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雑誌目次

雑誌文献

medicina22巻1号

1985年01月発行

雑誌目次

今月の主題 心不全診療の動向

理解のための10題

ページ範囲:P.98 - P.100

心不全の病態生理

心筋収縮機構

著者: 井上通敏 ,   堀正二 ,   北風政史

ページ範囲:P.8 - P.11

 心不全は,心臓のポンプ作用の障害により組織に必要な血液が十分供給できない状態であると定義されるが,心不全は必ずしも心筋不全と同義語ではない.心筋不全は通常,心不全を伴うが,その逆は必ずしも真ではなく,たとえば心臓の血液充満が障害されるような状態では,心不全は起こっても心筋不全は生じないことが多い.同様のことは,循環不全と心不全の関係についてもいえる.心不全があれば通常,循環不全を伴うが,hypo-volemic shockのように循環不全はあっても心不全は存在しないこともある.したがって,心不全の病態がすべて心筋収縮機構の解析で理解できるわけではないが,心ポンプ機能の本態はやはり心筋レベルの収縮・弛緩機能により維持されているため,本稿では正常および心不全時の心筋収縮機構について概説する.

交感神経,カテコールアミン

著者: 小川宏一

ページ範囲:P.12 - P.13

 心不全の病態生理において,自律神経系が大きな役割を果たしているが,そのなかでも交感神経系,ひいてはその神経伝達物質であるカテコールアミンの役割について多くの知見が集積され,その機作がかなり解明されてきた.
 心機能は,心臓に分布している交感神経終末部から放出されるノルエピネフリンと,血流分布により心筋に供給される血中カテコールアミンの2つの供給源よりのカテコールアミン量によって大きな規制を受けている.

腎機能,内分泌系

著者: 長村好章

ページ範囲:P.14 - P.16

 心不全の病態生理における腎機能と内分泌系の果たす役割については数多くの研究がある.すなわち心不全に伴う浮腫の発生機序として,静脈圧の上昇,腎血流量の減少,腎尿細管での水,Na再吸収増加,体内貯留という現象がみられ,腎が心不全時の浮腫発生の過程に重要な役割を演じていることは明らかにされている.さらに腎を含め,浮腫を発生させる因子として,レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系,ADHなどのホルモンや,交感神経緊張などが複雑に関与していると考えられている.しかし糸球体濾過値(GFR)の低下なしに著明なNa貯留が起こりうること,副腎を摘出した実験心不全犬においてもNa貯留が起こることが知られており,GFRの低下や,アルドステロンの上昇が,腎における水,Naの排泄障害に本質的あるいは不可欠な機序とはいえず,未だ不明な点も多い.
 本稿では心不全にみられる体液貯留の機序を中心に,腎機能,内分泌系がどのように関与しているかを述べてみたい.

心不全の診断と冶療方針

心機能評価法

著者: 村松準

ページ範囲:P.18 - P.22

 心不全における心機能は,臨床上,種々の面から評価される.すなわち,症状・徴候,理学的所見などによる臨床的評価をはじめ,非観血的および観血的な診断機器による心機能評価法などがある.

心不全

著者: 高橋早苗

ページ範囲:P.24 - P.27

 心不全とは,心臓のポンプ機能の低下により全身の臓器が必要とする十分な血液量を送り出せない状態と定義される.臨床的には直接臓器血流障害による症状と,それによるレニン-アンギオテンシン系の分泌異常などの体液性の変化,静脈圧の上昇によって起こるうっ血の症状の両方を併せもった症候群と考え,診断,治療を行うのが妥当である(図1).

心原性ショック

著者: 田中啓治 ,   高野照夫

ページ範囲:P.28 - P.33

 心原性ショックとは心臓のポンプ機能の障害により生ずる重篤な循環不全状態で,Sobelは1),この原因を以下のごとく分類している.
 1)不整脈に基づくもの
  a.頻脈性不整脈
  b.徐脈性不整脈

心不全の治療法—適応と使用上の注意

ジギタリス

著者: 佐藤友英

ページ範囲:P.34 - P.35

適応と禁忌
 ジギタリスは虚血性心疾患,弁膜症,高血圧性心疾患,先天性心疾患,特発性および二次性心筋症,肺性心などを基礎疾患とするうっ血性心不全や心房細動,心房粗動,発作性上室性頻拍症,さらに心不全に起因する心室性期外収縮などの不整脈に対し適応がある.
 最もよい適応は,あまり高度な心筋障害を合併しない心不全で,かつ頻脈型心房細動を伴う場合である.

TA-064,Amrinone

著者: 松本直行

ページ範囲:P.37 - P.39

 ジギタリスがW. Witheringによって初めて臨床に導入されてからすでに200年余を経過したが,いまだにこれを超える強心薬は出現していない.しかしながらジギタリスが理想の強心薬というわけではなく,従来から指摘されているように,ジギタリスの問題点として次のことがあげられている.①有効量と中毒量の幅が非常に狭く,治療域が非常に限られている.②効果に心疾患の種類,重症度を含めて個体差がみられ,①と密接につながっている.③他の薬物との相互作用がある.④薬効の機序がまだ十分に明らかでない.
 また従来からの治療薬に加えて,血管拡張薬やカテコラミン,さらに補助循環システムが急性期を含めた心不全の治療体系にとり入れられるようになり,今後慢性期の心不全管理がさらに問題になると考えられる.実際,重症心不全例に新たな合成カテコラミン薬の持続点滴療法が繁用されるに至り,またカテコラミン持続点滴と血管拡張薬の併用療法の有効性を示す報告が多くみられるなかで,カテコラミン持続点滴からの離脱が困難な例に遭遇する機会が増えてきている.このような状況下で新たな経口強心薬の出現が期待され,近年従来の治療に抵抗を示す重症心不全例に対する効果を中心に,新たな強心薬の報告が多数みられるようになった(現在報告されている陽性変力作用物質とその作用機序を表1)に示す).

カテコールアミン

著者: 松村研二

ページ範囲:P.40 - P.41

 心不全の治療薬としては,ジギタリス,利尿剤などがいままで一般に使用されてきた.しかし,心筋梗塞,弁膜症,心筋症などの基礎心疾患のある重症心不全例には,これらの治療薬では不十分で,心不全のコントロール不能のことも多かった.とくに,心機能が極端に悪く,ポンプ機能として低下が著しい低心拍出状態の場合には,心収縮力増強剤が必要となる,このため,種々の薬剤が開発され使用されるようになった.
 カテコールアミン剤,とくにドパミン,ドブタミンは,心収縮力増強作用が強く,かつ血圧,心拍数をあまり変化させないという利点があり,近年,多く使用されるようになった.心不全の治療薬としてのカテコールアミンには,ドパミン,ドブタミン,ノルエピネフリン,イソプロテレノールなどがあり,それぞれ作用機序が異なり,それぞれの薬剤の特徴となっている.以下に述べるように,治療目的と薬剤の作用機序をよく考え,使用剤と使用量を決めることが大切である.

利尿薬

著者: 浅野泰

ページ範囲:P.42 - P.43

 利尿薬は強心薬とともにうっ血性心不全の治療に最もよく用いられる薬剤で,おもに腎に作用し,尿量を増加させて体内のNa・水を排泄する.したがって,左心不全で増加している心肺血液量は減少し肺静脈うっ血は改善し,右心不全では体静脈うっ血と浮腫は治療される.心不全の治療に用いられる利尿薬は,主としてサイアザイド系利尿薬,ループ利尿薬,カリウム蓄積性利尿薬(表)であるが,これらの出現により心不全の治療は飛躍的に進歩した.

血管拡張薬

著者: 斉藤宗靖

ページ範囲:P.44 - P.45

 血管拡張薬が心不全の治療に導入されたのは1970年以降である.血管拡張療法の概念は,心不全が生体の恒常性維持のための代償機序としての心臓の前負荷,後負荷の増加に基づいており,これらの代償機序が心行動や心筋虚血との間に悪循環を形成しているとの認識の上に立っている1).本療法は,心行動を全循環系の中でとらえ,末梢調節機序を修飾することによって心行動の改善を計ろうとする新しい心不全治療の概念である.以来10数年にわたり,各種の心不全病態に対しいろいろな血管拡張薬が使用され,本療法の臨床上の位置付けが次第に明らかになりつつある.ここでは,血管拡張薬の作用機序を述べ,次いで急性左心不全および慢性うっ血性心不全における本療法の役割を述べる.

ECUM

著者: 前田憲志 ,   新里高弘

ページ範囲:P.46 - P.47

 ECUM(Extra Corporeal Ultrafiltration Method)とは半透膜を介して血液から限外濾液を除去する方法であり,腎不全症例の浮腫や肺水腫の治療のため,多量の除水を無症状に行う方法として開発された1).その後,ネフローゼ症候群の浮腫の治療や難治性心不全の治療に用いられるようになった2).難治性心不全の浮腫は,腎不全のoverhydrationと根本的に病態が異なるため3),その治療にECUMを応用する場合,除水速度,除水量,治療頻度,blood accessなどについて細心の注意が必要である.

補助循環—心不全と心原性ショックの治療法

著者: 高野照夫

ページ範囲:P.48 - P.53

 補助循環とは,ポンプ不全に陥った心臓に対し,機械工学的な機器を用いて心ポンプ機能の一部,あるいは大部分の補助および代行をする治療法である.本法の目的は,全身の臓器循環を正常に維持し,また心臓の前負荷・後負荷を軽減,冠血流量増大,心筋酵素供給増大と需要を減少させ,心筋代謝改善をはかり,心収縮力を強め,ポンプとしての機能を回復することである.
 今日いわれている補助循環には,ポンプ不全に陥った心臓のポンプ機能を一時的に補助する装置と,回復不能となった自然心にかわってポンプ機能を完全に代行する完全人工心臓がある1,2).補助循環法にはいろいろあるが,最近臨床的に繁用されているものとして,大動脈内バルンパンピング法(intra-aortic balloon pumping;IABP),体外式パンピング法(external counterpulsation)や左心室補助循環法(left ventricular assist device)がある.

心筋代謝賦活薬

著者: 矢崎義雄

ページ範囲:P.54 - P.55

 心筋代謝賦活薬は,心筋の代謝障害を是正して心機能低下を抑制することを目的に開発された薬物である.従来の心不全治療薬と異なり,代謝レベルから改善しようとする新しい観点に立つものであって,エネルギー消費の大きな心筋でその効果が注目される.しかし,不全心筋における代謝障害は多岐にわたるものであり,これを薬理学的に改善することは困難なことから,その効果は必ずしも期待通りに得られるものではない.したがって,臨床的評価も多くは未だ確立されておらず,現時点で実際の使用法など論ずるにはまだ時期尚早の観がある.そこで本稿では,心筋代謝賦活薬の心不全治療薬としての適応と限界について,心筋代謝の生化学的な考察および臨床的知見に基づきながら解説したい.

他の障害を有する心不全

呼吸不全—急性心不全における呼吸器症状

著者: 野口宏

ページ範囲:P.56 - P.59

心不全とrespiratory symptom
 心不全の際の呼吸器症状は,その重症度に応じて,次のように段階づけられている.

腎不全

著者: 長村好章

ページ範囲:P.61 - P.63

 腎不全と心不全とでは,体内に水,電解質が貯留する点では共通点をもっている.また心不全では心拍出量の減少により腎灌流圧は低下し,GFRも低下する.中等度までの心不全では,糸球体輸出動脈の収縮によりGFRが増加する方向に働き,腎機能障害も可逆的である.しかし長期に及んだ重症心不全では糸球体輸出,輸入動脈ともに収縮し,萎縮腎として血清クレアチニン,尿素窒素が上昇し不可逆的となる例もみられる.このように心不全では心拍出量低下に伴う見かけ上の腎機能低下と,器質的腎障害の鑑別が臨床上問題となってくる.そこで本稿では腎不全と心不全の循環動態の相違を明らかにし,さらに腎不全を伴った心不全の治療について,最近の経験をふまえて述べてみたい.

妊娠と心不全

著者: 杉下靖郎

ページ範囲:P.64 - P.65

 心不全の誘因として,古くから妊娠・分娩があげられている.

特異性のある心不全の診断と治療

心不全に伴う不整脈

著者: 早崎和也

ページ範囲:P.66 - P.67

 心不全をきたすような心筋はその障害程度が強く,心筋の伸展,変性,壊死,線維化,虚血などが混在する.これらの障害の存在は,一方で電気的興奮の昂まりを,一方では興奮性の低下や伝導遅延をひき起こし,心筋内で電気的興奮性の差(local difference)を生ぜしめる.また,二次的に生じる電解質や血液ガスの異常,あるいは心不全治療に伴うジギタリス中毒などが不整脈発生の増悪因子となる.
 不整脈をきたしやすい疾患は心筋症(なかでも拡張型心筋症),心筋梗塞(なかでも心室瘤を伴う場合),および心臓弁膜症に代表されるが,心疾患の如何を問わず,心不全をひき起こすほどに心筋障害が進行してくると不整脈が生じやすくなる.

右室梗塞

著者: 土師一夫

ページ範囲:P.68 - P.70

 右室梗塞(RVI)は独立した疾患単位ではなく,多くは貫壁性下壁梗塞症の一合併症である.左室下後壁から右室にかけて連続性に形成される両室梗塞巣の大きさのバランスにより,RVIの臨床像にスペクトルが生じる1).右室梗塞として一般に論じられているのは右室梗塞巣が大で,急性右心不全を伴ういわゆる優性RVIである.本稿ではこの優性RVIの診断と治療を述べる.

心室中隔穿孔

著者: 木全心一

ページ範囲:P.72 - P.73

現状
 心室中隔穿孔とは,急性心筋梗塞の時期に生じた心室レベルでの左右短絡である.1979年に,厚生省の班会議のとき,全国の主だったCCUでの死亡率を調査した.このときの心室中隔穿孔の死亡率は85.7%にも及び,あまりの高さに驚いた.
 そこで,東京女子医大での集計をしたのが図1である.catecholamine,血管拡張薬,大動脈内バルンパンピング(IABP)などの新しい治療法,Swan-Ganz熱希釈カテーテルが定着しだした1977年を境にして,その前後で比較してある.1976年以前では,手術にもっていく前での死亡率は77.3%にも及び,手術で助けられている症例は13.6%でしかない.しかし,1977年以降は,手術にもっていく前での死亡率は41.2%と低下し,手術で生存し得た症例が47.1%と大幅に増加した.内科療法,外科療法の長足の進歩が認められる.

肺性心

著者: 半田俊之介 ,   宮森亮子

ページ範囲:P.74 - P.75

 心不全は慢性肺性心の終末像である(図).臨床の場では肺性心の心不全は,右心機能の低下による心拍出量の減少ないし心拍出予備能の低下,および右室拡張末期圧,静脈圧の上昇による諸症状として捉えることができる.すなわち易疲労性,労作に伴う動悸,下肢から始まる浮腫などが問題となる他,循環動態,血液ガス異常の増悪に伴う心房性,心室性の不整脈のみられることもある.
  肺性心の心不全が特異的な点は,肺性心の原因となっている呼吸器系の疾患の種類により,右心負荷の様相が多様なことである、肺の基本的な3つの機能は換気,ガス交換,および肺循環である.当然のことであるが疾患によって,これらの機能の障害の程度,組み合わせ,可逆性の有無などは異なる.

高拍出性心不全

著者: 木全心一

ページ範囲:P.76 - P.77

症例
 高拍出性心不全という一見理解しにくい問題を,1症例を手掛かりにしながら説明していくことにする.
 症例は35歳の男性で,腹水を伴った全身の浮腫と呼吸困難で入院してきた.32歳頃より色素脱落を生じ,全身に及んできたので恥ずかしく,人前や病院に行かなくなった.同じ頃より,筋肉が落ち細くなっていくのに,全身性に浮腫が強くなり,腹水も強くなり,体重が増加してきた.さらに呼吸困難も出現しだしたので,急患として入院してくる.

先天性心疾患

著者: 中沢誠

ページ範囲:P.78 - P.80

 先天性心疾患による心不全は,新生児幼若乳児期に発症することが多い.その病態は短絡による容量負荷,閉塞性病変による圧負荷,両者の合併,低酸素血症による修飾,胎児循環から成人循環への適応障害と多岐にわたる(図1).以下,各病態治療の基本的な考え方と方法を示す.

鼎談

心不全をめぐって

著者: 本田喬 ,   篠山重威 ,   木全心一

ページ範囲:P.82 - P.96

 木全(司会)今日は心不全をめぐるいろいろな話題についてお話し合いいただきたいと思います.そこで,臨床はもちろん,基礎的なことも十分検討されておられる篠山先生と,女子医大のCCUで心不全,心原性ショックに取り組んでおられる本田先生と,それに私も慢性の心不全をいくつか扱ってきていますので,知識が多少違う三人の鼎談という形で話を進めていきたいと思います.

Current topics

PTCRとPTCA(1)—冠動脈血栓溶解療法(PTCR)

著者: 延吉正清

ページ範囲:P.130 - P.138

 PTCRとは,percutaneous transluminal coronary recanalizationの略であり,急性心筋梗塞患者に対し,責任冠動脈を非開胸的に再疎通させる方法をいう.通常は,血栓溶解剤であるstreptokinaseやurokinaseを用いて,再疎通を起こす方法である.Rentrop1)が1979年に,急性心筋梗塞症患者に対して,streptokinaseの冠動脈内注入により再疎通に成功し,その後広く世界2〜3)に普及し,本邦4〜10)においてもこの血栓溶解療法は広く普及している.亜硝酸剤であるnitroglycerinやisosorbide dinitrate4)(ISDN)の冠動脈内注入,また,次号で述べるballoon catheterによる急性心筋梗塞症患者の閉塞冠動脈拡張は広い意味ではPTCRに入るが,通常はPTCAに入れている.

カラーグラフ 皮膚病変のみかたとらえ方【新連載】

糖尿病患者にみられる皮膚病変

著者: 石川英一 ,   山蔭明生

ページ範囲:P.102 - P.103

 本邦の糖尿病の発生頻度は逐年増加の傾向にあり,それとともに本症と関連する諸病変の合併頻度も増大している.また,皮膚病変を主訴として来院し,検討の結果糖尿病であることが判明する患者も少なくなく,無自覚糖尿病発見の契機として皮膚症状の診断的意義は高いと考えられる.

グラフ 画像からみた鑑別診断(鼎談)

感染性心内膜炎

著者: 宮沢総介 ,   山田哲久 ,   川上憲司

ページ範囲:P.112 - P.120

症例
 患者 18歳,男性.
 現病歴 生後8ヵ月で心雑音を指摘され,12歳時に心カテーテル検査により大動脈弁狭窄症(AS)と診断された.その後無症状のため放置していたが,昭和58年6月発熱とともに息切れが出現し,近医より当院へ紹介された.

胸部X線診断の基礎

撮り方と読み方(13)

著者: 新野稔

ページ範囲:P.122 - P.127

気管支名および記号について
 気管支の名称は,昭和26年気管支命名委員会により命名されている.肺区域の命名は,Jackson CL & Huber JFによって,1943年に提唱され,1945年Boyden,1951年Zenker Rによって改訂されたが,本邦においては上記の気管支命名委員会に従っている.
 それによると,肺区域・SはSegment(表1),区域気管支・Bはsegmental Bronchus(表2),区域肺動脈・Aはsegmental pulmonary Artery(表3),区域肺静脈・Vはsegmental pulmonary Vein(表4)とそれぞれの頭文字を大文字で表し,気管支が分岐する順に従い,上部から1〜10までの番号が付せられ,区域の次の単位を亜区域subsegmentとし,上部(a)から下部(b)へ,後方(a)から前方(b)へ,外側(a)から内側(b)に,上下関係,前後関係,内外関係の順に従い,a,b,cの符号がつけられている、亜区域の次は亜亜区域の次元とされ,亜亜区域をi,ii,iiiで,次の次元をα,β,γで記載し,i,iiおよびα,βは原則として後方から前方へ,外側から内側へと順番に符号がつけられている.例外として左上区前枝において,外側枝a,前枝b,上枝cと命名されている.

演習

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.105 - P.111

講座 図解病態のしくみ 腎臓病・1【新連載】

急性腎不全

著者: 加藤哲夫 ,   黒川清

ページ範囲:P.157 - P.164

連載にあたって
 本号から,いろいろの腎疾患の「病態のしくみ」についてシリーズでお送りしたいと思います.腎疾患については,多くのすぐれた成書がありますが,われわれのシリーズが,日常の臨床に携わっている皆様に,腎臓病およびその病態生理についての理解を深めることができれば本望です.第1回は急性腎不全をとりあげてみましたが,次号より慢性腎不全,尿毒症,糸球体腎炎,ネフローゼ症候群,間質性腎炎,腎結石などをとりあげていく予定です.読者の御意見,御希望などお聞かせ願えればと思っています.

Oncology・13

固型癌(1)—肺癌

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.167 - P.172

 近年,肺癌の頻度は増加してきており,現在では胃癌に次いで第2位の死亡数を有する癌となっている.その死亡数は年間1万人以上にものぼるといわれる.診断率(能力)はかなり向上してきたはずであるが,依然として肺癌の予後は一般に悪い.したがって,一層論理的診断方法と治療方法の確立が必要であることはいうまでもない.また,たばこと肺癌の関係は明らかであり,予防的にはこの面での強力なキャンペインが要求される.

特別対談

診断学の未来—その技術・理論・評価

著者: 阿部裕 ,   古川俊之

ページ範囲:P.140 - P.152

 阿部 今日はあなたと久し振りに診断学の理論的な基盤,それから将来予想される変革について議論するわけですが,人はバックミラーに映った過去を通して未来を見るという言葉があります.まず戦後40年の進歩と思われる変化の中に取り残された問題,教訓を掘り起こして,その上で未来の目標策定や,われわれに求められる思想改革について話し合いたいと思います.

診療基本手技 知っておきたい他科疾患のfirst aid

熱傷

著者: 遠藤幸男 ,   西崎統

ページ範囲:P.174 - P.175

 一般外来や救急外来にて熱傷患者を診察する際には,まずその深度と範囲を判断しなければならない.広範囲熱傷の場合,全身的治療が最優先となり,専門医に至急送るべきである.
 ここでは,一般外来にて取り扱い可能な軽度熱傷について述べる.

当直医のための救急手技・外科・1

創傷処置・胸部外傷

著者: 若山達郎

ページ範囲:P.178 - P.179

 昭和58年8月1日から昭和59年7月31日までの1年間に,当院の救急外来を受診した患者16,164名中,外科扱いとされた患者は871名(5.5%)である.その内訳は表1のごとくであるが,即入院を要した患者は871名中207名(23.8%),入院後手術を要した患者は111名(12.8%)である.
 外科領域において頻度の高い疾患群としては,創傷,胸部および腹部外傷,急性腹症が挙げられる.今回は創傷処置法,および胸部外傷の診断と初療について述べてみたい.

新薬情報

コレスチラミン(Colestyramine)—高コレステロール血症治療剤—商品名:クエストラン〔ブリストル・マイヤ—ズ〕

著者: 水島裕

ページ範囲:P.176 - P.177

 概略 コレスチラミンは,強塩基性の陰イオン交換樹脂であり,"高コレステロール血症"や"部分的胆道閉塞に伴う掻痒症"などの治療薬として,1960年代後半から米国をはじめとする世界各国において使用されてきた薬剤である.本剤は,腸管内で胆汁酸を吸着し,吸収されずにそのまま糞中へ排泄されるという特異な薬理作用と,海外での長年にわたる臨床使用で認められた有効性および安全性などから,本邦でも以前から注目されていた.本剤は,血中コレステロールを著明に低下させ,従来の治療法ではあまり効果がなかった家族性高コレステロール血症にも有効である.
 化学と作用機序 コレスチラミンの化学構造は,図1に示したとおりで,ポリスチレン骨格にトリメチルアンモニウムメチル基が付加したものの塩素型である.この塩素イオンが腸管内で胆汁酸と置換して吸着し,その糞中排泄童を増大させるとともに食中コレステロールの吸収を阻害する.この胆汁酸腸肝循環の阻害は,肝における胆汁酸合成の律速酵素であるcholes-terol7α-hydroxylaseの活性を上昇させ,コレステロールの異化を亢進させる.それゆえ,肝は血中からのコレステローしの取り込みを促進する.それは主としてコレステロールに富む低比重リポ蛋白(LDL)のレセプターを介した取り込み促進であり,その結果,血中コレステロール,とくにLDL中のコレステロールが低下する.

感染症メモ

新しい抗真菌剤 Ketocohazole

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.153 - P.153

 Imidazole(イミダゾール)は治療上有用性のある化学物質であって,抗寄生虫剤から抗腫瘍剤に至るまで幅広く利用されている.抗寄生虫剤として,thiabendazoleやmebendazoleがあげられる.これらはわずかながら抗真菌作用があるといわれていた.また,metronidazoleは赤痢アメーバ症,ジアルジア症の第1選択剤として長く使用されており,さらに近年,欧米において,metronidazoleはグラム陰性嫌気性菌による感染症に用いられている.
 抗真菌作用をもつimidazoleには,clotrimazole,miconazole,ketoconazoleなど7種類が合成され,真菌に対する能力が試験されてきたが,結局臨床的には,miconazoleとketoconazoleが真菌症に有効であるとされた.

面接法のポイント

病態別の面接

著者: 河野友信

ページ範囲:P.180 - P.181

 これまでに,医療における面接についての原則的なことや,一般的な注意などを書いてきたが,今回は,病態別に配慮しなければならない面接上のポイントについて述べる.

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外来診療Q&A

著者: 笠貫宏

ページ範囲:P.154 - P.156

Q 抗不整脈薬の経日投与をいつまで続けたらよいか,その考え方,およびその実際についてお教えください.(福井県,35歳,勤務医)
A 近年,頻脈性不整脈に対する薬物療法は著しく進歩した.新しい強力な抗不整脈薬の開発に加え,不整脈の発生機序および抗不整脈薬の電気生理学特性と作用機序の研究,薬物動態学と薬力学の臨床導入および臨床電気生理学的検査1)やホルター心電図による薬効評価法の進歩などがあげられる.しかし抗不整脈薬の適応,薬剤の選択,投与量,投与間隔などの的確な決定は,現在なお必ずしも容易ではない2).さらに,慢性経口投与をいつまで継続するかを決定することは非常に困難なことである.医師の経験と知識による"匙加減"と個々の患者の選択に依存しているのが現状といえる.以下,抗不整脈薬をいつまで服用すべきかについての考え方を概説する.慢性経口投与の際の思考過程は図に示すごとく,第1にその目的を明確にし,第2にその必要性が絶対的か相対的かを検討し,第3に長期投与のdemeritと問題点を認識することである.それらを総合判断することによって慢性経口投与の適応,方法の決定,さらに投与中にも常にその再評価が試みられる.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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