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雑誌目次

雑誌文献

medicina22巻12号

1985年12月発行

雑誌目次

臨時増刊特集 エコー法の現況 editorial

1.エコー法の現況と将来

著者: 伊東紘一

ページ範囲:P.2118 - P.2120

 超音波を発射し,対象物から反射して返ってきた信号(エコー)を捕捉して,対象物の位置,形,動態あるいはその対象物の性質までも知ろうというのが超音波エコー法である.エコー法が現在のように,診断と治療とに広く利用され,その価値が広く社会で認められ,かくも見事な花を開くとは10数年前には予知し得なかったことである.最近10年間におけるエコー法の進歩と診断法の知識の集積は目をみはるものがあった.
 エコー法は現在なお発展中の学問である.今後10年間の発展に対する期待は大きいが,同時にこれから先の道は厳しいようにも思われる.本特集の各論文を読めば,エコー法の現況は理解でき,何がわかり,何がわからず,何が問題点であるかを知ることができると思うが,広範にわたることなので,全体を概説し,将来への展望を考えてみたい.

Ⅰ 基礎知識

2.超音波診断装置の安全性

著者: 前田一雄

ページ範囲:P.2122 - P.2125

 超音波診断装置は,超音波プローブから超音波を発生し,これが生体内を伝搬し,反射してふたたび超音波プローブに返るのをとらえていろいろの処理を行い,診断に役立てるものである.しかも,超音波診断法は妊娠中の胎児についても広く利用されているので,その安全性については十分な知識を持つ必要がある.

3.原理

著者: 増澤信義

ページ範囲:P.2126 - P.2130

超音波で診断ができる理由
 超音波診断装置にはパルス反射法,ドプラー法などがあり,特にパルス反射法による超音波診断装置は各科で広く使われている.この装置は超音波のパルスを生体内に入射し,固有音響インピーダンスの異なる組織の界面や病変などから反射して元のほうに戻ってくる超音波パルスをプローブで受け,ブラウン管などの表示部に表示させるものである.超音波の反射の強さは,反射対象の大きさや形,周辺組織との音響インピーダンスの差異の大きさなどにより異なり,更に反射した超音波が途中の組織によって減衰や散乱を受けて戻ってくるので,受信される超音波は組織の形状や性質を反映している.したがって,これらを上手に表示することにより,病変などが発見できるのである.

4.装置の選び方—心臓

著者: 朴永大

ページ範囲:P.2132 - P.2135

 近年の電子工学の進歩はめざましく,これに伴い超音波機器の改良も急速に進みつつある.心臓用の機器の場合でも,装置全体(断層心エコー装置本体,VTR,Mモード記録用のラインスキャンレコーダ)が部屋の一角を占めるほどの大きさで,全体をベッドサイドへ移すことがほとんど不可能であったが,装置全体の総重量が150kg以下にまで軽量小型化されている(図1).これとともに探触子の小型化による操作性の向上,超音波画像の画質の向上も著しい.ここでは心臓用の超音波装置を選択する際に,一般的に留意すべき点を述べることとする.

5.装置の選び方—腹部

著者: 福田守道

ページ範囲:P.2136 - P.2139

 超音波診断法の進歩および普及の速度はまさに画期的といってよいように思われる.これはひとえに本診断法の重要性がよく認識されつつあることを反映するものであろうが,実際に非常に鮮明な画像を与える優れた診断装置の出現によることは申すまでもない.
 さて,標題の腹部超音波検査における診断装置の選択は少し以前まではそれほど問題となるようなことではなかったといえる.すなわち,優れたリニア走査型超音波診断装置を選択すればほとんど事が足りていたからである.

6.装置の選び方—体表面

著者: 小林利次

ページ範囲:P.2140 - P.2143

 先端技術の進歩により医療機器の開発,進歩,発展はめざましいものがあり,とくに超音波診断装置の進歩,開発のスピードはそのトップに位置するといって過言でない.
 本主題である「装置の選び方」というテーマで執筆しようとしているが,本誌が発行される時点で内容が古くなっているのではないかと懸念されるくらいに,そのスピード,加速度は早いものである.

7.おとし穴—装置の能力とアーチファクト

著者: 入江喬介

ページ範囲:P.2144 - P.2149

 得られた超音波像の中には,実際に存在しない像,すなわちアーチファクト(虚像)が表示されたり,実際のものより太くなったり,歪んで表示されたりすることがある.このようなアーチファクトを判別したり,正しい形を認識したりするためには,超音波の性質および装置の能力とその限界を知ることが必要である.
 そこで,本項ではこれらのアーチファクトや歪みを生じさせる要因とその見分け方について述べる.

Ⅱ 診断と治療への応用 A 心エコー法

8.心臓の超音波解剖

著者: 天野恵子

ページ範囲:P.2152 - P.2155

 リアルタイム断層心エコー図では,心臓,大血管の任意の断面を非侵襲的に観察できる.しかし,立体的な広がりを有する心臓を二次元の面で探索するのであるから,必然的にその面をいろいろ動かして探らねばならない.

9.弁膜の診断—房室弁

著者: 工藤俊彦

ページ範囲:P.2157 - P.2161

検査の手順とポイント
 ①装置 心疾患の診断にあたっては,Mモード心エコー図,断層心エコー図,ドプラー心エコー図の3法を組み合わせて総合的に診断する.断層心エコー図は肋間からの走査を必要とするためセクタスキャンを用いる.断層心エコー図により心内構造物の形態と動きを観察し,ついで断層心エコー図上にてビーム方向を確認しながら各部位のMモード心エコー図を記録する.また疾患に応じてドプラー法を施行する.ドプラー法にはパルス・ドプラー法と連続波ドプラー法があり,逆流の診断,圧較差の推定に有用である.近年開発されたドプラー断層法は断層心エコー図に重ねて血流情報が表示され,逆流の診断や血流の主方向の同定に極めて有用である.
 ②Coupling gell 心疾患の診断においては硬めのものを用いるのが良い.

10.弁膜の診断—半月弁

著者: 鈴木修

ページ範囲:P.2162 - P.2167

検査の手順とポイント
 ①装置および用いられる手法 a)リアルタイムセクター方式の2-Dエコー法(断層法)に加え,b)Mモード法,c)パルスドプラー法,d)2-Dドプラー法(カラードプラー法)および,e)連続波ドプラー法が使用可能な超音波心臓診断装置が用いられる.右心系の検索にはICG(インドシアニングリーン)溶液を用いた,f)コントラスト法も使用される.
 ②体位 a)背臥位,b)左側臥位,c)前頚部伸展位が基本的体位である.

11.先天性心疾患—中隔欠損

著者: 吉田清 ,   吉川純一

ページ範囲:P.2168 - P.2171

検査の手順とポイント
 超音波検査法による中隔欠損の診断のポイントは,1)欠損口の描出,2)短絡血流の検出にある.欠損口の描出には断層心エコー図法が用いられ,短絡血流の検出にはドプラー法あるいはコントラストエコー法が用いられる.
 ①心房中隔欠損 走査断面としては,a)parasternal four-chamber view(ときにapica1),b)subcostal four-chamber view,c)大動脈短軸断面が用いられる.このうち,とくにparasternal four-chamber viewが最もよく使用される.この理由は,この断面で心房中隔はもとより,両心房,両心室が描出され,心房中隔欠損に伴う心臓の形態学的変化をとらえうるからである.さらに,胸骨右縁からの右房-心房中隔-左房断面(ASA view)も症例によっては有用である.また,左室の形態の変化を観察するために左室短軸断面が用いられる.

12.先天性心疾患—大血管の異常

著者: 高野良裕

ページ範囲:P.2172 - P.2177

検査の手順とポイント
 ①装置 先天性心疾患の診断には,主にMモード法と断層法(特にセクター式)を用いる.前者は,心電図,心音図と同時記録により,いわゆる心機能の計測に有用であり,後者は形態診断に有用である.
 ②探触子 2.4MHz,3.5 MHz,5MHzとあるが,高周波数のものほど胸壁に近い部位の分解能に優れ,新生児では5MHz,小児では3.5MHzを使用する.

13.先天性心疾患—その他の先天性奇形

著者: 伊東紘一

ページ範囲:P.2178 - P.2184

 先天性心疾患の中で中隔欠損と大血管の異常をのぞく疾患について述べる.特に先天性心疾患では複合した心奇形をみることが多く,一つの病変をみつけただけで終わらない.このような複合心奇形を診断する上で,B,Mモードにドプラ法(特に2D-Doppler)を併用することが有効である.

14.虚血性心疾患—心筋梗塞と狭心症

著者: 澤田準

ページ範囲:P.2186 - P.2190

検査の手順とポイント
 1)断層法 ①一般に壁動態とは,収縮期における心内膜の動きを指す.したがって,壁動態を評価するためには,心内膜エコーを鮮明に記録することが不可欠である.②血栓などの異常構造を疑った場合,多方向からの記録を行い,再現性を確認する.アーチファクトの疑問が残る場合は,記録条件を変えてみることも必要である.③傍胸骨長軸像では長軸が最も長く,左室心尖寄りの内(短)径が最も広くなる断面を設定する.④短軸像では左室内腔断面が,最も円形に近くなる断面を設定する.⑤経過観察,症例の比較,記録漏れの防止のために,記録方式を一定化しておく.
 2)Mモード法 今日,虚血性心疾患の診断において,Mモード法を単独で用いることはあまり行われていない.

15.川崎病

著者: 一ノ瀬英世 ,   坂本博文 ,   加藤裕久

ページ範囲:P.2192 - P.2196

 川崎病冠動脈病変を診断するのに断層心エコー検査1)は重要な検査法である.最近,冠動脈病変のエコー図診断においてアプローチ方法の工夫がなされ,冠動脈近位部のみならず末梢病変も描出可能になっている2)

16.心筋症—肥大型

著者: 行定公彦 ,   飯田啓治 ,   杉下靖郎

ページ範囲:P.2198 - P.2200

 肥大型心筋症は,原因不明の心筋の肥大を来す疾患であり,左室流出路狭窄の有無により閉塞性肥大型心筋症(HOCM)および非閉塞性肥大型心筋症(HNCM)に分類される1).しかし安静時には,圧較差がなくても負荷によって圧較差が生じる症例もある.肥大型心筋症では,心筋の異常な肥厚がその基本的病像をなしており,心エコー法は本疾患の診断に極めて重要な価値を有する.

17.心筋症—拡張型

著者: 林輝美

ページ範囲:P.2202 - P.2205

検査の手順とポイント
 拡張型心筋症は心筋収縮能の低下を基本病態とする原因不明の心筋疾患であり,左室(および右室)の内腔拡大,心筋の線維化などを有する疾患である.広範な心筋障害の結果,種々の不整脈や伝導障害を伴う.また著明な心拡大により,相対的な僧帽弁閉鎖不全,三尖弁閉鎖不全を随伴することもまれでない.これらの病態が心エコー図所見をさまざまに修飾する.
 ①体位およびアプローチ 仰臥位または左側臥位にて,胸骨左縁,心尖部,時には剣状突起下からアプローチする.

18.心筋炎

著者: 原みどり ,   弘田雄三

ページ範囲:P.2206 - P.2209

 心筋炎は,その原因および基礎疾患によって,①感染性心筋炎(ウイルス,細菌,リケッチアなど),②リウマチ熱による心筋炎,③孤立性心筋炎(Fiedler心筋炎,特発性心筋炎),④過敏性心筋炎,⑤膠原病による心筋炎,⑥サルコイドーシスによる心筋炎に分類される.このうち頻度が高いのは,ウイルス性および特発性心筋炎である.
 近年,心内膜心筋生検所見により,拡張型心筋症の10数%に慢性心筋炎が含まれているとの報告を認めるが1),本稿では急性または亜急性心筋炎に限定して話を進めてゆく.

19.感染性心内膜炎

著者: 中村憲司 ,   椎名哲彦 ,   菊池典子

ページ範囲:P.2210 - P.2214

 感染性心内膜炎(Infective Endocarditis;以下IE)とは弁膜に感染巣を有する敗血症のひとつである.その感染巣の基本的なものは,疣贅として示されるが,他にIEの病変として,心筋膿瘍,細菌性動脈瘤や弁組織の破壊によるflail valveなどが挙げられる.
 この疾患に対する超音波検査法の有用性は,IE病変の種類と発症部位の診断とともに,非侵襲的に左室機能の推定が可能なことである.しかし,IEは前駆疾患を有することが多く,リウマチ性弁膜症や僧帽弁逸脱症,肥大型心筋症,僧帽弁輪石灰化,大動脈弁二尖弁などの先天性,変性心疾患を常に頭に入れておかねばならない1).これらの疾患の肥厚した弁(正常弁に比較してエコー輝度が強い)に上記のIE病変,とりわけ疣贅が発症した場合,どこまでが疣贅で,どの部分がもとからの弁病変か,その鑑別が極めて難しい.

20.心膜疾患

著者: 大木崇 ,   富永俊彦 ,   大櫛日出郷 ,   三河哲也 ,   福田信夫 ,   森博愛

ページ範囲:P.2216 - P.2220

 心のう液貯留と収縮性心膜炎は,日常臨床上しばしば遭遇する心膜疾患であり,先天性心膜欠損も最近の心エコー図法の普及により急激にその存在が認められるようになった病態である.本稿では,これらの心膜疾患における心エコー図診断とその臨床的特徴について解説する.

21.心臓腫瘍

著者: 羽田勝征

ページ範囲:P.2222 - P.2225

 心臓腫瘍は心不全,心拡大,心雑音,塞栓症のため,あるいは胸痛,動悸,めまい,不整脈,高血圧などの不定愁訴や所見のためルチンに行われる超音波検査で発見される場合がすべてである.心臓腫瘍の疑いで本法が施行されることはまずない.したがって,超音波検査による心臓腫瘍診断のコツは綿密な観察と深い読みに尽きるであろう.

22.胸部大動脈瘤

著者: 高木真一

ページ範囲:P.2226 - P.2228

検査の手順とポイント
 ①装置 セクタ型電子スキャン装置またはメカニカルスキャン装置を用いる.胸部大動脈瘤はかなり深い位置にあるので,超音波の周波数は2.5〜3.5MHzが適当である.
 ②アプローチならびに体位 検査をしたい胸部大動脈に応じてアプローチと体位が決まってくる.肋骨,胸骨ならびに肺などが超音波の透過の妨げとなるので,それらをできるだけ避けて胸部大動脈像を得るように努力しなければならない.各部位別のアプローチは次のとおりである.

23.肺高血圧

著者: 岡本光師

ページ範囲:P.2230 - P.2233

検査の手順とポイント
 ①装置 電子セクタないしメカニカル・セクタスキャン装置を用いて,Mモード心エコー図および断層心エコー図を記録する.ドプラ機構を併有している装置では,右室流出路や肺動脈内血流パターンを記録する.最近,断層図上にリアル・タイムに二次元ドプラ血流イメージが描出される装置が開発されている.探触子はMモード,断層心エコー図,特に小児例では3.0〜3.5MHzの発振周波数を用いると分解能の良い画像が得られる.ドプラ法では2.5MHz程度の比較的低周波数の探触子のほうが良好な血流シグナルが得られる.また,一般に電子セクタのほうがメカニカル・セクタよりも探触子が小さくて操作性に富むが,サイドローブなどのアーチファクトは逆に多い.
 ②体位 肺高血圧の診断のためには右室流出路や肺動脈の検索が重要であるが,仰臥位での検査では肺などの影響でこれらの描出が困難なことが多く,主として左側臥位を用いる.心拡大を有する例では仰臥位でも検査が可能である.呼吸は呼気位のほうが同様に肺の影響を受けにくく,肺動脈や右室流出路の描出が容易である.

24.肺性心

著者: 玉城繁 ,   壇原高 ,   吉良枝郎

ページ範囲:P.2234 - P.2237

検査の手順とポイント
 肺性心とは,肺や胸郭の疾病あるいは,また換気の障害により肺血管抵抗が増大し,二次的に右室の拡張や肥厚を来した状態である.その前段階として肺高血圧状態の存在があり,一度肺性心の成立に至れば感染など呼吸器系病態の再燃により右心不全を招来する.
 超音波診断法で肺性心と診断するためには,1)右室壁の肥厚 2)右室腔の拡張 3)右心不全のいずれかの所見があり,かつ左心系の異常によらないことが必要とされる.また肺性心を早期に発見するためには,その前段階としての肺高血圧状態の存在を診断する必要がある.

25.心機能検査

著者: 千田彰一 ,   森田久樹 ,   和田茂 ,   水重克文 ,   中島茂 ,   松尾裕英

ページ範囲:P.2238 - P.2244

心エコー図による心機能評価
 心エコー図による心機能評価のための計測としては,左室径や左室断面像に基づいて求められる左室容積,心拍出量,駆出率,左室円周方向線維短縮速度(Vcf)のほか,壁厚,壁振幅,弁運動などから求められる指標がある.これらはMモード法,断層法それぞれの特徴をいかして正確な測定をすることから算出される.また,最近ではドブラー法によって得られる流出・流入血流波形の記録から,機能評価を行おうとの試みがなされつつある.
 心機能評価としては収縮・拡張機能の両面から行われているが,現状では主として収縮機能の面からなされることが多い.心収縮の機能としては,心ポンプ機能と心筋収縮機能とに大別されて諸種の指標が提唱されているが,後者のうち等容性収縮期に関する検討は心エコー法からは困難なことが多く,駆出期が主たる対象となる1).本稿では,心エコー図による心機能評価法の基本的なことがらを概説する.

26.コントラストエコー法

著者: 椎名明

ページ範囲:P.2246 - P.2252

 コントラストエコー法(エコー造影法)の概念が1967年Joynerl),1968年Gramiak2)らによって報告されて以来,本法の進歩は著しく,その臨床応用範囲も心疾患の広い分野にわたっている3).本稿ではエコー造影法の臨床応用について最近の知見を概説する.

27.心・血管腔内の流動エコー

著者: 別府慎太郎

ページ範囲:P.2254 - P.2258

流動エコーとは
 心エコー図では,心臓内構造物が陽画の形で描出され,心腔内はエコー・フリーである.これは,心エコー図では物体の音響インピーダンスの境界面で音波が反射するという性質を利用しているからである.ところが,なんらエコーが認められないはずの心腔内に,あたかも血液の流れに沿って移動する多数の微粒子エコーを認めることがある(図1).これが流動エコーである1)
 このエコーは多くの場合,心臓内構造物のエコー強度より弱く,それゆえ装置のgainを上げなければ見逃されることが多い.また使用周波数が高いほど流動エコーが検出されやすい.流動エコーは後述のごとく血流速度の遅い部位に認められることが多いので,エコー性状としては,全体としてモヤモヤした,煙が漂うような,また湖底に沈澱した泥が舞い上がるようなエコー像を呈する.それゆえ流動エコーはモヤモヤ・エコー,smoke-like echo, drifting dregs-like echoなどとも呼ばれている.流動エコーは僧帽弁狭窄症の左房内に認められることが最も多く,リアルタイム断層心エコー図では拡大した左房内をゆっくりと舞い上がるエコーとして,Mモード心エコー図では左房内の多数の線状エコーとして見られる(図1).一部は僧帽弁口に近づき流動エコーの密度が著明であれば,拡張期に狭い僧帽弁口から左室内に霧吹き様に吹き出されるのも見られる.

B 腹部エコー法

28.肝・胆・膵の超音波解剖

著者: 伊藤徹 ,   国土典宏 ,   小菅智男 ,   針原康 ,   高見実 ,   出月康夫 ,   幕内雅敏

ページ範囲:P.2260 - P.2265

 肝・胆・膵の超音波診断では,臓器および周囲の脈管の走行が超音波画像上どのように描出されるかを理解しておくことが必要である.上腹部の主要な管状構造の位置関係を図1に示す.この図を念頭に入れたうえで,肝・胆・膵の正常例における超音波解剖について解説する.

29.肝疾患—びまん性

著者: 坂口正剛

ページ範囲:P.2266 - P.2271

検査の手順とポイント
 ①前処理 びまん性肝疾患に伴う他臓器の変化,ことに胆嚢の変化を同時に知る目的からも朝食前の検査が望ましい.
 ②体位 検査部を上にし,皮膚を伸展させて検査する.右斜位,背臥位,左斜位,坐位の順序に,さらに症例によっては腹臥位を加え,臓器の移動も利用しながら検査する.

30.肝疾患—限局性(癌)

著者: 秋本伸

ページ範囲:P.2272 - P.2277

 この項では肝細胞癌を中心に,転移性肝癌,胆管細胞癌も含め,肝悪性腫瘍超音波診断の要点について記述する.

31.肝疾患—限局性(良性)

著者: 真島康雄 ,   谷川久一

ページ範囲:P.2278 - P.2282

検査の手順とポイント
 超音波検査では,術者の術中の鑑別診断への意識が最も大切である.要するに肝全体をくまなく,良好な画像で透視する必要があり,そのポイントは,
 (1)プローブはできるだけ固定して一定のスピードで動かす.
 (2)肋弓下走査では,プローブを肋軟骨に常に接しているようにして持ち,肺活量の検査時のごとく深吸気させ,呼気時もブラウン管から目を離さない.

32.胆嚢疾患—癌

著者: 渡辺栄二

ページ範囲:P.2284 - P.2288

検査の手順とポイント
 ①前処置 特別に必要としないが,原則的には検査前一食絶食とする.
 ②装置,探触子 real-time装置が最適.通常はリニア電子スキャン装置を用いる.探触子は3.5MHzで可だが,胆嚢壁の状態をみる場合,5MHzを使用したほうが明瞭な像が得られる場合がある.Contactmediaは市販の検査用ゼリーを用いる.オリーブ油でも可である.

33.胆嚢疾患—良性腫瘍

著者: 北村次男 ,   田中幸子 ,   山本貴代美

ページ範囲:P.2290 - P.2293

検査の手順とポイント
 ①装置簡便なreal-time装置なら,それぞれに多少の工夫を加えることにより,ほぼ満足できる結果が得られる.最も一般的なリニア型では,腹壁に接する面が比較的大きな,胆嚢体部から底部にかけて,その前壁の診断に便利である.セクタ型は,腹壁と直角方向となる胆嚢底の一部が死角となるリニア型の不利領域を補うことができる.コンベックス型はリニアとセクタを合わせたような良さがある.セクタ型では肋間で肋骨と直角方向の観察ができるという長所もあるが,胆嚢全体を観察するには,通常の方法では探触子面の長さがリニアのそれに比較して絶対的に短いので,不完全となりかねない.
 ②coupling media 胆嚢を観察するために利用する体表はそれほど広くはないので,いわゆる超音波ゼリーでよいが,少し長くなるような場合を考えると,まず乾燥することのない温めたオリーブ油が便利である.その特有な香りに過敏な方も稀にある.

34.胆嚢疾患—胆嚢結石,胆嚢炎

著者: 木本英三

ページ範囲:P.2294 - P.2297

検査の手順とポイント
 ①前処置 絶食とし胆嚢が拡張した状態で検査する.それ以上の特別な前処置は不要である.消化管内容物の存在は妨害因子となるので,消化管造影X線検査,内視鏡検査より先に施行する.
 ②体位 仰臥位を基本とし,左側臥位,坐位,頭低位への体位変換を行う.

35.胆管疾患

著者: 福井洋 ,   水谷明正 ,   鶴長泰隆 ,   平松征生

ページ範囲:P.2298 - P.2301

検査の手順とポイント
 ①装置 通常はリアルタイム装置,とくにリニア電子走査型装置を用いるが,肝外胆管の描出にはコンヴェックス型探触子を用いたほうが容易である.
 ②体位 仰臥位,左半側臥位および坐位を基本体位とする.

36.膵疾患—癌

著者: 安田是和 ,   笠原小五郎

ページ範囲:P.2302 - P.2307

検査の手順とポイント
 ①装置 現在は,一般に,リニア電子スキャン装置が用いられているが,最近のコンベックス型のプローブを用いると,ガスの影響も少なく,膵体尾部まで比較的容易に観察することができる.
 ②前処置 とくに必要ないが,午前中の空腹時に行うことを原則とする.胃内の空気によって膵の描出が困難なときは,飲水(脱気水約400ml)をさせる.このとき鎮痙剤(ブスコハン®など)を筋注するとさらに効果的である.

37.膵疾患—慢性膵炎

著者: 堀口祐爾 ,   大漉正夫 ,   北野徹

ページ範囲:P.2308 - P.2311

検査の手順とポイント
 ①装置 現在では大部分の施設でリニア型電子スキャン装置が用いられているが,膵頭部や尾部の描出能を向上させるために最近ではコンベックス型探触子やセクター型探触子を用いることも多くなってきた.やせた人では膵は近距離音場内にあるため,5MHz探触子や特殊なultrasonic conductorを用いたほうがよい.
 ②体位 通常は上腹部走査の一環として仰臥位で走査するが,胃内ガスなどで十分にスキャンできない場合には坐位走査がよい.この方法では,胃内ガスは胃の上方へ移行し肝左葉が下垂するため,超音波ビームの入射が容易となり,膵の描出率は向上する1)

38.膵疾患—急性膵炎

著者: 税所宏光 ,   大藤正雄

ページ範囲:P.2312 - P.2315

 超音波検査は,膵とその周辺の形態的変化を捉えることができるので,急性膵炎の臨床診断法として応用される.しかし,急性膵炎の発症初期にはしばしば腸管の麻痺性イレウスを伴う.膵周囲に貯留する腸管ガスに妨げられ,超音波による膵の描出が困難となることが多い.超音波検査は膵炎の発症時より,経過中に消長する仮性嚢胞など合併症を含めた膵炎病態の経時的観察においてむしろ有用性の高い検査法である.

39.脾疾患

著者: 古賀孝

ページ範囲:P.2316 - P.2320

 脾は今日でもなお"神秘な臓器"である.発生学的に,脾は間葉系の細網内皮系統に属する臓器であるから,全身的規模の疾患では必ず反応を起こすものである.したがって,脾は全身的疾患の有無を判定するための標的臓器と考えるべきものである.

40.消化管疾患—食道(食道癌を中心に)

著者: 村田洋子 ,   秋本伸 ,   久米川啓 ,   室井正彦

ページ範囲:P.2322 - P.2325

 食道は頚部,胸部,腹部にまたがって存在する臓器であるため,検査方法としては,体表よりの超音波検査法と,内視鏡的超音波検査法(Endoscopic Ultrasonography 以下EUS)が行われている.

41.消化管疾患—胃

著者: 松江寛人

ページ範囲:P.2326 - P.2329

■検査の手順とポイント
 ①装置 一般の腹部用の装置を用いて体表から経皮的に行う方法と,内視鏡と超音波を組み合わせた装置を用いて胃内腔から経内視鏡的に行う方法の2通りがあるが,後者は装置が特殊で,かつ検査が困難なために一般に行われていない.したがって,ここでは一般の腹部用装置を用いた体表走査方式について述べる.探触子は3.5MHzまたは5.0MHzの電子走査式で,リニア型よりも最近開発されたコンベックス型のほうが,胃の全域を検査するのに便利である.
 ②前処置 検査前夜……緩下剤を用いる.検査当日……絶食にする.検査直前……鎮痙剤の注射をし,500ml以上の脱気水を用いる.

42.消化管疾患—結腸,直腸

著者: 小西文雄 ,   洲之内広紀 ,   大矢正俊 ,   跡見裕 ,   武藤徹一郎 ,   森岡恭彦 ,   伊東紘一 ,   高橋一

ページ範囲:P.2330 - P.2333

検査の手順とポイント
 (1)体表面からの走査
 ①装置 通常のリニア電子スキャンナーで,3.5MHzまたは5.0MHzの探触子を用いる.
 ②前処置 病変やその部位によっては,必要に応じて大腸内の清掃を行う.たとえば,全周性の大きな大腸進行癌などの場合はとくに前処置を必要としないが,より小さな癌やポリープ様病変であれば,肛門より大腸内に水を注入する必要があるので,浣腸などの前処置が必要となる.排便感を押さえるためには,ブスコパンなどを使用するとよい.また,骨盤内深部の描出を良好にし,膀胱と腸管や病変部との位置関係をより良く描出するためには,排尿を制限して膀胱に尿を貯留させておくことが必要である.

43.腹部外傷

著者: 跡見裕 ,   森岡恭彦

ページ範囲:P.2334 - P.2337

検査の手順とポイント
 超音波検査の意義
 超音波検査は非侵襲性で,しかも即時に画像が得られることや,bed sideの検査が可能なことから,救急時にはfirst choiceの画像診断法となる1,2).いまや本法は腹部の触診と同等に位置づけられ,必須の診断武器とも言えよう.腹部外傷における超音波検査の意義は表に示すごとくであり,ことに腹腔内出血の診断には威力を発揮する.

44.小児の腹部超音波検査

著者: 平田経雄

ページ範囲:P.2338 - P.2341

検査の手順とポイント
 ①小児検査の特殊性 年長児の場合は成人の検査となんら異なることはないが,乳幼児では特別の気配りや前処置が必要な特殊検査として扱ったほうが良い.ある程度聞き分けができる年齢になれば,他の子どもの検査を見せて「怖くない検査」,「痛くない検査」であることを理解させたり,モニターを見せて話しかけながら行う.母親などの家族を枕元に付き添わせるのも1つの方法である.やむをえず入眠処置が必要な場合でも,眠りやすい条件を整えて行うほうが効果的で,検査時間を午後にして昼寝を我慢させておいて投与する.成人の腹部超音波検査では術前処置として絶食が原則であるが,乳幼児では哺乳後の胃充満により良好な結果が得られることが多く,とくに左上腹部領域の術前処置としては必須条件ではないかと思われる.

45.超音波ガイド造影法

著者: 万代恭嗣 ,   幕内雅敏 ,   伊藤徹 ,   渡辺五朗

ページ範囲:P.2342 - P.2346

 種々の超音波ガイド穿刺の中で,造影法は中心的位置のひとつを占める.しかし,21ないし22Gの細い針を使用した穿刺には,造影ばかりでなくいろいろな応用方法があるので,本稿ではそのうちのいくつかのものも合わせて紹介したい.また,後であげる2,3の注意点を遵守すれば,この程度の細い針による穿刺では,出血などの重大な合併症を起こすことなく,きわめて安全に穿刺をすることができる.その意味では,各種の超音波ガイド穿刺法の入門ともなるべき方法であり,日常診療においても応用範囲が広い.

46.超音波映像下穿刺治療

著者: 品川孝 ,   大藤正雄

ページ範囲:P.2348 - P.2351

 超音波を応用した治療は映像下穿刺が基本となる.従来は,閉塞性黄疸,胆道系の感染症,肝膿瘍などのドレナージによる治療が中心であったが,最近では腫瘍や嚢胞内に薬剤を注入し治療する方法が行われるようになり,対象となる領域が拡がってきた.本稿では,肝細胞癌や肝嚢胞に対するエタノール注入療法を中心に概説する.

47.術中超音波検査

著者: 竜崇正

ページ範囲:P.2352 - P.2356

術中超音波検査の目的
 ①病変の存在診断 肝転移の有無,胆石症など.とくに術前検査での疑診例に対する精検法として有用である.
 ②病変の広がり診断 癌腫の進展範囲(血管浸潤,リンパ節転移).

48.腎疾患—慢性腎不全

著者: 加藤謙吉

ページ範囲:P.2358 - P.2362

検査の手順とポイント
 ①装置 リニア電子スキャン装置(3.5〜5MHz)は比較的自由に操作できるため通常使用されるが,多発性嚢胞腎のような腫大した腎の全体像把握には,コンタクトコンパウンド装置を用いることもある.また,肋骨・骨盤の影響を少なくするためには,セクタスキャン装置,コンベックス電子スキャン装置も併用される.
 ②走査方法 仰臥位,必要によって半側臥位とし,側腹部から腎の前額断走査(coronal scan)を行う.これはとくに右腎の描出に肝臓をacoustic windowとして用いることができ,右腎の鮮明な描出や肝・腎コントラストの比較,さらに右腎動静脈の描出などに適している.左腎については症例によって異なるが,一部脾臓を利用することによって脾と左腎のコントラストを比較することもできる.これら肝・右腎,脾・左腎コントラストの比較は,びまん性腎疾患を観察する上でとくに重要となる.さらに腹臥位とし,背部から縦断面走査(longitudinal prone scan)および横断面走査(transverse scan)を腎全域にわたり行い,ごく小さな病変も見逃さないようにする.ところで腎は呼吸性に移動するので,腎上極は一般に深吸気の状態で観察し,時に下垂腎の下極観察は呼気の状態で観察することもある.また,臥位から立位への体位変換によって腎の移動範囲を観察し,腎下垂の判定にも利用できる.

49.腎疾患—限局性病変

著者: 岡薫

ページ範囲:P.2364 - P.2367

 腎より発生する腫瘍はその70〜80%が腎実質由来であり,残りが尿路上皮由来といわれる.また腎尿細管由来の腎癌は腎実質腫瘍の90%を占め,腎限局性病変のうちでも最も重要なものである.本稿では腎癌の超音波診断を中心に解説する.

50.膀胱疾患

著者: 中村昌平

ページ範囲:P.2368 - P.2371

超音波検査の対象疾患
 膀胱内面は硬性鏡による詳細な観察が比較的容易に行われる.このため膀胱疾患における超音波診断の意義はある程度限られてくる.対象疾患のまず第1は膀胱腫瘍である.この場合,腫瘍の存在の有無は膀胱鏡で確認される.疑わしければ内視鏡的生検が決め手となる.超音波診断の主たる役割はその浸潤度診断にある.膀胱腫瘍では内視鏡的手術で根治できる非浸潤性表在性腫瘍をしばしば経験する一方で,膀胱全摘を必要とする深部浸潤性腫瘍も少なくない.膀胱全摘術は手術侵襲が大きいばかりでなく,尿路変更術を必要とし,術後の患者の生活に一定の制限を与えることになる.膀胱腫瘍浸潤度診断はほかに確立された方法がないため,超音波診断が重要な意味をもっている.
 膀胱鏡は魚眼レンズであるため,腫瘍の大きさの客観的な推定が困難なところがある.ある程度大きな腫瘍では膀胱鏡の死角となる部分が大きく,全体の形がよく把握できないことがある.内視鏡のもつこのような欠点を補う手段としても超音波検査は有用である.

51.前立腺疾患(精嚢腺を含む)

著者: 原田一哉

ページ範囲:P.2372 - P.2376

検査の手順とポイント
 骨盤内最深部に位置する前立腺にはこれまで体腔内走査が主に行われてきたが,最近の機器の進歩により,体壁からの走査でもかなり鮮明な画像が得られるようになった.各走査法に用いられる装置と特徴は次のとおりである.

52.泌尿器科の治療応用

著者: 棚橋善克

ページ範囲:P.2377 - P.2381

 超音波の治療への応用としては,①超音波断層画像のみによるもの,②穿刺術を利用するもの,③強力超音波(破壊エネルギー)を利用するものに分けられる.
 ①超音波断層画像のみによるものでは,超音波監視下前立腺凍結手術が代表的なものである.

53.副腎・後腹膜疾患

著者: 平田経雄

ページ範囲:P.2382 - P.2385

検査の手順とポイント
 ①解剖学的事項 超音波検査で副腎を描出することは,腹部超音波検査のなかで最も困難であることが多い.腹部の最後方に位置することもさることながら,大変小さい三角形ないしコンマ状の特殊な形状をした臓器であるからである.そのうえ,周囲が超音波検査の最大の障害になる脂肪組織や消化管ガスで取り囲まれており,最外部を胸郭で覆われるため,プローブの接触性が悪くなりやすい.
 右副腎は,肝と右腎上極の間,下大静脈の右側下方で右横隔膜脚の右に位置し,逆V字または逆Y字状を示す.

54.腹部大動脈瘤

著者: 佐藤紀 ,   上妻達也 ,   多田祐輔

ページ範囲:P.2386 - P.2389

検査の手順とポイント
 ①装置通常は3.5MHzのリニア電子スキャン,セクタスキャンを必要に応じ使い分ける.これにより動静脈の動きの把握が容易である.ただし一般のリニアスキャン装置は長さが約10cmほどであるので,その長さを超える距離の計測のためには後述のようにコンパウンドスキャン装置を用いる必要がある.
 ②体位仰臥位とする.

55.パルスドプラ法による門脈血流計測

著者: 木村邦夫 ,   梶川工 ,   松谷正一 ,   大藤正雄

ページ範囲:P.2390 - P.2395

 超音波ドプラ法は,ドプラ効果を応用した血流速度検出法であり,1956年里村ら1)によりわが国で考案され,以後臨床応用されるようになった2-4).当初は連続波ドプラ法により浅在性の動静脈における血流計測が試みられていたが,超音波ビーム軸上のすべての血流情報が検出され,任意の位置のドプラ信号を選択することが困難であった.近年,連続波にかわってパルス波を用いた距離分解能をもたせたパルスドプラ法が開発されたため5,6),特定の深さの血流情報を得ることが可能となった.さらに,このパルスドプラ法をリアルタイム超音波診断装置(セクター型,リニア型)と組み合わせた複合装置の開発により,腹部における任意の血管内の血流速度の計測が臨床的に可能となり,門脈においてもさまざまな病態における血行動態を知ることができるようになった7-9)
 本稿では,門脈系におけるパルスドプラ血流計測について概説する.

56.産科・婦人科疾患—胎児発育

著者: 岡井崇

ページ範囲:P.2396 - P.2399

検査の手順とポイント
 ①正しい胎児発育の診断のためには,胎児の各部を計測し,総合的に判断することが必要である.
 ②胎児は子宮内で常に位置を換えているため,胎児計測にはreal-time scannerが適している.またsector scannerよりlinear scannerのほうが的確な断面を捉えやすい.

57.産科・婦人科疾患—胎児奇形

著者: 竹内久彌

ページ範囲:P.2400 - P.2403

検査の手順とポイント
 ①走査の進め方 妊娠子宮内をくまなく観察し,その中に胎児がどのような胎位で存在しているかをまず認識する.たとえば,横断方向にプローブを持ち,恥骨結合直上に置いて,骨盤腔深部から次第に上方へ観察を進め,胎児部分を捉えたら,これを常に視野の中に置きながらさらに上方へ連続的に走査を進めていき,次にこれらの走査で抜けていた部分を意識的に視野の中に入れながら子宮底から下方へと走査するのも1つの方法である.妊娠の週数によって観察すべき範囲が大きく変わるのは当然であり,羊水過多症や多胎に注意する.
 ②胎児観察の進め方 i)頭部,ii)体幹部,iii)四肢の順に走査を進めるのが理解されやすい.最初は胎児に対する横断面走査で頭部から胸郭,腹部,骨盤部へと連続的に移動し,次に胎児縦断面走査を脊柱に沿って頚部から尾方へと行う.仙骨端に至ったところでプローブの頭側端を約30°胎児腹側へ扇状移動させると,大腿骨を長軸方向で捉えることができる.大腿骨以外の四肢骨については必要に応じて観察するが,そのときは体幹側から末梢へと連続的に走査を進める.

58.産科・婦人科疾患—胎児血流

著者: 神崎徹 ,   千葉喜英

ページ範囲:P.2404 - P.2408

 パルスドプラー血流計は,非侵襲的でしかも連続計測が可能な点から,胎児循環の検査法として期待がもたれている.しかし,臨床的に有用な検査法としての地位を確立するには至っておらず,現在その臨床的応用を模索している段階である.

59.産科・婦人科疾患—卵胞発育(体外受精を含む)

著者: 佐藤章 ,   京野広一 ,   星和彦

ページ範囲:P.2410 - P.2413

 1972年Kratochwilらが超音波断層法を用いて卵胞発育の状態を観察可能であると提唱して以来,1970年代後半から1980年代前半にかけて急速に普及してきた.現在では超音波断層法による卵胞の観察は,一般不妊外来ならびに,人工授精,体外受精・胚移殖における排卵時期予測,排卵誘発(とくにhMG-hCG)例における卵巣過剰刺激症候群・多胎の予防,polycysticovary(PCOと略す)症候群の診断,黄体化無排卵症候群(luteinized unruptured follicle syndrome;LUF syndrome)の診断,さらには体外受精に際して超音波断層下の卵採取などにも幅広く利用されてきている.

60.産科・婦人科疾患—胎児病の治療

著者: 中野仁雄

ページ範囲:P.2414 - P.2417

胎児病
 ヒトは,40週の胎内生活を営む間,さまざまな変貌を遂げ,形態も機能も胎外生活に適う条件を備える.一方,遺伝と環境の交互作用効果とみなされる個の特徴発現は多岐にわたり,時には疾病として取り扱うべき事態をも生じる.胎児病はこのような異常のなかに位置づけられるが,成人や小児の疾病と異なり,胎内から胎外へと環境が変化するのに合わせて成し遂げるべき適応現象の可否も含める点にある.
 今日,妊娠後期から新生児期早期にいたる期間を統合して周産期と称している.その間の児(胎児と新生児の双方を含むのであるが)は周産期学の取り扱うところとなり,周産期医療が実践されている.周産期医学の成り立ちは歴史的には次のように異根同体と解すべきである.はじめは,出生後の異常を出生前に求める,いわば後方視的な立場で出生前小児科学が発展した.これに対して,各種の胎児診断法が開発され,その臨床応用の機会が増すにしたがって,前方視的に臨床胎児学が実現されたのである.当然,この両者は結合するところとなり,今日があるわけであるが,さらに言及すべきは,胎児期,新生児期の現実的な隔壁となっていた分娩に対して,適応生理の概念が導入され,これによってその間の児(胎児・新生児)を管理するようになったことである.胎児・新生児が等価,不可分の関係にいたった理由の1つといえる.

61.産科・婦人科疾患—子宮・卵巣の腫瘍

著者: 大草尚 ,   谷野均 ,   佐藤郁夫 ,   玉田太朗

ページ範囲:P.2418 - P.2421

A.子宮腫瘍
 検査の手順とポイント
 ①膀胱充満法 できるだけ腸管などによるアーチファクトを少なくするため十分に膀胱を充満させ,子宮を膀胱後面に位置することが必須であり,これにより腟,子宮頚部,体部と連続性のある画像が得られる.
 ②装置 通常はリニア電子スキャン装置を用いる.骨盤腔の深部検索のためにセクタスキャン,または大腫瘍の場合,全体像をつかむためにコンタクトコンパウンド装置を使うこともある.

C その他の領域のエコー法

62.頭部—小児科領域

著者: 谷野定之

ページ範囲:P.2424 - P.2429

検査の手順とポイント
 ①装置,方法 未熟児や新生児(乳児)では大泉門が頭蓋骨欠損部として残っており,ここから超音波ビームを投入することで良好な超音波画像を得ることができる1).この大泉門が大きい場合にはリニアスキャナでも広い視野で観察できるが,一般的にはセクタースキャナのほうが有利である.また探触子は生後6ヵ月以降の場合に超音波の減衰が大きくなることがあるが,原則としては5MHzのものを用いる.将来はさらに高い周波数のものを用いることもできよう.最近は装置の小型化が進み,患者を保育器に収容したままで検査が可能である.実際には患者は覚醒のまま,探触子を直接大泉門に当てて観察する.また小泉門の開大している例では,小泉門からの観察で脳幹や小脳などの部位が,より近視野で捉えられることが知られている.
 ②走査断面 冠状および矢状断面の2方向からの観察を原則とする.大泉門を中心として,冠状断面では前頭から後頭方向へ,矢状断面では正中から両側頭方向へ連続的に断層面を移動させて観察する.このときに基準となる断層面をいくつか設定しておくことは,エコー像からbrain anatomyを理解する上で大変有用であり,症例間の比較や経過追跡などにおいて客観性や再現性をもたせることができる2).以下に設定した基準断層面に従って正常像について説明する.

63.頭部—脳外科領域

著者: 堤裕

ページ範囲:P.2430 - P.2433

 脳外科における超音波エコー法は,A-modeに歴史をさかのぼればけっして新しいものではないが,B-modeとして本格的に用いられ始めたのはきわめて新しい.それはB-modeによる2次元表示を行う場合,骨組織の介在が大きな障壁となるため,頭蓋骨のない状態,すなわち大泉門を窓とする場合,あるいは開頭時,などに用いようとするには適当な装置がなかったからである.しかし,小型の高速走査装置が開発,普及するにおよび,経大泉門法,ならびに開頭術中のmonitorとしての応用がにわかに注目され始めたのである.本法はX線CTやMRIなどと異なり,まったく無侵襲かつ機動性に富むなどのmeritから,今後大いに普及する可能性が大きいものと推測される.
 本稿では紙面の関係上,手術中の応用にのみ限定して紹介することとする.

64.甲状腺疾患—癌と腺腫

著者: 小林正幸 ,   西原英至

ページ範囲:P.2434 - P.2437

検査の手順とポイント
 ①装置どのような装置を使用するか,またそれぞれの装置の特徴などについては,基礎知識の項で詳しく述べられているので省略するが,メカニカル・スキャン装置,電子式スキャン装置いずれの装置も使用される.
 ②プローブメカニカル・スキャン装置では7.5MHzのものが一般的である.電子式スキャン装置では5MHzが多く使われているが,最近7.5MHzのプローブも実用化している.

65.甲状腺疾患—びまん性甲状腺腫

著者: 川内章裕

ページ範囲:P.2438 - P.2441

検査の手順とポイント
 ①装置近年,結節性甲状腺腫の診断にリアルタイム表示の装置を使用し,微細な石灰化や浸潤様所見を鮮明に描出しうることから,高い有用性をみるようになった.しかし,びまん性甲状腺腫においては,甲状腺の全体像を把握し,かつ,その内部エコーの微妙な変化をとらえる必要から,分解能,階調性の高い,高周波数探触子を使用した水浸式メカニカルアーク走査装置を用いるのが最適と考えられる.
 本稿では,7.5MHz高分子圧電探触子(Toray社製)を,アナログ表示水浸式メカニカルアーク走査装置(東芝製SAL-25 A)に装着し,記録した画像を供覧し(頸部横断像),その手法について述べる.

66.副甲状腺疾患

著者: 山田恵子 ,   山田隆之 ,   原沢有美 ,   土谷文子 ,   河野敦

ページ範囲:P.2442 - P.2446

検査の手順とポイント
 ①装置電子リニア走査型リアルタイム装置,水浸法自動走査装置,メカニカルセクタ走査型リアルタイム装置などがある.現在わが国では,電子リニア走査型リアルタイム装置が広く普及しており,以後主にこの装置による検査について述べる.探触子は高周波数(5〜10MHz)で焦点距離の短いものを用いる.周波数が高いほど解像力は良くなるが,減衰は強くなり,深部の情報が得にくくなる.
 ②走査方法体位は頸部を過伸展した仰臥位とする.通常水浸法が用いられ,体温〜室温の脱気水を水袋に入れ,これを伝達物質(水溶性ゼリー,オリーブ油など)を塗った前頸部に乗せる.通常市販されているような水浸用の大きな水袋を用いる場合には,探触子を直接脱気水の中に浸して走査するが,脱気水を充填したゴム袋などを用いる場合には,さらに袋と探触子との間にも伝達物質を塗布する.いずれの場合にも,観察したい部位と探触子との距離を探触子の焦点距離にあわせ,良好な分解能が得られるようにする.吸引生検のガイドとして用いる場合などには,探触子を直接皮膚にあてることもある.

67.頸部疾患

著者: 河西信勝 ,   井上哲生

ページ範囲:P.2448 - P.2452

検査の手順とポイント
 ①装置現在用いられている装置としては,手動式接触走査装置,水浸法自動走査装置およびreal-time装置が用いられているが,近年real-time装置が広く普及し,その性能も向上し,よく用いられるようになってきている.頸部の場合には,その形状が複雑に変化する場合があるため,その実施部位によっては水浸法の方が望ましいときもある.
 ②体位正中頸部の場合は,肩の下に枕を入れて頸部を伸展して行うが,側頸部では躯幹を斜位にして,頭部に薄い枕を入れて行うことが多く,顎下部,耳下部では腫瘍の部位に応じて走査させやすい体位をとらせる必要性がある.

68.乳房疾患—癌

著者: 植野映

ページ範囲:P.2454 - P.2457

検査の手順とポイント
 ①装置水浸機械走査方式,メカニカルセクタ走査方式およびリニア電子走査方式がある.前一者は画像が鮮明であり,細部の観察に優れているのに対して,後者は鮮明度がやや劣るものの,実時間表示(real-time)のため,辺縁や周囲との関係の観察1),石灰化の描出あるいは,所属リンパ節の把握に適している.
 ②走査断面とラベリング水浸機械走査方式では水平断で0.25〜0.5cmの間隔で走査する.表示は乳頭よりXcmの水平断と記す.real-time装置では,腫瘤の最も特徴的な断面と乳頭を中心とした時間軸表示のものとを撮影する.

69.乳房疾患—良性疾患

著者: 霞富士雄

ページ範囲:P.2458 - P.2461

装置および走査(apparatus and scanningmethod)
 乳房の超音波診断装置は日本では仰臥位で乳房の上から検査をとる方式が行われ,機械走査法,電子走査法,複合走査法のものが使用されている.
 機械走査法の装置は,通常用いられているのは低速機械走査法のもので,単素子の探触子を用い,探触子と乳房との間には脱気水を満たした水嚢(water bag)を介在させ,水嚢の中を探触子が低速で線状にあるいは乳房の彎曲に合わせて弓状に往復運動する.この方式のものは現在最も良好な画像を得ることができる.

70.胸部疾患—肺,胸膜,縦隔

著者: 名取博 ,   五十嵐知文 ,   森雅樹 ,   立野史樹 ,   常松和則 ,   鈴木明

ページ範囲:P.2462 - P.2469

 胸部,呼吸器疾患への超音波診断法の適応は,肺の含気,肋骨による超音波の伝搬障害にもかかわらず,これを避けた音響学的窓(acoustic window)が得られる種々の病態で胸部エックス線写真,エックス線CTの弱点を補う方法として普及をみるに至っている1,2)

71.眼疾患

著者: 金子明博

ページ範囲:P.2470 - P.2473

検査の手順とポイント
 ①装置通常は接触式real-time装置を使用する.前眼部病変の描出のためには,surgicaldrapeで眼瞼周囲に水槽を作り,生理食塩水を満たし,この中に接触式real-time装置を入れて検査する必要がある.
 ②coupling media眼瞼上に粘稠なスコピゾルを数滴滴下して行う.水槽を使用するときは生理食塩水を使用する.

72.陰嚢—精索・精巣上体(副睾丸)・精巣(睾丸)

著者: 澤村良勝

ページ範囲:P.2474 - P.2478

 陰嚢内臓器の超音波診断は,超音波断層法と超音波ドプラ法が行われている.断層法により描出された陰嚢内の異常に対し,ドプラ法により精索部や精巣(睾丸)部の動脈血流を測定し,その病変が虚血性変化か炎症性変化かの鑑別を行うことができる.さらに,ドプラ法は精索部の静脈血流動態の検索にも応用され,静脈瘤の診断には必須の検査法となっている.

73.末梢血管

著者: 加納隆 ,   小野哲章 ,   鰐渕康彦

ページ範囲:P.2479 - P.2484

検査の手順とポイント
 ①検査対象 ここでは四肢の主動脈の血流を測定対象とし,主に閉塞性動脈疾患の診断を目的とする.
 ②装置超音波ドプラ血流計(連続波使用)を用いる.ドプラ検出信号の表示には零交叉数表示とソナグラム表示がある.前者は装置が簡便で表示波形もわかり易く,本目的には適している.

Ⅲ トピックス

74.2-Dドプラ法の末梢血管への応用—特に頸動脈と肝内・肝近傍血管の血流観察

著者: 尾本良三 ,   高本真一 ,   鋤柄稔

ページ範囲:P.2488 - P.2491

 リアルタイムドプラ断層心エコー図法1,2,3)は簡単にドプラ断層,2-D Doppler, color flow mapping,あるいは2-Dドプラなどと呼ばれているが,現在,きわめて急速に普及しつつあるリアルタイムの血流映像法である.さて,ドプラ断層は,その開発の当初においては,心内あるいは大血管の血流映像化をめざしたものであった.今日までに各種の後天性心疾患4),先天性心疾患5),また大動脈瘤6)への応用が熱心に行われ,その結果からドプラ断層の診断的な有用性がすでに確認されている.
 一方,ドプラ断層の末梢血管への応用にはまだ不十分な点があった.一般的にいって,周波数は従来2.5または3.5MHzが主として使われていたことや,セクタ型探触子に伴う浅い部位の血流映像化における不利な条件などが,本法の末梢動脈への応用を制限してきた.一方,原理的に本法では,遅い血流の映像化に問題があった.3.5MHzを使用して,血流とビーム方向との角度が60°のとき検出可能な最低流速は20cm/secとなる.このような不利な条件を少しでも改善する目的で,幾つかの工夫がドプラ断層システムに加えられた.そのうちの主なものは,5MHzを実用化したこと,それから従来のセクター型の他に,convex型のトランスジューサを開発したことである.

75.連続波ドプラ法

著者: 鄭忠和

ページ範囲:P.2492 - P.2497

 心臓疾患に対する連続波ドプラ(CWD)法の診断的有用性が最近急速に認識されつつあるが,この一番の理由はCWD法を用いると,パルスドプラ法で測定することが困難であった,弁狭窄や弁閉鎖不全あるいは心内シャントを通過する血流の最高速度を測定できるためと思われる.血流の最高速度が測定できると,ベルヌーイの式を応用することにより,狭窄部あるいはシャント部における圧較差を測定することが可能であり,また弁閉鎖不全では心内圧を評価することも可能となる.したがってこの方法は,心腔内圧を非観血的に評価できる点においてすぐれた検査法といえる.

76.超音波顕微鏡

著者: 田中元直 ,   大川井宏明

ページ範囲:P.2498 - P.2503

 光学顕微鏡,電子顕微鏡につぐ第3の顕微鏡として,最近超音波顕微鏡が注目されるようになってきている.これは光学顕微鏡が光の回折収差を利用して拡大像を作り,電子顕微鏡では電子線の電子光学的性質を利用して拡大像を作って,微小領域における組織の形状,あるいは構造の可視化を主目的としているのに対し,超音波顕微鏡は組織のもつ物理的性質すなわち弾性や粘弾性の差を利用し,超音波の波長を短くすることによって,微小領域の構造を拡大像として表示するものであり,同時に組織のもつ物理的性質を定量的に計測できるという特殊性をもっているからである.
 光学顕微鏡でも,染色法を用いて組織化学的に,特定の組成をもつ組織を着色し,特定の周波数の光を選択吸収させる方法で,化学的成分の識別を可能にしている.また電子顕微鏡ではX線分光器などと組み合わせ,元素分析や構造解析を行うことができ,物質の質的,ときには量的計測ができる.しかし,超音波顕微鏡で得られるような組織の物理的性質に関する情報を得ることは難しく,このような点に本質的な相異がある.生体組織の構造と機能についてはなお未知の領域,未解決の問題が多い.これらを解明していくためには,従来の光学顕微鏡や電子顕微鏡とは異なった方向から,異なった手法でアプローチしていくことが必要になる.その方法論の一つとして超音波顕微鏡が,医学の領域にも導入されてきている.

77.音響物理量の計測—音速

著者: 大槻茂雄

ページ範囲:P.2504 - P.2507

音速について
 海岸に立って沖から押し寄せてくる波を見ていると,図1のように海岸に近づくにしたがって海岸線と同じような形で岸に打ち寄せるのがわかります.このように海岸線にほぼ平行に波が打ち寄せてくるのは,水の深さが浅くなるほど波の速さが遅くなるためです.このように波の速さによりその場所についてのある情報(知識)が得られます.

78.音響物理量の計測—伝搬減衰

著者: スタントカワン

ページ範囲:P.2508 - P.2512

 隣りの物音や声はとかく気になるものである.ホテルなどで,隣りの部屋の前を通りかかると中の人の声が聞こえるが,部屋に入ってしまうと声が聞こえなくなるということがよくある(図1).これは音源となっている人と音を聞く人との間が薄いドアの場合と,厚い壁の場合とで聞こえる音の強さに差があることを意味している.つまり,音の強さがどのぐらい弱くなるか(減衰)ということが,音源と音を聞く人との間をさえぎるものの性質を表しているのである.
 周波数が高くなって耳に聞こえない超音波でも,生体を透過するときに,生体組織の性質によって,音の強さや伝搬時間が変化することになる.このように,生体組織の超音波伝搬の様子がわかると有用な診断情報を提供できることになる.例えば,肝臓の診断の場合,一般には,血液検査を行っている.しかし,脂肪肝と肝硬変では,血液検査のみで確定的な診断を下すのは難しいと言われている.

79.音響物理量の計測—周波数依存性

著者: 秋山いわき ,   中島真人

ページ範囲:P.2513 - P.2517

 最近,「超音波tissue characterization」と呼ばれる研究が盛んになりつつある.生体内に超音波を伝搬せしめ,受信波の変化を調べることによって,生体組織の病理学的な状態を知ろうとするのが,その目的である.
 このとき,受信波形に影響を与える音響学的な定数として,音速,減衰定数,非線形パラメータなどを挙げることができるが,本稿では,前2者の周波数依存性と,その測定法について述べる.

80.音響物理量の計測—散乱

著者: 上田光宏

ページ範囲:P.2518 - P.2521

 超音波診断技術において現在組織性状の識別に有効であると世界的に広く受け入れられている唯一の特徴量は,超音波断層法のグレースケールBモード表示上で組織がどのようなエコーパターンを示すかである.このエコーパターンの生成には散乱が主要な役割を果たしており,この意味からも超音波散乱現象の理解を深めることは,現在人間のパターン認識能力に依存して行っている診断に客観的指標を与えていくことにつながり,その重要性は容易に理解されよう.しかし散乱は音速や減衰のように一つのパラメータで完全に記述できるものでなく,また従来物理学などで取り扱われていた散乱に関する解析では平面波,あるいは球面波が入射するという理想的な場合を対照としていたので,強く収束されたビームを用いる超音波パルスエコー法での散乱現象の解析にはそのまま適用できず,一番重要な現象でありながら,いままで定量的評価という面からのアプローチが一番遅れていたといえる.そこで本稿では,超音波パルスエコー法における散乱現象に関してできるだけわかりやすく説明してみよう.

81.音響物理量の計測—非線形パラメータ

著者: 佐藤拓宋 ,   市田信行

ページ範囲:P.2522 - P.2525

超音波における非線形効果
 医用診断のために用いられる超音波は,人体の安全性に対する配慮からその平均パワーは普通10mW/cm2程度以下の低い値におさえられているが,パルス波を用いる場合には瞬時音圧が1atmを超えることもある.また用いられる周波数が1〜10MHz程度と比較的高いために,このような条件のもとでも,高調波の発生や変調波の自己復調などの非線形現象はよく観察される.
 しかし現在実用化されている映像系は全て,生体組織と音波の線形なかかわりあいのみに着目したもの,すなわち音波の振幅を無限小とみなしての定式化に基づくものである.しかし音波の持つ圧力,パワーは当然媒質の特性に摂動を与え,これがまた音波自身にもはねかえってくるという意味で,音波と媒質のかかわりあいは本来非線形な現象である.

82.音響物理量の計測—エコースペクトルモーメント断層法

著者: 中山淑

ページ範囲:P.2528 - P.2532

 超音波エコー断層法は,ほとんどあらゆる臨床科で重要な診断手段として確固たる地歩を占めているが,画像に定量性を欠くことが最大の難点である.これを補うために,エコーそのものを分析し,定量的な情報をひきだそうとする種々の試みが盛んになっている.比較的一般的なのは通常のBモード画像上で,音響特性が一様に見える領域を選び出し,その部分のエコーの原信号を分析して当該領域における超音波の減衰特性,散乱特性などを知ろうとするものである.しかしこのような方法が適用できるには,かなり広い一様領域が存在する必要があり,びまん性肝疾患などにはある程度の有効性が見込まれるものの,一般的には適応が限られる.腫瘍の鑑別診断などを目標に置くと,やはりかなりの空間分解能をもつ『画像』を提供することが必要であろう.この新たな画像は,信号論的に従来のBモード画像のもつ情報以外の情報をもつべきであり,かつ定量的でなければならない.もちろんこの画像自体から組織音響特性が直接読みとれれば申し分ないが,そうでなくても上述した定量的分析を行う関心領域内での,音響特性の一様性を確認するのに役立つものとなるべきである.
 著者らはこのような可能性をもつものとして,反射エコーの周波数スペクトル分布のモーメントから導かれる種々の量を画像化することを提案し研究をすすめている.

83.超音波照射—主に心機能に及ぼす効果について

著者: 新井達太 ,   水野朝敏 ,   佐々木達海 ,   高安英樹 ,   望月𠮷彦 ,   鈴木茂

ページ範囲:P.2534 - P.2537

 超音波の臨床医学への応用には一般的に"診断"と"治療"の2つの面がある.しかし循環器領域においては従来,専ら"診断"に限られていた感があり,特に超音波照射が心機能に及ぼす影響は全く未知の領域であった.しかし,1980年,カナダのForester,Mortimerらは摘出したラットの乳頭筋を用いた実験で,超音波照射が乳頭筋の収縮に好影響を与える可能性を初めて示唆した1)
 筆者らは早くからこの論文に注目し,「超音波を心臓に照射して心機能を高めよう」というこの方法を超音波心筋刺激法(Ultrasonic myocardial stimulationmethod;UMS(ウムス))と命名して,より一層臨床応用に近い課題として研究を進めている.そしてラット剔出心を用いたWorking heart法(Neely model)による実験を行いUMSが"心筋障害を有するwhole heart"の心機能の回復をも著しく助けることをはじめて明らかにした2〜4)

84.集団検診—肝・胆・膵

著者: 竹原靖明 ,   久田祐一 ,   山田清勝 ,   中沢三郎 ,   有山襄 ,   中井吉英 ,   川平稔

ページ範囲:P.2538 - P.2543

 超音波検査(以下US)とりわけ電子スキャンによる検査は,無痛,非侵襲性という集検に不可欠の条件のうえに,簡単な操作で実質臓器の断面を実時間で描出できるため,即刻,病態の概要を把握できる利点がある.
 筆者らはこの利点を生かすべく,1979年より人間ドックの肝・胆道スクリーニングに導入し,予想以上の成果を挙げた.また,フィールドテストとして,壱岐(長崎県),伊是名(沖繩県)集検を実施し,種々の問題点を浮き彫りにして改善を試みた.本稿においてはこれらの内容を紹介し,腹部超音波集検に必要な事項について意見を述べたい.

85.集団検診—超音波検査を併用した長野県の乳房集団検診の現況

著者: 小池綏男

ページ範囲:P.2544 - P.2547

 近年,わが国においては食生活の欧米化に伴って乳癌の発生率が増加する傾向にある.その予防対策としては,現在のところ1次予防(癌の発生原因を探り,その原因を取り除く)には具体的に有効な方法がない.したがって,2次予防(癌の早期発見,早期治療)が癌予防対策の柱とならざるをえない.乳癌の早期発見対策としては,自己検査法の啓蒙および集団検診の普及が考えられている.

86.集団検診—前立腺

著者: 渡辺泱 ,   宮下浩明 ,   大江宏

ページ範囲:P.2548 - P.2550

 前立腺癌の罹患率は従来欧米で高く,わが国では低いとされてきた.しかし,前立腺癌の年次別死亡率(男子人口10万対)をみると,1950年では0.2であったものが1982年では3.5と,この33年間に17.5倍も増加していることがわかる(図1).このような急激な増加を示す癌はほかになく,従来のような治療医学の面からだけでは対策として不十分であり,予防医学の面からの対策が検討されなければならなくなってきた.そこで私たちは,前立腺癌の早期発見を目的として,1975年に経直腸的超音波断層法を用いた前立腺集団検診システムの開発に着手した.以来,数々の改良を加え,現在ではほぼ本システムの完成をみるに至った.本項では当教室で行っているこの前立腺集団検診システムを中心に述べることにする.

基本情報

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出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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