icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina20巻3号

1983年03月発行

雑誌目次

今月の主題 呼吸不全—その実態と治療

呼吸不全—その考え方

著者: 横山哲朗

ページ範囲:P.354 - P.355

呼吸不全の概念について
 臨床医学では「--不全」という表現がしばしば用いられるが,これらは慣習的に,便宜的に用いられることが多く,「不全」という表現に一貫した理念がない.とくに日本語の場合insufficiency(Insufficienz)とfailure(Fehler)の両方に対応するものとして「不全」という表現が用いられているのが実状である.Webster's New English Dictionaryによれば,
"insufficiency":①lack of adequate sup Ply of something,②lack of physical power or capacity
"failure":inability to perform a vital function
 さて呼吸不全respiratory insufficiencyとは,生体の末梢組織の代謝需要に見合う呼吸ガス(O2およびCO2)の運搬障害をきたした状態を表現するもので,いわゆる外呼吸(肺におけるガス交換)の障害のみをいうものでなく,強いて言うならば,外呼吸・呼吸ガス運搬・内呼吸の過程の高度の障害を総括的に表現する概念である.原因が肺疾患または肺機能障害に由来するものは,肺不全pulmonary insufficiency(Lungeninsufficienz)と呼ばれる.

概念

準呼吸不全—その臨床的意味

著者: 吉良枝郎

ページ範囲:P.356 - P.358

準呼吸不全とは
 厚生省特定疾患「呼吸不全」調査研究班(班長;横山哲朗教授)では,昭和56年度研究業績に明記してあるように,呼吸不全の診断基準を以下のようにまとめた.
 1.室内気吸入時の動脈血O2分圧が60TORR以下となる呼吸障害,またはそれに相当する呼吸障害を呈する異常状態を呼吸不全と診断する.

肺性心—呼吸不全の終末像

著者: 渡辺昌平 ,   栗山喬之

ページ範囲:P.360 - P.361

肺性心の概念とその変遷
 肺疾患に伴って右心に変化の起こることは古くから知られており,笹本によると,William Harvey(1578〜1657)の講義録中に,広範に侵された肺結核患者では心はsucculent(汁多き)でfleshy(肥大)であると記載されているという.
 肺性心cor pulmonaleは1931年P. D. Whiteが最初に提唱した名称であるといわれ,pulmonary heart diseaseとも呼ばれているが,肺の異常によってもたらされる右心機能の障害がどの程度のものを肺性心と呼ぶかについては明確でなかった.1950年代までは肺性心は肺実質の破壊的病変によってもたらされた右心の不可逆性の,治療の見込みのない変化と理解され,その診断も右心不全の出現をもってなされていた.したがって肺性心と診断された患者は予後の短かい,治療から見離された癌患者と同じように取り扱われて,血中炭酸ガス蓄積によるCO2ナルコーシスと右心不全状態で静かに生命を終えるのが通常であった.

診断

呼吸不全の診断

著者: 横山哲朗

ページ範囲:P.362 - P.366

 概念的に呼吸不全が定義されても,実地臨床において個々の症例が呼吸不全の状態にあるか否かを診断しうるわけではない.診断のためには診断基準を明示する必要がある.とくに動脈血のO2および/あるいはCO2の異常があるといっても,動脈血O2分圧が異常に高値を示す場合に生体が正常な機能を営みえないことは考えられないので,これを除外すると,
 1)O2およびCO2がともに異常を呈する場合
 2)O2のみが異常低値を示す場合
 3)O2正常でCO2が異常高値を示す場合
 4)O2正常でCO2が異常低値を示す場合
 が考えられる.O2が正常でCO2のみが異常を呈する場合,肺機能障害の代償機序によるときを除き,たとえば代謝性疾患に由来する動脈血ガス異常をも呼吸不全と診断すべきか否かは問題のあるところである.また呼吸不全の定義で言うところの"生体の正常な機能"とは具体的に何を指すのか,これも難問である.
 多々問題のあるところではあるが,個々の症例につき呼吸不全の診断をするにあたって,また,呼吸不全の実態を疫学的に把握するためには,あるいは呼吸不全の病態の研究を推進するためには具体的な診断基準が確立されねばならない.とくに実地臨床でそれが活用されるためには,なるべく普遍的な指標にもとついて具体的な数値を明示するものであってほしい.

実態

呼吸不全の原因疾患

著者: 川城丈夫

ページ範囲:P.368 - P.370

 呼吸不全の原因疾患には呼吸器疾患のみでなく,神経・筋疾患,自己免疫疾患,代謝性疾患など多種多様の疾患が含まれる.それらの疾患による呼吸不全の発生機序は,必ずしも現時点においては明確に示されてはいないが,本稿においては呼吸不全をきたしうる疾患を列挙することとする.

呼吸不全の実態

著者: 芳賀敏彦

ページ範囲:P.372 - P.376

 呼吸不全の実態といってもその意味するところは広範囲であり,本誌の各題をみても,原因(疾患),発生予防,予後,といわゆる実態(筆者の担当分)をひっくるめて実態としているようである.この中に筆者の担当分が含まれているので少し狭い意味に解釈することになる.そうすると,その本筋は統計,疫学的な意味にしぼられるので,その線にそってこれからの話を進めて行く.

呼吸不全発生予防の対策

著者: 山林一

ページ範囲:P.378 - P.379

 呼吸不全は,呼吸器系の本質的な機能である生体と外界との間のガス交換過程が障害され,その結果Pao2の低下,またはPaco2の上昇をきたした状態である.具体的な数値としては,Pao260TORR以下,またはPaco250TORR以上と定義されている.臨床的にはPao2の低下のみでPaco2の上昇を伴わないⅠ型呼吸不全と,Pao2の低下とPaco2の上昇を伴うⅡ型呼吸不全に分類される.呼吸不全をきたす疾患は多種多様であり,また一つの疾患をとっても,その病期によって異なった病相を呈する.Pao2が低下,あるいはPaco2が上昇はしているが,上記の定義に入らない潜在的な準呼吸不全状態の患者が重症化すれば,当然のことながら呼吸不全の状態に陥るのであるから,呼吸不全発生予防の対策としては,原疾患の適切な管理と治療によって疾患の重症化を予防することが基本である.疾患の重症化を防ぎ,呼吸不全への進展を予防する方策としては,患者の生活指導管理を含めた一般的なケアと,原疾患に特異な治療が考えられる.後者,たとえば気管支喘息の重症化の予防,あるいはCOPDの急性憎悪の予防などについて詳しく述べることは避け,ここでは呼吸器疾患による呼吸不全発生の予防の一般的対策について述べることにする.

呼吸不全の予後

著者: 原澤道美 ,   福地義之助

ページ範囲:P.380 - P.383

 呼吸不全は,呼吸器系の本質的機構である生体と外界との間のガス交換過程が障害され,その結果動脈血O2分圧の低下,またはCO2分圧の上昇をきたした状態,と定義されている.そして機序や治療上の差から,高CO2血症を伴わない低O2血症(I型)と,高CO2血症を伴う低O2血症(II型)の2型に分類されている,また呼吸不全は,その経過から急性および慢性呼吸不全に分けられているが,後者は呼吸不全状態が1カ月以上持続するものとしている報告が多い.
 さて呼吸不全の基準としては,動脈血O2分圧に関しては60TORR以下(CO2分圧については45 TORR以上)という値が広く用いられているが,O2分圧が75〜61TORRにあるものは,将来呼吸不全に移行する可能性が大きいので,準呼吸不全として扱われている.

神経・筋疾患と呼吸不全

著者: 松尾宗祐

ページ範囲:P.384 - P.385

 神経・筋疾患における呼吸障害の発生機序については,Plumらは呼吸不全を引き起こす諸因子について,延髄の呼吸中枢の障害による中枢性の呼吸不全(原因:ウイルス性疾患,腫瘍,外傷による破壊,麻酔薬,睡眠薬による抑制,脱髄性疾患,まれに脳幹部の血管障害)と,下行性呼吸反射路を障害する高位の脊髄損傷(原因:頸・胸髄の外傷,腫瘍,横断性脱髄),前角細胞障害(原因:灰白質脊髄炎,ニューロン萎縮,脊髄損傷,脊髄空洞症),末梢神経障害(原因:重症の多発性神経炎,脊髄神経根炎),神経・筋接合部障害(原因:重症筋無力症,神経遮断剤),筋肉障害(原因:筋ジストロフィー症,多発性筋炎,皮膚筋炎,甲状腺中毒性筋症,急性K減少症,周期性四肢麻痺)による末梢性の呼吸障害に分類している.また,胸郭を形成する呼吸筋を支配する中枢・末梢性の神経障害による呼吸障害,神経・筋接合部の障害による呼吸障害,呼吸筋自身の萎縮による呼吸障害とした分類も考えられる.このように神経・筋疾患における呼吸不全の原因は多岐にわたっているが,いずれの原因においても呼吸筋力の低下による換気障害として表わされてくる.
 呼吸筋としては,いわゆる胸郭を形成し直接的に呼吸運動に関与する筋と,間接的に関与する筋に大別されるが,呼吸筋全体の機能的重症度についてCampbell1)は次の3段階に分類している.

治療

呼吸不全の治療—考え方と治療計画の立て方

著者: 長野準

ページ範囲:P.386 - P.388

 呼吸不全はその発症,経過からみると,図1)のごとく分けて考えられる.したがって呼吸不全の治療は,急性発症の集中的呼吸管理から呼吸不全慢性期のリハビリテーションまでの連続的スペクトラムとして段階づけられる.その要項をまとめてみると,表2)のごとくなる.この要項の開始にあたっては,患者の病態と重症度を正確に把握し,患者おのおのについて必要な順に行うことが基礎となる.
 以下これを中心にして,急性発症と慢性呼吸不全との治療計画の立て方の要項について述べる.

気管内挿管—方法と適応

著者: 加藤敬徳 ,   吉矢生人

ページ範囲:P.390 - P.392

 気管内挿管は人工的呼吸管理の一環として行われる最も確実な気道確保の手段である.しかし,挿管は患者にとっては精神的,肉体的に大きなストレスになり,また非生理的な状態でもあるので,その適応には十分に注意を払う必要がある.すなわち,輸液管理,吸入療法,体位排痰(体位ドレナージ)などによる管理をうまくやれば,気管内挿管に至るまでもなく気道を確保できる例も多い.またやむをえず挿管を行ったとしても,できるだけ早期に患者の呼吸状態を改善し,抜管の方向にもってゆくよう努力する必要がある.

気管切開のタイミング

著者: 佐川弥之助

ページ範囲:P.394 - P.395

 従来から,気管切開は緊急の救命処置あるいは急性,慢性の呼吸不全の際の有力な気道確保の手段として多用されてきた.しかし,現在では緊急時に時間がかかること,および合併症が多いことなどのために気管内挿管,とくに経鼻挿管にその地位をうばわれつつあり,呼吸不全の際にも原則として気管切開を行わないとする臨床家も多い.しかし,これは気管切開を緊急時の気道確保の手段として考えているためで,これを長期にわたる呼吸不全の呼吸管理の一つの方法であると考えると,その適応もおのずから定まるものと思われる.
 また,気管切開術の施行も手術室で無菌的に気管内挿管下でゆっくりと時間をかけて行うことを原則とすべきであり,この原則を守るかぎり,その合併症は激減するものと思われる.

酸素療法

著者: 相馬一亥

ページ範囲:P.396 - P.400

酸素療法の適応
 酸素療法は組織の低酸素症に対して行うものである.生体の組織が低酸素症のために正常機能を営めない状態が呼吸不全である.組織が正常機能の破綻をきたすのは,一般にPao2が30mmHg以下,あるいは酸素飽和度(So2)が50%以下になった場合である(Campbell,1964).
 酸素ヘモグロビン解離曲線から明らかなように,Pao2が50〜60mmHg以下では著しくSo2が低下する.したがって,Pao2が50〜60mmHg以下では酸素療法は絶対的適応となる.

感染対策

著者: 小西一樹 ,   滝島任

ページ範囲:P.402 - P.406

 呼吸不全の急性増悪の誘因として,呼吸器感染症は,その頻度,重症度,予後に与える影響など,いずれをとっても最も重要な因子と考えられる.呼吸不全に陥りやすい慢性肺疾患患者にとって,換気予備力の低下によって軽度の感染侵襲が加わっただけでも,ただちに重篤な低酸素血症をきたすことが少なくなく,したがってこれらの患者においては,呼吸器感染症の病態を早期に把握し,起炎菌を可及的速やかに決定して,適切な化学療法を施すべきである.
 ところで,近年の医療環境の変化,なかでも老年人口の増加と,いわゆる第2世代,第3世代の抗生物質の矢継早の開発は,われわれが日常遭遇する呼吸器感染症の起炎菌分離頻度にも大きな影響を与えており,化学療法剤を選択する際にもこれらの点に留意する必要がある1)

輸液と電解質管理

著者: 福井俊夫

ページ範囲:P.408 - P.409

 呼吸不全例では,経口摂取の減少,不感蒸泄の増加,呼吸性アシドーシスに伴う低C1血症,体内K量の減少,低アルブミン血症などの諸因子が多面的に関与し,さらに治療に用いられる利尿剤,副腎皮質ホルモン剤などが水電解質代謝を修飾するために,脱水,浮腫,低K血症,高K血症,低Na血症,高Na血症など,いろいろな型の水電解質異常を呈しうることが知られており,輸液および電解質管理は呼吸不全の治療の一環として重要な地位をしめると言える.以下,呼吸不全の際にみられる水電解質の異常とその治療について述べる.

機械的人工呼吸

著者: 天羽敬祐

ページ範囲:P.410 - P.411

人工呼吸をいつ開始するか
 呼吸不全は一つの症状であって,疾患そのものではない.さまざまな疾患が呼吸不全の背景因子となりうるわけである.たとえば,急性左心不全による肺水腫,外傷後の呼吸不全,あるいは敗血症による急性呼吸不全など,原因は実に多彩である.したがってこれらに共通した人工呼吸の開始基準を決め,それに基づいて人工呼吸の適応を決めることはきわめて困難である.しかし具体的な開始基準をしいてあげるとすれば表のようになろう.これらのうち1つでもあれば人工呼吸の適応を考えたほうがよい.ただしこれらの条件はあくまで一応の目安であって,呼吸数が35だから適応はないとか,42回だから適応があるというような厳格なものではない.また例外もある.たとえば慢性の肺疾患患者では,通常の人では耐えられないようなPao2の低下やPaco2の上昇に案外平然としていることがある.各種の代償機転の働きによるものだが,このような場合も表の条件には当てはまらない.
 結局現時点における人工呼吸の適応は,呼吸不全の背景にある原疾患,患者の心肺予備力や年齢,血液ガス所見などを参考に総括的な見地から決めるのが最も合理的である.

ウィーニングのコツ

著者: 木村謙太郎

ページ範囲:P.412 - P.413

 「ウィーニング」(weaning)の語は,本来「引き離す」ことを表わす他動詞weanから導かれる動名詞で,一般には「乳児を離乳させること」の意味で使われる.「離乳」と,呼吸管理用語としての「人工呼吸器からの離脱」が同じことばであることに,私はつねづね偶然でない意味を感じる.哺乳によってある段階に成長した乳児を,いよいよ離乳しようと決断し,細心の注意といささかのトリックと愛情のもとに試行錯誤をくり返して,ついに離乳に成功する母親の姿は,そのまま呼吸管理にたずさわる私たちそのものではないか.
 ウィーニングに原則のあることは確かであるが,「コツ」が果たしてあるのかどうか,筆者には確信がない.とりあえず,筆者らの日常のウィーニングの経験から,若干のポイントを指摘したい.

右心不全の対策

著者: 岩崎栄

ページ範囲:P.414 - P.415

肺疾患由来の右心不全の成立
 慢性肺疾患ことに慢性閉塞性肺疾患は主として肺胞性低換気にもとづく血液ガス異常によって肺高血圧を招来する.すなわち,肺胞性低換気は肺胞気中のO2分圧を低下させ,CO2分圧を上昇させる.かかる呼吸不全状態では,肺胞から肺毛細血管へのO2の移行や血液から肺胞気へのCO2の排出が障害される.このような低酸素血症は主に循環系に影響を及ぼし,肺血管の攣縮,循環血液量の増加,赤血球増多,心拍出量増大をきたし右室仕事量が増大する.かくして右室肥大へと進展し肺性心が形成されるわけであるが,このような状態になれば,気道感染などの因子により容易に右心不全に陥る(図).

レサシテーション

著者: 森岡亨

ページ範囲:P.416 - P.417

 呼吸不全の終末像として,高度の血液ガス異常が続いたあとに生じた心肺機能停止からの蘇生はきわめて難かしい.しかし蘇生法の手技を身につけておくと,呼吸不全患者が心肺停止事故に陥るのを防ぐに有用な事例にはしばしば遭遇する.

リハビリテーション

呼吸不全患者のリハビリテーション—考え方

著者: 谷本普一 ,   蝶名林直彦

ページ範囲:P.418 - P.419

 慢性呼吸不全は,肺気腫症や胸膜胼胝など肺や気道,胸膜の不可逆的病変が形態学的基盤となっているので,長い経過のなかでそのリハビリテーションは治療上重要な役割を果たす.

呼吸不全患者のリハビリテーション—具体的に何をすべきか

著者: 千野直一

ページ範囲:P.420 - P.421

 呼吸不全のリハビリテーション(以下リハビリと略)の具体的方法を述べるにさきだち,呼吸不全による「障害」はどのようなものであるかを知らなければならない.1980年にWHOは国際疾病分類の姉妹編ともいうべき「国際障害分類」を発表した.すなわち,今まで障害ということばで漠然ととらえられていたものをimpairment(機能障害),disability(能力障害),handicap(社会的不利)という層に分けて考えるものである.つまり,呼吸不全により肺胞でのガス交換に障害をきたすことがimpairmentであり,息ぎれのために歩行不能になることはdisability,また長期入院のために職場をやめてしまうことはhandicapといえよう.
 呼吸不全のリハビリは上に述べた3層のすべてのレベルでの障害に対処すべきものでなければならない.すなわち,肺胞でのガス交換を容易にするためには,気管支拡張剤とあわせて呼吸運動や喀痰の体位性排泄がなされ,息ぎれのために歩行が十分できないときには,トレッドミルなどを用いた全身の持久力運動が必要であり,また,適切な職業の撰択や職場復帰に関しては患者や家族の相談に応じて社会的不利を克服することなどである1)

在宅酸素療法

著者: 荒井達夫

ページ範囲:P.422 - P.423

 慢性呼吸不全の特質は,加療により安定状態に達したのちにもなお慢性に低酸素血症が残存するところにある.原因疾患あるいは基礎病態の進行を阻止し,残存機能を最大限にひきだすことが治療,管理の要点となるが,その意味でも,長期の入院加療から,酸素療法を継続しながら家庭へ,そして望むらくは職場へも復帰させることは有意義であり重要である.
 長期在宅酸素療法long-term home oxygen therapyは慢性呼吸不全症例の余命を延長し,生存の質を高めることが近年明らかにされている1,2).わが国では,芳賀の全国主要施設へのアンケート集計によれば,900余名が6カ月以上の長期酸素療法を受けており,そのうち213例が在宅して本療法を受けている3).このように本療法は近年注目され,重視されてきているが,一方では,家庭で酸素を扱うことになるので,その維持,管理および内外に対する安全性への配慮が必要となる.

Current topic

腫瘍マーカーと癌のスクリーニング(対談)

著者: 遠藤康夫 ,   石井勝

ページ範囲:P.456 - P.468

 石井 今日は"腫瘍マーカーと癌のスクリーニング"につきまして,遠藤先生とお話を進めていきたいと思いますが,遠藤先生が日本ではじめてα-フェトプロテイン(AFP)を手がけられたのは,たしか1969年ごろですね.
 遠藤 そのころです.

カラーグラフ 臨床医のための甲状腺生検

乳頭癌の細胞診所見(2)

著者: 藤本吉秀 ,   小原孝男 ,   平山章

ページ範囲:P.426 - P.427

 前月号の症例に示したように,甲状腺穿刺吸引細胞診で乳頭癌の診断をつけるための指標となる所見の一つとして,まず乳頭状の増殖形態をそのまま示す細胞集団の存在をあげることができる(図1).乳頭状の細胞集団の外縁は比較的滑らかで,外に向って凸の弧を描く.内部では細胞が密集重積し,細胞間境界は明瞭でない.核は円形または長円形を呈し,強拡大で検鏡すると核の大小不同が認められる(図2).乳頭状細胞集団は良性結節の細胞診でもみられるが,それらでは細胞の密集重積が少なく,細胞間境界が明瞭で,核の大小不同がない.また,次に述べる乳頭癌に特徴的なその他の所見を欠く.これらのことから鑑別は難しくない.
 もう一つの特徴的な指標は,細網状のクロマチン分布,著明な核小体,ならびに核内封入体判定が容易であり,指標とするのに都合がよい.核内封入体は電子顕微鏡所見によると,細胞質が核内に陥入して生じたものである.この所見は濾胞癌の一部にも認められるが,乳頭癌に出現する頻度がはるかに高い.

グラフ 臨床医のための電顕写真 糸球体・3

メサンギウム

著者: 坂口弘

ページ範囲:P.436 - P.439

 糸球体のメサンギウム(mesangium)という用語は,Zimmerman(1933)が言い出したものである.図1のように糸球体の毛細血管の間にある組織をこのように呼んだ.腸間膜すなわち腸間の間膜(mesoenterium)をmesenteriumというのと同じ式で,血管の間膜(mesoangium)すなわちmesangiumがその語源である(図2).糸球体の毛細血管は腸管のように1本の管ではなく,各所で吻合した洞(sinus)状になっているのであるが,それを支えている組織がmesangiumで,血管極から糸球体の末梢まで樹枝状につながっている.もう一度腸管と比較してみれば,糸球体の外側を被っている基底膜,上皮細胞は腹膜に相当するであろう.
 メサンギウムはメサンギウム基質(Mm)とそれの中に埋まっているメサンギウム細胞(Mc)よりなっている.メサンギウム細胞は図3のような複雑な細胞突起を出しており,突起の断面が基質の中に島状にみられる.基質は基底膜と同じdensityで,どこまでが基底膜でどこからメサンギウム基質かわからないが,図4のように少しdensityの高い物質がメサンギウム基質に沈着すると(これをdepositという.図は紫斑病性腎炎のものである),メサンギウムの部も毛細血管の部と同じ厚さの基底膜で被われていることがわかる.

肺癌を疑うX線像 症例編・1

X線学的に無所見の型

著者: 雨宮隆太 ,   山田隆一 ,   斎藤雄二 ,   於保健吉

ページ範囲:P.440 - P.443

 症例1 47歳,男性.喫煙歴:タバコ20本/1日,20年以上.
 気管支肺炎の治療後,「胸部X線上左肺上葉に異常影を疑わせる陰影がみられる.」と診断され,本院へ紹介される.

ポジトロンCT

脳血管障害への応用(2)

著者: 宍戸文男 ,   舘野之男 ,   山崎統四郎

ページ範囲:P.444 - P.446

 ポジトロンCTは脳血管障害に対する外科的療法の効果の判定にも有効と思われる.また,動静脈奇形,モヤモヤ病の症例についてもポジトロンCTを行っている.これらについても興味ある所見が得られているので紹介する.

画像からみた鑑別診断(鼎談)

肝疾患—亜急性肝炎

著者: 野原秋男 ,   福田国彦 ,   川上憲司

ページ範囲:P.448 - P.455

症 例
 患者13歳,男性,学生.
 主訴全身倦怠感,腹痛,食思不振.

誌上シンポジウム 医学教育を考える—より優れた臨床医の教育のために

プライマリ・ケアからみた卒前教育の問題点

著者: 鈴木荘一

ページ範囲:P.478 - P.482

 私は医学部卒業後1年のインターンを終えてから,基礎医学としての生化学と臨床医学としての内科学と二足の草鞋を履いた研修生活ともいえる6年を過ごしてから開業し,実地医家として間もなく22年になる.この実地医家の医療が即プライマリ・ケアという考え方には異論もあると思うが,わが国のプライマリ・ケア学会の創立が1963年(昭和38年)2月に誕生した「実地医家のための会」の有志が母体になったことを考えるときに,実地医療とプライマリ・ケアとは深い連りがある.医学の進歩と医療需要の高度化から,医師の専門医志向が強まる中で,アメリカ医師会の要請によるMillis委員会レポート1)からプライマリ・ケアが発展した経過をみれば明らかである.
 さて,私はプライマリ・ケアを単なるファースト・エイドを取扱う医療や,単なる1次,2次,3次に区別する第1次医療だけを考えずに,非常に幅広い包括的なケアとして捉え,保健・医療・福祉を統合する方向で,人や人々に近接した,継続性のあるケアを実践するのがプライマリ・ケアだと考え,そのような観点から卒前医学教育の問題点に言及したい.

講座 図解病態のしくみ 神経・筋疾患・3

脳幹症候群—各障害部位における主要症状と交代制片麻痺

著者: 平井俊策

ページ範囲:P.489 - P.494

 脳幹とは,解剖学上は脳の中から外套と小脳を除いた残りの領域全体を指しているが,一般には中脳,橋,延髄を総称する言葉として使われており,ここでもこの意味で脳幹という言葉を用いることにする.
 この領域が脳全体に占める容積は比較的少ないが,この部は動眼神経(第III脳神経)から舌下神経(第XII脳神経)に至る脳神経核を含み,また錐体外路系の重要な核である赤核,黒質などもここに存在する.さらにここは大脳と脊髄との連絡路であって,狭いところを上行線維,下行線維が一定の配列で密に走っている.また,小脳に入り,あるいは小脳から出る線維が,すべて脳幹を通ることも,この領域の臨床症状を理解するうえで大切な点である.しかも,この領域には意識の維持に重要な役割を占める脳幹網様体がある.

臨床薬理学 薬物療法の考え方・16

肝障害時の薬物投与法—肝クリアランスの概念と肝疾患時の薬物投与法の原則

著者: 中野重行

ページ範囲:P.495 - P.502

 生体内に投与された薬物は,時間の経過に伴って除去されていく.この際,投与された薬物がほとんどそのままの形で腎臓から尿中へ排泄されることもあるが,生体内で主として肝臓において代謝されるという過程をへる薬物が多い.したがって,肝疾患時には薬物の代謝が何らかの影響を受ける可能性があり,合理的薬物療法を志向するためには,薬物投与設計に工夫をこらす必要も生ずることになる.
 ではいったい肝疾患の中でもどのような病態像のときに,またどのような薬物の場合に投与設計に工夫をこらす必要が生ずるのであろうか.今回は,肝疾患時における薬物投与設計を考えていく上で必要な事項をとりあげることにする.

コンピュータの使い方・9

診断の理論と応用—診断論理の2つの行き方とコンサルテーション・システム

著者: 開原成允

ページ範囲:P.503 - P.507

 医師はどうやって病気を診断しているのであろうか? 診断方法は診断学の教科書に書いてあるから,改めて問うこともない自明のことのように思われる.
 しかしそれならば,診断学を読んだ人が誰でも正しく診断できるかというと,決してそうではない.それでは,その差はどこから出てくるのであろうか?

連載 演習

目でみるトレーニング 69

ページ範囲:P.429 - P.435

アメリカの医療 Via Air Mail

スタンフォード大学小児科における診療と教育(3)

著者: 辻本愛子

ページ範囲:P.474 - P.477

うらやましい合理的システムと高い給料
 強い日本への関心 スタンフォードにはじめてやってきて驚かされたのは,決して東洋人の顔がめずらしくないことである.中国人,韓国人,日本人さらに東南アジアの人々と,ここカリフォルニアには多くの東洋人が居住しており,その割合たるや20〜30%にも及ぶかと思うほどで,とくにその勤勉さが尊ばれるのだろうか,Stanford Medical Centerの秘書やテクニシャンには非常に東洋人が多い.*東洋人の中ではもちろん,中国系の人々が圧倒的に多いのだが,よく知られているように,カリフォルニアには多くの日本入,日系人が住んでいる.戦前,戦後をとおして,日本より移り住んできた多くの日系の人々がアメリカに根づいており,すでに3世,4世の時代になろうとしているが,今もその生活の中に日本の文化をそこかしこに残している. *また最近の日本ブームもあり,日本文化に対するアメリカ人の興味は非常に旺盛で,とくに日本食への関心が高く,スタンフォード付近にある日本食レストランなどはなかなかのにぎわいをみせている.お蔭で米国滞在中の私たち日本人は苦労せず日本食を楽しむことができ,食べ物に関してのホームシックは解消される. *永くアメリカに住んでみてわかることだが,日本人の食生活はアメリカの人々のそれよりずっと豊かである.もし日本食の全然手に入らないアメリカ滞在生活を強いられたら,それだけでうつ状態になっでしまうかもしれない.

米国家庭医学の発展・最終回

米国の卒後医学教育認可機構—その自主性

著者: 木村隆徳

ページ範囲:P.470 - P.471

 持続的包括的医療の実施者―プライマリ・ケア医―の大量・急速な養成を勧告したMillis委員会は,また持続的な医学教育検討を行うべき中央団体が必要であると強調し,それまでの米国医師会医学教育理事会(Council On Medical Education)の権威に勝り,より全体的な企画と諸種機関の統合をはかることのできるものでなければならないとしました.それには政府の直接介在を排し,医学団体自身の自主的なものでなければならないという大原則にのっとったことはいうまでもありません.

CPC

右腰部から右腹部にかけて激痛出現,嘔気・嘔吐,悪寒戦標を伴った53歳主婦の例

著者: 嶋田勉 ,   浅田学 ,   鈴木良一 ,   鈴木勝 ,   安達元郎 ,   島崎淳 ,   中川成之輔 ,   甘粕誠 ,   安純徳 ,   奥田邦雄 ,   登政和 ,   近藤洋一郎 ,   宍戸英雄 ,   岡林篤 ,   中村和之 ,   斉木茂樹 ,   栗林伸一 ,   村上信乃

ページ範囲:P.510 - P.523

症例53歳主婦
初診 昭和57年6月29日 即日入院
退院 昭和57年8月11日

診療基本手技

Brompton mixtureの使用法

著者: 高尾信廣 ,   西崎統

ページ範囲:P.486 - P.487

 近年,死にゆく患者,とくに癌の末期患者のケアについての関心が高まっている.そのケアの中で疼痛に対する処置はいくつかある問題のうちの1つである.Brompton mixtureが癌の,とくに末期患者の疼痛軽減に対して有効であることは周知のとおりである.当院でも約2年前から癌末期患者の疼痛に対してBrompton mixtureが使われるようになった.そこで筆者らの臨床経験からBrompton mixtureの使用上の注意点をまとめてみた.

天地人

ノーベル賞の夢

著者:

ページ範囲:P.473 - P.473

 毎年秋になるとノーベル賞授賞者名が発表される.
 我が国では,ノーベル医学生理学賞に値する業績"独創的な発想に基づく成果"の生まれそうにない事由を明確に挙げてみたい.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?