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雑誌目次

雑誌文献

medicina23巻12号

1986年12月発行

雑誌目次

今月の主題 血流障害と血栓・塞栓症 病態生理

閉塞性動脈疾患

著者: 都島基夫

ページ範囲:P.2006 - P.2010

 本邦の食糧事情や生活環境の欧米化により,糖尿病,高脂血症,肥満といった代謝異常が増加している.これに伴い,血管障害の疾病構造も,脳出血やlacunal strokeといった,高血圧,低蛋白低脂肪に伴う細小動脈硬化性疾患が著減し,虚血性心疾患,内頸動脈や椎骨脳底動脈の梗塞などの粥状動脈硬化が基礎にある疾患が増えつつある.
 閉塞性動脈疾患には,粥状動脈硬化が進行した閉塞性末梢動脈硬化症(atherosclerosis obliterans:ASO)と動脈炎,血管攣縮,血栓形成が主体のBuerger病,別名閉塞性血管性動脈炎(thromboangitis obliterans:TAO)に大別できる.ASOは本邦ではBuerger病よりもはるかに発生数が少なかったが,1955年以来,Buerger病がほぼ一定に推移したのに対し,ASOはこの20年間に直線上に増加し,約4倍の数に増え,Buerger病の発生数をしのぐようになった.

下肢静脈疾患

著者: 今岡真義

ページ範囲:P.2012 - P.2013

 血管内を流れる血液は,本来流動性を保って流れる必要があり,血液が血管外に出る出血時に複雑な止血機構が働き,血塊を作って止血させる.したがって血管内で血栓を作り血流が阻止されることは病的な変化である.
 血管内で血流が流動性を保って流れるためには,いわゆるVirchowの3原則を満たさなくてはならない.すなわち,1)血管内皮細胞が連続性を保って存在すること,2)血流のうっ滞がなく一定の流速を保っていること,3)血小板,凝固・線溶が適当な動的平衡を保っていること,の3つである.これら3つのうち,いずれに破綻が生じても,血栓形成の原因になる.

診断

ベッドサイドでのみかた—閉塞性動脈疾患

著者: 塩野谷恵彦

ページ範囲:P.2014 - P.2017

 四肢動脈の閉塞性疾患は急性,慢性を問わずベッドサイドでの問診,視診,触診,聴診という基本的診断法により問題点の90%までは解決されるが,手術適応の決定には動脈閉塞部位と範囲を明らかにする血管造影を欠くことはできない.

ベッドサイドでのみかた—静脈血栓症

著者: 安田慶秀 ,   田辺達三

ページ範囲:P.2018 - P.2019

深部静脈血栓症の病態
 下肢の深部静脈血栓症は手術後,外傷,分娩,内科疾患などによる長期臥床など臨床のあらゆる領域で経験されるほか,明らかな原因なしに健康な人に突然発症することもある.本症は時に重篤な肺塞栓症を併発するほか,適切な初期治療が行われないと静脈炎後遺症に至り,下肢の皮膚炎,二次性静脈瘤,下腿のうっ滞性潰瘍など難治な慢性血行不全をきたし患者を苦しめるため,早期に正しい診断と適切な治療が必要とされる疾患の一つである.
 下肢深部静脈血栓症の発生部位は総腸骨静脈から腓腹筋内静脈までいずれの部位にも見られるが,解剖学的に血流停滞をきたしやすい外腸骨静脈領域,総大腿静脈領域,深大腿静脈領域,膝窩静脈領域,後脛骨静脈領域,腓骨筋領域の6部位を起点として発生し,血栓は中枢側,末梢側のいずれの方向にも進展する.血栓の発生部位,進展速度,側副血行の状態などによって臨床像もさまざまに変化する.血栓が末梢の小範囲にとどまり側副血行路が十分にできた状態ではほとんど症状を示さない.

末梢動脈造影法のポイント

著者: 大川伸一 ,   平松京一

ページ範囲:P.2020 - P.2025

 画像診断法の進歩は近年特に目覚ましく,各種の最新の検査法が注目されている.しかし閉塞性動脈硬化症(以下ASO)やBuerger病,あるいは外傷による動脈損傷など,四肢血管性疾患の診断においては,現在でも血管造影法がその確定診断の決定的役割を果たしている.
 本稿では,特に四肢の動脈造影法について,手技上のコツ,撮影法,注意点を,筆者らが現在行っている方法を中心に解説する.

下肢静脈造影法のポイント

著者: 小谷野憲一

ページ範囲:P.2026 - P.2028

 下肢の静脈血栓症が疑われたときに,近年発展の目覚ましいドップラー血流計やプレチスモグラフィーなどの無侵襲検査法を用いて静脈閉塞の有無を判断できるが,確定診断や治療方針の決定のためには静脈造影が是非とも必要となる.本稿では特に静脈血栓発症早期の造影法を中心に述べることにする.

超音波ドップラー法による診断

著者: 石丸新

ページ範囲:P.2030 - P.2032

 □ドップラー倫理と血流測定の原理
 一定の周波数をもつ音波を運動する物体に向かって発射すると,その物体より反射する音波の周波数は物体の運動速度に相関して変化するという理論が1842年クリスチャン・ドップラーによって提唱され,ドップラー効果といわれている.滑走路を離陸しようとするジェット機の爆音が,地上では通過する際に急激に変調して聞こえるのもそのひとつの現象である.
 超音波ドップラー装置は,皮膚上においた血流測定用プローブ(探触子)先端より細い超音波ビームを発射し,これが血管内を流れる赤血球に衝突して発生する反射波の一部を再びプローブにて感知し,トランスデューサー回路内にてこれを可聴周波数に変換する機能をもっている.赤血球のプローブに向かって移動する速度が早いほど反射波の周波数は増加し,その血流速度は次の式にて算出される1)

アイソトープによる診断

著者: 山田英夫 ,   永島淳一

ページ範囲:P.2034 - P.2036

 核医学検査法や超音波法,X線断層法(CT),磁気共鳴画像(MRI)などの非観血的検査法によっても,かなりの症例について血栓,塞栓症の診断が可能となった.しかし,血栓の正確な局在と広がり,閉塞の程度と側副血行路の発達を知る上では,血管造影(DSAを含めて)が最終診断として行われている.末梢動静脈血栓症においても動静脈造影法が最も信頼度の高い検査法とされている.
 核医学検査法では,肺塞栓梗塞症における肺血流/換気シンチグラフィーなど各臓器の梗塞症の診断は各臓器のシンチグラムによって行われている.本稿では末梢動静脈血栓症の描出に関し,核医学的画像診断について一部に症例を加え述べる.

肺塞栓症の診断

著者: 中野赳 ,   藤岡博文 ,   竹沢英郎

ページ範囲:P.2038 - P.2041

 肺塞栓症は急性肺塞栓症と,それを繰り返し高度の肺高血圧を呈する慢性反復性肺塞栓症に大別される.後者は本疾患の終末像で主病像は肺高血圧症であり,急性のものとは本質的に異なった病像を呈する.本邦では欧米に比して慢性反復性肺塞栓症の頻度が高く,これは急性肺塞栓症に対する診断・治療のたち遅れを示すものと考えられる.そこで本稿では主に急性肺塞栓症(以降肺塞栓症と略す)について述べる.
 肺塞栓症の発症数に関しては,米国では年間16万例が確定診断を受けており,実際にはその4倍にあたる65万人が発症していると推定されている.それに比して本邦での報告は極端に少ない.しかし,筆者らが数年前に行った連続剖検例の病理学的検討で欧米と大差ない肺塞栓症を認めたことより1),先に述べた臨床例の差は医師の本症に対する関心,認識の差に起因していたものと考えられる.近年,本邦でも肺塞栓症に対する関心が高まりつつあり,近い将来循環器救急疾患として,また重篤な基礎疾患に合併して死因に直結する疾患として注目されるものと思われる.

治療総論

抗凝固療法—ヘパリンの使い方

著者: 小林紀夫

ページ範囲:P.2042 - P.2043

 血栓の成立に血流,血管壁および血液性状の変化が関与することは周知である.血栓症の内科的治療として種々の抗血栓剤が用いられているが,そのほとんどは血液性状の変化を是正することを目的としている.これには抗血小板薬,抗凝固あるいは線溶療法などが主として行われている,血栓・塞栓を直接溶解して血流の回復を期待できるのは線溶療法のみである.他は血栓の進展や再発の予防を目的として,あるいは血栓症発症の危険率の高い症例に予防的に使用されている.
 以下,抗凝固療法の一つであるヘパリン療法につき概説したい.

抗凝固療法—経口抗凝血薬の使い方

著者: 青木功

ページ範囲:P.2044 - P.2045

 経口抗凝血薬はヘパリンと異なり速効性ではないが,1日1回の投与で安定した作用が得られるので,長期の維持療法に適している.
 経口抗凝血薬にはクマリン系のジクマロール,アセノクマリン,ワーファリン,インダンジオン系のフェニンジオン,ジフェナジオンなどがあるが,現在本邦で広く用いられているのはジクマロールの誘導体ワーファリンである.

抗血小板療法

著者: 柳沢厚生

ページ範囲:P.2046 - P.2047

 ここで述べる抗血小板療法とは血小板のもつ凝集機能,粘着機能,生理活性物質放出反応を薬剤を用い直接・間接的に抑制し,新しい血栓の形成を予防する治療法である.血小板は正常な血管内皮に粘着することはない.しかし,血管壁が傷害され,血小板が内膜下のコラーゲンに接触すると血小板は活性化し,変形をしてこの部位に粘着する.この活性化した血小板はdense granuleからADPを放出,serotonin,Ca++,そしてアラキドン酸代謝産物で強力な血小板凝集作用と血管平滑筋収縮作用を有するトロンボキサンA2を血中に放出する(放出反応release reaction).これらの物質は血流中の血小板を凝集して,初期に粘着した血小板層に急速に血小板plugを形成する.血小板plugは小血管を閉塞,またコラーゲンと組織トロンボプラスチンにより内因性・外因性凝固因子が活性化してフィブリン血栓を形成する.現在用いられている抗血小板療法薬剤は,これら一連の反応過程のうち,トロンボキサンA2の生成を阻害,血小板-血管壁相互反応の抑制,血小板phosphodiesteraseを阻害してcyclicAMPを増加させ,細胞内遊離Ca++を減少させるなどにより,初期過程から血栓形成を阻止しようとするものである.

抗凝血薬と抗血小板薬の使い分け

著者: 本宮武司

ページ範囲:P.2048 - P.2049

血栓の発生機序
 血栓の形成には,古くVirchowが述べたごとく,血管壁の異常,血流の変化,血液性状の変化の3因子が重要であることは良く知られている.このうち血栓形成の開始には,動脈血栓,静脈血栓ともに血管内皮細胞の傷害,脱落が最も重要と考えられている.
 特に動脈血栓では傷害動脈壁の内皮下組織に,流血中の血小板が粘着し,活性化された血小板は血小板同志の凝集,血小板顆粒内容物の放出,強力な生物活性をもつプロスタグランジンの産生分泌を介して血栓の根を作り,フィブリンが血小板を網のごとく包囲して血栓が完成する.動脈血栓は血小板が主体であるため白色血栓となる,動脈の速い血流は乱流を作りやすく,血小板が血管壁粗面に粘着しやすい条件となるが,逆に凝固系は活性化されても,すぐ局所から運び去られる可能性が強い.

線溶療法—末梢動静脈ないし肺血栓塞栓症について

著者: 長谷川淳

ページ範囲:P.2050 - P.2052

線溶療法と他の治療法との関係
 線溶療法と他の治療法との関係を図1〜3に示した.症例に応じて線溶療法と他の治療を組み合わせることによって治療効果は倍加するが,併用ないし後療法としての抗凝固療法はとくに重要である.

プロスタグランディン製剤

著者: 三島好雄

ページ範囲:P.2054 - P.2055

 プロスタグランディン(以下PG)と総称される一群のホルモン様物質の中で,PGE1は多くの哺乳動物で強い血管拡張作用と血小板凝集阻止作用を有し,血管疾患では表1に示す分野で臨床に応用されている.とくに動脈血行障害に対してはCarlsonら1)の報告以来,その治療効果が注目され,わが国でも治験例の報告がみられる.

下大静脈フィルター挿入術

著者: 古寺研一

ページ範囲:P.2056 - P.2058

 下肢ないし骨盤の静脈血栓症は,しばしば肺塞栓症をきたす.これを予防するために,1940年代より下大静脈結紮術が行われていたが,1958年にDe Weeseらにより,下大静脈フィルターが考案された(これは,外科的に行うものであった).
 その後,Mobin-Uddin filter(図1),Kimray-Greenfield filter(図2)などの,カテーテルを使用して下大静脈内に挿入するフィルターが開発された.しかし,これらは頸静脈ないし大腿静脈を切開してカテーテルを挿入しなければならなかったが,最近では,Seldinger法にて経皮的に挿入可能なフィルターが開発されている.本稿では,この新しいフィルター(Gunther vena cava filter)を中心に述べることにする.

治療各論—How to manage

急性動脈閉塞

著者: 中江純夫

ページ範囲:P.2060 - P.2061

 急性動脈閉塞は塞栓子による動脈塞栓症か血栓による動脈血栓症に起因するが,臨床的に両者の鑑別は難しい.治療上は両者を区別しないで,同一の治療方針を適用すればよい1).急性動脈閉塞の治療にあたり,正確な診断と適切な手術法の選択が最も重要である.本稿では,四肢の急性動脈閉塞に焦点をあてて記述する.

閉塞性動脈硬化症

著者: 石飛幸三

ページ範囲:P.2062 - P.2065

 閉塞性動脈硬化症という言葉は,元来,動脈硬化症による下肢の血行障害に付けられた名前であります.最近わが国でも頻繁に遭遇する疾患となってきました.ここでは症例の把握の仕方,検査のもつ意味,治療のタイミングとその方法の選択などについて,筆者が現在持っている考え方を中心に述べてみたいと思います.

バージャー病

著者: 塩野谷恵彦

ページ範囲:P.2066 - P.2067

 バージャー病の治療は禁煙に始まり禁煙に終わる.患者が禁煙しない限りどんな治療法も無効であり,喫煙すれば必ず再発する.患者が禁煙を守ればバージャー病は難病ではないが,依然として難病の座に留まっているのは,禁煙のすすめが空念仏に終わっていることを物語っている.虚血性潰瘍のため鎮痛剤を乱用している患者も,喫煙をやめればいたみは軽減し潰瘍は治療傾向を示してくるが,禁煙の効果を患者自身が悟るまでの数日から数週に及ぶ期間が勝負どころである.Eastcottのいうbridging treament1)はこの期間におけるいわば緊急処置で,硬膜外ブロック,高気圧酸素,プロスタグランディンなどが用いられるが,この時期をうまく乗りきれば,それ以後はバージャー病のもつ自然的治療能力を損じないようにすることが大切である.
 バージャー病は手足の指動脈,中手・中足動脈などの肢端の小動脈に初発し,短期間のうちに前腕・下腿動脈にまで動脈閉塞が進展して初めて明らかな虚血徴候が現れるようで,冷感,知覚異常,間歇性跛行,安静時痛,壊死・潰瘍などのうち治療の主な対象になるのは,運動時の筋虚血による間歇性跛行と安静時の皮膚・軟部組織の虚血による壊死性病変である.

静脈血栓症

著者: 折井正博

ページ範囲:P.2068 - P.2070

 静脈血栓症には表在性血栓性静脈炎,上肢静脈血栓症,腸間膜静脈血栓症なども含まれるが臨床上とくに重要なのは下肢の深部静脈血栓症(deep venous thrombosis,以下DVT)であるから以下,下肢DVTについて述べる.DVTにおいては早期治療が最も重要であるから治療の第一歩は早期診断であると言える.DVTの症状は閉塞の部位,程度,病悩期間などにより一様ではなく,また他の疾患や手術に合併する例も多いので,ほとんど全ての科の医師はDVT患者の初診医となる可能性がある.したがって臨床医はその診断,治療のポイントを理解しておく必要がある.

上大静脈症候群

著者: 高橋幸則

ページ範囲:P.2072 - P.2073

 上大静脈症候群(SVC syndrome)とは上大静脈の閉塞による上部胸郭での静脈還流の障害である.この原因としてかつては良性疾患も大きな比重を占めていたが,疾病の変化とともに今日ではその95%以上は悪性疾患に関連している.したがって,ここでは腫瘍学上の救急状態として上大静脈症候群の治療を中心に取り上げてみる.

肺塞栓症

著者: 岡田道雄

ページ範囲:P.2074 - P.2075

肺塞栓症のmanagementを理解するためのポイント
 1.基本的病態は急性肺性心(右心負荷)である.
 2.自・他覚所見は,広範囲の肺動脈が閉塞されて生ずる閉塞症状と,末梢肺動脈の完全閉塞による所見に大別されるが,特異的なものはない(図中A,B).
 3.診断確定には肺シンチグラムと肺動脈造影が必要である(図中②).
 4.肺塞栓症は塞栓が生じた瞬間が最も重篤で,そこで頓死する例も多いが,そこを乗り切って再発さえ防止すれば(診断を見逃して治療が遅れ,再発により死亡する例が多い),血栓は自己融解して症状は急速に回復し,予後は比較的良好である.
 5.大部分で下肢深部静脈血栓が原因である.

原発性肺高血圧症

著者: 兼本成斌

ページ範囲:P.2076 - P.2077

 原発性肺高血圧症(primary pulmonary hyper-tension;PPH)とは成因の全く不明な肺高血圧の臨床診断名である.その診断は肺高血圧および/またはこれに基づく右室肥大を見出し,それが原発性であることを確認することによってなされる.

座談会

肺塞栓症の診断と治療

著者: 長谷川淳 ,   中野赳 ,   吉良枝郎 ,   岡田道雄

ページ範囲:P.2079 - P.2092

 岡田(司会)今日は,「肺塞栓症の診断と治療」に関してお話をうかがいたいと思います.肺塞栓症は,ここにおいでになられる先生方のお仕事によって,日本でも決して稀ではないことがわかってきている疾患だと思います.しかし,この疾患の診断が他の病気に比べると難しいことから,肺塞栓症のmanagementが正しく行われていないケースもままあります.そこで,今日はこの道の第一人者の先生方にお集まりいただきまして,診断と治療,すなわちこれをどうやってmanageしていくかということに関して,できたら日常先生方が実際におやりになっている生のお話をお聞かせいただけたらと思います.
 まず最初に,この病気が欧米に比べて少ないとはいえ稀ではないということが先生方のデータから明らかになったわけですけれども,もう少し具体的に,先生方の病院でどのくらいあるかということをうかがいたいと思います.長谷川先生,いかがでしょうか.

理解のための10題

ページ範囲:P.2094 - P.2096

Current topics

骨髄移植の現況

著者: 正岡徹

ページ範囲:P.2136 - P.2144

 骨髄移植(BMT)は最近種々の血液疾患に対して施行され,これまでの治療法では得られない効果の認められる場合のあることから,急速に進歩,普及して来ている.日本では1975年から本治療が始まった.症例数の増加に伴って最近の数年間の進歩は著明であるが,ようやくその適応,限界もかなり明らかとなって来ている.本文ではBMTの現状について厚生省骨髄移植研究班の成績を中心に述べる.

カラーグラフ 皮膚病変のみかたとらえ方

白血病の皮膚症状

著者: 石川英一 ,   大西一徳

ページ範囲:P.2098 - P.2099

概念
 白血病の皮膚症状は,一般に全身症状(発熱,貧血,出血傾向,リンパ節腫脹,肝・脾腫など)に伴って出現し,既に紹介医により白血病が疑われていることが多いが,なかには,特に先天性白血病では,皮疹が他の症状に先行し,生検皮膚の組織検査で初めて白血病と判明することがある(図1).腫瘍細胞が皮膚へ浸潤する結果,特異疹が生ずる場合と,白血病に伴う貧血,血小板減少,二次感染あるいは反応性変化としていわゆる非特異疹が生ずる場合とがある.白血病の診断は末梢血,骨髄所見によってなされるが,特異疹の場合には,生検皮膚の組織学的,免疫組織学的,および電顕学的検索で白血病の種類をある程度判定することが出来る.他方,非特異疹では出血,および種々の炎症性細胞が主体を占め,白血病の非特異疹の診断は初めのうちは必ずしも容易でないが,経験を重ねると臨床的に皮疹が見なれたものに比し奇妙な形をしていることが多く(非定型疹),組織学的には少数の腫瘍細胞が混在していることがあり,非特異疹の診断が可能になる.

リンパ節疾患の臨床病理

エイズにみられるリンパ節腫脹症

著者: 山科元章 ,   片山勲

ページ範囲:P.2109 - P.2112

 1981年に米国で初めて報告されたエイズ(AIDS=後天性免疫不全症候群)は,その病気の原因がHTLV III型(ヒトT細胞白血病ウイルスの3型)あるいはLAV(リンパ腺症関連ウイルス)と呼ばれるレトロウイルスであることが明らかにされた.このウイルスの外殼には,ヒトのヘルパーT細胞の表面にみられる受容体蛋白に親和性をもつ糖蛋白があり,ヒトの体内に侵入すると特異的にヘルパーT細胞に感染することもわかってきた.
 この感染の結果から,①B細胞などの免疫応答にかかわる機構を刺激するT細胞特有の物質を分泌しなくなり,②T細胞自体も,ヒトに侵入する微生物を認識する機能がなくなり,③T細胞は増殖しなくなる.そして,④患者のT細胞は著しく枯渇してしまう.したがって,このウイルスに感染すると免疫力が極端に低下し,通常なら人体に何の害も及ぼさないカリニ原虫,カンジダ真菌,非定型好酸菌あるいはサイトメガロウイルスなどによる日和見感染症がひき起こされる.また,カポシ肉腫などの悪性腫瘍の発症を伴い,典型的なエイズの病像がみられる.

グラフ 内科医のための骨・関節のX線診断

(10)外傷(その3:胸郭,骨盤,四肢)

著者: 水野富一

ページ範囲:P.2114 - P.2125

 本稿では骨折や脱臼などについて詳しく述べることは避け,骨折と間違えやすい正常像,骨折の見つけ方,見逃され易い骨折などについて主に述べる.

消化管造影 基本テクニックとPitfall

胃(5)—隆起性病変;ポリープ,粘膜下腫瘍

著者: 西俣寿人 ,   西澤護

ページ範囲:P.2126 - P.2134

ポリープの特殊例
 西澤 前回に引きつづき,ポリープの特殊例についてお話を伺いたいと思います.たとえば,一見,ポリープ様にみえても,いろいろな特殊例がありますね.ただのポリープだと思っていても,往々にしておかしな現象を呈するようなこともあるわけですが,これなどはどうでしょうか(図1).
 西俣 立位の充満像(図1a)と二重造影像(図1b)で前庭部のpylorus ring近くに腫瘤陰影が見られます.ところが圧迫像(図1c)では球部に透亮像が見られます.これは前庭部の隆起性病変がbulbusのほうに,いわゆるinvaginationを起こしたものと思われます.もちろん,山田のIV型のポリープで良性でした.

演習

目で見るトレーニング

ページ範囲:P.2101 - P.2107

—内科専門医による—実践診療EXERCISE

低血糖症状/動悸

著者: 織田一昭

ページ範囲:P.2145 - P.2148

 72歳の男性,既往歴では7年前に胃潰瘍のため胃切除(4/5)を受けている.他に特記すべき事項なし.
 初診の2カ月くらい前から,過食後(特に糖分を多く摂りすぎた場合)に疲労感,空腹感,発汗を覚えるようになった.近医を受診し,検査の結果,50gブドウ糖負荷試験で,血糖値前78mg/dl,60分118mg/dl,120分36mg/dl,180分60mg/dlで,低血糖症を疑われ当院を紹介された.

講座 図解病態のしくみ 内分泌代謝疾患・12

インスリン非依存性糖尿病(NIDDM),その他の糖尿病

著者: 粟田卓也 ,   岩本安彦 ,   松田文子 ,   葛谷健

ページ範囲:P.2150 - P.2158

インスリン非依存性糖尿病(NIDDM)
 1)概念
 糖尿病は古くから記載された疾患であるが,その概念は時代とともに変遷し,今日では表1のような特徴を有する不均一な疾患群として理解される1)
 成因不明のいわゆる一次性糖尿病は,インスリン依存性糖尿病(IDDM)とインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)に分けられる.インスリン依存性というのは生命の維持,ケトーシスの防止にインスリン注射を不可欠とするという意味であり,したがってNIDDMとはインスリンを注射しなくても直ちにケトーシスや生命の危険をきたすことのない糖尿病ということになる.生命維持にはインスリンが不要であっても,血糖コントロールには経口剤では効果不十分で,インスリンを必要とする場合があるが,このような症例もNIDDMに含める.

CPC

脳腫瘍に対する放射線治療後,発熱,喀痰が出現し,胸部X線写真上両側びまん性浸潤影を呈し,心室細動で死亡された71歳男性

著者: 水野富一 ,   福島保喜 ,   吉田尚 ,   細田和彦 ,   滝沢弘隆 ,   村上信乃 ,   神田順二 ,   浅田学 ,   沢田勤也 ,   七条裕治 ,   本間日臣 ,   近藤洋一郎 ,   斎木茂樹 ,   依光一之 ,   三壁敏雄 ,   小室康男

ページ範囲:P.2160 - P.2174

症例
 患者71歳,男性,建築業
 初診 昭和60年8月19日

一冊の本

「The Logic of Scientific Discovery, 2nd ed.」—(K. R. Popper, Harper Torchbook, 1968.大内義一・森博訳—「科学的発見の論理」恒星社厚生閣刊,1971年7月)

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.2159 - P.2159

 人は言葉によって思考する.その結果を表現し,記録し,伝達するのも,多くの場合また言葉である.論理が思考活動の産物なるが故に,言葉はまた論理を操作する手段であり,同時に論理の写像たる性格を帯びる.
 古来,論理学の中軸たりし形式論理学の主目標が言語表現の論理性の追求におかれ,その現代の嫡子たる記号論理学が,言語を含めた記号系による論理の記述と分析をもって,客体としての論理に迫る有力な手段と目したのも故なしとしない.今日の論理学が語用論,意味論,構文論など,言語学出自の概念に依存する所が大きいのも,この間の事情を如実に物語る.また論理数学とコンピュータの発達は,如上の方向の延長上で,論理を定量的,機械的に処理することが容易であるかの如き期待を,一般に懐かせるに充分であった.

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「medicina」第23巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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