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雑誌目次

雑誌文献

medicina23巻10号

1986年10月発行

雑誌目次

今月の主題 感染症の動向と抗生物質 editorial

感染症へのアプローチ

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.1646 - P.1648

 感染症の診断には,注意深く現病歴と理学的所見をとることが非常に重要であることはいうまでもない.ひとたび感染症であると診断された時点で,われわれはできるだけ早く原因菌を決定して,的確な治療を開始する必要がある.原因菌の決定以前に行うべき重要な項目として,グラム染色,Bacteriological statistics(臓器感染症と細菌の頻度),培養の採取方法などがあるが,以下それらについて述べてゆきたい.

院外感染

不明熱(FUO)

著者: 根岸昌功

ページ範囲:P.1650 - P.1653

 発熱性疾患の患者を診療する際,当然その原因となる疾患が追求され,現病歴,既往歴,家族歴,自・他覚症状,理学的所見,検査成績をもとに診断が下される.診断がつかない場合は,病歴,経過などの詳細な再検討がくり返し行われる.この間,患者の状態が許すなら抗菌剤などの予測投与をせず,診断に努めるべきである.解熱剤など対症状治療剤の投与は診断を妨げるとは思えず,患者の苦痛を緩和することが大切である.
  駒込病院感染症科には,不明熱で紹介される症例が多数あり,不明熱患者の診断への手順と若干の経験症例について述べる.

肺炎

著者: 澤木政好 ,   三笠桂一

ページ範囲:P.1654 - P.1655

 日常の診察において,肺炎はしばしば遭遇する重要な疾患である.肺炎の診断・治療において最も重要なのは,他の感染症と同じく,起炎菌の決定である.呼吸器感染症の起炎菌の決定法は種々工夫されているが,筆者らは起炎菌の決定にルーチンに経気管吸引法(transtracheal aspiration,以下TTA)を施行している.今回のテーマ"院外感染の肺炎"についても,筆者らのTTAの成績を中心に述べる.

嚥下性肺炎

著者: 相澤信行

ページ範囲:P.1656 - P.1657

 嚥下性肺炎は,口腔あるいは咽頭分泌物または胃内容を誤飲することによってひき起こされた肺炎の総称であり1),通常の肺炎とはさまざまな点で異なった病態を示す.

細菌性髄膜炎

著者: 渡辺一功

ページ範囲:P.1658 - P.1659

 髄膜炎は,①病原体の直接侵襲による感染性髄膜炎,②直接侵襲をみない非感染性髄膜炎に分類され,前者には細菌,真菌,スピロヘータ,リケッチア,マイコプラスマ,ウイルスなどが,後者には異物性炎症やサルコイドーシス,ベーチェット病に伴う髄膜炎,癌腫性髄膜炎などがある.なかでも細菌性髄膜炎は内科的緊急疾患であり,治療開始が遅れるほど脳実質の障害が強くなり,死亡や重大な合併症(水頭症,脳膿瘍,硬膜下水腫など),後遺症につながりやすい.治療は早期診断,原因菌の早期決定,適切な化学療法が必要である.

尿路感染症

著者: 斎藤篤

ページ範囲:P.1660 - P.1663

 尿路感染症は呼吸器感染症についでよくみられるポピュラーな疾患であり,女性の10〜20%は一生のうちに少なくとも1回は尿路感染症に罹患するとさえいわれている.
 従来,尿路感染症と診断するには,尿中細菌定量培養法によって細菌尿陽性(105/ml以上)を証明することが最も重要な条件であった.しかし,急性発症の排尿障害を主訴に外来を訪れる成人女性のなかには,上記の診断基準を満足しないものも少なからず経験される.そこでKomaroffは,急性に排尿障害をきたす病態を7つの疾患群に分類することを提唱するとともに,それらの診断に際しての尿沈渣所見の重要性を強調した論文を発表している.

感染性下痢

著者: 上野文昭

ページ範囲:P.1664 - P.1665

 発熱,脱水,嘔気,嘔吐,腹痛のいずれかを伴う1日4回以上の急性下痢は,臨床的に感染性下痢と考えられ,また1日3回以内で随伴症状の軽微な“mild diarrhea”も,感染によることがすくなくない1).この急性下痢の多くを占める感染性下痢のマネージメント(図)の要点を以下に述べる.

院内感染のマネージメント

肺炎

著者: 本田一陽

ページ範囲:P.1668 - P.1669

院内肺炎の診断基準
 1)院内肺炎の予想診断 院内肺炎は在宅感染と比較した場合,すでに基礎疾患を有するために免疫能,呼吸器,循環器機能をはじめとする生体防御機能が低下している患者が,病院という閉鎖的環境下における診療行為を介してさらに易感染状態が促進されて発症することに特徴づけられる.したがって院内肺炎については,その発症背景の把握が,起炎菌を含む予想診断,治療のみならず予防上重要である.
 2)院内肺炎のリスクファクター 院内肺炎のリスクファクターとしては,以下の項目が挙げられる.
 ①気管支鏡検査,気管チューブ挿入,気管切開,気管麻酔など:気道浄化能の低下が誘因となり,口腔,咽頭内常在菌や環境生息菌が落下し肺炎が発症する.
 ②放射線治療,化学療法,免疫抑制剤,抗癌剤など:宿主への免疫抑制作用のために,肺炎のみならず全身感染症が発症しやすい.
 ③中心静脈栄養,尿カテーテルなど:敗血症性血栓静脈炎の存在下にみられる呼吸器系感染症の誘因となる.

尿路感染症—尿道留置カテーテルの管理

著者: 中野博

ページ範囲:P.1670 - P.1671

 尿道留置カテーテルに伴う合併症は多いが,カテーテル挿入の危険は基本的には尿路感染である.

血管カニューレに合併したブドウ球菌感染症

著者: 小林寛伊

ページ範囲:P.1672 - P.1673

 最近の医学の進歩に伴い,血管内カテーテルを長期間留置する症例が激増し,これに起因する病院感染が大きな課題となっている.血管内留置カテーテルは,これを介して外界と血流が直接つながることにより,感染の危険性を大にしている.

敗血症

著者: 増田剛太 ,   水岡慶二

ページ範囲:P.1674 - P.1677

 敗血症は,今日における感染症として最も重篤なものの1つである.本症は血液疾患,担癌生体や,各種免疫抑制剤などが使用され,感染防御機能の著しい障害を伴う宿主(Compromised host)に発症し急激な臨床経過を示す病型と,心弁膜障害や心奇形を有する個体に発病して感染性心内膜炎の形をとる古典的な敗血症の2病型に大別される.いずれの病型にあっても,その本態は血液感染(Blood stream infection)であり,検出菌をみると,前者での今日における最大の菌種はグラム陰性桿菌(Gram-negative rod;GNR)であり,さらにCandidaをはじめとする真菌やグラム陽性球菌(Gram-positive coccus:GPC)の検出数の増加が指摘されている.また,後者ではGPCとくに緑色連鎖球菌(緑連菌)が現在でも検出率の第1位を占める.
 本稿では,これら敗血症について,その原因菌,病態生理,抗生剤療法などに関する最近の知見にも触れて話を進めてみたい.

顆粒球減少と感染症

著者: 舟田久

ページ範囲:P.1678 - P.1679

 急性白血病などの疾患の病態のほかに,癌化学療法などの治療により顆粒球減少を呈する症例が増加し,このための易感染性により患者管理が困難になることが多い.本稿では,顆粒球減少に伴う感染症の特徴と治療を中心に述べてみる.

骨髄移植と感染症

著者: 雨宮洋一

ページ範囲:P.1680 - P.1682

 骨髄移植の感染症は,移植経過に伴う生体防御機構の破綻の様相から,3つの時期に特徴づけられる.すなわち,移植後30日までの好中球減少期に相当する初期感染期では,グラム陰性桿菌,真菌,HSV(herpes simplex virus)が主体で,白血病の寛解導入時の感染症に類似している.次に,好中球数は回復しているものの,レシピエント固有の免疫能がすでに消失し,生着したドナーの造血幹細胞に由来する免疫担当細胞が未だその機能を発揮でき得ない,患者にとって免疫能の谷間であるところの移植後30日から100日までの中期感染期は,CMV(cytomegalovirus),Pneumocystis carinii,TBI(total body irradiation)などによる間質性肺炎の合併が問題になる.この時期は急性GVHD(graft versus host disease)合併期に相当する.後期感染期は移植後100日以降で,移植後の細胞性免疫の異常による影響が強い慢性GVHD合併期に相当し,VZV(varicella zostervirus)などのウイルス感染や,肺炎球菌,連鎖球菌などのグラム陽性菌感染症の合併を特徴とする.
 骨髄移植の感染症の背景には,程度の差こそあれ免疫不全が存在し,それは移植後の経過日数と,慢性GVHDの存在の有無に影響される.

感染症と隔離

著者: 渡辺彰

ページ範囲:P.1685 - P.1689

 感染症における隔離には,感染症患者を隔離する本来的な意味での"隔離"と,感染症を発症させないための"逆隔離"との2つがある.すなわち,隔離の目的は,伝染力が強くかつ致命率の高い感染症の,社会一般あるいは院内環境への伝播の危険性を遮断することにある.これに対し,逆隔離の目的は,種々の要因により感染防御能が低下して,もし感染を併発すれば容易に感染死の危険に迫られる患者に対して,感染の機会を減少させることにある.
 前者に該当する感染症の1つは伝染病(法定・指定・届出)であるが,伝染病が院内感染として発生する事例は最近ではほとんどなく,むしろそれ以外の感染力の強い病原体によるものが問題となる.後者に該当する病態の代表的なものは,悪性腫瘍や血液疾患における好中球減少症である.このような場合の隔離と逆隔離の問題に関して,主に院内感染のマネージメントの観点から以下に述べる.

手洗いの重要性

著者: 岡慎一 ,   島田馨

ページ範囲:P.1690 - P.1691

 院内感染は,病院の内部で発生したすべての感染を指すと定義されており,大きく交差感染(cross-infection)と自己感染(self-infection)に分けられる.院内感染のマネージメントとして,職員の手を介した病棟内伝播や,患者から職員自身への感染も含めた交差感染防止対策をどうするかということが最重要点である.この交差感染を防止するうえで最も重要かつ簡単に施行しうる方法が,手洗いであるといえる.手術室,新生児室,無菌室などの特殊領域下での手洗い法については他稿にゆずり,本稿では一般病棟での交差感染防止策としての手洗いの重要性について述べ,実際の事例についても提示することにする.

カンジダ血症

著者: 渡辺一功

ページ範囲:P.1692 - P.1693

 深在性ないし内臓カンジダ症のなかで,近年とくに注目されている疾患にカンジダ血症(can-didemia)があり,かつ増加の傾向にある.
 真菌血症(fungemia)のなかではカンジダ血症が最も多く,本症は以前は白血病に伴うか,広域抗生剤や免疫抑制剤の使用によるものと考えられていたが,1970年代になり経静脈高カロリー栄養(intravenous hyperalimentation;IVH)が広く行われるようになってから増加の傾向が指摘されている.

細菌感染のトピックス

メチシリン耐性ブドウ球菌感染症

著者: 小田切繁樹

ページ範囲:P.1694 - P.1697

 細菌感染症に対する化学療法,すなわち原因菌と化学療法剤の戦いは,まさに果てしなき対決といえよう.
 強毒菌である黄色ブドウ球菌について,これをみると,1940年代に入りPC-Gの実用化によりブ菌感染症は制圧されたが,その数年後のペニシリナーゼ(PCase)産生株の増加で,TC,CP,マクロライドがこれにとって代わった.しかし,1950年代にはこれらに対し耐性の多剤耐性ブ菌が猛威をふるい,1960年に入ってPCaseにきわめて安定の狭域半合成PCが,さらに1970年代にかけセフェム第1世代が開発され,ブ菌感染症の治療は容易となり,化学療法の中心は対グラム陰性桿菌へと移っていった.

Staphylococcus epidermidis感染症

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.1698 - P.1699

 Staphylococcus epidermidis(以下S. Epidermidis)は,以前,StaPhylococcus albusとよばれていた.この菌はStaphylococcus aureus,Staphylococcus saprophyticusから,表1のように分類されている.
 近年,医学の技術が進歩するとともに,この菌による感染症が問題となってきている.とくに,異物の存在下に感染を起こしてくる状況がよく知られている.S. epidermidisの特徴を表2に示す.

Branhamella catarrhalis感染症

著者: 川野晃一

ページ範囲:P.1700 - P.1701

 ブランハメラ・カタラーリス(Branhamellacatarrhalis)は,かつてナイセリア・カタラーリスと呼ばれ,非病原性の口腔内常在菌とされていた.1970年にDNA構造よりブランハメラ属として新しく分類され,また種々の感染症の起炎菌となり得ることが報告され注目されている.

治療の進歩

第2世代のセフェム剤を見直す

著者: 那須勝 ,   後藤純

ページ範囲:P.1702 - P.1705

 セフェム剤は,抗菌スペクトルが広く,殺菌的に作用し,人体への影響が少なく,しかも組織移行性がよいことなどから,現在最も繁用されている薬剤である.セフェム剤の世代別開発は,主に抗菌スペクトルの拡大と薬剤耐性機構に対する対応の向上をめざした努力の結果である.したがって一般的には,世代が進むほどβ-lactamaseに対し安定で,グラム陰性桿菌外膜の透過性も良好となり,抗菌スペクトルも広がり抗菌力も強い.しかし例外的に,ブドウ球菌に対する抗菌力は世代とともに低下する.
 第2世代セフェム剤は,第1世代セフェムに比べ強毒グラム陰性桿菌に抗菌力を拡大させ,β-lactamaseに対する安定性を向上させた.本稿では,第3世代セフェム剤の繁用される今日,第2世代セフェム剤の位置づけと将来について述べる.

第3世代のセフェム剤はどう使うか

著者: 泉川欣一

ページ範囲:P.1706 - P.1711

 近年の抗生剤の開発は著しいものがあり,各種感染症の治療に重要な役割を演じている.とくに,セフェム系抗生剤はセファロスポリンCの分離に伴う化学構造上の不安定化を安定させるため,3位と7位の側鎖を変換することにより,種々のセファロスポリン誘導体の開発が可能となり,次々に優れた抗菌力と広範囲スペクトルムを有する薬剤が開発され,しかも耐性菌対策が化学構造上可能とされ,最も進歩の著しい抗生剤である.しかしながら一方では,このような優れた抗生剤の進歩にもかかわらず,その薬剤の特徴を生かした有用な使用法が行われず乱用される可能性もあり,新しい耐性菌の出現,菌交代による難治性感染症の出現が問題となっている.
 セフェム系抗生剤は,1960年代初期にCephalothin(CET),Cephaloridine(CER)の出現以降,現在までに第1世代から第3世代までの約20種におよぶ注射剤を主体とした開発が行われ,臨床の場で定着されつつある.本稿においては,これらのうち,第3世代セフェム系(とくにセファロスポリン系)抗生剤の使用法を,呼吸器感染症を中心に述べることとする.

新しいアミノ配糖体薬のどこが変わったか

著者: 和田光一

ページ範囲:P.1712 - P.1713

 アミノ配糖体薬は,1944年にストレプトマイシンが発見されて以来,多くの薬剤が開発されている.最近のアミノ配糖体薬の傾向について,抗菌力,使用方法,副作用に分けて述べたい.

Aztreonum

著者: 河合健

ページ範囲:P.1714 - P.1716

Aztreonumとは何か
 Aztreonum(Azthreonum,SQ 26,776)は,単環性β-lactamをもつ抗生剤つまりmonobactam(図1)の最初の製品で,米国Squibb社によって,L-threonineを出発物質として,化学的に合成された.単環性β-lactamの1位にsulfon基を,また2位にmethyl基を有することを特徴とし(化学構造式を図2に示す),これらの側鎖の化学構造によって,グラム陰性菌に対する抗菌力と,β-lactamaseに対する抵抗性が得られた1)

Imipenem

著者: 河合健

ページ範囲:P.1718 - P.1719

Imipenemとは何か
 Stre Ptomyces cattleyaの産生する新しい抗生物質であるthienamycinは,carbapenem核を有する天然および合成の抗生剤の最初のものである.Carbapenemは,penicillin,cephalosporinとは異なるβ-lactam環を有する新しい構造式をもち,種々の側鎖を付した一連の抗生剤がcarbapenem系抗生剤とよばれる(図1).Thienamycinの種々の化合物のなかで,米国Merck社で開発された結晶化合物N-formidoylthienamycinは最も効果が優れ,その一般名は,imipenemと命名された1)(図2).すなわちimipenemは,β-lactam環を有する新しいcarbapenem系抗生剤でthienamycinの誘導体である.

キノロンカルボン酸をどう使うか

著者: 柴孝也

ページ範囲:P.1720 - P.1721

 キノロンカルボン酸系剤は,1980年代に入り相次いで新しい誘導体の開発が続いている,ここにきて一層その感を強め,pipemidic acid(PPA,ドルコール®),norfloxacin(NFLX,バクシダール®)に続いて,enox-acin(ENX,フルマーク®),ofloxacin(OFLX,タリビット®)など,広域で,しかも優れた抗菌力をもつ薬剤が開発された.さらに,ciprofloxacin(CPFX)のように発売認可を待つものや,開発段階にあるものまで多数続いており,まさに新しいキノロンカルボン酸系の時代を迎えているといってよい.ここでは,キノロンカルボン酸系剤の抗菌力,吸収・排泄について略記し,呼吸器系感染症にまで適用を拡大した本系剤を臨床使用する際の留意点について述べる.

結核の短期間治療

著者: 相澤好治

ページ範囲:P.1722 - P.1723

 昭和50年以後,RFP(Rifampicin)とINH(Isoni-azid)を中軸とする強力な治療方式が確立し,肺結核の短期間治療が可能となった.最近,肺外結核に対しても,短期間治療が有効であると認識され,結核治療の短期化が確立した感がある.ここでは肺結核と肺外結核に対する短期間治療の理論と成績を紹介する.

アシクロビルの使い方

著者: 中澤眞平

ページ範囲:P.1724 - P.1727

 アシクロビル〔9-(2-hydroxyethoxymethyl)guanine〕(Acyclovir,ACV,ゾビラックスR)は,デオキシリボースの位置に非環状の側鎖をもったデオキシグアノシン類似体である(図).本薬剤は単純ヘルペスウイルス1型,2型(Herpes simplexvirus,HSV-1,2),水痘帯状庖疹ウイルス(Varicella zoster virus,VZV)に対して強い増殖抑制効果を示し,免疫不全状態のある患者に合併したこれらのウイルスの重症感染に有効な薬剤として最近注目されている1〜5)
 アシクロビル(以下ACVと略す)はHSV,VZV感染細胞のウイルス特異的チミジンキナーゼによりリン酸化(ACV-1リン酸)され,さらに感染細胞由来グアニル酸キナーゼなどの酵素により急速に3リン酸(ACV-3リン酸)まで酸化される.このACV-3リン酸はデオキシグアノシン3-リン酸と拮抗し,ウイルスDNAポリメラーゼによりウイルス核酸に取り込まれ,不完全な核酸となりウイルスの増殖を阻害する.ウイルス非感染細胞ではチミジンキナーゼの基質特異性が異なり,ACVはリン酸化されないため,正常細胞の核酸合成には影響をあたえない.

重症マラリアの治療

著者: 海老沢功

ページ範囲:P.1728 - P.1729

重症マラリアとは何か
 重症マラリアとは,意識障害,腎不全,出血傾向,高度黄疸,呼吸不全などを呈し,ただちに即効性抗マラリア薬を使ってマラリア原虫を駆除しないと生命に危険な状態を指す.熱帯熱マラリア患者にしばしばみられ,血液μlあたりの原虫数が10万〜100万を越えることが多い.日本国内でも毎年1〜2人の瀕死の重症例や,死亡例がある.

鼎談

感染症の動向と抗生物質

著者: 根岸昌功 ,   相澤好治 ,   北原光夫

ページ範囲:P.1730 - P.1741

発熱患者をみたときにどう対処するか
 北原(司会) 本日は,"感染症の動向と抗生物質"ということで,日常診療においてとくに問題となる,発熱—とくに不明熱,院外感染および院内感染の肺炎,白血病と発熱をとりあげて,どう対処すればよいか,抗生物質は何を選択すればよいかといった話題につきまして,根岸先生,相澤先生とお話を進めていきたいと思います.
 われわれよくいろいろな問題をもった患者に遭遇するわけですが,発熱の患者をみた場合に,はたしてすぐに治療すべきなのか,あるいはもっと待って様子をみていくべきなのか,迷うことがあると思います.

理解のための10題

ページ範囲:P.1742 - P.1744

カラーグラフ 皮膚病変のみかたとらえ方

爪と全身

著者: 石川英一 ,   田村多絵子

ページ範囲:P.1746 - P.1747

 全身性の影響でおきる爪(甲)変化は両側性のことが,反対に局所的要因でおきる爪変化では1爪または少数爪の変化に止どまることが多い.また第1,第5趾爪では,はきものの影響を考えることが必要である.

リンパ節疾患の臨床病理

伝染性単核症

著者: 新井栄一 ,   片山勲

ページ範囲:P.1757 - P.1760

 伝染性単核症(infectious mononucleosis,以下IMと略す)は,リンパ節腫脹をきたす疾患のうちの重要なものの1つであり,自然治癒の予測される良性疾患である.診断のための生検は不必要(むしろ禁忌)であるが,腫大したリンパ節を前にして,この疾患の可能性が鑑別疾患の中に盛り込まれていなかったために生検となり,病理的検査の後,はじめて診断されることも稀でない.リンパ節腫脹をみたとき,悪性リンパ腫を疑う前にIMをはじめとする一連のウイルス性リンパ節疾患の可能性を考えることの重要性を強調する意味で,今回取り上げた.

グラフ 消化管造影 基本テクニックとPitfall

胃(3)—異常像の読み方;胃病変のひろいあげ診断

著者: 西俣寿人 ,   西澤護

ページ範囲:P.1762 - P.1770

 西澤 前回は胃全体の変形あるいは形の異常,辺縁の異常から胃外病変をどのようにチェックし,胃そのものの病変とどう鑑別するかの話でしたが,今日は胃の病変をどのようにチェックし,どう読影していくかの話になります.

内科医のための骨・関節のX線診断

(8)外傷(その1)

著者: 水野富一

ページ範囲:P.1772 - P.1781

1.頭蓋骨
 頭部外傷での頭蓋骨撮影は正面,両側面,Towneの4方向の撮影が基本となる.撮影条件が悪いと骨折線は簡単に見逃されてしまうので,そのようなときは必ず再撮影を行う.必要に応じて切線方向,頭蓋底,Water, Caldwellなどの撮影を追加する.

演習

目でみるトレーニング(5題)

ページ範囲:P.1749 - P.1755

—内科専門医による—実践診療EXERCISE

視力低下,動揺性歩行/胸部圧迫感

著者: 山崎正博

ページ範囲:P.1783 - P.1786

 20歳の女性.事務員.祖父が脳出血で死亡.既往歴に特記事項なし.
 6ヵ月前,嘔気,ふらつき,頭痛が続き近医受診.内服加療にて改善した,4ヵ月前,外出中に突然右足が出にくくなり,跛行をきたした.脳CT検査にて頭蓋内病変を指摘されたが症状は軽減し,2週間後の脳CT検査は正常であった.入院2ヵ月前,回転性めまい,歩行障害が出現したが10日程で軽減した.入院1ヵ月前より眼の奥が痛み,右眼の視力が次第に低下し,動揺性歩行をきたすようになった.全経過を通じて,排尿,排便障害はなかった.

講座 図解病態のしくみ 内分泌代謝疾患・10

副甲状腺機能低下症

著者: 斎藤寿一 ,   葛谷健

ページ範囲:P.1794 - P.1800

 副甲状腺機能低下症は,副甲状腺より分泌される副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌低下や,腎における作用の低下の結果として低カルシウム血症をきたした病態であって,原因別には,表1のように分類することができる.すなわち,副甲状腺組織の欠落または破壊である手術や腫瘍浸潤,これらの原因が明らかでない特発性副甲状腺機能低下症(IHP)においては,血中PTH濃度の著しい低下をきたし,これに続発するカルシウム代謝障害が発来する.また,副甲状腺は器質的に正常でありながらPTH分泌が抑制される病因として低Mg血症があり,低カルシウム血症が認められる.これに対し,偽性副甲状腺機能低下症(PHP)1型およびII型では,腎のPTH感受性が低下し,また約半数の症例では低身長,円顔または中手骨短縮などの身体的特徴がある.血中PTHの低下はなく,むしろ上昇が認められる.

CPC

SLE 12年の治療経過中に動悸,息切れを主訴に入院しショックで死亡した32歳の女性

著者: 末石真 ,   重松秀一 ,   橋本博史 ,   桑島斉三 ,   杉山隆夫 ,   高林克日己 ,   落合賢一 ,   鈴木良一 ,   近藤洋一郎 ,   斉藤陽久 ,   柳沢孝夫 ,   吉田尚 ,   秋草文四郎 ,   伊良部徳治 ,   吉田象二 ,   斉木茂樹

ページ範囲:P.1802 - P.1812

症例
 症例 32歳,女性,主婦
 初診 昭和51年6月28日

新薬情報

ブロンコリン

著者: 清川重人 ,   水島裕

ページ範囲:P.1789 - P.1791

概略
 気管支喘息などの閉塞性肺疾患治療の第1選択薬はβ-受容体刺激薬などの気管支拡張薬であり,今日数多くの薬剤が提供されている.最近のβ-刺激薬の開発傾向は,内服剤で,β2-選択性に富み,心臓への影響が少なく,投与量も少量でより長時間作用をもつ薬剤にある,ブロンコリン(Bron-cholin,塩酸マブテロール)は上記の要求に答えるべく科研製薬が西独Boehringer Ingelheim社より導入開発したもので,薬理学的には持続型の選択的β2-受容体刺激作用に,抗アレルギー作用,さらにサーファクタント(肺表面活性物質)の分泌促進作用などの粘液線毛輸送系の機能強化作用を併せもつ,新しいタイプの閉塞性肺疾患治療薬である.

一冊の本

「Bedside Cardiology」—(Jules Constant M. D., 3rd ed, Little Brown)

著者: 宮城征四郎

ページ範囲:P.1801 - P.1801

 病理学者としてつとに知られ,かつ内科医でもあったラエンネック(Rene Laennec 1781〜1826)が1816年に聴診器を開発し臨床応用に供して以来,呼吸器および循環器疾患の臨床と病理組織学的変化の間の溝が埋められ,この分野における臨床病理学の基礎がほぼ確立されたと言われている.以後,およそ2世紀を経た今日,医学はCT,NMR,カラー・エコー,電顕,蛍光抗体法,免疫細胞の細かな区分法その他の超近代化の波に覆われ,聴診器を主体としたベッドサイドでの臨床医学は殆ど顧みられることなく棄て去られようとしている.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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