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雑誌目次

雑誌文献

medicina21巻5号

1984年05月発行

雑誌目次

今月の主題 酸塩基平衡の異常

理解のための10題

ページ範囲:P.892 - P.894

座談会

酸塩基平衡異常の臨床的問題点

著者: 大塚洋久 ,   諏訪邦夫 ,   内田久則 ,   大村昭人

ページ範囲:P.768 - P.781

症例
 患者 44歳,男性(体重39kg)
 主訴 手足のしびれ,テタニー,嘔吐.

酸塩基平衡異常の定義と問題点

著者: 大村昭人

ページ範囲:P.782 - P.786

酸(acid)と塩基(base)
 Hを中心としてBrφnsted-Lowreyの定義が理解しやすく,最も良く受け入れられている.すなわち,酸とはH+を放出するもの,塩基とはHを受け入れるものということになる.たとえば,最も重要な緩衝系の代表である重炭酸イオンとヘモグロビン(Hb)を例にとると下記のようになる.

病態生理

呼吸性の異常(CO2の異常)

著者: 福地義之助

ページ範囲:P.788 - P.791

CO2産生,その運搬および処理機構
 生体活動に伴う1日のCO2の体内産生量は,正常な成人で300〜360l(約13,000〜16,000mEq/l)であり,組織代謝の結果生じたH+が細胞外液の重炭酸緩衝系にとり込まれた結果として生じるわけである.そのほとんどが血液中を肺まで運搬され,肺胞換気により大気中に放出される.このほかにもNH4+やH2PO4-などの滴定酸として腎臓より排出されるCO2もあるが,その量は1日あたりわずか50〜80mEq/l程度にすぎない.これらの諸因子を考慮して,CO2の組織から体外排出に至る移行経路は図1のごとくにまとめられる.図のようにCO2はほとんどが肺胞換気によって処理されている.したがって,動脈血中のCO2分圧(PaCO2)は主として肺胞換気量を直接的に反映する指標と考えてよい.

代謝性の異常—代謝性アシドーシス

著者: 大塚洋久

ページ範囲:P.792 - P.794

代謝性アシドーシスとは
 代謝性アシドーシス患者の血液は,健常人の血液に固定酸を加えたのに相当する酸塩基平衡の異常を呈している.その異常は一次性障害として現われる.CO2分圧を変動させるだけでは同じ状態を作り出すことはできない.CO2分圧の変動はCO2平衡直線上での移動に相当するが,代謝性アシドーシス患者と健常者のCO2平衡直線は交点を持たない(図1).
 図1はpH,血清重炭酸イオン濃度を横軸,縦軸とするDavenportのダイアグラムである1).Henderson量Hasselbalchの式から算出したCO2分圧の等価線を点線で示してある.健常人と代謝性アシドーシス患者の血液のCO2平衡直線を示すのが左上方から右下方に向う2本の直線である.直線の勾配は血色素量に依存しており,血色素量が等しいときは2本の直線はほぼ平行である.固定酸を加えることにより,CO2平衡直線は下方に平行移動する.

代謝性の異常—代謝性アルカローシス

著者: 平井正志 ,   大井元晴

ページ範囲:P.795 - P.797

 代謝性アルカローシスは,H+の喪失か重炭酸イオン(HCO3-)の過剰蓄積かの原因により起こるが,生体に過剰のHCO3-を投与しても,腎からの排泄増加のため容易には代謝性アルカローシスにはいたらない.
 アルカローシスの成立,維持にはさまざまな因子が存在するが,臨床的には細胞外液量の低下の有無により,Cl-反応性(細胞外液量減少),Cl-不応性(細胞外液量正常か増加)に分類される.尿中Cl-はCl-反応性のものは10mEq/l以下,Cl-不応性のものは20mEq/l以上を示す.

診断

測定の実際とデータの解釈

著者: 諏訪邦夫

ページ範囲:P.798 - P.800

 測定の実際
 一体何を測定しているのか
 ―primary parameterとsecondary parameter
 血液ガス,酸塩基平衡の測定を注文するとたくさんの項目の答えが返ってくる.それらのなかで「本当に」測定されたのはPO2,PCO2,pHの三者のみ(プライマリ・パラメータ)であって,その他の数値は「補助的に精度の悪い方法で実測した」(ヘモグロビン濃度)か,あるいは「計算」で求めたもの(HCO3-,BB,BE,TCO2またはCco2,酸素飽和度,酸素含量などのセコンダリ・パラメータ)である.血液ガスの問題をよく理解しておけば,プライマリ・パラメータをみるとセコンダリ・パラメータの"パターン"が頭に浮ぶようになる.そうなるように練習しよう.

治療

治療の一般指針

著者: 吉矢生人 ,   太城力良

ページ範囲:P.802 - P.807

 1950~1960年代にpH電極,Pco2電極が開発され,臨床の現場で用いられるようになるとともに,酸塩基平衡の概念,診断法,治療法も大いに進歩した.当時のAstrup1),Siggaard-Andersen2),Singer and Hastings3),Davenport4),Severinghaus5)らが打ち立てた酸塩基平衡の概念6)は,現在もそのまま臨床医の日常の中で生かされている.
 酸塩基平衡異常の治療は,原則的には決して難かしいものではない.酸塩基平衡異常の診断が正しく行い,上の概念に従って異常を正常化する方向の治療を行えばよい.しかし,酸塩基平衡異常を引き起こした原因疾患を治癒させなければ一時的な補正を行うにすぎず,酸塩基平衡異常が再び招来される.

臨床での酸塩基平衡異常

心不全

著者: 小川宏一

ページ範囲:P.808 - P.810

 腎臓病,糖尿病,呼吸不全などの合併症を伴わない限り,軽〜中等症の心不全患者の酸塩基平衡の異常は大部分治療に用いられた利尿剤に由来する.したがって,日常心不全治療上問題となる利尿剤による酸塩基平衡異常と,電解質代謝異常である低ナトリウム血症に重点をおいて述べる.

ショック

著者: 齋藤英昭

ページ範囲:P.812 - P.814

 ショックとは,種々の原因によって組織や臓器への血流が正常な細胞機能を維持するのに不十分となったときに生じる状態をいう.したがって,出血性,敗血症性,心原性などいずれのタイプのショックにおいても,最終的には代謝性アシドーシスが酸塩基平衡異常の主病態となる1,2).一方,ショックの重症度や治療法の相違によって,ショック患者ではかなり幅広い酸塩基平衡異常が生じることも知られている3).ここではこのようなショックの際の酸塩基平衡の異常について,その病態生理や診断,治療法を述べる.

多臓器不全と酸塩基平衡障害

著者: 大村昭人 ,  

ページ範囲:P.816 - P.825

緒言
 "すべての脊椎動物は最良の水素イオン活性を得るために細胞内外の酸塩基平衡環境を調節する機構を有している…….
 ここで保護されているパラメータは蛋白の荷電状態のようであり,これはまたペプチド結合したヒスチジンのイミダゾール基の解離度に依存している…….この蛋白群の部分的解離状態が変わるのを防ぐことで,荷電状態に依存する蛋白の多くの酵素活性や輸送活動を生体が利用できるのである1)

COLDとARDS

著者: 謝宗安

ページ範囲:P.826 - P.828

 COLD(chronic obstructlve lung disease;慢性閉塞性肺疾患)
 慢性安定期 COLDは慢性呼吸性アシドーシス(以下Acd)をきたす代表的疾患群であり,肺気腫,慢性気管支炎を中心に気管支喘息の一部,汎発性細気管支炎が含まれる.
 ガス交換異常は主に換気血流比の異常,すなわち血流に比べて肺胞換気量の減少は肺胞O2分圧の低下を,また血流の乏しい肺胞の増加は肺胞死腔の増加をもたらし,初期にはPaO2の低下のみ,つぎにはPaO2の低下とPacO2の上昇を示すようになる.慢性安定期ではPaCO2の上昇に対し,腎でのHCO3-の再吸収増加による代償が完了しており,その酸塩基平衡は図の慢性呼吸性Acdのsignificance band内に入る.このsignificance bandは慢性呼吸性Acdの臨床例や動物実験から採血し,多数の値から平均±2SEの95%信頼区間を求めたものである.HCO3-(BE),H(pH),PCO2の組み合わせから諸家のグラフが発表されている.電解質はHCO3-の増加により,塩素が細胞内から細胞外へ移動し(クロライドシフト)尿中に排泄され,低塩素血症を呈することが多い.代謝性アルカローシス(以下Alk)の合併例では塩素投与によりPaCO2の改善をみることがある.

救急手術(多発外傷,急性腹症)—術前,術後

著者: 前川和彦

ページ範囲:P.830 - P.831

 多発外傷
 病態生理 外傷性ショックの基本病態は,有効循環血液量および機能的細胞外液の減少で特徴づけられる.しかし,組織の挫滅や臓器損傷,なかでも心,肺,中枢神経系などの生命臓器損傷による機能障害が加わって,単純な出血性ショックとは大いにその様相を異にする.外傷患者の来院時における酸塩基平衡の変化は,主に代謝性アシドーシスと呼吸性アルカローシスである(図1A).ショックに伴う組織の血流障害およびショック,肺損傷などによる低酸素症はいずれも糖の嫌気性解糖を亢進させ,乳酸産生の増加,肝での乳酸利用の低下をもたらし,結果としてanion gapの増加を伴う代謝性アシドーシスをみる.ショック時の組織の好気性糖代謝の障害を示す指標として,血液の酸塩基平衡以外に,血中乳酸値,乳酸/ピルビン酸比,excess lactate,組織のRedox状態を反映する血中ケトン体比(アセト酢酸/βヒドロキシ酪酸)などがある.
 気道の閉塞,胸腹部外傷に伴う換気障害,中枢性の呼吸抑制などがない限り外傷患者の呼吸は過換気に傾き,代償性の呼吸性アルカローシスを呈する.外傷患者の代謝性アシドーシスの程度は,ショックの重症度,持続時間,合併損傷などに左右される.脈拍数÷収縮期血圧で表わされるショック指数(正常値:0.54±0.03)は,実用範囲内では出血量と直線的相関がある.

救急手術(多発外傷,急性腹症)—術中および麻酔管理の影響

著者: 豊岡秀訓

ページ範囲:P.832 - P.833

 救急手術において遭遇する患者には,さまざまな種類の酸塩基平衡異常がみられることが多いが,これら異常は大きくわけて①手術または手術の対象となっている病態と直接の因果関係のあるもの,および②直接の因果関係のないもの,に分けることができる.ここではスペースの関係から主に①についてのみふれることにする.

新生児および未熟児

著者: 三上一郎

ページ範囲:P.834 - P.837

 新生児・未熟児は,hypoxiaに対しては成人に比べ比較的強い適応能力を有しているが,腎と肺,とくに腎によるH調節能力が未発達であり,かつ制限を加えられることが多いため,酸塩基平衡異常は成人に比べて程度が強く,また急速に進行することが多いので,正確な診断と迅速な対応が必要となる.

小児

著者: 飯高喜久雄

ページ範囲:P.838 - P.839

 小児にみられる酸塩基平衡の異常も,呼吸性および代謝性の因子による複雑な影響を受け,さらにその変化に対する生体の代償作用が働き,多彩な病態が起きてくる.多くの場合一方の因子のみの障害より,その両方に障害を認める場合が多い.呼吸性および代謝性のアシドーシスやアルカローシスのみられる疾患を表にまとめてみた.
 年齢別に疾患をみてみると,新生児期にはIRDSによる呼吸性アシドーシスや副腎過形成の食塩喪失型,先天性代謝異常(とくに有機酸の代謝異常),anoxiaによる乳酸アシドーシスなどによる代謝性アシドーシスがみられ,生後2〜3週間ごろよりみられるものに先天性肥厚性幽門狭窄症がある.乳児期には下痢による代謝性アシドーシスが最も多く,尿細管性アシドーシスもこの時期に発見されることが多い.幼児や年長児になると,糖尿病のケトアシドーシスやアセトン血性嘔吐症のケトーシスなどの頻度が増加し,このほかサリチル酸中毒による代謝性アシドーシスや利尿剤の投与によるカリウム欠乏のための代謝性アルカローシスがみられるようになる.これらの疾患のうち,新生児,腎不全,糖尿病性ケトアシドーシスは各項で述べられるので,ここでは乳児下痢症,アセトン血性嘔吐症,サリチル酸中毒,先天性肥厚性幽門狭窄症など,小児における代表的疾患について述べることとする.

消化器疾患

著者: 和田信昭

ページ範囲:P.840 - P.841

 消化器疾患における酸塩基平衡異常は,概して消化液の喪失によるもので,一般に胃液喪失が主であればアルカローシスを,腸液喪失が主であればアシドーシスを生じる.そしてその際には,細胞外液量の減少とカリウム喪失を伴っているのが通例である.嘔吐や下痢は日常しばしば遭遇する事態であるが,それによって酸塩基平衡異常が生じるか否かは,主に消化液喪失の速度と量とにより左右されると同時に,腎・肺機能や,併存する病態(糖尿病,敗血症,ショックなど),またすでに行われた治療(輸液,利尿剤など)の影響を受ける.臨床上問題となるのは後者を伴う場合のほうが多く,総合的評価が重要である.

腎不全—とくに尿毒症性アシドーシス

著者: 若林靖久 ,   丸茂文昭

ページ範囲:P.842 - P.843

 臨床上腎不全患者の酸塩基平衡異常としてみられるのは,主に尿毒症性(腎性)アシドーシスであろう.蛋白質,とくに硫酸基を含むアミノ酸・核酸代謝などにより日々生成される酸は,成人で1.0〜1.5mEq/kg,小児では2mEq/kgである.この生成量と等量の酸を腎,肺から排泄できなくなったときアシドーシスが起こる.腎機能障害によるものは,いうまでもなく代謝性アシドーシスである.慢性腎不全患者では,一般に糸球体濾過量(GFR)が,内因性クレアチニンクリアランスとして20〜30ml/min以下,あるいは血清尿素窒素(BUN)40mg/dl,クレアチニン4mg/dl以上になるまでは酸塩基平衡は比較的よく保たれている.このレベルを越えるようになるとアシドーシスが徐々に進行する.

原発性尿細管性アシドーシス

著者: 木野内喬 ,   長谷川光俊 ,   清水直容

ページ範囲:P.844 - P.845

 尿細管性アシドーシス(renal tubular acidosis,RTA)は尿細管におけるHあるいはHCO3-の輸送の障害により代謝性アシドーシスをきたす疾患で,原則として糸球体の障害はみられない.
 種々の原因によって惹起されるが,明らかな原因疾患を認めず,先天性と考えられるものを原発性尿細管性アシドーシスという.遺伝性が証明されることが多いが,散発性(sporadic)のものもある.

糖尿病性ケトアシドーシス

著者: 小出義信

ページ範囲:P.846 - P.848

 糖尿病性ケトアシドーシスとは,インスリン作用不足による代謝異常の結果,強酸であるケトン体が血中に異常に蓄積した状態を言うが,高血糖,脱水,電解質異常などの多彩な代謝異常をも伴い,救急医療の対象となる.

内分泌疾患による電解質,酸塩基平衡の異常(糖尿病を除く)

著者: 木村哲

ページ範囲:P.850 - P.852

 内分泌疾患は,しばしば水・電解質の代謝異常を伴い,特徴的な症状を呈する.尿崩症による多飲・多尿と脱水,原発性アルドステロン症における低カリウム血症,代謝性アルカローシスおよび,これらによる筋力低下,テタニー,副甲状腺機能低下症における低カルシウム血症とテタニーなどがその代表的な例である.しかし,これらの疾患のようにそれが主症状とならないまでも,内分泌疾患には種々の電解質代謝異常,酸塩基平衡の障害が存在することが多いので,この点に気をつければ,ちょっとした症状や検査値の異常から内分泌疾患の存在を疑うことができ,とかく見逃がされやすい内分泌疾患を的確に診断できることになる.紙数の制限もあり詳細は割愛し,基本的な部分のみの記載としたが,日常の診療に利用していただきたい.

一般外科における酸塩基平衡異常

著者: 内田久則

ページ範囲:P.854 - P.859

 一般外科領域における酸塩基平衡異常として昔から有名なのは肥厚性幽門狭窄症であり,低クロール性アルカローシスを呈するが,診断治療技術の進歩に伴い,早期から診断治療が行われて外科へ紹介されてくる症例が多く,今日では高度の代謝性アルカローシスを呈する本疾患をみることはきわめて少なくなった.
 むしろ,一般外科診療上治療に困惑する酸塩基平衡異常が認められるのは開胸開腹術後の患者,敗血症性ショックの患者,高度の腎不全を合併した患者などにおいてである.

特別寄稿

酸塩基平衡

著者: ,   大村昭人

ページ範囲:P.860 - P.891

 体液の水素イオン濃度[H+]は他のイオンの濃度に比べて約100万分の1程度だが,イオンが小さいために蛋白の結合部と非常に反応しやすく,[H+]のわずかな変化によって酵素活性が大きく変る.[H+]が正常から大きく偏位したときにこの分子レベルでの作用が臨床的に臓器機能の異常として表われる.

Current topics

肝疾患に対する血漿交換療法

著者: 井上昇 ,   沖田極 ,   門奈丈之

ページ範囲:P.920 - P.936

門奈(司会)
 血漿交換療法は,現在日本では非常に広く用いられておりますが,私ども肝疾患を研究のテーマとしている者にとって,肝疾患のどのような症例に対して血漿交換plasmapheresisを用いるかはまだ試行錯誤のところがあります.
 そこで,血漿交換の日本での発展の歴史と経過,さらに肝疾患への応用と将来への展望について,先生方が実際にやられたご経験からお話しいただきたいと思います.

カラーグラフ 臨床医のための血液像

血小板の異常

著者: 原芳邦

ページ範囲:P.896 - P.897

 近年,血小板研究の進歩には目覚しいものがあり,その機能の多様性はくり返し強調されている.血小板数も自動カウンターで計測されるようになってきたが,そのために塗抹標本を見る価値がなくなったわけではない.今回は血小板に関する話題をとりあげた.

グラフ 画像からみた鑑別診断(鼎談)

多発性硬化症

著者: 下條貞友 ,   多田信平 ,   川上憲司

ページ範囲:P.906 - P.913

症例
 患者 33歳,男性.
 主訴 歩行困難,右上・下肢および左顔面のしびれ感.左軽度片麻痺,構音障害.

胸部X線診断の基礎

撮り方と読み方(5)

著者: 新野稔

ページ範囲:P.914 - P.918

胸部正面像のX線解剖と読影
 胸部X線写真は胸壁,横隔膜,縦隔および肺野の陰影から構成される.胸壁ならびに横隔膜は肺野の外郭をつくり,肺野は縦隔により左右に分けられている.

演習

目でみるトレーニング 81

ページ範囲:P.899 - P.905

講座 図解病態のしくみ びまん性肺疾患・5

慢性閉塞性肺疾患(COLD)

著者: 堀江孝至

ページ範囲:P.943 - P.949

 せき,たん,喘鳴あるいは息切れなどの臨床症状に伴い,呼出障害,呼気延長をみとめる症例は多く経験される.この呼出障害は生理検査において気道抵抗(Raw)の増加,スパイログラムでの1秒量(FEV H1.0),1秒率(FEV1.0%)の減少としてとらえられる.その原因は図1に示すごとく,①気道そのものに病変があり内腔の狭小化をきたす場合,②気道は正常であるが,肺実質が障害され肺胞壁の破壊とその内腔の著しい拡張を呈する場合がある.疾患としては前者には慢性気管支炎,気管支喘息(さらに近年わが国で注目されているびまん性汎細気管支炎も含まれよう),後者には肺気腫があるが,しかしこれら疾患が純粋な形で気道のみ,肺実質のみに病変をおこすことは少ない.多数の症例でむしろこれら病変が合併しており,したがってしばしぼ臨床症状が類似し,相互の鑑別が困難なことが経験される.前回までの解説ではびまん性肺疾患の肺機能,X線所見について述べてきたが,今回は"慢性閉塞性肺疾患"をとりあげ,その鑑別点などについて述べてみたい.

Oncology・5

抗腫瘍剤—Ⅲ.抗腫瘍性抗生物質(1)

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.951 - P.955

Doxorubicin,Daunorubicin
 最近の癌の化学療法における最も重要な進歩は,anthracycline系の誘導体であるdoxorubicin(adriamycin)とdaunorubicin(daunomycin)の開発であろう.これらの抗腫瘍剤は真菌であるStreptomyces Peucetius var,caesiusの生産物であり,赤い色をもっている.このグループに属する抗腫瘍剤は,アミノ配糖体構造とダウノサミン(daunosamine)の結合体である(図).
 doxorubicinとdaunorubicinの構造上の相違は,R2がdoxorubicinではCH2OHで,daunorubicinではCH3である.D環にはdaunosamineが結合しており,この構造が核酸の二重構造に入り込む(intercalation)うえで必要とされている.daunorubicinは急性白血病の治療にのみ使用されるが,doxorubicinはbroad spectrumの抗腫瘍剤で,白血病,リンパ腫,乳癌,軟部組織肉腫に対して有効性を示す.

小児診療のコツ・11

頭痛と意識障害

著者: 阿部忠良

ページ範囲:P.957 - P.962

頭痛
 小児が頭痛を訴え,それが信頼できる年齢は5歳頃といわれている.しかし頭痛を訴えなくとも頭を抱えこんだり,または不機嫌だというようなことからも頭痛を推測することもできる.年長児ではその訴えが母親や環境の影響,心理的因子などで大きく変わることを念頭に置いておかねばならない.
 頭痛の原因は数多くあり,その発生機序などから種々の分類がある.米国のNIH頭痛分類特別委員会の分類や,その他の新しい分類も考えられている(表1).

プライマリ・ケア プライマリ・ケアに必要な初期臨床研修とその現状・4

プライマリ・ケアに必要な医師の技能

著者: 荒川洋一 ,   坂本健一 ,   藤井幹久 ,   鈴木俊一 ,   箕輪良行 ,   吉新通康 ,   細田瑳一

ページ範囲:P.938 - P.941

はじめに
 プライマリ・ケア(PC)医師に要求されるものとして,日野原は表1の3項目1)をあげている,現場の医師の業務内容は,そのおかれた状況(病院か診療所か,有床か無床か,設備,co-medical staffの有無,周辺医療機関との関連,背景人口,地理的状況など)により異なっている.しかし,こうした相異を超えた基本的な医師の技能,医師に要求される条件が存在する.日本医学教育学会の卒後初年度臨床研修目標案2)は,その代表的なものである.一方,全国各地で第一線医療に携わっている自治医大卒業医師の研究会である地域医療学研究会は,初期臨床研修に関する調査・研究から,一般診療のための研修案を示している.これらに示された各項目の必要性の程度はそれぞれ異なり,PCに必要な初期研修を考えるためには,その各項目に続いて重みづけを明確にし,PCの実態を反映させることが必要であると考える.そこで今回われわれは,PCの実践の場として重要な位置を占めている地域の第一線にある診療所を中心に,医師に要求される技能を検討した.

診療基本手技

—研修医のためのノート—SUMMARY SHEETの書き方

著者: 西崎統 ,   松下茂樹

ページ範囲:P.964 - P.965

 退院時サマリーは入院患者の入院から退院までの病状経過の総括的要約であるが,この退院時サマリー(以下サマリーと略)を書くことは研修医の大切な業務の1つといえる.この業務は臨床研修の開始と同時に始まる.
 そこで,今回は臨床研修をはじめたばかりの方々のために,当院で指導しているサマリーの書き方のポイントを紹介する.

当直医のための救急手技・産婦人科・2

出血および腹痛(妊娠中期・後期・産褥期)

著者: 押尾好浩

ページ範囲:P.966 - P.967

 今回は特に妊娠中期,後期および産褥期を中心に述べてみたい.
 まず注意しなければならないことは,妊娠とそれに伴う生理的変化である.

臨床メモ

日和見感染症としての肺炎の診断法

著者: 高橋幸則 ,   北原光夫

ページ範囲:P.963 - P.963

 Compromised hostにみられる日和見感染のなかで,最も多くみられるものは肺炎である.感染防御機構の障害に合併する肺炎は,表に示すように原因菌との関係がかなり限られたものになる.好中球減少があると,肺炎の典型的なX線像を呈さないし,また,脱水があると,やはり胸部X線像に異常を呈さないことがある.さらに,院外感染に比べて,喀疾のグラム染色,あるいは培養で診断をつけることが困難である.このような場合には,侵襲的診断方法にたよる必要性がでてくる.

新薬情報

Vidarabine(Ara-A)—抗ウイルス剤 商品名:アラセナーA〔持田〕

著者: 水島裕

ページ範囲:P.968 - P.968

■概略
 ウイルス感染症は,最近ますますその重要性が増してきた.インフルエンザのように重篤ではないが,再発,流行をくり返すもの,免疫不全症で問題となるヘルペスウイルス,サイトメガロウイルス感染症,またウイルス肝炎といったものに加え,癌,自己免疫病,その他AIDSなど原因不明のものにもウイルスが関係することが次第に明らかになっている.一方,これに対する抗ウイルス剤の開発はまったく遅れており,これまで有効である薬剤がほとんどないといっても過言ではなかった.最近になり,ようやく抗ウイルス剤開発も軌道にのり,Ara-A,Aciclovirなどの臨床治験により,その有用性が着々と証明されてきている.このたび,単純ヘルペス脳炎のみの適用であるが,Ara-Aが市販された.

面接法のポイント・5

面接の基礎(4)

著者: 河野友信

ページ範囲:P.970 - P.971

 面接の概念にもよるが,医療のための面接には,それだけを目的とした特別の理論があるわけではない.
 医療における面接は,診断的なものであれ,治療的なものであれ,患者のかかえている病悩や問題を解決するためのものであり,面接に関する学説や理論を紹介するとなれば,いきおい各種の心理療法の解説が中心にならざるをえない.しかし,各種の心理療法を概説することが本稿の目的ではないので,ここでは主として,primary careや精神科以外の臨床科でなされる面接で役立つような原則や方策について,諸家の理論や所説のいくつかを紹介したい.
 具体的な面接技法の詳細については,後の章で触れるので,ここではあくまで原則的なことを概説するにとどめる.なお各種心理療法の理論や技法の詳細は,成書を参照していただきたい.

他科のトピックス

色覚検査表による視神経障害の検出—標準色覚検査表第2部後天異常用

著者: 田邊詔子

ページ範囲:P.972 - P.973

 「副作用の有無を…」という眼科への検査依頼は,ステロイドとエタンブトールの投与患者が圧倒的に多い.ステロイドに関しては眼圧や白内障のような捉えやすい所見があるので,乳幼児で検査が困難な場合以外あまり問題がないけれども,エタンブトールによる視神経症は,他覚的所見が初期にはまったくといっていいほどない.視力が正常であれば一応副作用は出ていないと判定するのであるが,0.8くらいのわずかな視力低下があって原因が明らかでないとき,非常に回答に難渋する.薬剤はそれ相当の必要があって投与されているのであるから,疑わしきをすべて直ちに中止するのは本末転倒であろうと思うからである.
 エタンブトールによる視神経症の報告は多いが,発症初期の症状は明確に記載されていない.しかし,消極的な治療法しかない現在,いかに早期に診断するかが重要である.
 症状が軽微であるほど,その確認には多くの検査を要する.視神経の微細な障害を診断するいろいろな検査は,あまりにも煩雑であったり患者の負担が大きかったりして,定期的にくり返し行うのが無理なことも多い.

天地人

聖たまこがねの記

著者: 盲へび…の猫

ページ範囲:P.969 - P.969

 専門領域の臨床研究に手を染め出して2年半がすぎた.はじめて研究室の仲間入りをして立派な指導者に恵まれて,リンパ球を処理しはじめたのが56年初冬であった.夜明け頃,研究室の戸締りをして外へ出る.寒さでガタガタふるえながら,オンボロ車のエンジンがなかなかかからずヤレヤレと思ったことが再三ある.夜更けて暗室で顕微鏡をのぞいていると,眼精疲労とオ化ケへの恐怖で涙が出そうになったこともある.
 幸いに,特殊な専門領域ながらも,臨床例には恵まれているので,私達の検査予定表はいつも予約で埋められてしまう.泣きたい位に仕事が好き--ではないが,こうなってくると患者の管理,検査,検体の処理,データの整理と考察,次の目標の設定と,全てが課題曲となって自他双方から課せられてくる.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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