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雑誌目次

雑誌文献

medicina21巻10号

1984年10月発行

雑誌目次

今月の主題 リンパ系疾患へのアプローチ

理解のための10題

ページ範囲:P.1804 - P.1806

リンパ系の発生と解剖

リンパ球の発生と組織への移行

著者: 成内秀雄

ページ範囲:P.1714 - P.1718

 リンパ球はT細胞,B細胞と呼ばれる集団に大別される.両者はいずれもpluripotent stem cellsから,細胞の置かれた環境とあらかじめプログラムされた細胞内の情報によって分化すると考えられている.T細胞系の細胞は胸腺内で分化すると考えられている.すなわち胸腺はT細胞系の中枢と考えられる.一方,B細胞系の細胞は鳥類を除き一定の中枢的器官をもたない.鳥類では総排泄口近くの腸管にFabricius嚢があって,これがB細胞の分化の中枢と考える人が多い.Abramsonらの実験より,これらT,B細胞はリンパ球以外の各種の細胞に分化し得るpluripotent stem cellsから,一旦分化の方向の決まったstem cellsに分化し,これらが各々対応する環境下で各種の機能をもつリンパ球に分化すると考えられる1)(図1).

リンパ節と脾臓の解剖と機能

著者: 若月進 ,   片山勲

ページ範囲:P.1720 - P.1725

 リンパ節および脾臓の解剖と機能を相関させ,立体的に理解するには,Aschoffの細網内皮系ないしvan Furthの単核食細胞系などの概念を導入し,その枠組の中で捉えてゆくことが最も正統的アプローチであると慣習的に考えられてきた.しかし,近年は免疫学の目ざましい進歩に即応するために,リンパ節と脾臓の形態的しくみ(解剖)は,まさに免疫組織そのものであり,リンパ節と脾臓の機能はともに,免疫機能そのものであるというように,この2臓器を積極的に免疫学に直結させて把握しようとするアプローチが一般化しつつある.
 ここ数年来,PAP immunoperoxidase染色法をはじめ,諸種の免疫組織学的技法が開発され,リンパ球サブセットの局在性や,抗原動態の解析にさかんに応用されている.このことは,免疫疾患や,造血器腫瘍の本質的理解をますます深めるとともに,生検材料の病理診断のうえでも大きな貢献をもたらしつつある.

リンパ球の解剖

リンパ球のSurface Marker

著者: 安倍達

ページ範囲:P.1726 - P.1727

免疫担当細胞
 免疫応答はきわめて複雑な反応系である.それが完全に作動するためには,いろいろな細胞が関与する.しかし,そのなかで中心的な役割を果たしているものはリンパ球である.免疫応答に関与するリンパ球を始めとするさまざまな細胞群は,免疫担当細胞とよばれる.免疫担当細胞としては,リンパ球はもちろんのこと,マクロファージ,肥満細胞,好酸球なども含まれる.しかし,免疫応答におけるリンパ球の役割は最も重要である.それはリンパ球のみが免疫学的特異性をもち,しかも免疫学的記憶をもちうる細胞であるからである.

T-cell Subpopulations

著者: 関秀俊 ,   長沖武

ページ範囲:P.1728 - P.1729

 ヒトのT細胞は,従来よりヒツジ赤血球とロゼット形成することが知られており,またIgG-Fcレセプター陽性細胞とIgM-Fcレセプター陽性細胞に大別され,それぞれサプレッサーT細胞とヘルパーT細胞とされていた.しかし,最近開発されたモノクローナル抗体(MoAb)の利用により,ヒトT細胞サブセットの抗原構成がより明らかとなり,さらにT細胞分化や機能の解析も進歩した.
 現在最も完備したMoAbとしてOKTあるいはLeuシリーズの抗原系が知られており,本稿でもそれらを中心に述べる.

B-cellからPlasma cellへ

著者: 近藤直実

ページ範囲:P.1730 - P.1732

 免疫応答機構の中で,B細胞(B cell)は成熟(増殖と分化)して抗体である免疫グロブリン(Ig)を産生分泌する形質細胞(plasma cell)となる.この過程には多くの場合,T細胞やマクロファージなどからの働きかけが必要で,それは細胞が直接に,あるいは液性因子(たとえばT細胞因子──Bcell growth factor,BCGFやB cell differentiation factor,BCDF)を介して行われている.またこの間,B細胞自身の中では種々な生化学的変化が起こっており,Igの産生についてはIg遺伝子による調節やクラススイッチが行われている.このようなB細胞の成熟過程,すなわち免疫応答機構のどこかで障害が生ずると,その結果としてIgは産生分泌されないか,または著しく低下し,すなわち免疫不全症が発症する.

B-cell,T-cell,マクロファージの免疫学的相互関係

著者: 河野陽一 ,   宮城裕之

ページ範囲:P.1734 - P.1735

 免疫応答ネットワーク
 免疫応答は,T-cell,B-cell,そしてマクロファージ(Mφ;抗原presenting細胞)など,いくつかの免疫担当細胞の相互作用により構成されたネットワークによって機能している1)
 抗体産生にT-cellとB-cellとの相互作用が必要なことは,周知のとおりであり,B-cellはT-cellの介助により抗体産生を行う.この際,B-cellは表面レセプター(免疫グロブリン)により抗原を認識し,その抗原に特異的な抗体を産生する.T-cellも,細胞表面のレセプターによって抗原を認識することにより活性化される(図1).このレセプターの抗原に対する特異性は,免疫グロブリンのVH遺伝子とは異なる遺伝子によって遺伝的に支配されていることが,最近解明された.

リンパ系疾患の診断

リンパ節腫大(脾腫)のある患者のみかた

著者: 外山圭助 ,   新保卓郎

ページ範囲:P.1736 - P.1737

 □理学的所見
 触診の方法は,指と皮膚を密着させ,皮下組織の上で皮膚を動かすようにして探る.皮膚の上で指を動かすのではない.また,頸部リンパ節群をみるときは,首をやや前傾させ,さらに検査側の方を向かせて頸部の筋群を弛緩させると観察しやすい.胸鎖乳突筋内側にある深頸部リンパ節群は観察しにくい.これらを探るためには第2,3指を鉤状に曲げ,第1指との間ではさみこむようにみる.すべての表在性リンパ節領域をくまなく調べる.とくにホジキン病,非ホジキンリンパ腫の疑われる場合は,鎖骨下,肘部(Epitrochlear),膝窩リンパ節も忘れないようにしたい.
 触知可能なリンパ節がすべて病的というわけではない.1cm以下で小さく,可動性があり,圧痛がなく,軟らかく,平坦で楕円型のリンパ節は,しばしば正常人でも触れる.また,頸部,腋窩,鼠径部リンパ節は,反復する小さな外傷や感染のため腫大していることがある.しかし鎖骨上リンパ節腫大は重大な疾患の存在を意味し,即座に生検を考慮してよい1)

免疫学的検査法

著者: 根来茂 ,   大西和子

ページ範囲:P.1738 - P.1739

 免疫機能を担っている細胞群は,免疫担当細胞と呼ばれている.免疫機能は,一般に体液性免疫と細胞性免疫に大別され,前者はB細胞の,後者はT細胞の働きに基づいている.しかし実際,生体内では複雑な相互作用が行われており,効果発現のためには補体,好中球,細網内皮系の協力を必要としている.したがって,免疫機能検査に当たっては,T細胞やB細胞のみではなく,補体や他の白血球機能についても検査を行う必要がある.現在一般に行われている免疫学的検査を表に示したが,近年免疫学の進歩につれてますます多様化している.これらの検査を無秩序に行うことは慎むべきで,まず病歴を十分検討し,簡易な検査でスクリーニングを行い異常を確認した後,より特殊な検査へと進むべきである.

画像診断—リンパ造影を中心に

著者: 古寺研一

ページ範囲:P.1740 - P.1744

 リンパ系疾患の画像診断というと,リンパ造影の他に,CT,超音波断層,リンパシンチグラムなども行われるようになってきているが,あくまでもその主体はリンパ造影であると考えられる.本稿では,各種リンパ系疾患におけるリンパ造影所見を中心に述べる.

リンパ系疾患の臨床

伝染性単核症とヘテロファイル抗体陰性単核症

著者: 新居美都子 ,   中村正夫

ページ範囲:P.1746 - P.1749

 Epstein-Barr virus(EBV)が伝染性単核症(IM)の病原と推定されてから十数年を経過した現在,IMは臨床,血清学的ならびにウイルス学的検索から,診断はさほど困難なものではなくなった.すなわち,発熱,リンパ節腫脹,扁桃炎,脾腫などの主徴に加え,末梢血リンパ球の増加(異型リンパ球の出現),ヘテロファイル(異好)抗体陽性,肝機能障害をみ,各種EBV抗体の有意の消長があれば確実といえる1-5).とくにヘテロファイル抗体は,現在のようにEBV各種抗体が知られる以前から,IMの重要な診断根拠とされていた.現今でもポール・バンネル抗体はEBV特異IgM抗体と関係があるともいわれ,診断的価値は依然高い.

Angioimmunoblastic Lymphadenopathy

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.1750 - P.1751

 angioimmunoblastic lymphadenopathyは,Frizzeraらによって1974年に発表された症候群である.その後1975年に,さらに多くの症例を集めて臨床的,病理的に研究したところ,悪性腫瘍性変化のみられないリンパ腫様症候群であるとされた.高γグロブリン血症を伴うため,angioimmunoblastic lymphadenopathy with dysproteinemia(AILD)とよばれる.さらに全身性リンパ節腫脹,肝脾腫,皮疹などが伴う.病理学的にはリンパ節の正常構造の破壊がみられ,カプセルへの浸潤が存在することも証明されている.リンパ節には活性化したリンパ球,形質細胞,リンパ芽球が存在しているが,悪性変化はみられないとしている.
 一方,Lukesらは別個に,immunoblastic lymphadenopathy(IBL)という概念の症候群を発表した.形態学的には,①リンパ芽球の増殖,②小血管構造の増殖,③間質組織への無構造物質の蓄積である.また,組織球の出現,好酸球の浸潤など,ホジキン病に類した変化もみられる.

急性リンパ性白血病(ALL)—FAB分類

著者: 恒松由記子

ページ範囲:P.1752 - P.1756

 白血病患者の病態を把握し,治療法を選択し,予後を判定するために最も重要な役割をはたしてきたのは形態学的分類であった.増殖している細胞の形態が正常細胞のどれに似ているか,その分化度はその細胞系列のどの時期に対応するかで従来の分類がなされてきたが,形態学的な分類手法のみでは必ずしも細胞起原にせまることができず,とくにリンパ球系の腫瘍では免疫学的なマーカーによる分類のほうが,予後因子を解析するうえでより重要になった.その他,染色体異常に基づく分類,電顕的手法による細胞の同定,酵素細胞化学的所見などのさまざまな方法により,各種の白血病細胞の起原が論じられている.このような中で基本となるのは細胞の形態であり,かえって形態学的分類の重要性が再認識され,新しい手法による知見との関連性も興味がもたれている.
 最近まで白血病の国際分類がなかったので,その診断は客観性に乏しく,異なる施設間あるいは小児科・内科の間にもさまざまなくい違いがあった.この問題を克服するために,1975年French-American-British(FAB)cooperative groupはFAB分類を提唱した1).その後も問題点が話し合われ,1980年に前骨髄性白血病にmicrogranular form2)を追加,81年にはリンパ芽球性白血病にscoring system3)がとり入れられた.

急性リンパ性白血病(ALL)—小児

著者: 恒松由記子

ページ範囲:P.1758 - P.1761

 1970年代に中枢神経系白血病の予防を主軸とするプロトコールがとり入れられてから,小児のALLの5年後初回寛解維持率はわが国でも50〜60%に上昇したが,最近は治療成績の上昇率が世界的に鈍っている.80年代に入り,免疫学的マーカーやその他の生物学的予後因子の理解が深まり,予後の悪いグループは別に初期から多剤を大量に用いる一方,予後のよいグループは晩期障害のことを考えてなるべくアルキル化剤などの発癌物質を用いないで,しかも早期に治療を打ち切る傾向になってきている.

急性リンパ性白血病(ALL)—成人

著者: 大野竜三

ページ範囲:P.1762 - P.1763

 小児急性白血病の75〜85%を占める急性リンパ性白血病(ALL)は,成人急性白血病においては10〜20%にすぎない.小児ALLにおいては,化学療法を中心とする治療で50%以上の5年生存が得られるようになっているが,成人ALLの治療成績は未だ満足すべきものは得られておらず,現在では急性骨髄性白血病(AML)のそれに劣るほどとなっている1)
 本稿では,成人ALLの特徴とこれまでの治療成績について述べるとともに,その研究の今後の課題について言及する.

成人T細胞白血病(ATL)

著者: 高月清

ページ範囲:P.1765 - P.1768

疾患概念
 成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia,ATL)は,次のような臨床的特徴をもつ疾患として提示された.
 1)成人に発症する.

Hairy Cell Leukemia

著者: 本間富夫 ,   片山勲

ページ範囲:P.1770 - P.1771

 hairy cell leukemia(以下HCLと略す)は本邦では稀な疾患であり,一般医家が実際に診療する機会は少ない.しかし,ユニークな細胞形態を示す白血病細胞はhairy cellと命名され,その細胞起原が未解決であるため,世界中の多くのlabo-ratoryで盛んに研究されている.すでに多くの研究成果が報告されているが,そのなかにはHCLについての理解を深めるのに役立つとともに,血液学,病理学,免疫学の進歩に重要な新知見も少なくない.したがって今日では,HCLは一般医家もある程度知っておかなければならない疾患の1つに数えられている.以上の観点から,HCLに関して重要と考えられることを以下にあげることとする.

リンパ腫―Favorable Type

著者: 白川茂 ,   北堅吉 ,   三輪啓志

ページ範囲:P.1772 - P.1774

 リンパ節やリンパ組織をもつ臓器に原発する非上皮性悪性腫瘍である悪性リンパ腫は,ホジキン病(HD)と非ホジキンリンパ腫(NHL)に二大別され,この両者は病理組織学的所見,疾患の自然歴を含めた臨床病態など,生物学的な特性の相違により,区別して検討されている.
 HDについては,欧米ではmustargen,oncovin,procarbazine,prednisoneの4者併用によるMOPP療法を始めとする多剤併用化学療法の導入により,病期Ⅲ,Ⅳ期の進展症例でも治癒が期待されるようになり1),長期生存例の増加とともに他種の二次性悪性腫瘍の発生が問題になっている2).一方,NHLは生物学的に多様多彩なリンパ腫が包含されているが,しばしば予後的見地から病期の進展症例でも,①予後良,好群("good-risk" or "favorable" group),②予後不良群("poor-risk" or "unfavorable" group)に二分される3).通常,予後良好なリンパ腫(favorable lymphoma)という場合はNHLの予後良好群を指す場合が多いが,本稿ではリンパ腫―favorable typeとしてのHDに触れ,ついでfavorable NHLにつき述べてみる.

リンパ腫—Unfavorable Type

著者: 上岡博

ページ範囲:P.1776 - P.1778

 非ホジキンリンパ腫の治療成績は,多剤併用療法の導入により,近年著しい進歩をとげ,従来予後不良とされていたunfavorable histologiesにおいては,進展期症例ですら,一部のものは化学療法による治癒が可能であるとみなされている.本稿では,このunfavorable histologiesの治療,予後,とくに進展期症例における化学療法に対する反応性を中心に論じてみたい.

リンパ腫—Stage Ⅰ・Ⅱの非Hodgkinリンパ腫の治療

著者: 近藤誠

ページ範囲:P.1780 - P.1781

 放射線だけで治療すると,Ⅰ・Ⅱ期であっても照射野外に再発しやすいのが,非Hodgkinリンパ腫の特徴である.しかも,再発部位の予想は困難で,照射野を大きくしても治癒率を上げられる保証はない.一方,化学療法単独では,主腫瘍塊のあったところに再発が生じやすい.両者を上手に使いこなすことが肝腎である.筆者らの経験では,Ⅰ・Ⅱ期例というと,頭頸部初発,それもWaldeyer輪を侵すものが多いという印象である.リンパ節初発のものはむしろ少なく,それらにはfavorable histologyを呈すものが多いようでもある.本稿では,unfavorable histologyのリンパ腫の取り扱いの解説を中心とする.

多発性骨髄腫—診断基準,病期分類,症状

著者: 加納正

ページ範囲:P.1782 - P.1785

 骨髄腫は,血清・尿蛋白の電気泳動上均一成分(M成分)として把握される単クローン性IgG,IgA,IgD,IgE,Bence Jones(BJ)蛋白を産生分泌する形質細胞の腫瘍性増殖疾患である.骨髄腫は,1)顕性(overt),2)変異型(variant),3)前骨髄腫(premyeloma)の3つのカテゴリーに分けて考えるとよい(表1)1).後述のように,2)と3)についての正しい認識は,有害な治療を避けるためにきわめて重要である.

多発性骨髄腫—治療

著者: 古沢新平 ,   山崎竜弥

ページ範囲:P.1786 - P.1790

 多発性骨髄腫の治療は,抗腫瘍療法と支持療法とからなる.抗腫瘍療法は化学療法が主体であり,そのほかときに放射線療法が行われ,また近年はインターフェロン療法が話題となっている.化学療法が開発される1950年代以前の多発性骨髄腫の50%生存期間は約6ヵ月にすぎなかったが,化学療法と支持療法の進歩があいまって,近年は3年前後と著しく延長した1).本症の自然経過はおおむね緩慢であるが,かなり短いものから著しく長いものまで多様であり,合併症の多彩なこととあいまって,本症の治療には症例ごとのきめの細かい配慮が必要である.以下,本症の治療の現況と問題点を概説する.

免疫不全症候群

B-cell Deficiency

著者: 早川浩

ページ範囲:P.1792 - P.1794

 原発性免疫不全症候群のうち,B cellの欠陥を主因とし,免疫グロブリンや抗体の産生不全をきたす疾患は,WHO委員会によれば1),表1に示すごとくである.また,いわゆるcommon variable immunodeficiencyの多くは,やはりB cellの欠陥を主因とするものと考えられ,表2のごとく分類されている.
 一般に,B cellの発生と成熟については,図のような模式図が考えられており,B cell不全症は,このいずれかの過程における分化成熟の異常に基づいて発生するとされる1).B cellの成熟には,T cellによる影響が大きい場合が多いので,B cell不全症とされる疾患においても,T cellの主として調節能に問題がある場合がしばしばであることは,表からも明らかであろう.

T-cell Deficiency

著者: 矢田純一

ページ範囲:P.1796 - P.1797

 T細胞は,骨髄などの造血器に由来する未熟リンパ球が胸腺に入り,その影響下に特定の形質と機能をもつリンパ球に分化したものである.したがって,T細胞の欠陥はその分化に必要な上皮性胸腺の異常によっても,リンパ系細胞自身の異常によっても発生する.
 T細胞の欠陥があると,その排除にT細胞の存在を必要とするウイルス,サルモネラ,リステリア,結核,真菌などの感染防御に不全が現れる.移植拒絶反応が低下し,輪血などにより他人のリンパ球が侵入してくると,それが生着してgraft versus host(GVH)反応を起こす危険がある.検査では,Phytohemagglutinin(PHA)や同種リンパ球の刺激に対する培養リンパ球の増殖反応の低下,末梢血T細胞(ヒツジ赤血球とのロゼット形成性,T3抗原やLeu4抗原の存在で同定される)の減少,皮膚遅延型過敏反応(ツベルクリン,PHA,カンジダ,DNCBなど)惹起能の低下がみられる.

重症複合免疫不全症(SCID)

著者: 崎山幸雄

ページ範囲:P.1798 - P.1799

 重症複合免疫不全症(severe combined immunodeficiency;SCID,以下SCIDと略)はT,B細胞の重篤な欠陥を有し,免疫能が治療により回復されなければほぼ2歳までに重症感染により死の転帰となる原発性免疫不全症で,その病態はheterogenousなものと考えられている.1982年のWHO原発性免疫不全症の分類では,SCIDには,①Adenosine deaminase欠損,②reticular dysgenesis,③T,B細胞欠損,④B細胞保有,⑤bare lymphocyte syndromeの存在することが明らかにされている.
 本邦におけるSCIDの頻度は昭和58年5月時点で56例であり,うちAdenosine deaminase欠損によるSCIDは4家系,reticular dysgenesis 1例,bare lymphocyte syndromeはこの時点では報告がないので,そのほとんどがB細胞保有型とT,B細胞欠損型になる.

免疫不全症候群と感染症

著者: 古川漸 ,   李次男 ,   福田豊

ページ範囲:P.1800 - P.1803

一般的特徴
 免疫不全症候群では,原発性であろうと続発性であろうと共通した最大の問題は易感染性である.一般に,免疫不全状態における感染には共通の問題として表1に示すような事項が考えられる.
 第1に感染頻度の増加があげられる.小児では成人に比べて感染頻度が多いことが常であるが,その頻度が異常に多いことで免疫不全症が疑われることがしばしばある.

グラフ 胸部X線診断の基礎

撮り方と読み方(10)

著者: 新野稔

ページ範囲:P.1808 - P.1812

胸部正面像の区分
 胸部正面像はX線透過性の高い肺組織のある肺野と,X線透過性の低い縦隔部の中央陰影に分ける.
 肺野は便宜上,上・中・下の3つに区別され,上肺野(upper lung field)は鎖骨陰影より下部で,左右第2肋骨の先端部,肋骨前方下端を結ぶ線,水平線より上方に存在する肺野の部分である.鎖骨陰影,鎖骨上縁より上部に現れる肺野を特に肺尖部(apex)とよぶ(図1).下肺野(lower lung field)は左右の第4肋骨の先端,前方下端を結ぶ線より下方の肺野をいう.中肺野(middle lung field)は前述の2本の線の間にある肺野をいう(図2).中央陰影については前述した.

画像からみた鑑別診断(鼎談)

脊髄空洞症

著者: 阿部俊昭 ,   多田信平 ,   川上憲司

ページ範囲:P.1822 - P.1830

症例
 患者 21歳 男性.右利き.
 主訴 両上肢の筋力低下および筋萎縮.

演習

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1815 - P.1821

講座 図解病態のしくみ びまん性肺疾患・10

特発性間質性肺炎の病態を把握するための検査法—治療と関連して

著者: 橋本修 ,   堀江孝至

ページ範囲:P.1841 - P.1847

症例
 〔症例1〕43歳,女性,主婦.
 主訴:咳,呼吸困難.

Oncology・10

Oncological Emergencies(1)—癌による機械的障害

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.1849 - P.1853

 癌患者が種々の合併症を起こしやすいのは周知のごとくである.しかし,いわゆるoncological emergencyといわれる病態は,大別して,①癌がmechanicalに障害をきたした場合,②癌が基礎となり代謝的障害をおよぼした場合と,③重症感染症を起こした場合の3つがあげられる.癌の治療において,抗腫瘍剤の治療方法・副作用を熟知しておくのみならず,癌患者に合併する救急の事態も理解し,的確な処置を行わなければならない.今回は癌による機械的障害について述べる.

境界領域 転科のタイミング

感染性心内膜炎の手術適応

著者: 小柳仁 ,   今村栄三郎 ,   遠藤真弘 ,   中村憲司

ページ範囲:P.1832 - P.1839

 感染性心内膜炎(infective endocarditis;IE)は抗生物質の使用により大きな変貌をとげてきたが,真菌,リケッチア,クラミジア,ウイルスが起炎菌として検出され初めてきたため,かつて呼び慣らされた細菌性心内膜炎(bacterial endocar-ditis;BE)の名称は不適当となり,感染性心内膜炎と呼ばれるようになってきた.
 多数の起炎菌出現以外に,リウマチ熱およびリウマチ性心疾患の減少,老人の増加,副腎皮質ホルモン,免疫抑制剤の使用,心臓手術,人工透析などの進歩,覚醒剤,麻薬の浸透,加えて心臓手術における人工材料の挿入(人工弁,人工パッチ,ペースメーカー)などにより,この疾患の病態も大きく変ってきたといわれている.

ベッドサイド First Contact(鼎談)

結腸癌の既往があり,食欲不振,頻発する嘔吐,便秘を訴えて来院した57歳の男性

著者: 伊藤敏雄 ,   松尾史朗 ,   松枝啓

ページ範囲:P.1858 - P.1868

 松枝(司会) first contactで一番大切なことは,患者に遭遇した場合,絶えずcost effectivenessを考えて,より経済的に,しかも患者のリスクを侵さずに,いかに合理的に問題の核心に触れ,より迅速に正しい診断を下し,治療方針を確立するかということにあります.今日は伊藤先生に症例を提示していただいて,この症例をまったくご存じない松尾先生に,この患者にどう対処するか,実際の状況を想定したうえでお考えいただき,必要に応じて私がコメントするという形で話を進めていきたいと思います.

診療基本手技

—知っておきたい他科疾患のfirst aid—四肢の骨折,脱臼の処置

著者: 黒田栄史 ,   西崎統

ページ範囲:P.1856 - P.1857

 内科医が診察するチャンスが多いと思われる整形外科的疾患には,外傷,腰痛,腫瘍の骨転移などがある.今回は四肢の外傷,とくに骨折や脱臼の救急的処置に関して述べてみたい.

当直医のための救急手技・耳鼻咽喉科系・1

耳痛

著者: 岡本誠

ページ範囲:P.1876 - P.1877

 耳痛の診断にあたっては理学所見,なかでも外耳道,鼓膜の視診所見が決め手になる.しかし,それは耳鼻科以外の医師にとっては最も困難な手技であろう.特に患者が小児である場合はことさらである.しかも耳痛を訴えて来院する患者の大半は小児であり,多くの場合,詳細な病歴さえ明らかでないことが多い.また,他科領域の診断に際しては,しばしば有力な情報を与えてくれるさまざまな補助診断法もここではあまり役に立たない.したがって,当直医は簡単な病歴や,周辺(耳鏡を用いないで見える範囲)の視診,触診によって診断せざるをえないのが実情であろう.そこで本稿では当直医が診察する機会の多い疾患を中心に,そして他科の医師でも得られる所見による鑑別法,処置の要点などにつき述べる.

新薬情報

最近のセフェム剤

著者: 水島裕 ,   工藤三恵子

ページ範囲:P.1872 - P.1875

 最近,多数のセフェム系抗菌抗生物質が市販された.しかし,そのうち特定のものが著しく優れているというわけではないので,本稿では従来と趣を異にし,1982年以後市販されたセフェム剤全体について解説する.
 セフェム系抗生剤とは,セファロスポリン系,セファマイシン系,オキサセフェム系などの薬剤の総称であり,最近各種の薬剤が開発され,抗菌力の幅,耐性菌に対する有効性,生体内代謝の面で著しく進歩がみられている.

臨床メモ

尿路感染症(1)

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.1869 - P.1869

 尿路感染症をひき起こす細菌は大部分が上行性感染であるが,比較的稀に血行性に感染を起こしてくるものもある.血行性のものは菌血症の結果であり,Staphylococcus aureusが最も多い.したがって,尿路系に限局性膿瘍(腎膿瘍など)を形成するために尿培養が陽性となる.このような血行性のものは5%以下にすぎない.つまり,95%以上の尿路感染症は上行性である.女性における尿路感染症は,便中の細菌叢をなすEnterobacter-iaceae中で最も多いEscherichia coliが,腟あるいは尿道周囲にcolonizationを起こすことから始まる.しかし,必ずしもすべての女性が尿路感染症を起こすのではない.尿路感染を起こしやすい女性とそうでない女性とでは,宿主側に何らかの相違が存在するのではないかと考えられている.ある報告では,感染症を起こしやすい女性の腟上皮細胞に,病原性E.coliが付着しやすいという.また,他の報告では,局所的な抗体産生が十分行われていないとしている.
 一度細菌がcolonizationを起こすと,尿道の短い女性では膀胱へ容易に細菌が侵入してゆく.とくに性行為のある年代の女性では,行為中に尿道へ細菌が入り,膀胱へ至ると考えられる.

面接法のポイント・9

面接の実際(2)

著者: 河野友信

ページ範囲:P.1880 - P.1881

1.面接で配慮すべき事項
 面接で配慮すべき要件については,これまでにも述べてきたが,ここではそのポイントを要約して示す.
 医療における面接で配慮すべきポイントを一言で表現するならば,"面接で意図し,目的とするところを可能な限り達成するように気配りをする"ということになる.

天地人

紫煙は死煙

著者:

ページ範囲:P.1871 - P.1871

 かつて作家の三島由紀夫はデビュー作「煙草』で,主人公が噎びながら口にする一本の紙巻煙草からの紫煙のたなびきにいみじくもなぞらえて,そのひ弱な少年が憧れる大人たちの背徳の世界に向かって揺れ動く不安と恍惚の心理を,見事に描いてみせてくれた.さて従来,煙草はその健康上の理由は一応さておくとしても,世間では尚どちらかと言うと悪徳不良の行為にはいるものと看做されてきた感がある.
 この考えは,煙草が日本へ渡来した古の歴史を振返ることによって,又一層よく理解できよう.なぜなら,遠く元亀・天正から慶長の頃,東南アジアや南支那海よりの南蛮文化の最尖端に直接交渉のあった船乗りや,港町の女郎衆たちの間で先ず拡がったわが国の喫煙の風習は,その後,主としてそれが火事と喧嘩の源となる故からの度重なる江戸幕府の禁令布告にも拘らず,各地の遊野郎やカブキ者と称した不良無頼グループ,侠客連中を通じて急速に流行し始め,戦国風雲の記憶もしだいに薄らぎ豪華絢爛たる爛熟太平の世が訪れた元禄の頃には,取締りの緩みも手伝って,遂に上下貴賤の別なく日常の生活に深く浸淫するようになってしまったからである.今日,浮世絵などにみられる長い煙管を銜えた粋な伊達男や遊女の艶姿は,当時の喫煙風俗を如実に物語っているものと言える.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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