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雑誌目次

雑誌文献

medicina20巻1号

1983年01月発行

雑誌目次

今月の主題 心筋梗塞のハイライト

理解のための10題

ページ範囲:P.82 - P.84

発症

心筋梗塞発症のメカニズム

著者: 河合祥雄 ,   加納達二 ,   岡田了三

ページ範囲:P.8 - P.14

心筋梗塞の定義
 心筋梗塞は病理総論的見地からは循環障害による心筋の壊死をいう.定型的梗塞にみられる凝固壊死は核の消失と,細胞質の均一な好酸性染色性をもって,その特徴とし,光顕的には梗塞後6時間生存した例ではじめて観察される.虚血性壊死巣の大きさについては慣用的に肉眼的に判別しうる大きさをもつもの(通常0.5cm1)ないし1.0 cm以上2))を梗塞と呼んでいる.きわめて小さな壊死巣はfocal necrosisまたはmicroscopic infarctと呼び,梗塞と区別する.これはいわゆる冠不全(高度冠状動脈内腔狭窄)においても,その冠状動脈灌流域の心内膜寄りに微小心筋壊死やそれに続発する巣状心筋線維症がみられる(Bucher,1956)ことと区別する意味がある.病理学的に梗塞は貫壁性(transmural, regional)梗塞と心内膜下(subendocardial)梗塞に大別されるが,全周性心内膜下梗塞は多くの場合,冠状動脈多枝(通常3枝)の中枢側の高度狭窄を前提とし3),貫壁性梗塞とはその発生機序・病理・臨床経過・予後を異にし,むしろいわゆるchronic coronaryinsuffciencyの延長上に位置する病型である.

不安定狭心症の経過と予後

著者: 土師一夫

ページ範囲:P.16 - P.17

 不安定狭心症(UA)は急性冠不全,切迫梗塞などと同様に旧WHO基準の中間型に含まれる虚血性心疾患の一病型として提案されたが,最近は安定狭心症(SA)と狭心症を2分する病型として広く用いられている.UAは狭心発作が初発するか重症化し,急性心筋梗塞症(AMI)発症の危険が大きい狭心症と考えられる.しかし,諸家により診断基準が異なることや,含まれる症例の病態が均一ではないことなどにより,UAの経過と予後は各報告で差がある.SAの定義が明確ではなく,UAの診断基準に合致しない狭心症がすべて臨床的に安定しているわけではないことも,UAの予後を調査するときに考慮されるべきである.
 本稿ではUAの診断を現在日本で最も繁用されている米国心臓学会の基準1)(表)に従い,UAとUAではない狭心症(仮に非不安定狭心症NUA)との対比下に,自験例のUAの経過と予後について概略する.

冠動脈造影からみた心筋梗塞の発症

著者: 藤井諄一 ,   相澤忠範 ,   小笠原憲 ,   加藤和三

ページ範囲:P.18 - P.22

 冠状動脈のアテローマ性硬化に血栓性閉塞が重なることが,最も普通にみられる心筋梗塞の発生機序であることは,多くの研究の積み重ねから周知の事実となっている1,18).そして典型的な心筋梗塞においては,通常,主要冠動脈枝の少なくとも1本に75%以上の狭窄ないしは完全閉塞が認められることが,冠動脈造影や剖検で裏付けられてきた.一方,治療法の進歩,冠動脈造影技術の進歩に伴い,少数ではあるが冠状動脈造影では冠動脈にまったく狭窄病変を認めない心筋梗塞例も報告されている13〜17).また最近,心筋梗塞の急性期における冠動脈造影により,心筋梗塞発症時においては梗塞部位を灌流する責任冠動脈はほぼ完全閉塞を示していることが知られている4〜10).それに対して慢性期に施行された冠動脈造影では,多くの例で種々の程度に再疎通(recanalization)を来たしており,一部の例では冠攣縮も証明されている.
 以上の知見をもとにして,心筋梗塞症の冠動脈造影像,心筋梗塞症と冠攣縮,有意冠病変を有しない心筋梗塞症について自験例をもとに解説し,冠動脈造影所見からみた心筋梗塞の発症について考察してみた.

検査法

心電図と病理所見

著者: 堀江俊伸

ページ範囲:P.24 - P.28

 心筋梗塞では心電図から得られる情報は特異的であり,その診断価値は非常に高い.心電図所見から心筋梗塞発症の時期,貫壁性梗塞と心内膜下梗塞の鑑別,さらには梗塞の部位や拡がりなどの診断が可能である.
 心電図所見から梗塞部位を判定するためには,冠状動脈の支配領域について知っておく必要がある.

99mTc-PYP梗塞部シンチ

著者: 益海信一朗 ,   春見建一

ページ範囲:P.30 - P.31

 心筋梗塞領域を陽性像として描出する99mTc-ピロリン酸(PYP)心筋シンチグラフィーは,1974年,Bonteら1)により報告されて以来,非侵襲的かつ手技や判定が容易であること,また心筋梗塞の検出率が高いことより,心筋梗塞症診断に用いられる.

Tlシンチ

著者: 立木楷 ,   殿岡一郎

ページ範囲:P.32 - P.34

 Lebowitzら1)による臨床応用の報告(1974)以来,タリウム201(201Tl)心筋シンチグラフィーは非侵襲的に心筋局所の血流分布を視覚的に肥えることができるため,とくに虚血性心疾患の診断において現在最も有用視されている方法の1つである.心筋梗塞症においては,急性,陳旧性いずれの場合も,病変部を種々の値度の欠損像(cold area)として描出することができ,硬塞巣の部位および広がりを視覚的にとらえることが可能な唯一の方法である.その機序は,現在以下のように考えられている.

心臓瘤とCT

著者: 増田善昭 ,   稲垣義明

ページ範囲:P.36 - P.37

 1971年,HounsfieldによるX線CT装置の発明は医学の診断に多くの新しい知見をもたらしている.心筋梗塞についても,梗塞部の造影剤による充盈不良,その後の造影剤の梗塞部へのとり込みの増加によるlate enhancement,壁厚の減少,梗塞部の局所的運動障害などのCT所見のほかに,梗塞の合併症として,壁石灰化,心臓瘤,心室血栓,心膜液貯留などの検出やその病態把握にCTがきわめて有用であることがわかりつつある1).そこで本稿では,心筋梗塞の合併症の1つである心臓瘤に焦点を絞り,そのCT所見について述べることにする.

特殊な心筋梗塞

高位後壁梗塞

著者: 村松準

ページ範囲:P.38 - P.39

 高位後壁梗塞は,心筋壊死巣が左後壁の心基部領域に生じた病態である.臨床上,診断が誤られやすく,重篤な合併症を伴い,急死することが多い.

右室梗塞

著者: 中村芳郎 ,   宮崎利久

ページ範囲:P.40 - P.41

 犬の右室自由壁を焼灼しても右室不全がつくれなかったという古典的実験1),剖検で右室に限局した梗塞がきわめて稀であったこと,現在言われている右室梗塞による右心不全症状は多くは経過とともに改善してしまうこと,などもあって,急性期心筋梗塞血行動態監視が広く普及するまで,いわゆる右室梗塞に関しては注意がはらわれなかった.Cohnら2)によって強調された,右心不全優位の急性心筋梗塞症は,病理解剖学的右室梗塞を意味するのではなく,臨床的,血行動態的症候群であることに注意しなければならない.

心房梗塞

著者: 土肥豊

ページ範囲:P.42 - P.44

発生頻度
 心房梗塞は,一般にはあまり多くの関心をよせられないが,一部の研究者達の報告によると,その発生頻度は通常考えられているよりもはるかに高率であるとされる.因みに,剖検に際して認められた心房梗塞の発生頻度は1%程度の少ないものから,42%にも及ぶ高率のものまで報告されている1〜5).これらのうち比較的最近の研究者ら,たとえば,Soderstrom N6),Liu CK7)あるいはGardin JMら8)の意見を総合すると,Cushingら1)のいう17%くらいの発生率がほぼ妥当なものとされる.生存例を含めた全体の発生率は,これよりやや多いものと思われる.左右別の発生率では,右房が81〜89%と大部分を占め,両房が19〜24%とこれに次ぎ,左房のみのものは2〜19%と著しく少ない.

予後

CCUにおける心筋梗塞の経過

著者: 長谷川貢 ,   小林正樹 ,   新谷博一

ページ範囲:P.46 - P.47

 急性心筋梗塞(以下AMI)は死亡率30〜40%,とくに発症後1〜2時間以内死亡が全死亡例の50%前後をしめ,きわめて重篤な疾患であり,その大部分が心室細動,心室停止などの致死性不整脈,心原性ショックによるものとされている.そのため病院前の救急処置の重要さはもちろんのこととして,本疾患を集中的に扱う施設の必要性が生じ,CCUの開設,発展があった、結果は不整脈死40〜50%から10%以下と著しい減少をみているが,その反面相対的に心不全,ショックなどのポンプ失調死が増加し,現在CCUの主な治療対象となっている.
 これらに対して近年は,Swan-Ganzカテーテル導入による血行動態把握が可能となり,血管拡張薬,カテコールアミンなどの適切な使用,さらにはIABP(大動脈内バルーンパンピング法)による補助循環療法,緊急A-Cバイパス,中隔穿孔閉鎖術などの外科治療が行われている.最近では,梗塞範囲縮小の目的で亜硝酸剤,血栓溶解剤の急性期冠動脈内直接注入が行われ,それなりの効果をあげつつある.以下筆者らのCCUの成績をもとに,急性期AMIの経過および予後について述べる.

陳旧性心筋梗塞の長期予後

著者: 友田春夫

ページ範囲:P.48 - P.49

 急性期を経過した心筋梗塞症例の長期予後につき,従来の報告を中心に概説する.

治療

NG-UK冠動脈内注入療法

著者: 西村健司 ,   延吉正清

ページ範囲:P.50 - P.52

 心筋梗塞の発生原因として古くより血栓説があり,これを支持する多くの病理学的な報告があるが,近年,冠動脈造影法の進歩により,急性期の冠動脈像が得られるようになり,冠スパズムもまた,心筋梗塞の成立に重要な役割を果たしていることが明らかにされてきた.
 さらに,この発生機序への接近は,単に診断領域における寄与のみならず,心筋梗塞に対する最も直接的な原因的治療を可能とした.すなわち,カテーテルを通じ冠拡張剤および血栓融解剤を冠動脈内に選択的に注入することにより,閉塞冠動脈を再開通させようとする試みである.

急性期冠動脈形成術

著者: 遠藤真弘 ,   小柳仁

ページ範囲:P.53 - P.55

 虚血性心疾患が致死に陥る3大危機は,①梗塞への移行,梗塞拡大,②ショックを含めたpowerfailure,③致死性不整脈である.これらの危機に対し,冠拡張剤,抗狭心症薬,抗凝固療法,線維素溶解療法,強心剤,利尿剤,抗不整脈剤,カテコラミン,血管拡張剤などの強力な内科療法を積極的に施行しても,これら3大危機に無力のことがあり,外科療法を必要とすることがある.
 外科療法には表1に示すように,手術としてA-Cバイパス,梗塞後合併症に対する手術などがある.カテーテル療法として,PTCR(percutaneoustransluminal coronary reperfusion),PTCA(percutaneous transluminal coronary angioplasty),ペーシングなどがある.補助循環はIABPに代表される.

機械的合併症に対する治療

著者: 伴敏彦 ,   曽根田純一

ページ範囲:P.56 - P.57

 急性心筋梗塞の機械的合併症としては,①心破裂,②心室中隔穿孔,③僧帽弁逆流が挙げられる.これらは,心筋梗塞による不安定な血行動態の上に,さらに急激な負担が心臓へかかることから,きわめて重篤であり外科治療の絶対的適応となる.ごく稀には内科治療により慢性期までに手術をもちこすことのできる症例もあり,その成績は良好である.しかし急性期に手術を行うことが唯一の救命手段となる場合が大部分で,その成績も良好とはいえない.換言すれば,急性期での手術成績の向上が心臓外科領域での解決されるべき課題の1つであるといえる.本稿では筆者らの経験を含めつつ本症の治療について解説する.

末梢血管拡張薬

著者: 木全心一

ページ範囲:P.58 - P.59

心機能と前負荷
 心機能と前負荷との関係をGuytonは図1のようにまとめた.正常人では,右房圧が上昇すると心拍出量は,CO(N)に示したように上昇し,やがてプラトーに達する.一方,心臓に戻ってくる静脈血還流量は,VR(N)に示したように右房圧の上昇につれて減少する.CO(N)とVR(N)との交点Aで平衡に達している.心拍出量と静脈血還流量は同じなので,心臓の収縮性が低下すると,右房圧が上昇しても心拍出量があまり上昇せずにCO(F)まで低下する.VR(N)との交点Bでみると,心拍出量は正常に比してかなり低下している.このため,末梢血管が収縮したり,尿量が減少したりして,静脈血還流量が増加して,VR(F)とするので,CO(F)との交点Cでみると,心拍出量は正常に近くなっている.正常との相違は右房圧の上昇である.
 静脈血還流量が上昇することは,代償機転であるが,心不全例の多くは,尿量の減少により静脈血還流量が増加し,VR(F)の曲線はさらに右による.VR(F)を右によせながらCO(F)の曲線との交点を見ていると,心拍出量の増加にはあまり貢献しないで,右房圧がどんどん上昇することになる.

心筋梗塞とβ遮断剤

著者: 蔵本築

ページ範囲:P.60 - P.61

 β遮断剤による急性期心筋梗塞の治療と,心筋梗塞再発および死亡の予防効果について最近の話題を紹介する.

回復期のリハビリテーション

著者: 定利勝 ,   竹内馬左也

ページ範囲:P.62 - P.63

リハビリテーションの目的
 心筋の一部が壊死から線維化する心筋梗塞では,梗塞巣が大きくなると心臓のポンプ作用は低下する.心筋は再生しないので心臓を梗塞前の状態にもどすことはできないが,残された心筋の機能亢進,また末梢の循環機能,骨格筋の効率増加などにより身体機能は回復することが望める.このように残された機能を最大限に活用し,適当な訓練によって身体的にも,精神的にもより良く,より早く社会生活へ復帰させることがリハビリテーション(以下リハビリ)の目的である.

社会復帰

著者: 斉藤宗靖

ページ範囲:P.64 - P.66

 心筋梗塞患者のリハビリテーション過程は,通常次の3〜4のphaseに分けられる.すなわち,心筋梗塞に罹患してからCCUを経て,一般病棟でのリハビリテーションを終了し,退院に到るまでのphase 1(これをCCUと一般病棟の2つに分け,それぞれphase 1,phase 2とすることもある),退院後精神的,肉体的活動を増し発症前の社会生活に復帰するまでのphase 2(回復期),回復した精神身体機能を生涯にわたって維持していくphase 3(維持期)である.社会復帰は,この中のphase 2に関連した問題であり,臨床医にとっては,避けて通ることのできない身近な問題である.
 ここでは,社会復帰の現状と,患者指導上の留意点について述べる.

鼎談

心筋梗塞をめぐって

著者: 加藤和三 ,   細田瑳一 ,   太田怜

ページ範囲:P.69 - P.80

切迫梗塞を見逃がさないために/切迫梗塞のときの処置/血栓溶解剤の評価/CCUの功罪/合併症をどうするか/急性期を過ぎたもののリハビリテーション/陳旧性心筋梗塞の診断と治療

Current topic

人間ドックの現状と問題点(鼎談)

著者: 秦葭哉 ,   西崎統 ,   内藤周幸

ページ範囲:P.124 - P.137

 内藤(司会) 今日の人間ドックは,いまから約30年ほど前の1954年(昭和29年)に,保健同人社の大渡順二氏の発案で,国立東京第一病院でスタートしたと承っております.聖路加病院の橋本寛敏先生がそれに初めから参加されて,積極的にそれを推し広められております.私は,実はアメリカからの輸入かと思っていたのですが,むしろアメリカが日本から輸入したようです.
 橋本寛敏先生の言葉を借りますと,人間ドックというのは「いろいろの重症,軽症の患者を診察することに慣れている医師でなければ,まだ病状を示していない疾患を早く発見して,発病を未然に防ぐことができないから,人間ドックは常にいろいろの疾患の検診になれている臨床家がしなければいけない.それでなければできない」ということですが,現状の人間ドックはといいますと,私はあまりにも機械的になって,臨床家の仕事からは離れているというような印象を受けております.

カラーグラフ 臨床医のための甲状腺生検

甲状腺穿刺吸引細胞診の意義と方法

著者: 藤本吉秀 ,   小原孝男 ,   平山章

ページ範囲:P.86 - P.87

甲状腺穿刺吸引細胞診の意義
 触診上結節状の甲状腺腫として触れる疾患には,腺腫様甲状腺腫,腺腫,癌,悪性リンパ腫があり,これらのほかに亜急性甲状腺炎と橋本病の一部のものがときに鑑別が問題になる.臨床経験を積むと,現病歴の聴取と触診所見とでいずれの疾患か大体見当がつけられる.さらに,今日では各種の画像診断法が発達した.
 しかし,触診にしろ,画像診断にしろ,間接的な診断法であるので,治療方針を決める際にもうひとつ直接的な情報が得られると一層都合がよい.とくに甲状腺癌は病理組織型により病態が著しく異なり,治療方針が違うので,ただ癌の診断だけでは不十分であり,病理組織型まで判定できるとさらに良い.このような目的にかなう,外来でも簡便にできる検査法として,最近甲状腺穿刺吸引細胞診の有用性が専門医間で広く認識されるようになった.

グラフ 臨床医のための電顕写真 糸球体・1

電顕写真のみかたの基本

著者: 坂口弘

ページ範囲:P.98 - P.103

連載にあたって
 電子顕微鏡が生物に応用されてから,そろそろ30年になる.この間に腎生検螢光抗体法などもルーチン化され,腎生検の光顕,螢光,電顕が腎疾患の診断に不可欠のものになってきた.最近,わが国で腎生検の電顕的検索が健康保険の点数に加えられたことをみても,この間の事情がよくわかる.
 腎疾患を常日頃診断している臨床医にとっても,螢光抗体法はIgGとかIgAがそのものズバリ光るから理解しやすいが,光顕,さらに電顕となるとわかりにくくなり,なかには拒否反応を示す人もかなりいるようである.腎生検の光顕所見については,昨年1年間本誌に代表的なものを掲載したが,今年は電顕のシリーズを連載することになり,まず腎臓について4回に分けて書く.

肺癌を疑うX線像

肺癌早期発見の現状と問題点/肺癌のX線像

著者: 斎藤雄二 ,   山田隆一 ,   雨宮隆太 ,   於保健吉

ページ範囲:P.105 - P.109

 現状では肺癌と診断された70%は進行癌である.このため予後の改善には長期生存が期待できる早期の肺癌を発見することが最も重要な課題といえる.この早期発見の手段として胸部集団検診が広く実施され,その実績から高く評価されている一方,なお効率のよい集検法について幾多の問題が論じられている.
 筆者らは1953年から今日まで28年間,胸部X線写真による都庁職員の集団検診を行ってきたが,この成績をもとに早期発見に対する集検の課題について簡単に述べる.

ポジトロンCT

ポジトロンCT診断法とは

著者: 宍戸文男 ,   舘野之男 ,   山崎統四郎

ページ範囲:P.110 - P.111

 ポジトロンコンピュータ断層法(PCT)は,ポジトロンという特殊な放射線を出すアイソトープを断層イメージとして計測する方法である.この方法は,11C,13N,15O,18Fといった生体内物質を標識するのに都合のよいアイソトープが利用できること,また計測の定量性に優れていること、という特長をもっている.
 生体内の活動は物質の生化学反応に基づいており,疾病はその生化学反応の欠陥であると考えることができる.生化学反応の欠陥の程度,その位置,および異常な生化学反応と疾病との関連がわかれば疾病の診断を正確に行い得る.PCTがこの考えを実現できる方法として,近年注目を浴びるにいたった.この方法はまだ十分に発達したものとはなっていないが,次の3つの問題点が解決できれば医学への貢献度ははかり知れない.

画像からみた鑑別診断(鼎談)

肝疾患—腫瘤性病変(1)

著者: 山田治男 ,   福田国彦 ,   川上憲司

ページ範囲:P.112 - P.121

症 例
 患者 58歳,男性,会社員.
 主訴 肝腫瘍性病変の精査

誌上シンポジウム 医学教育を考える—より優れた臨床医の教育のために

医師としての人格形成からみた卒前教育の問題点

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.146 - P.148

 昨今,医学教育のあり方については,さまざまな形での問い直しが行われているが,理念と現実のギャップをいかにして埋めるかが今後の課題と思われる.そこで,本シンポジウムでは,各論者に現在の自分の立場における医療活動の現実の中で感じられる,日本の医学教育の問題点を具体的に指摘していただき,それらの提起された問題について相互に批判し合い,今後,何をどう変えればよいのか討論してみたい.

講座 図解病態のしくみ 神経・筋疾患・1

頭痛—発生機序と偏頭痛・筋収縮性頭痛の病態

著者: 坂井文彦

ページ範囲:P.151 - P.155

 頭痛は,感染症,脳の器質的疾患など,さまざまな原因で生ずる症状であるが,いわゆる慢性反復性頭痛とは,種々の検査によっても何ら原因となりうる身体的あるいは神経学的異常の見出せない一群を総称するものである.代表的なものとして,片頭痛と筋収縮性頭痛とが挙げられる.一般に頭痛は,病態生理的要因のみならず,心理的要因にも強く影響を受けることが多く,また頭痛の訴え方もそれぞれの患者によりさまざまに異なっている.しかし詳細な問診を行い,頭痛に関連する種々の因子を検討し,頭痛および随伴症状をできるだけ客観的に評価することにより,その背景にあるいくつかの共通な因子を見出し,病態生理の違いに基づく分類を行うことが可能である.慢性反復性頭痛を何らかの検査により分類することが現時点では困難である以上,頭痛を分類し,それぞれの病態を検討するためには,症候学的なアプローチがその第一歩となる.

コンピュータの使い方・7

画像処理—各種画像処理の原理と実際から複合画像処理まで

著者: 浅原朗

ページ範囲:P.157 - P.167

 世はまさにコンピュータ時代.医療の分野でもそれは例外ではない.患者登録,資材薬品管理,点数計算などの管理面は言うに及ばす,日常の診療面にもコンピュータの活躍する場が広まっている.このようなときに,とかくわれわれはコンピュータは万能なものであると思いがちであるが,コンピュータといえども,それ自体は必ずしも万能なものではない.しかし,使いようによっては思いもかけない効果を期待できることは確かである.
 本来コンピュータには人間と違って生れついての意志というものがない.コンピュータのもつ意志は人間が教え込んで初めて生ずるものであり,その意志は人間の教え方一つにかかっている.言いかえれば,コンピュータの応用は利用しようとする人間の意志の結晶にほかならない.本来意志を持たないものであるので,間違って教えればそれが正しいと信じ不信を抱く材料を持たない.したがって,コンピュータを使おうとする人間は,コンピュータの能力の限界を知り,正しい意志を植えこみ,その能力をフルに活用するような教育をまず行わなければならない.それがいわゆるプログラミングという仕事である.この点コンピュータをいかに利用し,人間の意志のままに働かせるかはひとえに使用する人間側にかかっているとも言える.

連載 演習

目でみるトレーニング 67

ページ範囲:P.89 - P.95

アメリカの医療 Via Air Mail

スタンフォード大学小児科における診療と教育(1)

著者: 辻本愛子

ページ範囲:P.142 - P.145

Intensive Care Nurseryにみるアメリカの合理性
 カリフォルニアの空は抜けるように青い.ウェストコーストのハーバードと言われる,ここスタンフォード大学はカリフォルニアの美しい自然の中にそのキャンパスを雄々と拡げている.その広さと美しさにスタンフォードを訪れる人々はみな一様に溜息をつく.私も昨年9月,日本より小児科の研究員としてはじめてこのスタンフォードの地を踏み,その豊かなキャンパスに目を見張った.面積8,200エーカー,中にはヨッティングのできる湖,2つのゴルフコース,アメリカンフットボールスタジアム,学生の居住する学生村などがあり,中心のキャンパス地域だけをドライブしてもゆうに40分はかかる.学生たちは便利な自転車を利用し,講義をうけるためにあちらのビルからこちらのビルへと移動する.歩いていては決して講義に間に合わない.こんなスタッフでスタンフォードの小児科はその主な機能をスタンフォードメディカルセンターとスタンフォード小児病院の2つに分けている.

米国家庭医学の発展・5

家庭医はどのような研究を行っているか

著者: 木村隆徳

ページ範囲:P.138 - P.140

 米国におけるプライマリ・ケア運動は,その専門科としての家庭医学が,とくに医学生層と,医療サービス消費者としての一般大衆(患者層)ならびに医療費支払い側の国や州政府の強い支持を受けていることは明白ですが,それが予期以上に急速に発展した現在,家庭医学専門医にとって最大の不満またはあせりは,同僚である他科専門医の間に十分な信ぴょう性を確立しえていない実情であります.レジデンシーや医学部内の家庭医学科の設立,拡大が満足すべきほど達成された現在,やっと研究(research)という問題に取り組む余裕ができ,注意を払いはじめたといえましょう.
 米国家庭医学会の年次例会は従来から,家庭医の診療に必要とされる知識をrefreshしup to dateにするという面に大部分の力が注がれていましたが,1981年にはじめて研究発表部門が加えられました,これは学生・レジデント部門,開業医部門,教職員部門の3部に分かれ,それぞれの最優秀テーマには賞金が出されます.昨年ラス・ベガスで開かれた年次例会を例にとりますと,医学生・レジデント部門では「家庭における運動療法を患者が実行する度合」,開業医部門では「家庭医学の経済性に関する研究」,教職員部門では「レジデント教育におけるカルテの研究:診療記録にあらわれた予防医学の実践」でありました.家庭医の診療記録と診療の実際は,まだまったく手がつけられていない情報の宝庫といえましょう.

CPC

変形性股関節症の手術後,痴呆および歩行障害,右上肢麻痺が進行し,発症後4カ月で死亡した63歳女性の例

著者: 平沢秀人 ,   石井志博 ,   山口一 ,   伊良部徳次 ,   安達元郎 ,   藤田善幸 ,   冨田伸 ,   大津正典 ,   吉田象二 ,   熊谷朗 ,   奥田邦雄 ,   近藤洋一郎 ,   矢崎光保 ,   岡林篤 ,   諸橋芳夫 ,   唐沢秀治 ,   重松秀一 ,   金弘

ページ範囲:P.171 - P.184

症例 63歳 女性 農業
初診 昭和56年12月11日 即日入院
死亡 昭和57年1月31日

天地人

らしくあるべきか

著者:

ページ範囲:P.141 - P.141

 らしいのがよいのか,らしくない方がよいのか,ということで迷うことが時々ある.
 最近の芝居見物の服装はひどいものだが,それでも掃き溜めの鶴で,小股のきれ上ったのに遭遇することがある.「あの人達は一目見ればわかるわね」と同行の女房はいったが,これは賞め言葉ではない.いわゆるソレ者を下風にみたてての発言で,ならばそれらしい恰好などしなくてもよいのにということであろう.しかし,男性の眼からみれば,前述のように結構美しいし,服装ばかりではなく,只ものではないまなざしや立居振舞など,素人衆にはとても真似できないもので,ことにそこが芝居小屋ということであれば,むしろ彼女達の方がそれを誇りとしていることであろう.つまりこの場合,らしいということは,決して悪くないと私などは思うのである.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻12号(2023年11月発行)

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60巻11号(2023年10月発行)

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59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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