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雑誌目次

雑誌文献

medicina20巻8号

1983年08月発行

雑誌目次

今月の主題 臨床医のための神経内科学

理解のための10題

ページ範囲:P.1328 - P.1330

検査でどこまでわかるか

ベッドサイドの神経学的検査

著者: 本多虔夫

ページ範囲:P.1258 - P.1265

 神経系はその大部分が身体の深部に位置しているので必ずしも視診,触診には向いていないが,機能が各部分により異なるので,筋力・反射・知覚などその機能を調べれば,ベッドサイドの診察でも病巣の位置,広がりを明らかにすることができ,またそれから病巣の性状などもかなり正確に把握することができる.またくり返し診察することにより疾患の推移も知ることができる.しかし診察には被検者の協力が必要であり,意識や知能が障害されている者や乳幼児では診察から得られる情報も限定されざるをえず,また病巣が大脳のsilent areaに生じたり,あるいは病巣の機能が正常組織によって代償されるような場合にも,その病巣の存在が診察で見逃されることがある.
 以下にベッドサイドの神経学的検査のやり方を述べるが,神経系は頭から足の先までおよんでいるので,検査は系統だって行われることが必要であり,各検者は自分なりに順序を決めておいて,それに従ってすすめていくことがのぞましい.

眼球運動

著者: 清水夏繪

ページ範囲:P.1266 - P.1267

 過去十数年間に眼球運動に関する研究は著しく進み,神経生理学的あるいは工学的方法でその病態生理が理解されるようになった.
 眼球運動は次のように分けることができ,これらのsubsystemについて検査が行われる.すなわち,注視点を動かすときに生ずる急速な眼球運動(saccade),動くものを見るときに生ずる緩徐な運動(pursuit),前庭由来の眼球運動,動く視界によって生ずる眼球運動(optokinetic response),両眼視に際して生ずる眼球運動(vergence)などである.

筋電図

著者: 飯田光男

ページ範囲:P.1268 - P.1270

 筋電図(EMG)は,四肢脱力あるいは筋萎縮のある場合に,それが神経原性(neurogenic),あるいは筋原性(myogenic)起因かを決定するときに,きわめて有用な補助診断である.しかし,この方法は定性であり,定量的な表現のために末梢神経伝導速度を併用するのが好ましい.

脳波

著者: 寺尾章

ページ範囲:P.1272 - P.1273

 脳波は脳の機能検査の代表的なもので,神経疾患の診断に重要な検査である.脳波検査の特徴と利点は次のように要約できる.①脳波は中枢神経系の機能を総合的かつ力動的な波形として反映する.②脳波検査は患者に苦痛を与えず,危険を伴わず,絶対安静のまま施行できる.③経時的に検査を重ねることにより,病状経過や予後の判定に役立つ.④CTスキャンとの併用により有用度が一層高まる.

鑑別診断のポイント

頭痛

著者: 坂井文彦

ページ範囲:P.1274 - P.1275

 頭痛はめまい,しびれとともに神経内科外来でもっとも頻度の高い訴えの1つである.頭痛の訴えは病態生理学的要因のみならず,心理学的要因にも強く影響を受けることが多く,また頭痛の訴え方もそれぞれの患者によりさまざまに異なることが多いため,詳細な問診が不可欠となり,診断にかなりの時間を必要とすることが多い.頭痛が本来自覚的な症状で他覚的所見に乏しいため,問診にある程度の時間をさくことは不可欠としても,頭痛の成立機序あるいは病態生理を十分理解しておくことにより,問診を効果的に,またより短時間に行うことは可能である.鑑別診断が中途半端なまま単に鎮痛剤あるいは精神安定剤の長期投与を行うことは,時として器質性疾患による頭痛の診断を遅らせる原因ともなる.

めまい

著者: 濱口勝彦

ページ範囲:P.1276 - P.1277

 患者がめまいを訴えたとき,どれだけの疾患・病態を念頭において鑑別診断を進めるか,具体的に重要なポイントについて述べる.

しびれ

著者: 村井由之

ページ範囲:P.1278 - P.1279

 しびれは国語辞典によると痺れと書き,からだの感覚が失われ,運動の自由がきかなくなることである.すなわち,感覚と運動の障害を意味する.しかしながら,狭義には,運動障害は運動麻痺または麻痺と呼び,感覚障害をしびれと呼ぶので,ここでは狭義のしびれ,すなわち感覚障害について述べることにする.
 さて,患者がしびれを訴えて来院したとしても,しびれのみで診断できるものではない.しびれ以外の症状を聞き,病歴をとり,全身理学的検査,神経学的診察を行って診断を下さなくてはならない.しかし,ここでは本項の主旨に従って,しびれの診断上ポイントとなる点についてできるだけ平易に述べる.

歩行障害

著者: 高橋昭

ページ範囲:P.1280 - P.1281

 立位の保持や歩行の観察は神経診察上大きな手懸りを与えるもので,おおよその診断を歩行の検査中につけることができる例が少なくない.診察者は診察手技の一つとして歩行障害を分析できるよう訓練しておくことが望まれる.
 診察は被験者が近づく足音から始まっている.診察室に入ってからの一挙手一投足すべてが有用であり,ズボンの着脱,ベッドへの寝かた起きかた,椅子への座りかた立ちかた,その動作のいずれに対しても観察の眼を疎かにしてはならない.

痴呆

著者: 黒岩義之 ,   東儀英夫

ページ範囲:P.1282 - P.1283

 一度発達をとげた知能が障害され,その障害が一過性でなく持続性である場合にこれを痴呆と呼ぶ.具体的には言語機能,記憶力,視空間認知,感情,人格,抽象能力,計算能力などが障害をうける1).痴呆患者をみたときに重要なことは,①家族から詳細な病歴を聞くこと,②慎重に内科的診察と神経学的診察を行うこと,③痴呆が治療可能な原因によるものではないか考察すること,④必要な臨床検査を実施すること(表1),⑤治療可能な原因が発見された場合に治療を速やかに始めることである.痴呆は意識障害や錯乱状態とは区別されるべきであるが,痴呆と一過性の軽い意識障害や精神機能低下と区別しがたい知能障害を呈する疾患(たとえば代謝性脳症)をも以下の記述に含めることにする.

診断基準

多発性硬化症

著者: 音成龍司 ,   柴崎浩

ページ範囲:P.1284 - P.1286

 1868年Charcotによって多発性硬化症(multiple sclerosis,以下MSと略)の臨床病理像が詳細に報告されて以来,MSに関して多方面にわたる研究が行われてきた.CharcotはMSの臨床的3徴候として断続性言語,企図振戦,眼振をあげている.わが国ではそれが重視されたためか,MSの存在は長い間否定的であった.しかし1955年黒岩らによってMSの疫学調査が行われ,MSに関する知識と研究が全国に普及した.わが国におけるMSの有病率は人口10万対1〜4である.それに対し欧米では,MSは若年成人の神経疾患のなかで最も多い疾患の1つであり,有病率は30〜80である.
 MSを要約すると,臨床的には主として若年成人に急激に発症し,種々の中枢神経症状が緩解と再発をくり返すことを特徴としている.病理学的には中枢神経に脱髄斑が多発し,その部分がgliosisのため硬化することを特徴としている.本症の診断は,MSに特異的な検査がまだ確立されていないので,病歴と神経学的徴候に基づいてまったく臨床的に下されなければならない.したがって本症の診断にあたっては,その診断基準がとりわけ重要な位置を占めることになる.そこで本稿では,欧米の診断基準を紹介するとともに,最近わが国で用いられている診断基準を中心に述べる.

Guillain-Barré症候群

著者: 若宮純司 ,   井形昭弘

ページ範囲:P.1287 - P.1289

 Guillain-Barré症候群(以下GBSと略す)は1916年Guillain G,Barré JA,およびStrohl Aらが髄液の蛋白細胞解離を示し,完全に治癒したidiopathic polyradiculoneuritisの2症例を報告してはじめて注目され,その後,Landry's paralysisとの相異が問題となり,症候学的にもかなりvariationのあることが明らかになった.本稿では本症候群の診断基準と臨床像を論じたい.

重症筋無力症

著者: 宇尾野公義

ページ範囲:P.1290 - P.1291

 重症筋無力症(MG)は特有な臨床症状の把握,そして薬物試験により比較的容易に診断しうる.筋電図所見や免疫学的検査も参考となる(表1).

注目されている疾患

Tolosa-Hunt症候群

著者: 後藤文男

ページ範囲:P.1292 - P.1294

疾患概念の確立と命名
 1954年Tolosa1)は片側眼窩痛を伴う片側眼筋麻痺の1症例を報告し,その原因が内頚動脈海綿洞部周囲の肉芽腫性炎症によるとした.1961年にはHunt2)が同様の症状を示す6例を報告するとともに,本症候群のおおまかな診断基準を記載した.彼はこれを"painful ophthalmoplegia"として,Charcotの記載した"ophthalmoplegic migraine"と区別した.その後,Smith & Taxdal3)はさらに同様の5症例を報告するとともに,これらの症状に対して副腎皮質ステロイドが著効を呈することを強調した.彼らは,これらの症例が明らかに独立した1疾患単位であるとして,"Tolosa-Hunt Syndrome"と命名した.ここに本症の疾患概念が確立したといってよい.
 筆者は厚生省ウイリス動脈輪閉塞症研究班の研究4,5)の一環として,日本におけるTolosa-Hunt症候群56例の統計的分析を行う機会があったので,このデータを中心にして本症の病態を解説する.

色素異常,剛毛,浮腫,免疫グロブリン異常などを伴う慢性多発ニューロパチー

著者: 佐野元規 ,   塚越廣

ページ範囲:P.1296 - P.1297

 1968年深瀬ら1)は,孤在性形質細胞腫を有する36歳女性例で全身の著明な色素沈着,多発ニューロパチー,浮腫,剛毛,糖尿病,無月経などの臨床症状を呈し,血清M蛋白成分を認めた症例を報告した.この症例は腹腔内の鶏卵大の孤在性形質細胞腫を摘出後,M蛋白は消失し諸症状は寛解したが,その後再発し多発ニューロパチー,色素沈着,浮腫,脱水症が進行し,約7年の経過で死亡した.
 さらに臨床的に類似の症状を呈する2症例が岩下ら,鵜沢らにより報告され,1974年高月らは2)多発ニューロパチーおよび内分泌症状を伴うplasma cell dyscrasiaは1つの症候群として把握すべきものであると提唱した.その後,主に本邦を中心として類似の症例報告が相次ぎ,外国からの同様の症例報告も見られるようになり3),特異な症候群を形成すると考えられている.井形らはわが国の報告例の症候中最も頻度の高いものをとってPigmentation,Edema,Polyneuropathy(PEP)症候群と仮称した.現在未だ統一的な名称はない.

Chorea-Acanthocytosis

著者: 鬼頭昭三 ,   岸田健伸 ,   糸賀叡子

ページ範囲:P.1298 - P.1299

概念
 acanthocytosis(棘状赤血球症)を伴いchorea様不随意運動を主徴とする遺伝性疾患である.家系内に,神経および精神症状とacanthocytosisの組み合わせに解離を認める場合がある.

治療の現状

片頭痛,筋収縮性頭痛,三叉神経痛

著者: 丸山勝一

ページ範囲:P.1300 - P.1302

 頭痛は日常診療上きわめて多く見られる愁訴の1つで,その多くは慢性頭痛または反復性頭痛であるが,そのほか急性発症で激しい頭痛も認められる.慢性反復性のものは,ほとんどが血管性,筋収縮性もしくは心因性である.急性激烈な頭痛の場合には,脳腫瘍,くも膜下出血など,重大な器質的疾患の症状であることが多い.本稿ではこれらのうち,片頭痛,筋収縮性頭痛の治療について述べ,また併せて顔面の疼痛を示すものの1つである三叉神経痛について述べる.

顔面神経麻痺

著者: 鳥居順三

ページ範囲:P.1304 - P.1305

 末梢性顔面神経麻痺は,顔面神経が脳幹の顔面神経核から末梢に至る経路のどこかで障害されて起こる.このうちもっとも多いものが,原因のはっきりしない特発性顔面神経麻痺で,いわゆるBell麻痺といわれるものである.これ以外に顔面麻痺を起こす原因となる疾患には,腫瘍,脳動脈瘤,感染症,外傷,脱髄疾患などがある.これらの原因の明らかな疾患は,原疾患の治療が主となるので,ここではBell麻痺の治療について述べる.
 Bell麻痺の発症機転には諸説があり,細小動脈の乏血,潜在ウイルス感染による骨性顔面神経管内浮腫による圧迫などが考えられ,トリガーになるものに感染,ストレス,寒冷曝露などがあるとされている.

パーキンソン病

著者: 水野美邦

ページ範囲:P.1306 - P.1307

 パーキンソン病治療の主流は,依然として末梢性dopa脱炭酸酵素阻害剤併用によるL-dopa療法であるが,初期の大量投与中心から可及的少量投与法へと変わってきている.また第1選択薬にL-dopaを用いるかどうかに関しても,最近は再び抗コリン剤にてADL(日常生活動作)の十分な改善の得られない場合にL-dopaを用いるという消極的な使用法に変わってきている.このような変遷をきたした第1の理由は,L-dopaによるADLの改善が長続きしないこと,長期使用により種々の問題点を生ずることがわかってきたことによる.短期間の使用で比較すれば,抗コリン剤も塩酸アマンタジンも,その効果においてL-dopaに及ばないが,上記の理由で再びその価値が見直される一方,L-dopaの出現によってもパーキンソン病の治療は解決にほど遠いことが認識され,今後さらに新しい治療法開発の努力が必要な段階である.本稿では,最初L-dopa長期治療に伴う問題点を簡単に解説し,最後にパーキンソン病治療に関する私見をまとめとして述べたいと思う.

不随意運動(ヒョレア,ジスキネジア,ジストニー,ミオクローヌスなど)

著者: 柳沢信夫

ページ範囲:P.1308 - P.1309

 不随意運動の治療は薬物療法が基本であり,一部の症候に対して運動療法,定位脳手術が行われる.不随意運動のなかで,不規則で奇妙な動きを呈するヒョレア(舞踏病),ジスキネジア,アテトーゼ,ジストニーはいずれも基底核の障害によるが,治療薬はそれぞれ異なる.ミオクローヌスは大脳・脳幹に主な病変部位を有し,疾患も異なるが,治療薬は限られたものが有効である.これらの不随意運動は神経系の病変部位によって規定される症状であり,治療は原因疾患に対するものと,症候に対する治療の2つを行う.本稿では対症的な薬物療法を中心に述べる.

脊髄小脳変性症

著者: 祖父江逸郎

ページ範囲:P.1310 - P.1311

 脊髄小脳変性症(SCD)は運動失調を主症候とし,小脳およびそれに関連する神経経路の変性を主体とする原因不明の変性疾患の総称で,その中にはいくつかの疾患が含まれる.したがって,運動失調を主症候とする症候群の中でも,代謝異常や免疫異常によることが明らかにされた疾患は含まれない.この中に含まれる疾患の分類についてはこれまでも種々の試みがなされてきたが,いずれも問題点があり,すっきりした形に整理されていない.脊髄小脳変性症調査研究班(班長;祖父江逸郎)では,暫定的であるが,表のような分類をまとめている.わが国における頻度調査では,主として脊髄型としてのフリードライヒ病などは比較的少なく,大半は主として小脳型および脊髄小脳型で占められている.表の分類中4.,5.に属するものはきわめて少ない.
 さて,SCDの治療については,原因が不明で,緩徐進行性の経過をとり,これまで的確な方法がないとされていた.しかし最近,このような変性進行性の疾患についても,病態に対応するような何らかの対策を講ずることにより,ある程度の効果があることが明らかにされてきた.ことにSCDの運動失調に対しthyrotropin releasing hormone(TRH)が有効であることが祖父江(1977)により見出されて以来,脊髄小脳変性症治療剤開発研究班(班長;祖父江逸郎)において,二重盲検比較対照臨床試験が実施され,その有効性が確認された.

重症筋無力症

著者: 西谷裕

ページ範囲:P.1312 - P.1313

 重症筋無力症(myasthenia gravis,以下MG)の治療の歴史をふり返ると,新しい治療の試みが新しい学説を生み出し,次の病因・病態の研究の進展をうながしている点で興味がある.
 すなわち,1934年のフィゾスチグミンに始まるいわゆる抗コリン・エステラーゼ剤による薬理学的治療法の導入は,本症の病態が液性物質による神経筋接合部の興奮伝達障害にあることを証明することになった.また,本症の10〜20%に胸腺腫を合併することから経験的に行われるようになった胸腺摘出術の成績は,1960年Simpson1)によって,ヒト胸腺の自己免疫における重要な役割を予言させることになった.

座談会

脳梗塞の診療をめぐって

著者: 山之内博 ,   荒木五郎 ,   赫彰郎 ,   田崎義昭

ページ範囲:P.1315 - P.1327

 田崎(司会) 脳梗塞は,最近患者数が非常にふえてきています.脳梗塞死自体をとってみても,戦後脳卒中のなかで脳梗塞死の割合がだんだんふえてきまして,昭和49年に脳出血死と同じになり,昭和55年には脳出血死の大体1.5倍になっています.

Current topic

サルコイドーシス—10年の進歩

著者: 泉孝英

ページ範囲:P.1366 - P.1381

 "壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫(サルコイド)病変形成を主徴とする病理組織所見から名付けられた全身性疾患"であるサルコイドーシスは,昭和20年代迄はわが国ではきわめて稀な疾患の1つであった.30年代になって,ときに結核検診の胸部X線フイルムで発見されるようになり関心を惹くようになった.40年代になると決して稀な疾患ではなくなり,50年代に至っては,少なくとも呼吸器科領域ではときに遭遇する疾患の1つになってきた.と同時に,難治症例としてのサルコイドーシス症例の存在が,臨床上の1つの問題になりはじめてきている.
 サルコイドーシスは,欧米では第2次大戦前から広く知られていた疾患であったが,第2次大戦中,兵士の集団検診の胸部X線フイルムから多数のBHL(両側肺門リンパ節腫脹,bilateral hilar lymphoma,lymphadenopathy)症例が発見されたことから,各国,とくにアメリカで本症に対する積極的な関心が示されるようになった.1958年に,ロンドンで最初の国際的なサルコイドーシスに関する研究集会が開かれた.1960年にはワシントンで再び国際的な研究集会が第2回国際サイコイドーシス会議の名で開催され,今日におけるサルコイドーシスの概念の確立をみるに至った.国際会議は以後3年毎に開催されることになり,1972(昭和47)年9月には東京で第6回会議が開催されている.

カラーグラフ 臨床医のための甲状腺生検

濾胞腺腫の細胞診所見

著者: 藤本吉秀 ,   小原孝男 ,   平山章

ページ範囲:P.1332 - P.1333

 触診上,表面が平滑で可動性に富む単発性の甲状腺結節は大体良性のものと推測できる.さらに超音波検査を行って,嚢胞状の断層像を示すときは腺腫様甲状腺腫の結節が考えられ,完全に充実性あるいは一部に小嚢胞腔を有するがほとんど充実性のときは,濾胞腺腫の可能性が高いと判断できる.
 濾胞腺腫は,病理組織学的にみると,コロイド腺腫(colloid adenoma)と管状腺腫(tubular adenoma)が多く,その他に索状腺腫(trabecular adenoma),好酸性細胞腺腫(oxyphilic cell adenoma)などがある.

グラフ 臨床医のための電顕写真 血液・4

急性リンパ球性白血病とペルオキシダーゼ急性白血病

著者: 小川哲平

ページ範囲:P.1342 - P.1346

 急性リンパ球性白血病(acute lymphoblastic leukemia,ALL)は表面マーカー,モノクロナール抗体,terminal deoxynucleotidyl transferase(TdT)などによる免疫学的な検索が近年急速に発展し,その分化成熟段階による解析が進みつつある.
 一方FAB分類では,急性白血病において,ペルオキシダーゼ反応が,芽球の3%未満の場合にALLと規定している.これは急性白血病患者の骨髄でも,正常な骨髄芽球が3%程度は存在するであろうという理解に基づいている.ALLはL1,L2,L3の3型に分類される.L1は小児に多く,common ALLによくみられる.細胞の大きさが小リンパ球の2倍位までの小細胞性で,核の型は比較的に整っていて,核小体はあっても小型で不明瞭である.細胞質は少なく,好塩基性が弱い.このような細胞が比較的均一に存在することが特徴である.L2は小リンパ球の2倍以上の大型の細胞で,核の形は不整で,核構造は微細なものが多い.核小体は存在し明瞭である.細胞の大きさや核の形に多様性がみられるのが特徴である.L3(Burkitt type)は大型の細胞で均一性があり,B細胞である.核の形は整って,核小体がある.好塩基性の強い豊かな細胞質を持ち空胞が目立つ.

肺癌を疑うX線像 症例編・6

濃い肺野腫瘤影

著者: 雨宮隆太 ,   山田隆一 ,   斉藤雄二 ,   於保健吉

ページ範囲:P.1348 - P.1352

 X線学的に肺野腫瘤型を示す腫瘍は,前月号で述べた腺癌が約80%を占める.腺癌は周囲の気管支,血管の集束像が特徴であり,高分化癌ほどこの集束傾向が強くなる.一方,肺野腫瘤型で周囲肺実質を圧排性に増殖する腫瘍は,大細胞癌と末梢型扁平上皮癌,充実性増殖を示す低分化腺癌にみられる.
 今回は濃い肺野腫瘤影で圧排性増殖を示す肺癌である.

NMR-CT

NMR-CTの頭部への応用(1)

著者: 池平博夫 ,   福田信男 ,   館野之男

ページ範囲:P.1354 - P.1356

 NMR-CTではX線CTと異なり,骨のイメージが陰性像となることと,軟部組織間のコントラストが強くつくことなどによって,頭部,とくに脳の形態や脳実質の病変,あるいはX線CTで骨のアーティファクトの生じる後頭蓋窩の病変検索に有用である.
 頭部は頭部専用のRFコイルを製作することによって,脳の範囲に有効視野をしぼることが可能で,S/N比と分解能を向上させることができる.さらに呼吸などの動きで生じるアーティファクトによる画質劣下が少ないために,比較的容易に良質な画像が得られる部分である.脳に生じる病変は,大抵の場合神経学的な検査法による局在部位の推定と,X線CTによる形態的変化によって診断されることが多く,脳のように直視することのできない臓器については非侵襲的な検査法が望まれる.X線CTはその意味で画期的な手法であったが,骨によるアーティファクトや脳の軟部組織のコントラスト分解能の点で,NMR-CTでは水素の緩和時間の情報を含んだ画像が得られ,軟部組織の微妙な変化を捕えるのに非常に鋭敏で,X線CTに優る手法であると考えられる.

画像からみた鑑別診断(鼎談)

腎細胞癌

著者: 大西哲郎 ,   多田信平 ,   川上憲司

ページ範囲:P.1358 - P.1365

症例
 患者 44歳,男子.
 主訴 腰痛.

誌上シンポジウム 医学教育を考える—より優れた臨床医の教育のために

米国の家庭医教育からみた日本のプライマリ・ケア教育の問題点

著者: 木村隆徳

ページ範囲:P.1394 - P.1397

非能率性
 インターン制の廃止が米国で1966年に勧告された1)理由は,インターン制が不必要ということではなく,米国の医学教育は学部のベッドサイド教育が非常に強力に実施されるので,現場訓練プログラム(clerkship,preceptorship)を加えて,従来のインターン訓練の実質は医学部卒業までに修了してしまっていると判断したからです.その結果,米国の総合臨床医の卒後教育は3年間の家庭医学レジデンシーで修了し,専門医試験を受けることになります.この濃厚,強力な訓練を経て実地診療にたずさわる家庭医で,この訓練課程が不十分であったと答えた者はわずか3%であり,75%は十分であったと答えています2)し,レジデンシー開始9カ月後に受ける臨床能力(clinical competence)評価試験(National Board of Medical Examiners Part Ⅲ)で,学部在学中(Part Ⅱ)より上昇したのは家庭医学レジデントのみである3)という実効が示されています.
 もう1つの勧告は,学部卒後直ちにレジデンシーに入る場合,他専門科レジデンシーと共通する部分を病院全体の責任で共通に訓練することにより能率と協調をあげようということでした.

講座 図解病態のしくみ 神経・筋疾患・8

脳血管障害—脳出血,脳梗塞,一過性脳虚血発作(TIA)の病態

著者: 神田直

ページ範囲:P.1399 - P.1403

 脳血管障害の主要な病型は,脳血管の破綻による脳出血と,脳血管の閉塞による脳梗塞の2つに大きく分けられる.いずれも脳において急激な循環障害を生じ,その程度により意識障害と多彩な脳局所神経症状を呈する.最近CTの普及によるデータの蓄積や三次元的局所脳循環測定法の臨床的応用により,脳血管障害の病態はより詳細に明らかになりつつある.

小児診療のコツ・2

発熱-感染性発熱へのアプローチと解熱剤投与上のポイント

著者: 塙賢二

ページ範囲:P.1405 - P.1409

 小児の発熱とは何度何分までをいうのか,ということについては一定の見解はない.最も多いのが温度表,体温計の赤印から37℃以上を発熱とみる傾向やら,いつも(?)より高いという漠然たる印象が主に母親を支配している.
 そこで,臨床医としては発熱か体温かの区別をまずしっかりもち合わせて保護者に対応すべきことが第1義である.

臨床薬理学 薬物療法の考え方・17

老年者における薬物投与法—老年者の生理と薬物投与設計の基本概念

著者: 中野重行

ページ範囲:P.1411 - P.1418

 人口構成の高齢化にともなって,薬物療法を受ける老年者の数は年々増加の傾向を示している.老年者の薬物療法で注目すべきことは,薬物による有害反応(adverse drug reaction)の頻度が,若年者に比較して増加するということであろう1〜3).たとえば,薬物有害反応の頻度は,40歳代で約12%であるのに比較して,80歳以上になると約25%に増加する4).また,薬物有害反応の出現頻度が加齢に伴って増加し,70歳代には20歳代に比較して約7倍になるとの報告もある5)
 それでは,老年者に薬物による有害反応がこのように増加するのは一体どのような理由によるのであろうか?また,老年者における薬物療法時に有害反応の出現を最小限にとどめるためには,予防的にどのようなことを行えばよいであろうか?今回は,老年者における合理的な薬物投与法について考えてみることにしよう.

境界領域 転科のタイミング

急性動脈閉塞症—とくに心疾患に合併する動脈塞栓症

著者: 岩井武尚

ページ範囲:P.1382 - P.1386

 脳と心臓の虚血に関しては,内科医,外科医の双方とも強い関心をもっており,現在のところその連係プレーはうまくいっているようであるが,その他の臓器の虚血ということになると必ずしもうまくいっていないようである.内科系の方々には関心が少ないのかもしれないが,消化管,泌尿生殖器,四肢の骨・筋肉などに起こる虚血は,もしそれが急激に起こると脳や心臓の場合のようにすぐに死と結びつかないまでも,それに準ずる重大事件として患者の生命,社会生活を脅かすことは事実である.
 血液の流れなくなった臓器はどんなものでも,そのまま体の中に入れておけば患者の死につながるし,虚血にさらされた臓器は,それがどんなに小さくても甦らせるのが医師の務めであり,しかもかなりの分野でそれが可能な時代になってきたといえる.

連載 演習

目でみるトレーニング 74

ページ範囲:P.1335 - P.1341

CPC

無尿,黄疸,呼吸苦を主訴とし,低酸素血症の治療に反応せず,入院後4日で死亡した54歳男性

著者: 中川成之輔 ,   吉沢煕 ,   登政和 ,   中原利郎 ,   安達元郎 ,   安徳純 ,   大屋滋 ,   平岡純 ,   山口一 ,   浅田学 ,   奥田邦雄 ,   宍戸英雄 ,   鈴木勝 ,   村上信乃 ,   近藤洋一郎 ,   松嵜理 ,   岡林篤 ,   秋草文四郎 ,   斉木茂樹 ,   今井賢二 ,   伊良部徳次

ページ範囲:P.1423 - P.1438

症例 54歳 男性 自営業
初診昭和57年2月13日即日入院
死亡昭和57年2月16日

診療基本手技

深部腱反射の診かた

著者: 大生定義 ,   西崎統

ページ範囲:P.1420 - P.1421

 CTスキャンなどの画像診断の発達により,一般に診察が軽視される傾向が見うけられるが,神経学的診察についてはCTでは見つけることのできない病変や説明不可能な場合も多く,重要性はかえって増大しているといえよう.注意深く,ていねいに患者を診ることが正しい診断,よい治療に直結するので,とくに臨床研修中にしっかりと正しい診察法を体得しておくことが肝要と思われる.そこで,今回は神経学的診察の中で深部腱反射をとりあげ,ポイントを述べる.

Via Air Mail アメリカの救急医療・2

フィラデルフィア小児病院の救急室

著者: 北井暁子

ページ範囲:P.1388 - P.1392

 前回はペンシルベニア大学付属病院における救急室での体験を紹介したが,今回は,そのとなりにあるフィラデルフィア小児病院の救急室について紹介したい.
 まず最初に断わっておかなければならないことは,米国の大学病院では小児科が大人の科と完全に独立して存在していることだ.たとえば,大人が中耳炎になったときは,大人の科の耳鼻科にいくが,子供が中耳炎になったときは小児病院の耳鼻科につれていく,というように大人と子供は別々のところにつれていく.救急室の場合は,大人と子供を一緒に受けつけるところと,ペンシルベニア大学のように,完全に分離しているところがあるが,いずれの場合も,大人を診る医師と子供を診る医師は別々である.したがって小児科の救急室とその診療を理解するためには,最初に米国の病院における小児科の位置を説明しておかなければならない.そのために,まず,大学病院と小児病院の関係を説明することから話をすすめたい.

天地人

卒業年次を止揚しよう

著者:

ページ範囲:P.1387 - P.1387

 私という人間は,もともと甘いせいもあるが,よほど「書くこと」が苦にならない,あるいは好きなのかもしれないと,自分でなぐさめている.本の序文というむつかしい文章も,ずいぶんと,頭をひねって書いた経験をもっているが,この「天地人」という随想は,執筆をひきうけたものの,あとで悔いた.テーマがあたえられない短文をコナすことが,たいへんむつかしいことは,骨身にしみているはずなのにと思う.
 いま,この短文は,東京にむかうジェットのなかで書いている.このところ,病院の管理職で,ペンを握ることだけに専念できるという,臨床研究者にとって最大の喜び,楽しみをうばわれてしまっている.毎日,多くの人と会って,ハンコを押すことで,時間が失われてゆく.部厚い本を,片っぱしから読み通した若い時代を,もう一度取り返したい.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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