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雑誌目次

雑誌文献

medicina22巻9号

1985年09月発行

雑誌目次

今月の主題 白血病—最新の知見と治療の進歩

理解のための10題

ページ範囲:P.1622 - P.1624

病態と診断

白血病の幹細胞

著者: 溝口秀昭

ページ範囲:P.1532 - P.1533

 幹細胞の特徴は,①分化能があることと,②自己複製能があるということである.正常の赤血球,顆粒球,マクロファージ,リンパ球,血小板については,一種類の多能性幹細胞由来であることが明らかにされている.また慢性骨髄性白血病(CML)においても,多能性幹細胞に腫瘍性の変化が起こり,それ由来の種々の血球が末梢血中を流れていることが明らかにされている.
 最近,急性白血病において白血病芽球コロニー法が開発され,一見同じように見える白血病細胞にも,培養によって白血病芽球コロニーをつくる能力のある白血病性幹細胞(leukemic colony-forming cell,L-CFC)とそうでない細胞があることが明らかとなった.本項ではL-CFCの培養法,性質,臨床的応用について述べる.

白血病細胞の分化能とその制御

著者: 穂積本男

ページ範囲:P.1534 - P.1536

 白血病細胞の発生機序に血液幹細胞の分化の異常が関与することを示唆する知見は多い1).他方,白血病細胞の中には異常な遺伝子の発現を示唆する事実が,最近,数多く報告されている1,2).これらの知見は,白血病細胞が血液幹細胞の後天的な増殖,分化の調節機構の異常によって発生する可能性を示すとともに,白血病細胞の分化能の発現を示唆する.
 近年,実験動物やヒトの諸種骨髄性白血病培養株細胞が多様な分化誘導物質によって,成熟白血球や赤血球様の細胞に分化することが明らかにされた1,3).また,最近,リンパ性白血病培養株細胞の中にも,成熟リンパ球様の細胞に分化するものが報告されている1).白血病細胞の分化能は,樹立された株細胞のみではなく,白血病患者から採取した新鮮な白血病細胞や,in vivoにおいても認められる1,3).そして,白血病細胞の分化に伴い,細胞の増殖性や造腫瘍性は低下し,完全に喪失する例も明らかにされた1,3).したがって,このような白血病細胞の分化能と分化誘導に関する知見は白血病治療法開発の観点からも注目され,世界的に活発な研究が展開されている.本稿ではこれらの研究概要を紹介する.

細胞回転

著者: 髙本滋 ,   太田和雄

ページ範囲:P.1538 - P.1539

 「細胞回転」—白血病細胞など細胞の増殖動態を一般に細胞回転(cell kinetics)と呼ぶ.白血病細胞の細胞回転は白血病の種類,各症例さらに病期により異なり,一定でない.このため細胞回転の把握は治療上の「敵を知る」意味からも非常に大切で,治療のタイミング,抗白血病側の選択に重要な示唆を与え,予後判定因子ともなりうる.また正常細胞との細胞回転の相異を知ることで治療による副作用の軽減を図ることも可能である.その他細胞回転から見た抗白血病剤の検索は作用機序の解明,至適投与法の確立に有用である.すなわち細胞回転の基礎知識は白血病の治療上必須となる腫瘍,宿主,制癌剤に関して貴重な情報を提供することになる.

細胞生化学

著者: 團茂樹 ,   金丸峯雄

ページ範囲:P.1540 - P.1541

 ひとくちに白血病といっても,種々のタイプがあり,その臨床像,治療法,予後に関してもバラエティに富んでおり,各タイプの診断は必須である.その診断を客観化させるために色々な特殊染色法や,酵素活性測定法,抗原抗体法などが盛んに行われている.この稿では,従来の特殊染色法1,2)と,生化学的マーカー検索法3,4)の2つに大別して,それぞれを簡単に説明する.

染色体異常

著者: 鎌田七男

ページ範囲:P.1542 - P.1544

 細胞遺伝学分野からみると白血病における最近の知見として,2つをあげることができる.1つは白血病の形態的病型分類であるFAB(French-American-British)分類と染色体異常型との関連で,他の1つは白血病における特異的染色体異常切断部位と"発癌遺伝子"の局在部位との関連である1).この2つは,ともに白血病発生機序や白血病細胞の分化,機能とも関連した知見であり,一括して述べてゆく.

Variant chromosome16を有する急性骨髄性白血病

著者: 春山春枝

ページ範囲:P.1546 - P.1547

 1983年,Arthurらの報告以来,No. 16染色体異常を伴った症例が興味を惹いている.すなわち,Arthurらは61例の急性非リンパ性白血病(ANLL)の染色体分析の結果,異型性の強い骨髄好酸球増多を伴い,白血病細胞はアウエル小体を有し,肝腫大を認め,しかもdel(16)(q22)の染色体異常を呈する5症例を報告し,これらは化学療法に良く反応し寛解期間も長く,以上の性格を有するANLLは,細胞遺伝学的に新しいsubtypeをなす可能性を示唆した.
 次いで,Le Beauらは308例のANLLを分析し,inv(16)(p13q22)を示した18症例を報告しているが,これらは全て,骨髄に異常な好酸球が出現しており,強力な化学療法に良好な反応を示し,初回寛解を長期に維持する症例が多いなどの特徴を有するとしている.

免疫学的マーカー—急性リンパ性白血病

著者: 上田龍三 ,   太田和雄

ページ範囲:P.1548 - P.1550

 急性リンパ性白血病(ALL)は,その白血病細胞表面にヒツジ赤血球レセプター(E-Rc)を有するT細胞型急性リンパ性白血病(T-ALL),細胞表面に免疫グロブリン(Ig)を有するB細胞型急性リンパ性白血病(B-ALL),および両マーカーを共に欠く広義のNull型急性リンパ性白血病(Null-ALL)に大別されていた.最近の単クローン抗体を用いた白血病の抗原解析はNull-ALLをさらにpre T-ALL,pre B-ALLとunclassified ALLを主体とした狭義のNull-ALLに細分化し,抗原の差による白血病の病態および治療効果,予後との関連につき精力的な解析が始められている.

免疫学的マーカー—急性骨髄性白血病

著者: 佐川公矯

ページ範囲:P.1552 - P.1553

免疫学的な膜マーカー検索の意義
 FAB分類は,細胞の形態学を中心とした白血病の秀れた分類法であるが,これのみに依拠すると,時に診断を誤ることがある.FAB分類に加え,白血病細胞について免疫学的な膜マーカーの解析を行うことによって,より正確な診断を得ることが可能となってきている.膜マーカーの検索は,モノクローナル抗体を用いた蛍光抗体法でなされることが多く,その判定にフローサイトメトリーが使用されることも珍しくなくなってきた.また,白血病細胞の塗抹標本をモノクローナル抗体を使用した酵素抗体法で染色し,形態と膜マーカーを同時に観察する手法も一般化しつつある.このように,従来の形態学と新しいテクノロジーを合体させることによって,図に示した血液細胞の分化と白血化の病態を,より正確に把握することが可能となってきた.

急性白血病とFAB分類

著者: 土屋達行

ページ範囲:P.1554 - P.1557

 急性白血病のFAB分類は1〜4),発表されてからすでに10年を経過し,白血病の形態学的分類法として世界的に広く用いられている.本分類も他の疾病分類と同様に種々の欠点はあるが5),適切に用いたときの診断一致率は高く6),疾患の本態をある程度示すものとして非常に有用である.FAB分類については,すでに日本語で解説されたものもあり,本稿では,その概略と,カラー写真により具体的に各病型を示すこととする.

特殊な白血病の病態

成人T細胞白血病

著者: 高月清

ページ範囲:P.1558 - P.1559

成人T細胞白血病の臨床的特徴
 成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia,ATL)は日本の西南部に多発する.病因ウイルスとしてHTLV-Iが関与することが明らかになり注目を浴びている.わが国で毎年200人以上の患者が発生していると推定される.またHTLV-Iのキャリアーは50万人を超えると思われる.

骨髄異形成症候群(MDS)—FAB分類(1982)について

著者: 安達満雄 ,   長村重之 ,   井口祐三 ,   中野優

ページ範囲:P.1560 - P.1562

 骨髄異形成症候群(Myelodysplastic syndromes,MDS)は一般に輸血以外のあらゆる治療に不応性の貧血を呈し,自覚症状に乏しく,潜在的に発症し,数カ月から数年と慢性的に経過し,多くは致死的(lethal)な運命をたどり,50歳以上での発病が多い.末梢血液所見で赤芽球系,顆粒球系および巨核球系のうち2系統以上の異形成(dysplasia)〔形態異常(dysplastic change)〕を呈する,いわゆる血球の質的異常と,上記造血血球系の1系統〜3系統の血球減少,すなわち数量的異常とを呈する.末梢血血球数減少にもかかわらず骨髄では正形成または過形成(normoまたはhypercellular)を呈する.この点,著明な低形成性骨髄を特徴とする典型的再生不良性貧血とは異なる.症例によって骨髄および末梢血液中に芽球(blast cell)が出現し,時には急性骨髄性白血病(AML)へ移行する症例が認められることから,明確な急性白血病(overt leukemia)との境界領域にある疾患群と考えられる.1982年,FABグループ(The French-American-British Cooperative Group)により急性白血病のFAB分類の(4回目の)改訂が行われ,上記疾患群をMDSとして新しく分類した1)

巨核芽球性白血病

著者: 柴田昭

ページ範囲:P.1564 - P.1565

 巨核球系細胞の白血病を巨核球性白血病(megakaryo-cytic leukemia)という.しかしこの用語は文献上,きわめて多様に用いられており,統一されていなかった.そこで筆者は1984年に以下の如き分類を提案した2)

高齢者白血病

著者: 外山圭助

ページ範囲:P.1566 - P.1568

 本邦において近年平均寿命の延長に伴い,高齢者の白血病が増加しつつある.
 急性白血病の全白血病に対する割合は70〜80%であり,急性骨髄性白血病(AML)が約65%を占める.AMLの死亡率は60〜79歳にピークを有し,青壮年者の3倍に及んでいる1).わが国の65歳以上の高齢者白血病の全国集計による年度別頻度は,1975年43例,1976年40例,1977年51例,1978年71例,1979年74例,1980年76例と年々増加傾向を示している2).高齢者の急性白血病は青壮年者と比較して異なる病態を示し,また治療に対する反応が異なるという特色を有する.一方慢性リンパ性白血病も高齢者に特有な白血病であるが,本邦では頻度が少ないので,本項では急性白血病について述べる.

化学療法

抗白血病剤の作用機序と副作用

著者: 笹田昌孝 ,   中村徹 ,   澤田博義 ,   内野治人

ページ範囲:P.1569 - P.1571

 白血病の治療は疾患の特性により化学療法が中心であり,近年の治療概念の確立と優れた抗白血病剤の開発によりその成績はめざましく向上しつつある.
 抗白血病剤の多くは核酸蛋白合成阻害作用を有し,この作用により白血病細胞に致死効果を与える.しかしこれら抗白血病剤はすべての急性白血病に有効なわけでなく,また重篤な副作用を持ちうることから,それぞれの薬剤について作用機序と副作用を含めた特徴を把握し,合理的な化学療法を行うことが肝要である.最近開発された新しい抗白血病剤の紹介も含めて薬剤を表1の如く分類し,それぞれの概要を述べる.

成人急性白血病の化学療法—同一プロトコールによる多施設での治療成績

著者: 名倉英一 ,   山田一正

ページ範囲:P.1572 - P.1574

成人急性白血病の至適治療体系を確立するため,国立名古屋病院院長木村禧代二博士(現名誉院長,名古屋記念病院院長)を委員長に組織された全国58施設の協同研究により,Acute Myeloid Leukemia(AML)とAcute Lymphoblastic Leukemia(ALL)についてcontrolled randomized trialを施行した.以下はその中間成績の概要である.(がん集学的治療財団,特定研究II.成人急性骨髄性白血病および成人急性リンパ性白血病に対する寛解導入,地固め並びに強化療法に関する共同研究)

成人非リンパ性白血病の寛解後治療—Postremission therapy

著者: 宇塚善郎

ページ範囲:P.1575 - P.1577

 成人ANLLに対しては,現在多くの施設において60〜80%の完全寛解率が報告されており,5〜25%の5年治癒(5Year-disease free survival:5Yr-DFS)が得られている.
 これらの治療成績の進歩は,強力な寛解導入療法によるところが大きく,寛解到達後の従来のlow-doseの地固め,維持,強化療法の寛解期間の延長に果たす役割については,議論のあるところである.

成人急性リンパ性白血病の化学療法

著者: 大島年照

ページ範囲:P.1578 - P.1581

 急性リンパ性白血病(ALL)の治療は,小児では著しく進歩し,90%以上の症例に完全緩解が得られ,5年以上disease freeの症例が40〜50%以上に達している.しかし成人例の成績は施設によっても異なるが,緩解率は60〜85%であり,緩解期間も小児に比べると明らかに短く,予後が悪い1,2)
 そのため,成人ALLでは,完全緩解後の地固め療法,維持強化療法をさらに強力にした治療法が試みられてきており,従来のvincristine+prednisoloneおよび6PM,Methotrexate(MTX)を中心とした維持療法に比べ,長期生存例が明らかに増加してきている3,4,5)

小児急性白血病の化学療法

著者: 三間屋純一

ページ範囲:P.1582 - P.1587

 小児急性白血病の化学療法による治療成績は飛躍的に進歩し,初回寛解率はリンパ性で95〜100%,骨髄性で68〜80%に達し,その維持期間も大幅に延長し,"治ゆ"とみなされる症例が増加してきている,その要因としては,1)薬理学的作用にのった多剤併用療法2)中枢神経系白血病に対する予防療法確立3)出血や感染に対する補充療法の発達4)多施設共同研究の普及
 以上4点をあげることができよう.本稿では著者らが所属している小児癌・白血病研究グループ(CCLSG),西ドイツのBerin-Frankfurt-Müsterグループ(BFM)および米国のChildren's Cancer Study Group(CCSG)をはじめとする多施設共同研究グループの最近の治療法と成績を紹介する.

新しい治療法—シタラビン大量療法

著者: 吉田稔 ,   三浦恭定

ページ範囲:P.1588 - P.1589

 成人の急性白血病の治療成績は多剤併用療法の進歩などにより向上し,現在では約70%の症例に完全寛解が得られている.しかしそれらの症例の多くは2年以内に再発し,次第に薬剤抵抗性となり不幸な転帰をとる.Cytosine arabinoside(Ara-C)大量療法はこのような再発あるいは難治性の症例に対する治療法として,1979年にRudnickら1)によって提唱され,以後注目を集めている治療法である.

新しい治療法—シタラビン少量療法

著者: 澤田博義 ,   岡崎俊朗 ,   望月敏弘 ,   石倉浩人 ,   和泉洋一郎 ,   田嶌政郎 ,   内野治人

ページ範囲:P.1590 - P.1592

 急性白血病の寛解導入療法はtotal cell killの理念に基づき,患者体内から異常細胞クローンに属するすべての細胞を除去するため,強力な多剤併用療法や骨髄移植を行うのが現今の一般的療法である.上記の方法で定型的白血病では高い寛解率が得られる.しかし,近年老齢人口の増加と診断技術の進歩につれ,高齢者の白血病—その多くが非定型である特徴を有する—やFAB分類でmyelodysplastic syndrome(MDS)と分類される疾患が増加して来ており,このような患者の治療は副作用の点で強力な化学療法や骨髄移植は適応となり難く,他の理念による治療法の開発が望まれてきた.最近Ara-Cの少量投与がこのような非定型性白血病やMDSの一つであるRAEBに有効であることが報告されるようになり注目されている1,2,3).本稿では自験例をもとに筆者らの解析結果を述べる.

慢性骨髄性白血病(急性転化を含む)の化学療法

著者: 喜多嶋康一

ページ範囲:P.1594 - P.1595

慢性期の化学療法
 1)Ph1陽性細胞の量的制御による化学療法
 従来からひろく行われてきた方法で,薬剤としては,アルキル化剤が主流を占めているが,近年その高い変異原性のゆえに急性転化に導く引金となる可能性が論じられるようになり,代わりに変異原性をほとんど有しない代謝拮抗剤が再評価されつつある.

合併症とその対策

感染症とその対策

著者: 柴田弘俊

ページ範囲:P.1596 - P.1597

 感染症とその対策という命題であるが,今回は白血病をモデルとして,急性白血病治療中の感染症とその対策を述べたい.急性白血病治療中に感染症を合併することはほぼ必発で,かつ顆粒球の減少する時期に多く発生し,しばしば原因不明であり,なかには重症の敗血症もあり死亡率も高い.このような感染症について,その特徴を明らかにし,その予防と治療について述べる.

出血とその対策

著者: 岩永隆行 ,   堀内篤

ページ範囲:P.1598 - P.1599

 白血病とくに急性白血病では,出血の対策が感染症対策とともに,強力な化学療法の成否を左右するといっても過言ではない.急性白血病における出血傾向の発現機序は,1)血小板減少による一次止血機構の欠損,2)播種性血管内凝固(disseminated intraascular coagulation:DIC)による血小板・凝固因子の消費による止血機構全般の欠損,3)線溶活性亢進による止血血栓の不安定化などが考えられている.

特殊な治療法

自家骨髄移植

著者: 原田実根

ページ範囲:P.1600 - P.1601

 HLAの一致する同胞をドナーとして行われる同種骨髄移植(allo-BMT)によって,白血病の治療成績は飛躍的に向上し,たとえば急性骨髄性白血病(AML)の初回寛解時移植では,50%以上の症例が無治療で長期生存可能となってきている1).しかしながら,allo-BMTが適応と考えられる白血病の2/3以上の症例では,HLA適合ドナーが得られない.そこで,allo-BMTにかわる方法として,1)自家骨髄移植(auto-BMT),2)HLA不適合ドナーからのallo-BMTが試みられている.
 図は,auto-BMTを利用する悪性腫瘍の治療方式を示したものである.Auto-BMTによって血液学的再構築を図ることができるので,従来の治療量をはるかに超える大量の抗癌剤投与や放射線照射が可能となる.筆者らは,これまで進行性の悪性リンパ腫および固型癌15例にauto-BMTによる治療を行い,現在5例が完全寛解で3.5年以上生存中という成績を得ている2)

同種骨髄移植

著者: 正岡徹

ページ範囲:P.1602 - P.1603

 同種骨髄移植は最近出現した治療法で,現在もその進歩は急激で,その施行方法,適応なども急速に変わって来ている.本文では一応標準的と思われる同種骨髄の施行方法と対象疾患,治療成績について厚生省骨髄移植研究班の成績を中心に述べる1,2)

栄養療法—Total Parenteral Nutritionによる栄養管理

著者: 伊藤武善

ページ範囲:P.1604 - P.1605

 臨床栄養学の進歩の内で,とりわけ,経静脈栄養(Total Parenteral Nutrition,以下TPN)は,現在,外科系,内科系を問わず,疾患の治療成績を向上させるのに欠くことのできない支持療法である.本号は白血病の特集号であるため,白血病の化学療法時,とくに骨髄移植時のTPNを中心に概略する.骨髄移植患者は移植前に大量の化学療法剤投与,全身放射線照射などにより,また,移植後,血液学的改善が見られても,移植片宿主反応(graft versus host reaction)による大量の下痢や,免疫不全による易感染性のため,約1〜2カ月にわたって,十分量の栄養を経口的に摂取できないこともある.したがって,TPNは骨髄移植時には,欠くことのできない支持療法である.

座談会

白血病の診断と治療

著者: 下山正徳 ,   正岡徹 ,   大野竜三 ,   大島年照

ページ範囲:P.1607 - P.1620

 大島(司会) 本日はお忙しいところをおいでくださいまして,ありがとうございました.最近白血病では,モノクローナル抗体が用いられ,その診断方法が進歩し,変わってきています.と同時に,白血病の化学療法についても,5年ほど前に本誌で座談会が行われたときと比較しますと,治療法ならびにその考え方が"cure"させるための治療という点で変わってきていると思いますので,今日はそのことについて話していただこうと思っております.
 最初に,白血病の診断とその進歩についてのお話をお聞きしたいのですが,急性白血病のFAB分類もかなり広まり,定着してきております.一方,モノクローナル抗体を用いた診断方法が行われるようになってきておりますので,そのFAB分類と,モノクローナル抗体の診断について,下山先生から話を始めていただきたいと思います.

Current topics

狭心症における冠スパズムの関与とその意義

著者: 土師一夫

ページ範囲:P.1659 - P.1671

 coronary artery spasm(本稿ではその邦語として冠スパズムを用いることにする1))に関してこれまでに積み重ねられてきた多くの優れた実験的,臨床的研究により,冠スパズムは冠動脈の器質的狭窄とともに狭心症における心筋虚血の支配的な病因であるという見解に今日では異論がない.冠スパズムの関与した狭心症をvasospastic anginaと称することも慣例化している.しかしながら,冠スパズムの定義や成因,冠スパズムの関与した狭心症(ここではVAと略称する)の病期となる機転,心筋梗塞発症と冠スパズムの関連などの冠スパズムにまつわる本質的な諸問題はなお未解決である.これらの解明が今日の虚血性心臓病学の重要課題の1つといっても過言ではない.本稿ではこれらの現状を踏まえ,狭心症における冠スパズムの関与のあり方,およびその意義について自験例の検討結果を中心に述べる.

グラフ 胸部X線診断の基礎

撮り方と読み方(21)

著者: 新野稔

ページ範囲:P.1636 - P.1646

 撮影体位は両側鎖骨の間に第IV胸椎が位置し,左右の高さは良好である.撮影条件は心陰影に重なる肺血管影,ならびに横隔膜下に重なる肺血管影が良好に追跡可能であり,後縦隔線,旁食道線も認められる.
 気管の右壁を上方から下方へと追跡してゆくと,右主幹から右上葉支,ならびに中間気管支幹にかけ,とくに異常所見を認めない.

画像からみた鑑別診断(鼎談)

肝細胞癌

著者: 小林進 ,   多田信平 ,   川上憲司

ページ範囲:P.1648 - P.1657

症例
 患者 50歳,男性.
 主訴 右上腹部痛,全身倦怠感.

講座 図解病態のしくみ 腎臓病・9

尿細管性アシドーシス

著者: 島野仁 ,   張漢佶 ,   黒川清

ページ範囲:P.1677 - P.1683

 われわれは,通常1日に体重1kg当たり約1mEq(約50〜60mEq/日)の不揮発性の酸を産生し,これを尿中に排泄することによって,Hのバランスが保たれている.尿細管性アシドーシスとは,腎でのHイオンの排泄障害が原因となり,全身のアシドーシスをきたす疾患を総称したものである.その病態生理を理解するためには,腎尿細管でのHイオン排泄機構に関する知識が必要である.本稿では,先ず腎尿細管でのHイオン排泄の生理を概説し,その後尿細管性アシドーシスの病態生理と,それに基づいた分類を紹介し,その各々についての解説と治療方針の考え方を述べる.

Oncology・21

リンパ腫(1)ホジキン病

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.1685 - P.1689

 ホジキン病(Hodgkin's Disease,以下HD)治療に関しての進歩は最近20年内にみられ,悪性腫瘍の中で治癒が可能となったものの1つである.現在さらに治療面での進展がみられ,ゆくゆくはすべての患者のHDが治癒に至る可能性も考えられる.日本の生活様式も欧米に近いものになりつつあり,米国に多くみられるcolorectal cancerの頻度がそれに伴って増加している傾向にある.同様に米国によくみられるHD症例が増加してきても不思議ではない.Stanford大学あるいはDeVitaによって確立された治療方法は多数の症例から得た方法であり,散発的に症例を経験するわれわれは彼らの原則に従って治療してゆかねばならない.

臨床ウイルス学・3

感冒ウイルス

著者: 加地正郎

ページ範囲:P.1691 - P.1696

 感冒—厳密にはかぜ症候群,あるいはかぜ疾患群とよばれている一連の疾患—は日常診療の場において最も多くみられるが,その大部分がウイルスによるものであることは周知の通りである.
 しかし,感冒が一般に軽症であり,また病原ウイルスに対する抗ウイルス剤がまだないといったことから,感冒あるいはその病原についての関心はあまり深くないようである.

演習

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1629 - P.1635

—内科専門医による—実践診療EXERCISE

吐血/振戦

著者: 革嶋恒徳

ページ範囲:P.1673 - P.1676

 66歳の女性.3年前に突然コップ1杯の吐血をきたし,某病院救急外来を受診した.緊急内視鏡検査を受け,食道静脈瘤からの出血と診断された.入院時,食道・胃内視鏡検査,腹部CT,腹部超音波検査により食道静脈瘤と脾腫を指摘された.約1カ月間入院治療を受け,その後食塩制限,肝疵護剤にて治療を受けていたが約2週間前に少量の吐血をきたした.今回は食道静脈瘤の成因について精査希望して受診した.飲酒歴,輸血歴なし.
 診察:体重66kg,身長156cm.血圧138/80.眼球結膜黄染なし.眼瞼結膜貧血なし.神経学的所見は正常,下肢浮腫なし.手掌紅斑認めず,胸部クモ状血管腫認めず.腹部所見は腹水軽度,腹壁静脈軽度怒張,腹部腫瘤触知せず.

海外留学 海外留学ガイダンス

FMGEMSとECFMG

著者: 大石実

ページ範囲:P.1702 - P.1705

米国留学試験
 米国へ留学するにはどうしたらよいか,という質問を私はよく受ける.英語がかなりできる人には,まずFMGEMSとECFMG English Test(またはTOEFL)を受験するように答える.英語があまりできない人には,米国での臨床研修は断念し,研究を目的として留学するように勧めることにしている.
 FMGEMSとECFMG English Test(またはTOEFL)は,臨床研修を目的として米国に行く場合に合格しなければならない試験であり,研究を目的として留学する場合には受験する必要はない.しかし,研究を目的として留学する人でも,上記の試験に合格していると研究と臨床の両方をすることも可能であり,給料にも関係してくるので合格しておいて損な試験ではない.

CPC

耳下腺腫大,IgM血症を有する患者にみられたステロイドに反応する肺の浸潤影

著者: 河端美則 ,   尾形英雄 ,   片桐史郎 ,   杉田博宣 ,   徳田均 ,   木野智慧光 ,   岩井和郎 ,   青木幹雄

ページ範囲:P.1710 - P.1720

症例
 患者:68歳(第2回入院時),男性.
 主訴:労作時息切れ,マクログロブリン血症の精査.

一冊の本

「敦煌」—井上 靖(講談社,昭和34年)

著者: 一柳邦男

ページ範囲:P.1701 - P.1701

 同じ小説を繰り返して読むという習慣は私にはない.しかし例外が一,二ある.その一つは井上靖の「敦煌」である.敦煌城外莫高窟の一窟に数百年間秘匿されてきた仏典数千巻が,1907年英国人スタインによって発見されてから,世にいう敦煌学が起った.しかしこれら仏典を,誰が何時いかなる動機で隠匿したかについては定説がない.
 井上はこれを,1038年敦煌(当時漢族曹氏の独立国であった沙州)が北方タングート族の西夏の侵入によって陥落した時に比定し,経典を埋めた人物を,宋の進士試験に失敗した趙行徳という若者にあてている.西夏という強盛な新興国に興味をもった趙行徳は,西夏の漢族外人部隊の一員として河西に転戦するが,その途次西夏に逐われた甘州の回鶻族の王女を保護しようとして果さず,王女を自殺させてしまう.それが縁で仏教に帰依した趙行徳は,沙州陥落によって大量の仏典が焼亡するのを惜み,これらを莫高窟に秘匿する,というのがこの小説の筋である.

診療基本手技

人工呼吸の実際

著者: 松原光伸 ,   西崎統

ページ範囲:P.1698 - P.1699

 呼吸は,換気,血流,拡散の3つの機能からなり,人工呼吸が代行する機能はそのうち換気に限られる.しかし,人工呼吸では吸入気の酸素濃度を高くすることにより,血流,拡散の機能障害によって起こる低酸素状態の治療も可能となる.
 以下,筆者らの内科において実際の診療で行っている人工呼吸(調節呼吸)の方法について簡単に紹介する.

新薬情報

フエロン(Feron)〔東レ〕—一般名:インターフェロン-β―天然型インターフェロン製剤

著者: 水島裕

ページ範囲:P.1706 - P.1707

概略
 インターフェロン(IFN)は,ウイルスに感染した細胞が放出するポリペプチドであり,抗ウイルス効果のほか,抗腫瘍効果,免疫調節効果など多面的な生物活性を有している.遺伝子組み換えや細胞培養技術の発達に伴い,注目される"バイオ医薬品"として各社が開発競争を行ってきた.フエロンは,細胞培養によって得られたものであるが,日本で初めて承認を受けたインターフェロン製剤である.

感染症メモ

非A非B肝炎のFollow up

著者: 袴田啓子

ページ範囲:P.1700 - P.1700

 非A非B肝炎が現在輸血後肝炎のほとんどを占めることは周知の事実である.輸血症例の0.5〜1%に発症(米国)し,潜伏期は2〜12週位(平均8週)である.1970年代半ばより,輸血後肝炎のほとんどの症例がおそらくウイルスと考えられる1つあるいはそれ以上の非A非B因子に起因していることが明らかとなっている.慢性化は高頻度(米では少なくとも25%以上,日本では16%)にあるといわれているが,その経過については指標とする抗原,抗体の力価の推移もわからないため判断は難しく,長期予後については未だ不明である.
 最近UCLAから69人の非A非B輸血後肝炎患者(以下NANBPTH:non A non B post transfusion hepatitis)の5〜11年間にわたるfollow up dataが提示されたので,それを紹介して予後についての検討を行ってみたい.

面接法のポイント

看護およびリハビリテーションと面接

著者: 河野友信

ページ範囲:P.1708 - P.1709

1.看護と面接
 看護は医術とともに医療の両輪をなし,医療における看護婦の果たすべき役割は大きい.医師が患者中心の,問題解決を指向した全人的医療を目指そうとしている昨今の情勢下にあって,看護側がそれに呼応して,看護を全人的医療の枠組の中で展開していこうという動きはまだ少ないようである.
 むしろ,看護の重要性が叫ばれ,看護の自主独立の動きが強いようにすら感じる.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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