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雑誌目次

雑誌文献

medicina20巻12号

1983年12月発行

雑誌目次

I.感染症 抗生物質の的確な使用

1.抗生物質選択の原則

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.2062 - P.2063

 抗生物質の選択を的確におこなうには,感染症の存在を証明しなければならない.もちろん発熱がすなわち感染であるという短絡的な考え方は避けなければならない.感染症の患者を最初に診た時点でしっかりと診断をつけているか,あるいは必要な培養をおこなった後に抗生物質をはじめる習慣をつけるべきである.

2.ペニシリンを見直す

著者: 大貫寿衛

ページ範囲:P.2064 - P.2065

 Penicillin剤(PCs)はその優れた抗菌力と低毒性のゆえに今日でも最も優れた抗生剤といえるが,発疹などの薬物アレルギーと,実際には稀であるが(0.004〜0.04%),結果の重篤さから有名なショックのために必要以上に敬遠されたことがあった.しかし振り返ってみたときに,この優秀な薬は,最近開発された新しいもの(Piperacillin,Mezlocillinなど)はもちろん,以前からわれわれがなじんできたものにも依然として相当の価値があること,欠点を補う意味で新しい併用療法が考えられていることを認識しなくてはなるまい.
 ひとくちにPCsといっても,Benzyl PCからPivmecillinamまで多種多様のPCsがあり,またPiperacillinについては他の筆者による記述があるので,本稿では,わが国で最も繁用されたAmpicillin,Amoxicillinを中心に私見をのべてみたい.なお題目の趣旨から,ここで取り上げたのはすでに長年使われてきた薬剤であるため,その具体的用量などについては省略した.

3.新しいペニシリン(piperacillin)の使用法

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.2066 - P.2067

特徴
 ピペラシリン(piperacillin sodium,Pentocillin®,以下PIPC)は新たに開発された半合成ペニシリンであり,in vitroでは抗菌作用の広い抗生物質である(図).
 PIPCはcarbenicillin group(抗緑膿菌ペニシリン)に比較して抗菌範囲が広いので,extended-spectrum penicillinsとよばれるグループに属している(表).つまり,PIPCはグラム陽性球菌のうちレンサ球菌に対する効力は,肺炎球菌,腸球菌を含めてampicillinと同様である.しかしながら,PIPCはブドウ球菌の有するペニシリナーゼ(コアグラーゼ)にて分解されるので,ampicillin,carbenicillinに比べて,ブドウ球菌に対しての効力は変わりない.グラム陰性球菌である淋菌・髄膜炎菌にはampicillinと同じような効果がある.グラム陰性桿菌に対する抗菌力は今までの抗菌スペクトルの広いペニシリンに比べて,PIPCはさらに抗菌力が広くなっている.つまり,表にみられるように,carbenicillinに比較して抗菌力は優れている.たとえば,PIPCはE.coli,Salmonella,Shigellaを6.3μg/mlという低い濃度で抑制するが,これらがβ-lactamaseを有すると無効である.

4.セファロスポリン—第1世代,第2世代,第3世代

著者: 高橋幸則

ページ範囲:P.2068 - P.2071

 近年セファロスポリン系(正しくはセフェム系)抗生物質の開発・進歩は目覚しく,比較的副作用が少ないことも加わり,広く臨床で使用されている.この中でとくに抗菌力・抗菌スペクトルに優れたいわゆる第3世代の薬剤は多くの有用性を示している.しかし反面,これらの薬剤の乱用による新たな問題(耐性菌,菌交代症など)も報告されている.ここではセファロスポリン系の各薬剤の特徴をあげ,これらの臨床使用での要点について述べてみたい.

5.アミノ配糖体—何につかうべきか

著者: 大泉耕太郎

ページ範囲:P.2072 - P.2075

アミノ配糖体抗生物質(Aminoglycoside Antibiotics,AG)とは
 アミノ配糖体抗生物質はStreptomyces属またはMicromonospora属が産生するアミノ糖を含有するオリゴ糖である.
 抗菌作用機序は細菌のリボソームに直接作用して蛋白合成を阻止することにより,その作用は殺菌的である.

6.S-T合剤

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.2076 - P.2077

 S-T(Sulfamethoxazole-Trimethoprim)合剤は抗菌物質であって,sulfa剤とtrimethoprimの一定の組み合わせは,明らかにいずれかの1剤よりも抗菌力は優れている.S-T合剤は細菌の菌体内でおこなわれる葉酸合成阻害剤であり,sulfa剤はパラアミノベンゾイック酸とプテリジンの合成過程を阻止し,かつジヒドロ葉酸からテトラヒドロ葉酸への過程をtrimethoprimが阻害する(図).人間の細胞ではこの葉酸合成の経路をもっていないので,S-T合剤を服用している間は葉酸欠乏状態になることはまずありえない.
 S-T合剤は80mgのtrimethoprimと400mgのsulfamethoxazoleを混ぜあわせた化学療法剤であり,trimethoprimとsulfamethoxazoleの比は1対5となっており,この比がもっとも優れた相乗作用を感受性菌に対して示すといわれる.S-T合剤を経口的に投与すると,急速に腸管から吸収されて,血中最高濃度はtrimethoprimでは1.0μg/ml,sulfaは20μg/mlとなる.治療的濃度は髄液中,前眼房水中,中耳滲出液中,下気道分泌液中に十分得られる.

7.外科的抗生物質の予防的投与法

著者: 門田俊夫

ページ範囲:P.2078 - P.2079

 術後感染症は,消毒法の進歩や手術室の改善などによる無菌法の発達と,抗生物質の進歩や投与法の改善により,著しく減少している.しかし一方,この問題は,外科医にとって,最も頭の痛い術後合併症の1つであり,適切な術前の予防的抗生剤投与法の理解が,外科医のみならず,術前患者の診療にあたるすべての医師に望まれる.ここでは,主として一般外科で扱われる手術について,抗生剤投与法の原則と,各々の手術についての具体的な処方例について概説する.

8.内科的抗生物質の予防的投与法

著者: 相澤好治 ,   前田厚志 ,   高田勗

ページ範囲:P.2080 - P.2081

 症例
 M. K.,37歳,女性.
 主訴:左足関節痛
 現病歴:7歳時,発熱,咽頭痛とともに両膝関節痛が出現し,心雑音も指摘されリウマチ熱と診断された.治療を受け,その後経過は良好であったが,昭和57年11月25日頃より肘,肩,膝に移動性の関節痛が出現した.
 

9.菌交代症

著者: 根岸昌功

ページ範囲:P.2082 - P.2083

 抗生剤を投与して感染症を治療する際,使用抗生剤の副作用を考慮に入れるが,それ以外に,使用抗生剤に耐性を示す菌の勢力にも注目する必要がある.抗生剤投与中ないし投与終了後に,臨床症状が悪化あるいは遷延化し,同一病巣ないし他の部位から投与抗生剤に耐性な他の菌が有意に分離されることがある.この現象は菌交代症と呼ばれ,1952年Brisouによって報告された.菌交代症の発生頻度は明確ではないが,Weinsteinら1)は抗生剤を投与された感染症の2.2%に発生したと報告し,Walkerら2)の報告では0.7%の発生頻度であった.強力で広範な抗菌力のある抗生剤が普及している現在では,相当な数にのぼる菌交代症があると思われる.したがって,抗生剤投与の際は,使用抗生剤の抗菌範囲を知っておくこと,臨床症状の悪化ないし遷延化がみられた場合には常に菌交代症の可能性を考慮に入れていることが必要であろう.次に症例を呈示し,その実際を述べてみる.

感染症治療の新しい概念

10.心内膜炎と外科的適応

著者: 村瀬忠

ページ範囲:P.2084 - P.2085

 抗生物質の進歩に伴い,心内膜炎(Infective Endocarditis;IE)の治療は劇的な変化を遂げ,死因の第1位は,従来の抑制不能の感染症によるものから,今では心不全へと移ってきた.さらに,近年の心臓外科学の発展により,多くの心手術が感染症が活動性の時期にも安全かつ有効に行われるようになった.これにより弁置換術をはじめとする心臓外科手術は,IEの治療の中で,きわめて重要な位置を占めるようになった.

11.髄膜炎

著者: 砂川慶介

ページ範囲:P.2086 - P.2087

 小児の髄膜炎は年齢によって原因となる菌や臨床症状が異なることから,時に発見が遅れたり,治療に手こずる症例に遭遇することがある.今回当院で経験した髄膜炎を紹介し,小児の髄膜炎の治療について述べてみたい.

12.感染性下痢—抗生物質使用の是非とマネージメント

著者: 上野文昭

ページ範囲:P.2088 - P.2089

 日常診療において最もポピュラーな症状の1つとして下痢があげられる.その中で感染性下痢はDupontらにより臨床的に発熱,脱水,嘔気・嘔吐,腹痛などの症状の少なくとも1つを伴う1日4回以上の下痢を呈する急性疾患とされている1).以下に症例を呈示しながら,感染性下痢の病因,病態生理に基づいた正しいマネージメントについて述べる.

13.結核症の新しい治療法

著者: 河合健

ページ範囲:P.2090 - P.2091

症例
 34歳,男.TVコマーシャル演出.
 主訴:血痰.
 現病歴:昭和55年春ごろ咳嗽を強く認めることがあり,56年春から盗汗を時々自覚した.57年1月には咳嗽が増強し熱感があった.

14.不明熱(fever of unknown origin;FUO)

著者: 中村毅志夫

ページ範囲:P.2092 - P.2093

 不明熱の治療は,原疾患の治療であるので,示唆に富む不明熱の患者の症例を呈示し,診断のすすめ方を論ずることにする.
 FUO(fever of unknown origin)あるいはPUO(pyrexia of unknown origin)は,不明熱と日本では訳されている.その代表的定義は,以下のとおりである.

15.尿路感染症

著者: 大澤炯

ページ範囲:P.2094 - P.2096

症例
 65歳,男性.主訴:悪寒戦慄を伴う発熱.
 現病歴:膀胱腫瘍のため3年8カ月前に膀胱全摘および回腸導管造設術を受け,以後特記すべきことなく経過していたが,突然主訴を認め他院にて抗生剤の投与を受けたが下熱せず,39℃以上の発熱を2日間にわたって認めたため8月20日入院した.

16.喉頭蓋炎

著者: 松橋有子

ページ範囲:P.2098 - P.2099

 喉頭蓋炎(Epiglottitis)は1),1〜5歳の小児に好発し,その生命を脅かす重症の感染症である.その治療はまず第一に,気道の閉塞を取り除いてやることであり,それと同時に原因菌を除去してやることである.以下に,その臨床症状および治療法について具体的に述べてみる.

感染症の新たな問題

17.院内感染症—肺炎

著者: 渡辺一功

ページ範囲:P.2100 - P.2101

症例
 53歳,女性.基礎疾患:舌癌.
 臨床経過:舌癌の術後に再発した腫瘍は舌根部から下咽頭へ浸潤,口腔底より下顎部が腫脹し呼吸困難が出現したため気管切開を施行('82年10月4日).10月26日より発熱が出現,胸部X線(図1)で左肺にair bronchogramを伴う浸潤像を認めるため内科と兼科.気管内採痰にてP.Aeruginosaを検出したため抗生剤をCefmetazole(CMZ),Gentamicin(GM)をCefoperazone(CPZ),Sulbenicillin(SBPC)に変更(図2),ラ音の消失,胸部X線像の著明な改善をみた.

18.院内感染症—術後感染症

著者: 相川直樹 ,   石引久弥

ページ範囲:P.2102 - P.2104

症例
 胃癌術後敗血症
 患者:74歳,男性.主訴:吐血.現病歴:吐血を主訴に来院.胃透視,内視鏡にて噴門部の胃癌と診断された.10月13日胃全摘・Roux-Y吻合術,脾摘術を施行した.
 術後経過順調であったが,低蛋白血症あり,輸血,血漿投与とともに,栄養補給の目的で17日に中心静脈カテーテルを左鎖骨下静脈より挿入,IVH(intravenous hyperalimentation)を開始した.23日突然40.7℃の発熱を認め,不穏状態となった.白血球数10,500,血小板減少,LDH上昇あり,臨床的に敗血症と診断した(図1).

19.日和見感染の概念

著者: 舟田久

ページ範囲:P.2106 - P.2107

 近年の医学や医療の進歩は基礎疾患をもつ患者の診断や治療,ひいては予後に大きく貢献している.反面,これに伴って感染に対する抵抗力の低下した患者が増加し,皮膚や粘膜,さらに生活環境に常在している病原性の低い微生物による感染を受ける機会が多くなってきた.こうした感染を日和見感染(opportunistic infection)と呼んでいる.この言葉は,概念や定義にまだ議論の余地が残っているにもかかわらず,感染症の最近の動向を端的に示す用語として臨床の場で次第に汎用される傾向にある.

20.日和見感染症の予防法

著者: 長尾忠美

ページ範囲:P.2108 - P.2109

症例
 患者は9歳の男児.昭和56年11月1日急性リンパ性白血病(T-cell type)と診断され,化学療法にて昭和57年1月完全寛解となり,昭和57年7月1日姉より骨髄を移植した.感染予防のため骨髄移植施行9日前より無菌室に入室し,非吸収性抗生物質の経口投与と吸入を行い,無菌食と無菌的処置を続け,血液像は順調に回復し,昭和57年10月1日無菌室を退室した.102日の無菌室入室期間中,好中球が100/mm3以下の日数は34日であったが,ウイルス感染によると思われる発熱が4日間みられたのみで,重篤な感染症を完全に防止することができた.

21.リンパ節腫脹と感染症

著者: 中山哲夫

ページ範囲:P.2110 - P.2111

 幼児,学童,成人と成長するにつれて,リンパ節腫脹の意義には差があるように思われる.小児においては,扁桃炎を含めた上気道感染症,皮膚感染症は,成人よりも頻度が多く,こうしたありふれた感染症によってもリンパ節腫脹を示すことがよく知られているが,この場合,著明なリンパ節腫脹と長期にわたる症例では注意が必要である.リンパ節は,機械的に,リンパ系から,細胞破壊物,細菌,その他異物を除去する作用を有するが,ウイルスに対してはその作用は効果的ではない.頸部,鼠径部などの表在性リンパ節腫脹は発見しやすいが,縦隔,腹部のリンパ節腫脹は,リンパ節腫脹によっておこる随伴症状に留意しなければならない.

22.輸入感染症の問題

著者: 楊振典

ページ範囲:P.2112 - P.2113

 最近日本の国際交流は非常に活発で,年間入国した邦人,外国人は5百万人以上に及んでいる.海外諸地域から本来わが国に認められない種々の風土病ないし感染症が持ち込まれる機会も多く,いわゆる輸入感染症が注目されるようになった.コレラ,赤痢,チフス,マラリア,その他の原虫,寄生虫疾患などが主なものであるが,これら輸入感染症の現状および問題点を述べてみる.

II.神経・筋疾患 薬物療法のポイント

23.パーキンソン病におけるL-dopa療法

著者: 水野美邦

ページ範囲:P.2116 - P.2119

 各種抗パーキンソン療法の中で最も有効なものは,末梢性dopa脱炭酸酵素阻害剤(以下DCIと略)併用によるL-dopa療法であることに変わりはないが,治療期間が長くなるにつれ長期治療に伴う種々の問題点が指摘され,現在ひとつの反省期に入っている.しかし,他の抗パーキンソン剤に比較して効果の点では依然として最も優れており,いかにこれを上手に使いこなすかが,パーキンソン病治療の重要なポイントである.次に示す症例は,10年以上L-dopa治療を受け,不随意運動,L-dopaの効果減弱,up-down現象,すくみ足現象など種々のL-dopa長期治療に伴う問題点を呈した症例である.この症例を中心にパーキンソン病治療のポイントを解説したい.

24.脳卒中における血流改善剤の使い方

著者: 大竹敏之 ,   東儀英夫

ページ範囲:P.2120 - P.2121

 脳卒中の薬物療法については,急性期,慢性期,および予防を目的とする投薬に分けて論じることが必要と思われる.ここでは,血栓溶解剤,抗凝血薬,脳血管拡張剤,脳代謝賦活剤,血小板凝集抑制剤につき,病期に応じた適応,投与法について述べる.

25.神経筋疾患に対する筋弛緩剤の使い方

著者: 渡辺誠介

ページ範囲:P.2122 - P.2123

筋弛緩剤の種類
 筋弛緩剤には大脳から筋までさまざまなレベルに作用するものがある.歴史的に古いのは神経筋接合部に働くクラーレで,現在でも合成のツボクラリン(アメリゾール®)や類似作用のスキサメトニウム(サクシン®)が麻酔科で使用されている.
 痙性麻痺による尖足で歩行時にクローヌスが誘発されるような例では,プロカインやフェノールで脛骨神経ブロックを行うことがある.ブロックでは当然支配下の筋しか弛緩せず,知覚麻痺のための障害をみることもある.睡眠薬には筋弛緩作用があるが,眠気の強いものは日常生活に支障を来たして使えない.

26.症候性てんかんに対する抗けいれん剤の使い方

著者: 中瀬浩史 ,   岩田誠

ページ範囲:P.2124 - P.2125

 症候性てんかんを来たした病因自体に適切な治療を加えることは非常に重要であるが,脳実質の広汎な瘢痕萎縮のように病変自体に処置を加えられない場合や,発作が重篤で管理が困難な場合など,抗けいれん剤の投与法の適否が問題となる場合が少なくない.

27.単純ヘルペス脳炎の新しい抗ウイルス剤による治療

著者: 高須俊明 ,   亀井聡 ,   田村英二

ページ範囲:P.2126 - P.2129

 単純ヘルペス脳炎(herpes simplex encephalitis,HSE)は,側頭葉を中心とする出血性壊死性脳炎であり,致死率50〜70%1,2)の重篤な散発性脳炎として知られてきた.米国では散発性脳炎の原因としては,最も多いものとされている.治療は,数年前まではIododeoxyuridine(IDU)3,4),Cytosine-arabinoside(Ara-C)5)が試みられてきたが,最近Adenine-arabinoside(Ara-A)およびAcyclovirによる治療が行われ,有効例や致死率の低下が報告されてきている7〜12.本稿では,HSEに対する新しい抗ウイルス剤治療を中心に述べ,診断にも適宜言及したい.

慢性疾患の治療とケア

28.筋萎縮性側索硬化症

著者: 萬年徹

ページ範囲:P.2130 - P.2131

症例
 65歳男,1980年3月頃から何となく食事が円滑にのみこめないのを苦にするようになった.間もなく言葉が明瞭でなく,家人からしばしば聞き返されるようになった.耳鼻科医から内科的疾患であることを告げられ神経内科受診.舌の萎縮,構語・嚥下障害,下顎反射亢進,小手筋萎縮,四肢筋のび漫性の萎縮と線維性筋攣縮,四肢腱反射の異常な亢進があり筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断された.1981年になると球麻痺症状が強くなり,流動物の摂取のみが可能であり,それもゆっくりでないと食べられない.1982年になるとしばしば痰の喀出が困難となり,呼吸ができなくなるため,急患としてたびたび来院したが,1982年5月気管切開を行った.食事は鼻腔ゾンデによっていた.同年6月からレスピレータを装着することとなった.1983年3月頃から気管支肺炎を繰り返したが,同年5月,急性心不全のため死亡.

29.老年痴呆

著者: 中村重信 ,   加茂久樹

ページ範囲:P.2132 - P.2133

 老年痴呆は次の条件を充たすものである.第1の条件は脳内の器質的な損傷あるいは疾病を有することである.第2の条件は一旦正常に成熟した脳が後天的な外因によって破壊されたため,知能が低下したものを痴呆という.第3の条件は全般的に知能が低下するという条件である.このような概念の上から,老年痴呆の治療とケアについて述べる.

30.老人にみられる不随意運動

著者: 大友英一

ページ範囲:P.2134 - P.2135

 老年者にみられる最も多い不随意運動は振戦と口唇ジスキネシア(oral dyskinesia)である.振戦はParkinson病におけるものが圧倒的に多い,これについては別項で述べられているので,老年性振戦についてのみ論ずる.
 その他の不随意運動としては,脳卒中とくに脳梗塞発作初期のmyoclonus,status myoclonicus,Jacob-Creutzfeldt病の経過中,とくに末期にみられるmyoclonus,status myoclonicusなどがある.またHuntington舞踏病がある.

31.片頭痛

著者: 杉浦啓太郎

ページ範囲:P.2136 - P.2138

 片頭痛は1世紀のAreteusの記録以来,今日でも完全な解決をみていない疾患であるが,本稿ではその治療について実例をあげ,臨床についての意見を述べさせていただく.

32.頸髄症

著者: 田代邦雄

ページ範囲:P.2140 - P.2141

 頸髄症(cervical myelopathy)とは,一般には頸椎ならびに椎間板の病変による頸髄障害を指し,頸椎症,あるいは頸椎症性脊髄症とほとんど同義語として用いられている.しかし,神経学でmyelopathyという場合はそれのみならず,髄膜炎,膿瘍,肉芽腫,腫瘍,外傷,血管奇形,脊髄空洞症,さらに放射線照射,中毒,代謝障害,栄養障害,癌などに伴う脊髄症から,脱髄性疾患まで含まれてくる1).したがって,本稿での頸髄症では,頸部脊椎症,椎間板ヘルニア,後縦靱帯骨化症,黄色靱帯肥厚,不安定脊椎,脊柱管狭窄症(前後径11〜12mm以下),腫瘍,脊髄空洞症も含めて述べることにする.
 頸髄症の治療とケアを考える場合は,まずそれを起こしている原疾患が何であるかが正しく診断されて,はじめてその治療が可能になるわけで,それなくして対症療法を行っても意味がないばかりか,外科的手術で完治できるものも手遅れとなるケースさえありうる.脊髄疾患の診断は,近年のspinal CT scanやMetrizamide myelographyの導入により飛躍的な進歩をとげている2).しかしながら,これらの検査は,どこでも,まただれにでも行えるまでにはなっていない.したがって,神経症状のとらえ方とその解釈,そしてX線装置さえあればどこでもとれるはずの頸椎単純写の正しい読み方のポイントを知ることが第一線の臨床医として最も大切な点といえる

33.脳卒中による失語症

著者: 重野幸次

ページ範囲:P.2142 - P.2145

 失語症患者の管理は,基本的には脳卒中後遺症者のそれと全く同様である.高血圧,糖尿病,各種心疾患,肥満などの再発リスクを管理する一方,患者の脳損傷後に生ずるさまざまの精神心理的諸問題の調整を図りながら既存能力を最大限に引き出し,生きがいのある,有益な社会生活を送れるよう指導する.失語症患者は言語障害以外にも片麻痺,知覚障害,視野障害などを合併しているため,症例によってはコミュニケーションの障害だけにとどまらず,起居動作や歩行,食事,更衣などにも支障が生じている.したがって,そのような症例では言語障害と同時に運動療法(起居動作訓練と歩行訓練),作業療法(利き手交換訓練,片手による日常生活動作訓練)も行われる.
 本稿では上記要項に留意した上で,実際の症例を通じ,失語症患者の言語治療の概要と日常管理上の注意点について解説する.

34.手根管症候群

著者: 高橋昭

ページ範囲:P.2146 - P.2147

症例
 52歳,主婦.既往歴,家族歴に特記すべきものはない.
 現病歴:4〜5年ほど前から,両手の第1〜2指のしびれを自覚するようになり,次第に手指の脱力感も加わり,ビンのふたなどがとりにくくなった.

問題となるケースの治療

35.脳卒中急性期に血圧が高いとき

著者: 成冨博章

ページ範囲:P.2148 - P.2149

 脳卒中急性期の患者で,収縮期血圧が200mmHgを越すような例を見ることは少なくない.このような症例の診療に際し,まず必要なことは,その疾患が高血圧性脳出血(またはクモ膜下出血)であるか,脳梗塞であるかを,明確に鑑別診断することであろう.両者のいずれであるかによって血圧管理のしかたは大きく異なるからである.以下,この両者が鑑別されたうえでの血圧管理について述べる.

36.脳卒中急性期に脳圧亢進症状を示すとき

著者: 荒木五郎

ページ範囲:P.2150 - P.2151

脳圧亢進のパターンと脳浮腫の発生機序
 脳圧亢進をきたす疾患としては,まず脳出血があげられるが,脳梗塞でも,脳塞栓の重症例では脳圧亢進が出現してくる.脳出血では血腫の長径が4cm以上の場合,脳圧が亢進し,血腫周辺の組織が圧迫され,循環障害の結果,2次的な虚血により浮腫を生ずるといわれている.さらに脳室への大量の血液の穿破があれば,髄液の流通障害のために,脳圧亢進を助長する.
 図1)に示すパターンAは,血腫が急激に増大し,つづけて脳圧亢進が持続的に高度に上昇し,そのまま脳ヘルニアを起こし死亡に至る.パターンBは,いったん出血が止まり,脳圧亢進が下降した後,血腫周囲の浮腫が出現し,しかも血腫が脳室へ穿破して髄液の流通障害が起こり,脳圧が再び上昇して脳ヘルニアを起こし,死に至ると考えられる.パターンCは血腫周囲の浮腫および髄液の流通障害のために脳圧亢進が起こり,第2週前後に浮腫のピークを形成して再び下降する(田沢ら1)).これが急性期脳出血の代表的な経過といえよう.

37.Guillain-Barré症候群の回復遅延例

著者: 小口喜三夫

ページ範囲:P.2152 - P.2153

 Guillain-Barré症候群は,一般に予後が良いことが特徴のひとつとされて来たが,しかし回復のおもわしくない症例も7〜20%位はあるという報告がある.かかる症例の治療法について,症例を呈示して述べる.

手術的治療

38.正常圧水頭症に対するシャント術の適応と効果

著者: 米増祐吉

ページ範囲:P.2154 - P.2155

 正常圧水頭症(normal pressure hydrocephalus,NPHと略)とはHakim(1964年),Adamsら(1965年)が治療可能な痴呆として報告した病態あるいは症候群である.不治の脳の変性あるいは老化として放置されていた状態が,比較的簡単な手術でほとんど治癒する場合もあるということで注目されてきた.
 Adamsらの発表以来,かなり積極的に手術が行われた結果,シャントの有効率が必ずしも期待されていたほどでなく,ことに先行疾患が不明で特発性とされる症例ではシャント有効率は40〜60%という状態で,そのうえ合併症,死亡率も患者が高齢であることが多いため比較的高く,シャント手術の効果の予測が重要な問題になっている.病態生理,症状の発現機序についても多くの報告があるが,不明の点が多く,病態の複雑さを示唆している.補助検査法も種々の方法が試みられている.CT検査は気脳写に代わり,非侵襲的という意味で大きい進歩であるが,病態の理解,シャント効果の予測の目的には決定的といえない.その他の補助検査についても見解の一致をみるに至っていない2)

39.高血圧性脳出血に対する手術の適応と効果

著者: 久間祥多

ページ範囲:P.2156 - P.2157

症例
 38歳,男.
 入院までの経過:5年前より高血圧で治療をうけていた.53年1月4日午前11時30分,昼食中に机にもたれかかるようにして倒れた.内科受診時,意識レベルは傾眠,左片麻痺があった.午後1時,意識障害が進行したので脳神経外科へ入院した.

特殊な治療法

40.重症筋無力症

著者: 高守正治

ページ範囲:P.2158 - P.2159

症例
 27歳の女性.昭和58年2月初旬複視.同月中旬痔瘻の手術後,眼瞼下垂始まり,下旬より発語,嚥下,咀嚼障害出現して受診.入院後,頚,上肢筋易疲労も加わる.誘発筋電図(図1上)で低頻度刺激でみられるwaning現象,神経筋接合電顕像(図1下)でシナプス間隙開大,シナプス壁の減少・単純化をみとめるなど,重症筋無力症の特徴所見あり.アンチレックス試験陽性,抗アセチルコリン受容体抗体1.8pmoles/L(正常1以下).T細胞サブセットはOKT3 58.4%,OKT4 38.6%,OKT8 18.4%とサプレッサーT細胞減少を示唆,ツ反応中等度陽性.
 本例は発症より経過短く若年で,急速に全身型へと進展した上,CT検査で胸腺腫を示唆する所見を得たので(図2),通常の第1選択である抗アセチルコリンエステラーゼ剤で遷延化することを避け,早期からの免疫療法,とくに胸腺摘出術の適応と考えた.3月23日,胸腺全摘手術施行(組織診:胸腺腫),術後経過不安定のため,5月8日より副賢皮質ステロイド療法を隔日,漸増法で開始した.7月中旬現在,プレドニソロン55mg隔日,休薬日の悪化は5mgの追加で対処し,抗アセチルコリンエステラーゼ剤は使用することなく良好の経過をたどっている.

41.多発性硬化症

著者: 佐野雄二 ,   納光弘

ページ範囲:P.2160 - P.2161

 多発性硬化症の治療は未だ確立されておらず.治療法の有効性の的確な評価さえ難しい.こうした現状の背景には,未だ病因が不明であり,また,病状の程度をはかる臨床検査の指標もなく,かつ疾患自体が緩解,再燃という多相性の経過をたどるため,薬の効果が見極め難いなど,他の疾患にみられない特殊性が存在する.しかし,現実に,患者は苦痛の中にあり,これまで多くの先達によってさまざまな治療法が試みられてきた.
 以下に,当科での具体例をあげ,現在ほぼ同意を得ている治療法を記したい.

42.神経疾患に対するTRH

著者: 木下真男

ページ範囲:P.2162 - P.2163

 TRH酒石酸塩(thyrotropin releasing hormone tartrate,TRH-T,Hirtonin®)が神経疾患に応用されるようになったのは最近であるが,機序は未だ明確でない面もあるものの,その将来性あるいはその新しい誘導体の将来性には,未知の期待がある.本稿ではすでに有効性が確認された2つの使い方について簡単にまとめるが,ほかにも脊髄損傷後の回復,筋萎縮性側索硬化症などについても効果を示唆する報告もあり,今後使途がさらにひろがるかも知れない.

III.呼吸器疾患 薬物療法のポイント

43.酸素療法—とくに適応と投与法の選択

著者: 川城丈夫

ページ範囲:P.2166 - P.2168

 酸素療法の考え方は時代とともに変遷を遂げた.現在においては酸素療法は単に呼吸不全の急性期を乗り切るための手段であるだけでなく,慢性呼吸器疾患患者の日常生活をより質の高いものとするための手段としても用いられ始めるようになった.
 本稿においては呼吸不全患者の自発呼吸下における酸素療法について述べることとする.厚生省特定疾患呼吸不全調査研究班(横山哲朗班長)において酸素療法を含む呼吸管理の全般に関して現在検討中であり,近い将来そのまとめが上梓される予定である.

44.気管支拡張剤の使い方

著者: 城戸優光

ページ範囲:P.2170 - P.2171

症例
 57歳,男性.
 診断:気管支喘息(慢性通年型,混合性,重症度:中等症)

45.肺炎の薬物選択と使い方

著者: 稲冨恵子

ページ範囲:P.2172 - P.2173

 強力な抗生物質の種類の増加に伴い肺炎の治療はむしろ複雑となった.本稿ではまず症例を示し,次に宿主の背景因子別に薬剤選択と使い方について述べる.

46.抗結核剤の選択と終了の時期

著者: 鈴木俊光

ページ範囲:P.2174 - P.2175

症例
 42歳主婦.昭和56年5月頃より咳痰出現し,6月息切れ,体重減少-10kg/2ヵ月に気づき,近医受診し,胸部X線像上肺結核症を疑われ,同年7月10日当病院に入院した.
 入院時胸部X線像はbI3,ガフキー10号,培養3+であった.3日間連続検痰した後,SM 1g/日筋注,INH 0.3g/日経口,RFP 0.45g/日経口を開始した.1カ月後はガフキー9号まで検出,培養は2+,2カ月後,ガフキー6号まで検出し,培養は+9/2と順調に効果がみられたが,この時点で左自然気胸を併発した.しかし,安静療法にて1カ月で修復された.化療開始4カ月後には,ガフキーは4号までみられたが,培養は陰性となった.胸部X線像では浸潤影は著しく減少し,空洞壁は薄壁化し,ブラ様陰影と変化していった.

47.間質性肺炎の治療

著者: 近藤有好

ページ範囲:P.2176 - P.2178

症例
 51歳女性.昭和57年9月上旬頃から咳嗽,労作時息切れが出現し,次第に増強したので,10月某病院にて胸部X線写真を撮影したところ,びまん性に異常陰影が認められ,11月17日当院へ入院した.入院時呼吸困難が強く(HJ-IV),Pao2は54torrと低下していた.胸部X線写真では,両側びまん性に微細粒状影とその隔合像,横隔膜の挙上などがみられ(図1),CRP3(+),赤沈値の亢進を認めた.バチ指はみられなかったが,両下肺野にfine crackleを聴取し,後程行った肺機能検査では%VC45.9%,FEV1.0% 81.1%,%DLco 29.0%,%TLC 42.7%,Cst 0.065l/cmH2Oと拘束性障害,拡散障害を認めた.膠原病を示唆する所見はなかった.入院後ただちにプレドニン10mgとイムラン50mgの併用療法を行い,酸素吸入を開始した.その後の経過は図2に示すごとく良好で,58年6月に退院し,軽作業が可能となり現在に及んでいる.

問題となるケースの治療

48.慢性肺疾患患者の禁煙をどう指導するか

著者: 川野正七

ページ範囲:P.2180 - P.2181

 「すべての診察室は禁煙クリニックであるべし」と平山雄氏は言われるが,私も「恐るべきタバコ」(文泉)1)に記述したように,私の姪と兄が相次いで肺癌のため死亡したので,それ以来強力に外来患者の禁煙指導をすることにしている.
 咳や痰などの呼吸器疾患症状だけでなく,その他の症状を訴える者にもタバコとの関係やタバコの有害な理由などを説明して,禁煙を勧めるというよりも命じる.説明の足りないところは1977年に作製した13頁のパンフレット「恐るべきタバコ公害」2)を渡して,よく読ませる.禁煙に同意しない患者の治療はお断りする,と言うより治癒させる自信がないから他医に行くように告げる.そう言われて禁煙すると言わない患者はない.

49.びまん性汎細気管支炎の薬物療法

著者: 中田紘一郎

ページ範囲:P.2182 - P.2183

症例
 53歳,女性.
 診断:びまん性汎細気管支炎.

50.サルコイドーシスのステロイド療法

著者: 泉孝英 ,   古江増裕

ページ範囲:P.2184 - P.2185

症例
 50歳,女性,歯科医.
 昭和54年2月,両側性の虹彩炎とともに両側上腕皮下に腫瘤が出現,腫瘤は生検により"サルコイド"と診断された.

51.集検で発見された直径2cm以下の単発性coin lesionをどうするか

著者: 矢野平一 ,   西脇裕 ,   林辺晃

ページ範囲:P.2186 - P.2187

症例
 67歳,男.
 現病歴:昭和57年3月検診で左下肺野のcoinlesionを発見された.増大傾向があるため5月6日当院を受診した.肺癌を疑いX線透視下にて経気管支鏡的肺生検を行い,扁平上皮癌を認めた.同6月21日左下葉切除および縦隔リンパ節廓清を行った.腫瘍はS8ai,末梢に発生した1.8×1.6×1.5cm大の扁平上皮癌であった.リンパ節転移はなくT1N0M0であった.

内科的治療の限界と手術のタイミング

52.低肺機能症例の開胸手術の適応と設定

著者: 加藤幹夫

ページ範囲:P.2188 - P.2189

症例
 63歳,女.主訴:労作時呼吸困難(Hugh-JonesIII)と血痰.
 症状の経過:約8年前から体動時に息切れを感じ,ときどきその程度が増悪し近医で治療をうけていた.約6カ月前から湿性咳嗽と血痰を来たし,胸部X線写真上で異常陰影を指摘された.

53.化膿性肺疾患—気管支拡張症,肺嚢胞性疾患に続発するものを含む肺化膿症

著者: 鶴谷秀人

ページ範囲:P.2190 - P.2191

症例
 58歳女,体重42kg.
 現病歴:1975年6月から乾性咳を就床時に訴え始めたが放置.1976年6月9日咳増強のため胸部X線写真撮影,特に異常を認めていない.6月11日夕方より39.4℃の発熱,悪寒戦慄,頭痛,咳嗽時右胸痛あり.その後発熱持続し,咳さらに増強したため6月18日当院外来受診.図のごとき胸部X線所見のためそのまま入院した(症状出現後10日目).

54.肺真菌症—とくにアスペルギローマについて

著者: 名取博 ,   檀原高

ページ範囲:P.2192 - P.2194

 内科領域の深在真菌症として肺真菌症は最も多い.原因菌はアスペルギルスの頻度が高く,次いでカンジダ,クリプトコッカス,ムコール(藻菌),放線菌,ノカルジアなどがあげられる.アスペルギルス症にはアスペルギローマ,術後気管支断端アスペルギルス症に代表される局所型,免疫不全などの全身性の要因が問題となるアスペルギルス肺炎,膿胸,敗血症などの浸潤型,およびアスペルギルス性喘息,アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(allergic bronchopulmonary aspergillosis;ABPA),アスペルギルス性過敏性肺臓炎などのアレルギー型が知られている.アスペルギローマは宿主の全身性要因よりはむしろ気道の局所性の感染防御機構の欠陥部位に菌球(fungusball)を形成する特異な感染様式を示す.

55.膿胸

著者: 泉三郎 ,   星野清

ページ範囲:P.2196 - P.2197

症例
 57歳,男性.鉄工所経営.受診の3週間ほど前より,右側胸部痛が出現.咳,痰などはなかった.受診5日前に39.6℃の高熱が出た.身体所見としては,右側全般に呼吸音の減弱があり,打診上濁音を呈した.この際,呼気の異常な悪臭に気付いた.胸部X線像は,図1,2のごとくであった.以上より膿胸,殊に嫌気性菌性膿胸を疑った.患者は身長164cm,体重64kgで,糖尿病はなく,大酒家でもなかった.しかし,多数の虫歯を認めた.受診時の白血球は14,800/mm3(核左方移動あり),血沈100mm/hour,CRP 10+であった.胸腔穿刺したところ,悪臭を放つ粘稠な膿汁が数ml採取できた.これを細胞診,結核菌および他の細菌培養などに提出したところ,嫌気性菌培養で菌の生育が認められ,後にFusobacterium nucleatumと同定された.

56.自然気胸

著者: 大畑正昭

ページ範囲:P.2198 - P.2199

 自然気胸の治療法としては,安静,穿刺脱気,胸腔ドレナージによる持続吸引などの保存的治療から開胸手術まであり,治療方針も各施設によって著しい差があるが,保存的療法の中で胸腔ドレナージはほぼルティーンに日常臨床で行われるようになってきた.しかし,再三再発をくり返す例や,空気洩れが止まらないような例に対して,いつ,どの時期に開胸手術にふみ切るかは症例によって大きく異なる.
 本稿は保存的治療と手術のタイミングについて筆者の経験例をあげて述べる.

呼吸管理にまつわる諸問題

57.挿管およびレスピレーター装着の時期

著者: 本田憲業 ,   毛利昌史

ページ範囲:P.2200 - P.2201

 気管内挿管はレスピレーター使用時にのみ行われるのではない.またレスピレーター装着の時期は病態によって異なる.したがって,本稿では,まず気管内挿管の時期について,次に病態別にレスピレーター装着時期について記す.

58.レスピレータ離脱をはかるタイミング—慢性呼吸不全の急性増悪例

著者: 白石透 ,   森田武子 ,   堀越裕一 ,   花島恒雄 ,   川俣和美

ページ範囲:P.2202 - P.2203

 症例
 54歳男子.診断は慢性気管支炎.36年前(18歳)より咳・痰.16年前,気管支造影で円柱状拡張症あり,肺活量は51%,残気率60%,1秒率56%,肺拡散量9.95ml/mm/mmHgで,すでに高度の混合性障害と拡散量減少を認めている.10年前より肺野に線状影,小結節影が出現,その後,呼吸不全を反復,昨年10月,呼吸困難増強のため入院した.全肺野に粒状影あり,呼気延長と乾性ラ音,小水泡音を認めた.動脈血pHは7.416,Pco2は49.1torr,Po2は57.4torrであった.12月中旬より喘息持続状態となり,いったん改善したが,本年5月2日より意識障害出現,pHは7.290,Pco2は88.3torr,Po287.2torr(O23l/min吸入中)となったため,5月4日より調節呼吸CMV(Controlled Mechanical Ventilation)を開始した.

59.開胸術の術前・術後の管理

著者: 益田貞彦

ページ範囲:P.2204 - P.2205

 高齢化社会と最近の肺癌症例の急増により,高年齢層の開胸例が増加している.それに伴い既存に心肺系の合併疾患を有する症例もふえており,手術前後の状態を的確に把握する努力が行われている.術後における合併症の発生はしばしば経験されるが,これを術前に予知することは至難といえる.手術は大部分が呼吸に関する臓器を減少させることである.したがって手術前後の管理の要点は,手術によっておこる低酸素血症の発生の予防とその対策につきる.

60.気管支肺胞洗浄療法

著者: 北村諭

ページ範囲:P.2206 - P.2207

症例
 38歳の男性で12年前よりBrittle typeの糖尿病で加療されていたが,1979年8月21日にhypoglycemic comaの状態で当科へ救急入院した.直ちに十分量のブドウ糖液を静注し,その後も点摘静注を続けた.2日後より経鼻的栄養補給を開始したが,嘔吐をし,その後38℃の発熱がみられた.
 8月24日の胸部X線写真(ポータブル)で右下葉に肺炎像が認められ(図1),8月23日に気管支ファイバースコピーを施行した.気管支粘膜の発赤腫脹が著明で少量の食物残渣を認めたため吸引性肺炎と診断し,直ちに約300mlの生理食塩水で右B6,B7,B8,B9,B10の各区域支を洗浄し,硫酸ゲンタマイシン(ゲンタシン®)40mgを注入した.図2は5日後の胸部X線写真で右下肺野の肺炎像は著明に改善した.本症例はその後意識状態も改善し軽快退院した.

再燃再発を防ぐための維持療法と社会復帰

61.慢性閉塞性肺疾患の生活指導としての理学療法

著者: 福島保喜

ページ範囲:P.2208 - P.2209

 慢性閉塞性肺疾患は気道の閉塞現象を呈して換気障害を示すもので,気管支喘息にみられる発作性の消長を除くと,他の肺気腫症,慢性気管支炎,びまん性汎細気管支炎は気道抵抗が持続的に高値をとって,急性増悪をくり返しながら徐々に低肺機能へ向って進んでゆくものである.こうした生涯の病を診療してゆくには患者の生活指導がきわめて重要な位置を占めるが,この内容にはさらに健常者と違った生活への取り組みが必要となる.それを組織的に合目的に実践しようとするためには患者の合理的な知識の育成と同時に,その現実的体験である理学療法を忍耐強く実行してゆかせなければならない.
 対象患者群は40歳以後の高年者に集団中心をもつもので,多臓器障害を特徴とする人々を一般とする.したがって理学療法の計画起案に当っては慢性閉塞性肺疾患のみならず,それ以外の条件を十分に考慮して,患者に日常生活を満足させながら利用し続けていけるものでなければ意味がない.

62.在宅酸素療法

著者: 石原照夫

ページ範囲:P.2210 - P.2211

 在宅酸素療法は,加療により病態が安定期に達しても,なお低酸素血症が持続し,日常生活の制限,あるいは入院生活を余儀なくされている慢性呼吸不全症例を対象とした治療である.本療法により,患者を入院生活から解放し,家庭生活,さらには社会復帰を可能とし,生存期間の延長,生存の質の向上を計るものである1)

特殊な治療法

63.ECMOによる呼吸不全の治療

著者: 寺崎秀則

ページ範囲:P.2212 - P.2213

症例
 患者は生来健康な19歳の女性(身長158cm,体重50kg)である.昭和57年6月10日23時頃,交通事故で乗用車のハンドルに胸部を強打し,肺挫傷による肺水腫のため急性重症呼吸不全となり,11日16時熊本大学集中治療部へ入院した.
 アプロチニン(トラジロール®)100万単位i. v.,メチルプレドニゾロン(ソルメドール®)30mg/kg i. v. モルヒネ(患者が苦しがる時鎮痛鎮静をかねて)10mg i. v.,フロセミド(ラシックス®)20mg i. v. 投与を行うとともに,呼気終末に5〜20cmH2Oの陽圧PEEP(positive end-expiratorypressure)をかける持続陽圧換気CPPV(continuous positive pressure ventilation)の機械的人工呼吸で肺ガス交換を補助した.またドパミン(イノバン®)5〜25ug/kg/min i. v.,新鮮凍結血漿輸血により循環の維持をはかった.しかし,蛋白濃度5.4g/dlの泡沫状の分泌物が気道内から噴出し続け,低酸素血症は改善しなかった.11日20時頃には全身皮下気腫合併のためPEEP圧を下げざるをえなくなり,機械的人工呼吸を十分行えなくなった.12日朝8時頃に低カリウム血症(2.88mEq/l)のため心室性頻脈から心停止を生じた.

64.治療法としてのHFPPVの展望

著者: 福地義之助

ページ範囲:P.2214 - P.2215

HFPPVとHFV
 High Frequency Positive Pressure Ventilation(高頻度陽圧換気法)を省略してHFPPVと呼んでいる.歴史的にみると,HFPPVは,もともと60〜110回/分の換気数で気道内圧5cmH2O程度の陽圧の条件下での換気を指していた.最近では300〜1,800回/分(5〜30Hz)の高頻度の換気が用いられることが多いので,HFV(High Frequency Ventilation)と総称されるのが一般的である.本換気法は高頻度に肺の振動を生じさせ,肺内におけるガス混合を促進させるが,同時に自発呼吸運動や気道クリアランスなどにも影響を及ぼすことが知られている.本法の臨床応用を考える際には,ガス交換への関与以外の因子にも十分な目配りが重要である.

65.肺移植の現況と将来

著者: 新田澄郎

ページ範囲:P.2216 - P.2217

 1963年Hardyが慢性肺疾患を持つ肺癌患者の左肺を別出,屍体左肺を低温・換気下に90分の阻血時間で移植し,移植肺が生体内で機能を維持し治療目的に合致し得ることを報告して以来,術後18日移植肺葉を再切除した本邦報告例を含め,1980年までに39例の臨床報告がみられる5).手技的には1肺葉,1側肺,両側肺および心肺合併移植のいずれの方法もすでに用いられていたが,これらの症例中術後2カ月を経過し得た症例はわずかに2例のみで,腎移植成績に比し拒絶反応の抑制がきわめて困難とされてきたが,新しい免疫抑制剤の開発と拒絶反応検索法の進歩により,新しい展望がひらかれるにいたった3,4)

IV.循環器疾患 薬物療法のポイント

66.慢性うっ血性心不全における治療薬の選択基準

著者: 安田寿一 ,   野口宗親

ページ範囲:P.2220 - P.2223

 心不全は心臓のポンプ機能の破綻によっておこり,あらゆる心疾患の末期症状として現われる.初期のうちは安静や食事中の食塩の制限,ジギタリス強心薬や利尿薬の投与によって軽快するが,原因が除かれない限り,再び心不全の再発,急性増悪を繰り返し,次第に死に至る.
 以下,長期間にわたり治療に手こずったうっ血性心不全の一例を提示し,治療について解説を加える.

67.心筋梗塞急性期の薬物療法—血行動態異常を伴うとき

著者: 早川弘一 ,   小林義典

ページ範囲:P.2224 - P.2225

症例
 68歳,男.
 診断名:急性心筋梗塞(再発作)

68.心筋梗塞急性期の薬物療法—血行動態異常を伴わないとき

著者: 木全心一

ページ範囲:P.2226 - P.2227

症例
 66歳男性.生来健康で,心筋梗塞,狭心症の既往なし.
 1983年1月23日の13時35分,昼食後歩行中に,胸骨部に圧迫感を生じたが2分位で消失.1月28日より,歩行時,TVを見ている時,排便時,就寝時などに胸骨部に絞扼感を生ずる.2〜3分で消失するが,日に3回位ある.時間帯は一定でない.1月30日の朝3時15分,激しい胸痛で目がさめ,冷汗を伴い,20分位で軽くなった.ある病院の救急外来を訪れ,狭心症と診断されisosorbide dinitrate(Nitrol®,以下ISDN)を発作時に舌下するように指示され,帰宅する.午前10時36分に再び胸痛を生じ,ISDNの1錠舌下で5分位でおさまる.自宅安静をしていたが,16時35分に再び胸痛を生じ,ISDNの効果が不十分なので,前述の救急外来を自分で車を運動して来院.来院時には胸痛はなく,心電図は正常に復していたが,患者の不安が強く,一晩仮入院となる.18時5分に胸痛を生じ,ISDNなど用いたが有効でなく,当科のMobil CCUの出動要請がある.この間胸痛はいくぶん軽くなったが,23時に再び増強し,23時30分に当科CCUに収容される.

69.労作性および安静狭心症における薬剤の選択

著者: 加藤和三

ページ範囲:P.2228 - P.2229

 狭心症の薬物療法にあたっては,症状のおこり方,重症度,安定性に注目するとともに,一方では血圧,心拍数,心機能,年齢など,他方では薬剤の薬理作用,作用発現速度,効果持続などを考慮し,最も適切な薬剤を選択することが必要であるが,その出発点となるのはどのようなときに発作がおこるかの把握にあると思われる.

70.心室性不整脈に対する治療薬の選択

著者: 阿部仁 ,   橋場邦武

ページ範囲:P.2230 - P.2232

 心室性不整脈には心室性期外収縮(VPC),心室頻拍症(VT),心室細動(Vf)などがあり,緊急に治療をしないと急死に至るものから治療の必要のないものまで幅広いものが含まれる.本稿では主としてVPCとVTについて述べる.

71.心房性不整脈に対する治療薬の選択

著者: 小西與承

ページ範囲:P.2234 - P.2236

 不整脈のうち心房に発するか,または心房が介在するものは60%に達するといわれる.その発生機序は実験および臨床における電気生理学的研究によりかなり解明されている.たしかにある一症例について,いくつかの機序のうちのどれが成因であるかを特定することはしばしば困難であるが,可能性の高い機序からそれに対応する抗不整脈薬を選び治療に成功する例が増し,理論的選択の確立が期待できる.
 抗不整脈薬の分類はVaughan Williamsによる4classに分けるものが最も有名であり1,本稿でもこれに従いdigitalisを追加して記することにする(表1).なお電気的治療(ペーシング)は近年進歩した有力な治療法であるが,紙数の関係もあり,テーマからはずれるので詳しくは触れない.したがって,対象は頻脈性不整脈である.

72.肥大型心筋症の治療

著者: 芹澤剛 ,   小出直

ページ範囲:P.2238 - P.2239

症例
 46歳,男.
 主訴:6カ月前より発症した.労作時の"めまい"と安静時胸部絞扼感.

問題となるケースの治療

73.自覚症状のない弁膜症,先天性心疾患

著者: 中村芳郎 ,   谷正人

ページ範囲:P.2240 - P.2241

 弁膜性心疾患,先天性心疾患で自覚症がない時期に心血管系の不可逆的変化が進行して予後の悪化する症例がある.弁膜性心疾患では大動脈弁疾患がその代表である.大動脈弁狭窄症では理学的に典型的所見を認めた時点で観血的検査を行い外科的治療を考慮するとの治療方針決定法に問題は少ないが,大動脈弁閉鎖不全症(AR)は治療方針決定に多くの問題を残している疾患である.先天性心疾患では成人で発見される自覚症のない症例は心房中隔欠損症(ASD)が70%を占める.本症の手術成績はきわめて良好で,ほとんどの症例を外科的に治療して問題はないが,内科的治療でどの程度のASDなら手術を施行せずとも生命予後,生活の質を悪化させないかに関して不明な点がある.ここでは,この2疾患を例をあげて自覚症のない疾患の治療方針の考え方について述べたい.

74.自覚症状のない陳旧性心筋梗塞

著者: 上田慶二

ページ範囲:P.2242 - P.2243

 狭心症や心不全,不整脈などを認めない陳旧性心筋梗塞例における治療法の原理を述べる.

75.自覚症状のない運動負荷心電図陽性例

著者: 村山正博

ページ範囲:P.2244 - P.2245

症例1
 35歳男性.1983年6月初め頃カバンをもって歩いたとき前胸部痛を感じ,5〜10分位で自然に消失したという病歴がある.6月17日の明け方,前胸部に痛みがあり目がさめ,また同時に咽頭部の乾燥感を感じている.理学所見上,血圧106/74,その他特記すべきことなし.血液生化学GOT 212,CPKピーク値1,548,白血球15,700,と壊死徴候をみとめている.
 図1に安静および運動負荷心電図を示す.安静心電図ではII,III,aVFに深い異常Q波をみとめ,また同誘導に陰性T波をみとめている.運動負荷試験は上述の症状があった1か月後に行われている.図に示すようにBruce III度の途中まで行ったが,息切れ,胸痛なく,ST下降がV5にて3mmもあり,ST下降を運動中止徴候として負荷試験を中止している.トレッドミルを用いた運動負荷試験は異なった日に3回行っているが,いずれにおいても全く無症状で同じ程度のST下降を示している.運動負荷タリウムシンチグラフィーではST下降の出現に一致して下側壁に広く欠損像を示し,回復後再分布をみている.また運動負荷RIアンジオ上,Section 1,5に壁運動異常が発生した.CAGではRCA3に75%,LAD 6,7に75〜90%,LCX13に90%の狭窄をみとめたいわゆる3枝病変を示した.

76.自覚症状のない不整脈

著者: 比江嶋一昌

ページ範囲:P.2246 - P.2247

 不整脈によってもたらされる自覚症状の程度は,患者の年齢や感受性にもよるが,通常は,①心拍数,②心拍の規則性,③持続時間,④器質的心疾患の有無,⑤患者の状態(例えば,起立時か仰臥位,覚醒時か睡眠中)などに左右される.
 自覚症状の全くない不整脈でも,治療面では,急いで対策を考慮しなければならないものから放置して差し支えないものまでいろいろあり,それらの識別が臨床上重要となる.

内科的治療の限界と手術のタイミング

77.WPW症候群

著者: 岩喬 ,   三井毅

ページ範囲:P.2248 - P.2249

 電気生理学的検査の進歩につれて,各種不整脈に対する外科的根治が可能となっている.なかでもWolff-Parkinson-White(WPW)症候群に対する副刺激伝導路切断術は,その術式の確立とともに次第に適応が拡大され,良好な成績が上げられつつある.

78.冠動脈疾患

著者: 岡村高雄 ,   鈴木章夫

ページ範囲:P.2250 - P.2253

 1967年Effler,Favaloro1)が大動脈-冠状動脈バイパス術を施行して以来,約15年余の歳月が経過し,今日,冠状動脈疾患に対する外科治療はその治療学上重要なる部分を占有するに到った.しかしながら,急性心筋梗塞,左冠状動脈主幹部病変,不安定狭心症,重症左心機能不全症例などのcriticalな症例では,治療方針の決定が患者の生死を左右する結果をもたらすため,内科的治療の限界とタイミングを把握することが重要であると考えられる.筆者らは現在までに443例の虚血性心疾患に対する直達手術を行ってきたが,これらの経験と諸家らの報告を基に,問題となる疾患に対する治療方針の現状を明らかにしたいと考える.

79.左心室瘤

著者: 松本昭彦 ,   近藤治郎 ,   熊田淳一 ,   相馬民太郎 ,   藏田英志 ,   博田定 ,   小林公也 ,   太田敬史

ページ範囲:P.2254 - P.2255

 左心室瘤は心筋梗塞患者の5〜35%に発生するとされ,その死亡率も左心室瘤のない心筋梗塞患者の約3倍にもおよぶことから,本症に対する治療はきわめて重要である.左心室瘤の重篤な合併症として,1)うっ血性心不全,2)塞栓症,3)心室頻拍などがある.これら合併症は単独よりむしろ2つないし3つが合併して来ることが多い.

80.解離性大動脈瘤

著者: 上山武史

ページ範囲:P.2256 - P.2257

発症直後の診断と治療方針
 本症が疑われる患者の発生に際し,次の二点が最も重要である.

手術後の症例の管理

81.弁置換術後例の管理

著者: 西村卓三 ,   柳沼淑夫

ページ範囲:P.2258 - P.2259

 わが国の人工弁置換例の遠隔成績をみると,おおよそ5年生存率は僧帽弁70〜90%,大動脈弁60〜80%とされている.また生体弁は人工弁よりも高い生存率を示している.遠隔死亡の原因としては脳塞栓,抗凝固療法による出血,細菌性心内膜炎,再弁置換後の低心拍出量症候群などがある.したがって心臓弁膜症の手術後の管理では合併症の早期発見とその治療が重要であるが,さらに原疾患に基因する病態すなわち心筋障害,不整脈,肺高血圧症,機能的三尖弁閉鎖不全などの管理が重視される.特殊な状況として,抗凝固療法と妊娠・分娩,外科的処置時の管理が問題となる.ここでは,原疾患に基づく病態の管理については他稿に譲り,それ以外の上記項目について述べる.

82.冠動脈バイパス術後例の管理

著者: 村上暎二 ,   竹越襄 ,   金光政右

ページ範囲:P.2260 - P.2261

 冠動脈バイパス術後の管理については当然のことながら,バイパスgraftのpatencyをいかに長く保つかに集約される.Graftの閉塞による狭心症の再発や,心筋梗塞への移行とそれに伴う不整脈や心機能不全などの重大な合併症の出現は術後のmortalityに大きく関与するからである.このバイパスgraftの閉塞防止策としては大別して2点が考えられる.第1には抗凝血薬と抗血小板剤による血栓形成防止法であり,第2には動脈化された静脈グラフトの硬化防止のための各冠危険因子のコントロールである.前者は血液成分の面から、後者は血管壁の面からそれぞれgraft閉塞を防ごうとの試みである.しかし,実際には,これらの治療を中心として抗狭心症薬の各種が併用されるのが通常であり、硝酸塩化合物,Ca++拮抗剤およびβ-遮断剤などの単独および併用療法が行われる.以上の観点から,現在筆者らの行っている冠動脈バイパス術後の管理のうち主として薬物療法の実際をまとめたい.

83.ペースメーカー植込み例の管理

著者: 藤原秀臣 ,   谷口興一

ページ範囲:P.2262 - P.2263

 ペースメーカー植込み患者の合併症は,大きく分けてペースメーカー(パルス発振器と電極を含む)に由来するものと,生体に由来するものとがある.前者には,いわゆるpacemaker malfunction(故障)や電極の異常などからくるpacing不全やsensing不全,musclepotential interference(筋電位干渉)などがある1).後者には,創部の感染や壊死,静脈炎,塞栓症や細菌性心内膜炎などがある(表).これら合併症は手技に熟達し,手術操作に不備がなければ多くは防止しうるが,ペースメーカー・クリニックにおける患者管理による予防と早期発見も重要である.

いつまで服用すべきか

84.心不全における減負荷療法

著者: 楠川禮造

ページ範囲:P.2264 - P.2265

症例
 62歳,男性.
 病名:大動脈弁閉鎖不全,僧帽弁閉鎖不全兼狭窄,三尖弁閉鎖不全,心不全(NYHA Class IV).

85.狭心症治療薬

著者: 黒岩昭夫

ページ範囲:P.2266 - P.2267

狭心症治療薬使用の目的
 1)狭心症発作時頓用
 狭心症発作がある程度以上強いときは頓服薬を用いる.薬剤としてはニトログリセリンあるいはイソソルバイド(ISDN:ニトロール®)の舌下頓用が用いられる.

86.心筋梗塞再発予防薬

著者: 石川恭三

ページ範囲:P.2268 - P.2269

症例
 49歳男性.商事会社課長.
 患者は昭和55年9月13日,子供と口論の後,突然,激しい前胸部痛が出現したため,本大学のCCUに入院して来た.心電図所見ならびに血清酵素値の上昇(peak値:CPK 1,400mIU,GOT 194mIU,LDH 1,175mIU)より急性前壁中隔梗塞と診断された.入院後の経過は順調で,心不全症状もなく,危険な不整脈の出現も認められなかった.しかし,CCU入院時に血圧が164/108mmHgと高値を示し,その後CCU在室期間(3日間)中ほぼ同じレベルの血圧を示したため,9月16日より,Propranolol(Inderal®)30mg/日の経口投与を開始した.Propranolol投与後の血圧はほぼ120〜140/80〜90mmHg近辺に保たれた.一般病棟転床後,リハビリテーションも順調に進み,10月22日退院となり,その後は外来にてfollow-upしている.本患者の梗塞発症前のCoronary riskfactorsとしては,肥満(+19%),高血圧,高脂血症,糖尿病(境界型),高尿酸血症,喫煙(40本/日)などが認められた.

87.不整脈治療薬

著者: 博田定

ページ範囲:P.2270 - P.2272

症例
 72歳女性.19歳の頃から,①日常のちょっとした動作が引金になって突然発作性の動悸がおこり,発作は6時間以上も続くことが多かったが,便所にいくとか,何らかの動作がきっかけで突然動悸が止まることをくり返していた.②発作中は恐怖感で冷汗をかき,疲労感,脱力感,ふらふら感があり,静かに座ってじっと耐えた.静臥すると余計に苦しくなり,息切れがした.③発作は週2〜3回が多かったが,60歳以後連日となった,既往近医によりアジマリン(ギルリトマール®)の静注を受け発作が止まっていたが,だんだん無効になった.④間歇期には,ときおり,胸部にドキンとした感触があり,それも発作の契機になった.
 67歳の時紹介により来院,爾後当院でfollowupしている.理学的検査で異常なく,血圧160/90mmHg,脈拍は正常で80/分,胸部X線で左室の軽度拡大と大動脈弓部の突出をみるほか異常はなかった.心電図所見は洞調律,脈拍数78/分,電気軸は+75°,PQ 0.19秒,QRSは狭小で,デルタ波はなく,非特異性のST-T異常が軽度にみられた.血算,血液生化学で異常なく,心エコー図も正常であった.

特殊な治療法—適応のきめ方

88.血栓溶解療法PTCR

著者: 延吉正清

ページ範囲:P.2274 - P.2275

 血栓溶解療法(Percutaneous Transluminal Coronary Recanalization:PTCR)は,近年急性心筋梗塞症の治療法として注目を集めている.本稿ではPTCRの適応のきめ方について筆者の経験をもとに解説していきたい.

89.PTCA—とくにPTCR後の残存狭窄に対するPTCAに関して

著者: 鈴木紳 ,   遠藤真弘 ,   本田喬 ,   平敦子 ,   伊吹山千晴 ,   清見定道

ページ範囲:P.2276 - P.2277

 1977年Grüntzig1)により創案されたPTCAは全米を中心に急速に普及し,わが国においても本法を行う施設が増加しつつある.粥状硬化性狭窄がカテーテルで拡大され,症状の改善があれば非常によろこばしいことであるが,反面,合併症も決して少なくなく,適応は慎重に決定する必要がある.ここでは,現状におけるPTCAの適応,なかでも最近話題となっているPTCRの残存狭窄に対する問題について概説する.

V.消化管・腹膜疾患 薬物療法のポイント

90.H2レセプター拮抗剤の使い方

著者: 石森章

ページ範囲:P.2280 - P.2281

 消化性潰瘍の発生病理ならびに病態生理に関する知見の増大とともに,特徴的な作用機序をもつ新薬の開発が相次いだ結果,消化性潰瘍の治療は個々の症例の発生病理学的ならびに病態生理学的特性にもとづいた個別的治療が可能となってきた1).一方,再発のくり返しを特徴とする消化性潰瘍の治療において,現存する潰瘍病巣の治療のしかたいかんが治癒後の再発動向に大きな影響を与えることが注目され始めている.すなわち消化性潰瘍の治療目標は,治癒後にできるだけ歪を残さずにきれいに治すという方向に比重を移しつつあるということができる.この目標の達成は単に使用する潰瘍治療薬の使い方の再検討によるだけでなく,その適用すなわち治療対象となる個々の症例の発生病理学的ならびに病態生理学的背景の理解が前提となることは明らかであり,ここではこのような観点からH2レセプター拮抗剤の使い方を考えることとする.

91.抗コリン剤の潰瘍治療における意義と新しい抗コリン剤

著者: 竹本忠良 ,   衣川皇博

ページ範囲:P.2282 - P.2283

 "Kein Ulkus ohne Säure"の格言が示すように,消化性潰瘍の成因には胃酸分泌がもっとも重要な役割を演じている.したがって,消化性潰瘍の治療は,この胃酸の中和あるいは分泌の抑制に主目標がおかれてきた.現在では,Shay & Sunらの提唱するbalance theoryが最も支持され,消化性潰瘍の治療のあり方はこの説にしたがって,攻撃因子の抑制,あるいは防禦因子の増強を目的としてなされるようになっている.
 さて,攻撃因子抑制剤としては,ヒスタミンH2receptor antagonistのcimetidineがあらわれるまでは,抗コリン剤が薬物療法の主流をなしてきた.しかし最近,抗コリン剤としてはムスカリン受容体を選択的にブロックする薬剤であるpirenzepine(Gastrozepin®)が使用されるようになり,副作用も少なく,かなりの臨床効果をあげている.

92.粘膜保護を主目的とした抗潰瘍剤の種類と使い方

著者: 三宅健夫

ページ範囲:P.2284 - P.2286

 近年,Grossmanらによって壁細胞の酸分泌機構に関する受容体が指摘され,H2受容体拮抗剤,選択的ムスカリン受容体拮抗剤およびガストリン受容体拮抗剤などが開発され,臨床的に広く用いられるようになった.これらの薬剤は攻撃因子,特に酸の分泌を強力に抑制することから,消化性潰瘍治療の一つの大きな流れが確立されるに至った.他方,胃・十二指腸粘膜の防御機構に関する研究も,近年とみに進展し,粘膜抵抗,粘液,血流,十二指腸制御などの防御因子に含まれる具体的な細項目が指標化され,これらを増強する薬剤が理論的な裏付けを以て開発され,再評価されつつある.以下,粘膜保護すなわち防御因子増強を目的とした抗潰瘍剤の種類と使い方について,その概要をのべる.

93.下剤と止瀉剤—最近の進歩と使い方

著者: 木原彊

ページ範囲:P.2288 - P.2289

下剤
 便秘の訴えに対して,下剤が利用されるが,その使い方はあくまで便秘の原因が正しく診断された上でなければならない.とくに便秘の原因として直腸癌,S状結腸癌が多いことに留意する.便秘についての精細な病歴の聴取,身体的所見とくに直腸指診,全便の観察と検査,必要に応じて注腸X線造影による大腸全域の正確なX線診断(二重造影法は欠かせない)や大腸の内視鏡検査を行い,正しく便秘の原因を診断した上で治療を行う.安易に対症的な薬物療法のみを行ってはならない.

問題となるケースの治療

94.重篤な疾患に併発した胃十二指腸潰瘍の治療

著者: 鎌田武信 ,   房本英之

ページ範囲:P.2290 - P.2291

症例
 1歳11カ月,80%熱傷.受傷13日目よりコーヒー残渣様嘔吐が出現し,次第に増強する.18病日内視鏡検査を施行し,出血性胃炎出血と診断.Cimetidine(tagamet®)使用.出血量は減少し,27病日には完全に止血される(図1).

95.長期臥床患者・癌末期患者の腹満と便秘の対策

著者: 原義雄

ページ範囲:P.2292 - P.2293

腹満
 長期臥床患者,癌末期患者にみられる腹部膨満には,①腹部全体が膨満する場合と,②限局した腹部に膨満をみることとがある.①は鼓腸や腹水によることが多く,②は胃腸管の拡張,腹部実質臓器の腫大,腹腔内の腫瘍などによって起こる.②の場合は原疾患に対する処置を優先する.

96.集検で発見された自覚症状がない消化性潰瘍

著者: 五ノ井哲朗

ページ範囲:P.2294 - P.2295

症例
 52歳男,農業.4,5年前から時折上腹部痛があった.1年半前,胃潰瘍の診断で1カ月半入院治療を受けたことがある.48年8月,胃集検で,胃変形のため精密検査の指示を受け来診した.当時自覚症状はなかった.図1,2は初診時の充盈像および二重造影像で,胃角部後壁の線状潰瘍の所見である.メサフィリンその他を投与して経過を観察(図3),約3カ月後には,線状溝を残して潰瘍は治癒している(図4).

内科的治療の限界と手術のタイミング

97.消化管出血—輸血と手術のタイミング

著者: 青木照明

ページ範囲:P.2296 - P.2297

 消化管出血(吐血hematomesis・下血melenaor hematochesia)は外科的緊急性を持つ可能性のある病態であり,診断の初期より,内科医・内視鏡医・外科医の緊密な連携のもとに取り扱われることが望ましい.以下に症例を提示し,輸血・手術のタイミングについてのべる.

98.食道静脈瘤

著者: 高瀬靖広 ,   折居和雄

ページ範囲:P.2298 - P.2299

症例
 女性45歳.肝硬変症を原疾患とする食道静脈瘤症例.食道静脈瘤出血にて緊急入院,急速輸血などの救命処置と併行してSengstaken-Blakemoretube(S-B tube)による圧迫止血を試みた.意識障害(-),血圧98/60mmHg,脈拍数108/分,呼吸数24/分,体温38.0℃,腹囲102cm,尿量20ml/分,T-Bi1 3.4mg/dl,CHO 91mg/dl,CHE O.24△PH,血中アンモニア66μg/dlであった.よってS-Btubeより胃内吸引・洗浄,ついで胃内ヘカナマィシン2g,ラクツロース30mgおよびグルマール®2g投与,また,ラシックス®1A,ソルダクトン®1A(100mg)を静注した.48時間後,持続的出血をみとめたので,injection sclerotherapyにより止血した.

99.アカラシア

著者: 上野恒太郎

ページ範囲:P.2300 - P.2301

症例
 45歳男性,農業.主訴は嚥下障害.
 約1年前から,食後に胸骨後部のつかえ感と重苦感を訴えるようになり,食事量が減ってきた.このため某外科を訪れ,アカラシアと診断されて手術を受けた.術前の栄養状態は中等度で,軽度の貧血傾向はあったが,血清蛋白およびコレステロール値は正常,体重減少もなかった.Fundicpatch(Thal法)術後の食道の流通は術前に比しく著しく改善されたが(図1),手術の約1年後から食道下部の瘢痕性狭窄を来たし当科に来院中である.

100.いわゆる腸管癒着症—Polysurgeryを予防するにはどうすればよいか

著者: 渡辺晃

ページ範囲:P.2302 - P.2303

Polysurgeryとは
 腸管癒着症は意外に多く,虫垂切除などが安易に行われ,腹痛などのため,腸管癒着症,術後困難症として何回も手術が重ねられ,結局,polysurgeryへと発展し,内科,外科,婦人科,精神科などを巡回し諸々の訴えで多くの医師を訪ねるようになる.現在治療上,匙が投げられ,鎮痛剤,下剤,精神安定剤などが主に用いられている症候群であるといえる.
 筆者が20数年前,専売公社仙台工場診療所に嘱託医として勤務していた当時,虫垂切除を受けた女工がしばしば作業中突然,腹痛,嘔気・嘔吐などを訴えて来るものが多かった.これらの患者は総じて虫垂炎の程度は軽く,また手術創が小さく圧痛を認め,便秘を訴える者が多かった.筆者はいろいろな検査を行って原因を究明し,その対策を講じなければならないと考えたのが,polysurgery研究の出発点となった.

101.虚血性腸疾患

著者: 高橋忠雄 ,   山城守也

ページ範囲:P.2304 - P.2305

症例
 〈症例1〉73歳,女.既往歴:50歳,高血圧,70歳,胆嚢剔出術.現病歴:入院前日に発熱,下腹部痛,嘔気生じ,入院日にも上腹部痛が続いた.白血球数16,000,血清アミラーゼ557(130〜400),急性膵炎の疑いで人院した.

102.虫垂炎,憩室炎

著者: 真栄城優夫

ページ範囲:P.2306 - P.2307

 急性虫垂炎は早期手術,憩室炎は内科治療が原則である.しかし,虫垂炎でも,旅行中や試験などで,手術を行わずに内科的治療が望まれたり,憩室炎でも手術を必要とすることも稀ではない.以下,これら内科治療の限界と手術のタイミングについて述べていきたい.

胃切除後の困難症の治療

103.術後再発潰瘍

著者: 大久保高明

ページ範囲:P.2308 - P.2310

症 例
 34歳男.某医に十二指腸潰瘍で胃切除,BillrothII法.術後2年心窩部痛,胃切除後再発潰瘍にて入院,内科療法を受く.約6カ月後,多量の下血,ショック状態となり当院入院.輸血,補液により一般状態の回復をまち,内視鏡,残胃X線撮影の結果,吻合部対側腸管に潰瘍を認める.
 胃液検査MAC 40mEq/l,Hollander Test negative MAO 4.5mEq/h(ガストリン).

104.胃切除後の下痢と便秘

著者: 榊原宣 ,   小川健治

ページ範囲:P.2312 - P.2313

 胃切除術は消化器外科の中で今日最も安全かつ容易に行われる手術であるが,いわゆる術後困難症も少なくない.このうち,下痢と便秘についてのべてみたい.

105.逆流性食道炎

著者: 森昌造 ,   渡辺正敏

ページ範囲:P.2314 - P.2315

症例
 47歳の男性.約1年前,早期胃癌で胃亜全摘兼Billroth I法を受けた.1カ月前から胸やけを自覚するようになり,その後胸骨後部痛,嚥下困難,胆汁の嘔吐などもみられ再入院となった.上部消化管透視ではヒス角の鈍化を伴う軽度の滑脱型食道裂孔ヘルニアとGER(gastroesophagealreflux)が認められた(図1).内視鏡検査ではびらん潰瘍型の食道炎と表在性胃炎が観察された.食道内圧測定でのLES(lower esophageal sphincter)圧は12mmHgと低値を示した.連続24時間食道pH測定1)では,通常の酸のGERは1時間当りの逆流回数0.3回,逆流時間2.2分であったが,アルカリの逆流(pH7以上)は,1時間当りの逆流回数と時間はそれぞれ1.5回と18.8分であった.以上の所見から主としてアルカリ逆流に起因する逆流性食道炎と診断した.

再燃再発を防ぐための維持療法—いつまで服薬すべきか

106.消化性潰瘍

著者: 福地創太郎

ページ範囲:P.2316 - P.2317

 消化性潰瘍の再発と称されるものには二種類ある.一つは,もとの潰瘍瘢痕と同一部位に潰瘍が生ずる場合で,他は,もとの潰瘍瘢痕から離れて,その付近あるいは遠隔部に新たに潰瘍が生ずる場合である.前者の多くは,内視鏡的に白苔が消失しても,発赤の強い,いわゆる赤色瘢痕と称される不完全な治癒状態から再び潰瘍化するもので,厳密には再燃と称すべきかもしれない.後者は潰瘍症としての再発ともいうことができる.そこで,消化性潰瘍の再発再燃を防止する方法として,両者を分けて考えてみたい.

107.潰瘍性大腸炎,クローン病,腸ベーチェット病

著者: 長廻紘

ページ範囲:P.2318 - P.2320

潰瘍性大腸炎(UC)
症例
 28歳,男性.25歳の時第1回の発作.全結腸型UC.近医にてスルファサラジンの内服治療を受け寛解.その後順調に経過していたが,28歳のとき第2回の発作.主訴は下痢,血便,発熱.全結腸型の活動性炎症.入院して治療をはじめる.

108.腸結核が疑われる場合

著者: 有村謙七 ,   政信太郎

ページ範囲:P.2322 - P.2323

 抗結核剤の出現以来,肺結核は減少し,それに伴って腸結核も臨床的にはほとんど忘れ去られようとしている.近年,腸結核に対する関心が高まり,積極的に腸X線検査が行われるようになってから,本症の報告も増えてきている.従来,腸結核は肺結核に続発する二次結核がほとんどで,腸に一次性に発生するのは稀とされていた1)が,最近では肺に明らかな結核病巣を認めない,いわゆる孤在性腸結核の報告も少なくない2)
 腸結核の確診を得るためには,糞便中より結核菌を証明するか,あるいは腸管壁,腸間膜リンパ節より結核菌または乾酪性肉芽腫を証明する必要がある3).しかし,最近の腸結核は大部分が瘢痕化していて,昔とはかなり異なった様相を呈しており,実際にはこれらを証明することは難しい.確診は得られなくても,X線,内視鏡検査で本症に特徴的な所見が得られれば問題はないが,臨床的には小腸ではクローン病と,大腸では潰瘍性大腸炎との鑑別が難しく,治療に戸惑うことがある.本稿では,このような場合を含めて腸結核の一般的治療について述べる.

109.大腸腺腫例のポリペクトミー後のfollow up

著者: 田島強 ,   山辺恭司

ページ範囲:P.2324 - P.2325

 大腸ポリープは,従来,本邦においては少ない疾患と考えられていたが,最近は非常に増加してみられるようになっている.その原因は,単純に食生活の変化(西欧化)のみに帰するべきではなく,本疾患に対する関心の増加と,診断技術の進歩に負うところが大きいと思われる.
 大腸ポリープのほとんどが腺腫であり,その癌化率(局在癌のみられる率)は,報告者により多少異なるが,おおよそ15%前後にも達している.また,腺腫が局在癌を有しているか否かの診断は,X線検査および内視鏡検査では非常に困難であり,積極的な内視鏡的ポリペクトミーの重要性が強調されている.

特殊な治療法

110.ポリペクトミーの適応と手術を要する場合

著者: 上谷潤二郎 ,   武藤徹一郎

ページ範囲:P.2326 - P.2328

症例
 〈症例1〉肛門縁より約7cmの大きさ2cmの亜有茎性ポリープを経肛門的に摘除.粘膜下層に浸潤が認められ,粘膜下層のリンパ管に癌の浸潤を認めた(図2a).低位前方切除術施行したところ,摘除部位,リンパ節に癌の遺残,転移は認められなかったが,摘除部位の近傍の正常粘膜に覆われた粘膜下層に小さな癌の転移巣が認められた(図2b).
 〈症例2〉上部直腸の大きさ1cmの無茎性ポリープを内視鏡的に摘除.粘膜下層に浸潤が認められ(図3),断端近傍に癌が存在するので低位前方切除術施行.摘除部位,リンパ節に癌の遺残は認められなかった.

111.内科領域におけるIVH—いつ始めていつ止めるか

著者: 松枝啓

ページ範囲:P.2330 - P.2332

 内科領域において,IVHをいつ始めて,いつ止めるかといった問題は,従来より諸家の間で必ずしも意見の一致がみられているわけではない.しかも,次項(p2334)で述べるように,EDに代表されるEnteral Hyperalimentationが普遍化してきた現在,IVHの適用範囲が狭小化する傾向にあり,そのガイドラインを示すことは必ずしも容易ではない.
 また,IVHはEnteral Hyperalimentationに比較して,危険度が高く,より高価などの問題点があり,その施行は,RiskとCost-effectivenessの問題を絶えず念頭において決定されるべきである.

112.内科領域におけるED—いつ始めていつ止めるか

著者: 松枝啓

ページ範囲:P.2334 - P.2336

 Enteral Hyperalimentationは,Elemental Diet(ED)の開発以来,その適応疾患の範囲が拡大し,従来IVHの適応と考えられていた疾患の治療をも可能になり,IVHに代わる新しい栄養療法として注目されてきた.
 さらに,IVHの項で述べたごとく,EDによるEnteral Hyperalimentationは,IVHに比較し,より安全で実用的,そしてより経済的といった利点があるため,現在内科領域における栄養療法のFirst Choiceとして定着しつつある.しかし,このEDによるEnteral Hyperalimentationを,いつ始めていつ中止するかといった問題は必ずしも容易ではないが,各疾患の治療目的や治療のゴールを明確にすることにより解決されることも少なくない.以下,これらの問題について具体的に考えてみたい.

VI.肝・胆道・膵疾患 薬物療法のポイント

113.抗ウイルス剤によるB型慢性肝炎治療の展望

著者: 鈴木宏

ページ範囲:P.2338 - P.2340

 B型慢性肝炎に対して抗ウイルス剤として使用されているものにはインターフェロン(IFN)とAdenine arabinoside(Ara-A)がある.IFNはすべてのウイルスの増殖抑制作用があるが,Ara-AはDNAウイルスに対してのみ増殖抑制作用が認められており,B型肝炎ウイルス(HBV)はDNAウイルスの1種であるので,B型慢性肝炎に対して使用されている訳である(これらの薬剤は1983年12月末現在,わが国ではまだ市販されていない).
 IFNには,IFN-α(白血球由来),IFN-β(線維芽細胞由来)およびIFN-γ(リンパ球由来,免疫IFN)の3つがあるが,わが国ではまだIFN-αとβが臨床に使用されているに過ぎない.現在は,IFN-αは白血球,IFN-βは培養線維芽細胞から精製しているため,量に制約があるが,遺伝子工学による大量生産に成功しているので,将来は容易に大量を使用できると考えられる.

114.B型慢性活動性肝炎の治療—ステロイド剤によるseroconversion

著者: 熊田博光 ,   村島直哉 ,   井田雅祥 ,   池田健次 ,   吉場朗

ページ範囲:P.2342 - P.2343

 慢性肝炎に対して,従来からステロイド剤は免疫抑制剤として炎症を抑えるため長期間にわたって使用されてきた.しかし,ここで紹介するB型慢性肝炎に対するステロイド剤rebound療法は,ステロイド剤を使用し,中止後に起こる強い免疫賦活作用を応用した治療法である1-3)

115.急性肝炎(ウイルス性,中毒性)の薬物療法の適応といつまで続けるべきか

著者: 日野邦彦

ページ範囲:P.2344 - P.2346

 一般に急性肝炎の予後は比較的良好で,特に薬物治療を必要としない.その基本的な治療方針は,安静と食事療法である.
 安静は,通常急性期に2〜3週間就床させるが,感染予防や劇症化予知の見地から,この間入院させる.食事療法は,消化器症状の有無によって若干異なる.食欲のある場合は急性期から高蛋白・高カロリー食を与え,回復期には常食とする.食欲のない場合や,高度の黄疸を伴う場合は,炭水化物を中心とした低脂肪食とし,非経口的にカロリーやビタミンを投与する.したがって,薬物療法は,あくまで補助的に行うのみである.

116.肝硬変症例の肝性昏睡

著者: 西野義昭 ,   河田肇

ページ範囲:P.2348 - P.2349

症例
 61歳男性.HB抗原(-),飲酒歴(-).昭和52年,慢性肝炎で約8カ月間某院に入院歴あり,昭和55年9月,腹水貯留を来たし当院に入院.アルブミン製剤,利尿剤の併用で腹水は消失,腹腔鏡下肝生検で乙型肝硬変と診断,約4カ月の経過で軽快退院し,以後外来通院.昭和56年2月下旬よりflapping tremor,disorientationが認められるようになり,ラクツロース,プロモクリプチンなどの投与を開始.flapping tremor,disorientation,insomnia,slurred speech,などの症状は消長を繰り返したが,会社(自営)にも出勤できていた.同年11月下旬よりdisorientation増強,11月30日よりdeliriumの状態となり再入院した.

117.経口胆石溶解剤の適応といつまで続けるべきか

著者: 大菅俊明 ,   三田村圭二 ,   井廻道夫 ,   松崎靖司 ,   正田純一

ページ範囲:P.2350 - P.2351

症例
 55歳,女性.主婦.52kg,154cm,出産1回,糖尿病,肝疾患なし.昭和54年5月第1回右季肋部疝痛発作.救急車にて入院.胆嚢胆石と診断された.その後,症状はなかったが,溶解療法を希望して来院.経静脈胆道造影でよく造影される胆嚢内に,直径約6mmのX線透過性胆石を4個認めた.胆嚢収縮は良好.ursodeoxycholic acid(ursosan®)600mg,分3食後.1年2カ月後,胆嚢造影で胆石は消失.超音波エコーでも消失確認.経過中無症状.肝機能異常や血清コレステロール上昇を認めなかった.

118.急性膵炎の保存的療法をいつまで続けるべきか

著者: 建部高明 ,   秋山建児

ページ範囲:P.2352 - P.2353

症例
 現病歴および入院時の臨床所見:症例は63歳の男性であり,1981年5月中旬から発熱とともに心窩部の激痛が出現したので5月19日に入院した.主な既往疾患は高血圧症であり,飲酒歴は軽度であった.
 入院時に皮膚の黄染,心窩部における著しい圧痛と軽度の筋性防御がみられた.また,検査所見としては,著しい白血球増加(33,200/mm3)と高アミラーゼ血症(3,582IU/dl),直接ビリルビン優位の血清ビリルビンの上昇(7.6mg/dl),高血糖(175mg/dl),血清LDHの上昇(689WU)および血清胆管系酵素の上昇がみられた.USでは膵全体の腫大と総胆管の拡張がみられたが,胆嚢は描出されず胆石の有無は不明であった.

問題となるケースの治療

119.肝硬変に合併した糖尿病の治療—どちらの治療を優先させるか

著者: 三宅清兵衛 ,   佐藤彬 ,   長瀧重信

ページ範囲:P.2354 - P.2355

 肝は糖代謝の調節において中心的役割をはたす臓器である.したがって,肝障害とくにその終末像ともいえる肝硬変において何らかの糖代謝異常をきたすことは想像に難くない.事実,多くの臨床統計でも証明されており,長崎大学第1内科の成績もその例外ではない.
 臨床上,とくに治療を行うにあたって問題となるのは,肝硬変に合併した糖尿病が一次性であるか二次性であるかという点である.

120.黄疸例のかゆみの治療—とくにPBCの場合

著者: 上野幸久

ページ範囲:P.2356 - P.2357

症例
 46歳女性.健診にて肝機能異常を指摘され当院紹介となった.自覚症状として軽度の全身倦怠感と皮膚掻痒感を訴えていた.身体所見では黄疸(-),皮膚はやや乾燥し,胸背部に多数の掻爬創を認めた.肝・脾触知せず,腹水・浮腫(-).検査所見ではAST>ALTのトランスアミナーゼ値上昇,アルカリフォスファターゼ,IgMおよび空腹時・負荷後の胆汁酸高値を認めた.抗ミトコンドリア抗体陽性であった.肝生検にて原発性胆汁性肝硬変症の診断を確認しえた.外来にて経過観察中であったが,皮膚掻痒感が増強したため以下の処方を考慮した.

121.アルコール性肝障害症例の禁酒をどうすすめるか

著者: 庵政志

ページ範囲:P.2358 - P.2359

 アルコール性肝障害症例に禁酒が必要なことはいうまでもないが,これを実行させつづけることは大変に困難である.
 病気をおこすほどに酒好きであることに加えて,周囲の悪意のない誘惑非協力が多いこと,禁酒は完全である必要があり,「少しはよろしい」というわけにゆかぬ点にも困難の因がある.完全禁酒を宣言せぬ限り周囲はその気にならない.また今日は1本で止めようとはじめは本気で決心しても,飲むほどに今日だけはと2本,5本となりがちである.酒の身体への影響に個体差が大きいことも,説得困難の一因となっている.

122.健康診断で発見された肝機能異常をどうするか

著者: 門奈丈之

ページ範囲:P.2360 - P.2361

 慢性肝炎の経過を追求すると,多くの例は慢性肝炎のままの病態(自覚症状はきわめて乏しいが,肝機能異常は持続)を示しながら遷延している1).1938年,Bloomfieldの模式図によれば,慢性肝炎を自他覚症状の出現状況と肝機能異常持続の有無より,臨床病型を分けているが,当時すでに臨床症状出現閾値以下の慢性肝炎の存在を推定している.

123.HBウイルス母児感染の予防

著者: 矢野右人

ページ範囲:P.2362 - P.2363

HBウイルスの母児感染
 世界で2億人以上の,わが国では約300万人のHBウイルス持続保持者(キャリアー)が存在すると推定される.成人後のHBウイルス感染は一過性感染—急性肝炎—として経過し,これらキャリアーの感染は幼小児期のHBウイルス感染により成立する.そのうち感染時期が解明されているのはHBs抗原,e抗原,両者陽性の母より出産する際に感染する母児感染のみである.母がe抗原陽性のキャリアーの場合,出産してくる児の85%以上が生後3カ月目までにキャリアーに移行する.キャリアーが成立した場合,10%以上の人達が発症し,慢性肝炎,肝硬変,肝細胞癌へと進展の可能性を有する.この感染は宿命的であり,予防対策が切実に望まれている.

124.超音波断層法により発見された胆嚢ポリープをどうするか

著者: 福田守道

ページ範囲:P.2364 - P.2365

 コンタクトスキャナ,リニア電子スキャンなど超音波診断装置の普及に伴い,胆石症や胆嚢ポリープなど胆嚢疾患の診断率の向上が認められつつある.
 とくに設問の胆嚢ポリープについては,超音波診断法の普及により,成人を対象とした場合その発見は1%前後の高率を示すことが確かめられ,その処置をめぐって大きな論議を呼んでいる.

内科的治療の限界と手術のタイミング

125.急性胆嚢炎の化学療法剤の選択と手術を要する場合

著者: 中山和道 ,   加来信雄

ページ範囲:P.2367 - P.2369

急性胆嚢炎と抗生物質の重要性
 急性胆嚢炎は,細菌感染や膵液逆流による胆嚢管の炎症性閉塞,結石による胆嚢の易感染性,結石の胆嚢管内への嵌頓,術後の急性胆嚢機能障害などで起きる.
 本症の多くは鎮痛剤と抗生物質の投与により軽快し待期手術となるが,約5%は炎症が改善せず緊急手術の対象になる2).したがって抗生物質の投与ならびにその薬剤の選択は重要である.

126.肝硬変症の手術にどこまで耐えうるか—食道離断術の場合

著者: 杉浦光雄 ,   八木義弘 ,   二川俊二

ページ範囲:P.2370 - P.2371

 食道離断術には経胸食道離断術と経腹食道離断術の両者がある.開胸にしろ開腹にしろ,肝障害のある肝硬変患者にとって手術侵襲は決して小さいものではない.経胸の場合には術後の肺合併症,開腹の場合には術後腹水貯留など特徴的な術後合併症に注目し,対応する必要がある.

127.肝硬変症の手術にどこまで耐えうるか—肝切除の場合

著者: 森岡恭彦 ,   河野信博

ページ範囲:P.2372 - P.2373

症例
 N. W.(820348),62歳,家婦.
 本症例は心窩部痛を主訴として来院した.現病歴は6カ月前より心窩部に時折激痛および圧迫感が出現し,某医で精査の結果,肝左葉に限局した原発性肝癌と判断され,当科に入院した.

128.PTCドレナージの適応と手術のタイミング

著者: 高田忠敬

ページ範囲:P.2374 - P.2375

症例
 62歳女性.黄疸を主訴に内科入院.超音波検査にて肝内外胆管の拡張と膵頭部腫瘤と膵管拡張がみられ(図2),膵頭部癌の疑いがもたれた.血清総ビリルビン値15mg/dl,ICG57%の時点でPTCドレナージ施行.下部胆管のV字型完全閉塞を認めた(図3).その後黄疸軽減も順調であり,4週後に血清ビリルビン値1.4mg/dl,ICGR154%となり手術となった.
 この経過中にERCP(図4),CT,消化管造影,血管造影などが行われ,膵頭部癌の診断が下された.なお門脈造影で上腸間膜静脈・脾静脈・門脈の合流部付近に圧排所見がみられた.

129.膵仮性嚢胞の内科的治療と手術のタイミング

著者: 神津忠彦

ページ範囲:P.2376 - P.2377

症例
 21歳男子.5年前腹部外傷による膵損傷で内瘻手術をうけた.以後3年間は無症状で経過したが,2年前より腹痛発作が出現するようになり,ある日激痛発作のため救急入院した.
 入院時血圧150/100mmHg,体温37.4℃,脈拍84/分,上腹部に自発痛,圧痛,抵抗を認めた.血中amylase 662IU/l,尿中amylase 154IU/時で共に膵型isozymeが増加,ACCRは4.3%であった.白血球数13.600/mm3,ヘマトクリット44.2%,血清総蛋白7.1g/dl,総ビリルビン0.6mg/dl,カルシウム5.2mg/dl,尿素窒素12.6mg/dl,血糖90mg/dl,中性脂肪72mg/dlであった.腹部超音波断層で膵体尾部に沿って長径約10cmの嚢胞状病変を認め,膵仮性嚢胞と診断した.

再燃再発を防ぐための維持療法と社会復帰

130.無症状の慢性肝炎

著者: 井上恭一

ページ範囲:P.2378 - P.2379

 慢性肝炎では通常著明な自他覚症状をみることは少なく,自覚的に軽度の倦怠感を訴える程度で,理学的にも肝腫脹をわずかに認めるくらいのことが多い.しかし肝生検による肝組織像をみると門脈域の拡大,線維化とリンパ球をはじめとする炎症性細胞の浸潤,piecemeal necrosis,小葉内の壊死巣などがみられ,これらは程度の変動はあるが持続的に存在している.いい換えれば組織形態学的には常に再燃,再発をくり返しているわけであり,かかる病変を恒常的に静止状態におくことは不可能と考えられる.一方,慢性肝炎の経過中に強度の倦怠感,食思不振,ときには黄疸など急性ウイルス性肝炎様の症状が加重し,検査成績ではGOT,GPTが300単位以上の上昇を示し,組織学的にも肝細胞の変性壊死所見が著明にみられることがあり,かかる急性増悪後には肝病変は進行することが多い.これとは逆にB型慢性肝炎の中には急性増悪をきっかけとしてHBe抗原のHBe抗体への転換(seroconversion),ときにはHBs抗原の消失をみることもある.したがって慢性肝炎の治療に当ってはこれらの点を十分考慮する必要がある.ここでは具体例を呈示して慢性肝炎の病変の進行を抑える一般的治療法についてのべる.

131.腹水が溜った既往がある肝硬変症

著者: 池上文詔

ページ範囲:P.2380 - P.2381

症例
 57歳男性.昭和2年生.
 既往歴:昭和47年糖尿病,以来食事療法継続.

132.肝性昏睡に陥った既往がある肝硬変症

著者: 小林健一 ,   田中延善

ページ範囲:P.2382 - P.2383

症例
 45歳,男性.主訴は意識障害発作.昭和48年(37歳)全身倦怠で某病院受診,慢性B型肝炎と診断された.その後放置.同54年10月食道静脈瘤に対し,予防的に脾摘出術ならびに脾腎静脈吻合術が施行された.約1年半後より眠くてたまらないことが時々あり,自宅へ帰るまでのことをほとんど覚えていない状態も出現し,某病院に同56年9月1カ月間入院軽快したが,さらに精査治療のため金沢大学第1内科へ同年12月14日紹介入院となった.
 入院時,黄疸・腹水は認められず,肝血管造影など精査の結果,HBs抗原・e抗体陽性の乙型(三宅分類)肝硬変で,明らかな脾腎静脈シャントおよび食道静脈瘤(内視鏡分類II度)の合併がみられた.脳波ではθ波がみられ,血中アンモニア値は200μg/dl(正常40〜100μg/dl)と高値を示していた.

133.HBウイルス健康キャリアの生活指導

著者: 飯野四郎

ページ範囲:P.2384 - P.2385

 HBs抗原キャリアの10%強が肝障害をもつが,残りの90%弱はいわゆる無症候性キャリア(ASC)である.
 ASCの生活指導をするにあたっては,B型肝炎ウイルス(HBV)の持続感染状態の自然経過を十分理解した上で,患者の検査成績から,患者が自然経過のどの時点にあるかを的確に把握し,それに基づいたものでなければならない.そこで,まず最初にキャリアの自然経過から述べることとする.

134.無症状の慢性膵炎

著者: 近藤孝晴 ,   早川哲夫

ページ範囲:P.2386 - P.2387

症例
 35歳男性,板前.
 主訴:左上腹部痛.

手術後の肝・胆・膵疾患の治療

135.手術後の軽度の肝機能異常をどうするか

著者: 藤原研司 ,   太田裕彦 ,   平田啓一

ページ範囲:P.2388 - P.2389

症例
 63歳女性.1カ月来の食後嘔気,嘔吐,心窩部痛から胃癌を発見され,胃全摘,脾摘,食道空腸吻合術を受けた.麻痺はGO+modified NLA+mioblock,輸血なく,順調に7時間で終了した.術前は正常であったが,翌朝,GOT 114,GPT 65と上昇,2日目GOT 48,GPT 30,4日目GOT 20,GPT 14と正常化した.抗生剤は5日目まで投与されており,自覚症状はとくに変わりはなかった.
 処方 術後の一般管理以外に特殊な治療法は行わない.

136.胆嚢摘出術後の腹痛をどうするか

著者: 長嶋英幸 ,   松代隆

ページ範囲:P.2390 - P.2391

症 例
 71歳,女.約3年前胆嚢総胆管結石症(コレステロール系胆石)で胆嚢摘出術を受け,術後経過良好で240日後退院した.退院後愁訴なく3年経過したが,突然心窩部痛,発熱,嘔吐を訴え,近医を受診,入院した.しかし,症状軽快せず当院を訪れ,外来にて超音波検査を施行し,総胆管拡張を認めたので精査のため入院した.
 入院時血液検査 血液一般:白血球 4,100,赤血球 366×104,ヘモグロビン 11.2mg/dl,ヘマトクリット 31.2%,血小板 22.4×104.肝機能:総ビリルビン 0.4mg/dl,TTT 0.7MU,ZTT 7.0KU,GOT 23KU,GPT 6KU,アルカリフォスファターゼ 10.5AU,LAP 25GU,γ-GTP 77mu/ml.

137.膵全摘後のインスリンおよび消化酵素の補給

著者: 七里元亮 ,   鮴谷佳和

ページ範囲:P.2392 - P.2393

 近年,麻酔や抗生物質,術前,術後の管理の進歩に伴い膵全摘術の適応は拡大されつつある.膵癌の唯一の根治法を求めた膵全摘はもちろんのこと,慢性膵炎患者においても膵の荒廃の著しいもの,膵癌の疑いのあるものに膵全摘が行われるようになり,日常診療の場において膵全摘患者の管理,殊に膵機能補充療法が必要となってきた.

特殊な治療法

138.劇症肝炎のG-1療法

著者: 加納隆 ,   河合秀子 ,   小島孝雄 ,   武藤泰敏

ページ範囲:P.2394 - P.2395

 劇症肝炎は,種々の治療法の進歩にもかかわらず,未だ致死的な疾患である.その治療方針としては,肝細胞壊死の抑制,肝再生の促進ならびに肝性脳症の覚醒を計ることにあるといえよう.最近,上記の3つの治療効果が同時に期待でき,しかも,その手技が簡便で,早期治療を容易にさせるものとしてGlucagon-Insulin(G-I)療法1)が注目されてきている.以下,筆者らの教室での劇症肝炎におけるG-I療法のポイントを述べてみたい.

139.劇症肝炎の肝補助治療—人工肝補助装置と血漿交換療法

著者: 井上昇 ,   正木尚彦 ,   照屋純

ページ範囲:P.2396 - P.2397

人工肝補助装置と血漿交換
 人工肝補助装置(artificial liver support)は,体外で肝機能の一部を再現することによって肝不全の重篤な時期を克服する手段として用いられる.肝機能補助を目的として試みられてきた方法(表)は相当の数にのぼるが,大半は実験室レベルのものである.
 現在実用化され臨床応用されている方法としては活性炭血液(血漿)灌流1),ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile,PAN)膜あるいはポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate,PMMA)膜など高透過性膜による血液透析または濾過2),出剔肝(ヒヒ,ブタ)灌流3)および血漿交換4)などがある.このうち血漿交換(plasma exchange)は血液浄化法の一つとして血液中のすべての分子量サイズの毒性物質を除去できるばかりでなく,置換液として新鮮凍結血漿を用いればアルブミンや凝固因子など肝不全のため欠乏した物質も同時に補給できる.すなわち解毒とともに代謝補助も期待できる長所があり,近年長足の進歩をとげた血漿分離技術を利用したon-line血漿交換システムの開発とともに劇症肝炎の治療法として普及している.

140.肝膿瘍の超音波ガイドによる穿刺排膿による治療

著者: 北村次男 ,   河村哲雄

ページ範囲:P.2398 - P.2399

症例
 30歳男子.約6カ月前から仕事が多くなり,生活が不規則となっていた.この頃から上腹部不快感,倦怠感などを覚え,近医を受診,風邪と診断をうけた.この時から毎月のように2,3日間37〜38℃の発熱があった.今回は3日前から38℃の発熱があり,これまでとは異なり食欲不良,だるさが非常に強いとのことで受診,翌日入院した.
 入院時,40.8℃の高熱で,右季肋部に圧迫感あり,この部に叩打痛があった.眼球結膜は黄染していた.血清総ビリルビン 2.9mg/dl,GOT 52U/l,GPT 78U/l,γGTP 109.7U/l,LDH 544U/l,末梢血白血球は11,400で,単核球が14%であった.

141.遺残結石の内視鏡的乳頭括約筋切開法による治療

著者: 藤田力也 ,   相馬智

ページ範囲:P.2400 - P.2401

症 例
 77歳,女子.
 主訴:心窩部ならびに背部痛.

VII.腎疾患 新しい治療法,新しい薬剤

142.難治性ネフローゼ症候群に対するPGE1療法の効果と適応

著者: 佐藤昌志 ,   児島弘臣 ,   越川昭三

ページ範囲:P.2404 - P.2405

症例
 73歳,男.昭和55年3月1日,顔面や下肢に浮腫が出現したため近医を訪れたところ,タンパク尿,血尿,乏尿が認められ,諸検査の結果で急性腎不全と診断された.腹膜透析を開始し,3月16日当科へ転院した.
 入院時の検査結果は,T.P 4.7g/dl,A1b. 2.5g/dl,T-Chol 286mg/dl,BUN 115mg/dl,U.A 3.7mg/dl,Creatinine 10.3mg/dl,尿量 100ml/日,尿タンパク 1,140mg/dl,尿潜血(++)などであった.3月17日外シャント作成して血液透析に導入した.以後腎機能は改善し,尿量も1,000ml/日を越し透析療法を離脱できた.しかし,尿タンパク量は10〜30g/日とネフローゼ症候群が持続していたため,4月10日腎生検を施行したところ膜性腎症と診断された.

143.腎疾患の血漿交換療法の適応と限界

著者: 鳴海福星 ,   伊藤克己 ,   太田和夫

ページ範囲:P.2406 - P.2407

血漿交換療法の原理
 腎疾患における血漿交換療法の目的は,①抗体の除去,②免疫複合体の除去,③炎症,凝固促進因子の除去,④腎毒性物質の除去,などと考えられる.とくに腎炎においてその発症機序は必ずしも明確ではないが,患者血中に免疫複合体が見出されたり,凝固能の亢進が認められることなどにより,これらの免疫応答因子や腎組織障害因子(局所の炎症加担物質)などを除くといったいままでの薬物療法では期待できない効果が望めるわけである1)
 血漿交換の方法としては遠心分離法と濾過膜分離法とがあり,その選択は主に体外循環量や血漿交換療法に必要な血流量によっている.当センターでは低体重児および幼児には遠心分離法を用い,毎分15〜30mlの血流量を得ることによって施行している.一方,濾過膜分離法では毎分100ml以上の血流量が必要であり,そのため動脈穿刺を行うなど血流の豊富なbloodaccessを確保しなければならない.

144.慢性腎不全の経口吸着剤(AST120)の効果

著者: 小出桂三

ページ範囲:P.2408 - P.2409

慢性腎不全の治療における経口吸着剤療法の位置づけ
 慢性腎不全患者の透析導入前の保存的療法の中心は食事療法と薬物療法である2).ここにおける薬物療法は,慢性腎不全の異常病態を是正するためのものである(例えば高血圧に降圧剤,浮腫,乏尿に利尿剤など).これらの保存的療法により慢性腎不全の異常病態を是正しえなくなり,尿毒症症状が出現すると透析療法が開始される.
 最近の透析療法の目ざましい進歩は,透析療法の成績向上をもたらし,透析患者の長期生存を可能にしたが,しかし多くの慢性腎不全患者の心情として,透析療法をさけられるものならさけたい.透析療法がさけられない場合でも透析療法の開始を延ばせるだけ延ばしたいという強い願望がある.

145.CAPDの効果と今後の問題

著者: 川口良人

ページ範囲:P.2410 - P.2411

症例
 44歳の男子事務員.慢性腎炎による腎不全のため,昭和52年血液透析導入.2カ月後より家庭透析開始.以後順調な社会復帰を果たしていた.昭和53年飲水過剰による心不全,昭和55年肋骨骨折を合併する.週3回は帰宅後,透析実施のため就寝は午前1時を過ぎることが多く,透析介助者である妻の心理的負担も多くなり,患者自身も妻も家庭血液透析からの離脱を希望するようになった.患者自身は社会的地位も責任ある立場に置かれるに従って時間外の勤務も多くなり,施設での透析は考えられない状況であった.昭和57年2月よりCAPD(1.5%dextrose含有透析液2l,1日4回交換のスケジュール)に変更した.
 本症例ではCAPD選択の理由はmedicalな面よりもsocialな,psychologicalな面が大きく作用している.以後順調にCAPDを行っており,最近の検査所見は血圧130/90mmHg,CTR 46%,Ht 34%,Hb 11.6g/dl,K 3.0mEq/l,Ca 4.4mEq/l,Pi 5.7mg/dl,BUN 73mg/dl,creatinine 13.4mg/dl,UA 8.5mg/dl,TP 7.7g/dl,transferrin 275mg/dl,PTH(C末端)22ng/ml,薬剤は1αOHDのみの投与である.

146.血液濾過法とその適応

著者: 岸本武利

ページ範囲:P.2412 - P.2413

 血液濾過法(hemofiltration,以下HFと略)は,血液透析(hemodialysis,以下HDと略)と比べて溶質除去のパターンが腎の糸球体濾過機能により近似しているため,生理的な血液浄化法が可能となり,血液浄化に伴う副作用が少なく,長期臨床効果もHDより優れていると報告されている.すなわち,HFはHDと比べて短期効果では除水能に優れ,かつ除水に伴う低血圧などの症状発現が少ないこと,および不均衡症候群の発現が少ないことから無症候性治療が可能である.長期効果としては,慢性腎不全に伴う種々の代謝障害の改善および合併症の改善が報告されており,HDより優れた長期効果が期待される.

147.重曹透析とその適応

著者: 前田憲志

ページ範囲:P.2414 - P.2415

症例
 K. K.,70歳男.無職.
 糖尿病性腎症による腎不全,

148.高Na透析とその適応

著者: 三浦雅弘 ,   大坂守明 ,   二瓶宏 ,   三村信英

ページ範囲:P.2416 - P.2417

 腎不全ではNa貯留が浮腫,高血圧,心不全などを招くため,血液透析による治療では老廃物の除去以外に限外濾過あるいは浸透圧勾配で,水と同時にNaの除去を図ることが必要である.従来,血液透析にはNa130mEq/l前後の低Na透析液が用いられ,濃度勾配によるNa除去も試みられていたが,透析器の高効率化に伴い,Na除去および除水性能が著しく向上し,透析中に低血圧,疲労感,筋痙攣などの低Na症状を呈する症例が認められるようになってきた.そのため最近は血清Na濃度135〜145mEq/lに近い正Na透析液が使用されるようになってきた.さらに長期症例では低血圧例が多くなり,また浸透圧勾配を利用したcell wash法などで効率の増大が工夫されるなど,生理的なNa濃度以上に高い145mEq/l以上の高Na濃度を用いる方法が応用され,透析困難症例,不均衡症例,筋痙攣例などへの応用と,透析効率の増大のためなどに用いられている.

149.ステロイドpulse therapyの効果と適応

著者: 三條貞三 ,   小野駿一郎

ページ範囲:P.2418 - P.2419

症例
 29歳,男性(図1).昭52年1月上気道炎罹患,同年3月両手指関節痛あり腱鞘炎と診断され,同時に蛋白尿を指摘された.8月中旬腹痛,下痢,全身倦怠感あり,蛋白尿35〜58g/日,血清蛋白3.4g/dlにてネフローゼ症候群として9月28日入院.

問題となるケースの治療

150.急性腎炎の治癒判定と生活指導

著者: 永瀬宗重 ,   東條静夫

ページ範囲:P.2420 - P.2421

 急性腎炎は,典型的な例では明らかな先行感染を有し,1〜3週の潜伏期間をおいて急激に発症する,血尿,蛋白尿,浮腫,乏尿,高血圧,時に中等度の高窒素血症を呈する腎疾患である.先行感染としては,咽頭炎や皮膚膿痂疹の場合の溶連菌感染をはじめ,ブドウ球菌,肺炎球菌および種々のウイルス感染などがあげられるが,薬剤,毒素,放射線照射などの非感染性の原因による急性腎炎もある.しかし大部分は溶連菌感染後急性糸球体腎炎と考えて差し支えない.
 一般にその予後は,小児期発症のものほど良好で治癒率が高く,年齢の増加とともに遷延化の傾向がみられる.また尿所見その他に基づいた臨床的治癒と,腎生検所見に基づいた組織学的治癒とは必ずしも平行せず,そこに急性腎炎の治癒判定の難しさがある.本稿では急性腎炎の治癒判定に関する諸説を俯瞰し,同時に生活指導の概略を述べる.

151.腎機能正常で蛋白尿1.0〜2.0g/日,血尿(+)の慢性腎炎の対策

著者: 本田西男 ,   長瀬光昌

ページ範囲:P.2422 - P.2423

症例
 36歳,男性.主訴:血尿,蛋白尿.昭和48年健診で蛋白尿,血尿発見.蛋白尿は以後持続したが,血尿は一次陰性化.5年後倦怠感を主訴として近医受診.蛋白尿(+++),血尿(+).昭和56年当科受診.主な検査成績としてScr 1.0mg/dl,BUN 18mg/dl,貧血なし.PSP 31%(15分),75%(2時間),Ccr(24時間)120l/day.血圧158/98,蛋白尿(++)〜(+++),1.0〜2.0g/day.腎生検中等度メサンギウム増殖性腎炎.

152.慢性腎炎の食事療法と予後

著者: 折田義正

ページ範囲:P.2424 - P.2425

症例
 Y. S.,42歳,男性,体重55kg(身長162cm).
 19歳大学入試の際,蛋白尿を指摘された.以後無自覚のため放置していた.35歳のとき高血圧(160/130)を指摘され,某病院に入院した.BUN 30mg/dlと高値ですでに高窒素血症を呈していた.36歳阪大一内科受診,Cthio 39ml/ml,BUN 33.1mg/dl,血清creatinine 2.5mg/dlであった.このため腎生検は行わず,蛋白制限(50g),降圧療法を行い,白血球尿を認めるため,時にアンピシリンなど抗生剤を用いた.41歳(昭和57年)BUNなどやや悪化傾向にあり,蛋白制限を45gと強化し,経口必須アミノ酸製剤を服用させている.経過については図1を参照.この間6年間著しい腎機能低下はみられていない.

153.再発をくり返す微小変化型ネフローゼの治療

著者: 牧淳

ページ範囲:P.2426 - P.2427

症例
 10歳(昭和44年3月当時)の男児.昭和35年7月29日,37.8℃の発熱があり,近医を受診し,検尿で蛋白尿を指摘された.2〜3日後から乏尿,浮腫が出現し,8月4日,K大学病院を受診し,ネフローゼ症候群(以下,ネ群と略)と診断され,ステロイド剤(以下,ス剤と略)療法を受けて寛解し,10月22日にス剤を離脱して退院した.しかし1ヵ月後に再び尿蛋白が出現し,H大学病院に入院して腎生検を受け,微小変化型と診断された.その後,今回(昭和44年3月)の受診まで7回の再発をくり返している.筆者が再腎生検を施行したところ,組織像は今回も微小変化型であった.

154.ステロイド無効なネフローゼ症候群の治療

著者: 榛沢進 ,   大野丞二

ページ範囲:P.2428 - P.2429

症例
 44歳,女性.下腿浮腫と高血圧(200/120mmHg)を主訴に来院.尿蛋白690mg/dl(14.3g/日),尿沈渣にてごく軽度の赤血球および顆粒円柱を認める.T-p 4.9g/dl,alb. 2.1g/dl,T-chol 330mg/dl.腎機能正常範囲内.腎生検組織型は増殖性糸球体腎炎を呈した.一次性ネフローゼ症候群(ネ症)の診断のもとに降圧剤(α-methyldopa 250mg)とprednisolone 60mgを投与した.以降prednisolone漸減療法を行い,途中より免疫抑制剤のcyclophosphamideを併用するも蛋白尿は減少せず,以下の薬物療法を施行した.
 図のごとく7月4日より抗血小板薬であるdipyridamole(Persantin®,Anginal®)300mg投与したところ,蛋白尿は7〜8g/日と半減した.しかし約1ヵ月後には再び蛋白尿増加を示したため,9月25日より非ステロイド性消炎薬のmefenamic acid(Pontal®)を750mgより投与した.mefenamic acid投与後より蛋白尿は減少し,投与2ヵ月以降は2〜3g/日と著明な減少を示し,その後も安定した経過をたどっている.

155.高齢者ネフローゼ症候群の治療上の問題点

著者: 加藤暎一

ページ範囲:P.2430 - P.2431

症例
 81歳の男子医師,特記すべき既往なし.昭和46年1月下旬より感冒様症状出現,2月初めより浮腫,蛋白尿を認め,自分でネフローゼ症候群(以下ネ症と略)と診断し,副腎皮質ホルモン6錠を服用しながら診療を続けるも改善なく,浮腫増強,2月上旬当院内科に入院,食事療法および安静のみにて10日間で15kgの体重減少を伴う浮腫の改善を認めた.蛋白尿は3.5g/日から0.9g/日へ,血清コレステロールは553mg/dlから270mg/dlへわずか3週間で減少して退院した.入院中時々回盲部痛を認めたが,X線上軽度通過障害のみ.その後約1年間はほぼ完全寛解に近い状態.昭和47年4月下旬より再燃を認め,5月よりステロイド(PSL30mg)投与を開始,再び蛋白尿の減少がみられた.同年10月下旬回盲腫瘤が発見され,11月下旬死亡した.剖検で盲腸原発の腺癌およびその肝転移,周囲組織への浸潤,膿瘍形成がみられた.腎は両側それぞれ180gに腫大,糸球体は電顕的検索を行っていないが,HEおよびPAM染色でみる限りminimal changeで,その他軽度の細小動脈硬化と,末期に加わったと思われる急性尿細管壊死像がみられた.

156.IgA腎炎の血尿型およびネフローゼ型の治療

著者: 中本安

ページ範囲:P.2432 - P.2433

IgA腎炎の血尿型
症例
 22歳男性(学生).4年前に上気道感染に引続いて肉眼的血尿を呈した既往があり,以後定期健診で尿蛋白は陰性か軽度陽性であったが,顕微的血尿が持続していた.今回,3日前より発熱,咽頭痛が出現し,翌日暗赤色の肉眼的血尿を呈した.入院時,化膿性扁桃炎を認めたが,高血圧・浮腫なく,ASO価,腎機能は正常であった.腎生検でIgA腎炎を確認した.光顕像は26個の糸球体を含み,軽度のび漫性メサンギウム増殖性腎炎像に加えて,3個に分節状の硬化・癒着,2個に分節状の新鮮な小壊死巣を示した.また2〜3の近位ないし遠位尿細管に赤血球円柱を認めた.

157.再発をくり返す慢性腎盂腎炎の治療

著者: 小磯謙吉 ,   菊池孝治

ページ範囲:P.2434 - P.2435

症例
 28歳,女性.13歳時,2回急性腎盂腎炎に罹患し,薬物療法にて軽快した.以後無症状の時期が続いたが,26歳時より年に3〜4回,39℃以上の発熱,腰痛,膀胱炎症状を伴う腎盂腎炎をくり返し,そのつど化学療法にて軽快していた.膀胱造影にて右の膀胱尿管逆流VUR(vesicoureteral-reflux)が見つかったため(図),逆流防止手術を施行した.その後外来にて経過観察中であるが,腎盂腎炎発作は見られない.

VIII.血液・造血器疾患 薬物療法のポイント

158.急性白血病の病型別の薬剤の選択と使用法

著者: 大島年照

ページ範囲:P.2438 - P.2439

 症例
 患者:41歳,女性.急性骨髄単球性白血病.
 主訴:腰痛,動悸
 現病歴:1980年10月より腰痛,感冒様症状をくり返し認め,さらに全身倦怠,動悸,息切れが出現.12月3日当科受診し入院.
 現症:体温37.5℃,体表面積1.4m2,眼瞼結膜貧血状のほか所見なし.

159.悪性リンパ腫の病型別の薬剤の選択と使用法

著者: 坂野輝夫

ページ範囲:P.2440 - P.2441

治療開始前における予後因子の検索
 Hodgkin病とnon-Hodgkinリンパ腫では,生物学的特性に相違が認められる.治療に際しては,あらかじめ表1に示される予後因子を検索し,すみやかに治療の選択がなされることが最も重要である.

160.白血球(とくに顆粒球)輸血の適応と実際

著者: 川越裕也

ページ範囲:P.2442 - P.2443

 悪性腫瘍や白血病などの悪性疾患の顆粒球減少で合併した感染症において,抗生物質を使用しなければ,顆粒球輸血が有効とされている1).しかし最近の強力な抗生物質の相次ぐ開発により,これらの併用療法のみでも顆粒球減少による感染症の70〜80%前後を治療させられる.そのため,かかる抗生物質の投与に顆粒球輸血を行う必要があるか,その有効性についても問題とされている.一方,相次ぐ成分採血装置の開発により,これらを用いた顆粒球輸血の有用性が示されてきている2)

161.血小板輸血の適応と実際

著者: 塚田理康

ページ範囲:P.2444 - P.2445

 血小板減少症,血小板機能異常症に見られる出血素因に対し,確実な止血が望める支持療法として血小板輸血が行われており,成分輸血の普及とともに,その輸血量,輸血頻度は急増を示している.その乱用を防ぐためには,血小板輸血の適応,輸血量,血小板同種抗体の出現について十分な知識を具えておくことが必要である.

162.抗血小板剤の適応と使用法

著者: 降旗謙一 ,   安藤泰彦

ページ範囲:P.2446 - P.2447

 種々の血栓症や動脈硬化症は,いったん完成されると治療が困難であり,予防的治療が望ましい.近年.これらの疾患や病態の発生および進展に血小板が関与することが明らかになるにつれ,抗血小板療法が注目を浴びてきた.抗血小板剤は,経口抗凝固剤に比較し重大な出血を引き起こすことが少なく,検査による投与量の調節も不要で長期間の投与が容易であるが,一方,有効性に関する評価が必ずしも一致せず,また長期間の投与で他臓器に及ぼす影響にも疑問があり,今後の検討が必要である.

問題となるケースの治療

163.難治性再生不良性貧血の免疫抑制療法

著者: 高橋隆一

ページ範囲:P.2448 - P.2449

 再生不良性貧血(再不貧)の治療に蛋白同化ホルモンが使用されて,約半数の症例において効果が認められているが,その効果が一過性であったり,まったく無効であったりするため,治療に難渋する症例が未だに少なくない.最近,かかる難治性再不貧症例に対して骨髄移植とともに免疫抑制療法が試みられ,有効例が報告されて注目されつつあるので,その現況について述べてみたい.

164.難治性ITPに対する免疫グロブリン療法

著者: 寺田秀夫

ページ範囲:P.2450 - P.2452

症例
 <症例1> 52歳,既婚女性.
 主訴:紫斑,歯肉出血,頭痛.

165.非定型性白血病

著者: 川戸正文

ページ範囲:P.2454 - P.2455

 非定型性白血病(以下非定型例)の診断基準は明確でないが,smoldering acute leukemia(SAL),hypoplastic leukemia(HL),low-percentage leukemiaは診断基準が比較的明確なので非定型例とされることが多い1).また最近では,refractory anemia with an excess of myeloblasts(RAEM)が白血病の周辺疾患として注目され,SALと同様の病態とする考えもある.これら非定型例の治療法は確立されていないが2〜4),その病態の特異性などからどのように治療すればよいか,自験例や本邦での治療成績を参考にして述べてみたい.

166.成人T細胞性白血病,悪性リンパ腫

著者: 市丸道人 ,   木下研一郎

ページ範囲:P.2456 - P.2458

 現在,成人T細胞性白血病,リンパ腫(Adult T-cell leukemia/lymphoma,ATLL)という名称は2つの使われ方がある.その1つは当初から成人T細胞性白血病(ATL)としてとり扱われたもの,すなわち末血が白血病性であるものを,悪性リンパ腫としての性格も兼ね具えているためにATLLと称するものと,非白血性のT細胞性非ホジキンリンパ腫で病因的にATLと同じ(ATLV-ウイルス)と考えられるものを合せてATLLと呼ぶ場合である.
 本稿では後者の考えに準じてATLLの名称を用いるが,ATLLをATLとT-MLに分けて使用することにする.すなわち,この場合ATLV感染を基盤としたもので白血性のものをATL,非白血性のものをT-MLと考えて差支えない.

167.中枢神経白血病

著者: 藤本孟男

ページ範囲:P.2460 - P.2461

症例
 10歳,女児の急性リンパ性白血病(ALL)で,4年間の完全寛解後に中枢神経(CNS)白血病を発症した.methotrexate(MTX)15mg/m2とhydrocortisone(HDC)50mg/m2の週2回髄注(合計4回)に続き,頭蓋に2,400radsの放射線照射と6週毎のMTX,HDCの髄注によりCNS-寛解を続けていた.1年後に急激な体重増加(88kg),無月経,頭痛が生じ,CNS-白血病が再発した.著明な肥満のため腰椎穿刺がきわめて困難であった.

他科との関連

168.悪性リンパ腫の放射線療法—適応と化学療法剤併用の必要性

著者: 真崎規江

ページ範囲:P.2462 - P.2463

 悪性リンパ腫の治療成績は,過去20年の間に急速に向上し,多数の治癒症例が得られるようになった.病理組織分類,病期分類が体系化され,それぞれの症例に適正な治療法(放射線治療,化学療法,あるいはその併用)が検討されたことによる.
 放射線治療に関しては,腫瘍部分に対して適切な線量(多くの場合4,000rad以上)が与えられれば,この部分に関しては95%以上の完全寛解,および90%以上に長期間にわたる,あるいは半永久的な局所制御が得られることが確認されている.しかし,全身疾患の様相を示す症例については,化学療法が必要で,放射線と化学療法との併用によって,より効果的な治療がなされる.

特殊な治療法

169.白血病の免疫療法

著者: 山田一正 ,   中村博行

ページ範囲:P.2464 - P.2465

 Nocardia rubraの細胞壁骨格(N-CWS)は山村,東ら1)によりその生化学的,免疫学的性状が明らかとされ,種々の実験腫瘍系において抗腫瘍効果を誘導することを示した.筆者らは2,3,4)成人急性骨髄性白血病に対してN-CWSを用いた免疫化学療法の共通プロトコールを作成し,無作為割付け法による比較対照試験を行い,寛解期間と生存期間を指標にその効果を検討した.

170.骨髄移植の適応と実際

著者: 服部絢一

ページ範囲:P.2466 - P.2468

 同種骨髄移植は再生不良性貧血,白血病および先天性免疫不全症などに対し,世界で既に4,000例以上行われ,長期生存率も50〜80%の好成績を示し,難病克服の第一選択の治療法となっている.また固型癌に対する自家骨髄移植もその高い安全性から世界的に普及する傾向にある.ここではその適応と実際を述べる.

IX.代謝・栄養障害 問題となるケースの治療

171.食事療法の続けられない肥満患者の対策

著者: 片岡邦三

ページ範囲:P.2470 - P.2471

 減食療法を守れば必ず体重減少が得られるはずだが,実際には正常体重までの減量は容易ではない.筆者らの外来に肥満の治療を希望して来院した480例のうち,4kg以上減少したものは49.0%,正常体重範囲となったものは18.2%に過ぎない.まず初診の段階で約半数が脱落し,以後来院しないのである.肥満者の多くは安易でしかも効率的な特殊の減量法を期待して来院するのであろうが,減食療法しかないときいて落胆する.彼らは何度も減食に挑戦しては失敗した経験を持つからであろう.つまり,やせようと思う強固な意志に欠けるのである.減食療法を続けられない患者には,医師の熱心な指導ばかりでなく,周囲の温かい理解と励ましが必要であり,定期的に通院させて,本人にやる気を出させることがもっとも大切である.以下経験にもとづいた2,3の対策について述べる.

172.食事療法だけでは改善しない高脂血症

著者: 花井尚志

ページ範囲:P.2472 - P.2473

 血中の各脂質分面は,血中で単独で存在するのではなく,アポ蛋白やアルブミンと結合し,巨大な分子量をもつリポ蛋白として存在するため,脂質代謝の研究は比較的遅れていた.1965年Fredricksonらが,Chylomicron,Pre-β-,β-,α-リポ蛋白の4つのリポ蛋白から高脂血症を5つの型に分類することを提唱した1).その後リポ蛋白の研究・治療が急速な進歩をとげたが,まだ高脂血症の十分な解明はなされてはいない.とくに治療に関しては,食事療法の重要性が大きい反面,薬物療法にはこれといった決め手となる薬物がないといっていい現状である2)

173.高脂血症と糖尿病を合併した先端巨大症

著者: 村勢敏郎 ,   高久史麿

ページ範囲:P.2474 - P.2475

症例
 20歳の女性で,5年の経過をもつ活動性先端巨大症の患者である.4カ月ほど前から口渇,多飲,多尿の糖尿病症状が発症して入院となった.身長167cm,体重57kgで,理学的に先端巨大症による症状が明らかであった.視野狭窄はなく,眼底ではlipemia retinalisが認められた.トルコ鞍は拡大し,血中成長ホルモン(GH)濃度は80ng/mlと著しく高く,空腹時血糖値も300mg/dlと著明に高値であった.血清は乳び状に白濁し,血清トリグリセライド(TG)値は5,694mg/dl,コレステロール値は493mg/dl,血清を4℃に48時間放置したところ上層にクリーム層の浮上を認め,高脂血症V型と診断された.ヘパリン(10単位/kg体重)静注後のリポ蛋白リパーゼ(LPL)活性はほとんど検出できなかった.
 入院後の経過は図に示すとおりである.インスリンの補充と食事療法とにより,血清TG値は500mg/dl程度に改善されたが,血糖値はラピタード・インスリン48単位を使用しても十分なコントロールがえられなかった.2カ月後に下垂体腫瘍の摘出手術をうけたが,術後もGHの高値は持続した.血糖はインスリンの補充を行わずに良好なコントロールがえられるようになったが,血清脂質についてはなおTG500mg/dl程度の高脂血症が持続した.

174.赤血球350万以下,Hb10g以下で瀉血療法ができないヘモクロマトージス

著者: 伊藤健次郎 ,   吉川治 ,   座光寺正治 ,   木村之彦 ,   林洸洋

ページ範囲:P.2476 - P.2479

 赤血球350万以下,ヘモグロビン10g/dl以下で瀉血療法ができないヘモクロマトージスに対する治療をいかにするかという問題であるが,かかる疾患あるいは病態の発生に関して,まず解説を加えた後に,治療について述べることにしたい.

175.血清尿酸値正常で痛風発作を頻発するとき

著者: 佐々木晶子 ,   西岡久寿樹

ページ範囲:P.2480 - P.2481

症例1
 患者:53歳,男性,会社員.
 主訴:多発性関節痛.

176.二次性高尿酸血症

著者: 中村徹 ,   加川大三郎

ページ範囲:P.2482 - P.2484

症例
 45歳,男子.15年前に血尿を来たし急性腎炎の診断で治療を受けた.その後,尿蛋白が消失せず,感冒時増悪を指摘されて来院.2年前,拇趾趾根部に痛風の急性関節炎発作を来たし,以後,年に2〜3回発作を来たしている.初診時血清尿酸値(SUA)9.5mg/dl,BUN 60mg/dl,尿蛋白陽性,沈渣に赤血球,円柱,腎上皮を中等度認める.尿中尿酸排泄量(UUA)0.29mg/kg/hr,尿酸クリアランス(CUA)2.9ml/min,クレアチニン・クリアランス(Ccr)21.0ml/min,クリアランス比(R)13.8%で,排泄低下型高尿酸血症を示し,血圧190/110,左室肥大を認めた.低蛋白食,低プリン食摂取および食塩摂取制限を指示し,benzbromarone(Urinorm®)2錠.服用によりSUAは5.6mg/dlに低下した.以後2年間関節炎発作は来たしていない.なおthiazideの併用により血圧160/100近傍にコントロール中.

177.最近みられるビタミン欠乏症

著者: 橋詰直孝

ページ範囲:P.2486 - P.2487

ビタミン欠乏症の現況1)
 今日では栄養欠乏症よりも過剰症が問題とされている時代であるが,ビタミン欠乏症としてB1欠乏症である脚気,ウェルニッケ脳症,B2欠乏症,ニコチン酸(ナイアシン)欠乏症であるペラグラ,B6欠乏症,内因子障害に伴うB12の吸収障害によっておこる悪性貧血,C欠乏症である壊血病,A欠乏症,D欠乏症であるクル病(小児の場合)および骨軟化症(成人の場合),さらにビタミン依存症であるB1依存性楓糖尿病,B6依存症,D依存症,先天性代謝異常に基づくと考えられている葉酸吸収不全,Hartnup病,K依存性出血素因などが今日でも存在している.
 これらの疾患のうち,食事中のビタミン不足によりおこる一次性ビタミン欠乏症で頻度の高いのは脚気,ペラグラ,ウェルニッケ脳症である.これらの3つの症患の誘因として共通しているのはアルコールである.わが国のアルコール需要量が急増している今日,これらの疾患は無視できない.昭和49年頃脚気が再燃した当初,まさかいまどき脚気がと思い,他の疾患を考えていたし,ウェルニッケ脳症やペラグラは中枢神経障害を来たすので,単にアルコール性精神病として片付けられていた症例を経験した.ビタミン欠乏症は診断がつけば治療は容易である.すなわち,ビタミン欠乏症の治療のポイントは診断をつけることである.

178.偶発低体温

著者: 岡田道雄

ページ範囲:P.2488 - P.2489

症例
 35歳,女性.4日間欠勤し,布団上にパジャマ姿で倒れているのを発見された(12月26日).体格中等.半昏睡.直腸温27.0℃.脈拍80/分,不整(心房細動).血圧測定不能.血糖400mg/dl以上.ケトン体2+.pH 6.863(補正前6.713),Pao2 77.6(112.0),Paco2 11.6(18.0),BE-35.6.血清アミラーゼ1,040Somogyi単位.人工膵を使用し,passive rewarming法により治療.体温は10時間後には回復.R.I 1単位あたりの血糖降下度は3.95mg/dl/Uと通常の5分の1に低下していた.1月24日軽快退院.

糖尿病治療のポイント

179.血糖自己測定は有効か

著者: 穴沢園子 ,   松岡健平

ページ範囲:P.2490 - P.2491

 糖尿病の慢性合併症の発生,進展を抑えるためには長期間にわたって血糖コントロールを良好に保つことが必要とされている.血糖の変動を正しく把握することと,これに対応して食事内容とインシュリン用量をきめ細かく調節することの2点は,血糖正常化への車の両輪ということができる.

180.老齢糖尿病患者をどこまでコントロールするか

著者: 島健二

ページ範囲:P.2492 - P.2493

 糖尿病治療の目的は代謝異常を是正することにより,自覚症状を軽減し,合併症の発生を予防,その進展を阻止することにある.老齢者糖尿病といえども治療目的はなんら変わるところはない.ただ老齢患者の場合,その後の生存期間が短いため,進展にある期間を必要とする合併症に,それほど注意を払う必要がない.さらに薬物治療に際して,副作用発現頻度が青壮年患者に比較して高く,また一度副作用が発症すると重篤な後遺症を残すため薬剤使用に際してより慎重であらねばならないなどの事実が,老齢糖尿病患者をコントロールする際,どの程度までなされるべきか,などという問題を提起せねばならないもとになっている.自覚症状があれば,老齢者といえどもこれを除去すべく十分治療がなされねばならないことは当然である.
 また,老齢糖尿病患者と称しても,対象の内容はかなりheterogenousである.

181.アルコール飲料の許容量

著者: 石垣健一

ページ範囲:P.2494 - P.2495

〈症例1=成功例〉
 43歳,女,ホステス.レンテインスリン20単位投与中に,アルコール過飲(1日に清酒約7合)により,空腹時血糖78〜288mg/dlと不安定となり,糖尿病性網膜症と神経障害を併発.クラブを辞め,デパートの店員に転職し,酒量を1日1合まで減らした結果,レンテインスリンは8単位となり,病状は著明に好転した.

182.筋肉労働者,運動選手,日差のある職業従事者の食事処方

著者: 泉寛治

ページ範囲:P.2496 - P.2497

 糖尿病患者は血糖をコントロールし,その日内変動を正常に近づけることにより合併症,ことに細小血管障害の進展を防止することができるといわれている1).労働量,運動量の多い場合,日差のある場合には血糖コントロールがむずかしく好ましくない職業とされている.筆者らが若年糖尿病者の就職についての討論会をもったとき,自分の好む職種をえらんだ血糖コントロールに努めたいという意見が多かった.相撲力士にも糖尿病のあるものが多いが職業を選んだ後の発病で,糖尿病の発現で職種を変えるわけにいかない場合もある.小児糖尿病でインスリン治療をしているテニス選手が,試合時に20分毎に角砂糖をとりながらテニスに励み,チャンピオンを獲得したということも知られている2)
 労働量,運動量により必要なエネルギー量のおおよその算定方法はあるが,細目にわたっての所要エネルギー量を知ることが難しい.

183.レンテ食品(可溶性食物線維)の食事療法令の応用

著者: 土井邦紘

ページ範囲:P.2498 - P.2500

症 例
 患者:62歳,男性,元小学校教師.
 主訴:体重減少.

184.運動療法の決め方・すすめ方

著者: 鈴木裕也

ページ範囲:P.2502 - P.2503

 糖尿病に対する運動の効果は,糖質代謝,脂質代謝の改善のみならず,心肺機能の増加,筋肉保持,精神面の充実など多岐にわたり,患者の健康生活維持に役立つものでなければならない.運動療法は,単に食べ過ぎた分を運動で消費するという目的で行うものではない.

185.妊娠・出産・分娩の指導

著者: 井出幸子 ,   池田義雄

ページ範囲:P.2504 - P.2505

 糖尿病婦人における妊娠・出産・分娩には種々の問題のあることが知られている.母体側では,①妊娠そのものが胎盤由来のホルモンや末梢組織のインスリン抵抗性の増大,そして脂質代謝の亢進などにより催糖尿病的に働くこと,②妊娠を契機に糖尿病性細小血管障害の進展増悪がみられるなどがあげられる.一方,胎児にまつわるトラブルとしては,①羊水過多,②胎盤機能不全,③子宮内・周産期死亡,④奇形,⑤巨大児,⑥新生児低血糖症などが報告されている.このため,糖尿病婦人の妊娠を成功に導くための方法としてJovanovic1)は,高血糖に代表される糖代謝異常の是正,すなわち血糖正常化の重要性を強調している.
 現在,血糖が変動しやすい糖尿病妊婦の血糖を正常化する手段として血糖の自己測定(self-measurement of blood glucose:SMBG)と,その血糖変動を正常範囲にコントロールするためのインスリンの分割混注が高く評価されている.

186.尿糖陽性となった妊婦の処置

著者: 大森安恵

ページ範囲:P.2506 - P.2507

症例
 妊娠時尿糖陽性で2回の新生児死亡を経験したことのある糖尿病妊婦
 患者:30歳,主婦.来院時目的:生児を得たい.

糖尿病の薬物療法

187.ヒトインスリン製剤の適応と利点

著者: 松田文子

ページ範囲:P.2508 - P.2509

 ヒトインスリン製剤は,①ブタインスリンを材料として,B鎖C末端のアラニンをスレオニンに化学的に置換して作られたもの(半合成ヒトインスリン,Semisynthetic human insulin=SHI)と,②遺伝子工学手法で大腸菌内プラスミドに合成ヒトインスリン遺伝子を組み入れて合成されたもの〔Human insulin(recombinant DNA=HI(rDNA)〕とがある.現在わが国では両製剤ともブタインスリンとの二重盲検比較試験が実施されている段階で,製品としての発売は許可されていない.
 インスリンアレルギー,インスリン抵抗性の患者に使用を希望する場合は,手続きを経た上で,これらヒトインスリン製剤の提供をうけて治験することができる.SHIはノボ薬品,HI(rDNA)はシオノギ製薬が取り扱っており,製剤はそれぞれNovo(デンマーク),Eli Lilly(USA)からの提供である.わが国ではSHIについてはHM研究会,HI(rDNA)についてはS3300研究会がその治験にあたっている.

188.CSIIの使用上の注意

著者: 野中共平 ,   難波光義 ,   嶺尾郁夫

ページ範囲:P.2510 - P.2512

症例
 H. H.,62歳,女.
 入院目的:CSII(持続皮下インスリン注入療法)開始のための教育入院.

189.静脈栄養より経口摂取に切り替える際のインスリン投与法

著者: 北村信一

ページ範囲:P.2514 - P.2515

症例
 35歳,男性.罹病13年の糖尿病患者で,身長169.5cm,体重66kg.網膜症(Scott II b),腎症(常在性蛋白尿++〜+++.血清蛋白濃度7.2g/dl,血液尿素窒素27mg/dl,クレアチニン1.4mg/dl)および神経障害(ASR消失,起立性低血圧あり)を合併している.1,600kcalの糖尿病食とNPHインスリン10単位で治療し,空腹時血糖値103〜133mg/dl,ヘモグロビンA110〜11%,尿糖1日量1〜2gにコントロールされていた.
 昭和58年1月30日夕食後に胃部不快感と嘔吐あり,以後,食思不振,嘔気が続き摂食不十分となり,自分でインスリン注射を中止.2月4日入院時の血糖365mg/dl,尿アセトン体(+),胃X線撮影でバリウムの排泄遅延を認め,軽いケトアチドーシスを伴う糖尿病性胃症と判断,禁食とし経静脈栄養補給と速効性インスリン分割注射を開始した.

190.交替勤務者,海外旅行者のインスリン処方

著者: 石渡和男

ページ範囲:P.2516 - P.2517

交替勤務者のインスリン処方
症例
 症例1は28歳のナースで,勤務時間と食事時刻の関係は表1のようである.昼食は12時に一定しているが,朝食と夕食は勤務によって1〜2時間ずれる.しかし深夜明けでも昼にはおきて食事をとっている.食事は1,500kcal,朝夕の食前に計20Uのインスリンを注射している.不安定型でFBSは54〜297mg/dlの間を動揺し,時に低血糖をおこす.HbA1は9.2%.コントロールは良好である.健康で元気よく働いているが,本人はこういう生活は長くは続けられないといっている.

191.肝機能異常を有する症例へのSU剤投与

著者: 奥野巍一

ページ範囲:P.2518 - P.2519

SU(Sulfonylurea)剤投与の条件
 本邦でSUが糖尿病治療に登場して既に1/4世紀以上を経過するが,正しく使われるならば,その臨床的有用性に疑いをもつ者はいない.ちなみに昭和57年の当院通院糖尿病約200例のうち内服剤投与例は56%にのぼる.しかし内服剤はインスリンと異なり,投与にあたっては種々の考慮が必要である.
 投与の適応と禁忌は今日ほぼ明確にされている.要約すれば適応は40〜30歳以上発症,軽症(空腹時血糖200〜250mg/dl以下)のII型(インスリン非依存型)糖尿病で,体重は標準〜軽度肥満,罹病期間は通常5年以内位,過去のインスリン使用量は1日20単位以下位である.

糖尿病合併症の治療

192.低血糖に対する指導・処置

著者: 陣内冨男

ページ範囲:P.2520 - P.2522

 低血糖とは血糖値の比較的急激な低下や血糖値の生理的下限よりさらに低下した状態をさす一つの症候群であり,この状態は早急な処置がなされないと,さらに悪化し,低血糖昏睡を生じ,進行すると呼吸麻痺を起こして死の転帰をとる.死亡するまでには至らなくとも低血糖状態が遷延すると病態は不可逆的となり後遺症を残し,低血糖昏睡から覚醒した後にも意識障害,精神障害,麻痺などをみるようになる.一方,早期に発見し,適切な治療を行うことにより,何の障害も残さずに低血糖昏睡より回復させることができる.
 今日その危険性の高いものは糖尿病治療中の内服血糖降下剤使用者およびインスリン使用者であり,重症低血糖の起こる頻度も最も高いといわれている.

193.ケトアシドーシス

著者: 梶沼宏

ページ範囲:P.2524 - P.2525

症例
 30歳男性(78-0213),会社経営.
 29歳糖尿病発症,Lente insulin 26Uを注射してきたが,感冒と過労からコントロールを乱して入院.朝 Lente insulin 40UとActrapid insulin 10U,夕 Lente insulin 10Uを注射したが,第8病日夜心窩部痛と悪心を訴え,嘔吐した.翌日の早朝空腹時血糖352mg/dl,尿アセトン体(+++),動脈血pH7.165,Paco231.0mmHg,CO2含量11.6mM/L,Base Excess-16.7mEq/L,K5.2mEq/L.糖尿病性ケトアシドーシスと診断して輸液および少量インスリン持続注入療法を開始した(図).血糖が200mg/dlに近づいたところで生理食塩水からSolita T3に代え,インスリンの持続注入を中止し,皮下注射に切り替えた.この6時間に使用したインスリン総量は36U,輸液量は3,000mlであった.Ht,電解質などはいずれも改善し,動脈血pHも翌朝は7.380となった.治療開始前高値を示した血中グルカゴン(IRG),cAMP,成長ホルモン(HGH)などは治療によりいずれも正常化した.舌も湿潤し,皮膚の乾燥もとれ,脱水状態から回復した段階で撮影した胸部X線写真で肺結核が発見された.この間の事情についてはすでに紹介した1)

194.非ケトン昏睡

著者: 河西浩一

ページ範囲:P.2526 - P.2527

症例
 男性,70歳.10年前から糖尿病に罹患していたが,自然食療法を開始し,それまで使用していた薬剤(インスリン1日4単位と血糖降下剤)を中止したところ,意識状態が悪化し,昏睡におちいった.
 体温38.7℃,血糖512mg/dl,尿ケトン体陰性,血漿浸透圧383mOsm/l,BUN 67mg/dl,血清Na158mEq/lであった.直ちに0.45%食塩水による輸液とアクトラピッドインスリン5単位/時間の持続静脈内注入療法を開始したところ,6時間後に血糖は300mg/dlとなり,意識が回復し,以後血糖は100〜200mg/dlに維持された.

195.光凝固が禁忌あるいは無効な網膜症

著者: 松井瑞夫

ページ範囲:P.2528 - P.2529

 現在,糖尿病性網膜症に対する光凝固療法は,本症に対する主要な治療の1つとなっている.しかし,光凝固療法自体が治療を目的としているとはいえ,レーザーという高エネルギーをもった集光性にすぐれた光線を用いて,網膜という再生能力のない神経組織が治療の場となっているので,その実施にあたっては慎重を期さねばならないことは当然である.
 すなわち,適応の決定を慎重に行い,さらに適応として実施するときにも慎重を期するということである.まず,第1の段階の適応決定の際には,禁忌となる病態を十分に理解しておくことと,光凝固が無効とされている病態を理解しておくことによって,有害なあるいは無益な光凝固を絶対に行わないことが肝要である.

196.神経障害に対してAldose reductase inhibitorは有効か

著者: 堀田饒 ,   角田博信 ,   坂本信夫

ページ範囲:P.2530 - P.2531

症例
 患者:61歳,男性.
 既往歴,家族歴:特になし,

197.四肢の激痛,激しいしびれ感

著者: 工藤守 ,   織田一昭

ページ範囲:P.2532 - P.2533

症例
 42歳,女性,T. S. 糖尿病罹病期間:約4年,抗糖尿病治療:インスリン,合併症:糖尿病性網膜症,糖尿病性自律神経障害.
 四肢の激痛,激しいしびれ感が約1年間出現しており,アキレス腱反射消失および知覚低下も認めた.その間ビタミンB1およびMethyl Cobalaminの経口投与を行い,あわせてIndomethacinの経口投与も実行したが効果を認めなかった.さらにCarbamazepine(テグレトール®)200〜600mg/日の経口投与を実施したが効果がなく,Diphenyl hydantoin(アレビアチン®)400〜600mg/日投与も試みたが効果を認めない.Fluphenazine maleate(フルメジン®)2.0mgを就床時服用,投与後2日目にて主訴消失を認めた.

198.激しい下痢

著者: 長崎明男

ページ範囲:P.2534 - P.2536

症例
 50歳,男子.家族歴・既往歴:特記すべきものはない.
 現病歴:10年前より糖尿病の診断で経口剤の投与を受けていたが,1年前より視力低下,両下肢のしびれ,1日3〜4行の下痢が出現するようになり,血糖コントロールも不良のため精査を兼ね東北大学第3内科に入院した.入院後,食事療法とインスリン療法により血糖のコントロールは比較的良好となったが,他の症状は不変で,とくに1日4〜6行に及ぶ水様性の下痢はむしろ増悪傾向にあった.

199.立ちくらみが激しいとき

著者: 姫井孟

ページ範囲:P.2538 - P.2539

症例
 54歳男性,糖尿病歴9年,増殖性網膜症,腎症(ネフローゼ型),神経障害を合併し,いわゆるTriopathyの状態で,両下肢知覚異常の他,心窩部膨満感,頑固な便秘を訴え,膀胱残尿800mlがあった.深呼吸負荷時の心電図上のR-R間隔最大変動幅1)は18.3msecと著しく減少し,副交感神経機能の障害が示唆されたが,顔面,両下肢に浮腫があり,廊下の歩行困難を訴え,起立時あるいは夜間放尿時に失神し,倒れることがある.横臥位血圧188〜110mmHg,立位血圧102〜70mmHgであった.

X.内分泌疾患 薬物療法のポイント

200.抗甲状腺剤の適応と使い方

著者: 雪村八一郎 ,   山田隆司

ページ範囲:P.2542 - P.2543

症例
 43歳,女性.2カ月前より手指振戦,体動時の動悸.発汗が生じ,食欲は亢進したが体重が78kgから60kgに減少したため来院した.
 脈拍120/分整,血圧140-60mmHg.発汗が強く,舌,手指に振戦を認める.眼球突出はないがMöbius徴候,Graefe徴候ともに陽性で,甲状腺腫をIIIびまん性軟に触知した.心音の亢進を認めるが,心拡大なく浮腫もない.甲状腺腫,頻脈,眼症状から甲状腺機能亢進症と診断した.このときの血中サイロキシン(T4)値は20.4μg/dl,トリイオドサイロニン(T3)値は486ng/dlと異常高値1)を示し,抗甲状腺抗体は陰性で,TRH試験2)では甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌反応を認めなかった.ヨード摂取率は48%(4時間値)と増加していた.治療経過を図に示した.

201.甲状腺ホルモン剤の使い方と指標

著者: 稲田満夫

ページ範囲:P.2544 - P.2545

 甲状腺ホルモン剤は,主として,甲状腺機能低下症の補充療法に用いられる.その投与方法,投与量は,従来,経験に基づくものであったが,甲状腺ホルモン代謝の最近の知見より,理論的な裏付けがなされるようになっている1,2)
 本稿では,原発性甲状腺機能低下症に対する合成T4製剤の投与維持量,投与方法および効果判定の指標について概説する.

202.副腎皮質ホルモンによる代償療法とその副作用

著者: 宮地幸隆

ページ範囲:P.2546 - P.2547

症例
 MO,34歳,主婦,診断:アジソン病.
 全身倦怠感と1〜2年間で6kgの体重減少を主訴に来院した.2年前より月経がなくなり,徐々に体重減少と全身倦怠感が出現し,胸部痛と後頭部痛を認めた.結核の既往はなかったが,家族歴で叔母が肺結核に罹患している.

問題となるケースの治療

203.バセドウ・クリーゼ

著者: 飯野史郎

ページ範囲:P.2548 - P.2551

症例
 40歳,男子,会社員.主訴は高熱と意識障害.約1年前にバセドウ病と診断され,抗甲状腺剤治療を受けたが,症状軽快したとして約3カ月で中止.最近,るいそう,心悸亢進,手指振戦高度となり,約1週間前から下痢が持続,3日ほど前から発熱39℃に及び,昨夜より意識混濁して来院となった.
 身長160cm,体重42kg,脈拍150/分,不整,血圧110/52mmHg,譫妄状態,発汗高度,体温40℃,眼球突出(+),甲状腺腫,大,びまん性,弾性軟,心軽度拡大,腹部;肝1横指触知,下肢浮腫軽度,反射亢進,病的反射(-),検査上,心電図で洞性頻脈,心室性期外収縮(+),RBC 420×104,WBC 12,000,Hb 13.5g/dl,Ht 44%,総コレステロール 90mg/dl,Al-P 22.1K-Au,遊離T4 17ng/dl,T4 25.5μg/dl,T3 760ng/dl,T3 uptake 60%(35〜45%),TBG 12μg/dl,TSH<1μU/ml.

204.粘液水腫昏睡

著者: 仁瓶禮之

ページ範囲:P.2552 - P.2553

症例
 62歳,女性.主訴:昏睡.既往歴,家族歴:特記すべきことなし.
 現病歴:5年前から体重増加,息切れがあり,近医にて心不全としてときどき治療を受けていたが,昨年秋頃から耐寒性低下,記憶力減退,無気力となり家に閉じこもりがちとなった.1月中旬頃から,傾眠傾向が出現.2月初め,朝食時,覚醒しないで,救急車で来院した.

205.神経性食欲不振症

著者: 末松弘行

ページ範囲:P.2554 - P.2555

症例
 19歳,女子,学生.中学までは健康で45kg(153cm)あった.私立高校へ外部から入ったので,友人関係で悩み,またスマートな人が多いので,自分もそうなりたいと5月頃から減食をはじめたところ,6月には月経も停止した.高2では38kgになり減食はずっと持続して,大学入学時には33kgとなった.精神病院に入院したが,大学2年の時は,28kgとなって,当科を受診した.

術前・術中・術後の内分泌学的管理

206.副腎腺腫によるCushing症候群

著者: 出村博

ページ範囲:P.2556 - P.2557

症例
 35歳,主婦.3年前より精神障害,2年前より高血圧,筋肉痛,1年前より無月経,中心性肥満,多毛を生じCushing症候群の疑いで東京女子医大内科に入院.
 血圧 190/100mmHg,白血球数 10,000.尿糖(+)でブドウ糖負荷試験で血糖は糖尿病型.血清Na 146,K 3.2,C1 110mEq/l.8amの血清コルチゾール値 30μg/dl,ACTH値 10pg/ml以下.CRF負荷試験で血漿ACTH,コルチゾール値ともに無反応.尿中17-OHCS 15mg/日,17-KS 4.0mg/日,尿中遊離コルチゾール 750μg/日.デキサメサゾン抑制試験,メトピロン試験,副腎シンチ,CTスキャンなどにより,右副腎腺腫によるCushing症候群と診断された.

207.原発性アルドステロン症

著者: 河野剛

ページ範囲:P.2558 - P.2559

症例
 42歳主婦.昭和58年2月より誘因と思われるものなく,多飲,多尿,四肢の筋力低下をきたすようになり,某病院で高血圧(180/100mmHg)と低K血症(2.4mEq/l)を指摘され,精密検査の目的で同年4月28日京都大学医学部第2内科に入院した.入院後の諸検査成績は次の通りである.

208.褐色細胞腫

著者: 佐藤辰男

ページ範囲:P.2560 - P.2561

 症例
 26歳,主婦.入院1ヵ月前,妊娠35週目のとき,昼食後,急に頭痛が激しくなり,数分で落ち着いたが,夕方にも再び起こったため某産婦人科を受診した.そこで高血圧(210/120)と蛋白尿を指摘され入院したが,以後も日に4~5回,同様の発作が見られた.2週間前に2,810gの男子を分娩したが,その直後に痙攣発作を来たした.その後も発作性の頭痛と,それに伴う高血圧がみられるため,褐色細胞腫を疑われて当科に紹介され,転院した.

209.原発性副甲状腺機能亢進症

著者: 岡野一年

ページ範囲:P.2562 - P.2563

 原発性副甲状腺機能亢進症は,副甲状腺の過形成,腺腫または癌腫により副甲状腺ホルモン(以下PTHと略す)が自動的に過剰に分泌される病態であり,腺腫によるものが最も多い.高カルシウム血症,低リン血症,高カルシウム尿症,血中PTHの増加,血中1,25(OH)2Dの増加,腎尿細管リン再吸収率の低下,尿中cAMP排泄の増加などがみられる.
 原発性副甲状腺機能亢進症は,①頭蓋骨の骨密度低下や骨硬化,中手骨の骨膜下吸収を呈する線維性骨炎などの骨変化がみられるものを骨型,②尿路結石のみられるものを尿路結石型,③高カルシウム血症のみを呈するものを化学型と分類する.消化性潰瘍や膵炎が合併することもある.

新しい薬剤とその使い方

210.Bromocriptine

著者: 石橋みゆき

ページ範囲:P.2564 - P.2565

 bromocriptine(Parlodel®)は,先端巨大症とプロラクチン産生下垂体腺腫(プロラクチノーマ)の内科的治療剤である1).本稿ではbromocriptine療法の実際を紹介し,本剤による治療の適応と問題点,副作用について述べたい.

211.DDAVP

著者: 斉藤寿一

ページ範囲:P.2566 - P.2567

症例
 25歳,女子,3年前,突然に多尿を来たし,強い口渇を訴え多飲が持続するようになった.1日の尿量も8,000〜10,000mlに及び,精査加療のために入院した.水制限試験により,体重が3%減少した時点での尿浸透圧は75mOsm/Lと低値にとどまり,また高張食塩水負荷試験における尿浸透圧は最高58mOsm/Lであった.ピトレッシン10U筋注によるピトレッシン感性試験により尿浸透圧は544mOsm/Lにまで上昇,尿崩症の診断が下された.
 治療としてDDAVP(デスモプレシン)10μgの点鼻を1日2回,朝と夕に行うことにより,尿量は1日1,500ないし2,000mlへと減少した.

212.ヒト成長ホルモン

著者: 對馬敏夫

ページ範囲:P.2568 - P.2569

症列
 10歳男児,身長115cm(同年齢児平均より-3.5シグマ低い),体重25kg,分娩時に仮死があったという.生後2〜3年頃より身長発育の遅延に気づかれており,幼稚園,小学校を通じてクラスで一番背が低かった.ここ3年間の身長増加は7cmである.知能は正常で運動障害はない.体の均衡はよく保たれ奇形はない.骨年齢は5歳相当である.
 くり返し測定した安静時血中成長ホルモン濃度は1ng/ml以下であり,インスリン負荷試験およびアルギニン負荷試験に際して3ng/ml以上に増加しなかった.甲状腺機能および副腎機能は正常であった.

XI.免疫・アレルギー・膠原病 薬物療法のポイント

213.D-ペニシラミンの使用上の注意

著者: 小坂志朗

ページ範囲:P.2572 - P.2573

 ペニシラミンは金製剤とともに遅効性ではあるが,特異的抗リウマチ剤として,現在では非ステロイド性抗炎症剤と同様慢性関節リウマチ(RA)の治療に欠かすことのできない重要な地位を占めている.しかし本剤は一部に無効の症例や長期間使用中効力が減退するなどの問題点もあるが,最大の難点はその多彩で複雑な副作用にあり,治療上の大きな障壁となっている.本稿では,この副作用対策を中心に本剤使用上のポイントについてふれてみたい.

214.慢性関節リウマチのステロイド関節内注入

著者: 石川浩一郎

ページ範囲:P.2574 - P.2575

 慢性関節リウマチ(RA)におけるステロイド剤関節内注入の意義,適応,用法・用量のポイントおよび副作用とその留意点をのべる.

215.胃障害のある患者に対する非ステロイド性抗炎症薬の投与法

著者: 柏崎禎夫

ページ範囲:P.2576 - P.2577

 非ステロイド性抗炎症薬(非ス薬)は抗炎症のみならず,解熱,鎮痛の作用も有するため,その適応は各種の炎症性疾患から発熱や疼痛を呈する病態まで,広範囲に及ぶ.最近では抗血栓薬,抗蛋白尿薬などとしても使われ始め,適応はますます拡大し,非ス薬は今や日常診療で最も頻繁に処方される薬物の1つになっている.非ス薬は酸性と塩基性(ないしは非酸性)薬物に分類されるが,後者には抗炎症作用はほとんどなく,非ス薬といえば,もっぱら前者を指していると考えてよい.
 さて,このように広く使われている非ス薬の使用上の最大の難点は,いずれの薬剤も副作用として食欲不振,悪心,嘔吐,胸やけ,胃痛,胃重感などの胃障害を大なり小なりもっていることである.非ス薬の作用機序を考えれば,かかる副作用の出現は不可避的といってもよいだろう.すなわち,非ス薬はサイクロオキシゲナーゼ活性を阻害することによりプロスタグランヂン(PG)生合成を抑制する.したがって,胃壁でのPGの合成も当然抑制されるために胃粘膜障害が起こるわけである.非ス薬の胃障害を起こす機序はもちろんPG生合成の抑制だけによるものではなく,薬物そのもの,あるいはその代謝産物による粘膜局所の直接障害も無視できない.問題は,日本人では非ス薬による胃障害が出現しやすいことである.急性疾患の場合にはあまり問題となることは少ないと思われるが,慢性疾患に非ス薬を長期間服薬させるときに胃障害の出現防止の対策が重要になる.

216.気管支喘息に対する新しい化学的メディエーター遊離抑制薬の使い方

著者: 牧野荘平

ページ範囲:P.2578 - P.2579

症例
 患者は34歳の主婦.24歳頃に第1子出産後喘息を発症した.症状は夏期を除き通年性で梅雨期と秋期に増悪傾向を示した.1年前に来院し,アレルゲン検査で,ハウスダスト,ダニ,ブタクサに対する過敏がみられた.ハウスダストによる減感作療法を行い,呼吸困難,喘鳴の症状に対しては気管支拡張剤を連用することにより,日常生活はほぼ正常にできるようになったが,しばしば増悪を示して,ステロイド剤の1〜2週間の投与を必要としていた.3週前よりketotifen錠(1mg)を1日2錠を追加した所,1週間のうちに症状が改善し,ステロイド剤の使用,発作による救急外来の受診はなくなっている.

問題となるケースの治療

217.難治性慢性関節リウマチの治療方針(非ス剤,金剤,Dペニシラミン無効例)

著者: 吉沢久嘉

ページ範囲:P.2580 - P.2581

症例
 M. A.,女性,昭和14年生.
 昭和49年8月発病のRAで,非ス剤のみでは十分な効果がえられないため,50年9月よりプレドニソロン5mg投与しながら金療法を行った.金は一時有効であったが,蛋白尿のため中止した.53年金を再び試みたが無効のため,54年4月からDペニシラミン療法を行ったが,味覚障害のため使用不能であった.54年11月よりサイクロフォスファマイドを試みたところ,関節痛は徐々に軽減し,ス剤も1mgまで減量しえた.57年1月から休薬したところ,疼痛も増強してきたため,58年1月より再開している.

218.老年者の慢性関節リウマチ

著者:

ページ範囲:P.2582 - P.2583

症例
 68歳女性.59歳で体重減少と口渇から糖尿病と診断され,食事療法と経口剤内服でコントロールを受けている.
 60歳(半年後)に発熱,多発関節痛を訴え慢性関節リウマチと診断.62歳で関節炎増悪し入院.消炎鎮痛剤内服,金療法の他に副腎皮質ホルモンを内服し,症状軽快したため歩行訓練を行い退院.66歳で項部痛,めまい,嘔気のため入院.第1頸椎前方脱臼,軸椎歯状突起頭蓋内陥入(図1)と診断され,1カ月の安定臥床で軽快したため,頸椎固定用のカラーを装着して退院.67歳で軽い中枢神経血管損傷のため失語症となるも1カ月で完治し退院.

219.ループス腎炎—とくにネフローゼ型

著者: 長沢俊彦

ページ範囲:P.2584 - P.2585

症例
 29歳,男子.
 14歳のとき血小板減少症で発症し,その後蝶型紅斑,精神症状を呈したが,尿蛋白は陰性であったSLE症例.プレドニソロン(PSL)5〜15mg/日の維持量で上記諸症状は寛解していたが,22歳のとき蛋白尿出現し,23歳11月には尿蛋白1日30gとなり,ネフローゼ症候群を呈するようになった.TP 3.4g/dl,血清コレステロール 380mg/dl,BUN 52mg/dl,血清クレアチニン 2.5mg/dl.尿沈渣の赤血球数 10〜20/1視野.血清補体量の低下,血清抗DNA抗体と免疫複合体量の上昇が認められた.

220.ステロイド依存性気管支喘息のステロイド剤離脱

著者: 田村昌士 ,   北澤俊一

ページ範囲:P.2586 - P.2587

症例
 23歳女性.気管支喘息(中等症,発作型,非アトピー型).
 臨床経過と治療:3歳時発症.小学校入学時から毎日のように喘鳴ないし小発作がみられるようになった.抗原が不明なため,非特異的変調療法として金療法を12歳から開始した.また,同時期からprednisolone(プレドニン®)15mg/日内服を続けるようになった.

221.気管支喘息重積状態

著者: 可部順三郎

ページ範囲:P.2588 - P.2589

症列
 55歳の男子,医師.以前から時々軽度の喘鳴,呼吸困難があり,自分で気管支拡張薬の吸入,内服などを行っていたが,今回はなかなかおさまらないので6月17日某院に入院,毎日アミノフィリン(ネオフィリン®)2Aを500mlのブドウ糖に入れ朝夕2回点滴した.21日にはプレドニン®20mgを点滴に加え,デポ・メドロール®40mgを筋注,22日にも同量のステロイドとさらにハイドロコーチゾン100mgを3回管注した.しかし喘鳴呼吸困難はますます強く,酸素(41/m)をマスクで断続的に吸入,不眠のため疲労感つよく,21日夜よりダルメート®,ホリゾン®,アタラックス®,ドグマチール®,さらに塩モヒ1/2Aなどをつぎつぎと使用し,朦朧状態となった.動脈血ガスはpH 7.37,Pao2 78mmHg,Paco2 39mmHg(酸素下),白血球数14,800/mm3,赤血球数535×104/mm3,Hb 15.7g/dl,Ht 47%,脈拍数150〜160/分,血圧は160/80で奇脈が顕著,この状態で本院へ転院して来た.
 現症は起坐呼吸,喘鳴つよく,聴診で笛声音をきくが水泡性ラ音はみとめず,チアノーゼはない.胸部X線像に異常はみられない.

特殊な治療法

222.慢性関節リウマチ(RA)で手術療法が必要な場合

著者: 山本純己

ページ範囲:P.2592 - P.2593

両股関節痛による歩行障害をきたしたRA
症例
 39歳女性,RA.昭和44年左指関節に初発し,約2年後には多発性関節炎症状を呈するようになった.金療法などにより,一時は軽快していたが,昭和49年頃より症状が悪化し,最近では松葉杖歩行を行っている.RAの全身症状としては,多関節炎のほか赤沈1時間値40,RA2+,CRP2+,握力:右50,左60mmHgで,内服はボルタレン®3錠,メタルカプターゼ®1錠使用中である.両股関節のX線像を図1に示す.

223.自己免疫病の血漿交換療法

著者: 僑本博史

ページ範囲:P.2594 - P.2595

症例
 14歳,女性,学生.主訴:発熱,紅斑.
 家族歴,既往歴:特記すべきことなし.

224.薬物アレルギーの診断と対策

著者: 高藤繁 ,   村中正冶

ページ範囲:P.2596 - P.2597

 近年,種々の細菌感染症に対する抗生剤冶療の進歩はめざましいものがあるが,一方でその使用頻度の増加に伴って抗生剤に対してアレルギーを示す症例に遭遇する機会がふえている1).本稿では,抗生剤によるアレルギーを中心に薬剤アレルギーの診断と対策について述べる.

225.喘息に対する減感作療法の適応と方法

著者: 足立満 ,   高橋昭三

ページ範囲:P.2598 - P.2599

症例
 42歳,主婦.父にアレルギー性鼻炎がある.10歳時に発症したが,17歳頃より喘息発作は消失した.24歳で第一子を出産したが,妊娠5カ月より喘息発作が再び出現した.その後,現在に至るまで週に4〜5回小発作が出現している.明らかな季節性は認めていない.
 テオフィリン剤,β受容体刺激剤などの気管支拡張剤の内服では完全にコントロールすることは難しく,家業の飲食店を手伝っていて,かなり激しい労働と主婦業の両方を両立させなければならない立場にある.ステロイドホルモン剤や新薬に対する警戒心が強く,ベクロメタゾンの吸入治療についても規則正しい吸入は時間的にも難しいからと協力的ではない.最近発作の回数が次第に増える傾向にあり,気管支拡張剤の効果も以前より落ちてきた.

226.自己免疫病における大量γ-グロブリン療法

著者: 杉崎徹三

ページ範囲:P.2600 - P.2601

 γ-グロブリン(γ-Gl)療法は,最近特発性血小板減少性紫斑病(ITP)をはじめとする血液疾患や免疫複合体(IC)沈着病の腎炎や慢性関節リウマチに対する有効性が報告されている1)
 以下,これらの疾患について筆者らの経験例を含め報告する.

XII.癌 内科領域の固型癌の化学療法の実際

227.手術不能例の化学療法の実際と限界—無意味な投薬をさけるために

著者: 栗原稔 ,   佐々木容三 ,   泉嗣彦

ページ範囲:P.2604 - P.2606

大腸癌化学療法症例
症例
 78歳男性.下血を主訴に来院.注腸造影(図1)で,S状結腸の巨大腫瘤による口側への造影剤通過障害を認めた.慢性腎不全と本人の手術拒否のため,図2に示すような抗癌化学療法にふみきった.FT-207(Futraful®)坐薬で,嘔気,食欲不振が生じたが,Futraful®腸溶粒の長期間投与で腫瘤の触知消失,便通も正常化,治療開始後8カ月の注腸造影(図3)で腫瘤の著明縮小を認め,口側も造影された.約1年4カ月の軽快期間後,再び腫瘤を触知,図示するような併用治療で腫瘤は触知不能となったが,再び徐々に悪化,全経過2年4カ月で死亡した.

228.固形癌の化学療法の効果判定

著者: 涌井昭 ,   横山正和

ページ範囲:P.2608 - P.2609

 従来わが国で用いられてきた固形癌に対する抗癌剤の効果判定法の多くは,客観性に乏しく統一性に欠け,癌化学療法の臨床開発上,重大な問題となっていた.このことから,最近合理的な新判定基準作成の要望がおこり,厚生省がん研究助成金による2研究班(小山班,斉藤班)の合同作業の結果,昭和55年に成立をみたものが「固形がん化学療法直接効果判定基準」1,2)である.本基準は国際的通用性をもそなえ,関連学会の承認をへて今日広く使用されるに到った.本基準の根幹は,化学療法の直接効果を腫瘍病巣自体の縮小の程度のみによって判定せんとするところにある.すなわち腫瘍病巣の変化と同等あるいはそれ以上の特異的かつ客観的な指標はないとの考えに立脚しており,したがって本基準では,ほかの自覚症状,他覚的所見は,効果判定上,直接的な指標として採用されていない.以下若干の解説を加えながら本基準の要点を述べる.

229.胃癌,大腸癌に対する術後化学療法—その適応といつまで続けるか

著者: 井口潔 ,   神代龍之介

ページ範囲:P.2610 - P.2611

 胃癌,大腸癌に対する第1の治療法は外科手術療法であることに異論はない.その遠隔成績向上のために,術後の補助化学療法が種々試みられている.
 胃癌・直腸大腸癌患者の多くの例で末梢血に腫瘍細胞がみられたというEngell1)の報告以来,手術の際に術野,血液中あるいはリンパ管内に散布された癌細胞を殺す目的で,手術に化学療法を併用することの重要性が認識されてきた.しかし,術後の再発・転移による死亡は多く,5年生存率よりみた胃・大腸癌の成績は必ずしも十分なものではない.

230.肺癌の薬物療法の展望—免疫療法を含めて

著者: 本間威 ,   米田修一 ,   閔庚燁

ページ範囲:P.2612 - P.2614

当センターにおける非小細胞癌の治療法
 筆者らは非小細胞癌に対してCAP(アドリアシン®,エンドキサン®,シスプラチン)併用療法を行ってきたが,その奏効率は18〜33%であった.最近病変の拡がりがlimited diseaseのものに対し図1のような,放射線療法を併用したいわゆるサンドウィッチ療法を行ったところ,判定可能20例中有効例は16例で,奏効率は80%と飛躍的に向上した1).完全寛解と判定した1症例を示す.

内科領域の固型癌の放射線療法の適応と限界

231.肺癌—組織型による適応と効果の差

著者: 鈴木明

ページ範囲:P.2616 - P.2618

 放射線療法は肺癌治療の有力な武器の一つであるが,いわゆる集学的な治療計画に効率よく組み込むために,治療効果の発現機序,効果判定,組織型による差異など理解しておくべきいくつかの点がある.

232.食道癌—術前照射か術後照射か

著者: 飯塚紀文

ページ範囲:P.2620 - P.2621

 食道癌に対する治療法としては,放射線治療と外科手術とが古くから行われている.放射線単独治療での治癒例もあるが,腫瘍が小さくリンパ節転移がないことが条件となっている.現実には進行癌が多いので,外科手術が必要である.外科手術と放射線治療とを組み合わせて治療成績を向上させる試みもいろいろ行われている.放射線治療を手術の前に行うのがよいか,手術の後に行うのがよいかは,未だ結論がでておらず,また,個々の症例によっても変わるのが現実である.症例をみながら考えてみたい.

233.胃癌・大腸癌の放射線療法の再検討

著者: 橋本省三 ,   筒井竹人 ,   冨永紳一

ページ範囲:P.2622 - P.2623

胃癌・直腸癌に対する放射線療法の役割
 腹部の消化器癌,特に胃と直腸に対する放射線療法の役割は次の如く考えられる.

癌化学療法・放射線療法の副作用の予防と治療

234.肺臓炎

著者: 小林節雄 ,   新部英男

ページ範囲:P.2624 - P.2625

 癌化学療法や放射線療法で肺臓炎を起こすことはよく知られている.これにはそれぞれ単独で起こす場合と併用による相乗効果とある.まず,それぞれ単独の場合を述べ,ついで併用の場合について述べてみたい.

235.白血球減少,血小板減少

著者: 山田一正

ページ範囲:P.2626 - P.2627

 近年,新しい抗腫瘍剤の開発や放射線療法の進歩で癌治療はめざましい発展をとげ,治癒を目指して,より強力に行われる傾向にある.それに伴い,骨髄障害による汎血球減少をおこす率が高まり,それに対する対応が求められてきている.本稿では,癌化学療法,放射線療法の副作用としての白血球および血小板減少に対する予防と治療について述べる.

236.食欲不振,下痢,便秘

著者: 金子栄蔵

ページ範囲:P.2628 - P.2629

症例
 56歳,男性.転移性肝癌(原発胆のう癌).
 現病歴:2カ月前に右上腹部鈍痛,食欲不振あって来院した.理学的に右上腹部に鉄拳大の固い腫瘍を触知,精査の結果胆のう癌を原発とする広範囲な肝転移と判明した.手術不能と判断されたが,全身状態比較的良効なためMMC 10mg腹腔動脈注を行い,以後外来にてFT-207(Futraful®)800mgの経口投与を行った.FT-207投与1カ月頃より食欲不振が増強してきた.Domperidone(Nauzelin®)30mg/日を分3投与したところ食欲不振の改善がありFTの服薬が可能となった.

237.口内炎,皮膚炎,脱毛

著者: 小澤明 ,   大城戸宗男 ,   小川正俊

ページ範囲:P.2631 - P.2633

 化学療法剤,放射線の副作用として,脱毛,口内炎,皮膚炎はじめ種々の皮疹が出現することは周知のとおりである.癌治療においては,併用療法が行われるため,副作用出現頻度も高くなっている.しかし,それらの副作用が重篤でない上記の症状を呈する場合は,癌治療を続行する傾向にある.そのため,個々の副作用に対して,対症療法のみを行わざるを得ないのが現状である.

238.心筋障害

著者: 中山龍 ,   小池明郎

ページ範囲:P.2634 - P.2635

症例
 強い呼吸困難を主訴とする48歳の女性が入院した.入院時心拍数130/分,血圧90/50mmHg,眼球結膜に黄疸を認め,著明な頚静脈怒張,両側心基部にラ音,重合奔馬調,三尖弁閉鎖不全による全収縮期雑音,拍動性の肝,前脛骨部に浮腫あり.心電図では洞性頻脈,低電位差,V1で大きい陰性P波,胸部X線像では強い肺鬱血と心陰影の拡大あり,心エコー所見など諸情報を総合し,心筋症による心不全と診断した.しかし少なくとも発症の6カ月前までは,高血圧,異常心電図,異常心エコー所見などは認めていない.既往歴には,16年前乳癌で右乳房切除術をうけ,2年後,切除部位の胸郭に再発あり,放射線治療,卵巣摘出術をうけている.さらに10年後には右腋窩に潰瘍を生じ,骨転移が見出されたので,adriamycin(ADMと略す)単独3週間間隔6カ月間,全量580mg/sqmを投与された.ADM投与終了後発症まで3年を経過しているが,諸検査の結果,本症の心筋症はADM由来のものと考えられた.

239.結核,真菌症の再燃,併発

著者: 田村正和 ,   木村公一 ,   島田久夫 ,   螺良英郎

ページ範囲:P.2636 - P.2637

 悪性腫瘍に伴う易感染性は,癌化学療法による医原性生体防御能の低下も加味されて,細菌感染症のみならず,結核菌や真菌による感染症の続発を伴うことも多く,診断,治療上,常に留意する必要がある.

癌の合併症の対策

240.癌転移による上大静脈症候群の対策

著者: 三島好雄

ページ範囲:P.2638 - P.2639

症例
 53歳男子.縦隔洞への悪性腫瘍転移による上大静脈症候群で,主訴は軽度の呼吸困難,胸壁の皮静脈拡張と眼瞼浮腫(図1).やがて顔面・上肢のチアノーゼ,頭部・頚部・上肢にも著しい皮静脈拡張をみるようになり,さらに進行すると頭痛・めまいなど脳のうっ血症状を示すようになる.この皮静脈拡張は仰臥位でもっとも著明であるが,起立しても消失することはない.このために患者は好んで坐位あるいは半坐位をとる.症状は上半身を前屈したり,体を動かすことによって増悪する.また,閉塞が急性に発生すると顔面・肩・上肢などに浮腫をみることがあり,多くの場合脳循環不全による神経症状を伴う.
 静脈造影検査では,閉塞が末梢小範囲の場合には奇静脈を介して右心房にまで造影剤が達するが,広範囲に及ぶ場合には上大静脈のみならず,左右の腕頭静脈,鎖骨下静脈も閉塞され,胸壁を介する著明な側副血行路が造影される(図2).閉塞の部位と範囲を確定することは常に必ずしも容易ではないが,造影剤が上大静脈に流入せず,頚部・胸壁の小静脈が側副血行として拡張している像をみとめれば診断は確定する.

241.胸膜癌症

著者: 続木信明 ,   鵜沢毅

ページ範囲:P.2640 - P.2641

 胸膜癌症の治療は対症療法で,胸水貯溜による呼吸循環障害の自覚症状を軽減させるために行う.以前は胸腔穿刺をくりかえし胸水を排液したが,近年原発巣の治療成績が向上するにつれ胸膜癌症に対する治療も積極的になされるようになった.胸水消失の期間が長ければそれだけ生存期間の延長が期待できる.そこで本稿では胸膜癌症の局所療法の原則と具体的な方法を述べる.

242.心膜癌症

著者: 新海哲 ,   富永慶晤

ページ範囲:P.2642 - P.2644

 心膜癌症には中皮腫などの心膜原発のものと,他臓器の癌の転移・浸潤によるものがあるが,頻度としては後者が圧倒的に多い.したがって本稿も他臓器の癌の転移・浸潤による心膜癌症について述べる.

243.腹膜癌症

著者: 吉森正喜

ページ範囲:P.2646 - P.2647

 腹膜癌症は癌細胞が腹膜に播種性の転移を来たした状態であり,厳密には癌性腹膜炎とは区別して用いるべき用語であるが,一般には両者を同じような意味に用いている場合が少なくない.

244.悪性腫瘍に合併したDIC

著者: 西口修平 ,   巽陽一 ,   山本祐夫

ページ範囲:P.2648 - P.2649

 悪性腫瘍は,内科領域において,最もDICを起こしやすい疾患とされている(図1).大部分は悪性腫瘍末期に発生するが,悪性腫瘍に対する積極的な治療を契機として発症するものも少なくない.このような症例に対し,早期より適切な治療がのぞまれるが,原疾患や治療に伴う検査値の変動,たとえば転移,抗癌剤による血小板数減少や凝固因子の減少が認められることも多く,DICの診断をする上で十分留意しなければならない.そのために,種々の診断基準が提唱されているが,最近では前川らの診断基準がよく用いられている(表1).
 しかしながら,この診断基準を用いても,DICと断定しがたい症例も多く,筆者らは,表2の5項目のうち3項目以上を満たす症例をpre DIC(DIC準備状態)とし,早期より積極的に治療を行い,臨床症状,検査データの経時的推移を追っている.

245.内科領域の癌の脳転移の治療と手術適応

著者: 横田仁 ,   竹内一夫

ページ範囲:P.2650 - P.2651

症例
 66歳,女性.主訴:歩行障害,痴呆.現病歴;左鎖骨上窩に腫瘤が触知され,肺癌の診断にて某院内科で通院治療を受けていた.治療中主訴の症状出現し急速に増悪したため当科へ紹介された.
 入院時所見:軽度意識障害,とくに見当識障害とうっ血乳頭が認められた.補助検査所見;胸部X線写真(図1),CT(図2)

246.癌による水腎症に対する対策

著者: 阿曽佳郎

ページ範囲:P.2652 - P.2653

 子宮,直腸,膀胱など種々の骨盤内臓器の悪性腫瘍の尿管への浸潤,圧迫などにより水腎症が惹起されることは臨床にたずさわるものがしばしば経験するところである.両側の尿管が閉塞されれば,早晩腎不全-尿毒症に陥り,これが死期を早める要因となる.とくに閉塞には感染症がつきものであり,水腎症に感染が加われば腎不全はさらに悪化する.したがって癌による水腎症に対しては早期に適切な治療が必要である.こういった水腎症の原因となるのは多くは進行癌であるから,一般に根治的な手術は適応とならない.延命効果をねらって侵襲の少ない手段が施行される.以下に2症例を提示し,癌による水腎症の治療法について述べる.

247.癌性疼痛

著者: 水口公信

ページ範囲:P.2654 - P.2656

長期間激痛を訴えた症例(図)
症例
 U. T.,38歳,男,仙骨脊索腫.
 1965年より臀部痛があったが,放置した.3年後,漸次痛みは増悪したため,他医にて腫瘍の摘出術を受けた.その後も腫瘤の再発のため,数回にわたる摘出術が行われた.しかし痛みは緩解しないので,1973年6月当院入院.

内科領域の固型癌の特殊な治療法

248.肝臓癌の動脈塞栓療法

著者: 山田龍作 ,   北山健 ,   浜地順子

ページ範囲:P.2658 - P.2659

 肝臓癌は本邦や東南アジアに多発する悪性腫瘍で予後不良の疾患である.治療としては,近年の外科学の進歩に伴い,果敢に肝切除術が行われ,その治療成績の向上がみとめられるが,必ずしも満足すべきものではない.日本肝癌研究会の報告によれば1,2),1年生存率28%,3年生存率18%にすぎない.これらの成績は切除可能例に対するものであり,90%にのぼる切除不可能例に対しては肝動脈結紮術や肝動脈内抗癌剤投与が行われてきたが,それらの成績はさらに不良である1,2)
 筆者らは1977年から肝臓癌に対し肝動脈塞栓術を施行し,本法が肝臓癌に対する治療として,従来の治療法よりはるかに良好であるとの成績を得ているので,その実際について述べる.肝臓は図のごとく門脈と肝動脈の二重支配を受けているが,肝臓癌はほぼ100%肝動脈栄養由来とされるので3),肝動脈の塞栓により肝癌組織のみが選択的に壊死に陥るわけである.

249.マイクロカプセルを用いた化学療法

著者: 高橋俊雄 ,   伊藤順造

ページ範囲:P.2660 - P.2661

 近年,原発性肝癌に対する塞栓療法は最も著効を示す1つの療法として注目されている.この塞栓療法は,その塞栓部位により大きくproximalembolizationとperipheral embolizationに大別されている1).マイトマシン・C・マイクロカプセル(以下MMC-m.cと略す)動注療法はperipheral embolizationの1つである.
 今回は,MMC-m.c投与にて著効を示し,切除可能となった巨大原発性肝癌の1例を通して,MMC-m.c療法の実際,特徴,問題点などについて述べてみたい.

250.温熱療法の現状

著者: 古賀成昌 ,   前田迪郎

ページ範囲:P.2662 - P.2663

 癌に対する温熱療法では,41.5℃以上が抗腫瘍性を期待しうる温度とされている.加温方法は全身温熱療法(total-boby hyperthermia;TBHT)と局所温熱療法(local hyperthermia;LHT)に分けられる.本稿ではTBHT,およびLHTとして癌の腹膜播種に対する持続温熱腹膜灌流(continuous hyperthermic peritoneal perfusion:CHPP)の現状と問題点について述べたい.

251.癌免疫療法の適応と効果

著者: 漆崎一朗

ページ範囲:P.2664 - P.2665

 癌の免疫療法は本来,癌の特異抗原や関連抗原を標的とした治療を意図したものであり,Mathéにより急性リンパ性白血病に対し,Mortonらにより悪性黒色腫に対して始められた.当初はBCGを中心としたものであり,その後10年余の間に,非特異的免疫促進剤として,数多くのものが世に出されてきた.
 BCGやCorynebacterium parvumなどの微生物やその成分,溶連菌製剤,キノコの成分,合成または発酵によってえられる小分子化合物などであるが,これらのすべてが癌細胞に対しcell-mediated cytotoxicityを誘導する抗癌免疫機構に基づく免疫療法剤と呼んでよいかどうかには疑問もあるが,免疫賦活剤あるいは免疫調整剤として,癌患者の低下した免疫能を回復ないし亢進させて,ひいては癌に対する特異的免疫の誘導を企図するものである.最近,これらの薬剤は腫瘍-宿主関係を修飾する物質として一括してBiological Response Modifiers(BRM)と呼ばれるようにもなってきている.

252.ホルモン療法の適応と効果

著者: 安達勇 ,   阿部薫 ,   北岡久三

ページ範囲:P.2666 - P.2667

進行乳癌のホルモン療法
 進行乳癌は固形癌のなかでもホルモン療法の適応となる典型的な疾患である.症例を呈示しながら最近の治療方法の原則について述べてみたい.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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