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雑誌目次

雑誌文献

medicina23巻11号

1986年11月発行

雑誌目次

今月の主題 意識障害へのアプローチ Editorial

意識障害の臨床

著者: 高木康行

ページ範囲:P.1822 - P.1824

 意識障害へのアプローチは患者をよく観察し,客観的に症状を詳細・正確に把握することからはじまる.
 同時にそれを分析・理解するためには,意識障害に対する基礎的事項をも十分に知る必要がある.

意識障害の基礎知識

意識の生理学

著者: 宇川義一 ,   岩田誠

ページ範囲:P.1826 - P.1828

 意識という言葉は日常何気なく用いられているが,正確に定義することは容易ではない.これは意識という言葉が,医学・哲学・心理学などさまざまな立場で用いられていることに起因している.しかし医学用語としての意識に限定してもなお,この言葉の定義は困難であり,古くから多くの医学者によって試みられてきたにもかかわらず,未だ十分満足する定義は見出されてはいないのである.
 Cobb(1958)による"awareness of environment and of self"という定義は,かなり多くの人に受け入れられ,広く支持されているが,異論を唱える者も少なくない.現在臨床医学において,意識は「覚醒レベル」と「意識の内容」とに分けて考えられている.神経生理学的立場では,主に前者を判定する方法として,「意識とは内界外界からの刺激に対する反応性である.」という見解に基づいて,多くは生理学的に検出できる反応を用いた研究が行われている.この方法は,動物実験において合理的であるが,人間に適用する場合,認識,記憶,注意の集中などの要素をはっきり分離できず限界がある.また,人間と動物で意識の維持機構が同じかどうかについても明らかではない.

意識の生化学

著者: 野村宏 ,   斉藤博 ,   小暮久也

ページ範囲:P.1830 - P.1831

 意識は,通常,"自己と周囲の状況とを認識している状態"と定義され,便宜上,認識的および情感的精神機能の統合としての意識内容と,外観上の覚醒状態と関連した意識水準に区別して理解されている1).しかし,その発現や障害の際の脳内機序は未だ十分には明らかにされておらず,さらに,その生化学的過程についての知見は断片的であり,系統的に記述しうる段階にはないと思われる.そこで,本稿では,初めにMagounおよびMoruzziらによるいわゆる"上行性網様体賦活系"概念との関連で脳幹よりの上行性投射線維群と,その神経伝達物質について概説する.次いで,日常臨床上頻用される中枢作働薬による意識障害を主徴とした二つの症候群に言及し,最後に,代謝性脳症における意識障害の病態についての最近の実験的知見を紹介する.

意識障害と脳循環

著者: 坂井文彦

ページ範囲:P.1832 - P.1833

 知覚,認知,思考,感情といった精神・神経機能が作動するためには,意識が一定以上のレベルに維持される必要がある.意識レベルの維持,すなわち脳機能が正常に作動するために必要な脳の基礎代謝が行われるためには,常に十分なエネルギーの供給が必要なことはいうまでもない.本項では意識とその障害に関連し,脳循環代謝と脳機能の面より考察を加えたい.

意識障害の救急処置

意識障害の救急処置

著者: 江口恒良

ページ範囲:P.1834 - P.1839

 意識障害をきたす疾患は多い.これは一次的に中枢神経系が障害されるものや,基礎疾患が他に存在し,二次的に中枢神経系が障害されるものとがある(表1).本稿では前者について記述する.

意識障害の診断

昏睡患者の診かた

著者: 高木誠

ページ範囲:P.1840 - P.1844

 本稿では通常,意識レベルが昏迷,半昏睡,昏睡とよばれている強い意識障害のある患者の神経学的診察法について述べる,このような患者に対しては,一般の診察法とはやや異なる特別な診断技術と知識が必要である1〜3)

軽い意識障害の診かた

著者: 原田憲一

ページ範囲:P.1846 - P.1849

 昏睡や中等度以上の意識障害はそれほど診断に困難はない.
 ――もちろんその場合でも,心因性の失神状態や緊張病性昏迷などと,身体因性の昏睡を的確に鑑別するのは時にむずかしいし,また同じ重症の脳機能喪失状態である失外套症候群や無動無言akinetic mutism,とじこめ症候群locked-in syndromeなどと昏睡とを区別して状態像診断することは,常に容易とはいえない.――

一過性の意識障害の診かた

著者: 小林祥泰

ページ範囲:P.1850 - P.1853

 一過性の意識消失発作は日常診療で比較的よく遭遇するものであるが,診察時には神経症状もないことが多く,また再発するとも限らないので十分な検索がなされないまま,一過性脳虚血発作や脳貧血と診断されていることが多い.
 意識消失発作というと一般には失神発作を意味することが多いが,失神という言葉は厳密には全脳の血流低下による一過性の意識消失を意味している.確かに意識消失発作の中で最も頻度の高いのは血管迷走神経反射性失神と起立性低血圧による失神であるが,とくに高齢者ではその背景にある疾患を常に考慮し,一過性だからとたかをくくらない心掛けが必要である.

意識障害と鑑別すべき精神症状

著者: 武正建一

ページ範囲:P.1854 - P.1856

 一般に臨床医学で意識障害という場合には,身体病(脳器質障害)に基づく覚醒水準の低下をさしている.意識野の清明度が減ずるとともに外界を正確に認知することが次第に難しくなり,遂には昏睡にまで至るのが意識障害の段階であるが,これに加えていわば正常な意識障害ともいえる睡眠に夢があるのと同様に,単純な意識の曇りの中にも活発な精神活動が侵入してくることがある.せん妄,アメンチア,もうろう状態といった表現はこの意識の変容をさしているが,こうした病像が精神科で扱われる身体因を欠いた精神障害の症状とも類似することから鑑別診断が必要になってくる.
 もっとも,精神科の診療対象である分裂病の緊張病性興奮や躁病性興奮などの急性症状の背後にも本来の意味での意識障害があるのではないかという見方があり,これはただ臨床的側面からだけではなく脳波所見などの点からもなお論じられている問題である.

意識障害と脳波

著者: 柿木隆介 ,   柴崎浩

ページ範囲:P.1858 - P.1861

 最近新しい脳死の診断基準が発表されマスコミをにぎわしたことは記憶に新しい.脳波が意識障害の判定に極めて重要な検査であることが再認識された感がある.本稿では,まず意識障害時の脳波の一般的な所見を述べ,次に特殊な脳波所見を呈する意識障害についても触れてみたい.

脳占拠性病変と脳ヘルニア

脳ヘルニアの診断

著者: 厚東篤生

ページ範囲:P.1862 - P.1865

 脳占拠性病変とその周辺の浮腫により,あるいは脳循環障害によって脳浮腫が発生したとき局所的に頭蓋内圧が上昇する.その際,大脳鎌,小脳テントなどの硬膜の間隙や大後頭孔を越えて脳の一部が比較的抵抗の少ない方向に押し出されることを脳ヘルニアという1)(図1).ヘルニアを起こした組織は脳神経,脳幹を圧迫するのみならず,動静脈を圧迫して脳虚血,静脈の鬱滞などの循環障害から脳浮腫をさらに増悪させ,二次的脳幹出血をもひき起こす.臨床的には,進行性の意識障害をはじめ種々の神経症状を呈し,脳腫瘍や急性期脳血管障害の直接死因として最も重要である.そこで脳ヘルニアの発現を早期に診断し,適切な治療方針をたてることが重要である2,3)

脳ヘルニアの治療

著者: 赫彰郎

ページ範囲:P.1866 - P.1867

 脳占拠病変の進行により脳循環代謝障害,髄液循環障害をきたし,同時に脳浮腫の進展をみる.その結果,頭蓋内圧は亢進をきたし,脳ヘルニアを招く.また,脳ヘルニアの進展は頭蓋内圧亢進をさらに増長し,脳幹を圧迫ついには脳死の状態となる.したがって,脳卒中をはじめとする種々の脳疾患の治療で一番重要なのは脳ヘルニア対策である.しかし,脳ヘルニアも極く初期の段階では,適切な治療により救命し得るが,進行した状態においてはその救命は容易ではない.ここでは主として最近の薬物治療を中心に述べる.

代謝性脳症

アルコールと意識障害

著者: 駒ケ嶺正純

ページ範囲:P.1868 - P.1869

 アルコールに関連する意識障害は多彩である.大量のアルコール飲用は意識レベルを低下させ,頻脈,脱水などをきたし内部環境を乱す.長期間にわたるアルコール摂取は肝障害,ビタミン類の欠乏をもたらす.図は,1976年6月から1980年5月までの4年間に,都立民生病院内科に入院した患者のうち,初診時,昏迷以上の重い意識障害を認めた193例の原因の割合である.栄養状態の悪いアルコール依存症患者がそのほとんどを占める特殊な集団での集計であるが,アルコール患者における意識障害の全体像をある程度反映していると思われる1)

糖尿病と意識障害

著者: 渥美義仁

ページ範囲:P.1870 - P.1871

 糖尿病に比較的特異的にみられる意識障害には1)糖尿病性ケトアシドーシス(DKA),2)非ケトン性高浸透圧性昏睡(HHNK),3)乳酸アシドーシス,4)低血糖,などがある.非特異的なものは脳血管障害,肝性意識障害などである.

肝不全と意識障害

著者: 柳沢徹 ,   渡辺礼次郎

ページ範囲:P.1872 - P.1873

肝性脳症
 肝の機能不全は全身の代謝異常をひきおこし,多彩な臨床症状を呈するが,そのなかで肝性脳症は,意識障害を中心とする精神神経症状をしめすものである.一般に急性型(肝実質型)と,慢性型(副血行型)に大別される.前者は劇症肝炎によるものに代表され,急激かつ広範な肝実質崩壊に基づく急性肝不全症状の一つとして出現し,急速に昏睡に陥るきわめて予後不良のものである.後者は,Sherlockの提唱するportal-systemic encephalopathyに相当し,門脈-大循環系の短絡形成のため,本来門脈血流を介して解毒されるべき消化管内の有毒物質が大循環に移行し,脳症を惹起するもので,生命予後は急性型に比べ良好ではあるが,反復するという特徴をしめす.他方,臨床上最も遭遇する機会の多い非代償性肝硬変症にみられる脳症は,中間型,あるいは末期進行型と呼ばれ,副血行型が主体となるものから,肝実質障害とともに進行性の形を呈するもの,あるいは消化管出血などの誘因により急激な肝不全をきたし急性型に類似するものまでさまざまな型をしめす.

腎不全と意識障害

著者: 宮島真之 ,   下條貞友

ページ範囲:P.1874 - P.1875

 腎不全の末期に多彩な精神神経症状がみられることはよく知られている,近年,透析療法の進歩,普及に伴って,比較的早期から安全かつ容易に透析療法が導入可能となり,かつて経験したような重症尿毒症は減少し,比較的軽症な例が増加している.また治療法の進歩により10年を越える長期透析例が多数となったが,進行性の経過をとる透析脳症の報告もみられるようになった.また,近年種々の薬剤が開発され,腎不全例にも使用されるようになり,薬剤性脳症に遭遇する機会も増加している.以下,腎不全経過中にみられる意識障害の発症機序,診断および治療について概説する.

電解質,酸塩基平衡と意識障害

著者: 岡安裕之

ページ範囲:P.1876 - P.1878

 脳は他臓器と異なり,血液脳関門,血液髄液関門の存在により,血液中の電解質,酸塩基平衡異常の影響を直接うけることがなく,脳をとりまく環境は比較的一定に保たれるようになっている.しかし水は血液脳関門を自由に移動するため血清浸透圧の変化は水の移動を招き,直ちに髄液,脳細胞外液に影響を与えることとなる.また炭酸ガスは速やかに関門を移動するが,イオンであるHCO3-は通過しにくい.髄液の酸塩基平衡は蛋白濃度が小さいため,ほとんど炭酸緩衝系により緩衝されているため,呼吸性変化により髄液pHは大きな影響を受ける.臨床上,意識障害の原因として重要になってくる電解質,酸塩基平衡の異常は低Na,高Na,高Ca血症とアシドーシスである.

中毒と意識障害

著者: 北川泰久

ページ範囲:P.1880 - P.1882

 意識障害で来院する救急患者に対しては常に急性中毒の可能性を考える必要がある.その約80%は自殺企図によるものとされている.ひとたび中毒を疑ったら患者および関係者より十分なアナムネーゼを聞くことはもちろん,原因毒物と推定される包装,容器等の有無を確かめ,すばやく救急治療を開始する.ここでは意識障害を呈する急性薬物中毒の診断および治療について解説する.表1に昏睡患者のアナムネーゼおよび現症より推定される中毒物質を示す.

意識障害のトピックス

視床と意識障害

著者: 秋口一郎 ,   富本秀和 ,   遠山育夫 ,   亀山正邦

ページ範囲:P.1884 - P.1888

 視床は延髄・橋・中脳網様体系と大脳皮質の前連合野・後連合野との中継核として,あるいはその他の大脳皮質や辺縁系との線維連絡を介して,意識維持機構のなかで重要な役割を占めている.このことは従来の臨床病理連関,神経生理・解剖などの成果により明らかにされてきたが,最近,組織化学や生化学的手法により神経伝達物質や神経調節物質についての視床内トポグラフィーや線維連絡が明らかにされつつある.また,臨床的には従来,視床内病変による意識障害は両側性のとくに内側病変において出現すると考えられてきた.しかし,最近のX線CTや磁気共鳴画像法MRIの成果によれば,視床内の一側性病変でも意識障害が出現しうること,内側病変が重要であり,とくに脳幹・中脳との接点である下内側部の視床病変が重要であること,優位側病変でより出現しやすいことが明らかにされている.本稿では,まず,視床の意識維持機構と関連した神経伝達物質の組織化学について紹介し,つぎに視床病変による意識障害について概説をする.

Split brainと意識

著者: 杉下守弘

ページ範囲:P.1890 - P.1894

 G・T・フェヒネル(1801-1887)は実験心理学の創始者といわれる人である.ライプチヒ大学医学部に学んだが,卒業後,物理学と数学に興味をもった.直流電気の量的測定の研究などを行い,1834年,33歳でライピチヒ大学の物理学教授となった.彼はその後も物理学の研究を続けるが,1830年代終わりになると心の研究にも関心を示し,有名な主観的残像の研究を発表する.しかし,この少壮の物理学者は過労がたたり,ノイローゼと思われる病状となる.その上,太陽を見つめ過ぎて眼を痛め,失明の恐れがでた.太陽を見たあとでおこる残像を研究していたのである.こうして,1839年,物理学教授を辞し,3年間,全く人を避けた暮らしが続く.弱冠33歳でヨーロッパ有数の大学で教授となり,将来を嘱望されたフェヒネルの生涯も突然の,理解しがたい終わりを告げたかにみえた.しかし,予期に反して彼は奇蹟的に回復する.この経験は彼の生涯の転機となり,宗教心を深めると共に魂の問題へと関心が向けられていく.このフェヒネルは,左半球(左脳)と右半球(右脳)が脳梁の切断によって分離した脳,いわゆるsplit brainと意識について初めて論じた人といわれている.

脳死の診断基準

著者: 後藤文男

ページ範囲:P.1896 - P.1900

 1986年の1月に厚生省「脳死に関する研究」班(班長・竹内一夫教授)によって「脳死の判定指針および判定基準」1)が発表されてから,医学界のみならず,一般社会的にも論議を呼び,医学雑誌はもちろん,新聞や一般雑誌にも脳死の問題がしばしば取り上げられている.従って医師にとっては脳死に関する正確な知識と,脳死を正しく診断出来る能力を要求されている.しかし,医師といえども神経内科,脳外科,救急医学,麻酔科などの専門家以外では,必ずしもこれらの社会的要求に答えるだけの能力を有していないのが実状ではないだろうか.前述の厚生省の判定指針および判定基準は膨大な資料をもとにして,国際的評価にも耐えられる正確さを維持しながら,すべての医師が理解し,実際に使用出来るように配慮されている.是非一読をおすすめするが,その生まれるに至った背景を含めて簡単な紹介を行いたい.

植物状態

著者: 柳沢信夫

ページ範囲:P.1902 - P.1905

 近年,意識障害患者の全身管理法の発達に伴い,重篤な中枢神経疾患や脳損傷の後遺症により,大脳の活動がほぼ全面的に失われた状態で長期間経過する症例が増え,医療上および社会的・倫理的な問題を提起している.
 外からの働きかけに対して,ほとんど無動,無言で反応に乏しく,しかしながら睡眠,覚醒のリズムが明らかに存在し,瞬目をしたり動くものを眼で追い,一見,外界を認知しているかにみえる状態にいくつかのものがある.無動性無言akinetic mutism,失外套症候群apallisches Syndrom,遷延性植物状態persistent vegetative state,とじこめ症候群locked in syndromeなどとよばれる状態がそうである.一見,類似した病像を呈するこれらの病態の責任病変と神経症状の発生機序は単一ではない.意識障害の特殊型(akinetic mutism),不可逆的な大脳損傷(遷延性植物状態および失外套症候群),随意運動の遠心路の全般的遮断(とじこめ症候群)などがあり,これらは精神活動の内容や予後が一様でなく,その治療にあたっては,治療内容はもとより,医療従事者,家族のもつべき心構えがそれぞれに異なる.外見上の類似からこれらを同一に扱うことは重大な過ちをおかす危険があることに留意すべきである.

座談会

意識障害の臨床

著者: 原田憲一 ,   澤田徹 ,   竹内一夫 ,   高木康行

ページ範囲:P.1906 - P.1915

 高木(司会)今日は意識障害の臨床という題で,意識障害患者を診察する場合の臨床的な問題点を基礎的事項も含めてわかりやすくお話しいただきたいと思います.
 私ども,神経内科医は,脳外科の先生とはよくお話しするチャンスがあり,また同じような患者さんを診ているということもあるのですが,精神科の先生のお話を直接お伺いできるという機会は非常に少ないので,今日はいろいろお教えいただきたいと思っております.

理解のための10題

ページ範囲:P.1916 - P.1918

Series Discussion—Controversial Area

狭心症の治療をどうするか

著者: 山口徹 ,   石村孝夫 ,   外山雅章 ,   五十嵐正男

ページ範囲:P.1964 - P.1980

 五十嵐(司会) 日本では非常に不思議なのですが,心臓病の臨床は大学よりもむしろ一般病院のほうが活発でして,そういう意味で今日ご出席いただいた先生方はそこで活発にやっていらっしゃるので,今日は日本での先端の話が聞かれるだろうと思います.
 今回は狭心症の治療ということですが,狭心症はご存じのように労作性狭心症,冠血管痙攣性の狭心症,不安定狭心症と3つに分けられます.

Current topics

母乳によるHTLV-I母児感染説の現状

著者: 日野茂男

ページ範囲:P.1990 - P.1996

ATLLとは?
 ATL(成人T細胞白血病)は,主に40歳以上の成人に見るTリンパ細胞の白血病で1976年高月らが特異な細胞形態を指標として発見した.その後,T細胞リンパ腫の形をとるものがあることが確認され,併せてATLL(成人T細胞白血病・リンパ腫:Adult T-cell leukemia/lymphoma)と呼ばれる.ATLLの患者のほぼ全員が,1980年に米国のGalloらの報告したHTLV-I(Human T-lymphotropic virus type-I)に感染していることが判明し,HTLV-IはATLLの原因ウイルスとされた.
 HTLV-Iは主に九州地方に強い地域内流行を示すため,流行地を除けばATLL自体も稀な地方病といって良い.しかし流行地である長崎県をとって見ると,年間死亡者は数十人で全体の約0.5%を占め,単一の病原体による死因では重要級である.ATLLがほぼ100%致命的であり家族内集積性を示すことからも,HTLV-I感染経路を明らかにし,感染防御を計ることは流行地にとって重要な課題である.

カラーグラフ 皮膚病変のみかたとらえ方

皮下の炎症

著者: 石川英一 ,   山蔭明生

ページ範囲:P.1922 - P.1923

概念
 皮下にみられる病変は萎縮性変化を除いて一般に(皮下)硬結indurationとして認められることが多い.大別して炎症(脂肪織炎,およびその下の筋膜炎)によるものと,腫瘍病変によるものとがある.炎症性病変はさらに急性病変,慢性病変,および線維化を主とする病変に分けて考えることが出来る.最終診断は生検皮膚の組織像によることが多い.ここでは皮下の炎症性病変に限って述べることとする.

リンパ節疾患の臨床病理

猫ひっ掻き病

著者: 山科元章 ,   片山勲

ページ範囲:P.1933 - P.1936

 猫ひっ掻き病(cat scratch disease,以下CSD)は,その名が示すごとく,猫にひっ掻かれた皮膚の傷から始まる全身症状および局所のリンパ節炎を総称する病気であり,臨床的に猫にひっ掻かれたという既往とリンパ節炎の関連が明らかであれぼ,リンパ節腫脹に対して病理学的検索を行う必要はない.しかし,しばしば猫と接触したという既往が追及されなかったり,また2〜4週間という潜伏期間の後に単なる皮膚の傷に比べてより著明なリンパ節腫脹がみられることなどから,悪性リンパ腫を疑って生検され,病理学的診断が求められる例は少なくない.
 さて,これまでにこのCSDは猫を媒体とする感染症として,病気の本質は確立したように考えられているが,感染症そのものをひき起こす原因微生物については,クラミディアではないかと推測されているだけで,確証はない.この推測は,CSDと似た組織像を呈する鼠径リンパ肉芽腫(lymphgranuloma inguinale,第四性病)の原因がクラミディアによること,そして,ときにCSDと鼠径リンパ肉芽腫の患者の血清に同じクラミディアに対する交差反応がみられることなどに依存している.ところで,最近CSDと確認されたリンパ節病変内にグラム陰性菌が染色されたという報告が相次いでみられ,ようやく形態学的には,CSDの細菌感染症としての位置が確立されようとしている.

グラフ 消化管造影 基本テクニックとPitfall

胃(4)—隆起性病変;ポリープ(1)

著者: 西俣寿人 ,   西澤護

ページ範囲:P.1938 - P.1947

 西澤 今回は胃の隆起性病変に話をすすめたいと思います.
 胃の隆起性病変では,まず胃ポリープ,胃粘膜下腫瘍,異型上皮一腺腫あるいはIIa subtypeともいいますが,一番無難なのは境界領域病変といったほうがいいのでしょうか—,大体その3つがあると思います.そのうち上皮性のものは,ポリープと境界領域病変,非上皮性のものは粘膜下腫瘍です.ところでまずポリープについて症例をみながら部位診断,形などについて説明してください.

内科医のための骨・関節のX線診断

(9)外傷(その2:脊椎)

著者: 水野富一

ページ範囲:P.1948 - P.1957

 脊椎の外傷は胸腰椎と比べ,可動性があり,周囲支持組織の比較的少ない頸椎に多発し,多彩な骨折や脱臼が認められる.本稿では主に頸椎の外傷について述べる.

演習

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1925 - P.1931

—内科専門医による—実践診療EXERCISE

労作時呼吸困難/嘔吐,意識障害

著者: 土居義典 ,   米沢嘉啓

ページ範囲:P.1959 - P.1962

 60歳,女性.主婦.既往歴に特記すべきものはない.5年程前より労作時に息苦しさを自覚するようになり,近医の投薬にて改善していたが,重労働は不能であった.入院4週間前よりは安静時にも胸苦しさを感じるようになり,夜間起坐呼吸もみられたため近医に入院.ジギタリス剤,利尿剤の投与をうけ,安静時の症状は消失したが,労作時の息苦しさは続くため,当科に紹介入院となった.なお経過中,胸痛は認めていない.
 入院時現症:身長154cm,体重44kg,血圧132/50mmHg,脈拍66/分,ときに不整,体温36.3℃.貧血・黄疸なく,頸静脈の軽度怒張を認める.聴診上,心尖部から胸骨左縁第4肋間にかけてIII音およびIII/IV度の全収縮期雑音を聴取する.肺野にラ音なく,肝脾腫,下腿浮腫を認めない,神経学的にも異常を認めない.

講座 図解病態のしくみ 内分泌代謝疾患・11

インスリン依存性糖尿病

著者: 吉岡成人 ,   松田文子 ,   葛谷健

ページ範囲:P.1982 - P.1989

 糖尿病はインスリンの作用不足に基づく糖代謝を中心とした種々の代謝異常をきたし,罹病期間が長期化するにつれ,特異な細小血管障害や神経症をきたす疾患である.臨床的には残存インスリン分泌能の程度により,インスリン依存性糖尿病(IDDM)とインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)とに大別され(WHO Study Group,1985,表1),病因論的には自己免疫機序による膵島B細胞障害の結果,インスリン分泌能の廃絶をきたすI型糖尿病と遺伝的素因によると思われるインスリンの分泌不全や,肥満などによるインスリン抵抗性によって発症するII型糖尿病に大別される.
 本稿では病因論的にはI型,インスリン依存度の面からみたIDDMを対象として病態を中心に説明する.

一冊の本

「ガン回廊の朝」—柳田邦男著,講談社,昭和54年6月

著者: 柴田一郎

ページ範囲:P.1981 - P.1981

 私にも若い頃から,そのときどきにすばらしい感銘を受けた何冊かの本がある.医学に限らず文学書なども,それぞれに私のある時期の一つのくぎりになったような本もある.しかし,その中から一冊,ということになると,やはり最近10年位の間に読んで感銘を受けたものといえば,柳田氏のこの本あたりになってくる.ふと本屋の店頭で見かけて買った.
 冒頭から田宮猛雄先生の名前が出てくる.私が学生時代に衛生学の講義を聞かせて戴いたあの温厚,かつ剛毅なお顔,そして昭和31〜2年頃伝研(今の医科研)の玄関でお見受けした懐しいお顔を思い出す.巻頭,先生の胃癌発病という事件から本は始まる.昭和34年,田宮総長を得て世界最高水準の「臨床と研究」を目的とした国立がんセンターの誕生より53年頃に至るがんセンターの光栄と苦渋にみちた歩みを淡々と述べた500頁を超える柳田氏のノンフィクションである.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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