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雑誌目次

雑誌文献

medicina21巻2号

1984年02月発行

雑誌目次

今月の主題 中枢神経系の感染症

理解のための10題

ページ範囲:P.298 - P.300

中枢神経系感染症の臨床

臨床像

著者: 飯国紀一郎 ,   高木康行

ページ範囲:P.212 - P.213

 一般に中枢神経系感染は,発熱,頭痛,悪心嘔吐,背部痛,羞明,複視,感覚・運動異常,精神機能障害,意識障害,痙攣などの症状,および髄膜刺激症状,脳圧亢進症状,脳神経障害,感覚・運動障害,深部反射異常,病的反射出現などの所見が病期に応じて見られる.乳児期では大泉門膨隆が重要な所見となる.しかし,新生児では元気がなく傾眠傾向のみで,他の所見が乏しいことがあり,高齢者では,軽い発熱と人格変化,軽度の意識障害のみの場合があり,診断には注意を要する.また脳卒中,糖尿病,肝硬変,尿毒症,アルコール中毒,免疫不全などの基礎疾患のある患者では中枢神経系感染の併存が見逃されやすい.一方,中枢神経系感染以外,たとえばサルコイドーシス,膠原病,各種中毒症,代謝異常,脱髄性疾患,クモ膜下出血,熱性痙攣などでも同様の症状,所見を呈することがあるので注意を要する.
 以下最も重要な所見である髄膜刺激症状の解説と,各種疾患の臨床像の特徴を述べる.

中枢神経系の感染と髄液所見

著者: 大野良三 ,   濱口勝彦

ページ範囲:P.214 - P.215

髄液圧および外観
 髄液圧の正常値は側臥位で50〜180mmH2O,坐位で280mmH20が上限とされる.中枢神経系感染症では,程度の差はあれ多くの場合髄液圧の上昇をきたすので,圧上昇のみでは診断的意義は少ない.ただし反復性の髄膜炎を呈するような症例で髄液圧の低下をみたら,髄液鼻漏その他の髄液漏の存在を考慮し,可能であれば脳槽シンチグラフィーを施行するとよい.
 正常髄液では外観は水様透明であるが,髄膜炎その他により髄液中の細胞成分が増加すると混濁を示し,また総蛋白の明らかな増加時や出血後ではキサントクロミーを示す.化膿性髄膜炎では多くの場合明らかな混濁を呈し,ときに膿性混濁となるが,結核性髄膜炎,真菌性髄膜炎,ウイルス性の髄膜炎や脳炎では,細胞数の著増を呈することが少ないので,日光に向けて透見し,初めて判別できる程度の混濁(日光微塵Sonnenstaubchen,sun dust)を示すのみであることが多い.

抗生物質と髄液

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.216 - P.217

 髄液(CSF)の85%は脳室の脈絡叢より分泌されて外方へと流れ,クモ膜下腔へと出る.したがって,CSFの化学的変化と細胞数の変化は感染症の存在とその消長を表わす優れた指標となりうる.穿刺によってえられたCSF所見から,中枢神経系の感染症がどのような微生物によってひき起こされたものであるか判断して,最も適した化学療法剤(抗生物質も含む)を投与しなければならない.不的確な化学療法剤の投与にて治癒を望むことはできないし,また運よく生存できても,重症な合併症によって満足な生活も送れなくなることもある.

第3世代のセファロスポリンと髄膜炎

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.218 - P.219

 Cephalosporinは第1・2・3世代と抗菌力の範囲により分類されている.世代別にこれらの中枢神経系感染症への役割を述べてゆく.

髄液の生体防御機構

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.220 - P.221

 中枢神経系へ進入してくる微生物に対する防御機構に関しては,呼吸器系あるいは組織中における機構のようにはよくわかっておらず,また,あまり研究もされていないのが現状である.ただこの防御機構は他の組織における防御機構に比しはるかに劣っていることは明らかなようである.わずかな細菌,しかも最小細菌静脈致死量の100万分の1を実験動物のクモ膜下に注入しても,髄膜炎,敗血症を起こして死んでしまう.こうした実験から細菌の増殖に対する阻止能力は中枢神経系において低いことが証明されている.

髄膜炎と脳炎

化膿性髄膜炎

著者: 小林裕

ページ範囲:P.222 - P.224

 結核菌以外の細菌による髄膜炎は普通多核球優位の髄液細胞増加を示し,化膿性髄膜炎と呼ばれる.そのうち髄膜炎菌によるものが流行性脳脊髄膜炎で,法定伝染病である.
 血行感染が多く,そのほか外傷,手術による直接侵入,隣接臓器の化膿巣からの波及によるが,後者は最近減少した.

グラム陰性桿菌による化膿性髄膜炎

著者: 斎藤玲

ページ範囲:P.226 - P.227

 化膿性髄膜炎の起炎菌はきわめて多彩であるが,主要起炎菌として,インフルエンザ菌,肺炎球菌,髄膜炎菌があげられている.わが国では髄膜炎菌の頻度は少ない.しかし,患者の年齢や基礎にもつ病態などにより,起炎菌の種類が大きく変わることも特徴的である.グラム陰性桿菌は,インフルエンザ菌,腸内細菌属,緑膿菌など,それぞれの菌種により差異がみられる.これらの菌種の起炎菌としての出現頻度を年齢,病態別にみて,その症状と診断,起炎菌別の化学療法などについて述べる.

結核性髄膜炎

著者: 高木誠

ページ範囲:P.228 - P.230

 結核性髄膜炎の発生頻度は,抗結核薬の出現と社会環境の整備により次第に減少しつつあるが,現在でも決して稀な疾患ではない.結核性髄膜炎は,早期診断のむずかしさからしばしば治療開始が遅れ,現在でも死亡率16〜36%1),後遺症20〜30%2)と予後不良の疾患であることに変わりはない.従来3歳以下の小児に多いとされていたが3),最近の報告によれば先進国では成人発症の比率が増加する傾向にあり4,5),本稿でも主に成人の結核性髄膜炎を中心に,その診断,治療のポイントを述べる.

真菌性髄膜炎(クリプトコッカス)

著者: 栗原照幸

ページ範囲:P.232 - P.234

 クリプトコッカス髄膜炎はCryptococcus neo-formansの感染による.この真菌は土壌の中にも,果物や皮膚の表面にも存在し,またヒトの腸管内にもある.本症の感染源として知られているハトの糞は窒素化合物や塩類が多く,アルカリ性でクリプトコッカスが生存し続けるので,これがヒトのクリプトコッコーシスの感染源となりやすく,乾燥したクリプトコッカス菌(1μmと小さくなっている)は大気を通じて肺胞へ入り感染する.クリプトコッカスはヒトの体内へ入るとすぐpolysaccharideを含むカプセルを作る.クリプトコッカスによる感染症の侵入門戸は肺が多く,咳やかぜ症状を認めたり,気管支肺炎や空洞などを主に下肺野に認めることもあるが,無症状の場合も多い.そして医師を訪ねるのは髄膜炎症状が出てからのことが多いのである.

髄液漏と髄膜炎

著者: 高瀬貞夫 ,   大原義朗

ページ範囲:P.236 - P.239

 髄液漏とは脳軟膜および脳硬膜の損傷により髄液が正常の存在場所,あるいは正常の循環・吸収経路以外の経路から流出する場合を言い,多くは腰椎穿刺後の髄液漏出と頭部外傷(頭蓋底骨折)により髄液が鼻や耳に漏出する場合である.髄液漏の記述はMiller C(1826年)による非外傷性鼻漏の報告で始まり,近年ではOmmaya AK(1976年)の綜説がある1).本文では髄液漏の病態生理,診断,髄膜炎などにつき記述する.

非化膿性髄膜炎へのアプローチ

著者: 渡辺一功

ページ範囲:P.240 - P.242

 非化膿性髄膜炎は急性無菌性髄膜炎(acute as-eptic meningitis,またはacute abacterial menin-gitis)という概念に解釈することができる.この無菌性髄膜炎はWallgren1)が1925年に名付けたが,本症は頭痛,発熱,嘔吐および種々の程度の髄膜刺激症状を主徴候とする急性良性の髄膜炎症候群であり,今日ではWallgrenのあげた条件とは異なってきている.

ウイルス性髄膜炎

著者: 浦野隆

ページ範囲:P.244 - P.245

 ウイルス性髄膜炎は発熱,髄膜刺激症状および単核球を主とする髄液の細胞増多の所見が揃った,ウイルスを病因とする症候群であるが,日常臨床上決して稀にみられる疾患ではない.本症を無菌性髄膜炎と同義語的に呼ぶことが慣用されてきたが,この場合,クラミジアやレプトスピラが病因となることがあるゆえであって,病因としてウイルスが特定されれば厳密にはウイルス性髄膜炎とすべきである.

単純ヘルペス脳炎,Varicella-Zosterウイルス感染

著者: 庄司紘史

ページ範囲:P.246 - P.248

 ヘルペスウイルス群は,直径150〜200nmのDNAウイルスで,単純ヘルペス(疱疹),水痘・帯状ヘルペス(疱疹),サイトメガロ,Epstein-Barrウイルスなどがある.臨床的には皮膚・粘膜での感染が目につくが,いずれも神経節などに潜伏latencyする性状を有し,中枢神経感染をひき起こす(表1).本稿では,単純ヘルペス脳炎,水痘,帯状ヘルペス神経感染症について言及してみたい.

日和見感染症

リステリア感染症

著者: 内山富士雄

ページ範囲:P.250 - P.252

 Listeria monocytogenesは化膿性髄膜炎の原因菌の1%以下にすぎないが,悪性腫瘍患者の化膿性髄膜炎では22%と最も多い原因菌である.さらに近年,腎移植患者での発症が増加している.
 今回は,どのような症例で中枢神経系リステリア感染症を疑い,どのようにアプローチし治療すべきかを中心に述べる.

ノカルジア感染症

著者: 亀井徹正

ページ範囲:P.254 - P.255

 悪性腫瘍や抗癌剤,免疫抑制剤の使用に伴って起こる中枢神経系の日和見感染症には,障害された免疫機能の異常によって起炎菌などがある程度決定されるという特徴がある.たとえばホジキン病ではTリンパ球・単球系の機能不全に伴う感染症を起こしやすく,白血病では好中球数減少に伴う感染症にかかりやすい.抗癌剤の多くはTリンパ球・単球系の機能異常をきたすとされ,ステロイドはTリンパ球系のみならず好中球機能の低下も起こすといわれる.表1,2にこれらの免疫系の異常と起炎病原体との関係を示す1)

トキソプラズマ感染症

著者: 福山次郎

ページ範囲:P.256 - P.258

 トキソプラズマ(T.gondii)による日和見感染は,基礎疾患として悪性腫瘍,膠原病などを有する患者や,臓器移植後などの免疫機能が低下した患者に多く発症する.中枢神経系を高頻度に侵すが,基礎疾患による症状と区別しにくいことや,T.gondii感染を思いつきにくいこともあり,死後に診断されることが多い.pyrimethamine, sul-fonamideで症状改善や寛解が得られるため,免疫能低下患者では常にT.gondii感染の可能性を考慮すべきと考えられる.

脳膿瘍

脳膿瘍とその関連疾患

著者: 木下和夫

ページ範囲:P.259 - P.261

 脳膿瘍は比較的よく知られておりながら誤診されやすい疾患である.その理由は頻度が少なく,また通常の医学的常識である全身の炎症所見が乏しいことも多いからである.
 治療成績はかつては悪く,CTの普及以前は死亡率は高かったが4,6,7),CT以後は10%以下と著しく向上している4,5,7,8)

脳CTスキャンと外科的治療のタイミング

著者: 忍田欽哉 ,   安芸都司雄

ページ範囲:P.262 - P.265

 CTスキャンの導入により脳膿瘍の早期診断が可能となり,膿瘍の正確な発生部位はもとより,膿瘍の形成過程までも明確にとらえられるようになった.さらにCTスキャンは,脳膿瘍の治療法の選択にも重要な役割を果たすようになった.このため,脳膿瘍のmortalityは明らかに減少し,morbidityについても良好な結果を得るようになってきている2,6,7)

スローウイルス感染症

SSPE

著者: 佐藤猛 ,   安野みどり ,   森本啓介

ページ範囲:P.266 - P.268

 中枢神経系におけるウイルス感染症は,発症様式から次のように分類されている.急性脳炎,遅発性ウイルス脳炎,および感染後脳炎である.遅発性ウイルス感染症は広義には通常型ウイルスによるもの,すなわち麻疹ウイルスによる亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panence-phalitis;SSPE)や,パポバウイルスによる進行性多巣性白質脳症(progressive multifocalleucoencephalopathy;PML)などを含む.狭義には通常のウイルス粒子とは物理化学的性状がまったく異なる非通常型伝播因子によるkuru,Creutzfeldt-Jakob病などが属する.
 本稿では麻疹ウイルスの持続性感染症であるSSPEについて概説する.

Creutzfeldt-Jakob病

著者: 赤井淳一郎

ページ範囲:P.270 - P.272

 C-J病と略されるこの疾患は1920年のCreutzfeldtの1例,1921〜25年のJakobの5例に始まる.病因としてこれまで中毒,代謝,循環障害などが考えられてきたが,現在では非通常ウィスルunconventional virusによる感染として捉えられている.しかしそのagentの本態は完全に解明されておらず,未解決のものが多く残されている.
 この疾病の感染実験の結果をみると,スローウイルス感染といえるものは,C-Jの病のうち,亜急性海綿状脳症の形をとるものだけで,これが予防を含めて診断的に重要である.原著の6例は単一的なものでなく,今日ではほかの疾患と思われるもの(ことにCreutzfeldtの例)もあり,亜急性海綿状脳症と推定できるものは2例にしかすぎないが1),C-J病という呼び方は普遍的に用いられているので,ここでもそれに従っておく.

PML

著者: 長嶋淑子

ページ範囲:P.274 - P.276

 PML(progressive multifocal leukoencephalopathy:進行性多巣性白質脳症)は免疫能の低下した状態に見られる稀な中枢神経の脱髄性疾患である.文献上は1958年Astromら1)により初めて紹介され,今日まで100例あまりを数え,本邦では高橋らの報告(1965年)2)以来20例の剖検報告がある.本症の大多数に慢性リンパ性白血病,ホジキン病などのリンパ系悪性増殖性疾患,急性または慢性骨髄性白血病,結核,サルコイドーシスなど何らかの基礎疾患を有するとされていたが,まったく健康な個体に発症した例も少なくない.一方,SLEや腎移植後免疫抑制療法を受けたのち発症した例も報告されている.
 この疾患の原因はウイルスによる中枢神経系のopportunistic infection(日和見感染)と考えられている.起因ウイルスは本来腫瘍ウイルスであるpapova(papilloma-polyoma-vacuolating)virusesに属する新しい型のヒトウイルスと考えられている.

先天性中枢神経感染症

先天性中枢神経感染症

著者: 北山徹

ページ範囲:P.278 - P.281

 何か先天性感染を疑わせる症状が新生児に認められたとき(表1),われわれは慎重に病因の検討を加えなければならないが,その特徴的な病状の存在は,しばしば特異的な病原による先天感染をかなり確実に推定することができる.
 たとえば低出生体重児で肝脾腫大を伴い,白内障があれば,サイトメガロウイルス(CMV)の感染より先天性風疹が疑われる.しかしもちろん確診には各種の室験室内診断法が要求されよう(表2).先天性風疹,サイトメガロ封入体症,単純ヘルペス感染症,コクサッキーB型感染症や先天性トキソプラズマ症は,すべて新生児敗血症と病像が類似する(表3).そのため表1に記載してある病像をもつ新生児には,すべて診断が確定するまで抗生剤投与を行っておくべきであろう.

鼎談

中枢神経系のスローウイルス感染をめぐって

著者: 厚東篤生 ,   佐藤猛 ,   北原光夫

ページ範囲:P.283 - P.296

スローウイルス感染の定義と歴史
 北原(司会)まずスローウイルス感染症の定義というものを,厚東先生,少しわかりやすくお話し下さい.

Current topics

モノアミン性神経伝達と医薬品—神経伝達物質の臨床的意義

著者: 融道男

ページ範囲:P.331 - P.341

 神経伝達物質の存在が確認されたのは,1921年にO. Loewiが,カエルの迷走神経を刺激して心筋の収縮抑制を起こした時の灌流液を別の心臓の灌流液中に加えて,その心臓に迷走神経刺激時と同じ抑制を生じさせた実験による.彼はこれを迷走神経物質(Vagusstoff)と名づけ,5年後この物質がアセチルコリンであることを同定した.
 神経伝達物質の生体に対する作用が明らかになるにつれ,これをまねる物質(mimetics)を疾病の治療に応用しようとする動きがみられるようになった.とくに最近では,神経伝達物質の受容体についての知識が飛躍的に増え,その結果,論理的に医薬品を創製する試みさえなされるようになった.

カラーグラフ 臨床医のための血液像

網状赤血球の増多を伴う貧血

著者: 原芳邦

ページ範囲:P.302 - P.303

 末梢血中の網状赤血球数は,骨髄での赤血球産生の状態を表わす重要な指標となる.網状赤血球増多を見たら,まず出血か溶血性の貧血が考えられる.
 自己免疫性溶血性貧血 小型の球状赤血球(mi-crospherocyte)と網状赤血球の増多が特徴.球状赤血球は,自己抗体により障害を受けた細胞膜の一部が網内系の細胞に貪食され,血色素含量に比し細胞膜の小さくなった赤血球で,central pallorの消失した小型の細胞として認識される.図1にはこうした球状赤血球とともに,大型でややいびつで青味がかった赤血球が目につく.青味がかった色調は多染症(polychromatophilia)と呼ばれ,細胞質内に塩基性色素と親和性のあるRNAが多く含まれていることを意味し,幼若な赤血球,すなわち網状赤血球(reticulocyte)を表わす.網状赤血球を確実に知るためには,超生体染色でRNAの凝集した網状構造をもつ細胞の数を数える必要がある(図2).

グラフ 複合心エコー図法

先天性心疾患(2)

著者: 伊東紘一 ,   鈴木修 ,   柳沢正義

ページ範囲:P.304 - P.307

症例2 1歳10カ月,男児
 40週満期産,生下時体重2,900gの男児.生後2カ月目で心雑音を指摘される.7カ月目に肺炎になり,1カ月間の入院治療を行っている.外来で経過観察中,心音はII音亢進,胸骨左縁の全収縮期雑音(4/6),心尖部拡張期ランブルを聴取する.肝臓は1.5QFB触知する.心電図は左軸編位,両心肥大.チアノーゼなし.

胸部X線診断の基礎

撮り方と読み方(2)

著者: 新野稔

ページ範囲:P.316 - P.321

 今回は,管電圧の違いによるX線写真情報の差を肺癌症例について解説し,低圧撮影と高圧撮影像を比較し,高圧による肺尖撮影の有用性を再検討した.ついで,効率性と有用性を主点として,放射線診療の基本的考え方としての正当化と最適化にふれ,見逃すことのできない低線量被曝について述べる.

画像からみた鑑別診断(鼎談)

卵巣腫瘍(2)

著者: 森本紀 ,   多田信平 ,   川上憲司

ページ範囲:P.322 - P.329

症例
 患者 55歳,女性.
 主訴 腹部膨満感.

境界領域 転科のタイミング

家族性大腸ポリポーシス

著者: 今充 ,   小野慶一

ページ範囲:P.342 - P.346

 診断に家族歴が絶対条件であった家族性大腸ポリポーシスは,約100個の腺腫(ポリープではなく,それの組織診断である)があれば大腸腺腫症と診断できるようになった.すなわち家族性大腸ポリポーシスは大腸腺腫症と同義語であるということである.非家族性の大腸腺腫症の発生は発端者かあるいは家族歴の調査不備によると判断されている.
 したがって,本症への手術適応はおのずから定かであり,20歳を過ぎて本症を発見したらただちに手術をすべき(emergency operation)とはっきり述べられている.にもかかわらず権威ある学会にて,大学のスタッフから患者云々ということで,経過観察をしているということを筆者自身も経験し,他からも見聞し大きな疑問に悩むわけである.どのようにして無数といっていいほど多数あるポリープの癌化をチェックできるのか.普遍性をもったと考えられる手術適応の時期についても,いまだいろいろな考えがあるようなので,本症の診断,外科治療の術式,癌化率,術後社会復帰の点などから外科転科のタイミング(本症では手術のタイミングとなる)につき論じたい.

講座 図解病態のしくみ びまん性肺疾患・2

VV曲線—各種気道病変のVV曲線

著者: 堀江孝至

ページ範囲:P.353 - P.360

 すでに前回述べたように,スパイログラムとVV曲線は指標のとらえ方は異なるが,検査そのものはまったく同じように行われる.したがって,スパイログラムでみられる異常はVV曲線上にもあらわれてくるし,VV曲線でみられる異常は当然スパイログラムの上にもあらわれているわけである.しかし,同じデータをとり扱いながらも,気道病変によってあらわれる異常はスパイログラムの曲線上よりもVV曲線の形態によりとらえやすい形であらわれてくるという点が,VV曲線の大きな利点といえよう.
 スパイログラムでは1秒率やMMF,VV曲線ではpeak flow,V50,V25,V50/V25などが異常の判定に使われている.しかし,VV曲線の成績をこれらの数値だけで判定してしまっては,その意義が半減してしまう.

Oncology・2

抗腫瘍剤—Ⅰ.アルキル化剤

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.361 - P.365

 アルキル化剤は種々の異なった抗腫瘍剤からなっており,大きく分けて,①典型的なアルキル化剤グループ,②nitrosoureaグループ,③他の抗腫瘍剤でアルキル化剤としての作用をもつもの,の3つのグループに分類される(表1).一般に,アルキル化剤は細胞周期に特異性がないと考えられる.
 アルキル化剤の作用機序は,不安定なアルキル基(R-CH2)をつくり出し,これが細胞内のアミン,硫化物,窒素などと化合して(共有結合,cova-lent bond),細胞の機能を阻害する.

小児診療のコツ・8

けいれん

著者: 中野博光

ページ範囲:P.367 - P.371

 小児のけいれんは日常診療においてしばしば経験するものである.幸いにして,それらは中枢神経系の機能的な刺激による一過性の発作である場合が大部分であるが,一方では筆者らのてんかん外来の状況をみても,ほぼ一定して毎月200名前後のてんかん児が来院治療をうけていることも見逃がせない事実である.本邦では5歳までに6〜13%の小児が一度はけいれんを経験しているといわれている1).

演習

目でみるトレーニング 78

ページ範囲:P.309 - P.315

プライマリ・ケア プライマリ・ケアに必要な初期臨床研修とその現状・1

自治医科大学卒業生の初期臨床研修とアメリカの家庭医

著者: 箕輪良行 ,   坂本健一 ,   荒川洋一 ,   藤井幹久 ,   鈴木俊一 ,   吉新通康 ,   細田瑳一

ページ範囲:P.377 - P.381

はじめに
 自治医科大学卒業生にとってプライマリケア(PCと略す)のための研修とは次のように考えられる.卒業して3,4年目に,医者単身勤務の地域の診療所へ勤めるとしたら,卒後初期にどうしても内科を基盤にして小児科,産婦人科,外科,整形外科,皮膚科などの基本的診療技能を身につけなければならない.そのためには症例数が多く,良い指導医がいて"どんどん経験を積める"病院で腕を磨く必要がある.そのような病院は地域に根ざした中心的な病院であって,住民から信頼されていて定評のあるところである.将来のことについても考えると,初期研修中に自分が将来選択しようと考えている診療科を比較的長くしたローテート研修を行うのがよい.
 以上のような内容は自治医大卒業生の義務年限と各都府県の地域のニードと配置の実情という切羽詰まった立場から自然にできたものであるが,PCは本来もっと豊かな内容を持つ医療形態であり,筆者らが誤解しているわけではない1).現在,日本で試みられているPC医師養成の方法(ローテート型研修,総合診療棟研修2),救急医療施設での研修重視3)など)のひとつとして,自治医科大学卒業生の経験を紹介したい.

ベッドサイド 臨床医のための臨床薬理学マニュアル

テオフィリン

著者: 辻本豪三 ,   越前宏俊 ,   石崎高志

ページ範囲:P.347 - P.352

まとめ
 テオフィリンは主として急性可逆性気道閉塞("喘息")治療,また,うっ血性心不全や急性肺水腫の付加的治療に,さらに,最近では新生児の無呼吸(apnea)治療に用いられる.この薬剤使用によるbenefitとriskとは血中濃度(即ち,投与量と各人の排泄能により規定される)と相関することが証明されている.そのため急性症状治療の際,急速な気管支拡張効果を得るためには薬物分布容量(Vd)の平均値に基づく急速付加量(loading dose,LD)が必要とされる.また,急速付加に続く維持治療の際には,各患者間での排泄能が大きく異なることから,steady-stateでの維持血中濃度が,多くの場合10〜20μg/mlの治療域となるような持続点滴によるテオフィリン投与速度(mg/ml)または維持経口投与量(maintenance dose;MD)の決定と,血中濃度モニタリングによる当初の投与計画の修正が必要とされる.溶液の静注,経口,経直腸投与ならびに裸錠の投与は急性期治療に適切である.一方,最近開発の進んでいる十分吸収のよい徐放製剤は,特にテオフィリン排泄が高く半減期(t1/2)が矩かいために有効血中濃度を維持するために頻回に(3〜4時間おきに)テオフィリンを服用しなければならない患者の長期治療に便利である.

診療基本手技

緊急血液透析の手技

著者: 松下茂樹 ,   大岩孝誌 ,   西崎統

ページ範囲:P.372 - P.373

 急性腎不全に対しては,まずその原因を検索し,保存的療法を試みるのが一般的である.しかし進行性に増悪する場合は緊急血液透析を施行せざるをえないことも多い、緊急血液透析を行う場合のブラッドアクセスとしては,①動・静脈の直接穿刺,②静脈カテーテル法,③外シャント作製,などの方法がある.筆者らは血液量が確実に得られ,頻回の使用が可能で,中心静脈栄養路としても使用することができるなどの利点より,近年その適応を広げつつあるShal-donのカテーテルによる血管確保を用いて透析を行っている.当院では,緊急血液透析は,前期研修医が上級医の指導のもとに同手技を施行しているので,この方法についての実際を述べてみたい.

当直医のための救急手技・泌尿器系・2

腹痛(尿路外傷を含めて)

著者: 村上信乃

ページ範囲:P.374 - P.375

 腹痛を主訴とする救急患者の原因疾患は大部分が泌尿器科からみると他科疾患であり,泌尿器科疾患による腹痛を訴える患者は比較的少ないようである.したがって,当直医がこの数少ない泌尿器科疾患を見落とす危険性も少なくないものと想像する.今回も,腹痛を生ずる泌尿器科疾患の鑑別診断を,前回と同様の大まかな思考経路を図示し(図2),それに従って話を進めよう.
 誘因となる外傷のない場合の泌尿器科疾患による腹痛は,大部分が腎の疼痛によるものである.腎の疼痛には持続性疼痛と発作性疼痛(疝痛)があるが,いずれも尿管に沿って外陰部や大腿部,あるいは背部への放散痛を伴う例が多い.また患側の肋骨脊椎角の叩打痛(以後CVAと略す)も特徴的な症状である.

新薬情報

パンデル(Pandel)〔大正〕—一般名:酪酸フロヒオン酸ヒドロコルチゾン—副腎皮質ホルモン外用剤

著者: 水島裕

ページ範囲:P.384 - P.385

概略
 皮膚外用の副腎皮質ステロイドホルモン剤に関しては,その作用を強める進歩が多い.しかし,近年,副作用を軽減する意味から,局所では作用が強力であるが,全身作用が弱い外用ステロイド剤の開発が始まった.パンデルは,その代表的薬剤の1つであり,国産品である.

臨床メモ

腸管手術時の抗生物質の予防的投与

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.386 - P.386

 腸管外科において抗生物質の予防的投与が広く研究されているのは,大腸・直腸の外科の分野である.大腸の細菌はBacteroides, Bifidobacterium, Eubacter-iumといった嫌気性菌が99.99%を占め,残りのわずかな部分を,EnterococcusやEnterobacteriaceaeの好気性菌が占めている.1gの便にはおよそ108〜109位の細菌がいると計算されている.このことから,他の消化管手術に比べ,大腸・直腸外科手技により粘膜を損傷すると,術後感染症の頻度が高くなるのは当然である.大腸・直腸外科手技において,抗生物質を予防的に投与しない症例では,術後感染症はおよそ40%といわれている.
 この比較的高頻度の感染症を減少させるために,局所的予防的投与,非経口的投与と経口的投与が考慮されて広く試みられている.

面接法のポイント

(2)面接の基礎

著者: 河野友信

ページ範囲:P.382 - P.383

医療における面接の目的と意義
 医療における面接の目的は,いうまでもなく医療の目標を達成するために以下のような役割を果すことである.
 面接の機能と役割はつぎのように要約できる.

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外来診療Q&A

著者: 小川秋實

ページ範囲:P.387 - P.387

Q 患者:67歳男,無職.神経因性膀胱のため2年6ヵ月にわたり留置カテーテルが置かれ,ST合剤(バクタ®)を内服中膿尿を主訴に来院.発熱(-),WBC5,600,CRP(+),尿培養:Enterobacter(3+),Pseudomonas sp.(+).セフォタックス®2g5日投与にて膿尿は改善したが,1カ月後尿培養でPseudomonas sp.(3+)となり,テトラサイクリン系剤にのみ感受性を示す.
1)再び膿尿となったがセファロスポリン剤(セフォタックスR)の適応は.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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