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雑誌目次

雑誌文献

medicina20巻2号

1983年02月発行

雑誌目次

今月の主題 免疫からみた腸疾患

理解のための10題

ページ範囲:P.256 - P.258

腸の免疫機構

腸リンパ組織の形態学

著者: 名倉宏 ,   玉置憲一

ページ範囲:P.194 - P.200

 健常人の消化管粘膜は,たえずきわめて多くの外来抗原,すなわち経口的に摂取された食餌性物質およびその分解産物,非病原性腸管内常在菌や病原微生物およびそれらの産生物質に暴露されており,生体側にはこれらの多量かつ多様な抗原物質を処理するために,消化管粘膜表面へ常時分泌されている分泌型IgA(sIgA)と,これら抗原物質に反応してsIgAの分泌を行う消化管リンパ装置(gut-associated lymphoid tissue:GALT)による局所免疫機構が備えられている.GALTはパイエル板(Peyer's patch),虫垂,腸間膜リンパ節および腸管粘膜固有層や上皮細胞間に分布している形質細胞やリンパ球を含めた,胃から直腸末端におよぶ広範な消化管所属リンパ装置の総称であり,脾臓や頸部リンパ節,末梢リンパ節とからは独立した免疫反応を示すといわれている1)
 近年,単クローン性抗体の導入による免疫担当細胞の表面形質ならびに細胞質形質の詳細な分析とあいまって,これらGALTを構成する細胞の解析もすすみ,腸管粘膜の局所免疫機構におけるGALTの特有な免疫反応様式も解明されつつある2,3),本稿ではこうした点を踏まえ,その免疫反応の構造的基盤であるGALTの構造上の特徴について概説したい.

腸リンパ組織の免疫反応

著者: 吉田豊 ,   黒江清郎

ページ範囲:P.202 - P.203

 腸管内には,細菌,ウイルスなどの微生物,毒素,食餌蛋白など種々の抗原が存在し,これらが粘膜を通して絶えず体内へ侵入してくる.これらに対する生体の局所防御機構として,分泌型IgAを主体とする分泌型免疫グロブリン系と,本稿で述べる消化管リンパ装置(gut-associated lymphoid tissue;GALT)の2つが挙げられる.GALTはパイエル板・虫垂・粘膜固有層〜粘膜下層に集簇するリンパ球群から成り立っている.この2つの機構は互いに独立したものではなく,一連の繋がりのなかで各々の生体防御の役割を担っている.

分泌性IgAの構造と分泌機構

著者: 磯辺善成

ページ範囲:P.204 - P.205

 Tomasiら1)によって,1965年に外分泌液中には血清のIgAとは物理化学的にも免疫学的にも異なった分泌性IgA(SIgA)が存在していることが指摘された.このことに端を発し,分泌性IgAについての多くの研究がなされ,その構造,分泌機構ならびに機能に関する問題はかなり解明されてきた2〜5).本稿では,これら問題のうち,構造と分泌機構について概説する.

分泌性IgAの機能

著者: 谷内昭

ページ範囲:P.206 - P.207

局所免疫系について
 消化管,気道などの粘膜,外分泌腺の分泌液中の免疫グロブリン(Ig)組成は,血清と比較してIgAクラスが著しく多く,その主体をなすのが分泌性IgA(SIgA)である.粘膜は外界と接して多種多様の抗原の感作を受けSIgAが産生・分泌され,粘膜面を被覆して第一線防御の役割を演じている.このSIgA産生応答は血中抗体とは異なる独立した動向を示すので,系統免疫系と対比して局所免疫系として位置づけられてきた.
 ヒトの消化管粘膜リンパ組織(gut associatedlymphoid tissue;GALT)は約50gのリンパ系細胞を含み,その量は脾臓のそれに匹敵するといわれ,1日約3gのIgAが産生され,約1.5gのSIgAが分泌される.気道粘膜リンパ組織(bronchus associatedlymphoid tissue;BALT),乳腺,唾液腺などからもSIgAが分泌される.

その他の免疫機構

著者: 細田四郎 ,   藤山佳秀 ,   馬場忠雄 ,   越智幸男

ページ範囲:P.208 - P.209

 筆者に与えられたテーマは「その他の防御機構」についてであるが,多くは他の執筆者によって各々のテーマとの関連から詳述されるものと思われる.したがって,ここでは主として筆者らがこの分野において得てきた知見をもとに,私見,推察を加えて述べることで責を果たしたい.

腸内感染症と免疫

細菌

著者: 神中寛

ページ範囲:P.210 - P.211

 □腸管感染症と古典的ワクチン
 経口的に感染し,感染の場が主として腸管に限定される感染症を腸管感染症と定義すれば,細菌によるものとして,コレラ,赤痢などの古典的伝染病や,大腸菌,サルモネラ,腸炎ビブリオ,腸炎エルシニア,カンピロバクター,ウエルシ菌などの感染を挙げることができる(チフス,パラシフスは全身疾患として除く).最初の2つは,先進諸国では現在あまり大きな問題でなく,食中毒を中心として他の菌のほうが重要であるが,発展途上国ではいずれもが重要な疾患であり,その予防対策が望まれている.
 19世紀末以来、その対策の1つとして種々のワクチンが考案されたが,近年すすめられた再検討の結果,最も広く用いられたコレラワクチンさえその効果は満足なものではなく,多くの改良を要することが解った.その改善の試みの途上で,腸管感染症の成立に関与する病原因子の解析と局所免疫機構の解明とが重要であるとの認識が現れてきた.以下にそれを要約してみる.

ウイルス

著者: 喜多村勇

ページ範囲:P.212 - P.214

 下痢を起こすウイルスの主たるものはRota,Norwalkウイルスなどであるが,MontgomeryCounty,Hawaii,W, Harlow,Ditchling,Calici,Adeno,Enteroウイルスなども下痢原因ウイルスとして報告されている.夏の下痢はEnteroウイルスによることが多いが,冬の下痢ではRotaとNorwalkが主役を演じる.

寄生虫

著者: 小林昭夫 ,   渡辺直煕

ページ範囲:P.216 - P.217

 消化管に寄生する人体寄生虫の主なものは表に示すごとくである.これらの寄生虫に対する宿主免疫応答は多彩で,原虫と蠕虫の別,粘膜内侵入の有無,また初感染と再感染の別などによって著しい相違がみられる.ここでは消化管寄生虫症でみられるいくつかの現象をとりあげ,それらに関する最近の知見を紹介する.

腸疾患の臨床

潰瘍性大腸炎

著者: 土屋雅春 ,   相磯貞和 ,   朝倉均

ページ範囲:P.218 - P.219

 腸管粘膜には,多数のマクロファージ,リンパ球,形質細胞のほか,Peyer板やリンパ濾胞などの特殊なリンパ装置が存在し,侵入異物に対して防御機構を営んでいる.このような複雑な免疫機序が存在している腸管において,種々の免疫異常によって示される病態も多彩である.なかでも潰瘍性大腸炎は,大腸粘膜の慢性びまん性の炎症性疾患であるが,皮膚病変,肝障害,関節炎などの多彩な合併症を伴うこと,治療における副腎皮質ホルモンや免疫抑制剤の有効性などに加え,自己抗体の出現などの免疫異常状態の存在が明らかとされ,本症の病因に対する免疫的機序の関与が注目されている.

クローン病

著者: 小林絢三

ページ範囲:P.220 - P.221

 クローン病は,潰瘍性大腸炎とともに特発性炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;IBD)と総称され,臨床的ならびに免疫学的追求がなされている.
 本症においては,潰瘍性大腸炎と同様に関節炎,湿疹,枯草熱(hay fever),強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis)などの腸管外合併症があり,さらに病変組織の浸潤細胞もリンパ球,形質細胞,マクロファージの有意の増加が指摘されていることから,両疾患の免疫異常との関わりは,病像からも十分推測される.しかし臨床的には,クローン病は食道から直腸まで全消化管にわたって発生し得,かつ非連続的病変(skip lesion),組織学的に全層性の炎症性変化ならびに非乾酪性の肉芽腫を持つなど,潰瘍性大腸炎と相違する点も多い.むしろ特異的炎症である腸結核と類似点が多く,臨床的に鑑別困難な症例が少なくない.

消化管アレルギー

著者: 近藤元治 ,   山本実 ,   福本圭志

ページ範囲:P.222 - P.224

 たえず外来抗原に曝されている消化管の食事摂取による障害は,①細菌や添加物の中毒,②先天的酵素欠損による不耐症,③体液性・細胞性免疫機序,④非特異的な免疫反応類似のヒスタミン遊離や補体系・リンパ系活性化産物などがある.通常③,④が消化管アレルギーとして理解されている.

膠原病,ベーチェット病

著者: 岡田純 ,   柏崎禎夫

ページ範囲:P.226 - P.227

 膠原病およびベーチェット病(BD)は,多臓器障害性の全身性炎症性疾患で,腸病変を合併することもさほど稀ではない,しかし,その病態成立機序,病像ならびに疾患に含める臨床的意義は疾患ごとに異なる.すなわち,全身性エリテマトーデスや多発性動脈炎では,主として血管炎に起因した虚血性腸炎が主体となり,時に死因となることもある.強皮症では,腸管固有筋層の萎縮と変性,ならびに粘膜下層の線維化が病態成立の主因であるが,死因に直結することはほとんどない.一方,BDにおいては,炎症反応を伴った多発性潰瘍がその主たる病変で,予後に及ぼす影響は大である.以上のごとく疾患ごとに腸病変に特異性がみられ,それを的確にとらえることは治療上も重要である.なお,上記疾患においては,ステロイド剤や抗炎症剤といった胃腸障害を生じやすい薬物を使用することが多いため,腸症状のどこまでが原疾患によるもので,どこからが治療により修飾されたものかを見きわめることも重要である.

原発性免疫不全

著者: 加納正 ,   島田秀人

ページ範囲:P.228 - P.229

 消化管粘膜はB細胞系,T細胞系の免疫担当細胞を豊富に有する免疫組織である.消化管粘膜のこれらの細胞は,外界からの抗原刺激に対して内部環境の恒常性を維持するのに役立っている.原発性免疫不全症では,かかる免疫組織の構成成分の欠損を示すので,各種消化管疾患はじめ,ここより波及する全身性の諸病変が頻発する.主要な原発性免疫不全症にみられる消化管病変の諸相について述べる.

続発性免疫不全

著者: 朝倉均 ,   小林研介 ,   土屋雅春

ページ範囲:P.230 - P.231

 続発性免疫不全とは,免疫反応を遂行する因子が二次的に異常になり,主として感染に対する生体防御反応の不全状態をいう.

腸癌

著者: 漆崎一朗 ,   新津洋司郎

ページ範囲:P.232 - P.234

 大腸癌にかぎらず,一般に癌患者が自己の悪性腫瘍を免疫学的に認識するためには,まず第1にその腫瘍に癌特異抗原(tumor specific antigen;TSA)または癌関連抗原(tumor associatedantigen;TAA)が明確に存在する必要がある.
 大腸癌のTSAあるいはTAAについてはその存在が早くから想定されていたが1),最近になってmonoclonal抗体法をはじめとする抗原分析の手法が発達し,具体的な物質としてとらえられるようになった2).その結果,臨床面では免疫診断への応用が可能となりつつある.

腸疾患とHLA

炎症疾患

著者: 井上幹夫 ,   守田則一

ページ範囲:P.236 - P.237

 HLAはヒトの第6染色体短腕上に存在し,HLA-A,B,C,D/DRlocusが知られている.これらHLAと疾患との相関に関する報告は,一般に自己免疫疾患における疾患感受性に関連し研究がなされてきた.腸疾患で,HLAとの相関がはっきりしているのは潰瘍性大腸炎(以下UC)における報告が主なものである1〜3).したがって,本稿ではUCにおける筆者らの研究を中心に述べることでその責を果たしたいが,詳細は筆者らの総説を参照されたい4)

腫瘍疾患—大腸癌とHLA

著者: 辻公美 ,   宮原信弘 ,   木村幸三郎

ページ範囲:P.238 - P.239

 腫瘍とHLAに関する報告はあるが,まだ完全な結論を得ていない1〜3).これは1964年,LillyがハツカネズミのMHCであるH-2と白血病との関連性について報告したが,それらの機序はなお解明されていない.これらの点に関しては,別の機会にゆずるとして,今回は筆者らが観察した大腸癌のHLA抗原をもとに検討した.また,誌面の都合上,種々の考察をさけ,むしろ簡略化して表現する努力をした.

腸疾患の治療

免疫療法

著者: 児玉宏 ,   戸部隆吉

ページ範囲:P.240 - P.241

 近年,腸管の免疫機構に関する多くの知見が集積されてくるとともに,従来より成因不明とされてきた潰瘍性大腸炎やクローン病のような非特異的炎症性腸疾患の発生に免疫学的機作が関与していることが明らかになってきており,こうした疾患に対する免疫療法の試みが,なお限界があるものの成功をおさめつつある.この場合の免疫療法は,腸管における自己免疫機構を中心とする免疫異常に対して,これを是正するために免疫抑制作用のある薬剤を用いるものである.
 一方,癌に対する免疫療法として,いくつかの免疫賦活剤が広く用いられるようになってきている.ことに消化管に発生した癌に対する第1の免疫応答の場として消化管付属リンパ組織gut-associated lymphoid tissue(GALT)が注目されるようになってきており,GALTをより効率よく賦活する方法として,免疫賦活剤の経口投与が検討されるようになってきている.

座談会

腸疾患と免疫

著者: 名倉宏 ,   神中寛 ,   谷内昭 ,   黒江清郎 ,   朝倉均

ページ範囲:P.243 - P.255

腸粘膜の免疫機構/分泌型IgA(SIgA)をめぐって/腸内感染症と免疫/免疫が関与する疾患/免疫学的治療腸粘膜の免疫機構

Current topic

新しい人工呼吸法HFPPV(鼎談)

著者: 諏訪邦夫 ,   太田保世 ,   金上晴夫

ページ範囲:P.298 - P.312

 金上(司会)今日は新しい人工呼吸法HFPPV(高頻度陽圧呼吸high-frequency positive pressure ventilation)について,諏訪先生,太田先生にお話をうかがいたいと思います.
 このHFPPVの前にも,たとえば喘息,肺気腫に使われたIPPBとか,あるいは,急性呼吸不全のときにARDSなどに使われたPEEP療法とか,呼吸生理学的な裏付けをもった新しい人工呼吸法がいろいろ工夫され,開発されているわけです.そして,最近はこの高頻度陽圧呼吸法という新しい人工呼吸法が非常に話題になっているんですが,最初にまずこの高頻度陽圧呼吸法というのは一体どういうものなのか,諏訪先生からお話しいただきたいと思います.

カラーグラフ 臨床医のための甲状腺生検

乳頭癌の細胞診所見(1)

著者: 藤本吉秀 ,   小原孝男 ,   平山章

ページ範囲:P.260 - P.261

 甲状腺悪性腫瘍の病理組織型別頻度をみると,乳頭癌が最も高頻度にあり,全体の約75%を占める(表).したがって甲状腺癌の診断・治療にあたる場合,乳頭癌の特徴をよく知ってかかることが最も大切である.
 乳頭癌は,男女比1:6と女性に好発し,ほとんどあらゆる年齢層に認められるが,とくに30〜40歳代に多い.病態の特徴の一つは,血行性転移の頻度は低いが,頸部所属リンパ節に転移を起こしやすいことである.増殖傾向は一般に穏やかで,治療後の10年生存率が80〜90%と高く,予後はよい.ただし,50歳以上の高齢者,とくに男性に生じたもの,甲状膝被膜外に浸潤性増殖を起こしたものは必ずしも予後良好とはいえない.

グラフ 臨床医のための電顕写真 糸球体・2

係蹄壁

著者: 坂口弘

ページ範囲:P.270 - P.273

 前回は糸球体構成要素の識別について述べた.今回は係蹄壁(capillary wall)について,正常,病変の代表的なものについて述べることにする.
 係蹄壁は少し倍率の大きな写真では図1のように,外側(ボーマン腔側)から上皮細胞の足突起(Fp),基底膜(Bm),内皮細胞の層(Ed)よりなり,EpとBmの間,BmとEdの間には薄い明るい層,外透明層と内透明層がある.

肺癌を疑うX線像

撮影上の注意点

著者: 西脇裕 ,   佐久間守 ,   尾形健三郎 ,   久保田忠幸

ページ範囲:P.274 - P.280

 肺に病変が生じると,胸部X線像には,一般に異常影が加わってくるが,同時に病変により,正常の肺の既存構造に欠除,変形,偏位する部分が生じる.
 従来の胸部X線診断は,新しく加わった異常影についての分析を中心としたものであったが,近年,正常像からの欠落,変形,あるいは偏位した既存構造の分析を中心とした診断法が重視されている.とくに,肺癌のX線診断については,一応,完成されており,普遍化している.

ポジトロンCT

脳血管障害への応用(1)

著者: 宍戸文男 ,   舘野之男 ,   山崎統四郎

ページ範囲:P.282 - P.284

 脳血管障害の病態を正確に把握するには,局所血流のみではなく,局所の代謝を同時に測定することが必要である.したがって,局所代謝と血流の同時計測の可能なポジトロンCT法は,脳梗塞に対する診断法として重要かつ可能性の大きい診断法であるといえる.
 筆者らは虚血性脳血管障害例においていくつかの代謝と灌流との解離現象を見出している1,2)

画像からみた鑑別診断(鼎談)

肝疾患—腫瘤性病変(2)

著者: 山田治男 ,   福田国彦 ,   川上憲司

ページ範囲:P.286 - P.295

症例
 患者59歳,男性,会社運転手.
 主訴右上腹部鈍痛,発熱,下肢筋力低下

誌上シンポジウム 医学教育を考える—より優れた臨床医の教育のために

卒業して感じる卒前教育の問題点

著者: 釣巻穣

ページ範囲:P.320 - P.323

 昭和40年代,医科大学や医学部の新設ラッシュの中,これらの医科大学や医学部では,既存の組織に見られた2年間の医進課程や講座制などを廃止し,6年間の一貫教育や系統臓器別の講義体系,さらに臨床教育に重点をおくなどの多くの新しい試みがなされた.
 私も,このような医科大学の1つである自治医科大学に,昭和47年第1期生として入学した.そして,昭和53年卒業後,福島県立会津総合病院にて2年間の卒後初期研修を受けた.この研修は,内科に重点を置きながらも,外科,産科,小児科をはじめ,整形外科,皮膚科などをローテートするものであった.その後2年間,常勤医師2〜3名の小病院に内科系医師として勤務,昭和57年4月より現在の所属にて新たな研修を行っている.このように都会からいわゆる田舎までいろいろな場所で医療の現場に従事してきた経験から,卒前教育について考えてみたい.

講座 図解病態のしくみ 神経・筋疾患・2

失語,失読,失書—失語症の病型分類と症状の発現機序

著者: 岩田誠

ページ範囲:P.331 - P.335

 ひとの大脳皮質機能のうち最も重要なもののひとつが言語である.言語機能の障害は失語症(aphasia)と呼ばれ,通常左大脳半球病変によって生ずる.表1は失語症患者において大脳半球病変が左右のいずれの側にあるかをZangwillがまとめたものであるが,右手利きではそのほとんど,左手利きでも約7割で,左半球病変により失語症が生じていることがわかる.
 失語症は均一なものではなく,いくつかの異なった病態を含んでいるため,病変部位の差に基づいて失語症の病型分類を行うのが普通である.このような観点からの分類では,失語症をまず,言語野あるいは言語領(language areaまたはspeech area)に病変のあるものと,言語野をとりまく周辺部に病変のあるものとに分ける.臨床的には言語野に病変のある失語症では復唱(repetition)がおかされるが,周辺部の病変による失語症では復唱障害の見られないことが重要である.

コンピュータの使い方・8

(対談)アナログ情報処理—心電図のコンピュータ診断を中心に—その進歩と診断の限界・アナログ情報処理の将来

著者: 宮原英夫 ,   土肥一郎

ページ範囲:P.337 - P.346

 土肥 本日は宮原先生との話し合いを通して,まずアナログ・データのコンピュータ処理について概観して,さらにその中でも臨床家にとって親しみ深いアナログ・データとしての心電図のコンピュータによる処理,分析についてうかがっていきたいと思います.

連載 演習

目でみるトレーニング 68

ページ範囲:P.263 - P.269

アメリカの医療 Via Air Mail

スタンフォード大学小児科における診療と教育(2)

著者: 辻本愛子

ページ範囲:P.316 - P.319

Medical Centerの研究テーマは臨床の中から
 スタンフォード大学の近くは先頃スパイ事件でにぎわせたシリコンバレーと呼ばれる地域で,アメリカでも有数のbrainの結集したところである.IBM,ヒューレットパッカードなどのコンピュータ会社,シンタックスやジェネンティックスといった生物学や遺伝学を扱う企業,その他種々の大企業がこのシリコンバレーに居を構えている.シリコンバレーのほとんどがもともとスタンフォード大学所有の土地で,スタンフォード大学自身,これらの企業に土地を貸し収益を得ているわけであるが,またそのスタッフの交流も激しく,企業の人材が多くスタンフォード大学から供給されている.
 研究中心のMedica Centerこの土地柄を反映してか,スタンフォードのmedical centerでもどちらかというと臨床というよりはむしろ,研究に力を注いでいる傾向が強い.スタンフォードのまわりは高級住宅地域でhigh social statusの人が多く住んでいることもあり,臨床的に興味深い症例が入院してくることはむしろ少ないといえる(アメリカの医療はさまざまなsocial status,ethnicな問題を抜きにしては語れない).

米国家庭医学の発展・6

医学の第2革命—Millis,Willard両報告書の意義

著者: 木村隆徳

ページ範囲:P.324 - P.325

 米国医師会は20世紀に入って2回,医学教育の実態を外部から客観的に,大衆の利益のため検討することを要請し,医学がより一層の優秀性を確保するために必要な変革に関する勧告を求めました.Flexner報告書1)とよばれるものがその第1で,医学教育の検討をおこなって1910年に報告され,米国医学の実際を科学的基礎の上に確立したことは周知であります.例えば医学部の数は155から76とほとんど半減し,医学部入学資格として2年間の大学教育が要求されることになりました.
 Flexner報告書がねらった医学の科学的基礎はそれ以来急速に成長して実地診療をはるかに引き離すにいたり,現在われわれが当面している問題は卒後教育標準の複雑さ,断片化,非柔軟性であります.当時一般大衆の医学教育への関心は殆ど存しませんでしたが,現在は逆で,一般大衆は深い関心を示しています.

診療基本手技

経鼻胃管の挿入法と低圧持続吸引の管理

著者: 吉岡成人 ,   西崎統

ページ範囲:P.328 - P.329

 経鼻胃管(Nasogastric tube,以下NG)は上部消化管出血,イレウスなどのときの診断や治療の目的で広く用いられている.経鼻栄養の目的にはsingle lumenのチューブが用いられるが,持続吸引が必要な場合はdouble lumenのものを使用する.ここでは持続吸引を必要とする場合のdoublelumen NGの挿入法,および管理について筆者らが日頃ベッドサイドで行っている方法について述べる.

臨床メモ

第3世代のセファロスポリンの使用法

著者: 高橋幸則 ,   北原光夫

ページ範囲:P.313 - P.313

 従来のcephalosporinに比べて,第3世代のセファロスポリン抗生物質は抗菌範囲がさらにひろがっており,β-lactamaseに安定性を増しているのが特徴である.また,髄液への移行が他のセファロスポリンに比し良好であることが,もう1つの際立った利点である.
 現在,使用されている第3世代のセファロスポリンはcefotaxime(クラフォラン,セフォタックス),ceftizoxime(エポセリン),cefmenoxime(ベストコール),cefoperazone(セフォビッド),latamoxef(シオマリン),cefsulodin(タケスリン)などがあげられる.

天地人

レコード今昔

著者:

ページ範囲:P.315 - P.315

 最近のレコード界最大の話題はコンパクトディスクの出現であろう.これまで100年もの間,録音やレコード製造の技術に著しい進歩はあったにしても,溝を針でこすって音を出すという原理に変りはなかった.それがアルミ盤に刻みこまれたデジタル信号にレーザー光線を当て,その反射光の強弱を読みとって音に変え,わずか12cmの盤に60分間録音できるというのだから,まさに革命的なレコードである.
 私がレコードを聴き始めたのは幼稚園の頃のことだから,55〜6年も前になる.雲母の振動板の付いたサウンドボックス,ゼンマイ仕掛けの蓄音器で,すさまじいスクラッチノイズの中から聴こえてくる「軍艦マーチ」や「軽騎兵序曲」に手をたたいたものである.本格的に音楽に興味をもってレコードを聴き始めたのは中学二年生の頃.最初に買ったのがストコフスキー指揮,フィラデルフィア管弦楽団によるドボルザークの「新世界」.以後レコード音楽のとりこになってしまったが,当時の地方都市ではナマの西洋音楽を聴く機会は皆無に近かったので,音楽を聴くこと即レコードを聴くことだった.しかしレコードの値段が何とも高い.昭和15年に上京した頃,六畳一間,二食付きの下宿料が25円だったが,ビクター12吋赤盤が3円50銭.ベートーベンの交響曲一曲で一月の下宿代の7〜8割が飛ぶ勘定になる.これを思うと現在の音質の良いステレオ盤が2,800円というのは安いと思う.

洋書紹介

—Ralph Shabetai 著—The Pericardium

著者: 坂本二哉

ページ範囲:P.326 - P.326

心膜に興味をもつ医師には必携の書
 最近,相次いで心膜に関する著作が出版されているが,本書はその中にあって,おそらく従来の著作のどれよりも大冊であり,また筆者がこの方面,ことに心タンポナーデや奇脈の諸論文によって高名なShabetai博士であるがゆえに,大いに食指をそそられるし,また強い期待が寄せられて然るべきである.
 内容は序文からして魅力的である.Shabetaiが何故生涯を心膜の研究に捧げようとしたか,またその研究態度についても語られているからである.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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