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雑誌目次

雑誌文献

medicina22巻4号

1985年04月発行

雑誌目次

今月の主題 胆道疾患診療のトピックス

胆道疾患最近の展開

著者: 大菅俊明

ページ範囲:P.582 - P.585

最近の進歩の背景
 胆道疾患の診療の領域に,最近急速な発展がみられる.従来,ややもすれば関心の薄かったこの分野がめざましく活性化された理由には,以下のような背景があげられる.
 第1に,超音波や内視鏡などを用いた画像診断が驚異的な発達を遂げて,胆道病診断学が新しく創られつつあることである.

胆道精査法の特徴と選択

超音波法

著者: 北村次男 ,   山本貴代美 ,   田中幸子

ページ範囲:P.586 - P.594

 現在では,超音波が胆道疾患の診断になくてはならないものであるという考えに異論のある方はないようである.と同時に,胆石のように超音波診断にとって最適であるとされる対象ですら,個々の症例では解決すべき問題が,超音波だけではかなり多く残されることがある.
 そこで,従来は胆道疾患超音波診断の限界ではないかと考えられていたいくつかの問題点をもとり上げて,超音波による胆道精査法を概説する.

X線造影法(排泄性,PTC,ERCP)

著者: 高田忠敬 ,   安田秀喜 ,   内山勝弘 ,   長谷川浩 ,   里井豊 ,   土屋繁之 ,   山中正己 ,   中村孝司 ,   三宅和彦 ,   伊藤善志通 ,   横手美輝洋

ページ範囲:P.596 - P.602

 胆道のX線造影法には,排泄性胆道造影法と直接性胆道造影法がある.排泄性胆道造影法はは経口胆嚢造影法と経静脈性胆道造影法に分けられる.直接胆道造影法は胆道内に造影剤を直接注入し撮影するもので,主として経皮経肝胆道造影法(PTC)と内視鏡的逆行性胆管膵管造影法(ERCP)に分けられるが,他に手術に関連した術中胆道造影法やT-tubeなどを介したtube cholangiographyがある.

CT

著者: 草野正一

ページ範囲:P.604 - P.605

CTの特徴
 人体を通過してくるX線をフィルムに直接アナログ画像として表示するこれまでのX線検査法とは異なり,CTは通過X線をまず検出器を使って電気信号として捉えてデジタル化し,次にこれをコンピュータを使って計算し,断層像としてアナログイメージ化している.CTの診断学的特徴は,この原理と密接に関係している1)
 具体的にCTの特徴をあげると,①これまでの断層像にみられるボケが関係しないので画像が鮮明である,②画像の濃度分解能がきわめて高く,情報量が豊富である,③デジタル画像なのでX線吸収係数をCT値として確認,記録でき,同時に画像の再構成もできる.

血管造影法—胆道癌の診断

著者: 有山襄 ,   島口晴耕

ページ範囲:P.607 - P.609

 胆道癌は超音波(US),コンピューター断層撮影(CT)および直接胆道造影によって容易に診断できるようになった.血管造影の役割は胆道癌進展範囲の精密診断と良悪性の鑑別診断にある.胆道には肝動脈と胃十二指腸動脈の細い分枝が分布するので,超選択造影を行わないと異常の有無はわからない.胆道の脈管がよく造影された血管造影像があれば,術前に胆道癌のStage分類ができる.

胆道シンチグラム

著者: 小野慶一 ,   高橋賢一 ,   森達也 ,   佐々木睦男

ページ範囲:P.610 - P.613

 肝胆道系における機能診断を目的とした検査法は種々あるが,その中でも肝胆道シンチグラフィーは,胆汁排出動態を非侵襲的かつ半定量的に観察する方法として非常に有用である.現在教室においては,肝内・肝外胆汁排出動態の観察に2種類のcollimatorを使い分けることにより良好な結果を得ているので述べてみたい.

画像診断の選択順序

著者: 大藤正雄 ,   土屋幸治

ページ範囲:P.614 - P.616

 胆道疾患の診断には,これまでも数多くの検査法が応用されてきた.主なものとして排泄性胆道X線造影(経口法,経静脈法),経皮的胆道造影(PTC),内視鏡的胆道造影(ERC)などがあげられる.
 最近はこのほかに超音波やX線CTの画像診断が応用されるようになった.これらの検査法は応用面においてかなりの重複がみられたり,これまでとは違った応用の仕方が要求されるなど,胆道疾患の診断のすすめ方は以前と比べて複雑化しており,時に混乱もみられている.そこでこの際,各種検査法の特徴を明らかにした上で,これらの検査法をどのように順序立てて応用するならば効果的診断が可能となるかにつき考え方をまとめることとする.

胆道機能検査法

著者: 小林絢三 ,   辰巳駿一

ページ範囲:P.618 - P.620

 胆道の最も主要な機能は,胆汁を貯留し,生体の要求に反応して,随時それを十二指腸へ排出することである.この胆汁排出機能は神経性,体液性に調節され,また胆道の器質的疾患により影響をうけている.胆道機能検査は病態形成に果たしている機能異常を捉えるのみならず,これらの機能調節のメカニズムを解明することにも貢献する.また器質的疾患に伴う機能障害の診断は,手術術式をはじめとする治療方針を決定するためにも大切である.

胆石生成と胆汁分泌

胆石成因の最近の考え方

著者: 菅田文夫

ページ範囲:P.622 - P.623

 胆石はその構成成分によりコレステロール系胆石,ビリルビン系胆石,その他のまれな胆石の3つに分類され,さらに最近は,これが表1のごとく亜分類されている.いずれも胆汁構成成分によりつくられるが,コレステロール系石とビリルビン系石では,その成因はまったく異なると考えられており,さらにその他の胆石の生成論も種々な考え方が示されている.ここでは,コレステロール系胆石とビリルビン系胆石の成因に関する最近の考え方をまとめて解説し,その他の胆石については,まれである点や,まだ学説が十分固められていないことから省略する.

胆汁の生化学と胆汁分泌機構

著者: 米田政志 ,   玉沢直樹 ,   牧野勲 ,   武部和夫

ページ範囲:P.624 - P.625

 胆汁は有機,無機の溶質を含むコロイド溶液で,肝細胞で生成され,毛細胆管,細胆管,総胆管を経て十二指腸内へ流出する.最近,胆汁の膠質化学や分泌機序の研究が盛んになり,胆道疾患の病態と関連して議論されている.

胆石治療の最近の進歩

胆石の種類と日本人胆石の特徴

著者: 向原純雄 ,   瀬戸山元一 ,   谷村弘 ,   小林展章

ページ範囲:P.626 - P.627

 食生活の欧米化と診断技術の進歩により,胆石症の増加は最近きわめて顕著となっているが,このような時期に,日本消化器病学会胆石症検討委員会によって胆石の分類(案)が統一的に提唱され,今まで行われてきた種々の分類が一本化されようとしている1).この胆石の分類法に基づいて,日本人胆石の特徴を再検討してみた.

胆石組成とX線像の特徴

著者: 松本泰二

ページ範囲:P.628 - P.632

 近年,胆石の内科的溶解療法が脚光を浴びているが,溶解療法は現在のところコレステロール胆石に限られる.このコレステロール胆石には,純コレステロール石,混成石,混合石などがあって,胆石の成分として70%以上のコレステロールを含有し,主成分はX線透過性である.
 一方,ビリルビンカルシウム石,脂肪酸カルシウム石,炭酸カルシウム石は,X線不透過性の陽性石として溶解療法から除外される.

胆石の手術適応と術後愁訴

著者: 松代隆 ,   藤原英利 ,   小山裕文 ,   林仁守

ページ範囲:P.634 - P.639

 胆石症の治療に際しては,その胆石がいかなる条件下で生成されたものか,つまり,炎症下で生成された胆石か,非炎症下で生成された胆石かを鑑別することが肝要である.前者に属するものはビリルビンカルシウム石(ビ石)であり,できるだけ早く外科的治療を行わねばならない.後者としてはコレステロール胆石(コ石)と黒色石があり,無症状胆石はこの種の胆石である.したがって,これら胆石による胆石症では手術適応をいかに考えるかが問題となる.さらに最近,胆石症の大部分を占めるコ石に対する経口的胆石溶解剤が開発され,コ石に対する手術適応が変わってきたことも事実である.
 胆石症の手術適応を考える場合,それが非炎症下で生成された胆石であっても,急性胆嚢炎など急性炎症,胆嚢膿腫や水腫,萎縮胆嚢,胆管結石を合併した症例は絶対的手術適応であることに異論を唱えるものはない.問題となるのは,無症状胆石を含めた症状の軽い胆嚢結石症である.このような胆嚢結石症の手術適応は,①放置した場合どのような経過をとるか,②発症の様式はどうか,③現在の胆石症に対する手術成績④胆石溶解剤の効果,によって決めるべきである.ここではコ石胆嚢結石症を中心に,手術例についてこれらの問題を検索し,その手術適応について検討を加えるとともに,胆石症術後愁訴例の対策について言及する.

胆汁酸による溶解療法の適応と限界

著者: 奥村恂

ページ範囲:P.640 - P.643

 胆石は,一般にコレステロール系石とビリルビン系石に大別される.最近のわが国の胆石症の特徴は,第1に胆石保有者が年々増加していること,コレステロール系石が全体の7〜8割を占め,胆嚢内結石が増加したことである.第2には超音波診断法が普及して,診断能が著しく向上したこと,第3にはコレステロール系石に対して内科的溶解療法が可能になってきたこと,などであろう.
 胆石症に対する内科的治療には発作時の対症療法と原因療法(胆石溶解療法)があるが,ここでは胆汁酸剤による胆石溶解療法について紹介する.

サイレントストーンの実態と治療方針

著者: 亀田治男 ,   石原扶美武 ,   柴田耕司

ページ範囲:P.644 - P.645

 近年,日本人の胆石保有率は年ごとに上昇し,最近の剖検例については15%を超えているが,このなかには半数ないしそれ以上の無症状胆石(silent stone)が含まれている.一方,成人病検診,健康診断や人間ドックの普及,また超音波検査法の応用などによって,無症状胆石を発見する機会が増えている1).このような症例をいかに取り扱うか,治療するとすれば,どのような治療方針を立てるべきかは,診療する医師にとって重要な課題である.

総胆管胆石をめぐる諸問題

著者: 田島芳雄 ,   門脇淳

ページ範囲:P.646 - P.648

 総胆管胆石の治療としては手術が原則であるが,本稿では手術時期や手術法については省略して,最近普及発達しつつある新しい治療法を取り上げてみたい.

肝内胆石の病理と治療

著者: 山本賢輔

ページ範囲:P.650 - P.651

 肝内胆石すなわち肝内胆管内に胆石を有する疾患は,本邦では肝内結石症(以下,本症と記す)の名が一般的となりつつある,わが国における発生頻度は,現在全胆石症の5%以下と思われる.一般的に,①都市部に少なく農漁村地域に多い,②右よりも左肝内胆管系に好発する,③高率に胆道感染を伴いビリルビン石灰石が多い,④胆嚢結石や総胆管結石症に比して発症年齢が若い傾向がある,などの特徴がある.
 本症は原発性と続発性の2群に分けられる.前者では胆石のすべてまたは大部分が肝内胆管内に存在し,狭窄や限局性拡張性病変,さらには分岐走行異常などの複雑な変化を肝内胆管に認めることが多い.後者は肝内胆管に特異的な形態異常がなく,胆石は肝外胆道系に偏在し,肝外で形成された胆石が積み上げや移入などによって2次的に肝内胆管にまで移動波及したものである.非常に進行した症例では両者すなわち原発性か続発性かの判別は困難な場合もある.

最近における胆道感染症の対策

化学療法剤の選択と手術の時期

著者: 谷村弘

ページ範囲:P.652 - P.653

急性胆嚢炎の診断法の進歩と手術時期
 急性胆嚢炎の治療における最近の進歩は,CTと超音波検査の普及により胆嚢壁の状態が体外から容易に把握できるようになったことであり,加えて,抗生物質の飛躍的な開発とその臨床応用により,外科手術の時期が改めて論議されている.すなわち,初診時に確定診断がつかなくても,抗生物質投与を行いながら,経時的に超音波検査をくり返し,echogenicな壁内二重層形成,胆嚢内sludge,壁の全体的な肥厚または部分的な不規則性などから,壊死性胆嚢炎,胆嚢蓄膿症あるいは胆嚢周囲炎との診断ができ,胃・十二指腸潰瘍穿孔や結腸癌による腸閉塞などの急性腹症とは異なり,急性胆嚢炎は,最近ではそれほど緊急性をもたず,胆嚢摘出術を予定手術のスケジュールに組み込むことも多くなってきた1)
 その手術時期から,緊急手術,早期手術,待機手術に分ける.胆嚢・胆管炎は,胆嚢炎の治療を優先するが,胆嚢摘出術そのものは手技的には完成されたとはいえ,術前の治療とその評価のために2日間を費やす必要性は現在でも変わらず,また炎症,易出血性,浮腫は7日間位では完全に消失することはなく,逆に急性期であっても,Mirizzi症候群(炎症性胆嚢による圧迫で総肝管が狭窄し,それより上流の胆管が拡張して黄疸をきたす症候群)を除けば,胆嚢管の処理は可能である.したがって,老齢などrisk不良を理由に外胆嚢瘻を造設し炎症の消退を待つことはほとんどない2)

化膿性胆管炎とその周辺

著者: 多賀須幸男 ,   舩冨亨

ページ範囲:P.654 - P.655

化膿性胆管炎とは
 胆管内の胆汁に細菌が感染して,化膿性炎症が起きている状態である.多かれ少なかれ胆汁の流出が障害されている場合に発生するのが普通で,いうなれば胆道系のempyemaである.解剖学的に調べにくい場所であることも加わって,病理形態学というより,どちらかというと臨床的な概念である.この点で,原発性胆汁性肝硬変症の際の非化膿性破壊性胆管炎などとはやや次元の異なるものであることを,最初に理解して頂きたい."黄疸もしくは胆道系の閉塞を示唆する所見があって,発熱および白血球増加がみられる状況が急性胆管炎である"と,Longmireは外科医らしい率直さで述べている.
 そのLongmireは,急性細菌性胆管炎を,臨床的に以下のように分類している.

非手術的胆道ドレナージ法の評価

著者: 中島正継 ,   藤本荘太郎 ,   吉田俊一

ページ範囲:P.656 - P.659

 胆道感染症は一般に急性胆嚢炎と急性胆管炎に大別されるが,いずれも何らかの原因によって胆道が閉塞することによって胆汁うっ滞が生じ,そこに細菌が感染した急性のempyemaの状態である.その病態は保存的に軽快するものから,死に至る激しい経過を示すものまで,種々の程度のものが含まれる.ことに,急性胆管炎が胆石や腫瘍性病変による閉塞性黄疸を合併する場合には,Charcotの3徴(腹痛,発熱,黄疸)やReynoldsの5徴(腹痛,発熱,黄疸,嗜眠,ショック)に代表される症状を有する重篤な急性(閉塞性)化膿性胆管炎に陥りやすく,可及的速やかに何らかの減黄処置を必要とする。本稿では,これら重症胆道感染症に対する非手術的胆道ドレナージ法について紹介する.

胆嚢癌,胆管癌治療の現状

胆道癌の実態と治療の現状

著者: 中山和道 ,   友田信之

ページ範囲:P.660 - P.663

 消化器癌の中でも手術成績の最も悪い分野である胆道癌も,各種の画像診断法の進歩による診断の早期化,経皮経肝性胆道ドレナージの普及による閉塞性黄疸に対する処置の進歩,さらに手術手技の向上により,最近では治療成績もかなりの向上がみられる.本稿では,胆道癌における治療方針,治療成績,さらに治療の問題点について述べる.

胆道癌背景因子としての胆石

著者: 小山研二

ページ範囲:P.664 - P.665

 胆石の存在が胆嚢癌の背景因子であることは,多くの研究者の合意が得られている.自験例の検討から,単に胆嚢癌に高頻度に胆石が合併しているだけでなく,胆嚢癌の形態や予後も結石の有無と関係あるかの成績を得た.いまだ仮説の域を出ないが,ここに提示してみたい.

胆嚢内隆起性病変の病理—早期癌としての意義

著者: 小塚貞雄

ページ範囲:P.666 - P.667

 胆嚢では早期癌と前癌病変の多くが隆起性病変であることが明らかになってきたので,超音波診断法でこれらを発見することが可能であり,つい最近まで術後長期生存率が皆無に近かった胆嚢癌を早期に発見し,胆石症なみの手術で根治できるようになった.本稿では,胆嚢内隆起性病変の種類と胆嚢癌の組織発生様式について述べる.

胆道疾患と他臓器疾患

胆・肝・膵の相互相関

著者: 中野哲 ,   磯谷正敏

ページ範囲:P.668 - P.669

 肝臓,胆道,膵臓は,解剖,生理の面,臨床面のいずれにおいても密接な関係を有している.肝細胞に端を発した胆汁は,胆管を経て途中で胆嚢で濃縮され,膵頭部を貫いて十二指腸に膵液とともに分泌される.これら胆汁,膵液の分泌は,十二指腸粘膜から分泌されるセクレチン,CCK/PZ,ガストリンなどの消化管ホルモンにより統御され,また十二指腸粘膜と密接な関係を有する膵ラ氏島からはインスリン,グルカゴンなどの膵分泌ホルモンが分泌され,糖代謝や肝の発育に関与している.
 臨床的には胆石などの胆道疾患は肝障害や膵障害を惹起する1)し,劇症肝炎や肝硬変などの高度の肝疾患では膵に病変を惹起する2).また逆に,膵全摘で脂肪肝が生じるように,膵障害時には肝や胆道系に障害を起こすこともある.

他臓器疾患における胆石の対策

著者: 辻井正 ,   田村雅宥

ページ範囲:P.670 - P.671

 近年,コロイド化学研究の進歩を背景に,コレステロール胆石(コ胆石)の成因解明と相まって,胆汁酸製剤による胆石溶解療法が開発され,さらに各種の画像診断,なかでも超音波検査の普及は胆石診断を容易にし,これらが胆石を診療する機会の増加の要因となっている.そのため,種々の他臓器疾患と合併する胆石症例に遭遇することも多くなり,その際の適切な対応が要求されている.本稿では,胆石の合併が比較的高頻度にみられる肝硬変症,糖尿病,腸切除症例および高齢者の診療とその注意点,対策などを中心に概説する.

胆道形態異常の病態

膵管胆道合流異常の病態

著者: 宮野武 ,   駿河敬次郎 ,   山城雄一郎 ,   須田耕一

ページ範囲:P.672 - P.673

 胆道ならびに膵疾患の領域で,膵管胆道合流異常および本形態異常に基づく各種症候を呈する疾患群,膵管胆道合流異常症候群は,最近の1つのトピックスである.本稿では,その病態の概略を紹介する.

先天性胆道拡張症の病態

著者: 木村邦夫 ,   大藤正雄

ページ範囲:P.674 - P.676

概念と分類
 先天性総胆管拡張症は総胆管の先天的な限局性嚢状拡張と定義され,Douglas(1852)1)により最初に独立疾患として報告された.Alonso-Lejら(1959)2)は多数の文献例と自験例の検討から,拡張胆管の形状に基づき,この疾患を3型に分類した(図1).その後,Alonso-Lejの分類は病態を論ずる際の基本型として受け入れられている.彼の集計例の約30%はわが国からの報告であり,この疾患が東洋に多いとしている.わが国での最初の報告は佐久間(1905)3)によるとされ,その後も文献例と自験例とから本症を検討した詳細な報告が多数みられる4,5).なお,Yotsuyanagi(1936)6)は発生学的に総胆管上皮細胞の増殖異常が原因であるとの説をたて,国内外で高い評価を得ている.
 Alonso-Lejは肝内胆管の状態については明記していないが,先天性総胆管拡張症例のなかに肝内胆管にも限局性嚢状拡張を合併する例のあることがその後報告され,Arthur(1964)7)はこのような症例をmultiple biliary cystとし,Alonso-Lejの分類にd型として加えている.成末,戸谷ら(1974)8)も新しい分類を提案している.筆者ら9)もAlonso-Lejの分類に肝内胆管像を加味したA'型,B'型を加えている(図2).

先天性胆道閉鎖症の診断と治療

著者: 大川治夫

ページ範囲:P.678 - P.679

 先天性胆道閉鎖症は形態学的に吻合可能型と吻合不能型に分類されてきたが,吻合可能型は5〜10%に過ぎず,肝門部が瘢痕状である吻合不能型はすべて不治の病とされていた.1959年葛西の肝門部腸吻合術の報告1)以来,すでに20数年を経たが,この不治の病に対する手術法が本邦において,続いて欧米においても次第に一般化し,とくに最近10年間の成績向上は飛躍的ともいえるものである.とくに本邦ではこの疾患に対する啓蒙が進み,早期診断が行われるようになり,実際に生後60日以前にも手術が行われ,手術成績はなお向上しつつある.
 発生頻度は,本邦でも欧米でも生産児の0.5〜1/10,000と推計されており,とくに日本に多いこともなさそうである2).発生原因についてはなお不明であるが,肝外胆管の組織像は一率に炎症後瘢痕性変化がみられ,微細胆管遺残もみられ,現在出生前後の何らかの炎症性機転が考えられている.

鼎談

胆道疾患診療の実際

著者: 土屋幸浩 ,   宮崎逸夫 ,   大菅俊明

ページ範囲:P.682 - P.692

 大菅(司会) 本日は"胆道疾患診療の実際"と題し,日常診療のごく基本的な知識から最新のところまで,胆道疾患全般にわたってお話しをうかがっていきたいと思います.
 胆道疾患といいますと,従来ややもすれば関心の薄かった面もあったわけです.しかし,高齢化社会になるにつれて,胆道疾患の代表ともいうべき胆石症が近年増加していますし,あるいは胆嚢癌との関係という問題もだんだん大きくなって,関心が深まってきました.これらの病気は今後成人病の代表的な疾患になってくるものと思うわけです.

Current topics

急性呼吸不全—病態生理と呼吸管理の実際

著者: 大村昭人

ページ範囲:P.716 - P.732

 急性呼吸不全は肺疾患のみでなく,循環器疾患,外傷など多くの全身疾患を背景に起こってくることが多い.その治療は単に呼吸管理のみでなく,基礎疾患の治療,循環・体液管理,感染の予防と治療,合併症の治療,栄養管理など複雑多岐にわたる.これをすべて詳述することは成書に譲って,本稿では急性呼吸不全(acute respiratory failure;ARF)の病態生理と,とくにその呼吸管理に対する基本的考え方と治療の実際を中心に述べる.

カラーグラフ 皮膚病変のみかたとらえ方

悪性黒色腫の特徴

著者: 石川英一 ,   大西一徳

ページ範囲:P.694 - P.695

概念
 悪性黒色腫(malignant melanoma, MM)は遠隔転移をきたしやすく,予後の悪い悪性腫瘍で,メラノサイト・母斑細胞が発生母地と考えられる.安易な切除,生検は予後を悪くするため禁忌である.本疾患による死亡例はわが国で増加傾向にあり,早期の正しい診断,的確な治療が必要となる.なおわが国のMMのうちその1/3は足底に発生している.

グラフ 胸部X線診断の基礎

撮り方と読み方(16)

著者: 新野稔

ページ範囲:P.698 - P.704

症例の解説
 診断:放射線肺臓炎(radiation pneumonitis)
 45歳女性,左乳癌にて3カ月前より放射線治療を行っていた.
 胸部正面背腹像(図1,2)

画像からみた鑑別診断(鼎談)

肝腫瘤性病変(2)

著者: 伊坪真理子 ,   関谷透 ,   川上憲司

ページ範囲:P.706 - P.715

症例
 患者 56歳,男性.会社員.
 主訴 腹部膨満感,全身倦怠感.

講座 図解病態のしくみ 腎臓病・4

Renal Osteodystrophy

著者: 黒川清

ページ範囲:P.737 - P.743

 腎は体のカルシウム(Ca),無機リン(Pi)の代謝の維持に中心的な役割りを果たしているので,腎機能が障害されると,このCa,Piの代謝異常が出現してくる.このような二価イオンの代謝異常には,それらの調節ホルモンの異常がみられるわけで,腎不全ではCa,Piの代謝異常に伴って,二次性副甲状腺機能亢進症(secondary hyperpara-thyroidism-2°HPTと略す)と活性型ビタミンDである1,25(OH)2D3(1,25Dと略)の欠乏が認められる.
 慢性腎不全患者の延命,社会復帰が人工透析法により可能となり,長期生存の患者が増加するとともに,Ca,Piの代謝異常,2°HPT,1,25D欠乏を伴う骨病変,および関連した症候が大きな臨床問題となってきている.これらの病変に加えて,長期透析患者ではアルミニウム(Al)による骨病変の出現も問題になってきている.このような2°HPTを中心とした2価イオンの代謝異常,骨およびその他の病変を総称してRenal Osteodystrophy(RODと略)と呼んでいる.

Oncology・16

生殖臓器腫瘍(1)—卵巣癌

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.745 - P.749

 卵巣癌は初期に発見することが非常に困難な腫瘍であり,現在,初期に簡単に診断できるようなマーカーも発見されていない.したがって,内診にて診断をつけなければならない.しかし,内診で触知できる時期には,すでに転移してしまっている可能性がつよい.
 卵巣原発の腫瘍には,germ-cell tumor,teratoma,あるいは転移性癌があるが,ここでは,いわゆる"epithelial" tumorのみを扱っておく.

演習 —内科専門医による—実践診療EXERCISE【新連載】

頭痛/持続する咳哩軟

著者: 小林祥泰

ページ範囲:P.733 - P.736

 26歳の女性.生来健康でとくに頭痛もちではない.約1カ月前から両こめかみ付近に頭痛が出現した.頭痛の性状はズキズキする痛みで,拍動性はないという.また項部の重圧感がある.頭痛は10分くらいで消失することもあれば一日中続くこともあり,一定しない.誘因もとくになく,ほとんど毎日のように生じ,日内変動もないという.セデスRにてやや軽快していたが11月15日より頭痛に伴って嘔吐するようになり,近医の紹介で11月17日来院した.
 頭痛の程度は徐々に増強していたが,頭痛薬を服用しながら会社へは毎日出勤していたという.また頭をふったり,頭を下げたり,咳をすると頭痛が増強するという.肩こりはない.

診療基本手技 研修医のためのノート

Physical examinationの書き方—循環器系

著者: 𠮷岡成人 ,   西崎統

ページ範囲:P.750 - P.751

 内科医にとって,①病歴(his-tory),②身体所見(physicalfindings),③一般検査(routinelaboratory examinations)の3つを完壁に修得することは,外科医がメスを自由に使いこなすことと同じくらい大切である.ことに身体所見をもれなくとらえ,かつ正確に記載することは,患者のもつ問題(problem)を解決するための重要なkey pointとなる.今回は,聖路加国際病院CCUで活用しているexamination sheetを症例に即して紹介する.

当直医のための救急手技・整形外科・1

四肢開放創の初療

著者: 高橋力

ページ範囲:P.753 - P.755

 四肢開放創の治療の眼目は感染の防止にある.そのためには,受傷後6〜8時間以内(すなわちgolden hour)に創の洗滌と徹底的なデブリードマン(手術的郭清)が必要である.
 開放創の初期治療が不適切であれば,創の感染が避けられないばかりでなく,時には,ガス壊疸,破傷風が発症し,生命の危険を伴う事態に立ち至る.

新薬情報

沈降B型肝炎ワクチン—商品名:HBワクチン‐ミドリ〔ミドリ十字〕

著者: 水島裕

ページ範囲:P.756 - P.757

概略
 古くは輸血後肝炎として知られていたウイルス性肝炎は,Blumbergによるオーストラリア抗原の発見により,その本態解明への手がかりが得られ,今日ではかなりのものがB型肝炎として知られるようになった.その感染経路も輸血のみならず,経口,接触感染することも明らかにされ,感染経路が多岐にわたること,的確な治療法がないことから社会問題としても取り上げられている.
 HBワクチンは,欧米においてはすでに実用化されている.わが国では,厚生省のB型肝炎ワクチン研究班を中心に開発研究が進められ,60℃,10時間の熱処理とホルマリン処理されたHBワクチンについて,チンパンジーを用いての有効性と安全性が証明され,続いて臨床治験においても有効かつ安全であることが確認され,このたび承認された.ただ,今回の適用は成人と小児のみのB型肝炎予防で,新生児の母児間感染の予防は含まれていない.出産直後からHBワクチンを接種し,母児間感染を断ち切って,B型肝炎の撲滅を図ろうという計画が立てられているが,これを実施するためには,それなりの承認を得る手続が必要である.しかし,順調にいけば,本年秋には新生児接種を含めた予防接種が始まる可能性がある.

面接法のポイント

癌患者や心理的問題を持つ患者との面接

著者: 河野友信

ページ範囲:P.758 - P.759

1.癌患者との面接
 癌患者との面接は,どの病期のどのような状況下でなされるものか,どのような目的なのか,などで,その内容や様式がかなり違ってくる.もちろん,年齢,性格,罹患部位,苦痛や障害の程度,病名を知っているかどうか,治療状況,社会経済的な状況,家族の有無,など患者側の要因と医療側の要因が,面接のあり方に大きく影響を与えるのはいうまでもない.
 癌患者との面接では,①初診をめぐって ②病名告知をめぐって ③癌の検査や治療をめぐって ④再発や転移をめぐって ⑤ターミナル・ステージをめぐってのときがとくに問題であり,それだけにこのような場合には面接のニーズが高いといえる.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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