえば,急性腎不全の治療においても,以前は主として人工腎臓が用いられたのに対し,いまでは,人工腎臓と腹膜灌流の比が約1対10と逆転,ひんぱんに腹膜灌流が行なわれているのである。一方,わが国においては,現在のところ,一部の病院で行なわれたり,学会で発表されているにすぎない。しかし,人工腎臓が高度の医師および看護婦の技術と,高価な装置を必要とされるのに比べ,これはいかなる小病院ででもできるほど簡易であり,とくにむずかしい技術を要しないことから,今後おおいに一般化され,広く用いられるべきものと思う。

クッシング症候群を伴う惡性腫瘍

著者: 長野博

ページ範囲:P.1207 - P.1207

 悪性腫瘍といえば,普通,体重減少を伴うものが多いが,逆に肥つてくる場合もある。最近,ときどき報告されるようになつた,副腎皮質機能亢進症状を伴う悪性腫瘍がそれで,この悪性腫瘍は内分泌系とまつたく関係なく,転移巣すらも認められない場合がある。
 もつとも多いのは肺癌に伴う場合で,その他に胸腺腫,甲状腺癌,膵臓癌,などにみられることもある。E.N.Allottらが,1928年から1959年までの間に報告された,内分泌系に無関係の悪性腫瘍でクッシング症候群を伴う例を集めているが,36例中,肺癌が17例あり,次に胸腺腫10例,膵臓癌6例,その他各1例づつで,肺癌が約半数を占めている。しかも,肺癌の場合,特徴的なのはOat Cell CarcinomあるいはAnaplastic Cancerが圧倒的に多いことである。

統計

年齢階級別に見た結核の有病率と罹患率

著者: 滝川勝人

ページ範囲:P.1170 - P.1170

 前号においては,わが国における全結核の有病率・罹患率について,主として年次別にその推移を見てきましたので,今回は,年齢階級別にその有病率・罹患率を見てみたいと思います。
 まず,結核実態調査の結果より,昭和28年と昭和38年の全結核要医療について,年齢階級別に人口対率を見たのが図1であります。すなわち,昭和28年には,30〜34歳の6.6%が最高を示し,昭和38年には,70〜74歳の5.2%が最高を示しております。また,昭和38年における要医療について,年齢階級別に生活面の指導区分を人口対率で見ますと,図2のとおりで,要入院についても,70〜74歳の2.2%が最高を示しております。

薬のページ

DRUG INFORMATION

著者: 佐久間昭

ページ範囲:P.1196 - P.1196

 昨年,この欄を担当するようにいわれたときには,実験薬理学の立場から,比較的新しい薬の批判や紹介をするということでおそるおそる出発した。臨床家の皆さまに情報を提供するからには,臨床的なデータも加えたかつた。しかし,臨床の経験のないものにとつては,臨床的な報文に接して,これを基礎的な立場から翻訳しなければならなかつた。
 よくよく考えてみれば,この種の報文は,排泄物であり,これをながめて消化のよしあしを判断したうえで,翻訳をしなければならない。育児にあたり,大便を育てろ,というのは,正しくもあり,誤つてもいる場合がある。最近の報文には,上手に排泄物を作ることを心得たものがあり,門外漢にとつては,二重盲検法を利用したとか,偽薬を利用したとかいう記載が,確かに科学的に利用されたのか,報文のラベルだけであるのかを判断することが,はなはだ困難である。

文献抄録

ウイルス性肝炎にたいしてはプレドニゾン療法は無効—Lancet March 7 1964より

著者: ,   ,   ,   ,   浦田卓

ページ範囲:P.1256 - P.1257

はじめに
 ある薬が効くか効かないかの判定法には,いろいろな種類がある。しかし,厳重な統計学上の要請に沿つて計画された二重盲検法double-blind trial以外のものは,2,3のものを除いては,まず無意味である。これは,いまからほぼ20年ほどまえ英国で,つづいて数年遅れて米国で,それぞれ十分理解されたことである。しかるに,わが国の医師のあいだでは,このことがまだよく理解されていないらしい。というのは,各大学の教室から報告される薬の効果判定の臨床的データには,不可欠な同時コントロールがほとんど絶無といつてもよいからである。
 そういうわけで,東大物療内科の高橋晄正博士が指摘せられているように,わが国の医学のレベルは他の点はいざ知らず,薬効の判定という点だけに限れば,英・米にくらべて20年も遅れている,といつてもあえて過言でないような気がする。

ニュース

医療事故をめぐる問題

ページ範囲:P.1211 - P.1211

 医師などの誤診や処置の手落ちで,死亡したり,思わぬ後遺症をのこしたりすることは,苦情が厚生省に持ち込まれるものだけでも年間40〜50件を数えているといわれ,表面に現われないものも含めると,この種の事故は年間少なくとも100件を下らないと考えられている。
 ところが,現在の制度ではこの種の医療事故に対して,被害者はまず加害者である医師などに損害賠償の請求をし,両者の間で協議がととのわない場合は,民事裁判に訴えるしか頼れる道がなく,結局はうやむやのままで終る場合が少なくなかつた。また,東京都や神奈川県の医師会など,一部の都道府県医師会では,昭和35年頃から「医事紛争処理特別委員会」を設けて,顧問弁護士をおき,会員は月々一定の搬出金を納入して損害賠償金の支払いにそなえ,被害者から損害賠償の請求があれば,当事者である医師がそれを委員会に持ち込み,いわゆる示談の方法で,短期間に比較的有利な賠償金で解決するようにしている。この制度は,もちろん被害者にとつてもわが国の民事裁判の現状からみれば便利なものであろうが,本来は主として医師を救済するために設けられたものであるから,被害者が十分に納得のいく損害賠償金を獲得することは困難であると思われる。

新医療技術の開発/ハシカ・ワクチン来春から実用化

ページ範囲:P.1212 - P.1212

 電子工学,精密機械工学,高分子化学など,現在の技術革新の推進役となつている理工学の技術を医学医術の分野にとりいれて,国民の保健福祉水準の飛躍的な改善をはかろうと,新しい医療技術の開発をすすめている厚生省では,本年度の新医療技術研究費補助金の指定研究課題として次の5課題を決定した。
 すなわち,汎用医用電子計算機の開発に関する研究(主任研究者 東大工学部長・阪本捷房氏1,000万円),麻酔自動制御装置の開発に関する研究(慶大医学部教授・天野道之助氏500万円),外部より診断と治療の可能な高圧酸素室に関する研究(東大工学部教授・渡辺茂氏500万円),人工内臓に使用する高分子材料に関する研究(慈恵医大教授・綿貫喆氏350万円),人工血液の開発に関する研究(東京工大教授・神原周氏 150万円)の5課題で,いずれも2〜3年の計画で実用化をはかろうというものである。

充実が望まれる救急医療対策

ページ範囲:P.1258 - P.1258

 近年の高度経済成長は,国民生活にいろいろな影響をあたえているが,その一つとして見のがすことのできないものに,交通事故,作業場における事故など,各種の事故による死傷者の増加がある。これらの不慮の事故に対しては,まずその発生を未然に防ぐためのあらゆる努力をしなければならないが,それでも生じてくる事故に対しては,その傷病者に万全の医療をほどこすことができるような体制が確立されている必要がある。
 このため,国家消防庁の消防審議会や,厚生省の救急医療対策打合会で,それぞれ慎重な検討がおこなわれた結果,昨年4月10日から改正消防法と救急病院等を定める厚生省令が実施に移され,消防機関のおこなう救急業務と,救急隊が傷病者を搬送する医療機関の制度化がはかられたのである。

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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