文献詳細
今月の主題 意識障害へのアプローチ
意識障害のトピックス
文献概要
G・T・フェヒネル(1801-1887)は実験心理学の創始者といわれる人である.ライプチヒ大学医学部に学んだが,卒業後,物理学と数学に興味をもった.直流電気の量的測定の研究などを行い,1834年,33歳でライピチヒ大学の物理学教授となった.彼はその後も物理学の研究を続けるが,1830年代終わりになると心の研究にも関心を示し,有名な主観的残像の研究を発表する.しかし,この少壮の物理学者は過労がたたり,ノイローゼと思われる病状となる.その上,太陽を見つめ過ぎて眼を痛め,失明の恐れがでた.太陽を見たあとでおこる残像を研究していたのである.こうして,1839年,物理学教授を辞し,3年間,全く人を避けた暮らしが続く.弱冠33歳でヨーロッパ有数の大学で教授となり,将来を嘱望されたフェヒネルの生涯も突然の,理解しがたい終わりを告げたかにみえた.しかし,予期に反して彼は奇蹟的に回復する.この経験は彼の生涯の転機となり,宗教心を深めると共に魂の問題へと関心が向けられていく.このフェヒネルは,左半球(左脳)と右半球(右脳)が脳梁の切断によって分離した脳,いわゆるsplit brainと意識について初めて論じた人といわれている.
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