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雑誌目次

雑誌文献

medicina23巻1号

1986年01月発行

雑誌目次

今月の主題 不整脈診療の実際 editorial

不整脈診療の実際

著者: 村山正博

ページ範囲:P.6 - P.7

 不整脈は日常臨床において遭遇することが最も多いものの1つである.心臓病診療において不整脈は心不全とともに機能異常を示す概念であり,心筋梗塞や弁膜症といった解剖学的異常を背景にした疾患概念とは立場を異にしている.不整脈は心臓の基本的機能の1つである変時作用や伝導といった機能の異常である.その意味では変力作用の異常である心不全と立場は似ている.したがってその背景には多種多様の疾患があり,またそれがまったくないこともある.Holter心電図の開発以来,長時間にわたり,たとえば期外収縮がまったくない人はむしろ珍しく,多くの人が期外収縮を有することが判ってきたが,そうなると不整脈は果たして疾患であるのか,また異常な状態であるのかということもはっきりしなくなってきた.同じ機能異常でも心不全は明らかに病的状態であるが,不整脈はきわめて独自な包括的概念であることが判ろう.

不整脈診療の基礎知識

不整脈発生機序に関する最近の考え方

著者: 沢登徹

ページ範囲:P.8 - P.12

 心臓不整脈が発生する機序には,古くより刺激生成異常と伝導異常が挙げられ,前者の代表は自動能,後者の代表はreentryといわれてきた.最近10年間には異常自動能に誘発活動(triggered activity;TA)が,またreentryの中にleading circuit theoryや旋回径路を必要としないreflectionの考え方,また異方向性伝導に基づくreentryの出現も加わり,分類の項目の中味は複雑化してきた.そのため,臨床上の不整脈とその発生機序を結びつけることが逆に困難となってきている.本稿では従来の分類に新しい項目を加えた形で提示し(表1),その項目に従って記載する.

不整脈分類の考え方と方法

著者: 松尾博司 ,   瀬川和彦

ページ範囲:P.14 - P.17

 不整脈の分類として最も一般的なものは,発生機序による分類である.しかし不整脈を診断・治療し,予後を考えるとき,それだけでは不十分である.たとえば心室期外収縮の場合,その機序が異所性自動能亢進によるにせよ,リエントリーによるにせよ,散発的に単発で出現するものとR on T現象を伴って生じるものを同列に取り扱うわけにはいかない.同様のことは房室ブロックにもあてはまり,1〜3度の分類だけでは不十分で,His束心電図記録に基づいたAHブロック・HVブロックの分類が,治療法決定の上で重要となる.
 以下,発生機序による分類を基礎に,これを補足するいくつかの分類を示す.

マッピングから得られた新しい知識

著者: 太田壽城

ページ範囲:P.18 - P.19

 心臓のマッピングとは,体表あるいは心臓の種々の領域から多くの心電図を記録し,心臓の電気現象を詳細に検討する手法をいう.検索する領域としては体表面,心外膜面,心筋内,心内膜面があり,マッピングで得られる心電情報のディスプレーとしては,興奮の伝わり方を示す興奮伝播図,電位の分布を示す電位図,ST上昇を示すSTマッピングなどがある.
 不整脈診療におけるマッピングの意義は,不整脈の発生機序の解明と,不整脈の発生部位の診断であろう.そこで本稿では,発生機序の異なる3種類の心室不整脈のマッピング所見を,虚血心における動物実験のデータを中心に解説する.

抗不整脈薬の臨床薬理と副作用

著者: 花栗睦和

ページ範囲:P.21 - P.25

 近年,電気生理学の進歩とともに,不整脈の発生機序,抗不整脈剤の作用機序の解明が進んではいるが,臨床レベルへの応用といった面では,残念ながら未だ未解決の部分が多く,抗不整脈剤の投与も個々の症例に試行錯誤で行っているのが現状である.
 この実状からいえば,抗不整脈剤は数多くあるほうが有利であり,最近,欧米において新しい抗不整脈剤の開発が進み,わが国でも遅ればせながら,それらが導入される機運にあることは喜ばしいことである.しかし,使用可能な抗不整脈剤が多くなればなるほど,それらを有効かつ安全に使い分けるためには,抗不整脈剤の特質について熟知していなければならない.

不整脈の診断

不整脈診断についての問診のポイント

著者: 山田辰一

ページ範囲:P.26 - P.27

 不整脈の診断に,心電図が重要なことはいうまでもない.しかし,周知のように,心臓病の診断法を5本の指にたとえ,親指に相当する最も重要なのは問診であることは原則である.狭心症のとき以上に,Holter心電計が役立つときが多いことは事実であるが,不整脈は問診で見当をつけることが可能の場合が多い.われわれの本領はこの領域でも問診にあり,決して"心電図医者"になってはならない.
 "不整脈"を訴える患者に対する問診には,同情心をもって,その患者の経験した出来事のすべてを聞き出そうとする医師の態度と,それをわれわれの医学知識と経験に照らして分析しようとする姿勢が必要であろう.最初の出会いで医師が与える信頼感から,すでに心臓病ことに不整脈患者のマネージメントは始まっており,したがって粗略な,または主観的な問診は有害でさえある.

不整脈外来診断の手技

著者: 高柳寛

ページ範囲:P.28 - P.30

 不整脈は,日常の外来診療でみうけることが比較的多く,正確な診断が急に要する場合も少なくない.そのためには理学的所見を正しくとることおよび心電図記録が必須である.それに加えて,有用な手技として頚動脈洞マッサージ,Valsalva試験,眼球圧迫などがあり,食道誘導心電図があれば,診断の正確さはさらに向上する.
 不整脈を外来で診断するにあたってまず考えねばならないことは,緊急の治療が必要かどうかである。血圧低下を伴う頻脈や意識消失を起こす徐脈例などがこれにあたる.さらに不整脈の基礎となる疾患の有無を検討しなければないない。基礎心疾患がある場合,不整脈とどのような関連があるかをも考慮しなくてはならない.これらのことを限られた時間内で要領よく考察する.基礎となづ心疾患としては,弁膜症,虚血性心疾患,心筋症や動脈硬化症など多多岐にわたる.

不整脈診断におけるホルター心電図の効用

著者: 武者春樹

ページ範囲:P.32 - P.35

ホルター心電図法
 1961年,N.J.Holterにより開発された携帯型磁気テープ記録器による長時間心電図法(ホルター心電図)1)は,近年,コンピューター技術の向上により,記録器の小型軽量化,自動解析の精度改善がなされ2),循環器疾患の診断に有用な検査法の1つとなっている.ホルター心電図の特徴は,時間と場所の制約を取り除き日常生活の中での心電図変化を記録し,かつその長時間の記録を短時間で解析することである3).中でも数分間で記録が行われる12誘導心電図では捉えることが困難な発作性不整脈や狭心症発作とくに異型狭心症など,症状発現から終了まで短時間で経過する心電図変化を自覚症状とともに昼夜の別なく記録に残すこと,しかもそれを外来診療でも可能としたことが,ホルター心電図の最大の効用であろう.

不整脈診断における運動負荷試験の効用

著者: 川久保清

ページ範囲:P.36 - P.37

 運動負荷試験を不整脈診断の目的で用いる場合には,①運動により新たに不整脈が誘発される場合と,②安静時に存在する不整脈が運動により変化する場合,の2つの点に注目する必要がある.そのためには運動負荷中の心電図監視と記録は必須であり,マスター2階段試験は負荷強度の点からも不整脈診断には適切ではなく,トレッドミルやエルゴメーター負荷試験が用いられる.
 一般に,ホルター心電図と比較すると,心室期外収縮(VPC)などの不整脈の検出頻度が少ない点は否めないが,短時間の観察ですむ,くり返し同一強度の負荷をかけられる,日常生活より強い程度の負荷をかけられる,不整脈発生と自覚症状の関係をその場で確認できる,など不整脈の診断や治療効果判定に有用な面がみられる.

電気生理学的検査からわかること

著者: 野崎彰

ページ範囲:P.38 - P.43

 電気生理学的検査(electrophysiologic study)とは,カテーテル型電極を用いて心腔内随所の電位を記録する1)とともに,プログラム可能な刺激装置を用いて心臓電気刺激を施行することにより,不整脈の機序解明や抗不整脈薬の治療効果判定を行う検査である.

不整脈治療の実際

治療を要する不整脈と要しない不整脈

著者: 吉本信雄

ページ範囲:P.44 - P.47

 不整脈には,心室粗細動や,1分間20心拍以下でAdams-Stokes発作を伴う徐拍性不整脈など,電気的除細動やペースメーカー植え込みが即刻必要な重症のものから,期外収縮が散見される程度のものまでいろいろある.同じ心室性期外収縮にしても,たとえば急性心筋梗塞後のものに対しては十分の注意を払い,より重篤な不整脈へ移行する可能性のあるときはすぐ治療を開始する必要があるのに対し,器質的心疾患を有しない健常者においては,治療を急ぎ,いたずらに患者の不安感を増大させないよう注意する.治療を行うにあたって考慮すべきこととしては,①不整脈の原因となる基礎疾患,合併症の有無,②Adams-Stokes発作,心室粗細動,頻拍発作などの既往の有無,③不整脈そのものの重症度,心血行動態におよぼす影響,④自覚症状,などがある.

抗不整脈薬の使い方の手順

著者: 三宅良彦 ,   明石勝也

ページ範囲:P.49 - P.51

 心エコー図やホルター心電図検査の普及,および各種検診制度の普及・充実にともない,不整脈あるいは不整脈を発現させる疾患がより多く発見,診断されるようになった.また,近年の虚血性心疾患の増加は,とりも直さず不整脈の増加であり,このようにして不整脈の発見の機会が増えたことから,当然の結果として,不整脈治療を行う機会が増えてきている.
 不整脈を発見し,次いで不整脈治療を行うには,①治療の要・不要の鑑別,②緊急度の判定,③治療法の選択,の3点が,まず第1に考慮されなければならない.①,②の概要については図に示すが,詳細については本特集の別稿を参照されたい.

不整脈死と緊急治療

著者: 藤原秀臣 ,   家坂義人

ページ範囲:P.52 - P.53

不整脈死の概念
 不整脈死とは,不整脈に起因する突然死(arrhythmic sudden cardiac death)であり,心室頻拍(vent-ricular tachycardia;VT),心室細動(ventricularfibrillation;VF)あるいは心拍停止(cardiac stand-still)による心停止(cardiac arrest;CA)を意味する.したがって,症状の出現から死亡までの時間は数分間以内であり,確定診断はきわめて困難で,その頻度について正確な数字は不明であるが,最近の米国の統計によれば,全心臓突然死は年間40〜60万人,1日約1,000人に達するといわれている.

抗不整脈薬の効果判定

著者: 飯田信子 ,   猪口直美 ,   早川弘一

ページ範囲:P.54 - P.55

 現在,抗不整脈薬の効果判定法には,①自覚症状を目安とするもの,②3分間心電図によるもの,③運動負荷試験によるもの,④電気生理学的検査によるもの,⑤ホルター心電図によるもの,などがある.
 自覚症状による場合は,当然のことながら自覚症状のない不整脈には不適である.3分間心電図によって判定する方法は,不整脈が頻発しかつ一定に出現している場合や静注抗不整脈薬の効果をその場でみる場合に利用しうるが,これら以外の場合には適当とはいえない.運動負荷試験による方法は,運動時に再現性をもって出現する不整脈には適当であるが,一般的には再現性に乏しいとされる1).電気生理学的方法は,たとえば心室頻拍,発作性上室性頻拍などの発作を薬剤投与前後で人工的に誘発し比較することができるが,専門家のみが行い得るので一般的な検査ではない.

上室性不整脈の治療法の実際

著者: 中島敏明 ,   倉智嘉久 ,   杉本恒明

ページ範囲:P.56 - P.60

 上室性不整脈は,臨床的に徐脈性と頻脈性不整脈(期外収縮,頻拍,細動など)に分けられるが,本稿では頻脈性不整脈の治療法,とくに薬物治療につき述べる.

心室性不整脈の治療法の実際

著者: 戸田爲久 ,   杉本恒明

ページ範囲:P.62 - P.65

 心室不整脈のうち,心室頻拍,心室細動は血行動態が悪化し致死的となるため,また心室期外収縮は心室頻拍や心室細動に移行する危険があるとき治療が必要である.以下,それぞれについて治療の適応および方法について述べる.

徐脈性不整脈の治療法の実際

著者: 山口巖 ,   野口祐一

ページ範囲:P.66 - P.71

 薬物に対する徐脈性不整脈の反応は不安定であり,さらに副作用の出現が薬物治療の継続を困難にしている.したがって,徐脈性不整脈の症例に対する薬物治療は,ベースメーカ植え込みが行われるまでの一時的な処置として行われる.本稿では,徐脈性不整脈のうちで臨床上,発生頻度が高い洞不全症候群と房室ブロックについて,内科的治療の限界とペースメーカ治療の適応について概説する.

不整脈治療の外科適応

著者: 古瀬彰

ページ範囲:P.72 - P.73

 不整脈の外科療法は近年めざましく発展したものである1).徐脈性不整脈に対する心臓ペーシング療法も,少なくとも本邦では外科治療として開始されたものであったが,現在ではほとんどの施設で内科医によって行われている.そこで本稿では頻拍性不整脈に対する手術に限って述べ,その外科適応について解説することとする.
 頻拍性不整脈に対する手術療法として最も代表的なものは,WPW症候群に対する副伝導路切離術である.その効果は確実であり,手術適応も確立したものとなっている.その他の頻拍性上室不整脈や心室頻拍に対しても積極的に外科療法が試みられているが,なかにはいまだその発展段階のものもあり,したがって手術適応も確定していないと考えられるものも含まれていることをお断りしておきたい.

各種領域における不整脈診療の特殊性

CCUにおける不整脈管理—心室細動を中心に

著者: 田中啓治

ページ範囲:P.74 - P.75

 急性心筋梗塞の発作直後の死亡率はきわめて高く,死亡例の40〜75%は1時間以内に起きる突然死で,そのほとんどが心室細動(VF)によるという.発作後まもない時期のVFはポンプ不全を伴っておらず,治療に比較的よく反応するといわれる(一次性VF).柴田ら1)は,発症から2時間以内にCCUに収容された急性心筋梗塞患者202例のうち,27例(13.4%)に一次性VFの出現をみた.しかし,緊急治療によって25例(92.6%)の患者を蘇生させることができたと述べている.一方,ポンプ不全に伴う二次性VFは難治で,不整脈の治療とともに心不全やショックの対策も講じなければならない.CCUで厳重な心電図監視を行うのは,かかる重症不整脈を防止,治療するためである.

虚血性心疾患慢性期における不整脈管理

著者: 加藤敏平

ページ範囲:P.76 - P.79

 心筋梗塞の急性期での不整脈は高頻度にみられ,重篤な合併症の1つで予後を左右する.とくに突然死の原因の1つとされ,いかにこの不整脈に対処するかが重要な要素となる.
 一方,急性期を無事に脱した心筋梗塞症のその後の管理もまた急性期と同様に不整脈の出現には十分注意が必要であり,とくに心室性不整脈については,突然死につながる危険をはらんでいるので注意が必要である.また不整脈の出現は心機能への面にも悪影響をおよぼすことも多く,十分な管理が必要である.なおこの項のテーマの慢性虚血性心疾患とはいろいろな考え方があると思われるが,慢性期とは一応,退院し外来通院中とした.これは入院中と外来とでは,いろいろな状況,とくに不整脈の出現に対して,その発見する手段,方法がかなり異なり,それに対処する方法も違ってくると思われる.すなわち,外来では24時間モニターや,頻回の心電図記録は不可能であるため,また患者の自覚症状に対する対応のしかたなどについても異なるため,不整脈の発見およびその治療に遅れをとる恐れがある.

心筋症と不整脈診療

著者: 櫻井恒太郎

ページ範囲:P.80 - P.81

心筋症における不整脈
 心筋症の頻度(患者数)は,この疾患に対する関心の増大や,診断方法の進歩によってこの10年間に増大しているが,死因統計を例にとってみると虚血性心疾患の1/50程度(1983年人口動態統計)であり,けっして多い疾患ではない.心筋症はその臨床的病型により,肥大型(閉塞性および非閉塞性)と拡張型に分類され,その両者にはそれぞれ特徴がある(表).心筋症が注目を集める理由の1つは,患者の多くが青壮年期にいわゆる突然死で死亡することがあげられる(図1).どの病型においても突然死が死因に対して占める割合は大きく,とくに肥大型心筋症では死亡例の過半数が突然死と考えられる(図2).病型別の各種不整脈の頻度を図3に示したが,心筋症患者では不整脈の頻度はきわめて高く,また多彩である.突然死の原因としては,ほとんどが頻脈性不整脈(心室細動,心室頻拍)によると考えられており,したがって心筋症の臨床診療においては突然死の予防すなわち,頻脈性不整脈の予知と治療が重要な問題である.

弁膜症と不整脈診療

著者: 諸岡成徳

ページ範囲:P.82 - P.83

 心臓弁膜症は多種類の不整脈を併発するが,他の心疾患によるものと本質的な差があるわけではない.しかし弁膜症では主病変が心内膜にあり,弁障害で起こる血行動態異常が主病像を形成する.この点,虚血性心疾患など心筋病変が主な疾患とは経過が異なり,不整脈の対策も多少の差がある.
 心房は血行動態負荷により内圧上昇や内腔拡大が起こり,上室性不整脈,とくに心房細動が頻発する.心室は負荷が大きいときや長年に及ぶとき,心室筋に2次的障害が起こり心不全を発症する.この場合心室性不整脈も起こるが,ジギタリス薬などで治療されていることが多く,薬剤による不整脈にも注意を要する.

小児における不整脈診療の特殊性

著者: 新村一郎

ページ範囲:P.84 - P.85

 成人と異なって小児の心拍数は高く,これがすべての不整脈に抑制的に作用している.
 小児不整脈の特徴として,①成人と比較して器質的心疾患を基盤とした不整脈は少ない,②頻拍不整脈の発生率は徐拍不整脈より高い,③先天性心疾患の開心術後不整脈,④虚血性病変を有する川崎病不整脈,などがあげられる.

老人における不整脈診療の特殊性

著者: 丹羽明博

ページ範囲:P.86 - P.87

 高齢者では不整脈の発現頻度が高いことはよく知られている.加齢とともに増加する不整脈には心室性期外収縮(VPC),上室性期外収縮(SVPC),心房細動,洞不全症候群(SSS),脚ブロックなどがあり,逆にMobitz II型や第III度の房室ブロックは少ないといわれている.また,年齢と関連のないものには,洞徐脈,WPW症候群,LGL症候群などが挙げられる1)
 各種不整脈の診断や治療の基本は,老人といえども若年者と同様であり,これに関してはそれぞれの項を参照されたい.本稿では,不整脈診療の際に理解しておくべき老人の臨床的特徴,老人における個々の不整脈の特徴,および治療上の留意点について述べる.

スポーツ医学における不整脈診療の特殊性

著者: 小堀悦孝 ,   長谷川淡 ,   田中政 ,   新谷冨士雄

ページ範囲:P.88 - P.90

 心臓は,継続的な身体のトレーニングにより解剖学的変化が起こり,生理学的反応にも変化が生ずることは古くから認識され,いわゆるスポーツ心臓(athletic heart)として知られている1〜3).スポーツ心臓は,トレーニングによる適応現象と考えられているが,器質的心疾患と誤診されやすい特徴をもち,スポーツ選手に不整脈をみた場合,十分注意をする必要がある.
 本稿ではスポーツ心臓についての概念について述べ,これに伴う不整脈について解説する.さらにスポーツ医学の立場から,不整脈診療に関する問題点を挙げる.

薬剤副作用としての不整脈

著者: 関谷宗一郎 ,   堤健

ページ範囲:P.92 - P.93

 薬剤の副作用は,その薬剤の有する薬理学的作用の延長上から発生すると予測されるものと,まったく予測されないものとがある.通常は前者のことをさし,薬剤の投与量(多くは過剰投与)に関係するものと,投与された側の薬剤代謝過程(肝機能,腎機能,高齢者)に関係するものとがある.近年,薬剤誘発性不整脈については,QT延長に関係してひき起こされる多形性心室性頻拍(Torsadede Pointes)の報告が多くみられる1).そのため本稿では,Torsade de Pointesを含めた薬剤副作用としての不整脈発生を,薬剤の基礎電気生理学的作用と対比しつつ述べることにする.

鼎談

不整脈診療の実際

著者: 新村一郎 ,   松下哲 ,   村山正博

ページ範囲:P.94 - P.105

 村山(司会)不整脈は最も頻度の多い病気といいますか,機能異常ですが,実地医家あるいは勤務医の先生方も,日常臨床でいろいろ悩んでおられることも多いと思います.今日は,広くいろいろな年代層の不整脈についてディスカッションしようということで,老人の不整脈の担当として養育院の松下先生,小児の不整脈を代表して横浜市大の新村先生,それに私が老人を除く成人の不整脈を担当して,3人で話を進めていきたいと思います.

理解のための10題

ページ範囲:P.106 - P.108

カラーグラフ 皮膚病変のみかたとらえ方

乾癬—病型のとらえ方

著者: 石川英一 ,   山蔭明生

ページ範囲:P.110 - P.111

概念
 乾癬は遺伝性素因を有する人に発症するとされている炎症性皮膚疾患で,炎症期では好中球の表皮内浸潤が,増殖期では表皮肥厚,角質増生が特徴である.病態では,液性免疫の異常とともに,病変組織での活動性T-リンパ球の増加が注目されている.全身性疾患の立場からは,リウマチ疾患の1つと解釈される.

グラフ 内科医のための骨・関節のX線診断【新連載】

(1)骨・関節の基礎知識

著者: 水野富一

ページ範囲:P.120 - P.124

 X線撮影を行って骨が含まれていない部位は,乳房撮影を除いては存在しない.逆に言うと,ほとんどのX線写真には骨が含まれている訳である.しかし,臨床医が胸部や腹部その他のX線写真を読影する場合,骨の所見にはあまり注意を払わないことが多い.これは骨の読影に慣れていないため,異常所見の拾い上げが困難であることと,骨の異常所見の出現頻度が低いためと思われる.しかし,時には骨の異常所見が重要な糸口となって正しい診断が確定することも稀ではない.
 本シリーズでは主に内科医に役立つ骨・関節病変について解説し,今後のX線写真の読影に際し,骨の変化に対しても注意を払う助けとなれば幸いである.

演習

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.113 - P.119

—内科専門医による—実践診療EXERCISE

黄疸/頭痛

著者: 革嶋恒徳

ページ範囲:P.129 - P.132

 64歳の女性,既往歴に特記事項なし.来院1カ月前に両膝関節痛と同部の腫脹を呈し,整形外科でリウマチ様関節炎と診断され,インドメサシン経口投与を20日間受けた.4日前全身黄疸と掻痒感が発現した.発熱や皮疹はみられなかった.
 診察:血圧150/80mmHg,体温36.5℃,眼瞼結膜貧血,眼球結膜黄染.甲状腺触知せず,表在リンパ節触知せず.腹壁表在静脈拡張なし.肝脾触知せず,腹水なし,下肢浮腫なし.

講座 図解病態のしくみ 内分泌代謝疾患・1【新連載】

末端肥大症とプロラクチノーマ

著者: 岡田耕治 ,   斉藤寿一 ,   石川三衛 ,   金子健蔵 ,   葛谷健

ページ範囲:P.134 - P.142

末端肥大症(acromegaly)
 1)概念
 末端肥大症は,成長ホルモン(growth hormone,GH)が,骨端線閉鎖以後に過剰に分泌されるために発症する疾患である.ほとんどは下垂体前葉のGH産生腺腫が原因であり,ホルモンの分泌過剰症状と腺腫の発育増大による脳の圧迫症状が出現する.一部は,肺癌,膵ラ氏島癌,消化管腫瘍などで,異所性にGHまたは成長ホルモン分泌促進因子(growth hormone releasing factor,GRF)が分泌されるために発生する1,2).本稿では,GH分泌調節とGH分泌異常である末端肥大症の病態について述べる.

臨床ウイルス学・7

EBウイルス感染症

著者: 大里外誉郎

ページ範囲:P.144 - P.150

EBウイルスの医学生物学的特性:普遍性と腫瘍原性
 1964年,Epsteinと共同研究者Barrたちが,Lancet誌上にその発見を記載して以来,発見者にちなんで名付けられた未知のウイルス,Epstein-Barr virus(略してEBウイルスまたはEBV)1)(図1)は,多彩な研究展開を経て今日に至っている2,3).本主題「EBウイルス感染症」について述べるにあたり,まずEBVの特性を医学生物学的な視点から眺めることにしよう.これは次の2つに集約される.
 1つはその腫瘍原性である.1960年前後を風靡した人癌ウイルス探索の気運のなかで,本ウイルスEBVがアフリカ小児に多発するバーキットリンパ腫中に見出された経緯が,その後のEBVの腫瘍原性研究の端緒となった.いま,ヒト正常Bリンパ球にEBVを接種すると,感染細胞は1,2日後にはリンパ芽球へと形態を変化し分裂を開始,以後無限に増殖を続けて行く.これがEBVによるヒトBリンパ球の試験管内発癌(in vitro トランスフォーメーション)である(図2〜4).一方,EBVをサルの一種マーモセットに接種すると,B細胞性のリンパ腫がひき起こされる.以上から,EBVが癌原活性を示しうるウイルスであることが知られるのである.

海外留学 海外留学ガイダンス

カナダ留学とEvaluating Examination

著者: 大石実

ページ範囲:P.156 - P.159

カナダ
 カナダは英語とフランス語を公用語にしており,ケベック州ではフランス語が,その他の州では英語が主に話されている.私は米国からトロントに車で行ったが,別の国に来たという感じはあまりしなかった.しかし,制限速度の標識は米国では時速何マイルと書かれているがカナダでは時速何kmと書かれており,カナダではシートベルトの着用が義務づけられており,カナダのほうが国土の割に人口が少ない.カナダと米国の国境は高速道路の料金所みたいな感じで,パスポートをみせれば自由に行き来できる.ナイアガラの滝は米国側から見るよりカナダ側から見たほうがきれいなので,パスポートをみせて国境を越え,カナダ側から船で滝のそばまで行った.カナダは米国と比べて寒さはきびしいが,黒人が少なく安全なので,カナダに留学するのも悪くないと思われる.

CPC

肝障害と大球性貧血があり,心臓ペースメーカー植え込み,S状結腸癌手術後貧血が進行し,肝不全を呈して死亡した症例

著者: 嶋田勉 ,   吉田尚 ,   高久史麿 ,   石毛憲治 ,   鈴木勝 ,   小室康男 ,   原敬治 ,   伊良部徳治 ,   浅田学 ,   関谷貞三郎 ,   吉澤煕 ,   鈴木良一 ,   中村和之 ,   安達元郎 ,   近藤洋一郎 ,   登政和 ,   斎木茂樹 ,   平岡純 ,   三山健司 ,   大谷彰

ページ範囲:P.165 - P.180

症例
 症例 83歳,男性,無職
 初診 昭和59年2月17日(即日入院)

診療基本手技

糖尿病性昏睡の救急処置

著者: 西崎統 ,   増田幹生

ページ範囲:P.152 - P.153

 昏睡状態で運ばれて来た患者をみた場合,インスリン使用中の糖尿病患者はもちろんのこと,それ以外の患者の場合でも常に糖尿病性昏睡の可能性を念頭において診断,治療をすすめなければならない.
 そこで,当院で糖尿病性昏睡と思われる患者を救急外来でみた場合に研修医に指導している救急処置について紹介する.

一冊の本

「シッダールタ」—(ヘルマン・ヘッセ/高橋 健二訳,新潮文庫,1962)

著者: 岩渕勉

ページ範囲:P.155 - P.155

 私は,17歳の齢に腸チフスに続いて滲出性肋膜炎を患い,処々の関節がやたらに大きく,首は長くガリガリに痩せ細って暗黒の青春を味わった.肋膜炎の5人の内4人までが肺結核に発展するから5年間は用心しなければいけない,急いで学校へ行けば来年の命は保障しかねるとまで言われ,当時,両親はさぞ気に病んだことであろうと,自ら好んでなったわけではないが大変な親不幸をかけたものと忘れられぬ思いである.悶々として"死"を現実のものとして悩みもした.しかし根が余り突詰める質ではなかったおかげで,孔子が「未だ生を知らず,いづくんぞ死を知らんや」との言葉を知るに及んで,いとも容易く生きつづける努力をすることで悩みを解消してしまった.第一志望の高校受験も見事失敗,日本医大の予科には合格して多摩川の新丸子にあった校舎を見て環境の良いのに安心して,保養をかねて近くに下宿し,ボツボツ登校を始めたが,風邪をひきやすく2〜3年はあわれな学生生活を送った.当時の医学部はドイツ語全盛時代で,その学習が進むにつれ,ゲーテとか,ヘルマン・ヘッセだのハンス・カロッサだの文学に親しむようになったのは一般的なりゆきであった.

新薬情報

アシクロビル(Aciclovir)—商品名:点滴静注用ゾビラックス—抗ウイルス剤〔日本ウェルカム,住友〕

著者: 水島裕

ページ範囲:P.160 - P.161

概略
 アシクロビルは,米国および英国のウェルカム研究所で開発された抗ウイルス剤で,すでに世界各国で広く使用されている.単純疱疹ウイルス(HSV)および水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)に抗ウイルス活性を示し,その特異な作用機序により選択性が高いため,副作用がきわめて少ないのが特長である.
 悪性腫瘍や自己免疫疾患などにより免疫能低下状態にある患者では,HSVやVZV感染症がしばしば重篤化したり再発する.また,ヘルペス脳炎や新生児ヘルペスは重篤かつ致命的であるが,これらの感染症に対し,アシクロビルは有効である.

感染症メモ

緑膿菌敗血症

著者: 袴田啓子

ページ範囲:P.162 - P.163

 緑膿菌は依然として癌患者にとって重要な病原菌である.有効な抗生物質が存在するにもかかわらず,今だに死亡率が高い.白血病の患者において通常合併する感染症の起因菌であることはいうまでもなく,近年では強力な化学療法のため固形癌の患者においてもしばしばみられるようになった(表1).
 緑膿菌感染症をもつ患者にはいくつかの因子がある.まず原病としては血液悪性疾患(とくに白血病)があり,通常感染症発症時に白血球減少症を伴っていることである.緑膿菌は院外感染で起因菌となることは稀であり,入院時に感染症の存在するときには,退院直後の再入院でない限り緑膿菌は考えにくい.院内においては,Bodeyらの報告によれば,緑膿菌敗血症患者の51%は,発症に先行して他の感染症に対して抗生剤治療を行っていたという.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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