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雑誌目次

雑誌文献

medicina21巻6号

1984年06月発行

雑誌目次

今月の主題 糖尿病診療の実際

理解のための10題

ページ範囲:P.1064 - P.1066

診断

糖尿病の診断

著者: 小坂樹徳

ページ範囲:P.982 - P.983

診断の対象となる糖尿病
 糖尿病の診断とは,被検者が糖尿病という疾患をもっているかを認知する行為である.今日いうところの糖尿病は次のいくつかの身体的特質をそなえている疾患である1)

集団検診における糖尿病のスクリーニング

著者: 後藤由夫

ページ範囲:P.984 - P.986

糖尿病に特異的な所見
 糖尿病はインスリン作用の不足による持続性の血糖上昇を主とする代謝異常があり,長い経過の間に特徴的な慢性合併症が起こる疾患である.その成因,発症機構,経過は多様なので,糖尿病と狭義に解するよりも,高血糖症(hyperglycemosisあるいはglycemosis)としてとらえ,いわゆる特発性糖尿病はその中の1つの病態と理解する方が考え方の整理に好都合である1).表1はこのような考えに立脚して高血糖症を整理したものである.筆者がこのような立場に立つのは,いわゆる特発性糖尿病に疾病特徴的な所見はなく,また特発性なる語そのものが現在の医学の不完全さを示すものであり,特発性といわれるものの中からつぎつぎに成因が解明されてゆく可能性が多いからである.高血糖は勿論のこと低インスリン血症,低インスリン反応,小血管瘤などはいろいろの病態で起こるものであり,また糖尿病に特異的な遺伝マーカーも現在知られていないので糖尿病のスクリーニングには高血糖と,それに付随する尿糖を指標にするのが一般的である.

境界型例の取り扱い方

著者: 佐々木陽

ページ範囲:P.988 - P.989

「境界型」のとらえ方
 糖尿病の診断に関連する問題の一つに境界型例の取り扱いがある.糖尿病の診断のために,これまで内外で多くの診断基準が提案されてきた.わが国では,日本糖尿病学会の診断基準委員会が1970年に勧告した判定基準がいわゆる「学会基準」として広く用いられてきたが,1982年にはさらにWHOの新しい見解(1980年WHO基準)をふまえて本学会の新基準が公表されたのは周知のとおりである.ところが,これらの基準に共通していることは,糖代謝の「正常」な群と,定義によって「糖尿病」と分類される群との間に,そのどちらにも属さない中間帯が設けられていることである.この中間帯をWHO基準ではIGT(Impaired Glucose Tolerance)と呼び,学会基準では「境界型」としているが,要するにどちらにも分類できない糖代謝異常群を入れるために便宜的に設定したものである.ただし,その範囲は基準設定の考え方によって大きく異なってくる.たとえば,WHO基準と新旧学会基準を比較すると表のとおりで,旧学会基準の境界型にWHO基準のIGTを加えたものが今回の「境界型」であり,その範囲は旧基準より著しく広くなっている.
 それでは,このような「境界型」に代表される糖代謝異常者をどのように取り扱えばよいかということが次の問題として浮かび上ってくる.

二次性糖尿病

著者: 堀田饒 ,   坂本信夫

ページ範囲:P.990 - P.992

 従来の糖尿病の病型分類では,発症年齢からみた観点と発症成因,臨床経過,治療との間に必ずしも一致する相関のみられないことが少なくなかった.最近,NIHおよびWHOはこの矛盾を解消するために,インスリン治療が不可欠か否かという病態を基本に,発症機序,遺伝的背景を加味して糖尿病を,1)Type Ⅰ,インスリン依存性糖尿病(IDDM),2)Type Ⅱ,インスリン非依存性糖尿病(NIDDM)とに分類し,従来の二次性糖尿病(secondary diabetes)を 3)Other Typesと呼んでいる1).ここでは,NIH,WHOのいうOther Types-二次性糖尿病の概念,診断についてその概要を述べてみたい.

治療

糖尿病治療の基本設計

著者: 松岡健平

ページ範囲:P.994 - P.995

 糖尿病の症状はその経過中の病態より見て,高血糖により直接もたらされる多尿,多飲,多食,倦怠感など,いわゆる急性症状と,長期罹病後に起こる合併症による症状とに分けることができる.前者は時としてケトアシドーシス,昏睡につながるものであり,後者は高血糖に表現される代謝異常の持続の結果もたらされるものである.したがって,糖尿病治療の目標には代謝異常の是正と合併症手術の二つの柱がある.ところが,糖尿病は病型,病期,年齢,等により病態が異なる.いったん糖尿病の診断がついたら,個々の症例の評価を医学的のみならず,社会的背景をも含めて正しく行うことが適切な治療設計を立てる意味で非常に重要なことである.

経過観察に必要な検査と読み方

著者: 兼子俊男 ,   松村茂一

ページ範囲:P.996 - P.997

 糖尿病治療の目的は,血管障害の発症,進展を阻止することにある.糖尿病における血管障害はインスリン作用不足による代謝異常に基づくとされており,代謝異常を是正することにより血管障害の発症が防止できると考えられている.そのため糖尿病の診療にあたっては代謝異常および合併症の状態を把握するための検査を施行し,その経過を観察してゆくことが必要となる.
 本稿では,これらの検査のうち主要なものをとりあげ,その意義と問題点について述べることにする.

自己血糖測定(SMBG)—適応と限界

著者: 池田義雄 ,   南信明

ページ範囲:P.998 - P.999

 糖尿病のコントロールの目的は,糖尿病性腎症,網膜症などの糖尿病に特有な細小血管障害ならびに神経障害そして動脈硬化などの合併症を防止することにある.そのための方策として血糖を可能な限り正常値に維持するのは不可欠の要因だとされている.
 血糖を正常に近づけるための最良の手段として人工膵島が世に送りだされ,糖尿病性昏睡や,手術時などの短期間の血糖コントロールに大きな成果をおさめている.しかし携帯可能に小型化された人工膵島の日常生活への導入には,まだまだ多くの時間を要するものと思われる.そこでインスリン注射療法の不可欠なインスリン依存型糖尿病(IDDM)や厳格なコントロールの要求される妊娠を希望する糖尿病婦人や糖尿病妊婦における血糖のコントロールは無論のこと,合併症の出現やその進展を防止しようとする糖尿病者の全てにおいて,今や血糖の自己測定(Self Monitoring ofBlood Glucose:SMBG)による糖尿病の自己管理方式はきわめて有用な手段として評価されるに至っている1)2)3)

インスリン注射指導

著者: 北村信一

ページ範囲:P.1000 - P.1001

指導の必要性
 注射で体内にインスリンを補充する方法には在来の皮下注射のほかに,インスリン皮下持続注入や人工膵による静脈内持続注入などの方法が登場し臨床応用されつつあるが,ここでは日常の臨床でほとんどすべての症例に用いている,在来のインスリン皮下注射の患者指導について述べる.
 インスリン皮下注射は1日1回以上,毎日実施するので患者自身による自己注射が必要であり,我が国では昭和56年6月からインスリン自己注射が健康保険の医療給付の対象となっている.そして,インスリン自己注射を有効に安全に実施していくために,表に示す項目の責任が医師に負わされており,この中心となる自己注射の指導はインスリン注射治療を行う上で必要かつ重要な問題なのである.

運動療法指導の実際

著者: 佐藤祐造

ページ範囲:P.1002 - P.1003

 近年,国民の間でテニス,スキー,ジョギングなどのスポーツ活動がレクリエーションとして関心をよんでいる.運動療法は食事療法と共に,車の両輪にたとえられる程に,糖尿病の基本治療として重要視されており,スポーツの普及は,我々医師にとっても好ましい現象と思われる1).にもかかわらず,運動療法の指導にあたっては"糖尿病治療のための食品交換表"(糖尿病学会編,文光堂刊)の如き確立された治療指針もほとんどなく,また糖尿病児の中には,学校での体育活動への参加を禁止されたりする場合も少なくない現状にある1,2)
 本稿では運動療法について,実際面に重点をおいて概説するが,詳細は拙著2,3)および"糖尿病運動療法のてびき"(糖尿病治療研究会編,医歯薬出版)を参照していただければ幸いである.

経口血糖降下薬

著者: 平田幸正

ページ範囲:P.1004 - P.1005

 糖尿病診療の実際に当って経口血糖降下薬の占める比重は,きわめて大きい.その理由の第1は,糖尿病として治療を受けているもののきわめて多数のものが,本剤を使用されていることである.各医療機関で差があるが,20〜70%の糖尿病患者に本剤が投与されている.ただし,80%をこえた時代もあったようである.現在,日本全国でみると通院糖尿病患者の約半数が,本剤による治療を受けていると想像される.したがって,本薬剤に関する充分な知識を持つことは,今後,糖尿病の診療に関係しようとする臨床医にとってきわめて重要な一項目といえる.

CSII使用の実際

著者: 小林哲郎

ページ範囲:P.1006 - P.1007

 最近,従来の中間型インスリンでは血糖が不安な糖尿病例に,インスリン持続皮下注入療法(Continuous Subcutaneous Insulin Infusion:CSII)1)が施行され,長期間の良好な血糖コントロールを得ることが可能となっている.この治療法の原理は,速効性インスリンを夜間は少なめに,食事の際は多めに皮下注入してインスリンの調節性を高め,これにより正常人に近似した一日血糖値を得ようとするところにある.本稿ではCSII療法における手技の実際を具体的に述べてみたい.この治療法の効果と問題点に関しては別稿2)を参照されたい.

老年者糖尿病の管理

著者: 高尾嘉興 ,   大庭建三 ,   妻鳥昌平 ,   盤若博司

ページ範囲:P.1008 - P.1009

 老年期にみられる糖尿病もその病態は若壮年期の糖尿病と変わるところはなく,その治療,管理の原則も本質的に異なるところはない.しかし,周知のごとく糖尿病に限らず老年者の疾患には若壮年者にみられない特殊性が存在し,その治療,管理にあたっては特別の配慮が必要となってくる.本稿ではこの問題を中心に述べることとする.

食事療法指導の要点

著者: 伊藤千賀子

ページ範囲:P.1010 - P.1011

 糖尿病治療の根本は食事療法であるが,このことを患者に十分理解させて実行させるためには医師と患者双方の根気と努力が必要である.糖尿病の食事指導に当っては,まず食品中の各栄養素について説明し,ついで食事指導へと進み,食品の重量を計測することも指導する.食事療法の効果を挙げるためには,短期間の教育入院がよいが,外来で指導する場合には3日間の食事内容を記載させ,それをもとに個人指導を繰り返すことが望ましい.

糖尿病小児の食事療法

著者: 田苗綾子

ページ範囲:P.1012 - P.1014

 紀元前3,500年の昔,エジプト人が糖尿病の治療に食事療法を行っている.インスリン依存性,かつ若年発症型糖尿病患者は食事摂取内容により,大きく血糖値が変動し,すぐケトン血症になりやすい故,最近の進歩したインスリン療法にもかかわらず,食事療法は糖尿病コントロールに重要な治療法の一つである.また,発育を考慮した小児特有の食事療法が必要である.糖尿病小児の食事療法の基本と最近の傾向について述べる.

ケトアシドーシス治療の要点

著者: 柴輝男 ,   梶沼宏

ページ範囲:P.1016 - P.1017

 糖尿病性ケトアシドーシスは,インスリン作用の極度の不足により,高血糖,ケトアシドーシスとなり,更に意識障害へ発展する病態である.これはインスリン注射の中断,食事の不摂生,感染症,その他種々の誘因により起こる.患者は尿糖,尿アセトン体を多量に排泄し,浸透圧利尿により電解質の喪失,高度の脱水が認められ,重篤な場合には血圧は低下し,ショック状態に陥る.したがって治療の基本は,①インスリン投与による糖代謝,脂質代謝異常などの是正,②水,電解質補給による脱水,電解質異常の是正,③感染症の予防およびケトアシドーシスの誘因の検索とその治療を含めた全身管理,の以上3点にある.

非ケトン性昏睡の治療

著者: 河西浩一

ページ範囲:P.1018 - P.1019

 高浸透圧性非ケトン性糖尿病昏睡(NKC)は著しい高血糖,高浸透圧,ケトン体欠如,脱水,昏睡を含めての多彩な神経症状を示す重篤な糖尿病状態である.Ⅱ型糖尿病患者にみられることが多い.

合併症

腎症の治療方針

著者: 柴田昌雄

ページ範囲:P.1020 - P.1021

 糖尿病性腎症(以下腎症とする)は,糖尿病性血管合併症のうち,生命予後という面より考えて,臨床的にきわめて重要な疾患である.ひとたび発症した腎症は,進行性であり,回復することはない.それ故,進行をいかに阻止するかが,腎症の治療の基本といってよい.本稿では実地臨床に則して,その治療の要点について述べる.

網膜症の診断と管理

著者: 松井瑞夫

ページ範囲:P.1022 - P.1023

 糖尿病の血管合併症の一つとして,糖尿病性網膜症が失明の可能性をかかえているため,臨床的にも社会的にも問題とされるようになって長い年月がたっているが,われわれ眼科医を訪れる重症網膜症による失明者,すなわち盲人糖尿病患者blind diabeticsは増加こそすれ減少することはない.糖尿病の診療が単なる代謝疾患として取扱われるのではなく,血管障害をふくむ全体像を対象として行われるべきことが,多くの機会に主張されているのにもかかわらず,上述の状況が改善されないという現状を,ここでもまず述べておきたい.そして,本稿においても,このような失明の可能性をかかえた糖尿病性網膜症という観点に立って,その診断と経過観察,すなわち網膜症の管理について述べることにする.

光凝固・硝子体手術

著者: 高塚忠宏

ページ範囲:P.1024 - P.1025

光凝固療法
 直径100μ〜1000μのアルゴンレーザー光を,0.1W〜1Wのpowerで0.2秒〜0.5秒の間網膜面上に照射し,網膜内新生血管,網膜色素上皮層および網膜に瘢痕を作る治療である.

起立性低血圧症

著者: 姫井孟

ページ範囲:P.1026 - P.1027

 糖尿病患者にみられる起立性低血圧は,慢性の自律神経障害患者を最も無能にしてしまう臨床像であり,特に腎症を伴い横臥位で異常な高血圧を呈し,起立によって低血圧をきたす例では,しばしばその治療に困惑する場合がある.
 自律神経の障害で交感神経が侵されてくると起立時に末梢血管床における細動脈の反射性収縮が起こらず,末梢血管抵抗の減弱ないし消失が起こり,血液は下肢に集まり,中心静脈圧が下降し,心拍出量の減少と血圧の低下が起こる.また,同時に心血管反射を介する反射性頻脈が欠如(図)1)して眩暈や失神の大きな原因となる.起立によって収縮期圧が30mmHg以上下降し,なんらかの症状が出る場合には治療が必要となる.

糖尿病性壊疽

著者: 松田文子

ページ範囲:P.1028 - P.1029

 糖尿病患者の足に生じる壊疽には動脈硬化の結果の血流障害によって生じる虚血性壊疽と糖尿病の代謝異常とくに末梢知覚神経障害や自律神経障害と密接に関連し,皮膚の細小血管症もその成因となっていると考えられる糖尿病特有の壊疽とがある.この二者は成因が異なるのみならず,病像,臨床経過,治療方法,予後はまったく異なる別種の疾患と考えるべきである.とくに後者の糖尿病特有の壊疽はむしろ潰瘍とよぶべき病態をとる.ここでは糖尿病性潰瘍とする.欧米ではneurotrophic,necropathic ulcerと称される.むしろ神経障害性潰瘍とした方が適切であろうか.

失明糖尿病患者の生活指導

著者: 谷合侑

ページ範囲:P.1030 - P.1031

失明による障害
 国際連合が発表した国際障害者年行動計画の一節に,次の文がある.「国際障害者年は個人の特質であるImpairment,それによって引き起こされる機能的支障としてのDisability,その社会的結果として現われるHandicap,これら三者の間に区別があるという事実について,認識を促進すべきである.」
 失明糖尿病患者の例でいえば,網膜症が発病し治癒が期待できない状態がImpairmentであり,そのために視機能が低下し,見ることが困難になった状態がDisabilityである.この人が社会活動をしようとすると「目的地へ行けない.」「文字が読めない.」などの制約を受け,生活上著しく支障をきたすことになる.この状態をHandicapというのである.

自発痛と異常知覚の対策

著者: 松岡健平

ページ範囲:P.1032 - P.1033

 糖尿病性神経障害の中で最も頻度の高いものが多発性神経障害(polyneuropathy)で,その特徴的自覚症状が四肢の左右対称性の自発痛や異常知覚である.神経障害の原因は多元的であり,合併症であると同時に糖代謝異常の一つの表現である.

境界領域

糖尿病患者の手術

著者: 濱名元一

ページ範囲:P.1034 - P.1035

 わが国の糖尿病患者は,近年食生活の欧米化,老人人口の増加,糖尿病患者の管理向上により,増加の傾向にある.このことは,外科疾患により手術をうける患者が増加していることを示している.坂本らの糖尿病患者の死亡原因の集計(1971〜1980年)では,血管障害41.5%に次いで悪性腫瘍が25.3%と,平田らの1970年の集計よりはるかに増加している.これらの大部分は外科的手術適応であることが考えられ,開胸,開腹の大手術の症例が増加していることを示している.したがって,現代の外科医にとって,糖尿病患者の手術の術前,術中,術後管理の知識は欠くことのできないものとなっている.糖尿病の病態生理の理解と,慎重な対策が求められる.また糖尿病患者は合併症も多く,専門医と密接な協力のもとに管理する必要がある.

糖尿病妊婦の管理

著者: 穴沢園子

ページ範囲:P.1036 - P.1037

 糖尿病患者が妊娠すると糖尿病の治療が適切に行われていない場合,母体には①血糖調整の悪化,②流産,早産,死産,③妊娠中毒症,羊水過多症,④糖尿病性細小血管症の増悪,などが起こり易く,児では①巨大児,②妊娠晩期子宮内胎児死亡,③先天奇形,④新生児低血糖,⑤呼吸窮迫症候群,等の頻度が高いことが知られている.近年,血糖の厳密なコントロールと胎児胎盤機能の評価,新生児ケアの進歩により糖尿病妊婦の児の周産期死亡率は低下してきたが,奇形の発生機序の解明と予防やすでに進展した血管合併症を有する母体の対策,など残された問題は大きい.本稿では糖尿病女性が長期予後を損うことなく健康な子どもを出産するためにどのように管理してゆくかについて述べる.

糖尿病と感染症

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.1038 - P.1039

 インスリンが発見され,一般に使用されるようになる以前は,感染症は糖尿病の合併症として高い頻度をもち,死因の大きな部分を占めていた.しかし,近年入院を必要としない糖尿病患者でよくコントロールされていると,感染症の頻度は非糖尿病患者と同様であるといわれている.
 糖尿病患者の生体防御機能のうちで,異常であるのは好中球の機能だといわれる.抗体産生能(Bリンパ球機能),細胞免疫能(Tリンパ球機能)は正常である.好中球機能は遊走能と貪食能が低下しており,機能検査においてインスリンをin vitroで使用すると改善することが証明されている.よくコントロールされている患者から得た好中球は正常の機能を有することが明らかにされている.このように,感染症頻度の低下は糖尿病自体のコントロールによる点が多い.

糖尿病患者とインポテンス

著者: 白井将文

ページ範囲:P.1040 - P.1041

 糖尿病患者にしばしばインポテンス(以下,IMPと略す)が合併することは周知の事実であり,その発現頻度は報告者によりかなりの差はみられるが糖尿病患者のおよそ30〜60%の高頻度に認められるとされている.しかるにIMPを訴えて泌尿器科を実際に訪れる糖尿病患者は決して多くはなく,著者らの経験では過去5年間にIMPを主訴として東邦大学大森病院リプロダクションセンターを訪れた914例の患者のうち糖尿病であったものはわずか53例(5.8%)にしかすぎない.他の多くの糖尿病性IMP患者は内科医から治療を受けているのか,それとも全く放置されているのか,あるいは最初からあきらめていてIMPに関して医師に相談しないのか著者らには全く不明である.

糖尿病患者の心理的問題

著者: 笠原督

ページ範囲:P.1042 - P.1043

 糖尿病患者の心理を理解することは,糖尿病を管理する上で重要である.感情はepinephrineなどのインスリン拮抗ホルモンを介して,直接血糖に影響するばかりでなく,感情的ストレスにより,食習慣とか日課となった行動が変化したり,インスリン注射を中止してしまうことさえおこり,血糖コントロールがさらに乱れる結果となる.
 実際,糖尿病に罹ると,注意深い食事療法とか,毎日のインスリン注射など患者自身が行うべき部分が多く,一生にわたって毎日,心理的な圧迫が加えられることはいうまでもなく,したがって患者の感情反応を十分理解することが必要である.

患者教育チームの編成

著者: 阿部祐五

ページ範囲:P.1044 - P.1045

 糖尿病治療における患者教育は,明確な目的と具体的な指導内容をもった教育計画を組織して,患者と家族に受け入れ易い糖尿病知識の理解と動機づけを目標としたチームアプローチが中心となる.すなわちチームアプローチによって環境と生活背景の異なる個々の患者の患者自身の現状を容認する行動の変容があって,はじめて所期の目的が達成できる.そのため,より効果的な教育計画の立案は,共通の目的をもった各分野の専門家の参加と積極的な支持によって可能となり,患者の現状の病態に対応して「何が必要か」「何を行うべきか」などの的確な洞察力と論理的帰納性をもった教育指導が可能なチーム編成(make up ateam)が必須の条件となる.
 一方,現行のわが国の医療制度下における患者教育チームの人材需要の予測と目標は,各施設,機関の管理者の医道理念と患者教育に対する価値観によって方向づけられている.従来,教育現場のチームメンバーの選考と養成については,専門家でない職制上の院内責任者によって決定されているのが実情であり,医師やチームリーダーの要望に応えた教育チームの編成には困難な問題が多い.しかしたとえ教育チームが不満足であってもチームメンバーの再教育,再訓練を繰返し行い,教育システム,教育計画の評価,再評価が重要である.

トピックス

ヒト・インスリン製剤

著者: 中川昌一

ページ範囲:P.1046 - P.1047

 インスリンは高等動物の間では,ほとんど作用に変りはないが,動物毎にアミノ酸の配列が若干異なっているので,抗原性があり,別の種属のインスリンで治療すると抗体を生じる.小人症に対する成長ホルモンの供給難を考えると,動物のインスリンが糖尿病患者の治療用として,ヒト・インスリンと同様に有効であることは大変幸いなことであったことが首肯されよう.しかし,一方では抗原性のある蛋白製剤を長期間に亘り注射を続けることは,明確な臨床上の副作用として現れることは稀であるとしても,理論的に好ましいことではない,この点にヒト・インスリン開発の動機があり,また最近の技術的発達はこれを可能にしたと言えよう.
 ヒト・インスリンを得る方法としては,屍体膵より抽出するか,化学的に合成する方法がとられていたが,いずれも,材料や費用の点で治療用としては用いられなかった.最近ブタ・インスリンより,B30位のアミノ酸を化学的に置換する方法(転換ヒト・インスリンSemisynthetic Human Insulin,SHI)や遺伝子工学による方法(Biosynthetic Human Insulin,BHI,Human Insulin(rDNA))で治療用の製剤が製造されるようになった.

食物線維

著者: 土井邦紘 ,   松浦省明

ページ範囲:P.1048 - P.1050

 最近成人病の罹病率が増加するとともに,食物線維の効用がにわかに注目されるようになった.そしてこれは,アメリカ,イギリス,カナダなどの糖尿病学会から今回出された糖尿病者のための食事療法指針1)の中でも食物線維の重要性を取り上げて,できるだけ自然のものを沢山食べるようにと勧告されるまでになった.このような状況下でわが国でも,科学技術庁から出版されている「日本食品標準成分表」の中にも食品中に含まれている食物線維の量を記載してはという動きがある.いずれにしても従来栄養価もなく,かえりみられなかった食物線維だけに,その栄養学上の作用機序については不明な点が多々あるのが現状である.そこでここでは,これまで筆者らが行ってきた実験2)〜4)のなかから,とくに食後血糖上昇抑制作用と血清コレステロール低下作用について具体的に症例を呈示して説明し,現段階での臨床応用について紹介することにする.

膵移植

著者: 井上修二 ,   田中克明 ,   大川伸一

ページ範囲:P.1052 - P.1054

 インスリン依存型のI型糖尿病の治療には現在インスリン注射が実施されているが,毎日の注射による患者の苦痛や,注射療法によって血糖コントロールをしても合併症を完全に防げないという限界があり,より理想的な治療手段が求められてきた.今日インスリン注射療法に変わりうるものとして,人工膵臓と膵移植の研究開発が精力的に行われている.
 人工膵臓に比べて膵移植の利点は,人工膵臓がなおインスリンを外から与えるため,患者の間歇的な苦痛は避けられないこと,インスリン投与のために注射針を長い間留置することによる感染,等の弊害,また日常生活において入浴時,その他で装置を外す必要がある,等の不便がつきまとうのに対して,膵移植は,もし成功すれば,一度の手術でその後の処置は不用であること,また完全治癒を期待できること,そして,動物実験によれば,合併症を治癒できない場合でも合併症を緩解する作用を有しているとされていることである.本論では,糖尿病治療としての膵移植の現況について解説する.

アルドース・リダクターゼ阻害剤

著者: 吉川隆一 ,   畑中行雄

ページ範囲:P.1056 - P.1057

 近年,糖尿病患者の白内障や神経障害の治療薬剤としてアルドース・リダクターゼ阻害剤の効果が注目され,世界的な開発合戦が行われている.最も開発の進んでいる製剤で臨床治験第III相の段階であり,現時点では一般臨床に使用しえないが,間もなく,おそらく2〜3年内に市販されるのではないかと予想される.

ウイルス感染と糖尿病

著者: 豊島滋 ,   瀬戸淑子

ページ範囲:P.1058 - P.1060

 糖尿病発症にウィルス感染が直接的に関与しているという可能性については,19世紀の後半にすでにノルウェーのStangやHarrisによって推論されていた.以来,内外で長期にわたる疫学的調査,詳細な臨床的観察および動物実験が行われて来た.それらの多数の報告から主なところを要約して表に示す1)〜3)

疫学的見地よりみた糖尿病

著者: 三村悟郎

ページ範囲:P.1062 - P.1063

 疫学の研究は疾患の成因究明,治療対策樹立,そして予防への足がかりをつくるための最も基本的なものである.すなわちある疾患の性別,年齢別の死亡率,罹患率の国別,地域別の比較検討は,その病気の成因としての環境要因の解明,そして遺伝的因子の関与の有無を探求する手段を提供するものである.したがって疫学は臨床医学の基礎をなすものであるといえる.

Current Topics

結核を見逃さないために

著者: 泉孝英 ,   江村正仁

ページ範囲:P.1100 - P.1114

 わが国における昭和57(1982)年の結核による死亡者数は5,343(人口10万対4.5,死因順位の15位)であり,10年前(昭47,1972)の人口10万対11.9に比較すれば,1/2以下になっている.また,結核新登録患者数でみると,罹患率人口10万対137.8が53.9,活動性結核登録患者数では,有病率537.5が160.8と,それぞれ1/2,1/3以下に減少している1).これだけの激減をみれば,医療関係者の多くが結核に関心を失っていくのは当然であろう.結果として,10年前には肺癌が肺結核と誤診されていることが少なくなかったが,現在では,肺結核が肺癌と診断されることが多くなり,少なからざる症例が,手術によってはじめて肺結核の診断が与えられる状況となってきている.大畑の全国調査成績2)では,肺外科療法の行われた306例のうち,肺癌を疑って手術後肺結核と診断されたものが97例(32%)と報告されている.一方,肺結核と診断されたが術後肺癌と確定されたのは5例(2%)である.
 結核症は減少したとはいえ,呼吸器疾患のなかで,今なお重要な疾患であることに変わりはない.

カラーグラフ 臨床医のための血液像

急性白血病

著者: 原芳邦

ページ範囲:P.1068 - P.1069

 末血塗抹標本中に異型性のある細胞を発見した場合,鑑別すべき最も重要な疾患は白血病であろう.今回は急性白血病の標本を集めてみた.
 急性リンパ性白血病(図1) FAB分類注)ではL1-L3に分類される.L1は小児白血病の主たるもので,通常小型のhomogenousなリンパ芽球よりなり,細胞質は小さく,核小体も小さく目だたない.L2は大きな不均一の細胞が主体で,ときとして骨髄芽球性白血病との鑑別が難しいことがあり,ペルオキシダーゼ染色などの特殊染色が必要である.図1では比較的大きな未熟細胞が目につき,未熟細胞の大小不同があるが,核の形は均一で核小体はあまり目だたず,細胞質はごく小さく,L1に分類される例である.L3はBurkitt腫瘍細胞型で,大きな均一の細胞よりなり,強い好塩基性の比較的大きな細胞質を持ち,多数の空胞を有するのが特徴.

グラフ 胸部X線診断の基礎

撮り方と読み方(6)

著者: 新野稔

ページ範囲:P.1084 - P.1089

 前号に続き,胸部正面像のX線解剖のうち,前号で触れなかった横隔膜について解説し,続いてX線撮影ならびに現像処理などの実技面と特性曲線との関連について述べる.

複合心エコー図法

後天性心疾患—弁膜症(1)

著者: 伊東紘一 ,   鈴木修

ページ範囲:P.1078 - P.1083

症例5 94歳,男性
 20歳頃より心弁膜症の診断を受けている.8年前より僧帽弁閉鎖不全症の診断にてジギタリス,利尿剤の投与を受けている。胸部X線で,心胸比80%,心電図,CRBBB, a-f.心音は心尖部から第3肋間胸骨左縁に全収縮期性雑音(4/6),第2〜3肋間胸骨左縁に拡張期雑音(2/6).肝の腫大があり,腹部エコー上肝静脈の拡張を認める.

画像からみた鑑別診断(鼎談)

肝腫大—Peliosis hepatis(肝紫斑病)

著者: 田中照二 ,   関谷透 ,   川上憲司

ページ範囲:P.1090 - P.1099

症例
 患者 47歳,女性,経理事務員
 主訴 発熱 右季肋部痛,上腹部膨満感.

演習

目でみるトレーニング(5題)

ページ範囲:P.1071 - P.1077

講座 図解病態のしくみ びまん性肺疾患・6

気管支喘息と気道過敏性

著者: 榎本哲 ,   堀江孝至

ページ範囲:P.1135 - P.1141

 気管支喘息は,"反復する喘鳴を伴う呼吸困難発作"を特徴としている.このような症状は気管・気管支が様々の刺激に対して非常に反応しやすく,広汎な気道狭窄を招くために出現する.おこった気道狭窄は,治療によって,あるいは自然にその程度が変化することが特徴的で,前回解説した慢性気管支炎や肺気腫とは異なる点である.
 気管支喘息はその発症原因により,基本的には外因性喘息と内因性喘息にわけられている.しかし,発症原因がどうであれ,結果として気管支平滑筋収縮,分泌の亢進,毛細血管の拡張および粘膜の腫脹がおこり,気道が狭窄されることは同じである(図1).特に大切なのは,気道平滑筋の易収縮性で,これを気道の過敏性と呼んでいる.今回はこの気道過敏性をとりあげ,その発症機序,および臨床的な評価法について解説する.

Oncology・6

抗腫瘍剤—Ⅲ.抗腫瘍性抗生物質(2)

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.1143 - P.1147

Bleomycin(Blenoxane.Bleo®,BLM)
 bleomycinは,Streptomyces verticillusから梅沢らによって得られた抗腫瘍性抗生物質である(図1).現在使われているbleomycinは,bleomycin A2とB2と呼ばれる類似物質の混合物といわれている.

小児診療のコツ・12

手足の痛み

著者: 藤川敏

ページ範囲:P.1149 - P.1154

四肢痛へのアプローチ
 小児,とくに乳幼児が手足の痛みを訴えることは日常頻繁に経験する症状の一つである(表1).またリウマチ熱を疑われて受診する症例も多い.しかし必ずしも病的でないことも多く,また手足の疾患以外であることもあり,くわしく具体的に問診をすることが大切である.
 問診の方法は自分の意志を的確に表現できる年齢かどうかによっても異なるが,どの部分がどのようなときに痛がるか,また持続時間も聞いておく必要がある.たとえば歩行するときのみか,安静時にも痛いか,おむつを交換するときとか抱き上げるときに限るか,夜間ベッドに入ってからのほうが訴えるか.

境界領域 転科のタイミング

難治性下腿潰瘍

著者: 後藤久

ページ範囲:P.1116 - P.1123

 難治性の静脈性下腿潰瘍で悩む患者は少なくない.わが国における正確な発生頻度は不明であるが,欧米の報告によれば,Linton1)は1931年に英国で25万人,米国では1953年に30〜40万人の下腿潰瘍患者が存在するにもかかわらず,その治療法が確定せず患者は疾患そのものの苦痛のほか,社会的にも経済的にも負担を負わざるをえないことを嘆いている.
 従来より下腿潰瘍は主として皮膚科の疾患と考えられ,軟膏療法を主体とした治療が広く行われてきた.そして現在においてもなお,本症がきわめて治療の困難な皮膚科疾患の一つであるという認識を抱く臨床医が多いように思われる.

ベッドサイド 臨床医のための臨床薬理学マニュアル

フェニトイン(Phenytoin)

著者: 越前宏俊 ,   辻本豪三 ,   石崎高志

ページ範囲:P.1124 - P.1130

 疫学的な調査によれば,抗痙攣薬による薬物治療が必要な患者数は全人口当り,ほぼ0.5〜1.0%と言われている1).つまり日本全国では約50〜100万人の対象者がいることになる.したがって抗痙攣剤が日常臨床で用いられる頻度もきわめて高い.それら薬剤の中で,おそらく最も多く使用されているのがPhenytoin(フェニトイン,アレビアチン,ヒダントール)である.この薬剤は,脳および心臓において異所性の興奮電位の伝播を抑制するため,てんかんの治療,不整脈とくにDigoxin(ジゴキシン)中毒時の不整脈の治療に広く用いられてきた.これだけ広く使用されておりながら,Phenytoinこそは,おそらく投与計画設計が最も難しい薬物の一つである.なぜなら,(1)治療域が狭く,(2)患者間での薬物排泄能に大きな差があり,(3)代謝は主として肝臓で行なわれ,(4)その代謝は臨床治療域で飽和してしまうため,クリアランスが血中濃度に依存し変化し,(5)他の薬物との薬物相互作用が多く,(6)各製剤間でのBioavailabilityに差があるからである.

当直医のための救急手技・産婦人科・3

婦人の下腹痛・出血(妊娠反応陰性のばあい)

著者: 今村好久

ページ範囲:P.1132 - P.1133

 一般当直医が女性の患者を診察して産婦人科疾患を疑うのは,やはり出血と下腹痛である.そして最も大切なことは,そのまま翌朝まで待つか,すぐに産婦人科依頼とするか,あるいは自分で処置するかを判断することであろう.問診や一般的な診察の後,月経が遅れているようであれば,まず妊娠反応を行うべきである.本人のいう最終月経の量が,いつもと較べて少ないようなときや不正な出血が最近みられているようなときも検査するとよい.50歳前後でも妊娠していることがある.
 今回はこの妊娠反応が陰性であった場合のことを主に記してみたい.当直病院の状況によって異なるが,一般に夜間でも専門医に依頼するのは症状が重く産婦人科的疾患が否定し難い場合や妊娠を伴っている場合である.

新薬情報

ブレジニン(Bredinin)—商品名:ミゾリビン〔東洋醸造〕—免疫抑制剤

著者: 水島裕

ページ範囲:P.1158 - P.1159

■概略
 腎移植を中心とする同種移植には,免疫抑制剤の使用が必須である.免疫抑制療法としては,1960年代から,ステロイド剤とアザチオプリン(イムラン)の使用が主流をしめ,60年代後半に異種抗リンパ球血清の併用が試みられた程度であり,その後画期的な免疫抑制剤は登場していない.
 しかし最近,サイクロスポリンAとともに,ブレジニンが注目されている.ブレジニンは本邦で開発されたものであり,白血球減少,肝障害がイムランに比べて少ないことに特徴があり,注目されている.

臨床メモ

嚥下性肺炎

著者: 袴田啓子 ,   北原光夫

ページ範囲:P.1134 - P.1134

 嚥下性肺炎は臨床医がしばしば経験する疾患であり,重症になると死亡率が高い反面,十分な注意を払うことにより予防が可能な疾患であるという点で重要である.
 嚥下性肺炎を考えていくうえでまず大切なことは,誤嚥を起こすような状況下にある患者にほとんどが合併しているということで,その状況とは意識障害あるいは嚥下障害である.原疾患については院内と院外では異なり,院外の場合は慢性アルコール中毒,肝疾患,けいれん,薬物中毒などである.院内においては脳血管障害,脳腫瘍,けいれんなど神経学的障害あるいは全身麻酔による術後の状態,食道癌などであり,イレウスの場合も誤嚥を起こしやすい.

面接法のポイント・6

面接の基礎(4)バリントの医療面接

著者: 河野友信

ページ範囲:P.1160 - P.1161

4.バリントの医療面接とグループ・ワーク
 マイケル・バリント(Michael Balint 1896〜1970)は,ハンガリー生まれの精神分析医であるが,ロンドンで開業医(G.P.)として活躍しながら,バリント方式として知られる医療面接法(medical interview)をあみだし,1939年からは,開業医グループを組織して全人的医療実践のための指導にあたった人として知られている.
 バリントの医療面接の中核は,開かれた姿勢での傾聴listeningであるが,バリントのグループ・ワークは,全人的医療の基盤をなすこの"無条件の受容的な傾聴"を可能にするために,開業医(G.P.)の治療者としての全人的な成熟を促すことを目的としたものである.

天地人

われに悔なく

著者:

ページ範囲:P.1157 - P.1157

 昭和22年9月15日の東京世田谷局の消印のある1枚の古いはがきがある.チェホフ全集やトルストイ全集の訳者として著名なロシヤ文学者の中村白葉氏(1890〜1973)からのもので,学生であった私が,訳者である氏に,チェホフの「桜の園」の上演許可とアドバイスをお願いしたものへの返事が,枯れた達筆な文字でしたためてある.敗戦後の窮迫時代を反映して,はがきの紙質は粗悪で,宛名の面に,CCDJ 2398の文字の入った進駐軍による検閲スタンプが捺印してある.当時は信書の検閲があり,上演戯曲の内容も検閲から逃れることはできない時代であった.敗戦後間もないころの世相が1枚のはがきに滲んでいる.
 ……御上京の節おより下されば,多少参考になる図などもあると思ひますが,とにかく御成功を祈ります……と結んである.その頃,いっぱしの進歩を気取った医学生達が,「桜の園」や「どん底」などの大作を,臆面もなく演じたのだが,いま思えば,まことに汗顔のいたりであった.

ニュース

第7回内科専門医会例会から

ページ範囲:P.1155 - P.1155

 さる4月1日から3日間,福岡で開催された第81回内科学会総会講演会の初日の夕刻から例年通り,第7回内科専門医会例会が開かれた.本例会は昭和57年に仙台で開かれた内科学会時に27名で発足し,各ブロック毎の生涯教育のための会合などを重ねて,現在,会員は332名に達している.
 例会はまず内科学会専門医制度審議会会長を務める鎮目和夫東京女子医大教授の挨拶で始まった.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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