icon fsr

文献詳細

雑誌文献

medicina23巻1号

1986年01月発行

一冊の本

「シッダールタ」—(ヘルマン・ヘッセ/高橋 健二訳,新潮文庫,1962)

著者: 岩渕勉1

所属機関: 1国立横須賀病院

ページ範囲:P.155 - P.155

文献概要

 私は,17歳の齢に腸チフスに続いて滲出性肋膜炎を患い,処々の関節がやたらに大きく,首は長くガリガリに痩せ細って暗黒の青春を味わった.肋膜炎の5人の内4人までが肺結核に発展するから5年間は用心しなければいけない,急いで学校へ行けば来年の命は保障しかねるとまで言われ,当時,両親はさぞ気に病んだことであろうと,自ら好んでなったわけではないが大変な親不幸をかけたものと忘れられぬ思いである.悶々として"死"を現実のものとして悩みもした.しかし根が余り突詰める質ではなかったおかげで,孔子が「未だ生を知らず,いづくんぞ死を知らんや」との言葉を知るに及んで,いとも容易く生きつづける努力をすることで悩みを解消してしまった.第一志望の高校受験も見事失敗,日本医大の予科には合格して多摩川の新丸子にあった校舎を見て環境の良いのに安心して,保養をかねて近くに下宿し,ボツボツ登校を始めたが,風邪をひきやすく2〜3年はあわれな学生生活を送った.当時の医学部はドイツ語全盛時代で,その学習が進むにつれ,ゲーテとか,ヘルマン・ヘッセだのハンス・カロッサだの文学に親しむようになったのは一般的なりゆきであった.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1189

印刷版ISSN:0025-7699

雑誌購入ページに移動
icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら