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雑誌目次

雑誌文献

medicina20巻7号

1983年07月発行

雑誌目次

今月の主題 不整脈のトピックス 不整脈の基礎

Triggered-activityとリエントリー

著者: 平岡昌和

ページ範囲:P.1064 - P.1069

 不整脈の成因には大きく分けて,①刺激生成の異常,②興奮伝導の異常とが挙げられる.刺激生成の異常には,本来のペースメーカーである洞結節の機能亢進,逆にその機能低下のため下位の中枢がそれにとってかわる場合,洞結節以外の部位に刺激生成が亢進する場合などがある.後者は異所性自動能亢進と呼ばれ,この中には生理的な条件で特殊心筋にみられる緩徐拡張期脱分極による自動能の他に,病的ないし異常な条件でみられる自動能(これを異常自動能と称する)などいくつかの機序が含まれる.トリガード・アクティビティ(triggered-activity"誘発活動"と訳す)はこの異常自動能の中に含まれるもので,最近不整脈の成因として注目されてきたものである.いずれにしても,どの機序によるものであっても,刺激生成の異常は心筋細胞固有の活動としてあらわれてくるものである.
 一方,興奮伝導の異常は細胞と細胞,組織と組織の間を興奮が伝導してゆく過程に生じる異常であり,伝導遅延,ブロック(block)とリエントリー(re-entry)がその主なものである(表1).

Caイオンと不整脈

著者: 有田真

ページ範囲:P.1070 - P.1072

 心筋の興奮に際し,カルシウムイオン(Ca2+)が細胞外から細胞内に流入し,収縮発生の引き金(E-C coupler)となることはよく知られている.Ca2+はそれ自体がcharge carrierであるから,その細胞内流入はいわゆるslow inward current(Isi)の発生を意味し,これが活動電位第2相(プラトー相)を形成する1).また細胞内外のCa2+濃度の変化はIsiに影響を与えるのみでなく,他のイオン(Na,K)の膜透過性を変化させるので,心筋細胞膜の電気的活動性や細胞間の電気的結合に複雑な変化をひき起こす.
 ところで臨床的にCa2+動態を知る最も簡便な指標は血清Ca濃度の変化であろう.血清中の総Ca濃度の正常値は2.1〜2.6mM/L(8.5〜10.5mg/dl)である.しかしこのうち約40%は血清蛋白,約4%はクエン酸などと結合しているため,生理的活性を発揮するCaイオン(Ca2+)の形で存在するのは1.2〜1.5mM/Lと推定される(Ca2+電極による実測では1.14mM).そこで本稿では,この血清Ca濃度と不整脈の因果関係について述べてみたい.

動物不整脈モデル

著者: 橋本敬太郎

ページ範囲:P.1074 - P.1075

 動物に不整脈を作製することは,不整脈の発生原因を探ったり,新しい抗不整脈薬の薬効の検討をするためには不可欠である.この数年,抗不整脈薬の作用を定量的,定性的に検討する目的で,イヌのモデル不整脈を用いた実験をしてきたので,その経験1)と,最近行われた抗不整脈薬の前臨床試験の問題点を探るシンポジウムの成果2)をまとめてみる.

マッピングと不整脈

著者: 外山淳治

ページ範囲:P.1076 - P.1079

 薬物に難治な致死性不整脈の外科的療法が開発されるにつれ,その手術成績を上げるために,不整脈の成因となる心臓の電気興奮の異常をより詳細に把握する必要が生まれ,心腔内,心表面や体表面上の多数の点から心臓の電気興奮をマッピングする手法が臨床応用されるようになった1,2)(表).
 本稿では,心腔内,心室表面と体表面上からのマッピングの手法を概説し,それぞれの特徴と臨床応用について述べる.

逆問題

著者: 真島三郎

ページ範囲:P.1080 - P.1081

定義
 逆問題(逆方向問題)inverse problemは,近年工学系から心電図法への寄与が大きくなってよく使われるようになった言葉である.理学系のいろいろの領域で,違った意味に用いられることもあるようだが,心電図の場合,体表から得られる情報をもとにして,内部すなわち心臓の表面や心臓内で起こっている現象を推定する問題という意味である.これに対し,心臓で一定の現象が起こったときに,その影響が体表電位にどのように反映されるかという問題が順方向問題forward problemである.
 この定義からいうと逆問題は少なくとも広い意味では心電図法の課題そのものである.しかしとくに最近このような言葉が使われるのは,測定,計算の技術が進歩し,体表の多数の誘導などから心表面電位や心起電力を直接的に求めようとする研究が行われるようになったためである.近似的な意味での逆問題は心電図の歴史とともに古い.平均電気軸を求めることなどは肢誘導から心起電力の方向を決定するので,逆問題の例といえる.

電気生理学的検査

洞房結節機能

著者: 山口巖 ,   鈴木博之

ページ範囲:P.1082 - P.1085

 洞不全症候群(sick sinus syndrome)(以下SSS)は洞結節機能障害を示す臨床症状および心電図異常の一群をいう.しかし,臨床症状は洞結節機能不全そのものよりもむしろ補充ペースメーカ機能障害の結果に起因する.SSSがしばしばpan-conductional defectあるいはsick escapepacemaker syndromeとよばれる理由はここにある.したがってSSSは心臓刺激伝導系の全体的障害を示し,洞結節機能不全は単にその一部の表現にすぎない.SSSに対する電気生理学的検索は心臓刺激伝導系全体に及ぶべきであるが,本稿では洞結節機能に対する検査法に絞って述べる.

房室伝導(ヒス束心電図)

著者: 深谷真彦

ページ範囲:P.1086 - P.1088

 ヒス束心電図(His bundle electrogram,HBE)に心腔内各所の電位記録や心臓ペーシング法を組み合わせた臨床心臓電気生理検査が,各種不整脈に広く行われるようになっている.本稿では房室伝導に関する多くの知見のうち,房室ブロックおよび房室伝導の主要な電気生理現象(房室結節内の二重伝導経路とgap現象)について概略を述べる.

早期興奮症候群の電気生理検査

著者: 比江嶋一昌

ページ範囲:P.1090 - P.1092

 早期興奮症候群の特有な心電図変化は,インパルスが正規の房室伝導系を,全部ないしは一部バイパスすることによって生ずるものである.そのバイパス路(副伝導路)の種類としてはいろいろあるが,ここでは主に,Kent束タイプの早期興奮症候群を対象とした電気生理検査について概述する.

心室性頻拍の誘発

著者: 笠貫宏

ページ範囲:P.1093 - P.1095

 心室性頻拍症(以下VT)は血行動態の増悪,アダムス・ストークス発作および心室細動をひき起こし,致死的となりうる.近年,徐脈性不整脈や上室性頻拍症の診断・治療は著しく進歩したが,VTに関しては,心腔内電位図と心臓ペーシングの電気生理学的検査によるVTの機序解明,新しい強力な抗不整脈薬の開発,ペースメーカー療法および手術療法の試みなど研究の緒についたところと言っても過言ではない.
 とくに最近,心臓ペーシングによってVTを誘発し,停止させる方法が注目されている.それによってVTの機序解明が可能となり,さらに抗不整脈薬の積極的かつ客観的な薬効評価が可能となった1〜5).しかし本法が人為的に重症不整脈を誘発させるという観点から,異論も少なくなく,またその有用性と限界は必ずしも確立されていない.

ホルター心電図(携帯用24時間心電図)と応用

ホルター心電計の進歩

著者: 洞庭賢一 ,   岡島光治

ページ範囲:P.1096 - P.1097

歴史
 携帯型磁気テープ記録器による長時間心電図記録を行い,後にこの心電図波形を高速再生し異常を発見しようとするのがホルター心電図法である.この名称はアイディアを出した,米国の電気技術者のHolter博士に由来している.
 過去20年間,この方式は,高速再生の際のデータ表示法の工夫および自動分析の方向に進んできた.たとえば高速再生時(記録時の60倍,120倍,240倍)の心電図重ね合わせ表示,R-R間隔のタコグラム表現などである.また,R-R間隔の変動,QRS群の時間幅や面積の異常をコンピュータを用いて自動解析し,心室性,上室性の期外収縮を区別するやり方である.ところが,この高速再生法は,時間あたり,たくさんの心電図信号がコンピュータに入ってくることで,小さなコンピュータでは十分解析できない.

ホルター心電図からみた頻脈性不整脈

著者: 矢永尚士 ,   岡本健次 ,   畑洋一

ページ範囲:P.1098 - P.1100

 ホルター法は日常生活中の記録なので,本法により観察されるのは,主として歩ける患者の頻脈性不整脈ということとになる.

ホルター心電図からみた心室性期外収縮

著者: 小林明

ページ範囲:P.1102 - P.1103

 心室性期外収縮(以下VPC)は,急性心筋梗塞においては重要な予後決定因子である一方,しばしば健常者にも認められる,最も普通にみられる不整脈である.したがって,VPCの診断は調律異常の有無とその発生頻度に加えて,その起こり方が問題で,質的評価が要求されている.このような定量的診断には,第一にVPCの正確な診断が必要である.しかし,VPC発生の多様性の面から,通常12誘導心電図記録のような短時間記録による評価の信頼性には多くの問題点がある.これに対して,近年,ホルター心電図記録が用いられるようになり,その有用性が指摘されていることは周知の事実である.

ホルター心電図からみた徐脈性不整脈

著者: 加藤貴雄 ,   岡野和弘 ,   早川弘一

ページ範囲:P.1104 - P.1107

 最近各種不整脈が以前にくらべ臨床上興味を持たれるようになったのは,1つにはヒス東電位記録法をはじめとする種々の電気生理学的検査法の開発によるところも大きいが,一方,ホルター心電図などの長時間心電図記録法の普及により,ごく短時間一過性にしか出現しないような不整脈をも記録把握することが可能になった点もあげられよう.
 本稿では,種々の徐脈性不整脈の診断におけるホルター心電図の有用性ならびにその利用法につき概説する.

ホルター心電図による抗不整脈薬の効果判定

著者: 田辺晃久

ページ範囲:P.1108 - P.1109

 従来,抗不整脈薬の効果判定は1分間あるいは3分間心電図記録の不整脈の減少率により評価がなされてきた.しかし,不整脈は日内変動あるいは日差変動が少なくなく,短時間での薬効の評価については大きな問題があった.
 最近,24時間連続心電図記録法(ホルター法)が普及し,長時間での不整脈の定量解析が容易となった.とくに心室期外収縮(VPC)に関しては日内変動,日差変動について定量的に詳細に分析されている1,2).また,抗不整脈薬の抗VPC効果の評価についてもホルター法は重要な1方法となりつつある.

抗不整脈薬

抗不整脈薬の薬理学的分類

著者: 西尾昌憲 ,   山崎純一 ,   真柴裕人

ページ範囲:P.1110 - P.1111

 近年,微小電極法を用いた心筋細胞内活動電位の研究が広範に行われ,抗不整脈薬の電気生理学的な性質が解明されて,抗不整脈薬はその作用機序に基づいて分類されるようになった.

抗不整脈薬の血中濃度と作用

著者: 小西與承

ページ範囲:P.1112 - P.1113

 切れ味の鋭い抗不整脈薬ほど両刃の剣の側面を持ち,好ましからざる作用(中毒)を現わす頻度が増す.したがって,たとえば外来患者に対して慢性投薬を行う場合などは,安全を見込んで少なめの用量とすることになる.
 しかし,こと不整脈に関しては1発の期外収縮が心室頻拍〜細動を誘発する可能性なきにしもあらずで,作用濃度が低すぎるための治療失敗例もかなりあるはずである.そこで各症例について適切な薬剤の種類と用量を選択するにあたり,血中濃度についての考慮は欠かせない.

抗不整脈薬の副作用

著者: 杉本恒明

ページ範囲:P.1115 - P.1118

 表は富山医科薬科大学病院の医薬品集1)から抜萃し,要約したものである.禁忌(絶対禁忌)と慎重投与(相対的禁忌)は副作用のゆえに使用できない,ないしは使用しにくい状態といえる.共通したこととしていえるのは,薬剤過敏性のあるときは当然として,洞徐脈や刺激伝導障害のあるとき,心不全状態にあるときには注意を要することである.肝・腎障害はそれが薬物によって起こる場合の他に,薬物の代謝,排泄が遅れて蓄積し中毒を生じる危険があるために問題となる.

新しい抗不整脈薬

著者: 加藤和三

ページ範囲:P.1119 - P.1121

 近年,disopyramideをはじめとする種々の新しい抗不整脈薬が開発されつつある.それらのうち,現在わが国で市販されているのはdisopyramideと以前に抗狭心症薬として認可されたverapamilの2つにすぎず,mexiltine,aprindineなどは目下治験中であるが,在来の薬剤に抵抗する不整脈にも有効な場合のあることが知られており,近い将来臨床に供されるものと思われる.

不整脈と外科

プログラマブルペースメーカー

著者: 横山正義

ページ範囲:P.1122 - P.1123

 数百キロメートル上空の人工衛星を地上から操作でき,家庭ではテレビのチャンネルを無線で選択できる.
 患者体内に植え込まれたペースメーカー特性を体外から変換できるのは,エレクトロニクスの進歩のおかげである.プログラム可能なのは,最初はレートのみであったが,数年前より,数項目以上のプログラムができ,年々,可変項目は増加している.

不整脈の外科治療

著者: 三崎拓郎 ,   三井毅 ,   鎌田栄一郎 ,   岩喬

ページ範囲:P.1124 - P.1129

 電気生理検査に基づいた不整脈の外科治療にはめざましいものがあり1),種々の頻脈性不整脈が外科的根治可能となっている2).これらの不整脈のうち本稿では,心室性頻拍,WPW症候群の外科治療につき教室の経験をもとに述べることとする.

鼎談

不整脈の治療の実際

著者: 春見建一 ,   中田八洲郎 ,   早川弘一

ページ範囲:P.1130 - P.1143

不整脈治療の変遷/洞性頻拍の治療/上室性期外収縮の治療/一過性心房細動の治療/慢性の心房細動の治療/心房粗動の治療/PSVT(発作性上室性頻拍)の治療/心房性の頻拍の治療/心室性期外収縮の治療/R on Tの治療/心室頻拍の治療/心室細動の治療/徐拍性不整脈の治療/房室ブロックの治療

理解のための10題

ページ範囲:P.1144 - P.1146

Current topic

胆汁酸と病気(2)—胆汁酸の臨床—胆石の成因と溶解療法を中心に(対談)

著者: 大菅俊明 ,   多賀須幸男

ページ範囲:P.1184 - P.1196

 多賀須 今回は胆汁酸の臨床についてうかがいます.先天性胆汁酸代謝異常症は,胆汁酸代謝の研究に非常に大事な病気だと思いますが,たくさんあるものですか.

カラーグラフ 臨床医のための甲状腺生検

腺腫様甲状腺腫の細胞診所見

著者: 藤本吉秀 ,   小原孝男 ,   平山章

ページ範囲:P.1148 - P.1149

 腺腫様甲状腺腫は,多中心性に甲状腺濾胞上皮の過形成とコロイド貯留が起こり,そこに出血,壊死,結合織増生,石灰沈着などの2次的退行性変化が加わり,過形成と退行性変化とがくり返し起こることによって多発性結節の形をとる疾患である.病因は,外国のヨード不足地帯のものを除くと不明である.しかし,家族性発生の認められるものが多く,何らかの遺伝性代謝異常が関与している可能性が高い.
 病理組織学的に腺腫様甲状腺腫は2つに分類できる.すなわち,①甲状腺全体に大小多数の結節が生じ,個々の結節の境界は不明瞭で,結節以外にほとんど正常な甲状腺組織の残っていない,狭義の腺腫様甲状腺腫(図1)と,②数個の結節が生じているが,結節間の甲状腺組織はほぼ正常である,いわゆる腺腫様結節(図2)がある.

グラフ 臨床医のための電顕写真 血液・3

急性単球性白血病

著者: 小川哲平

ページ範囲:P.1158 - P.1162

 急性単球性白血病は,急性前骨髄球性白血病とならんで,急性白血病の中でも特有の病像を呈することが多い.皮膚や歯齦,時に中枢神経系への浸潤をみることがある.血清中や尿のリゾチーム値(ムラミダーゼ値)が高値であり,その白血病細胞は核の分葉が著明であり,貧食性が旺盛であり,フッ化ナトリウムで阻害される非特異的エステラーゼ反応が陽性であるという特徴がある.
 急性単球性白血病の病型分類は,単球の起源をめぐり,多くの議論がなされてきた.単球を顆粒球と同様に骨髄系細胞とするもの,あるいは組織球由来とするもの,さらにこれらの2型の存在を主張するものや1型の主張などがあり,またその概念についても若干の異なった用いられ方がされている.

肺癌を疑うX線像 症例編・5

淡い肺野腫瘤影

著者: 西脇裕 ,   西山祥行 ,   北谷知己 ,   松山智治

ページ範囲:P.1164 - P.1169

 症例9 55歳,女性,喫煙歴(-).
 2年前,手指冷感,咽頭部異和感など訴え某病院を受診.その際,胸部X線撮影を受けている(図8b),最近,同様の訴えを覚え某病院を受診.胸部X線像にて異常影を指摘される.

NMR-CT

NMR(核磁気共鳴)-CTとは

著者: 池平博夫 ,   福田信男 ,   館野之男

ページ範囲:P.1170 - P.1171

 NMR-CTは,いわゆるNMR(Nuclear Magnetic Resonance,核磁気共鳴)現象を利用して,X線CTで得られるような生体の断層撮影を行うことができる新しい技術によって作られたコンピュータ断層撮影装置である.
 NMR-CTの原理は,次のようである(図1).原子核を構成する陽子と中性子の数がいずれか一方,あるいは両方とも奇数であるような原子核には核スピンがあって,これらが磁場中に置かれ適当な周波数,すなわち環境の磁場強度と核種によって決定される共鳴周波数の電磁波がかけられると,そのエネルギーを吸収して原子核は高いエネルギー準位へと励起される.また,電磁波が切られると共鳴周波数の電磁波を放出して平衡状態へもどろうとする.このときに観測される信号をFID(自由誘導減衰)信号といい,NMR映像法の基本的な信号となるものである.

画像からみた鑑別診断(鼎談)

腎盂腫瘍

著者: 大西哲郎 ,   多田信平 ,   川上憲司

ページ範囲:P.1172 - P.1181

症例
 患者 T. U. 41歳,男子.
 主訴 無症候性肉眼的全血尿.

誌上シンポジウム 医学教育を考える—より優れた臨床医の教育のために

プライマリ・ケアからみた卒後教育の問題点

著者: 村山正昭

ページ範囲:P.1218 - P.1221

 卒後ただちに専門科に入り研修を開始するストレート方式に対して,ローテイトでなくてはいけない理由は何かとの指摘に対しては,プライマリ・ケア(以下PC)をすこしでも経験すればその答は明らかなように思う.しかし現在そのシステムがないからgeneralな研修を保証できない,あるいはgeneralな研修の必要を感じながらも専門科にストレートに入ってしまうというのが現状ではないだろうか.
 そして一定期間の修練をおえた医師が独立して医療を行ってみると,これだけの経験があったのだからこなしていけるはずと思っていたことが,実際はまったく無力であったり,経験例と相違した結果に終わることがしばしばである.研修内容に不備があったためではなく,一定期間にしぼった卒後研修については万全でかつ普遍的な方式はあり得ないのではないか.昭和45年に卒業後,東京警察病院内科における5年間の経験をもとに問題点を具体的にあげてみた.

講座 小児診療のコツ・1(新連載)

こどもを診療するにあたって—心構えとチェックポイント・検査と治療の選択の注意点

著者: 大国真彦

ページ範囲:P.1223 - P.1227

連載にあたって
 今回,「小児診療のコツ」と題して1年間の連載講座を企画するにあたり、従来のものと少し趣きを変え「症状別小児診療のコツ」を小児科専門の方に執筆していただくことにした.これはある意味で小児の症状をどのように考え,どのように対処してゆくかということであり,幸い執筆陣にそれぞれベテランの先生方を得て,小児をみる機会の多い実地医家,研修医および小児科の臨床実地をまとめようとする医学生の方々のお役に立つものとなることを信じる.

コンピュータの使い方・12(最終回)

コンピュータ応用の将来へ向けて—パソコンの将来性・医学におけるコンピュータ利用の方向・情報交換の場

著者: 三宅浩之 ,   土肥一郎 ,   浅原朗 ,   開原成允 ,   坂部長正

ページ範囲:P.1229 - P.1238

 坂部(司会) この1年間「講座=コンピュータの使い方」を連載してまいりまして,数々の反響が編集室にも,執筆したわれわれのもとにも参っております.個々の内容についてのご助言,ご提案もございましたが,概ね読者の方々には好評をいただいたようです.
 当初本講座を企画,編集するにあたり,医師,とりわけ本誌の主な読者である内科医の方々に,いわゆる"コンピュータ・アレルギー"を持っている方が多いのでは,との危惧から,その項目の立て方,執筆の方法については色々苦心した次第です.ところが,この1年の間にワープロを含めて,マイコン,パソコンの一大ブームとなり,コンピュータを知らなければ時代に乗り遅れるといった,コンピュータ大衆化の状況を呈して参りました.読者の方からも,マイコンの医学応用についてとりあげてほしいとの要請もございましたが,ここで本講座の所期の目的は一応達せられたこととし,こうした新たな状況にどう対応したらいいか,という問題も含めて,本講座の編集メンバーの先生方に,しめくくりのお話し合いをしていただきます.

図解病態のしくみ 神経・筋疾患・7

感覚障害

著者: 高橋昭

ページ範囲:P.1239 - P.1246

感覚・知覚・認知の定義
 感覚(sensation,sense)外界の物体からくる刺激によって生体の感覚器にもたらされる反応過程をいう.末梢における感覚の機能をとくに示すときは受容(reception)ともいう.広義には,体の一部で受け取った刺激が求心性神経によって大脳皮質の中枢に伝えられ,その刺激に対応した中枢亢奮を生ずる過程全体を指す.英語のsensationとsenseとの間には必ずしも明確な区別はない.
 知覚(perception)刺激を出す物体を意識内容とする過程を示し,とくにヒトにおいて用いられる.

境界領域 転科のタイミング

急性膵炎

著者: 小西孝司 ,   泉良平 ,   宮崎逸夫

ページ範囲:P.1198 - P.1202

 急性膵炎は腹痛を主徴とした疾患で,古くより急性腹症の中に包括されている.
 本症の本態は,活性化した数多くの膵酵素の膵間質内逸脱によって引き起こされる自己消化であり,初期治療に適切さを欠くと,病変は膵局所のみにとどまらず,膵周辺から後腹膜他臓器へと波及する.さらに血中に逸脱した膵酵素および,これらによって誘発された毒性物質が,心,肺,腎などの主要臓器を障害し,いわゆる多臓器障害(multiple organ failure)となり死に至ることが多い.

ベッドサイド First Contact(新企画)(座談会)

腹水

著者: 池上文詔 ,   藤田善幸 ,   吉岡成人 ,   西崎統

ページ範囲:P.1204 - P.1210

症例
 患者 M. Y. 76歳,男性
 既往歴 73歳 糖尿病,74歳 肝硬変,肝性昏睡,76歳前立腺肥大で手術タバコ20本/日(約50年);酒(-)

連載 演習

目でみるトレーニング 73

ページ範囲:P.1151 - P.1157

診療基本手技

腰椎穿刺のコツ

著者: 大生定義 ,   西崎統

ページ範囲:P.1248 - P.1249

 腰椎穿刺は臨床研修中にベッドサイドでよく行う重要な検査手技の1つである.この検査は有用な情報が得られるので,早く熟練すべきである.

Via Air Mail アメリカの救急医療・1

ペンシルバニア大学付属病院救急室の24時間

著者: 北井暁子

ページ範囲:P.1212 - P.1217

 私がアメリカにきた第一の目的は,アメリカの医療,殊にプライマリ・ケアの現状をこの目で見,日本の医療問題の解決に役立てたいということであった.ところがアメリカに来て驚いたことは,アメリカの医療が日本で想像していたものよりはるかに複雑で病院差がはげしいことだった.
 そこで私は,ペンシルバニア大学一般内科(Sectionof General Medicine)のプライマリ・ケア研修プログラムに席をおき,アメリカのプライマリ・ケアの実態をつかむため関連病院にて,臨床実習を受けつつ,医師と患者の接点を観察することにした.

天地人

年齢今昔

著者:

ページ範囲:P.1211 - P.1211

 日本人の平均寿命は戦後急速に延びたが,だいたいここらで頭打ちであろうという.それにしてもわが国は世界でも有数の長寿国ではある.最近の新聞にでた総理府発表によると昭和57年10月で日本の人口が1億1869万になり,そのうち65歳以上が9.6%を占めるという.各方面で高齢者社会への対応が論義されるのも当然である.
 老人問題を背景とした小説で「恍惚の人」というのが話題になっていたことがあったが読んでいない.私にとっては深沢七郎の「楢山節考」が強烈な印象を与えた作品として記憶に残っている.これは棄老伝説を題材としているが,じめじめせず,深沢七郎独自の不思議な雰囲気が語られる親棄の話である.1956年の第1回中央公論新人賞の当選作として世に出た.点の辛い批評家としても知られた小説家の正宗白鳥氏がこの楢山節考を評して「人生永遠の書の一つ」とまで言って激賞したという.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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