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雑誌目次

雑誌文献

medicina22巻7号

1985年07月発行

雑誌目次

今月の主題 抗炎症剤の進歩と使い方

理解のための10題

ページ範囲:P.1252 - P.1254

ステロイド剤使用のための基礎知識

ステロイド剤の作用機序

著者: 市川陽一

ページ範囲:P.1164 - P.1165

 ステロイドは古くから臨床に広く用いられているが,その作用機序および代謝に及ぼす影響は,現在の先端的研究分野とも関連して注目されている.以下,その作用機序および代謝に関して,臨床的にも重要な側面をとりあげてみたい.

ステロイド剤のリンパ球に対する作用

著者: 坂根剛 ,   鈴木登

ページ範囲:P.1166 - P.1167

 ステロイドはリンパ球に対して多様な作用を示すが,一般的には免疫応答の種々のステップを抑制するように働くことが多く,この点に着目して免疫異常症や臓器移植によく使われてきた.しかしその作用機序については,いまだに十分に分かっていない.その主な理由は,①動物種によってステロイドの効果が異なり,動物での成績をそのままヒトに当てはめることができない,②ヒトにおいても正常リンパ球とリンパ腫細胞,リンパ性白血病細胞ではステロイドに対する感受性に差があり,正常リンパ球でもすべてのサブセットに対して一様の効果を示さない,③同じサブセットに対しても,異なる活性化状態にあるリンパ球には異なった効果を示すことなどによる.
 ここではまず諸家の成績を参考に,リンパ球に対するステロイドの作用機序を概説してみたい.

喘息にステロイド剤はなぜ効果があるか

著者: 真野健次

ページ範囲:P.1168 - P.1169

 副腎皮質ホルモンは,抗喘息薬としてはβ刺激剤やキサンチン製剤のような速効性はないが,効果という点では最も強力であり,しかもアトピー型,感染型のいずれにも有効である.しかしそれにもかかわらず,副腎皮質ホルモンが喘息になぜ効くかという作用機序の点になると未だよくわかっていない1)

鼻アレルギーにステロイド剤はなぜ効果があるか

著者: 奥田稔

ページ範囲:P.1170 - P.1172

 鼻アレルギーに対するステロイド剤の作用機序を論ずるには,まず鼻アレルギーの発症機序を知り,ステロイド剤がこの発症機序のどこをブロックするか,ブロックした結果どんな変化をきたすかを明らかにする必要がある.ステロイド剤には多数の種類が現在臨床応用されているが,ここでは最近注目をあびているbeclomethasone dipropionate局所噴霧剤(Bdp,ベコナーゼ®,アルデシンネーザル®)をモデルに論を進めていきたい.

外用・局所ステロイド剤の作用増強の機序

著者: 五十嵐理慧 ,   星恵子 ,   水島裕

ページ範囲:P.1174 - P.1175

 ステロイド剤を外用剤・局所用剤として用いる場合,通常,なんらかのエステル体にしたほうが局所での吸収,局所貯留性,また薬理活性の点で好ましい.その1つの例として,最近,外用剤として開発された,ハイドロコーチゾン(HC)のジエステル体であるHBP(hydrocortisone butylate propionate,パンデル®)などは,局所作用が強く,全身作用が弱いステロイド剤として注目されている.
 今回,筆者らは,HBPも含めてエステル体のステロイドが,なぜ臨床上よく効くのかを明らかにするためステロイドの主要ターゲット細胞であるヒトリンパ球を用いて,次のような実験を行ったので,その結果を中心に外用・局所ステロイド剤の作用増強の機序を考察する.

ステロイド療法最近の動向

新しいステロイド剤

著者: 赤真秀人 ,   市川陽一

ページ範囲:P.1176 - P.1177

 合成グルココルチコイド(GC)剤の開発は1946年のコルチゾンに始まり,基本構造に種々の置換を施すことによりGC作用を増強し,ミネラルコルチコイド作用を減弱させる方向で進んできた.現時点では,臨床においてGC剤を使用する際の薬理作用としての抗炎症作用と,生理作用である副作用(下垂体・副腎皮質機能抑制作用など)とは表裏一体であり,両者を分離し得た製剤はない.事実,経口剤としては1959年のパラメサゾン以来,いくつかの新経口剤の報告はあるものの,実地臨床で確固たる有用性が認められたものはない.しかし局所療法用GC剤においては,局所作用と全身副作用とある程度分離し得た製剤が開発されている.以下antedrugを中心として,各種の新GC剤について簡単に述べる.

最近問題となっているステロイド剤の副作用

著者: 塩川優一

ページ範囲:P.1178 - P.1179

 副腎皮質ステロイド(以下CS)が初めて慢性関節リウマチ(以下RA),全身性エリテマトーデス(以下SLE)などの膠原病に用いられ始めてから30余年を経過した.この間にCSに伴う副作用も変貌してきている(表).ここでは,そのうちで最近とくに問題になっているものについて解説する.

ステロイド療法における他剤併用の問題点

著者: 川合眞一

ページ範囲:P.1180 - P.1181

 糖質コルチコイド(ステロイド)療法を要する患者に対し,その基礎疾患あるいは合併症治療のために他剤を併用することは少なくない.しかし,他剤の併用は薬物相互作用によりステロイド剤または併用薬剤本来の薬効に何らかの影響を及ぼす場合がある.そこで,最近筆者らが経験した他剤併用によるステロイド治療抵抗性症例の成績も含め,ステロイド療法における他剤併用の問題点ならびに臨床使用上の注意点をまとめてみたい.

ステロイド剤の使い方

ステロイド剤の隔日投与・間歇投与・離脱法

著者: 矢野三郎

ページ範囲:P.1182 - P.1183

 ステロイド剤が臨床的に応用されるようになって,40年近く経過した.各種疾患に適応が広がり,有効性が認められているが,一方では重い副作用のあることが問題となり,実地医家の中にはステロイド剤はできるだけ使いたくないと考えるものが増えてきた.
 この副作用を軽減する目的で,種々の新しい合成ステロイド剤が開発されてきたが,Naと水の貯留作用がなくなったぐらいで,今のところ満足すべきものは出現していない.また,他剤を併用して副作用の発現を抑制しようという研究も試みられているが,これも成功していない.

膠原病におけるステロイド剤の使い方

著者: 柏崎禎夫 ,   鈴木貞博

ページ範囲:P.1184 - P.1186

ステロイド剤が適応となる膠原病
 ややもすると,膠原病の治療薬イコールステロイド剤と考えがちであるが,これは正しくない.それは特殊な病態の合併を除いてステロイド剤を使用しないことを原則とする疾患もあるからである.たとえば,強皮症(PSS)と慢性関節リウマチ(RA)がこれに該当する.
 それに対して,活動期にはほとんど全例にステロイド剤の大量投与を必要とする疾患が結節性多発動脈炎(PN)と多発性筋炎・皮膚筋炎(PM・DM)であり,病像に応じてステロイド剤の量を加減して使用しているのが全身性エリテマトーデス(SLE)である.

膠原病以外の疾患におけるステロイド剤の使い方

著者: 森田寛 ,   宮本昭正

ページ範囲:P.1188 - P.1189

 ステロイドは膠原病,アレルギー疾患のみならず,血液,肝,腎疾患などさまざまな領域の疾患に用いられ,著効を示すことも多いが,一方では多様な副作用をもたらす可能性をも有している.本稿ではアレルギー疾患,とくに気管支喘息におけるステロイドの使用法につき詳述し,それ以外の領域についてはステロイド療法の適応となる疾患を列挙するにとどめる.

皮膚疾患におけるステロイド剤の使い方

著者: 武田克之 ,   荒瀬誠治

ページ範囲:P.1190 - P.1193

 近年,ステロイド(以下スと略記)外用剤の進歩はめざましく,初めて臨床応用された1952年から現在に至る30数年間に,薬理効果(薬効)のより強い製剤が相次いで提供され,皮膚疾患外用療法の主流を占めている.しかし,ス剤は「外用が内用より絶対に安全である」との考えを前提として,薬効を高めるために,主剤の開発,基剤の改良,外用法の工夫などの努力が長年積み重ねられてきているが,その安易な考えは捨てねばなるまい.すなわち,ス外用剤のすぐれた薬効に医師は双刃の剣であることを忘れ,患者の盲信は連用をもたらし,処置に手をやく副作用を発症する.したがって,最近,スの宿命といわれる副作用と薬効を乖雑させたス外用剤も登場したが,すぐれた薬効から乱用を招き,安全性に疑問が投げかけられ,使い方の面でも反省させられる症例が少なくない.本稿ではス外用剤開発の流れ,長期連用時の副作用,副作用に対応しての使用法などについて略述する.

非ステロイド剤の基礎と問題点

非ステロイド剤の臨床効果の機序と問題点

著者: 柳川明 ,   水島裕

ページ範囲:P.1194 - P.1196

 古くから,非ステロイド抗炎症剤(以下非ステロイド剤)は,臨床の場で消炎・鎮痛・解熱作用を目的として汎用されてきた.ところが,1970年になり,Vaneにより非ステロイド剤の作用機序としてprostaglandin(PG)合成抑制が提唱されて以来,非ステロイド剤とPGならびに関連物質との関係が重要視されるようになった.そして,非ステロイド剤は,単なる解熱鎮痛剤としての使用にとどまらず,多彩な使用法が考案され試みられるようになった.
 そこで,本項において,非ステロイド剤の現在考えられている臨床効果の機序と,その問題点について,種々の角度より考えてみる.

シクロオキシゲナーゼ阻害作用のない非ステロイド性抗炎症薬

著者: 鹿取信

ページ範囲:P.1198 - P.1199

 強い抗炎症作用をもつ糖質コルチコステロイドに対し,インドメタシン(IDM)に代表され,鎮痛解熱作用を併せもつ一連の抗炎症薬を非ステロイド性抗炎症薬と呼ぶが,ここでは少し広く解釈し,上記の2群の抗炎症薬を除いた他のものについて概要を述べる.

非ステロイド剤とプロスタグランディンの併用療法

著者: 東島利夫 ,   廣瀬俊一

ページ範囲:P.1200 - P.1202

 非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)とprostaglandin(PG)の併用療法は,1978年Cohen1)らが健常者を対象として,aspirin服用例にみられる消化管出血が経口的なPGE2の併用により,有意に減少することを報告したのが最初である.
 これは,NSAIDの副作用の1つである消化管出血の治療および予防薬として用いられたものであり,広義の"NSAIDとPGの併用療法"である.本来のNSAIDとPGの併用療法とは,生体にとって有害なprostanoid産生をNSAIDにより抑制し,生体にとって有用なPGのみを外因性に投与する方法である.この観点からの併用療法の試みは,1978年Hallenbeck2)らが,犬を用いて行っている.すなわち,脳の血流を一時遮断し,再循環させると,微小循環障害が惹起されるが,indomethacinとPGI2の併用療法で改善したと報告している.彼らは,後日,heparinを同時に併用すると,より有効であるとしている3).また,1983年には猫の脊髄損傷にもNSAID,PGI2,heparinの併用療法が有効であると報告している.このように,動物実験ではNSAIDとPGの併用療法の有用性が確認されており,臨床的に用いられる日は近いと思われる.今回は,その理論的背景と現況について述べてみたい.

非ステロイド剤最近の動向

持続型非ステロイド剤

著者: 景山孝正

ページ範囲:P.1204 - P.1206

 持続型非ステロイド剤とは
 一般の非ステロイド剤(以下非ス剤と略す)に比し,血中濃度とくに有効血中濃度がより長時間持続し,したがって臨床効果もより長時間維持されると考えられる非ス剤が,いわゆる持続型非ス剤である.このような持続型非ス剤が話題になってきたのは,ピロキシカム(フェルデン®,バキソ®)が臨床の実地に登場してからであろう.
 従来の非ス剤はほとんどが,経口投与後の吸収,排泄が早く,血中濃度の半減期は数時間までと短く,一般に1日量を3回に分割して投与するのに対し,ピロキシカムをヒトに経口投与した場合の半減期は約40時間と長く1),有効血中濃度や鎮痛・抗炎症効果がよく維持されることから,ピロキシカムでは1日量を1回に投与すればよい.しかし,ピロキシカムがはじめての持続型非ス剤ではなく,すでに約30年前から使用されてきたフェニルブタゾン(ブタゾリジン®)を代表とするピラゾロン系非ス剤は持続型であるといえる.

経皮吸収型非ステロイド剤

著者: 菅野卓郎

ページ範囲:P.1208 - P.1209

 非ステロイド抗炎症剤の投与は,従来は大部分が経口剤,そして一部が坐剤によってなされてきたが,それらはいずれも全身的に用いて薬効を得ようとするものである.しかし,それら抗炎症剤の薬効のうち解熱作用は別として,抗炎症作用,鎮痛作用を得るには局所に一定濃度の薬剤が存在することが条件であって,必ずしも全身的投与によらなくてもよいということが知られている.わが国ではすでに以前から皮膚科領域において何種類かの経皮吸収型の非ステロイド剤が開発されていたが,最近とくに整形外科領域の疾患に対してインドメタシンの外用剤が広く用いられるようになり,にわかにこの種の外用剤が脚光をあびるようになった.

新しいプロドラッグ

著者: 星恵子

ページ範囲:P.1210 - P.1211

 プロドラッグとは,体内に投与された後に活性のある化合物に変化する薬剤のことで,非ステロイド抗炎症剤(非ス剤)では主に胃腸障害などの副作用の軽減化を目的に開発されている1,2).非ス剤のプロドラッグとして現在までにフェンブフェン,スリンダック,アセメタシンがあるが,本稿ではこれまでのプロドラッグと比べて臓器移行性に優れ,局所で抗炎症作用を現すといわれているプログルメタシンとインドメタシンファルネシールについて紹介する(図1).

選択的プロスタグランディン合成抑制剤

著者: 小林絢三 ,   荒川哲男

ページ範囲:P.1212 - P.1213

 アスピリン,インドメサシンなどの非ステロイド性抗炎症剤(non-steroidal anti-inflammatory drugs;NSAID)は,種々の臓器炎症に対して繁用される薬剤であるが,その主目的の抗炎症効果とは裏腹に胃粘膜病変が発生することはよく知られている.
 最近,新しいNSAIDが続々と開発されつつあるが,その抗炎症作用はともかくとして,副作用である胃粘膜病変は一向に減少の兆しはない.しかし,新しいNSAIDのある種のものは,その抗炎症作用はインドメサシンに比して遜色がなく,逆に胃粘膜傷害作用が弱いことが明らかにされつつあることからも,NSAIDの作用機序の解明とも平行しつつ,こうした新しいタイプの薬剤の開発はきわめて望ましいことと考えられる.本稿ではNSAIDによる胃粘膜病変の発生機序についての新しい知見〔とくにプロスタグランディン(PG)との関連など〕と,胃粘膜傷害の弱い,選択的PG抑制剤なる概念が適応できる新しいNSAIDについて解説する.

ターゲッティング用非ステロイド剤

著者: 柳川明 ,   水島裕

ページ範囲:P.1214 - P.1215

 非ステロイド抗炎症剤(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)は,これまで各種の炎症性・疼痛性疾患に,また解熱剤として臨床で汎用されてきた.しかし,最近はこれ以外に,抗血小板作用,循環系への作用,消化管・生殖器への作用,免疫系や癌組織への影響も検討され,病態によってはそれらの疾患の治療に重要な位置を占めると考えられている.ところがNSAIDsには,同様な薬理作用により,胃腸障害,場合によっては重篤な肝・腎・循環器障害があり,また他剤との併用などの問題もある.
 一方,近年になり,NSAIDsも新しい薬剤,剤型,投与法の改良が進んでいる.これには,いわゆるプロドラッグやdrug delivery system(DDS)も含んでいる.筆者らの教室においては,1iposomeと同様なdrug carrierとしての性質を有している0.2μの市販脂肪乳剤の小脂肪粒子である1ipid microsphere(LM)中にNSAIDsを封入させた製剤を考案した.そして,その製剤によるNSAIDsの病巣へのtargeting療法を試みているので,以下本療法について紹介する.

最近市販された非ステロイド剤

著者: 有冨寛

ページ範囲:P.1216 - P.1218

 非ステロイド性抗炎症剤(以下非ス剤と略す)は各科領域で広く使用されているが,それに対するresponderとnon-responderとがあり,重篤なものはないとはいえ,副作用のため継続投与できない症例があるのは事実である.この意味で多種類の非ス剤が実地臨床に使用可能ならば,薬剤の選択とその切り替えが容易にでき,治療の目的を達成することが可能となる.
 ここでは最近3,4年のうちに市販された主な非ス剤について簡単に解説することにする.

非ステロイド剤の使い方・副作用

非ステロイド剤の使い方

著者: 入交昭一郎

ページ範囲:P.1220 - P.1222

 非ステロイド性抗炎症剤(nonsteroidal anti-inflammatory drugs,NSAID)は今日,鎮痛,解熱,抗炎症の目的で広い範囲の各種疾患に用いられている.NSAIDは大別して酸性と非酸性の2種類あり,抗炎症作用は酸性のNSAIDに強く,非酸性は鎮痛作用が主で抗炎症作用は弱い.したがって,炎症性疾患に対しては酸性のものが使用される頻度が高いが,その抗炎症作用はプロスタグランディン合成阻害によるものであり,副作用も多い.非酸性にはこの作用がなく,それだけ副作用も少ない.
 したがって,NSAID使用に際しては,まず第1にその種類と適応ならびに副作用を熟知することが必要である.第2に同じ薬剤であっても投与される人によってその効果はまちまちであり,副作用の出現も個人差があるので,投与する薬剤の性質と投与される人の体質両方に配慮が必要である.

非ステロイド剤の副作用

著者: 菅原幸子

ページ範囲:P.1224 - P.1226

 非ステロイド剤は,薬理学的にはすべて抗炎症,鎮痛,下熱作用を有し,この3つの作用の程度が薬剤の種類によって異なった特徴をもっている.しかし,その反面副作用も種々広範に出現する.また開発時には副作用の発現頻度が低いと考えられていたものも,10年以上使用されてくると,かなり重篤な副作用がみられる場合もある.これら副作用は発売あるいは投与開始時に,臨床試験成績の副作用の種類,発現頻度,程度などに十分注意してみると,これら危険性は少なくなると思われる.しかしわれわれは,とかく薬剤の効果にのみとらわれやすく,漫然と使用してしまうので十分注意すべきである.
 従来発売されている非ステロイド抗炎症剤の,厚生省に製造承認申請時の副作用一覧を表に示したが,これに基づいて非ステロイド抗炎症剤の副作用について述べる.

非ステロイド剤坐剤の功罪

著者: 延永正

ページ範囲:P.1228 - P.1229

 従来坐剤は日本人には必ずしも馴染みのある剤型ではなかった.ましてや抗炎症剤などのように吸収されて全身性の効果が期待される薬剤ではなおさらで,この場合はもっぱら内服薬か注射薬が一般に用いられてきた.しかし直腸は血管に富み,該部に応用された坐剤の吸収がよいことが改めて見直され,実際臨床応用によっても,むしろ経口剤に勝る効果さえみられることがわかり,わが国でも次第に広く用いられるようになった.筆者もリウマチ性疾患に非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)を用いる場合,経口剤のみでは夜間の疼痛を十分コントロールしえないことが多いことから,就寝前に坐剤を補うことがしばしばである.以下非ステロイド剤坐剤の功罪について述べる.

非ステロイド剤注射剤の功罪

著者: 百瀬隆

ページ範囲:P.1230 - P.1232

 注射剤が100余年前に実用化されて以来,今日日常診療における注射剤の占める役割は大きなものになっている.しかしながら,現在使用されている多くの非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)のうち,注射剤はアスピリンのDL-リジン塩(ヴェノピリ®R静注用)とケトプロフェン(メナミン注®とカピステン注®筋注用)の2製剤に過ぎない.
 これは近年,ピリン系の鎮痛消炎剤が安全性の問題から次々と姿を消していったことがその一因と思われ,逆に上記2製剤が最近の厳格な審査を経て承認された経過を考えると,有効性,安全性についてとくに問題のない薬剤であるともいえよう.

抗炎症剤の周辺

活性酸素と抑制剤

著者: 丹羽靱負

ページ範囲:P.1234 - P.1236

炎症反応と活性酸素
 細菌などの異物の生体内への侵入に際し,好中球は単球とともに異物に対し貪食作用を行うが,その際,活性酸素(oxygen radicals:O2-,H2O2,OH・,1O2)(以下ORと略記)を発生し,ライソゾーム酵素(lysosomal enzymes,LEと略記)とともに胞体中の貪食物を融解し,ORの産生あるいはLEの分泌欠乏に基因したchronic glanulomatous disease,あるいはChediak Higashi症候群は有名で,貪食物融解作用低下のため易感染を反復する.一方,食細胞が過度に刺激されると,ORやLEの産生・分泌を増加し,細胞外にもORやLEが放出され,自己の組織に対しても融解作用を及ぼす.このような食細胞の組織への障害作用や,セロトニン,ヒスタミンなどの活性化に伴う血管の透過性の亢進などが協力して,細菌や異物の侵入による生体の炎症反応が成立する.
 炎症時の組織障害作用は,LEが重要な役割を果たすとされていたが,近年ORによる組織障害のほうが強力で,auto-oxidative damage1〜3)として注目されてきた.

免疫調節剤の概略

著者: 小坂志朗

ページ範囲:P.1238 - P.1239

 近年,従来繁用されてきた非ステロイド性抗炎症剤(非ス剤)と異なり,慢性関節リウマチ(RA)の免疫異常に対して調節機構を有する治療薬が注目されるようになった.ここではこれまで開発されてきた免疫調節剤のなかで,近い将来製品として登場すると想定される2,3の薬剤について概説を試みる.

鼎談

抗炎症剤の歴史,現状,将来

著者: 本間光夫 ,   七川歓次 ,   水島裕

ページ範囲:P.1240 - P.1251

 水島(司会)今日は,「抗炎症剤の歴史,現状,将来」と題し,この特集であげたことについて,また,抗炎症剤の対象疾患である膠原病,あるいはリウマチ性疾患の治療で将来どんなことが必要かということまで,本間先生,七川先生にいろいろご意見をうかがっていきたいと思います.

カラーグラフ 皮膚病変のみかたとらえ方

汎発性強皮症(PSS)診断の指標となる皮膚症状

著者: 石川英一 ,   田村多絵子

ページ範囲:P.1256 - P.1257

 汎発性強皮症sclerodermia diffusaは進行性全身性硬化症progressive systemic sclerosis(PSS)1)とも呼ばれ,皮膚硬化を主病変とする難治性結合組織病である.通常レイノー現象が先行する.その病態には結合組織代謝異常,免疫異常,血管病変がかかわっている.

グラフ 胸部X線診断の基礎

撮り方と読み方(19)

著者: 新野稔

ページ範囲:P.1266 - P.1273

症例の解説
〔症例1〕60歳,男性(図1〜7)
 1カ月半前に高熱5日間持続,肺炎の診断にて抗生剤の投与を約1週間受けた.約2週間前より血痰,咳嗽症状を訴える.

画像からみた鑑別診断(鼎談)

消化管疾患(1)—胃癌とその合併症

著者: 平井勝也 ,   水沼仁孝 ,   川上憲司

ページ範囲:P.1274 - P.1285

症例
 患者 48歳,男性.
 主訴 嚥下時の食道下部の痛み,嚥下困難.

講座 図解病態のしくみ 腎臓病・7

ネフローゼ症候群

著者: 黒川清

ページ範囲:P.1295 - P.1300

概念
 ネフローゼ症候群(Nephrotic Syndrome:NSと略す)は,腎糸球体基底膜の血清タンパクに対する透過性が亢進するために,アルブミンを主とした血清タンパクが,尿中に失われることにより起こる一連の症候を総称するものである.尿中へのアルブミンの大量の喪失は,低アルブミン血症,そして血漿oncotic pressureの低下により浮腫を生じることになるので,大量のタンパク尿,低アルブミン血症,浮腫をもってNSと定義することが多い.一般に,低アルブミン血症をきたすような尿中へのタンパク排泄は,1日3.5g以上のことが多いので,1日3.5g以上の尿タンパクの存在をもってNSと呼ぶこともあるが,正確には,尿中へのアルブミンの喪失による血清アルブミンの低下,それによる浮腫の存在をもってNSと呼ぶべきである.

Oncology・19

肉腫

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.1301 - P.1305

 肉腫は軟部組織肉腫(soft tissue sarcoma)と骨肉腫(osteosarcoma)に大別されているが,これらは発生学的には,大部分は中胚葉性のものであって,起原は共通である.これらには,胸膜腫瘍,腹膜腫瘍,心膜腫瘍,血管壁細胞腫瘍,血管内皮細胞腫瘍,骨肉腫,軟骨肉腫,筋肉腫,線維細胞腫,シュワン細胞腫などが含まれる.
 Soft tissue sarcomaとosteosarcomaの臨床経過と治療方法は異なるので,分けて述べてゆく.

臨床ウイルス学・1【新連載】

臨床ウイルス学研究の現状

著者: 川名林治

ページ範囲:P.1307 - P.1311

 臨床ウイルス学の進歩は著しいものがある.
 組織培養法がウイルス学の研究に導入され,これによって新しいウイルスが次々と発見され,また臨床診断にたよっていたウイルス感染症が実験室診断法の進展によって確診が可能となり,さらに一方ポリオのワクチンの投与にはじまり,新しいウイルスワクチンが実用化され,とくに近年は抗ウイルス剤の開発などによって治療にも明るい見通しがもたれるようになってきた.

ベッドサイド 臨床医のための臨床薬理学マニュアル

クロラムフェニコール

著者: 越前宏俊 ,   辻本豪三 ,   石崎高志

ページ範囲:P.1287 - P.1293

 クロラムフェニコール(Chloramphenicol)は細菌感染に対する化学療法の歴史の中で,1950年代始めに最初に現れたbroad spectrumな抗生物質であった.クロラムフェニコールは,グラム陽性および陰性の好気性,嫌気性菌,さらにリケッチア,クラミジアに対して有効(一般にbacteriostatic)である1).クロラムフェニコールの臨床上の使用頻度は,1950年代から1960年代にかけての,同薬物に起因すると考えられる重篤な副作用(Aplastic anemia,Gray baby syndrome)の報告と,より新しい世代の抗生物質の登場によって一時激減した.

演習

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1259 - P.1265

内科専門医による実践診療EXERCISE

紫斑/心窩部痛

著者: 赤塚祝子

ページ範囲:P.1315 - P.1318

 50歳,女性,家婦.1年ほど前から,何ら誘因なく下肢に皮下出血斑が出没するようになった.3カ月前より上肢にも紫斑を認めるようになり,皮膚科を受診したところ血小板減少を指摘され,内科を紹介された.発熱,貧血症状はない.子ども2人,安産.閉経している.既往歴,家族歴は特記すべきことなし.常用薬剤はない.
 診察:身長154cm,体重48kg.栄養良.脈拍68/分,整.血圧120/78mmHg.体温36.2℃.貧血,黄疸なし.表在リンパ節触知せず.上肢,下肢に数コの皮下出血斑を認める.胸部打聴診上異常なし.腹部平坦で肝・脾腫はない.下腿浮腫なし.深部反射正常.骨叩打痛はない.

CPC

Immunoblastic Lymphadenopathy患者にみられた進行する呼吸困難とびまん性肺病変

著者: 河端美則 ,   吉野邦雄 ,   寺谷啓子 ,   大石不二雄 ,   田中俊夫 ,   徳田均 ,   木野智慧光 ,   岩井和郎

ページ範囲:P.1324 - P.1330

症例
 患者:58歳,男性.
 主訴:呼吸困難.

診療基本手技 研修医のためのノート

現症,身体所見の記載のしかた

著者: 西崎統 ,   峰石真

ページ範囲:P.1312 - P.1313

 日常診療において問診と診察は医師と患者との重要な接点である.現在の進歩した医療においても,その位置は昔と変りはない.とくに最近,診断技術,診断機器,検査の著しい進歩のため,つい検査に頼りがちになる場合が多いが,臨床経験を積めば積むほど,病歴の聴取,診察の重要性が日常の臨床においてしばしば強く認識される.
 したがって,内科臨床研修を始めたばかりの研修医は,この問診,診察に関して基本に忠実に,しかも正確に行うことを学び,かつその所見を要領よくチャート(現症用紙)に記載する習慣を身につけておく必要がある.

新薬情報

カンテック(Kantec)—肝臓用薬—商品名:マロチラート(第一製薬)

著者: 水島裕

ページ範囲:P.1320 - P.1321

概要
 日本農薬研究所がイモチ病の特効薬であるイソプロチオランの安全性を研究していたところ,薬物を投与された動物の肝細胞機能が賦活された.そこで多数の同類の化合物をスクリーニングし,マロチラートを選択した.その後第一製薬と共同で,肝機能改善,とくに蛋白代謝改善作用を特徴とする今までの肝臓用薬にないユニークな薬剤として,マロチラートは開発された.

感染症メモ

Aztreonam—最初のmonobactam剤

著者: 高橋幸則

ページ範囲:P.1322 - P.1323

 ペニシリン(最初のβ-lactam剤)の発見以来,われわれは感染症治療において多大な恩恵を得ているが,近年においてもβ-lactam剤の発展は著しい.このような状況のもとでmonobactam(monocyclicβ-lactam)の発見は,これまでのβ-lactamに対するわれわれの考えと根本的に異なるものである.すなわち,第1にaztreonam(最初のmonobactam剤)は以前のβ-lactam剤の主要な守備範囲であったグラム陽性球菌および嫌気性菌には無効で,グラム陰性桿菌にのみ有効であり,第2にはほとんどのβ-lactamaseによる阻害に対して安定である.
 aztreonamの作用機序はすべてのβ-lactam同様に細菌の細胞壁の合成を阻害することによる.そしてその構造は図のとおりで,各側鎖と作用上の特性を同時に示した.aztreonamは56%が血中の蛋白と結合し,約2/3が代謝をうけず尿中に排泄される.血中半減期は1.7時間である.抗菌力については前述したようにStreptococciやStaphylococciといったグラム陽性菌,また嫌気性菌にはまったく無効である.aztreonamの特徴的な抗菌スペクトラムは,院内感染の重要な原因菌であるグラム陰性桿菌である.表にlatamoxefおよびgentamicinとの比較を示した.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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